2013年11月10日

モバP「何故か俺がアイドルの誰かを好きだという噂が流れている」

・少しサスペンスです

・アダルティーな言葉などが出てきます

・モブP、メスPと色々Pがいますがアイドルが言うプロデューサーは主人公のモバPを指します


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370180068

モバP「特にそんな事はないんだが……。まぁ、そう思われているのならそれでもいいか」


 状況によってはその事でうまく物事を進められるかもしれない。


モバP「よし、頑張っていっぱしのプロデューサーになるぞ」


 俺は今日も張り切って会社に出勤していった。





モバP「おはようございます!」

モブP「おはよう」
メスP「おはようございます」

モバP「モブPさん、昨日の輿水幸子の生放送バラエティ見ましたよ。かなり出来が良かったじゃないですか」

モブP「ああ。やっぱり幸子は自画自賛していくスタイルよりお淑やか路線の方が売れるよ。俺のプロデュースに間違いは無いね」

モバP「淡々と鋭いツッコミを言っていくのは面白かったです。彼女、ああいう事も出来るんですね」  

モブP「本人は収録後『納得いきませんっ』なんて怒ってたけどな、ははっ」

 しばらくモブPとプロデュース業の話をしていたが、彼との会話にはいつまでたって親しみを感じる事が出来ないなと思った。 

 アイドルとしての顔と彼女らの素顔を変えていくのはプロデューサーとして間違ってはいないが、本人達にストレスを感じさせるような仕事の仕方は気に食わない。

 従わないアイドルには手も出すという噂もあるモブP。

 しかし彼がプロデュースしているアイドルは、ほとんど売れているという事実が自分にとって一番気に入らない事だというのも分かっていた。


モブP「じゃあモバPも頑張ってアイドル育てろよ」

モバP「ええ」


 部屋を出ていくモブP。


メスP「また自分のアイドルの自慢ばっか。貴方もなんで自分から話振るのよ」

モバP「昨日、彼から幸子の生放送見ろよ、って言われたんだよ。感想言わなきゃしょうがないだろう」

メスP「あれでプロデューサーランク1位なんだから気に食わないわよねぇ」

モバP「事実なんだからどうしようもないよ。出世するタイプだもの、彼は」


 何があるかわからないので、自分もモブPを好いていないとは言わなかった。


モバP「そっちはどうなんだい? 北条加蓮と椎名法子」

メスP「法子の方は順調よ。ドーナッツ好きだから売り込みも結構楽なの。でも加蓮はだめね。昔、病気してたせいか体力なくてすぐへばっちゃう。
    あれじゃ続かないわ……アイドルって結構、体育会系だから」

モバP「加蓮は彼女なりのやり方でプロデュースしてみればどう? 他の子に合わせなくてもさ」

メスP「一人だけ特別扱いなんかしないわよ。ついてこれなきゃそれまでよ」


 こりゃ”体育会系”に就かれた加蓮は御愁傷さまだな。 


モバP「じゃあ、そろそろ俺の担当アイドルが来る時間なので…」

メスP「モブPからランク1位奪い取る位の気持ちで頑張りなさいよ」

モバP「ははは」
メスP「――――あっ、そうだ!」


 なんだ、いきなり。”体育会系”だからか張り上げた声はひどく耳をつんざく。

 にやにやとこっちを見てくるメスPに、彼女が思い出した内容は俺に関係する事なのだと分かる。

 癇に障る顔だが、妙に気持ち悪く見えて笑えてきてしまったので偽の表情を作るのは楽だった。  


モバP「どうかしたかい」

メスP「貴方、アイドルの子に求愛してるってホント?」

 
 求愛って俺は動物か。


モバP「そんなわけないだろう。なんだよ、それ」

メスP「噂で聞いてさ。違うの?」

モバP「違うよ。そんな噂があるのか?」

メスP「ええ。皆、結構知ってるわよ。アイドルの耳にも入ってるんじゃないかな」

モバP「勘弁してくれ。仕事やりにくくなっちゃうよ。一体、どこからそんな噂が出たんだよ」

メスP「知らないわよ」

 
 噂の事は初耳を装ってみたが、自分が知っていること以上にこの女は噂について情報を持っていなかった。

 利用価値があるとはいえ、勝手に変な噂を立てられたのでは気分が悪い。
 
 噂の出所はつきとめないとな。
 担当アイドルとの打ち合わせ場所に行く途中。

モバP「あれ…加蓮?」

加蓮「モバPさん…」

モバP「何してんだ、こんな会社の廊下で」

加蓮「別に…暇だから」

モバP「学校の課題とかないのか? ないならレッスンとかさ」

加蓮「私、今ノイローゼなの。やる気しない」

モバP「何をいっちょ前に言ってるんだよ。気合が足りないんだよ、気合が」

加蓮「むー、本気で悩んでんだよ」

 
 確かにいつもの加蓮より元気がない。

 よしよし。 


モバP「メスPさん、厳しいか?」

加蓮「………」

モバP「武闘派だもんなぁ彼女」

加蓮「モバPさんだって今、気合とか言ったじゃん……変わんないよ…」


 気合は軽いジョークだったのだが本気にとらえられたらしい。

 ジョークぐらい理解しろと思ったが、考えが及ばないほど加蓮は悩んでいるのかもしれない。


モバP「俺のは冗談だよ。メスPさんに相当しぼられてるのか?」

加蓮「…………私、すぐばてるから仕事回してくれないし…悪口言ってくるし…」

 俺からしてみれば北条加蓮は大物アイドル原石の一人だ。使いこなすのは難しいが、その分の利益は大きい逸材。

 このままでは北条加蓮というアイドルは潰れていくだろうに、あの女も見る目が無い。

 だが、俺が加蓮を助ける事はまだできない。


モバP「ま、もうちょっと頑張ってみなさい。自分のペースでいいからさ。俺、打ち合わせがあるから」


 加蓮のもとを離れようとするが、彼女にスーツの裾を掴まれ止められる。
 
 おいおい、止めるなら腕でも掴めよ。スーツ破れたりしたら直すの高いんだぞ。


加蓮「モバPさん…前に辛かったら俺を頼れって言ってくれたじゃない……。私が今言いたい事分かるでしょ…!?」
  
 
 ごめん、分からない。なんて冗談で言ってみたかったが、言えば北条加蓮は手に入らないのでぐっと堪えた。

 大方、俺にもっと慰めてほしいんだろう。彼女の好意は少なからず感じている。


加蓮「そ…そそ…それに、モバPさん…担当を俺にしてもらえるように頼んでみるか?って……言った…っ」


 アイドルの方から担当を変えてもらう行為など、会社にとって取るに足らない存在の彼女には出来るはずもなく、俺以外のプロデューサーが聞いたら間違いなく捨てられる発言だ。

 加蓮がここで立っていたのは俺をその事を言いたかったのか。


モバP「いや…あのさ……それは加蓮を元気づける為の方便で…」

加蓮「言った……っ」ポロ…

モバP「本当にするわけじゃ……」

加蓮「言ったもん…!!」ポロポロ


 そのまま加蓮は膝から崩れ落ちて泣いてた。 
 
 加蓮は泣くのに夢中になっているので、改めて彼女を観察する。
 病気持ちだったおかげか泣いている姿はとても似合っている。

 女という点を引いてもかなり細い部類に入る手足の付け根。こけた頬。(これは現状のせいか)

 髪型で印象が強く変わる顔。天然で男を刺激する身体をもつ逸材だ。これを逃さない手はない。

 加えて少し依存症だろうか?


加蓮「ぅぅぅ……」ポロポロポロ

モバP「ま…まぁ加蓮、落ち着いて、な? 俺はもう行くけど誰かに見られない内に帰るんだぞっ」

 
 そう言って加蓮のもとから去る。

 二人でいる所を誰にも見られていなくて良かった。

 しばらく加蓮は動かないだろうが、彼女一人泣いているのを見られても問題はない。

 芸能事務所で夢敗れて泣いているアイドルにしか思われないだろうから。







凛「ねぇプロデューサー。アンタがアイドルを好きになったって噂を聞いたんだけど、本当?」


 メスPと同じように含み笑いをしながら、担当アイドルの渋谷凛が話しかけてくる。

 容姿の違いからメスPよりはずっと可愛らしい表情だが、俺は凛の事が嫌いなのであのオバサンよりもさらに強い不快感を覚えた。

 加蓮同様、大物アイドル原石の一人でなければ殺しているほどだ。 


モバP「お前もか、凛。勘弁してくれよ、そんなわけないじゃないか」

凛「本人に聞いてもそりゃ否定するよね。でも恥ずかしがらずに私には教えてほしいな」

モバP「だから本当の話じゃないって。俺はアイドルに恋なんかしてないよ」

凛「またまたー」


 言うと、凛はかなり間近に近づいてくる。


凛「誰なのかなー」
 プロデューサーとアイドルという関係でもここまで近づけば誤解される距離だ。

 凛の魂胆に気付き、演技をする。 


モバP「ち、近いよ凛っ。本当に誰でも無いから離れてくれっ」


 顔をそむけ赤らめる。最近、奈緒に見せてもらったアニメの主人公でもなければ俺の気持ちに気付くはずだ。
 
 駄目押しで、満足にエビス顔している凛をちらっと見てすぐにまた目をそらす。

 
凛「とりあえずはプロデューサーの言う事を信じてあげますか。噂が事実だったら大変な事だもんね」

モバP「こほんっ……勿論だ」



 その後、凛との打ち合わせをしていたが、最中に一人のアイドルが廊下を歩いているに気がつく。

 アナスタシアだ。
モバP「やあ! アナスタシア!」

 
 彼女の姿を見た嬉しさで凛を忘れて、部屋から声をかけてしまう。


アーニャ「シュトー? ……ああ、プロデューサー。……ズドラーストヴィチェ、こんにちは」

モバP「仕事かい?」

アーニャ「ニェット…、今日は打ち合わせです。…明日がロケ、なので」
 
モバP「緊張しているように見えたのはそのせいか…、前日から気を張り詰めていたら体が持たないよ。リラックスして」

アーニャ「ダー…、ロケは初めてなのです」

モバP「大丈夫。変に演技するより、いつものアナスタシアを見せていけば良いから」

アーニャ「モブPさんは、そうは言いません」


 アナスタシアの担当はモブPだ。幸子同様になにかしらの演技指導を彼女にしているのか。

 何でも良いが、アナスタシアの担当に就いている事が羨ましい。

モバP「大事なのはアイドル自身…君が何をしたいかってことさ。言われた事を聞き入れつつも普段通りのアナスタシアでお仕事をしなさい」

アーニャ「はい…いつも、心配ありがとうございます。しかし、何故私の事を気にかけてくれるのですか?担当でもないのに」

モバP「個人的にファンだからさ。応援しているよ」


 これは本心だ。
 
 アナスタシアは凛達ほどアイドルとしての素質は無いが、最初見たときから惹かれるものがある。

 あれ? これはもしかして恋なのだろうか。

 だとしたら噂は本当だったな、と他人事のように思う。

 こうやってアナスタシアに親しげに話しかけているから、アイドルに恋をしているなんていう噂が立ったのか。

 馬鹿だな、原因は自分じゃないか。


アーニャ「スパシーバ。では、打ち合わせがあるので」

モバP「ああ、引き止めてすまない。頑張って」


 アナスタシアは軽く頭を下げ、離れていく。

 見えなくなるまで後ろ姿を見ていたが、少し行った所で彼女はこちらに振り返った。

 俺がまだ見ている事に驚いたのかすぐに前に向き直り、そのまま歩き去って行った。

モバP「可愛いな、彼女」

凛「プロデューサーの好きな人って…まさか…」

 
 今までのやり取りを見ていた凛が俺の事を犯罪者を見るような眼で言ってくる。

 ちょっとほっといたので、若干拗ねているようだ。 


モバP「何でもかんでもその事にこじつけるんじゃない。女性と喋れなくなるよ」

凛「彼女、私と同じ15歳だよ、ロリコン」


 ああ、殺したい。


美嘉「おっはー★」

茜「こーんにーちはーーーーーー!!!!」

巴「茜、五月蠅い。耳がつまらんようになるわ」


 俺が受け持つ残りの担当アイドルが部屋にやってくる。


モバP「全員そろったか」

凛「3人共一緒に来たんだ」

美嘉「巴の家の車に乗してってもらったんだー」

茜「パトカーに乗ってたらなんだか捕まった気分になりましたっ!!!」

巴「大声で言う事か」


 村上巴の父親は広島県警の本部長であり、警視官である為ここ東京でも顔が利く。

 数回、巴の実家に行った事があるが方言やら服装やらなんやらで素人目にはどう見てもヤクザにしか見えなかったが。
凛「パトカーって……巴の家の車って言うか完璧、警察署の車じゃん…」

巴「ま、一般市民を守るんが警官の務めじゃけえの」

モバP「……」


 村上巴。まったく、やっかいな人材を回されたものだ。


凛「そういえば皆、プロデューサーの噂知ってる?」

巴「…噂?」

 
 ピクリと巴の眼光が鋭くなる。君の思っているようなことではないから安心しろ。


美嘉「なになに、知らなーい」

茜「同じくっ!!!」

凛「このプロデューサー、アイドルの誰かに恋してるんだって」

茜「えええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

美嘉「えっ」


 巴は口を開けてポカンとしている。 
茜「ほっ本当ですか!? 私ですか!?」

モバP「違うよ」

茜「失恋……!!!」


 茜は底なしに明るいな。


モバP「噂自体、本当の事じゃないよ。デマだもん」

美嘉「あ、なーんだ…★ びっくりしたなー」

凛「本人は否定するに決まってんじゃん。絶対いるよ、好きな人」

美嘉「えっ」

モバP「こらこら凛。お前は何度言ったら…」


 コン…コンコン……


 控えめなノックが聞こえる。

 ドアは開いているので、振り返ればノックした人物がそこに恐縮そうに立っている。


楓「あ…あのプロデューサー…。ちょっと…いいですか?」

モバP「楓さん? 良いですよ」


 面倒な人間が来たな。


モバP「凛。さっき打ち合わせしておいた事、3人に伝えておいてくれ。噂も忘れる事!」

凛「……はいはい」


 噂という単語を楓さんが聞いた時、彼女の体が少し震えたがやはりこの事についてか。まったく、面倒だ。 

美嘉「楓さんって、プロデューサーと時々ああして出ていくけどさ…」

巴「前は一緒に飯食っとったの」

茜「ドキドキ……何故か拳に力が……っ!!!」

ボソボソ 凛「……いやいや、ないない…。私だもの…」
 凛達がいる部屋から声が届かない程度に離れる。やましさを感じさせない為にこちらの姿が見える位置にいよう。


モバP「楓さん、困りますよ。こう、何度も呼び出されては」

楓「お付き合いしているのですから、良いじゃないですか」

モバP「いや…そのですね」


 彼女が言うお付き合いというのは恋人関係という事だ。

 
モバP「前の事は私自身、良く…覚えていないというか…」

楓「それは……照れ隠しですか?」


 高垣楓は加蓮達と同様、俺がほしいアイドルの一人だった。

 当初は何が何でもほしいという気持ちが先走り、積極的にアプローチをしていたがアナスタシアを見つけてからは興味が薄れてしまった。

 しかし、意外にもその時すでに楓はほぼ俺に堕ちかけており面倒なことに恋心を抱かれていた。

 急に関係を絶っては人格を疑われるので、徐々に離れようとしたのだが楓は噂に聞くメンヘラ、とか言う属性持ちの女性なのか今度は彼女の方から積極的なアプローチを受けている。

 ついには彼女の中で俺達は付き合っている事にされているようで、こうしてちょくちょく仕事中でも呼び出されてしまう有様だ。


モバP「いや、そうではなくて本当に記憶にないんです」

楓「貴方は言いました。お…お付き合いして下さると」


 どうにも覚えていない。きっとメンヘラ特有のこじつけ行為だろう、恐ろしい。 


楓「私がモブPさんとの担当関係を解消したのもプロデューサーの為なのに……っ」

モバP「……」


 前に、『モブPではなく俺の担当アイドルになってほしいので、楓さん自身から事務所にそう言ってくれませんか?』と冗談で進言した事をこの女は本当に行ったのだ。

 裏工作もしなくていいから楽だな、と思った方法だが実際は簡単には行かない。

 当然、楓さんは事務所側から反発を受けたが、それでも引き下がらずフリーになった彼女は今や事務所の厄介者だ。
 
 そんなレッテルの貼られたアイドルを引き取りなんてしたらこっちまで事務所に睨まれる。


モバP「楓さん、貴方は他の事務所に行く事をお勧めします。この事務所に立場が無いとはいえ楓さんのアイドルとしての人気は高い。どこへ行ってもやり直せますよ」

楓「私は貴方にプロデュースをして頂きたいんです! 担当になりたいと言ったのは貴方じゃないですか!」

モバP「あれは…お酒の席の冗談と言いますか……本気ではなかったんですが」

楓「ひどい…っ」

 
 あの場にいれば誰もが俺の言葉は冗談だと分かったはずだが。実際、彼女も笑ってすましたというのに、俺に好かれたい一心で行動してしまったのだろう。


 しかし、まいった…。楓さんのアプローチは徐々にエスカレートしている。

 どうにか俺の評判を下げず、楓さんを所払いさせる方法は無いものか…。

 殺すのは可哀想だし……。
モバP「いや、待てよ…」


 今の楓さんは会社にとって邪魔な存在。

 そんな人間を邪険にしても俺の評判は変わるわけがないじゃないか。

 むしろ俺が移籍させれば一定の評価がもらえるかもしれない。


楓「お願いです、プロデューサーっ。私の担当になってください! 恋人同士だという事も黙っていますから!」

モバP「はっきり言いましょう、楓さん。迷惑です」

楓「…え?」

モバP「今の貴方はこの事務所にとって悩みの種なんです。そんなアイドルを引き取ったら私の評判に関わります」

楓「プロデューサー…」

モバP「それと貴方とは恋人でもありません。噂で聞いたかもしれませんが、恥ずかしながら私は…好きなアイドルの子がいまして……
    楓さんがそんな風に言ってると困るんですよ」

楓「好きな…アイドル……? 私の事ですよね?」


 いや、違うって。


モバP「ははは、違いますよ。ひょっとしてギャグで言ってます?」

楓「私は…もう貴方しか……」

モバP「じゃあ、もう一度言いますけど楓さん、貴方は他の事務所に行く事を勧めます。その方が絶対、売れますよ」

 
 ほとんど放心状態の楓さんに畳み掛けるように言う。 
 

楓「………」ポロポロ


 立ちながら泣いてしまった。目もまっすぐを見つめ何を見ているかも分からない。


モバP「では、テレビの前で貴方が活躍するのを待ってますよ」
凛「ねぇ、楓さんすごい剣幕だったけど何だったの?」


 あんな話になるとは思わなかったので、自分達の姿を彼女等に見せていたのは失敗だった。


モバP「担当になってくれって泣きつかれてね」

凛「そっか…。楓さん、今フリーだもんね…」

巴「断ったんか?」

モバP「ああ」

茜「何故ですか!!」

モバP「俺の立場も分かってくれ。俺も辛い」

美嘉「楓さん、事務所にあんまり良く思われてないから関わるとプロデューサーにも飛び火がかかるからでしょ…?」


 そうだ美嘉。昔から察しが良くて助かる。


凛「でもプロデューサーに担当ついてくれってさ……楓さん、モブPとは自分から縁を切ったんでしょ?」

美嘉「ちょっと矛盾してるよね…」
  

 あ、そうだ。良い事思い付いた。


モバP「ここだけの話な、モブPさん、楓さんにセクハラしたんじゃないかって噂があるんだ」

茜「えぇ!!!???」
モバP「だから楓さんはモブPさんと縁を切ったって話さ」

凛「それなら楓さんじゃなくてモブPが批難を受けるべきじゃないの!?」

モバP「彼は事務所にとって有益な人材だから……セクハラとかの訴えは揉み消してもらってるんだろう」

茜「そんな……!! 許せなーいっ!!!」

巴「それが本当じゃったらうちは黙っとれんぞ」


 おおっと、さすがに会社を潰されるのは困るぞ。狙いはモブPだ。


モバP「まぁあくまで噂さ。確かめようがない」

巴「もやもやが残るわい……」
 担当アイドルとの打ち合わせが終わり、廊下を歩いていると美嘉が話しかけてきた。


美嘉「お兄ちゃん」

モバP「どうした。…昔の呼び方なんかして」


 皆には黙っているが俺と美嘉は幼馴染で、小さい頃は良く彼女の面倒を見てあげたものだ。
 
 俺が高校を卒業してから疎遠になっていたが、この仕事に就いて何年かぶりに再開した時には思わずスカウトしてしまったほど美しく成長していた。


美嘉「噂の事…なんだけどさ」

モバP「楓さんの事か?」

美嘉「え? あ…その事も気にかかるけど……あのー…」

モバP「もしかして俺の噂の事?」

美嘉「……うん」


 その事はきっぱり否定したはずだが。親戚中にでも言いふらすつもりか?


美嘉「あれって、本当?」

モバP「違うって言っただろう? お前に信じられたんじゃ明日には親戚から笑い物にされるよ」

美嘉「でも……お兄ちゃん。さっきの話の中で…嘘ついてたよね?」


 これが美嘉の困った所だ。

 昔から美嘉は俺の嘘に対して何故か異様に鋭い。
モバP「ついてないよ」

美嘉「……」


 何百回と同じ事を言われたが、一度たりとも嘘を認めた事はない。

 今回はモブPのセクハラ疑惑についてだが、何故分かったのか。

 率直に聞いた事があるが美嘉本人でさえ直感でそう思うだけで確信はないという。


美嘉「人を好きになる事は良い事だと思うよ。お兄ちゃんは、特に」

モバP「お前が知らないだけで、俺だって恋愛ぐらいしてきたさ」

美嘉「嘘」

モバP「……」

美嘉「ちなみにアタシだったらOK出すから気軽に告ってね★」

モバP「はいはい」


 軽口を叩く美嘉。

 少し遠くの後ろには茜と巴が俺と美嘉の会話を聞いているには気付いていた。

 美嘉、茜、巴が秘密裏に俺を探っている事は前から知っている。

 困ったものだ。俺が一体何をしたというのか。





 外では、どうやら雨が降ってきたようだ。 
モバP「幸子」

幸子「ぅえ…プ、プロデューサーさんっ」ゴシゴシ


 事務所にあるテラスで幸子を見つけたので話しかけたのだが……彼女の目は充血していて頬には水が垂れた跡がある。


モバP「…泣いていたのか?」

幸子「そそそそんなことないですよ! ゴミが入っただけですから!」

モバP「そっか………幸子は強いもんな。スカイダイビングの時も泣かなかった」

幸子「あれくらい、なんて事ありませんよ!」

 
 モブPがヘリコプターに乗るのを渋ったので、何故か俺が幸子と一緒に乗った。

 あの時幸子は確実に涙目になっていたのだが今は黙っておこう。


モバP「そんなメンタルの強い幸子が泣いているのは、とても心配だ」

幸子「だから泣いてませんっ!」

モバP「一緒にスカイダイブした仲だろ? なんでも相談していいよ」

幸子「どうせ…っ」

 さっきから幸子は俺から遠ざかるように椅子を少しずつ引いていく。

 俺を嫌うというより、怖がっているようだ。

 良く見ると幸子の服は濡れていて、寒いのか身体は震えている。


モバP「幸子」 


 意地っ張りな幸子は普通に聞いても泣いている理由は話してくれないだろう。

 俺は幸子の手をとり、強引に抱き寄せる。


モバP「大丈夫。俺は幸子の味方だよ」

 
 幸子の頭を撫で、冷えきった身体を温めてやる。


幸子「う、うえええ。うええええええんっ!! うえええええええぇぇんっっっ!!!!」


 この少女に一体なにがあったのだろうか。

 俺は幸子をここまで追い詰める出来事に胸が高鳴った。
 落ち着いた幸子が語った内容は衝撃的だった。


幸子「モブPさんが…僕を襲ったんです………」

モバP「信じられないな…」


 性格面は置いといても、分別はある人間だと思っていたのだが。


幸子「本当です!! あの人はっボクを……っ」ウルウル

モバP「いや、すまない。幸子を疑ってるわけじゃない。俺も驚いてしまって……」

 
 幸子が俺を怖がっていたのは強姦による恐怖心で男性が皆、ケダモノに見えたのだろう。

 そう思うと強引に抱き寄せたのはかなり危険な行為だったのかと冷や汗をかく。 


モバP「辛かったな幸子。…こんな言葉じゃ慰めにもならないが」

幸子「ボクはあの人を絶対許しませんっ…」


 しかしこんな所で一人泣いている手前、事務所に訴える事もしていないみたいだ。

 楓さんという例がある為、干されるのが怖いのか。

 だが、この事実はモブPを落とす絶好のチャンスだ。
モバP「この事は事務所に訴えよう。俺が協力する」

幸子「本当ですか…?」

モバP「ああ。その後、幸子もアイドルを続ける気があるのなら俺がしっかり面倒を見るよ」

幸子「プロデューサーさん……」

 
 幸子は楓さんとは違いリスクもないし愛情も持っているので喜んで迎い入れようじゃないか。


モバP「それで…デリケートな話になるんだが、襲われた事の証拠となるようなものが必要なんだが…」

幸子「証拠…ですか?」

モバP「中途半端なものじゃあ揉み消されてしまうから…決定的なものがほしい」


 あまり俺の口から言わせないでくれよ。
幸子「よ、洋服を少し破られちゃいましたけど…」

モバP「ごめんな、思い出すのはつらいだろうが……」

幸子「監視カメラ…はないですね……。ボクの口からじゃ駄目なんですか?」

モバP「ちょっと、な…」


 奴を牢にぶち込める、良いものがお前の身体に残っているだろ!


幸子「それじゃ、えーっと、えーっと……」

モバP「………」

幸子「やっぱりボクが証言してみるのが一番だと思うんですが…」

モバP「…………。あの、な…………病院には”レイプキット”っていうものがあってな……それで検査してもらえれば警察も黙っちゃ――――」

幸子「ボクそんな事されてませんよっ!!!!!!!」

モバP「はぁ?」

 
 思わず素の言葉が出てしまう。
幸子「されそうになったけど……抵抗して逃げたんです! ボク、レ―――うあーそのーっ、なっなんにも汚されてませんから!」


 頭を抱える。

 こいつはなんておしい事をしたんだ。せっかくモブPを犯罪者にするチャンスだったのに。


モバP「うーん、それだと厳しいな」


 ショックでまだ素の言葉しか出ない。


幸子「そんなっ…」

モバP「立件できるかなぁ…」


 悩む。

 テラスの外は雨脚が強くなってきたようだ。


モバP「はあ…」

幸子「グスッ……」

 茫然として前を見ると、土砂降りの雨の中、一人の女性が傘もささず立っているのに気がつく。

 雨が霧を作り視界は悪くなっているが、女性が誰なのかは見当がついた。

 ありゃあ、精神科に連れて行った方が良いな。

 
モバP「……あ」


 そうだ。 
モバP「幸子。この件、俺に任せてくれないか?」

幸子「どうにかできるんですか!?」

モバP「ああ、任せてほしい」

幸子「……はい!」

モバP「さ、いつまでも濡れた服でいると身体に障るよ。着替えて、シャワーでも浴びなさい」

幸子「分かりました!」

モバP「……」

幸子「……」モジモジ

モバP「………シャワー、行っといで?」

幸子「……………あの、もう一度……ボクを抱き……、温めてくれても良い…ですか?」

モバP「…おいで」


 珍しく甘えてくる幸子をまた抱きしめる。

 雨に濡れている女性はそれを鋭い目で睨みつけてきた。

 その女性の手には、包丁が握られている。
 幸子を見送ってから傘を取りに行き、雨に濡れ続けている女性のもとへ赴く。

 俺が傘を取りにいっている間も女性はその場から動いていなかった。


モバP「風邪、引きますよ楓さん」

楓「良いんです。その前に貴方を殺して、私自殺しますから」

モバP「楓さん…」

 
 ここまで病んでいると交渉も紙一重だな。
 
 
モバP「私をひどい男だと思っていますか?」

楓「……」


 無表情の顔が肯定だと答える。

 自分で言った事だが何故俺がひどい男になるのかまったく理解が出来ない。
   
 勝手に勘違いして、勝手に病んだのはこの人だというのに。
モバP「…楓さん、実は頼みがあるんです」

楓「命乞いなら聞きます」

モバP「頼みごとが終わったら、お付き合いしましょう」

楓「え?」


 やはり彼女は俺を笑わそうとしているのか? こうも簡単に意思が揺らぐなんて。


モバP「担当にも就きます。お願いを聞いてくれたら…」

楓「どうして…急に……」

モバP「楓さんにしか頼めない事をお願いするからです」

楓「っ馬鹿にしないで下さい!! 私は貴方の愛情がほしいんですっ そんな契約みたいなやり方で付き合いたいなんて思いません!」

 
 楓さんは包丁を構えるが、持つ手は意思と直結して震えている。

 しかしメンヘラ女にもプライドはあるようだな。

モバP「そんなことはありません。愛してますよ楓さん」

楓「だったら何故一人だけ傘の中にいるんです!? 私は雨に濡れているのにっ!」


 なに言ってるんだ?自分も傘を持ってくれば良いじゃないか。


モバP「幸せになるにはどうすれば良いか考えてください。頼みを断るのなら私は素直に殺されましょう。
    しかし、頼みを聞いてくれれば貴方は私とスターアイドルの道を共に歩むことができます」

楓「ううぅ……」

モバP「……結婚しましょう、楓さん」

楓「結婚…!?」

モバP「幸せになりましょう、楓さん。一緒に。二人で。暖かい家庭を築きましょう!」

楓「結婚……………したい……私、プロデューサーと……」


 カランカラン…と音を立てて包丁が楓さんの手から落ちる。

 こいつ簡単だなぁ。

 いや、問題はここからか。


楓「プロデューサーっ……」


 楓さんが抱きついてこようとするが、一歩引いて拒否する。

 
楓「プロデューサー…?」


 光の戻った目が再び黒く染まる。その顔に思わず恐怖を覚える。
モバP「まだ貴方を傘の中に入れる事はできません。お願い事を聞いてくれなければ……」

楓「そんな事…っ。なんでも聞きます! 貴方の言う事なら、結婚できるのなら!」

モバP「それでは…言いますが――――――」




 

 楓さんに俺のお願い事を話す。


楓「……本気で…………言ってるのですか……」

モバP「はい」

楓「プロデューサーは…何とも思わないのですか…………? 私たち、結婚するんですよ?」

モバP「言う事を聞いてくれたらですけどね」

楓「私…私………。だって、まだ……」

モバP「私は、気にしませんよ」

楓「……」

モバP「楓さん、事が終われば………待っているのは幸せだけです」

楓「……っ」

モバP「……」

楓「………………やります」

モバP「そうですか。良かった」


 やった。これでモブPは終わりだ。


モバP「楓さん」

 
 言うと、楓さんは俺の傘の中へ入って寄りかかってくる。

 雨に濡れた彼女は化粧が落ち、髪型も崩れ顔つきは麻薬常用者のように憔悴しており、一目惚れした時に輝いていた姿はもう無い。 

 そしてこれからもその姿を取り戻す事は無いだろうと思うと悲しくなった。
 数日後。

 
モバP「さてと…」


 夜、事務所の一室でノートPCを起動させる。

 立ち上がる少しの間に、イヤホンマイクを装着する。

 PCを操作しあるアプリケーションを実行させると、とあるカメラの映像が映し出される。

 
モバP「もっと部屋全体を映せる位置に置いてください」

楓『……はい』


 通信の相手は楓さんだ。彼女にはイヤホンだけを付けさせ、隠しカメラから音声を拾っている。

 楓さんは隠しカメラが入っている鞄を俺に言われたとおりに動かす。


モバP「よし、そこで良いです。指定時間まであと10分。覚悟は出来てますね?」

楓『はい…』
 




 俺が楓さんに頼んだ事は今夜、モブPに抱かれ欲しいという事だった。


 幸子への強姦は未遂に終わってしまったが、楓さんで代用すればモブPを犯罪者に出来る。

 今夜の情交は合意の上だが、その行為が終わった後に楓さんを殺し、強姦によるショックで自殺という事にでっち上げれば問題は無い。

 楓さんにはカメラ映像を上手く編集して訴えると言ってあるが、このカメラは単なる小遣い稼ぎ用だ。


モバP「上手い具合に編集点を作ってください。あと、イヤホンは身体を重ねる前にそれとなしにはずして下さいね」

楓『プロデューサーは……ずっと見てるんですか?』

モバP「…いいえ。頃合いを見てそちらからの映像は切ります。全てが終わったらこの部屋へ来て下さい」


 何かあっては困るので本当は見ているのだが、楓さんを安心させるために嘘をつく。


楓『私の……身体が汚れても………私を愛してくれますか……?』    

モバP「当たり前です。それに、頼んだのは私自身なんですから」


 まったく、その歳で処女なんて天然記念物ものだろう。

 彼女のファンには本当に申し訳ない事をしてしまう。 

 
モバP『ああ、注意事項として必ず膣内射精してもらう事となるべく嫌がる仕草をする事…後者はこちらから誘っての行為なので無理のない程度にして下さい』

楓『…はい……』

モバP「あ、モブPさん来たみたいですね」

 
  さて、上手くいく事を願おう。

モブP『夜中にこんな所に呼び出して何の用だ? 裏切り者め』

楓『……』

モブP『たくっ、手をかけて育てたアイドルに裏切られるなんて思ってもみなかったよ』

楓『あの……』

モブP『なんだ』

楓『…私を……もう一度あなたの担当に、して下さい』

モブP『馬鹿が! 自分から止めておいて何を言うんだお前は!』

楓『貴方から離れて改めて気付きました…やっぱり、私はモブPさんでないと駄目なんです……』

モブP『モバPについていきたいと言った時とはえらい違いだな? 会社に干されそうになってるからそう言ってるんじゃないのか?』

 
 なんて事だ。モブPから離れる時に俺の名前を出してるのか。最近、モブPがいちいち嫌味な事を言ってくるのはそのせいか。

楓『ち、違います……私は…貴方に、本当についていきたいんです』

モブP『そんなころころ愛想が変わられたんじゃ信じられるわけ無いだろう』

楓『でも…』

モバP「楓さん、私の事はひどく言っていいですから目的を果たして下さい」

楓『……』

モブP『なぁ?』

楓『プ、プロデューサーはモブPさんなんかより全然駄目な人で……期待はずれで…かっこ悪くて…仕事できないし…』


 もうちょっと言葉を上手く作って下さい、楓さん…。おそらく言っても直らないので言葉にはしなかった。


楓『モブPさんの方が素敵な男性なんだと、分かったんです! 私はモブPさんについていきたい!』


 うーん、こんな単純で大丈夫か…。
モブP『へぇ…。モバPはそんなに駄目な奴か?』

楓『は、はいっ』

モブP『アイツなんかより俺の方がやっぱり良いか?』

楓『そ…そう、ですっ』


 意外にもモブPは乗ってきたようだ。


モブP『プロデューサー的にも、男としても俺の方が上だよな』

楓『はい! プロデューサーは最低ですっ』


 楓さんもなんか乗ってきたな。

 モブPが楓さんに乗ってきたのは、彼が俺に対して対抗意識が強い為だろう。

 男性的には分からないが、プロデューサーの仕事に関しては成績が上のモブPにそう思われていたのは驚きだ。


モバP「楓さん、モブPさんに抱きついてそのままヤっちゃって下さい」


 頑張って、男性的にも上に立って下さいよ、モブPさん。


楓『モブPさんっ』

モブP『へっ…なんだよいきなり抱きついて来て……』

楓『私…私…』

 
 流れに乗ったな。後はこのまま―――――


アーニャ「プロデューサー?」

 アナスタシアが部屋に入ってきた。

 俺は一見、事務所の一室で仕事をしている風なので人が入ってこないというわけでもない。

 しかしこの部屋は俺と担当アイドルのスペースで、10時過ぎの夜中に誰かが訪ねてくるというのもいささかおかしい。


モバP「アナスタシア? どうしたんだい、こんな夜中に」

 
 アナスタシアからはノートPCの画面は見えない。

 俺は素早く映像を切り替える。


アーニャ「カーク…貴方の部屋の明かりがまだついていたので…いるかな、と」


 嬉しいな。アナスタシアから会いに来てくれるなんて。


アーニャ「イズヴィニーチェ(すみません)……イヤホンをして、お声をかけては駄目でしたか?」

モバP「そんな事無いよ。実は担当アイドル達と初めて会った時の面接の映像を見ていてね」


 楓さんはもうほっといても良い。

 ここはアナスタシアとの会話に花を咲かそう。 

モバP「ほら」

アーニャ「わぁ…」
書き溜め終わりです。
また書けたら投下します。

モバP「痛いじゃないか」



 ラグビーボールだ。



モバP「茜」


茜「はー! はー! はー! 」 
 

 息でも止めていたのか、呼吸が荒い。




 茜だけじゃない。他のアイドル全員が、凛と同じ目をしている。

 
 嫌な感覚だ。

 これは何と言ったか。

 あれだ。

 恐―。

みく「にゃ!!!」


 今度はみくが、付けていた猫耳を俺の顔に投げつけてきた。


幸子「えーっと…」
 

 何を考えたのか、幸子は俺にタックルをしてくる。不思議と、避ける気になれなかった。


モバP「ぐっ!」


 幸子の体当たりでよろけた先に、美嘉と加蓮がいた。


美嘉「馬鹿!!」
加蓮「アホっ!」

 
 二人に、頬をサイドからはたかれる。



 そして、間髪いれずに巴の拳が顔面を殴りつけた。


 何故か、抵抗しようと思わなかった。



 気を取り直し、やはり反抗しようと思った時には身体思うように動かなかった。



 俺は今、担当アイドル達に袋叩きにあっている。



巴「なめんな! なめんな! なめんな!」ブンブンブン

茜「修正ーーーー!!!!!」ボスボス

加蓮「このっ 最低っ 変態!」ペチンッペチンッ

幸子「えいっ とうっ せやっ!」ポフッドムッポムッ

にく「にゃにゃにゃにゃにゃ」ガリガリガリガリ

美嘉「人でなし!」ゲシゲシゲシゲシ

凛「バカ! アホ! バカ! バーカ!」パパパパパパン

 止める者がいないので、いつまで経ってもアイドル達からの制裁が終わらない。

 女の子の殴る蹴るとはいえ、一人は木の棒を持っているし、腕力の3倍以上の力がある脚で、体重をかけて踏みつけられては骨だって折れてしまう。


 そろそろ止めてくれ。


 だが、言っても聞かないだろうから、俺は自分の舌の先を噛んだ。


幸子「わっ、あっ! 血、血が出てますよ!」

茜「うわわわわわわわーーーー!!! やってしまったーーーっ!!!??」


 比較的、可愛らしい打撃をしていた二人が我に帰る。
 

 ちなみに、各アイドル達の攻撃部位は担当があるようで、巴が右肩、茜が左肩、加蓮がお腹、みくが右足、美嘉が左足を思い思いの攻撃方法で痛めつけている。


 そして凛は馬乗りになって、顔に往復びんたを浴びせてきていた。

 
 
凛「違うよ! コイツ今、自分で口噛んだんだよ!」


 顔担当の凛は見逃さなかった。


巴「まぁー、もお、ええじゃろ。離しちやるわ」


 やっとアイドル達の制裁が終わるらしい。


みく「ありゃりゃー…、離れて見ると、ちょっとやりすぎちゃったかにゃ…」

凛「こんなんじゃ足りないよ。コイツはきっと、今まで、ひどい事をしてきたんだ」

幸子「プロデューサーさん…。プロデューサーさんがどんな脅迫材料を持っているのか知りませんけど、ボク達はそれに屈したりしませんから」


 
 彼女達の目は、一様にして輝いていた。

 屈しない。負けない。諦めない。

  
 さすが俺が集めた最高のアイドル達。

 

 もう無理なのだろうが、俺の手でトップに導きたいと改めて思う。



モバP「降参だ。観念する」

美嘉「お兄ちゃん…」


 舌を噛んだのと、凛の往復びんたのせいでいつもの様には喋れない。


モバP「警察に電話するでも、社長に訴えるでも好きにするといい。大人しく従うよ」

 俺は終わりだ。


 初めて生き甲斐を見つけた事で、少々無茶をしてしまった。

 邪魔な人間を排除したツケが回ってきたのだ。


 クビになるか、逮捕されるか。



 でも、捕まるのは嫌だから、そうならないように努力はしよう。


モバP「ああ…、君達を脅す物があるって言うのは嘘だから安心してくれ」

みく「え? そうなの?」

モバP「ちょっとカマをかけただけなんだ。ああいう動画はあの一本だけだ」

美嘉「証拠は?」

モバP「信じてほしいとしか言いようがない。反省したんだ俺はもう、君達に嘘はつかない。」


 白々しいが本当の事である。

 彼女達には多少なりとも俺に対する信頼は残ってるはずだ。

 
モバP「加蓮っ。本当にすまなかった…。許してくれ…!!!」


加蓮「モバPさん……」


 一人俺を許せば、仲良しこよしな連中だから、他が警察に突き出そうとは言いにくくなるはず。

 この中で一番、未練がましそうな加蓮がその適役だ。 
   

凛「顔を上げてよプロデューサー」


 凛?

 言われた通り顔を上げたら、凛に、またはたかれた。


凛「私たちをバカにするのもいい加減にしてよ! アンタの言う事なんて信じられるわけないじゃない!!」



 この凛の言葉で、俺に気をやるアイドルはいなくなってしまった。


モバP「くそ…」

 
 警察行きか。




 だがアイドル達が出した答えは意外なものだった。







凛「話し合いの結果、アンタがその気なら、プロデューサーとして仕事を続けてもらうって事になった」

モバP「なに?」

凛「巴がね、実は昔、美嘉に頼まれてアンタの経歴を調べてたらしいだ。一応、なんにも悪い事はしてないって結果が出たんだって。信じられないけど」

美嘉「巴と初めて会った、1年くらい前かな」

モバP「なんでそんな事をしたんだ」

美嘉「知らないだろうけど、アタシは子供のころからお兄ちゃんが悪さをしないように見張ってたんだよ。直感か、何かは分からないけど、その時からお兄ちゃんは何しでかすかわからない怖さがあったから」


 ひどい言われようだ。


 しかし、このプロデュース業に就くまで、何一つやりがいを感じる事が無かったので、悪い事などした事は本当に無い。

 最近、盗聴などをしている事は黙っておこう。

美嘉「でも、お兄ちゃんが成人して離れてちゃってから、私…犯罪起こすんじゃないかって気が気じゃなくて…。だから、離れてから再会するまでの間を調べてもらったんだ」

茜「アイドルになってからは、私も加わって3人でプロデューサーを見張っていたというわけです!!!」


 美嘉、巴、茜がうろちょろしていたのはそのせいか。

 しかし、美嘉の直感にはほとほと参るな。


モバP「昔から、俺の事をそう思ってたのか」

美嘉「理由は一応あるんだよ。お兄ちゃんのお母さんとかから、言われてたの。お兄ちゃんは精神障害かもしれないって」


 母は俺自身だけじゃなく、美嘉にも言っていたのか。


美嘉「けど、お兄ちゃんは病院とか行ってくれないから判断がつかないって。『サイコパスになったらどうしよう』言われて」


 母は俺に精神科に行けと五月蝿かったが、中二病でもなければ、精神障害と言われて嬉しい奴はいない。

 それが親なら尚更だ。

みく「ま! そういうわけで、一応、犯罪は犯していないPチャンは、これからみく達の更生教室を受けながら、お仕事をしていくのにゃ」

 
 凛がしつこく、「なんかしてたら即、務所にいれる」とつぶやいていた。


幸子「条件が色々つきますけどね!」

モバP「条件?」

幸子「まず、プロデューサーさんはこれから、本音でボク達と話す事! 隠し事をしないで、本当に思ってる事を話してください」

モバP「そんな事をしたら、君達と友好な関係を作れなくなるよ」

凛「安心しなよ。今、みんな好感度、底辺だけどアンタを許すって言ってんだから」

モバP「凛、殴られたくないなら、その口、閉じろ」  

凛「はぁ!?」


みく「ちょ、ちょっとっ」


 みくが凛を抑える。


モバP「本音だよ。そうしろって言ったじゃないか」

みく「想像以上に暗い人かもしれにゃいなー…」

美嘉「お兄ちゃん、普段から、そんな風に思ってたの…?」 

モバP「凛だけな」

凛「なんでよ!」

モバP「前々から、凛に対して、言い表せられない気持ちが煮えたぎってくるんだ」

巴「ほう?」


 何故か巴が感心する。


巴「意外じゃの。美嘉からはアンタは感情が無いと聞いとったけぇ」

 
 どいつもこいつも失礼なことを言う。

巴「おい、口出せ言うたろうが」

モバP「どいつもこいつも俺に失礼な事を言う」

美嘉「なんだっけ。パーソナリティ障害? そう聞いてるよ、小母さんから」


 あの母親は、どうして自分の子供をそう悪く言えるんだ?

 それと、パーソナリティ障害=感情が無いわけでもないし、種類も多岐にわたる。

 サイコパスというなら、テッド・バンディなどと同じくくりになるじゃないか。


巴「まぁ、凛に対してそう思うんなら、前に計画しとったアンタに喜怒哀楽を教え込むいうの、やってみぃか」

モバP「余計な御世話だが」

幸子「ああ、条件の一つに、ボク達に逆らわないというのもありますから」
  
加蓮「モバPさんみたいに無茶な事は言わないから安心してよ」



 だが、以前は表現できなかった、喜怒哀楽という言葉も、今はちゃんと受け入れられる。

 凛に対して感じる感情が、「怒り」だと認識できる。

 俺は、彼女達によって変えてもらうのを期待しているのかもしれない。

みく「計画って、にゃんだ?」

美嘉「一人一つ、喜怒哀楽の中から担当を決めてお兄ちゃんに教えるって事をしようとしてたんだ。アタシはじゃんけんに負けて、哀しみ担当」

巴「うちは喜び担当じゃ」

茜「そして、私が楽しみ担当なのです!!!」

凛「え! じゃあ私が怒り担当!?」

加蓮「ぽいね」

巴「幸子、加蓮、みくはうちらと協力するでええが、怒りだけは凛しかやれるもんがおらん。任せた」

凛「や、やだよ! 絶対、損な役回りじゃん! 猫キャラのみくの方が見てて、イライラすると思うけどっ」

みく「にゃ!? そんな風に思ってたの?」

モバP「いや、みくに感じるのは憐れみだが」

みく「にゃ!?」

モバP「そして、生まれてこの方、怒りを覚えた人間は凛が初めてだ」

凛「く、何故…っ」


モバP「で? 条件はそれだけか」

巴「いいや、あんたには、やらにゃいけん事が二つある」

モバP「何だ」

巴「あの人らを救わにゃあ、うちはおどれを即、豚箱にぶち込むど」




 俺達は全員で、病院の、ある部屋の前に来た。


モバP「忘れていた…」


 患者名は、アナスタシアと書かれていた。


美嘉「彼女ね…、モブPが辞めて、担当がいなくなってから、ずっと引きこもってたらしいんだ」 

巴「親の証言で、原因はあんたにあると聞いとるで」

 
 ここの病院はうちの事務所のかかりつけ院で、棟一帯がアイドル専用になっている。

 佐久間など見覚えのある名前がちらほら。

モバP「迎えに行くと言ったまま、すっかりアーニャの事を忘れていた」

凛「…最低」

モバP「お前ほどの才能があれば彼女を忘れたりしなかった。メスPの件でごたごたして、相手をしてやれなかったんだ」

凛「私を誉めてるようだけど、全然嬉しくないから」

モバP「すまないな、誉めるつもりなんて全然なかったんだ」


 無言で凛と睨み合う。


茜「中へ入りましょう!」

 ベッドの上のアーニャは、枯れ木の様だった。

 長らく点滴だけでの栄養摂取で病的な痩せ方をしている。

 起きているようだが、目はうつろで口がだらしなく開いている。


モバP「アーニャ」


 枯れ木が、こちらを向く。


モバP「迎えに来たよ」

アーニャ「ぁ…、……あ…」
  
 
 何を言っているのか分からないので、ロシア語かと思ったが、そうではないらしい。

 
モバP「喋れないんだね。無理をしなくて良い」


 手を握る。

 
モバP「すまなかった、アーニャ。来るのが遅くなったな…」


 アーニャは俺の手を握り返してくる。

 顔も笑顔だ。

 やはりアーニャは可愛いな。



幸子「あれは本当に、本心から言ってますか?」  

美嘉「アタシの勘じゃあ、嘘はついてないよ」


 後ろから声がするが、俺が心から謝った事がどうかを、本能で俺の嘘を見抜ける美嘉に聞いたのだろう。

  
モバP「本当にすまなかった…」


 だが、俺が謝っているのは、彼女を迎えに来なかったという事についてだ。


 おそらく、アイドル達は俺がアーニャをこのような状態にしてしまった事に謝っていると思っているのだろうが、これは本人の自己管理力の問題で、俺が責められる事じゃない。
 
 だが、それを口にしてしまえばアーニャはもっと傷つく。

 巴に本心を言うようにと条件に出されたが、今は黙っておくほうがベストだろう。


 
 後で、正直にその事を言ったら殴られたが。








 アーニャが食事を摂るのを見届けてから、俺達はまた別の場所へ向かっていた。


茜「彼女、具合良くなると良いですね!!!」

幸子「プロデューサーさんが言って聞かせたので大丈夫だと思いますよ!」

凛「アナスタシアの体調が良くなったら、本当の事を話すんだからね」

モバP「ああ」

 
 凛は眉をひそめた。
 

凛「平気な顔して…、信じらんない」

モバP「顔に出ないだけだ。ショックは受けてる。お前があの状態になっても何も感じないだろうが」

凛「喧嘩売ってるの!?」

みく「落ち着くにゃーっ」

加蓮「なんで凛ってモバPさんにこんな嫌われてんの?」

凛「知らないよ。そっちが因縁つけてくるんだもん」

モバP「凛が初めて俺を否定した人間だからじゃないかな。人となりをバカにされたら誰だって怒るだろう」

凛「馬鹿になんかしてないよ! ちょっと直せって言っただけでしょ!?」

モバP「五月蠅いんだよ、馬鹿」

凛「馬鹿じゃない! 変態、鬼畜、アホ、アホ!」

モバP「もっと感情を抑えなさい。お前は意外と感情が表に出るんだな。馬鹿」

凛「ねぇ何で最後に馬鹿って言うの? わざと怒らせてるんだよね? アンタが怒らせるから大声出すんだよ?」

モバP「すまないな、馬鹿」

凛「殴る」

茜「堪えてーー!!」



美嘉「あれはあれで、ちょっと羨ましい関係かも。楽しそう」

加蓮「凛、マジギレしてるけどね」


巴「着いたぞ」
ちょっと休止

幸子「高いマンションですねー…」


 超高層マンションに連れてこられた俺達は、巴に倣って中に入る。

 巴が、管理人に話を付けるとエントランスホールの扉が開いた。


巴「ここの51階じゃ。昇るで」


 ほぼ最上階じゃないか。






 驚いた事に、この高層マンションは1階丸ごとワンルームの様だ。


凛「すご…」

モバP「凛ならしばらくすれば同じような生活ができるさ」

凛「何いきなり誉めてるの? 気持ち悪い」

モバP「俺はお前のアイドルとしての素質だけは認めてる。それ以外は嫌いだ」

凛「そーですか」


 エレベータで51階まで来ると、降りたすぐの所にこの階の居住者の名前がある。


 高垣楓。


巴「あんな(彼女)の家じゃ。行って、許してもらってこい」


モバP「一人でか?」

巴「一人の方がええ。何があっても受け止めろ。おどれが、ああしてしまったんじゃ」










 臭い。

 暗い。


モバP「ひどいな…」


 テレビ番組でゴミ屋敷を見た事があるが、楓さんの部屋はまさにそれだった。

 床が見えず、雑多なもので埋め尽くされているので、その上を歩いて行くしかない。

 
モバP「あの楓さんの住む家か。これは…?」



 元々、自堕落だった、というわけでもないだろう。

 彼女がこのような生活をしている原因は、アーニャの時と違い、俺にも一部ある。

 楓さんを陥れようとしたせいで、ショックを受けて精神的に参ってしまったのだ。


モバP「ん…。光が…」


 ゴミによって作られたの一本道を進んでいくと、彼女がいた。


モバP「楓さん」

 
 彼女はゴミの上で仰向けになっていたが、俺の言葉に振り向く。


楓「…プロデューサーさん……」    
 



 アーニャは枯れ木で例えたが、楓さんはいうなれば、レーズンだった。


 伸び放題で、ひどく傷んだ髪に、乾燥してひびに見えるほどのしわ。

 見て、思う。



モバP「アイドルとして、終わってるな」


 担当アイドル達との約束した通り、思っている事を正直に口に出す。

 
 しかし、おれのの言葉が癇に障った楓さんは、ベッド代わりにしていたCDケースを1枚、投げつけてくる。



モバP「見た目より、元気ですね」

楓「なんで、避けないんですか」


 俺は投げつけられたCDケースを避けなかった。


モバP「避けるスペースが無いからです。下手に動いたら、ここ、崩れます」

楓「正直なんですね」 
 
モバP「はい。色々とあって、今までの事を悔い改めたんです。だから、今日は楓さんに前までの事を謝りに来ました」


 楓さんは黙る。


 見るに堪えない顔が、汚れた髪で隠れて、表情を読みとる事ができない。


モバP「貴方を騙して、嘘の祝言を約束した事を謝ります。モブPとのやり取りの時、美嘉達が来なければ俺は貴方を殺すつもりでした」


 楓さんの顔が動いて、俺を見つめてくる。

 干からびた顔面と打って変わって、楓さんの瞳は潤い輝いていた。

 そして、彼女は涙を零す。

 
楓「巴ちゃんが、言って、ました。貴方を変えてみせると」

モバP「はい。そうなりました。まず、思っている事は正直に言えと」

楓「正直に物を言って、人が傷つくとか、考えられないんですか?」 

モバP「想像はできますが、それを気にしていたら正直に思っている事を言う、という事ができなくなるじゃないですか。本末転倒です」

楓「…そうですか」


 
 楓さんが立ち上がる。


 手に、何か持ったようだが、背に隠されて、見えない。
 

楓「それで…何を、私に」


 言葉が足りないが、俺が楓さんに何をしてほしいのか、と聞いているようだ。


モバP「アイドルとして戻ってきてほしいと思っていました。しかし、貴方のその顔ではもう無理ですね」
 

 悲しい事だ。


モバP「だから、せめて普通の生活に戻ってください。今の生活を続けていたのでは人間シチューが出来上がる勢いですよ」
 

 人間シチューとは、お風呂で死亡した人間が煮込まれて出来る料理だ。

 温泉好きの楓さんならなりかねないので、注意としてジョーク交じりに言ったのだが…。


 鋭い目で睨まれた。


 ジョークが伝わらなかったみたいだ。


楓「私は、貴方に惹かれてから、ずっと、貴方の為にアイドルを続けてきました。プロデューサーさんと一緒に、トップに立てたら良いと思っていました」


 楓さんが近づいてくる。


楓「結婚してくれると仰った時、本当に幸せでした」



 楓さんは背に隠してた、包丁を、俺に向ける。



楓「幸せでした」



 楓さんは更に俺に近づく。



 すると、ゆっくり来ていた楓さんが、いきなりこちらの懐に飛び込んできた。


楓「あっ」

モバP「ぐっ」


 
 楓さんを受け止めた俺は、足場が悪く後ろに転んでしまう。  



 
 彼女は俺に身体を預け、手に持っていた包丁は俺の腹に突き刺された。






美嘉「ん?」

茜「何か大きな音がしなかった!?」 
 
幸子「ほぇ? しました?」

凛「した、気がする…」

幸子「え? しました?」

みく「みくの鋭敏な猫耳も何かを聞きとったにゃ!」

幸子「うーん。しましたか?」

加蓮「…多分。分かんないけど」

巴「なんかが崩れたんじゃなかろーかね」

幸子「したかなぁ?」






 ゴミを巻き込みながら楓さんと倒れた。

 
楓「あ。あ。ああ…」

 
 何故か楓さんは包丁を突き刺した事に驚いて、混乱している。 
 
 
 腹に包丁は突き刺さっているが、スーツの上からでは、刃先の4〜5�ほどしか刺さっていなかった。腸が傷ついている感覚は無いので、出血を気にしていれば、とりあえず死ぬ可能性は少ない。

 呼吸をすると、刃が深く入りそうで怖いので、浅く息をする。

 
 俺は腹部に包丁を突き立てられたまま、楓さんを抱きしめた。


モバP「本心から言います。貴方が自分を追い込むのは、自身の管理の無さからだと思っていますが、原因を作ったのは自分です。なので、謝ります」


 楓さんは、少しづつ、落ち着きを取り戻す。


モバP「本当にすみませんでした。…できれば許して頂きたい」

楓「はっ…あっ……」


 瞳による眼振の具合から、楓さんはまだ混乱しているのが分かる。


 顔は相変わらずのレーズン模様。


モバP「…ん」



  
 しかし、顔にはまったく汗をかいていないのに、楓さんの首はひどく汗ばんでいる事に気がつく。



モバP「ちょっと……失礼…」


 楓さんの顔に手をやり、ひびみたいな、しわのくぼみを思いっきりひっかいた。


楓「あ…」



 楓さんの顔面がめくりあがる。

 かさぶたを取っている感覚で、さらに楓さんの顔をひっかきまくる。



 レーズンの顔が、ペリペリと崩れていく。



 干しぶどうの中には、以前と変わらぬ美しい顔があった。



モバP「綺麗だ…」

楓「プロデューサーさん…」



茜「ほら! やっぱり崩れてる!」

幸子「あれぇ? 本当ですね」

巴「こらっ。入るなと言うとろーがっ」

 
 外で待っていたアイドル達が中へ入ってきた。


巴「あ…。崩れとる…」


 巴が、ゴミの山の事ではなく、楓さんの顔を見て言う。

 楓さんのこの特殊メイクはやはり、巴の策略か。


巴「…で。許してもらえたんか?」

モバP「…どうだろう、か」

巴「楓…」


 楓さんが身を起こすと、腹の包丁が抜けた。

 場所の暗さで、巴達は気付かない。


楓「あ、あの……。あ…」

巴「多分、謝ってはもらったと思うけぇ、もう、こんな(こいつ)の事は気にしなさんなや。うちはアンタが普通の生活して、アイドルに戻るんがええと思ーとるんよ」 
    
楓「あ…あ…。きゅ…」

巴「元気出してつかあさい…(元気出して下さい…)」

楓「きゅ、きゅう……」


 ん…………。

 まずいぞ。やっぱりまずかったか。


モバP「巴…」

巴「なんなら(何?)」
 

 俺もゆっくりだが立ち上がる。


モバP「これ…」


 スーツの上着のボタンをはずして、Yシャツを見せる。

 白いYシャツには出血がはっきりと見える。


巴「な、な、なんじゃあ!? なにしとんならぁっ(なにしてんのっ!?)」


 俺も想像以上の出血に驚く。

モバP「さ、刺されちゃって……。だから、君達が良ければ、…救急車をお願いしたいんだが」

楓「あ、あの、刺す気は無かったんですけど、つまづいて、こ、転んじゃって、誤って、刺してしまって」


 楓さん、転んだのか。

 なら、巴に言われた通り、受け止めなくても良かったじゃないか。


加蓮「モバPさん、落ち着きすぎだよ! なんで早く言わないの!?」

茜「救急車! 救急車!! 救急車って、番号なんでしたっけ!!!」 

美嘉「109!」

茜「109! ……」


 一瞬、時が止まる。


凛「109?」

幸子「えーっと…」

みく「どうかしたの? 109、押さにゃいと」

凛「109…」


 イチゼロキューではなく、イチマルキューと言ってる時点で何かとごちゃまぜになっているのは分かった。

 正しい番号を言おうと思ったが、下手につっこんで機嫌を損ねられたら救急車を呼ばれないだろうから、黙っていた。



加蓮「119だよっ! 何してるの!」


 業を煮やした加蓮が、自分の携帯電話を取り出して救急車を呼ぶようだ。


モバP「ありがとう、加蓮…」

加蓮「ぜったい私が助けるからっ」


 意外なセリフに、すこし感動を覚える。


みく「みみみみみ、みくも助けるにゃ! 安心するにゃ!」

幸子「ボ、ボクもですよ!」


 学生の彼女達が、とっさに119を出来なくても無理は無い。


加蓮「駄目っ。繋がらないよ! どうしてっ」


 焦りで、加蓮は徐々に涙声になっていく。


モバP「泣くな加蓮。君は泣きやすいな。笑顔の練習をしないと…」

加蓮「それどころじゃなくてっ、電話繋がらないよ! どうして」
 
 
 俺には理由は分かるが、言えない。


 彼女達に逆らえなければ、命令も出来ないのだ。


 したら怒られる気がする。


 巴に殴られるのは、ちょっと怖いから嫌だ。



楓「あ…ぅ………っ……」


 アイドル達は慌てふためいていている。

 美嘉辺りはどうしようもなさからくるイラつきで、原因を作ってしまった楓さんを射るように見る。



 責任を感じているのか、楓さんは視線を泳がせて、言いたい事も言えないようだ。


 
 俺は唯一、助けを乞える楓さんをジッと見つめ、目で思いを伝える。


 


 楓さんは瀕死の俺を見かねてくれたのか、意を決して言葉を発した。



楓「こ、ここは場所が高いから、電波が入りにくいんです。ホームアンテナも今は機能していなくて…」


加蓮「なら、下まで降りないと!」

美嘉「うんっ」


 加蓮、美嘉、幸子、みくは外へ出ていって、救急車を呼んできてくれるようだ。

巴「出血がひどいな…っ」

 
 刃物が抜けたせいで、血がどんどん出てくる。


茜「出血をなるべく抑えましょう! 痛いと思いますが、押さえます!」


 衛生面を考えた茜は、この部屋にあるものではなく、自分の服を脱いで、傷口に当てる。


モバP「うっ…、茜は嘘を言わないな」

  
 押さえられた傷口は本当に痛かった。


モバP「…茜は、スプラッターとか、平気なのかな」

茜「ラグビーで流血は当たり前ですから!」

モバP「死ななかったら、その服、弁償するから」

茜「なら、今度買い物を一緒に、お願いします!」


 元気だ。いつも。

凛「ねぇ! 映画とかで傷口焼いて出血止める方法があったの思い出したよ!」


 声色から、冗談ではなく、本気で俺を心配して言ったようだ。

 
 まず、俺ではショック死する。

 内出血なので問題の解決にならない。

 救命医師に怒られる。

 
 いろいろツッコミのパターンを考えたが、シンプルに言う。


モバP「凛、ちょっと、黙れ」

巴「さすがにこんな(モバP)に同意じゃ…」

凛「っ、何よ!」



 圧迫の止血は力を緩めては意味がないので、茜はずっと、傷口を押さえてくれていた。


モバP「…楓さん、救命医師に原因を聞かれたら、この部屋を片付けている途中に、転んで、こうなってしまったと言いましょう」

楓「え?」

モバP「あながち、嘘じゃあありませんし…。それとも本気でした?」

楓「違います! 本気でなんて…」

モバP「あの顔がメイクで良かったです。貴方はまだアイドルだ」

楓「…アイドル…ですか」

モバP「戻ってきてください。俺は、なんでも協力します」

楓「…考えて、おきます」




 救急車の音が聞こえる。




 場所から、ドクターヘリが来るんじゃないかと内心、楽しみにしていたが、違ったようだ。




 海外医療ドラマで見て以来、一度乗ってみかったんだが、残念だ。 
 











 その後、楓さんはアイドルに復帰した。

 離脱期間が短かったので、なんとか世間には引退説程度の噂にとどまった。
 
 


 復帰しても彼女は担当プロデューサーを付けず、一人で仕事をしている。

 芯の強さに磨きがかかったようで、事務所――千川ちひろ社長の小言に気にせず、自分の立場を確立している。

 事務所側もトップクラスのアイドルの楓さんを手放すまではできないようで、上手く両者の関係が成り立った。





アーニャ「あー、ん…」

モバP「んぐんぐ…。アーニャが食べさせてくれると、流動食でも旨いよ」


 俺は治療された病院で入院していた。

 なにかの手違いでお昼が流動食にさせられて気落ちしたので、同じ病院にいるアーニャと食べる事にした。


モバP「アーニャは優しいな。俺を許してくれるなんて」

アーニャ「プロデューサーは私を迎えに来てくれました。…私にはそれで十分ですね」

 
 
 アーニャは、復帰したら俺の担当に就く予定だ。



 いろいろあったが、ここからが、やっとスタートな気がする。


 俺と、俺を尻に敷くアイドル達との、シンデレラの階段を上るスタートラインに今、立った。


モバP「最初、思い描いていたものとは違うけど、全然、悪くない…」

アーニャ「なんの事ですか?」


 いかんな。約束以来、思っている事が独り言になって出てきてしまう。

モバP「アーニャと出会って良かったって、事だよ」

アーニャ「私も、プロデューサーに出会えてよかったですね」


 アーニャへの好感度稼ぎで、全然、違う事を言い直したが、はぐらかせてよかった。

 
 つけている病室のテレビの番組には、楓さんがゲストで招かれていた。


アーニャ「プロデューサー」

モバP「何だい?」

アーニャ「噂を聞きました」

モバP「噂…」


 良い予感はしない。


アーニャ「プロデューサーは、誰かに恋をしていると」


 いつまでたっても無くならない噂だ。

モバP「そんな事は…」


 ない、とは言えなかった。


 約束だから、嘘は言わない。

 

 多分、している。


 
 けど、自分でも、誰か、なんて分からない。




 

 そして、病室の外から、また、あの足音が聞こえる。


 何回も聞いた、同じ足音なので、彼女達だと分かった。

 
 耳ざわりだった足音。

 けど今は、不思議と心地良い。


 
 足音がやんで、病室のドアが開く。



茜「はっけーん!!!!!!!!!!!!!!!!!」

美嘉「やっぱりここにいた!」

巴「わりゃ、動くな言われとろーが!!」 

幸子「可愛いボクが会いに来てあげましたよ!」

加蓮「病弱な私がお見舞いにきましたー! なんてね!」

みく「相変わらずこの病院はみくだけ変な目で見てくるにゃー! 今日も耳としっぽ、取られたにゃあ!」

凛「アーニャ! 変な事されなかった!?」


 騒々しいアイドル達が来訪した。


 テレビの中の楓さんは『こいかぜ』を歌っている。


 俺は思った事を口にする。


モバP「凛だけ回れ右して、帰って良いよ」

凛「…馬鹿!!」


 お見舞い用らしき花を凛が投げつけてきた。

 花は大事にしないといけないじゃないか。   



 
 俺と凛のやり取りは、他の子たちの中ではジョークになっているようで、みんな笑っていた。
 
 

 
 俺も、不思議と笑えてきた。


 以下、エピローグ。ちょっと描写注意です。

 今日は俺の担当アイドル全員と楓さんによる撮影会だ。

 
 大手ショッピングセンターの入り口で、白昼堂々と行われるイベントなので、人だかりが凄い。

 
 しがない社員の俺は、車を一般の駐車場に止めて、その会場へ向かう。


モバP「良い天気だ」


 遠目からだが、会場にはすでに人が密集していて、逆に俺が歩いている道には人が少ない。

 ビッグイベントという事で、警備員もいるようだ。



 すると会場ステージに、凛達が出てきた。


モバP「何? 時間が遅れるって連絡が入ったのに、予定通りじゃないか」


 まずい。遅刻だ。

 これじゃ、凛をつけあがらせてしまう。


 走って、会場へと急ぐ。


 私用の携帯が鳴って、高垣楓、と名前が浮かぶ。



モバP「もしもし」

楓『プロデューサーさん? やっと連絡取れた…今どこですか? もうイベント始まってますよっ』

モバP「少し前に開始時間が遅くなるって連絡をもらって、昨日、徹夜だったので仮眠をとっていたのですが」

楓『ちょっと前から、メールとか入れてたんですよっ 気付いてください』

モバP「プライベート用に入れてません? 楓さん」

楓『あ…』


 図星か。楓さんが俺との連絡係を買って出たのなら、仕事用に連絡が来ていないのも分かる。事務所側もずぼらだが。


モバP「いや、すみません。俺の不注意です。もうすぐ着きま――――――」 


 走りながら、携帯電話で喋っていたら、ビルの柱から、ホームレスの男が出てきた。



 男を見て、間もなく、彼は俺にぶつかってきた。 


 ―――。


 
 走っていた勢いと、急激な脱力で俺は前方にひっくり返るように転んだ。

 

楓『プロデューサーさん、どうかしましたか?』




 なんとか手に持っている携帯電話から、楓さんの声が聞こえるが、返事をしている場合ではない。

 

 腹を見ると、白いYシャツに綺麗に線が入り、みるみる、赤い染みが広がる。




 出血している。




 ついこの間、体験したおかげで、また、刺されたのだと分かる。


 しかも今度は、深い。   
 
 見た事も無いほど、黒い血が出てきた。



 不思議とまだ、痛みは無いが、確実にすぐやってくるだろうと思うと、げんなりする。


 傷から感じるのは、熱さ。

 鋭い熱さだけ。

 
 俺を刺した男が、再びこっちへやってくる。


 そして、2度目。


モバP「ぐっ」


 3度目。


モバP「ぶ…」


 4度目。


モバP「ごぼ…」


 5度目と、俺を刺し続けた。

 痛みが無いのは1度目だけで、それ以降はちゃんと感じた。


 胃も傷ついたのか、口から血を吐き出す。


 すぐに身体が動かなくなるだろうから、力を振り絞って、刺してくる男の目に指を突きいれた。


 男は絶叫を上げると、刺していたサバイバルナイフを落とし、のたうち回って、やがて動かなくなった。

 気絶したらしい。


モバP「俺の方が、気絶したいのに」


 しかし、今、気を失えば、一生目を覚まさないんじゃないかと思うと、そうも言ってられない。

 
 刺された物は鋸刃がついたナイフらしいので、俺の内臓はグチャグチャだろう。


モバP「…モブP、め…」


 俺は、血を地面につけながら、仰向けに這って会場へと近づく。 
 
  
 持っている携帯電話からは、もう、楓さんの声は聞こえない。

 出番が来たんだろう。


 
 会場の方を見ると、アイドル達と共に楓さんも出演していた。


 
 俺は、尚も這って、会場へと近づく。


モバP「凄いファンの数だ……。俺の、プロデュースした、アイドル達…がここまで」


 逆の関係になっているのかもしれないが、名目上は俺の担当アイドルだ。



モバP「もっと…増やしても、良いかも…しれない、…」



 まだ這っていける力はある。きっと、血の道が出来ているだろう。



モバP「ああ…あの子たちを、迎えに行くのも、良いか…も…」 
 


 担当していた頃は一緒にゲームをしてあげた、今は引きこもりの奈緒…。


 夢敗れて、実家に…なんとか星だったか…に帰った、…少女…?


 自傷行為で精神科に長期入院中の佐久間…。



モバP「いまなら…帰って来てくれる気がする……」







 もう、這えない。限界だ。





 首に力を込めて、顔だけ、ステージに向ける。



 けど、彼女達の姿は、白黒に霞んで見えなかった。



 顔を下げる。


 死ぬのが怖い。




 そして、あの子たちが他のプロデューサーに改めてプロデュースされてしまうと思うと、たまらなく悔しい。

 
 俺の生きた証と思える彼女達。


 自分が何者にもなれず死んでいくと思うと、無念でたまらない。




 しかし、最後に思い描くのは、彼女達がシンデレラガールズとして、舞踏会の階段の上に輝く姿。



モバP「立派に…なった……」


 俺は自分が知る中で、初めて涙を流した。

















 大きなどよめきが聞こえる。


 


 しばらくすると、足音が近づいてきた。




 聞きなれた、一人分だが、走ってくる足音だ。


 
 この足音は、まったく、耳障りだ。


 いつもどこでも、誰か分かる。





凛「モバPさんっっ!!!!!!!!」 

 



 駆け寄って来た凛。




 だが、血だらけの俺をどうしていいか分からず、狼狽する。




 顔だけ軽く、上げると、凛は、そっと、膝を枕にしてくれた。

  
モバP「凛」

凛「どう、どうし、たのっ。…大丈夫、しっかりっしっかり…して……」



 俺が事情を聞ける状態じゃないと悟った凛は、かけてくる言葉を変える。 


 最後くらい、弱音を吐いても良いかな。 



 色を失った目でも、凛の黒髪だけは、はっきりと見えた。 
 

モバP「助けてくれ…」

凛「分かってるっ…119だよね、分かって、る…っ。すぐに、呼ぶからっ」
 


 今まで、ステージにいた凛が携帯電話を持っているはずがない。

 凛は立ち上がって、電話をしに行こうとする。



モバP「…そばに、いてほしい…」


 
 凛からしてみれば言ってる事はめちゃくちゃだろうが、どっちも本音だ。

 手の感覚が無いので、まだ俺が携帯電話を握っているか分からないが、別にそれに気付いてほしいわけでも無い。

 ただそばにいてほしい。



 だが凛は、俺のお願いを二つとも叶えてくれた。

凛「大丈夫…だから。そばにいるから……」


 凛は優しく頭を包こんでくる。  


凛「誰か…。誰かぁ!! 救急車を呼んでっ、救急車を呼んで下さい!!!!」


 ボイスレッスンのおかげで凛の声は良く通る。


凛「誰か、早く…救急車を……」


 凛の声が消え入りそうになっているのか、俺の聴覚が無くなったのか。



凛「――――」



 耳が聞こえなくなった。

 凛が俺に触っているのかも、もう分からない。

 

 目も限界だ。

 
 ゆっくりと、意思に反して、視界が閉じられていく。







 閉じた先の黒色も、凛の髪と同じ色だったら安心できるだろうな、と思った。


 
  
 おわり

だらだらと長文失礼しました。

また書けたら、鬱ストーリー全開の前日譚か、コメディ一辺倒の後日談が出来たらいいなと思います。

関係無いけど浴衣祭りで松本沙理奈が登場して嬉しい。SR早く来てほしい。

相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: