2013年11月11日

貴音「ふーどふぁいと!!!」

※このスレは、アイマス世界における、主に765プロ所属アイドルが出演するドラマ、要するに劇中劇という設定です。

ので、アイドル達が本来の設定とは違う設定で登場してきますが、そういうドラマなのだとご理解ください。

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第1話『ラーメン対決!』


水瀬グループビル最上階 社長室

伊織「それで? 次の挑戦者は決まったの?」

P「難航しています。そもそも勝てそうな相手がいないので……」

ドガッ★ 伊織の蹴りが、Pに命中する。

P「痛っ!」

伊織「無能の言い訳なんか聞きたくないわ。アンタは、私の命令を、忠実に遂行すればいいの。わかったわね」

P「……はい」

伊織「わかればいいのよ。ゴメンね、蹴ったりして」

P「大丈夫、です……」

伊織「にひひっ。私の可愛い可愛いPちゃん……」

伊織はPを抱きしめると、猫なで声で囁く。

当のPは、目を伏せて身を硬くする。

伊織「挑戦者、早く決めてね。あの貴音に、 惨めな敗北を味あわせられる挑戦者を……」

P「わかってます」
俺はP、水瀬財閥の次期当主と目されている令嬢、水瀬伊織の秘書……だ。一応。

伊織様……いや、こんな時にまで仕事で強要されている呼称は止めよう。
伊織は、水瀬グループのひとつである水瀬総合食品フーズの若き社長でもある。

彼女は政財界とのコネクションを最大限に利用し、本社ビル地下で『フードファイト』というヤミ賭博を開催している。

フードファイトは好評で、一夜で億単位の金が動く事すら珍しくはない。

参加者も勝利すれば、賞金が一回300万円。
それ以外にも、伊織が何かしらの特別な褒美を与えている。

がしかし、ここ数回は勝者は常に1人の人物に固定されてしまっている。

強すぎるチャンピオン。

それが四条貴音。

まだ若い、アイドル志望の……信じられないぐらい、美しい娘だ。
P「はあ、とりあえず……黒井社長の見舞いにでも行くか」

双海総合病院

P「……!」

貴音「……!」

P「奇遇だな、チャンピオン」

貴音「人前でそう呼ぶのはお止めください。あなた様も、黒井社長のお見舞いに?」

P「一応、俺がセッティングした勝負だしな。まあ、チャンピオンに一蹴されて、この通り病院送りだが」

貴音「勝負とはいえ、少々やりすぎました。反省しています」

P「……そんな気遣いは無用さ、まあお嬢様は大変なご不興だったがな」

貴音「……いつまであの娘の側にいるのですか? もしよろしければ、わたくしと……」

P「ああ、貴音みたいな美人といられたらいいだろうな」

貴音「まあ!」

P「赤くなるな。お世辞だ」

貴音の「まあ!」

P「怒るな」
ノックして個室へ入る2人。

冬馬「……外が騒がしいと思ったら、社長をこんなにしやがった張本人達が、雁首そろえておでましかよ。いい度胸じゃねえか」

北斗「チャオ! やめろ、冬馬」

翔太「ここは病院だよ、冬馬君」

冬馬「……チッ。それで何しにきやがった? こんなになっちまった社長を笑いに来たってんなら……」

P「見舞いだ。具合はどうだ?」

翔太「身体は問題ないそうです。しばらくすれば、元に戻るって。ただ……」

北斗「心は、もう……」

黒井「……ハァ。わしはもう、ダメだなあ……」

貴音「黒井殿、暫くお会いしない間に、随分とお年をめされましたね」

冬馬「誰のせいだよ! お前とのクロワッサン勝負で負けてから、社長は……社長はなあ……」
P「冬馬君、だったね。貴音を責めるのはお門違いだ。黒井社長は勝負をして負けた。貴音は正々堂々と勝った。それだけだ」

冬馬「いいや、俺は許さねえ……その女を絶対に許さねえぞ!」

貴音「ではどうすると仰るのですか? わたくしに、ふーどふぁいとで挑戦するとでも?」

P「貴音、止めろ」

貴音「黒井社長は、口ほどにも無い相手でした。人は、実力以上の事を口にすると、身を滅ぼしますわね」

冬馬「てめえ……」

貴音「そこにいる、黒井社長のように」

冬馬「やってやる……おい、そこの水瀬の腰巾着!」

P「俺か? もしかして」

冬馬「そいつへの次の挑戦者、俺がやるぜ!」

P「止めておいた方が……」

冬馬「心配するなよ、俺も食うぜ。ハンパなくな」

北斗「チャオ☆ それは本当ですよ」
冬馬「おまえ、得意な食べ物はなんだ!?」

貴音「わたくしですか? らぁめんが、特に好物ですが」

北斗「よし決まりだ。おまえの得意なラーメンで勝負して、負かしてやる!」

貴音「良いでしょう。身の程を、貴方に知らしめましょう。では、当日」

P「お、おい。勝手に話を決めるなよ」

翔太「お願いだよ、やらせてやってよ。冬馬も冬馬なりに、社長のために何かしたいんだよ」

P「……その結果が、黒井社長の横で並んで寝込むことになっても、か?」

翔太「……」

冬馬「……望むところだ。俺は、おっさんの為に闘ってやる! 俺がおっさんの横に、あの女を並べてやる!」
伊織「それで? 本当に大丈夫なの?」

P「天ヶ瀬冬馬については調べました。大食い大会等の経験はありませんが、確かになかなかの実力者です。そして何より……」

伊織「チャンプを憎んでいる、っていうのがアピールポイントなわけね?」

P「人は誰かのために闘う場合、時に実力以上のものを出します」

伊織「……ふん」

P「伊織様にはおわかりいただけませんか?」

伊織「私が言いたいのは、天ヶ瀬冬馬が負ければ、アンタが相応の責めを負うという事。それだけよ」

P「……心得ております」

P(勝て、とは言わない。がんばれよ、冬馬。黒井社長の為にな……)


貴音「本当に私と戦うとは、意外でしたね」

冬馬「今の内に言ってろよな、俺がお前を倒しておっさんの心に自信を取り戻させてやる!」
伊織「ルールの説明をするわよ。今回のメニューはラーメン。関東風の醤油味のシンプルなラーメンよ」

伊織「ただし、素材は厳選した本物よ。具材もそれぞれ一流の物を揃えてあるから」

貴音「まあ!」ドキドキ

冬馬「別になんだっていい。早く始めてくれ」

伊織「ふん、私に命令するとはいい度胸ね。まあいいわ。ファイトは1R10分で3Rの大食い対決。ラウンド毎に3分のインターバルが入るわ」

伊織「じゃあ始めるわよ……ファイト!」

貴音「……! これは、極上の国産小麦粉を使った麺に、すぅぷは比内地鶏……いえ、それに僅かなとんこつを」ズルズル

冬馬「……」ズルーーーッ
伊織「なかなかの勢いじゃない、あの挑戦者。さすがアンタ、いい挑戦者を選んだじゃない。にししっ!」

P「はあ……」

P(飛ばしすぎだ)

貴音「天ヶ瀬冬馬」

冬馬「……」ズルズルーーーッッッ

貴音「大食い対決では、ぺぇす配分が肝要。そのように飛ばしていては、後半持ちませんよ」

冬馬「……」ズルズルズルーーーッッッ

1R終了
貴音:3杯
冬馬:4杯
冬馬「へ、へっ……どうだ、見たか。負けねえぞ……おっさんをあんなにした、お前なんかには負けねえぞ!」ハァハァ

貴音「息が上がっていますよ。まだ2らうんどもありますのに」

冬馬「……上等だ! まだまだペース、上げてやるぜ!!」

伊織「なによ! いったいどういうこと?」

P「序盤でペースを上げすぎた、という事でしょう」

ドガッ★

P「っ!」

伊織「なに冷静に言ってるのよ! どうみてもあの挑戦者、もう限界じゃない!! もう負けは確定なの!?」

P「たしかに冬馬の身体は、限界でしょう」

伊織「アンタ……」

P「ですが、ここからが冬馬の……心の闘いになるでしょう」

伊織「根性論なんて、野蛮な男どもの幻想よ。そんなんで物事に勝てるなら、苦労はないわ」
2R開始

徐々に、ペースを上げていく貴音。

一方の冬馬は……

冬馬「おっさん……おっさん! 貴音を倒して、倒して……」ズルズル

貴音「……やりますね」ズルズル

伊織「ちょ、ちょっと……これって」

P「いかがですか、伊織様? あれが……なにかの為に必死な者の姿、です」

2R終了
貴音:4杯(計7杯)
冬馬:4杯(計8杯)

伊織「嘘、勝ってる……? まだ、勝ってる?」

貴音「あなたを少々、見くびっていたようですね。ですが、さすがにもう限界では?」

冬馬「……」

冬馬(ダメだ)
冬馬(口を開いただけで、ぜんぶ出ちまいそうだ)

冬馬(ここまでか……おっさん)

黒井「冬馬!」

冬馬(へっ、幻聴まで聞こえてきやがった)

黒井「冬馬! 負けるな!!」

冬馬(それにしても、さすがに幻聴。おっさんがまた、前みたいに元気に怒鳴ってやが、る……?)

黒井「冬馬! 冬馬!! 冬馬!!!」

冬馬「おっ……さん!?」

北斗「チャオ☆ 冬馬、冬馬のファイト見事だったぞ。それを見てたらほら、社長も」

翔太「だから、負けないでよ。冬馬君!」

冬馬「へっ……へへっ。そうか、そうかよ」

黒井「負けたら承知しないよ! 冬馬!!」

冬馬「ま、負けるわけねえだろ! いくぞ!! 四条貴音!!!」
3R開始

冬馬「ま、負けねえ……負けねえぞ……」ズル

伊織「すごいじゃない! ふうん、心ねえ……」

P「ですが、それもそろそろ限界」

貴音「ここまでとは、驚きましたよ天ヶ瀬冬馬」

冬馬「へっ……どうだおっさん、あの貴音が……四条貴音が驚いてやが、る……ぜ」

3R終了
貴音:3杯(計10杯)
冬馬:1杯(計9杯)

黒井「冬馬! 大丈夫かい? 冬馬!!」

冬馬「ああ……へっ、負けた……負けちまったな、おっさん。すまねえ」

北斗「チャオ! 冬馬はがんばったさ」

翔太「すごいよ。それに社長も元気になったし」

黒井「すまなかったね、冬馬。だがお前のファイトで、目が覚めたよ。もう心配は要らない、これからは本業でがんばろう」

冬馬「ああ、そうだ、な……もう大食いはまっぴらだ」

北斗「だね。チャオ☆」

輪になり、和気藹々の961プロ。
伊織「……」

P「申し訳ありません、伊織様。天ヶ瀬冬馬を挑戦者にして敗北したこの失態、責めは私がいかようにも」

伊織「……そう」

P「? あの……」

伊織「じゃあアンタに命令するわ。次はもうちょっと……マシな相手を用意しなさい。いいわね」

P「……はい」


ファイト後、765プロダクション事務所。

小鳥「どうしたの貴音ちゃん? いつもフードファイトの後は、お腹いっぱいだって言ってるのに」

貴音「いえ、今回はちょっと……」ズルズル

貴音(あのらぁめん。できればもっと沢山いただきたかったですね……)

小鳥「ふう。でもこの765プロも、所属アイドルは貴音ちゃんだけだし、まだまだよねー」

貴音「その内わたくしが、とっぷあいどるとなってみせます」

小鳥「おおっ! 頼もしいなあ。うふふ」


第1話 終わり
次回予告


さて、次回の挑戦者は!?

千早「私、歌が大好きなんです」

貴音「なんていう歌声……わたくしとしたことが、ひきこまれてしまいました……」

挑戦者『如月千早』

千早「私たち、仲良くなれそうですね」

貴音「ええ。共に、とっぷあいどるを目指して研鑽いたしましょう!」

そして……

黒井「この歌は、ちょおっと借りておくよ」

千早「そんな……返して! 私の歌を返して!!」

伊織「千早、アンタが勝ったら歌を返してあげてもいいのよ?」

対戦メニューは!?

貴音「……美味しくありませんね」

千早「メトロノームと音叉だ。私は、それになるんだ……」

次回『クラッカー対決』! お楽しみに
一旦ここで、止まります。

ありがとうございました。
第2話『クラッカー対決!』


河川敷

貴音「ふう……先程のれっすん、また怒られてしまいました」

貴音「とっぷあいどるへの道は険しいですね……」

?「んあー」

貴音「?」

?「んあー」

貴音「この面妖な……しかし、心惹かれる声は?」

声のする方に目を向けると、そこには長い髪を風になびかせた、貴音とそれほど違わない年頃と思われる娘がいた。

?「んあー。あー、あー。うん、悪くないわね」

貴音「そこの貴女」

?「え? 私ですか?」

貴音「わたくし、四条貴音と申します。まだ全く売れてはおりませんが、これでもあいどるを目指している身」

?「そうなんですか? じゃあ私と同じ、って事になりますね。あ、私は如月千早といいます」
貴音「先ほどから聞こえてくる声、発声練習とお見受けしましたが誠に素晴らしい声」

千早「そ、そうですか? なんだか照れます」

貴音「実際の歌声は、さらに素晴らしいのでしょうね」

千早「そんな……私、まだデビューも決まってなくて。だからとにかく一生懸命、練習だけはがんばろうって」

貴音「なるほど。感心ですね」

千早「私、歌が大好きなんです」

貴音「よろしければ貴女の歌を、聞かせてはいただけませんか?」

千早「……はい!」

千早は、そよ風の吹く河川敷で歌った。
聴衆……いや、聴者はひとり。
だが、そのたったひとりの聴者は、感動していた。

貴音「なんていう歌声……わたくしとしたことが、ひきこまれてしまいました」
千早「〜♪ どうですか?」

貴音「素晴らしい……わたくし、感服いたしました。が、同時に……」

千早「な、なんですか?」

貴音「とっぷあいどるになるには、如月千早を越える歌をうたわねばならないのですね……」

千早「そんな、私もまだまだです。もっと歌の上手い人は、たくさんいますよ」

貴音「なんと!」

千早「だからがんばらないと」

貴音「そうですね。夢があるなら、己を磨く努力を惜しまぬ事は当たり前」

千早は笑った。

千早「私たち、仲良くなにれそうですね」

貴音「ええ。共に、とっぷあいどるを目指して研鑽いたしましょう!」

2人は固く握手した。

千早「四条さんは、どこの所属なんですか?」

貴音「765ぷろ、です」

千早「765プロ……ごめんなさい、聞いたことないです」
貴音「わたくしだけが所属あいどるの、まだ小さき事務所ですから。如月千早は?」

千早「千早、でいいです。私は961プロです」

貴音「! なんと」


数日後、961プロ

千早「これが……これが私のデビュー曲になる『蒼い鳥』!」

楽譜を大事そうに抱える、千早。

黒井「はーい、レッスン生諸君。新しいニューメンバーを紹介するよぉ。新しい新人の、黒井闇美(くろいやみ)ちゃんだ」

冬馬「おいおい、おっさん。新しいニューメンバーは変だろ」

黒井「細かい事はいいんだよ」

北斗「チャオ☆ あれ? その可愛いエンジェルちゃん、黒井ってことは?」

黒井「ウィ。黒井闇美ちゃんは、私の親戚筋にあたる。まあ私にとっては妹みたいなものだ。だけどね、その実力は折り紙付き。決して身内贔屓のコネじゃないことは、すーぐわかってもらえると思う」
翔太「そうなの?」

黒井「無論だ。ええと……そこの君、それは楽譜だね?」

千早「あ、は、はい。私のデビュー曲で」

黒井「この歌は、ちょおっと借りておくよ」

千早「え、えっ!?」

闇美「……あなたの歌、少し借りるわね」

黒井闇美はそう言うと、楽譜を見ながらア・カペラで歌い始める。

確かに上手い。

千早「上手いわ……けど」

黒井「どうだね、諸君? 闇美ちゃんの歌は素晴らしいだろう?」

闇美「ねえ、お兄様。闇美、この歌が気に入っちゃった」

黒井「そうかい、そうかい」

闇美「あなたの歌……このまま借りておくわね」
千早「そんな!」

闇美「この歌も私の方が、居心地がいいみたいよ」

冷たく笑う、闇美。

千早「そんな……返して! 私の歌を返して!!」

黒井「人聞きの悪い事を言うんじゃないよ、君ィ。この歌は闇美ちゃんのものにすると決めたんだ。これは決定事項だ」
河川敷

貴音「如月千早!」

千早「……」

貴音「また会いましたね。あれから私も歌のれっすんを……?」

千早「四条さん、私……私」

貴音「どうしたというのです?」

千早「私の歌……デビュー曲になるはずだった、大事な歌を、取られてしまいました」

貴音「なんと!」

千早「それは、私の所有物じゃないことはわかっています。でも……でも、初めて楽譜を見た瞬間に私は直感したんです。これは、私の大事な曲になる、って」

貴音「それはつまり、ぷろだくしょんの都合で取り上げられたわけですね?」

千早「そうです。黒井社長の血縁の娘、黒井闇美が歌うって……」

貴音「わかりました。行きましょう」

千早「え? 行くって、どこへ?」

貴音「黒井社長の所です。千早の歌を取り戻すのです」

千早「む、無理です」
貴音「心配は無用です。わたくしは、黒井社長とは面識があります」

そこまで言って、貴音はハッとする。

自分と黒井社長の面識とは、本人をフードファイトでコテンパンにし、彼を慕う天ヶ瀬冬馬も返り討ちにした、そういう関係だった。

貴音「そうでした……わたくしが会いに行っても、黒井社長はとても千早の歌を返してはくれないでしょう」

千早「?」

貴音「ですが、わたくしには次善の策があります。参りましょう、千早」

千早「え? ど、どこへ……し、四条さん!?」
水瀬総合食品フーズ本社ビル社長室

伊織「ねえ、Pちゃん?」

P「なんでしょうか、社長」

伊織「もう、なによ他人行儀ね。2人きりの時は、社長って呼ばなくていいって言っているじゃない」

P「はあ」

伊織「2人きりの時は、気楽に偉大なる女神にして尊敬する太陽である伊織様、って気楽に呼べばいいのよ」

P「はあ」

伊織「気のない返事ねぇ……まあいいわ。こうしてランチの後でアンタの膝を枕にするのは、なによりのリフレッシュよ……」

PPPPP、PPPPP……

P「伊織様、電話です。出てもよろしいでしょうか?」

伊織「……ふん! 仕方ないわね」

伊織が起きあがると、Pは受話器を上げた。

P「なに? わ、わかった。すぐ行く」

伊織「ちょっとアンタ。この伊織ちゃんの大事なリフレッシュタイムをほったらかして、どこ行こうってのよ!」
※訂正


>>28

×伊織「2人きりの時は、気楽に偉大なる女神にして尊敬する太陽である伊織様、って気楽に呼べばいいのよ」

○伊織「2人きりの時は、偉大なる女神にして尊敬する太陽である伊織様、って気楽に呼べばいいのよ」
P「申し訳ありません。次回のフードファイトの有望な対戦者が見つかりそうでして」

途端に伊織は、表情を崩す。

伊織「そう。ならいいわ」

P(こういう所は、意外とチョロいんだよな)

エレベーターで地下倉庫に直行すると、Pは思わず顔をしかめる。

P「ここへは来ないでくれ、と言ったはずだがな」

貴音「ですが、受付の女性の方はすぐに取り次いでくださいました。そしてここへも、すぐに通してくださいましたが」モグモグ

P「貴音が来ると、伊織様……あのお嬢様の機嫌が悪くなるんだよ。勘弁してくれ」

貴音「ではもう、ここでのお仕事はお止めください。そしてわたくしの……」モグモグ

P「そうすると、ここで貴音は試験商品の山を食べたりできなくなるがな」

貴音「……あなた様は、いけずです」モクモグ
P「それで? 別に腹が減ったからってのが訪問の理由じゃないだろ? なんの用だ?」

貴音「この如月千早が、黒井社長から取り上げられた歌を取り戻して欲しいのです」モグモグ

P「黒井社長から?」

貴音「そうです。千早はデビュー曲に決まっていた曲を、取り上げられてしまいました。それを」モグモグ

P「なんで俺が?」

貴音「水瀬財閥の力なら、できるのではありませんか?」モグモグ

P「あのな……ん? ち、ちょっと待て貴音。その如月千早っていうのは、そのお嬢さんか?」

貴音「その通りですが?」モグモグ

貴音の眼前には、食べ終えた試食品の山が。

そしてその隣には、同じく試食品の山が。

その山の前にいるのは……
P「彼女の名前は、如月千早。961プロ所属のアイドル候補生です」

伊織「この娘が挑戦者? 大丈夫なの?」

P「大会ではありませんが、あの貴音と互角の実力を有している所を見ました」

伊織「へえ。ねえ千早、だっけ。フードファイトという大食い競技で、四条貴音に勝ったら賞金は300万円よ」

P「そして無論、黒井プロに働きかけて歌を取り戻してやる」

伊織「歌?」

P「はい。彼女は黒井社長に、デビュー曲となる歌を取り上げられたんです」

伊織「歌をねえ……にししっ」

伊織「千早、アンタが勝ったら歌を返してあげてもいいのよ」

千早「あの……本当に私が四条さんに勝ったら、歌を……?」

伊織「この水瀬伊織に、二言は無いわ。必ず歌は取り戻して上げる……」

千早「……四条さん……ごめんなさい」
フードファイト当日

水瀬総合食品フーズビル地下

千早「ごめんなさい、四条さん。こんな事になってしまって」

貴音「わたくしも、よもやこのような事になるとは……」

千早「でも、申し訳ありませんが私は四条さんに勝ちます。勝って歌を取り返します。だから、本当に……ごめんなさい」

貴音「謝ることはありません、千早」

貴音は微笑んだ。

貴音「千早は、それだけその歌を大事に思っているのですから」

千早「はい」

貴音「それともう一つ。勝つのは、私だから謝る必要はありません」

千早「! ……そうはいかないと思います」

伊織「じゃあルールの説明をするわよ。今回のメニューはクラッカーよ」

貴音「くらっかぁ?」

P「これだ」

貴音「これは……びすけっとのような印象を受けますね」
伊織「ふふ。本場アメリカ製の、一級品よ。ただし、クラッカーは何もつけずに食べること」

貴音「味変は無し、ですか」※味変:調味料等で味を変える事

伊織「じゃあ始めるわよ……ファイト!」

貴音「これがくらっかぁ……美味しくありませんね」モグモグ

薄い塩味はあるものの、明確な味の主張の少ないクラッカー。しかも水分が全く無いため、口の中がボソボソする。

伊織「そりゃそうよね。クラッカー単体でなんて、そう食べるもんじゃないもの。本来なら、チーズやチャウダーとかの付け合わせよ」

P「俺はチリに、砕いて入れて食べるのが好きです」

伊織「チリ? チリコンカルネの事? アンタ、コロンボのファン?」
P「……いずれにしても、さして美味しくない物を延々と食べるのはあの貴音でも苦痛でしょう。しかし」

伊織「千早は、食べることに対して興味が無い。無いからこそ、延々とでも食べ続けられる。にししっ! 最高ね」

サクサクサクサクサク サクサクサクサクサク

乱れることなく、一定のリズムで千早は食べ続ける。

サクサクサクサクサク サクサクサクサクザクッ

千早(今、一瞬クラッカーを食べる音が変わった。私の噛む力にムラが出来たんだ。注意しないと)

サクサクサクサクサク サクサクサクサクサク

貴音「美味しくはありませんが……ともかく食べねば」モグモグ

伊織「見てて面白いもんじゃないわね。千早は」
P「ですが、これ以上無いぐらいに正確です。あのままペースを崩さず最後まで食べられれば、千早の勝ちでしょう」

P(どうした貴音。それじゃあ勝てないぞ。いいのか? それで)

1R終了
貴音: 82枚
千早:120枚

貴音「やりますね。千早」

千早「このまま、このままで。正確に、ペースを乱さずに」
2R開始

相変わらず千早は、動作もペースも変わらない。

5秒に1枚のクラッカーを食べ、水を一口。

対する貴音は……

貴音「それにしても、美味しくないですわね。味も、もう飽きました」

伊織「にししっ。作戦は成功ね」

千早「メトロノームと音叉だ。私は、それになるんだ……」

P「千早は自分が勝つ要素を、よく理解しているな。メトロノームのように正確な速度で、音叉のように正確な音で食べ続けること。このままなら……」

2R終了
貴音:合計138枚
千早:合計240枚

貴音「このままでは……」

千早「このままなら……」

伊織「ちょっと! ダブルスコアじゃない。貴音の惨敗じゃない惨敗! 惨めな敗北と書いて、惨敗よ」
P「嬉しそうですね」

伊織「当たり前じゃない。私は貴音を許さないわ! あんな事をしておいて……絶対にフードファイトで貴音を負かしてやるんだから!」

P「?」


3R開始
千早「いいわ。このまま、この調子で……差は二倍なんだから。このままで、私は勝て……る?」

ザクザクザクザクザクザクザクザク
ザクザクザクザクザクザクザクザク
ザクザクザクザクザクザクザクザク
ザクザクザクザクザクザクザクザク

突如として、貴音は猛スパートで食べ始めた。

千早「!」

伊織「両手にクラッカーを2枚ずつ持って……?」
千早「り、両手に2枚という事は、今までより2……じゃなくて4倍? いいえ、速度も上げてるから、ええと……ええと」

伊織「なにしてるのよ! 手が止まってるじゃない!!」

P「千早! 気にするな!! 惑わされるな、ペースを維持するんだ!!!」

ハッとして、再び食べ始める千早。

が、しかし……

千早「い、急がないと……急がないと!」

バリザクボリザクボリッ ザクザクボリボリバリボリ

P「焦るな! 今まで通り、今まで通りでいいんだ!!」

伊織「……無駄よ」

P「伊織様!?」

伊織「貴音の作戦ね、どうすれば千早のペースを乱せるか……精密な動きを崩せるか、その為にあえて1Rと2Rはペースを抑えて」

P「急に3Rでペースを……」
見る影もない、千早のペース。

心理的動揺が、明らかに影響している。

そして。


3R終了
貴音:合計358枚
千早:合計355枚

P「勝てていた……千早が3Rもペースを変えていなかったら、360枚を食べていただろう」

伊織「フン! 帰るわよ!!」

千早「ま、負けた……負けてしまった……歌、私の歌が……」

貴音「千早。貴女はまだまだです。そんな貴女では、まだそね運命の曲は歌いこなせないでしょう」

千早「……」

貴音「精進を積む事です」

千早「……」
小鳥「どうしたの? 元気ないわよ、貴音ちゃん」

貴音「困難か道を、共に高めあいながら進める友を得られた、と思ったのですが……」

小鳥「?」

社長「やあ君達、今日はビッグニュースがあるぞ。我がプロダクションに、二人目のアイドルが誕生した」

小鳥「ほんとですか!?」

社長「ああ。入りたまえ」

貴音「!」

千早「如月千早です。961プロから移籍してきました」

貴音「ま、まことですか?」

千早「四条さんに言われた事、堪えました」

貴音「すみません……」

千早「でも、だから一緒に頑張りたいって思ったんです」

貴音「千早……共に目指しましょう! とっぷあいどるを!!」


第2話 おわり
次回予告

さて、次回の挑戦者は!?

真美「黒井闇美は、真美の生き別れになった双子の妹なんだよ!」

貴音「彼女は、記憶喪失だそうです」


挑戦者『双海真美』


真美「亜美! 真美だよ!!!」

そして

貴音「どうすれば記憶が取り戻せるのでしょう?」

対戦メニューは!?

P「水瀬グループは、人の記憶や心を解析する専門家を招聘している」

伊織「真美、約束するわ。その専門家に、アンタの妹の件を頼んであげる」

真美「真美の大好物で、勝負だ! お姫ちん!!!」

次回『アメリカンドッグ対決!』 お楽しみに
今回は、ここで止まります。

読んで下さった方、ありがとうございました。
第6話『お煎餅対決!』


765プロ事務所……のドアに、今は『雪歩奪還作戦本部』と仰々しく書かれた紙が、貼られている。

中にいるのは勿論、765プロの面々。

響「あの理不尽な菊地真とかいうやつから、絶対に雪歩を取り戻すぞ!」

真美「我那覇本部長どの、それで作戦は?」

響「それは……千早、どうしよう?」

千早「私にはなんとも……貴音さんは?」

貴音「ふふふっ。みんな、このわたくしを誰だと思っているのです」

亜美「おお! さ→すが、お姫ちん。すでになにか、作戦が?」

貴音「そのようなもの、あるはずがありません!」

亜美「あらら↓」

貴音「ですが、その為に来ていただいたのではありませんか。ねえ、あなた様」

P「……言っとくけどな、これバレたらあのお嬢様がカンカンになるぞ」

真美「そんなの、いつもそ→じゃん」

P「おいおい、あれで年相応に可愛いらしい所もあるんだぞ。この間も、響の家族のハム蔵を見て『かわいい』って言ってたし」

響「ほんとか!? あいつ、意外といいやつかもな」

P「他にも……」

貴音「あなた様。わたくしの前で、あの娘の話は止めて下さいませんか」
P「……貴音。前々から言っているが、俺はお前とつりあうような男じゃない」

貴音「そうですね。今のわたくしには、あなた様はもったいありません」

P「逆だ! 俺なんかの事は忘れろ! 俺はあのお嬢様に、一生仕える。それが俺の人生だ」

貴音「……償いのつもりですか?」

P「なんだと!?」

貴音「そんなことをしても、誰も喜びません。勿論、水瀬伊織も!」

真美「あの→」

千早「お取り込み中に申し訳ないですけれど、今は萩原さんの件を」

貴音「そ、そうでした。あなた様、萩原雪歩を取り戻すなにかいい知恵を」

P「ない」

貴音「そんな無体な」

P「貴音は、水瀬財閥に続き、萩原組も敵に回すのか?」

貴音「わたくしは、友である仲間に夢を叶えさせてあげたいだけです」

P「だがなあ……事はそう単純じゃない。雪歩お嬢様は萩原組の令嬢で、父親は超カタブツだ。それに……ん? もう時間だな。俺は失礼するぞ」

千早「どこへ行くんですか?」

P「その菊地真に会いに、だ」

亜美「ええ→! なんの為に→?」

P「企業秘密」

真美「ぶ→! けちんぼ」
P「貴音……さっき俺は『事は単純じゃない』って言ったが、逆に言えば単純にしてしまえばいいんだ。それが鍵だ」

貴音「……なるほど、わかりました」

P「なかなか理解が早いな」

去っていくP。

響「貴音、あいつが言ったのはどういう意味なんだ?」

貴音「ふふ……響にわからないものが、わたくしにわかるわけがありません!」

亜美「え→!?」

貴音「ですが、あの方になにやら考えがある様子。わたくし達は、待てば良いのです」
P「待たせたな。レディーの誘いに遅れるとは、失礼をした」

真「そういうこと、言ってくれるのPだけですよ」

P「萩原組は、業種のせいか荒っぽいからな。真が女の子っぽくなると、逆にみんなドキマギするだろうな」

真「ボクが……女の子っぽく?」

P「お? 興味あるなら、やってみるか?」

真「い、いや! ボクの役目はあくまでも、雪歩お嬢様のお世話をすること。そういう意味では、尊敬する先輩格のPには色々と教えて欲しくて」

P「……本日二度目、か」

真「え?」

P「俺なんかを、尊敬とかお手本にはするな」

真「なんでですか?」

P「俺は……尊敬されるような男じゃない」

真「そんな……」

P「例えば、伊織様が敵視している四条貴音に、俺は頻繁に会ってる」

真「! 背信行為じゃないですか!!」

P「そうだな。否定はてきない」

真「きっと何か……そう、伊織お嬢様の為になるから、誤解されてもとか……深い事情があるんですよね?」
P「違う。俺が貴音に会うのは……ただ、会いたいからだ」

真「嘘だ……」

P「あの美しい顔が見たい。眩しい表情に会いたい。輝くような髪が揺れるのをただ眺めたい。それだけだ」

真「……裏切り行為だ」

P「そう言っただろ。秘書なんて体の良い奴隷、今風に言えば社畜だ。夢なんて、ない。いや……あったが捨てた」

真「捨てた?」

P「……喋りすぎたな。まあいい、秘書ってのはそういうものだ。主の為に、全てを捧げる。己の夢でさえもな。真にもそれが、できるのか?」

真「……できるさ」

P「その胸が空っぽになる、それでもか?」

真「お嬢様は、ボクが護る! ボクは雪歩お嬢様の、ナイトだから」
千早「あれから三日経つわね」

真美「兄ちゃん、ちゃんとやってくれてるのかな→」

亜美「うたがわC→よね」

響「そうでもないぞ。ほら、来たみたいだ」

真美「え?」

真「芸能プロダクションっていうのは、もっと派手な所かと思ってたんだけどな」

貴音「菊地真でしたか。ようこそ」

亜美「あれってやっぱり……」ヒソヒソ

千早「あの人が、こうなるように仕向けたんでしょうね」

真美「兄ちゃん、やるな→」

貴音「萩原雪歩は、元気にしていますか?」

真「もちろんだ。ただ旦那様の命令で、外出禁止と厳命されているけどね」

響「真って言ったな! 雪歩を監禁するなんてひどいぞ!!」

真「言葉を慎んで欲しいな。ボクは雪歩お嬢様を堕落させようとする誘惑から、護ってさしあげてるんだ」
響「うがーっ! 雪歩はアイドルになりたいんだ!!」

真「なってどうなる?」

真美「え→? 可愛い衣装を着て→」

真「!」ピクッ

亜美「歌って踊ったら、きっとキャ→キャ→言われるよ」

真「!!」ピクピクッ

千早「そうね。萩原さん、可愛いし」

真「……」ゴクッ

響「? ははーん、わかったぞ! 真、おまえさては雪歩にホレてるな!」

真「……え?」

響「だから雪歩がアイドルになるの、反対なんだろ! そうなんだろ!!」

真「ハア……違う。ボクはただ、雪歩お嬢様に仕える身として……」

貴音「それでは菊地真? あなたには、あなた自身の夢はないのですか?」

真「ボクの……夢?」

不意に真は、口をつぐむ。
響「雪歩に仕えるのが夢なんじゃないのか? それてもやっぱり雪歩と結婚したいとか?」

千早「響、そういう言い方は……」

真「なにか勘違いしてるみたいだけど、まあいいよ。Pも言ってたけど、ボクは……ボクには覚悟がある」

貴音「あの方のように、夢を捨てる覚悟ですか?」

真「……そうだ。ボクは一生、雪歩お嬢様に仕える」

貴音「そして、その胸を空っぽにするのですね」

真「へえ……Pと同じ事、言うんだ」

貴音「真、わたしと賭をしませんか?」

真「賭?」

貴音「ふーどふぁいとで、わたくしが勝ったら雪歩に仕えるのは止めなさい」

真「いいよ、そのフードファイトでボクが勝てば……」

貴音「無論、わたくし達負けを認めて二度と雪歩には近づきません」

真美「ええっ!」

亜美「お姫ちん、それは……」

真「いいよ、そのフードファイトで勝てば認めるんだよね。それと雪歩お嬢様の事も、忘れてもらう」

貴音「そう簡単には、いかないとおもいますけれど」

真「二言は無いからな。じゃあ当日、会場で」

貴音「ええ」
P「というわけで、やはり次の挑戦者は菊地真となりました」

伊織「ま、幼なじみ兼、親同士が主従関係兼、将来の執事候補ですものね。雪歩の地位を護るため、出てきても不思議はないけど」

P「? なにか問題が?」

伊織「菊地真……肝心のフードファイトの方は、どうなのよ?」

P「真は常に、心身を鍛えています」

詩織「質問の答えに、なってないわね」

P「いえ、次の対戦メニューをご覧になられればおわかりになるはずです」

伊織「? これって……」

P「はい。最悪、貴音は全く食べられずに負ける……かも知れません」

伊織「にひひっ! 楽しみね……」
雪歩「どうして……どうしてそうなるの!? なんで真ちゃんが、フードファイトに!」

真「ボクが勝てば、雪歩お嬢様には二度と会わない。そう、約束させました。旦那様もボクが負けるはずは無いと認められて、水瀬グループと約定を交わされました」

雪歩「そんな……私、私は……真ちゃん! もう……もう止めてよぉ。私のために、そんな事、しないで」

真「立場をわきまえてください、お嬢様」

雪歩「……もう、雪歩って呼んではくれないんだね」

真「……そう呼んでいたのは、子供の頃の話です」

雪歩「同じだよぉ。私、真ちゃんは友達だってずっと思っているのに……」

真「人は、いつまでも子供ではいられません。そして、ボクはいつまでもお側にいます」

雪歩「……側にいても、一緒なテーブルでご飯を食べてはくれないよね……」

真「執事や秘書が主と、食事を共にしますか?」

雪歩「昔、真ちゃんも言ってたじゃない。ボクの夢は……」

真「お嬢様!」

雪歩「!?」

真「お嬢様がお嫌でも、ボクはずっとお側で仕えます。お嬢様を、ボクは大好きですから」

雪歩「友達として……ずっと側にいて欲しいよぉ。昔みたいに……」

真「……では、失礼いたします」

雪歩「フードファイト、私も観戦に行くから」

真「わかりました。旦那様に伺っておきます」

雪歩「お父さんが、だめだって言っても行くから」

真「……」
響「自分、なんかあの真って男は気に入らないぞ! なんかいちいちカッコつけているって言うか、キザっていうか……」

貴音「響?」

響「ああいう男は……なんだ? 貴音?」

貴音「菊地真は……女人ではないでしょうか?」

響「え?」

千早「ええ」

真美「真美たちも」

亜美「そう思うな→」

響「ええ? あの菊地真って……女の子なのか!?」

千早「そうでないと、萩原さんがあの真という人に腕を掴まれても人格が変わらなかった説明がつかないわ」

響「あれは……もう雪歩は克服した、とか」

真美「これまでも、ずっと側にいてボディーガードとかしてたんでしょ?」

亜美「あのゆきぴょんが、側に男の人がいて平気なはずないよ→」

響「……うう、う……」

貴音「響?」

響「うぎゃー! 自分、あの真ってやつに失礼な事、言っちゃったぞーーー!!!」

千早「あんまり、気にしていないみたいだったけれど……」

響「うう。そういう問題じゃないぞ、自分もうしわけないぞー!」
フードファイト当日


真美「あ→ゆきぴょんだ! ゆきぴょんだよ!!」

亜美「あいたかったよ→!!!」

雪歩「みんな! 私もですぅ」

貴音「雪歩……息災そうでなによりです」

雪歩「はい。レッスンも一人で続けてますぅ」

千早「そう。じゃあ、またすぐ一緒にできるわね」

真「できるわけないだろう! ボクが勝つ、お嬢様にはアイドルになる事をあきらめてもらう」

伊織「いくら空手のブラックベルトホルダーだからって、フードファイトで勝てるの?」

真「これは、伊織お嬢様。もちろんです、食べますよボクは」

伊織「ふうん……まあ、メニューもあれだし。きっと勝つわね」

真「はい!」

千早「?」
P「じゃあがんばれ、真」

真「P……わかってます」

伊織「? どうしたの? アンタけっこう真に懐かれてたんじゃあ……」

P「嫌われました」

伊織「ふうん……って、アンタ! まさか真に変な事をしたんじゃ……」

P「いえ。それはありません」

伊織「本当に?」

P「はい」

伊織「本当よね?」

P「はい」

伊織「本当に本当よね?」

P「……はい」

響「き、菊地真……」

真「? なに?」

響「ゴメン! この間は自分、真に失礼な事を言っちゃったぞ!!」

真「え!?」

響「真の事を男だって言ったり、その……雪歩の事を好きなんだろうとか……」

真「ああ。この間も言ったけど、別にいいよ……」

響「良くないぞ! 自分、本当に悪いと思って反省してるんだ。この通りだぞ」

頭を下げる、響。
逆に真が慌てる。
真「いいよ、そんな事しなくて! ほら、頭を上げなよ」

響「許して、くれるのかー?」

真「だから、最初から気にしてないって……ふっ、けっこう言われ慣れてるけど……そんな風に謝ってくれた人は初めてかもね。ええと……」

響「自分、我那覇響だぞ。響って呼んでいいぞ」

真「響、ありがとう。ちょっと嬉しかったよ」

響「ああ。自分も、許してくれて嬉しかったぞ」
伊織「ルールの説明をするわよ。今回のメニューは、お煎餅よ」

亜美「せんべ→?」

伊織「浅草から、本格堅焼き煎餅を取り寄せたわ。味は醤油味」

千早「いい香りね」

真美「うん! こうばしいね」

響「だけど、あれ……」

伊織「それとこれは、重要なルール。割って食べるのはいいけれど、マナーに反するような砕いて食べる食べ方は認めないわよ。にひひっ」

貴音「はて? それはどういう意味ですか?」

P「要するに、自分の手で割って食べるのはいい。しかし道具を使ったり、足で踏んだり、テーブルや床にぶつけて砕くような事はNGだ」

貴音「つまり、割るなら手で。そういうことですね?」

伊織「そうよ。割るなら、手。にししっ」

貴音「?」

伊織「じゃあいつも通り、1R10分の3Rよ。ファイト!」
1R開始


最初の一口を、囓ろうとする貴音。
しかし……

貴音「これは……硬いです」

真「堅焼き煎餅……なかなかの硬さだね。でも……」

貴音「大変な美味ではありますが……」

真「ふふん。見てなよ!! 破ッ!!!」

千早「あれは……空手の正拳突き?」

亜美「左手でおせんべ、持って」

真美「右手で正拳突きをして、割っちゃった」

真「うん、こりゃあ美味しいや」

貴音「なるほど……確かに手で割っていますね」

真美「お姫ち→ん! 感心してる場合じゃないよ→!!」

貴音「! そうでした。……か、硬い」

千早「そんなに硬いの? あのお煎餅」

亜美「こりゃ、お姫ちんピンチだよ→!」

響「いいぞ真! がんばれー!!」

真美「……ひびきん? なんで敵を応援してんの→?」

響「え? あ、ああ……そうか、そうだったぞ」
1R終了
貴音: 5枚(100g)
 真:20枚(400g)


伊織「事前の予想通り、圧倒的ね」

P「食べる量では、真は貴音に敵わないでしょうが……あの硬さでは、貴音には食べられないでしょう」

千早「相変わらず、ルールと称して色々と仕掛けてくるわね」

真美「ずるいよ→」

響「すごいぞ! 真ー!!」

亜美「……だから、ひびきんってば→」

雪歩「貴音さん!」

貴音「雪歩、申し訳ありません。こんな体たらくで……」

雪歩「聞いてください! ……」ゴニョゴニョ

貴音「……なるほど」

真「……お嬢様?」
2R開始


真「お嬢様と、何を話していたんだ?」

貴音「菊地真はああ見えて、女の子らしいんだと申してました。

真「なっ……!」

貴音「菊地真も一緒に、あいどるをやってくれないかなあとも」

真「……ボクは、雪歩お嬢様のために……」

貴音「わたくしも、貴女と共にあいどるをしてみたくなりました」

真「……ボクは……負けない」

気合いと共に、真は煎餅を割り続ける。
一方貴音は……

響「なんだ? なにしてるんだ、貴音」

真美「人差し指に、せんべ→のせてる……」

亜美「あ、落っことしそうになったよ」

貴音「雪歩の言った通りですね。えい」

パキ
貴音が両手の親指でお煎餅の一転を押さえると、煎餅は軽い音を立てて割れる。

伊織「ええっ! なにあれ!?」

P「まさか……目、か?」

真美「すごいよ→お姫ちん」

亜美「すごい力!」
響「いいや。あれはたぶん、貴音はお煎餅の弱い所を押したんだぞ」

千早「お煎餅の、弱い所?」

響「うん! お煎餅だって、均一じゃ無い。どこかにムラや、気泡のある部分があるんだ」

雪歩「そうですぅ。難しいけど、貴音さんなら、重心の偏りからわかるかも……って」

真「へえ……やるね!」

貴音「雪歩から教わりました。地面と同じで、力を入れるべきポイントがある、と」

真「雪歩……昔から、砂場遊びで穴掘りとか得意だったもんなあ」

貴音「今、雪歩を呼び捨てにしましたね?」

真「え? あっ!」

雪歩「えへへ。久しぶりに、雪歩って呼ばれたよ、真ちゃんに」

真「……今はとにかく、勝負だ」

貴音「そうですね」

力でお煎餅を割る真、技で割る貴音。


2R終了
貴音:25枚(500g)
 真:35枚(700g)
伊織「これ……どうなるのよ?」

P「……わかりません」

千早「追いついてきてはいる。けれど……」

真美「お姫ち→ん! がんばれえ!!」

響「真、負けるなー!」

真「響……響は貴音の味方じゃないのかい?」

響「う、ん……そうだけど……自分、真の事も好きになったからな。どっちもがんばれだぞ」

真「うん……ありがとう」
3R開始。


相変わらず、力でお煎餅を割り食べていく真。

真「ふう。さすがに疲れ……」

貴音「大変な美味。真もそうは、思いませんか?」

真「な……もう見もしないで、次々にお煎餅を……」

貴音「こつ、をつかんだみたいです。わたくし」

真「そんな……」

お煎餅を、手に取るそばから割ってしまう貴音。

伊織「そんな……そんな事……」

P「目を見極めるとは……」

千早「すごい! すごい追い上げ!」

亜美「いけ→! おっ姫ち→ん!!!」

猛然と追い上げる貴音。

真「このままじゃあ……このままじゃあ……」

真も必死で、お煎餅を割っては口にする。

亜美「あと15秒だよ→!」

響「食べてる枚数は……二人とも55枚だぞ!」

真美「お姫ちん! 急いで!」

真「負けない……負けたくない! 負けたくないんだあああぁぁぁーーーっっっ!!!」
真が最後の力を出そうとした。
その瞬間。

雪歩「真ちゃーん!」

真(? 雪歩? 雪歩の声? そうか、ボクが勝ったら、アイドルになれないんだよね……ごめん、ごめんね雪歩……)

雪歩「がんばって! 真ちゃん!」

亜美「ええ→!?」

千早「萩原さん!?」

雪歩「いいんですぅ。勝って! 勝って真ちゃん!」

真「雪歩……なんで? ボクが勝ったら、雪歩は……」

貴音「決まっています」

真「え?」

貴音「雪歩は真、貴女が好きだからです。理由は、それだけですよ」

真「雪、歩……」

雪歩「がんばって! 真ちゃあーん!!」

最後のひとかけらのお煎餅、菊地真はそれを見つめて笑った。
3R終了
貴音:57枚  (1140g)
 真:56.5枚(1130g)


P「伊織様!? どこへ……」

真美「勝った……んだよね?」

亜美「でも→ゆきぴょん……」

雪歩「ごめんね、みんな。私のために勝負してくれたのに、その私が敵の真ちゃんの応援なんかして」

千早「ううん。気持ち、わかるわ。友達……いいえ、親友なのよね?」

雪歩「はいですぅ」

伊織「ちょっと、どうゆう事よ! どうして最後、あのひとかけらを口に入れなかったのよ! 負けるにしても、あんな負け方は許さないわよ!!」

真「雪歩は……ボクが負ければ、アイドルに……夢が叶えられるのにボクを応援してくれた」

伊織「はあ!?」

真「自分の夢より、ボクを……それが……それがわかったら、ボク……」ボロボロ

伊織「……」

真「お腹はまだ食べられたけど、胸がいっぱいでもう……食べられなかったよ……」
P「真には、胸を空っぽにするのは無理だな。そして、夢も捨てられない」

真「……はい。ボクは、あなたみたいにはなれません」

P「じゃあ夢を追え、親友と一緒に」

真「いいのかな? 貴音……さん?」

貴音「わかっております。菊地真も、本当は可愛い衣装を着て歌ったり踊ったりしたいのでしょう?」

コクリ。
真は頷いた。

響「え? じゃ、じゃあ真も765プロに入るのか? 一緒にアイドルするのか?」

雪歩「いいの? 本当に一緒にやってくれるの? う、嬉しいよぉ」ポロポロ

千早「嬉しいわ。また、仲間が増えたわね」

真美「え? あ、うん……じゃあ真だから」

亜美「まこちん! よろしくね→まこちん」

真「うん! よーし、じゃあボクも力とパワーでアイドルがんばるぞー!!!」

真と雪歩が、手を握り合う。
伊織「……なにが友達よ。なにが親友よ!」

P「? お言葉ですが、伊織様にも親友はおいででは……」

伊織「アンタ、それ以上何かしゃべったら許さないわよ」

P「……?」

伊織「いいわ。とっておきの対戦相手、あの娘達に用意してあげる。Pちゃん、至急パリの水瀬総合フーズ支社に連絡をとって」

P「パリ? では……あの娘を……?」

伊織「食べる量とか、技術とかそんなものとは無縁の戦いをあの貴音達にプレゼントするわ」

伊織は薄く笑った。

伊織「絶対に勝てない戦いを、ね」
5日後

雪歩「パワフル乙女チック、とかどうかなぁ?」

真「うーん、もう少し可愛らしいキャッチコピーがいいなあ」

千早「……ふう」

響「? どうした千早」

千早「あ、ううん。親友同士って、いいなあ……って」

響「特に仲がいいもんな、真と雪歩は。あ、これ手紙だぞ」

千早「エアメール? もしかして……やっぱり!」

貴音「どうしたのですか? 千早」

千早「私の親友が、フランスから帰ってくるんです! ああ、嬉しい」


第6話 おわり
次回予告


さて、次回の挑戦者は!?

春香「久しぶりの日本……うーん、本当に空気がお醤油の香りするんだ」

貴音「あなたが、千早の親友なのですね。確か名前は……」

挑戦者『天海春香』

春香「お菓子とかスイーツなら、任せてよ! こう見えても自信、あるんだから」

千早「天才って呼ばれたパティシエの腕、さらに磨いてきたのね。フランスで」

そして……

真「天海春香は、水瀬総合フーズの人間だよ。ボクは見た事もある」

千早「嘘。嘘……よね? みんなで私を騙して……からかってるのよ、ね? ねえ?」

伊織「春香は、特異体質の持ち主よ。絶対に、勝てないわ貴音。まあドクターは用意してあるから、安心しなさい」

対戦メニューは!?

貴音「なんという甘さ! まさしく甘露ですわ!! 感激です」

春香「そう言ってられるのも、今のうちだよ? この甘味が、すぐに苦しさに変わるんだから」

次回『羊羹対決!』 お楽しみに
一旦ここで、とまります。
またまた間が空きました。
がんばって、完結させたいと思っています。

08:16│四条貴音 
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