2013年11月11日
P「企画名:アイドルマスター短編集」
内容
>>1がアイドルマスター短編を書く。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1347558864
>>1がアイドルマスター短編を書く。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1347558864
「家無き伊織」
もう十年も前になる。
当時新人プロデューサーだった俺は担当アイドルを送り届け、いざ自分も帰ろうとした夜道。
そこには兎みたいに小さく縮こまった、3〜4歳の女の子がいた。
これが俺と「いおり」の出会いだった。
伊織「ほら朝よ、さっさと起きなさい」
2LDK、お世辞にも広いとは言えないこの空間が私の住むお城。
P「あー……おはよう伊織」
伊織「おはよう」
そして目の前にいる布団の中で冴えない顔をしているのが、私の……唯一の家族。
伊織「ご飯出来てるから、さっさと食べないと遅刻するわよ」
アイツは欠伸をしながら着替えを始めた。相変わらずデリカシーが無いと思いつつも、いちいち怒るのもめんどくさいので「変態」と呟いて部屋を出た。
少女は迷子だった。
幼いその言葉から得られる情報は少なく、名前は「いおり」で名字は不明。そして家族とはぐれて気づいたらここに居たとのこと。
夜遅く、交番や警察署も遠い。
なにより少女の身心は弱っており、俺はとりあえず自分の家で彼女にご飯を食べさせることにした。
朝になったら警察に行こう。
それで終わると思っていた。
P「おいおい、またパスタかよ……」
伊織「文句があるなら食べなければいいでしょ!安い、早い、旨いに文句があるならね!」
「「いただきます」」
アイツの向かいに座ってパスタを食べる――やっぱりいい出来じゃない、伊織ちゃんは今日も絶好調ね。
そういえば、あの日に食べたのもパスタだったわ。
今でも思い出すことができる――アイツに拾われて、アイツのパスタを食べて、アイツと一緒に寝て、アイツと一緒に警察へ行って……
P「じゃあ行ってくるな伊織、鍵ちゃんと閉めておけよ」
伊織「え!もう?」
見ると私の目の前にはこんもりのパスタ、そのさらに前には空っぽの皿。
ボーっとするなんて、私らしくないわね。
伊織に捜索願いは出されていなかった。
まだ家族も混乱しているのかもしれないと思い、警察に伊織を預けて会社へ行った。
少し早く退社した俺はもう一度警察へ足を運び、そこでまた泣いている兎を見つけるのだ。
警察「住所と連絡先は分かったので、そちらで預かっていてもらえませんか?」
一週間経っても、俺の家から兎が消えることはなかった。
伊織「……土曜日は暇ね」
掃除も、洗濯も終わるとやることがなくなる。学校の勉強は完璧なのでやる必要はない、趣味もない。
伊織「寂しい女ね……」
いや、寂しいことなんてない。
私は十分に満ち足りている。
あの時、施設に入れられそうだった私をアイツは引き取ってくれた。
見ず知らずの私を。
伊織「まあ、超絶可愛い伊織ちゃんだものね」
いや、アイツだから。アイツは優しいから。
伊織「……あ」
アイツは優しいけど、ちょっと抜けている。
伊織「伊織ちゃんお手製の弁当を忘れるなんて、何事よ」
引き取ってから数ヶ月、彼女の両親は見つからなかった。
引き取ってから一年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は保育園の演劇で主役をやった。
引き取ってから二年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は小学生になった。
引き取ってから三年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は自転車に補助輪無しで乗れるようになった。
引き取ってから四年、彼女の両親は見つからなかった。彼女がインフルエンザがかかり一大事だった。
引き取ってから五年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は合唱コンクールで金賞をとった。
引き取ってから六年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は家事が上手になった。
引き取ってから七年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は少し俺に厳しくなった。
引き取ってから八年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は中学生になった。
引き取ってから九年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は恋をしているようだ。
伊織「邪魔するわよ」
765プロ、子どもの頃から通っているけど、未だに事務所が大きくなることはない。
売れてないわけでは無いのに、不思議なものね。
小鳥「あら伊織ちゃん。パパなら今外に出てるわよ?」
伊織「知ってるわよ小鳥、ただ弁当届けに来ただけだから」
雪歩「あ、伊織ちゃん。今すぐお茶出しますね」
伊織「いいわよ雪歩、私すぐ帰るから」
春香「まあまあそう言わずに、クッキーもあるよ?」
伊織「……そこまで言われたなら、無碍にするわけにもいかないわね」
私はここで四番目の古株(社長、アイツ、小鳥、私)、先輩というかマスコット扱いなのは少々気に入らないけど……ま、アイドルじゃないし。
少し話をして、帰った。
アイツは結局外で食べたらしい、ムカついたから弁当を小鳥に施してやったわ。
彼女をどうするか。
結論は出ている。
家に帰って再放送のドラマと、色彩効果バツグンのアニメと、765プロが誇るアイドル達の活躍を見た後。
P「ただいま」
アイツが帰ってくる時間。
伊織「おかえり」
自分が、孤独でないと感じる時間。私はやっぱり、満ち足りていて幸せだ。
そんなことアイツには絶対言ってやらないけど。
伊織「もうご飯できてるけど、どうするの?お風呂はすぐ用意……」
P「伊織」
なによ。
P「話がある」
いおり「ママ、どこいっちゃったの?」
……わからない。
いおり「ママ、私のこと嫌いになっちゃったの?」
……そんなことはない。
いおり「ママ、迎えにきてくれる?」
……ああ。
もちろんだ。
P「なあ伊織、本当の家族に会おう」
伊織「……嫌よ」
P「考えてきたんだ、伊織を家族に会わせる方法を!」
伊織「……嫌よ!家族ならいる!アンタがいる!アンタだけがいれば!」
伊織「あんな最悪な家族なんていらない!」
伊織「水瀬なんていらない!」
十年前。
私は水瀬を家出した。
好奇心だった、自分がいなくなったらあのパパとママはどんな顔をするだろうか。
泣きマネをして、不幸せそうな顔をした男を騙して、不味いパスタを我慢して、汚い寝床で休み、やたら長い道を歩いて警察まで行った。
ママ、ママと手を繋ぐ男を困らせるような質問をいくつもした。
親子感動の再開(しかもあの有名な水瀬家のお嬢様)をよりドラマチックにするための、ありとあらゆる準備をしたわ。
そして、私は人生に絶望した。
私に向けられていたのは愛ではなく、私は家族ではなかった。
私はアイツらの人生を華やかにするための飾りでしかなかったの。
そして私は、私がいかに無力かを、いかにアイツらに生かされていたかを知った。
孤独な私は、なにもできなかった――兎は寂しいと死ぬ。
私は死にかけていた。
私を救ってくれたのは。
P「すいません、あの子を引き取ることってできませんかね?」
アイツだった。
私は全部を話した。
なにもかもを、そして懇願した。
伊織「家族にしてぐだざい」
涙や鼻水やらで汚れた私の前に差し出されたのは。
P「とりあえず、食べなよ」
不味いけど、あったかくって、今でも私の大好物のパスタだった。
そして。
P「食べたら、服を買いに行こう。それから布団や、歯ブラシ……いっぱい必要になる」
私は満たされた。
彼だけが家族で、そして世界で、私のすべてになった。
だから――
伊織「私はあんな家族のとこへ戻りたくない!アンタだけがいれば――私は何にもいらない!」
告白した。
憎悪も、愛情も、包み隠さず。
P「伊織」
アイツは涼しい顔で私を見ている。
捨てられちゃうのかな。
嫌だな。
嫌だ――
P「俺だって、伊織を渡す気なんてないさ」
伊織「……え?」
P「十年間、家族を始めてから一度たりともお前を手放す気なんてない。嫁にも出さん」
そんな言葉に顔が赤くなる。
P「伊織」
アイツは鞄から紙を一枚取り出した。
P「復讐をしよう」
765プロダクションアイドル契約書。
伊織「これって――」
P「お前は自慢の娘だ」
P「そんなお前が、わざわざ会いに行く必要は無い」
P「後悔させて謝りに来させるんだ、水瀬を」
P「歴史上類を見ず、前人未到の域を超えるトップアイドルになった――伊織に」
P「俺が、プロデュースしてやる!」
最後の言葉はズルいんじゃない?
だって私――
伊織「アンタを、信じているから――」
引き取ってから十年、家族は見つからない。伊織はアイドルになった。
これは後に歴史に刻まれることなるアイドル伊織と、それを支えた家族の物語である。
「家無き伊織」完
こんな感じの短編を書くぺろ、いおぺろ。
不定期ぺろ。
もう十年も前になる。
当時新人プロデューサーだった俺は担当アイドルを送り届け、いざ自分も帰ろうとした夜道。
そこには兎みたいに小さく縮こまった、3〜4歳の女の子がいた。
これが俺と「いおり」の出会いだった。
伊織「ほら朝よ、さっさと起きなさい」
2LDK、お世辞にも広いとは言えないこの空間が私の住むお城。
P「あー……おはよう伊織」
伊織「おはよう」
そして目の前にいる布団の中で冴えない顔をしているのが、私の……唯一の家族。
伊織「ご飯出来てるから、さっさと食べないと遅刻するわよ」
アイツは欠伸をしながら着替えを始めた。相変わらずデリカシーが無いと思いつつも、いちいち怒るのもめんどくさいので「変態」と呟いて部屋を出た。
少女は迷子だった。
幼いその言葉から得られる情報は少なく、名前は「いおり」で名字は不明。そして家族とはぐれて気づいたらここに居たとのこと。
夜遅く、交番や警察署も遠い。
なにより少女の身心は弱っており、俺はとりあえず自分の家で彼女にご飯を食べさせることにした。
朝になったら警察に行こう。
それで終わると思っていた。
P「おいおい、またパスタかよ……」
伊織「文句があるなら食べなければいいでしょ!安い、早い、旨いに文句があるならね!」
「「いただきます」」
アイツの向かいに座ってパスタを食べる――やっぱりいい出来じゃない、伊織ちゃんは今日も絶好調ね。
そういえば、あの日に食べたのもパスタだったわ。
今でも思い出すことができる――アイツに拾われて、アイツのパスタを食べて、アイツと一緒に寝て、アイツと一緒に警察へ行って……
P「じゃあ行ってくるな伊織、鍵ちゃんと閉めておけよ」
伊織「え!もう?」
見ると私の目の前にはこんもりのパスタ、そのさらに前には空っぽの皿。
ボーっとするなんて、私らしくないわね。
伊織に捜索願いは出されていなかった。
まだ家族も混乱しているのかもしれないと思い、警察に伊織を預けて会社へ行った。
少し早く退社した俺はもう一度警察へ足を運び、そこでまた泣いている兎を見つけるのだ。
警察「住所と連絡先は分かったので、そちらで預かっていてもらえませんか?」
一週間経っても、俺の家から兎が消えることはなかった。
伊織「……土曜日は暇ね」
掃除も、洗濯も終わるとやることがなくなる。学校の勉強は完璧なのでやる必要はない、趣味もない。
伊織「寂しい女ね……」
いや、寂しいことなんてない。
私は十分に満ち足りている。
あの時、施設に入れられそうだった私をアイツは引き取ってくれた。
見ず知らずの私を。
伊織「まあ、超絶可愛い伊織ちゃんだものね」
いや、アイツだから。アイツは優しいから。
伊織「……あ」
アイツは優しいけど、ちょっと抜けている。
伊織「伊織ちゃんお手製の弁当を忘れるなんて、何事よ」
引き取ってから数ヶ月、彼女の両親は見つからなかった。
引き取ってから一年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は保育園の演劇で主役をやった。
引き取ってから二年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は小学生になった。
引き取ってから三年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は自転車に補助輪無しで乗れるようになった。
引き取ってから四年、彼女の両親は見つからなかった。彼女がインフルエンザがかかり一大事だった。
引き取ってから五年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は合唱コンクールで金賞をとった。
引き取ってから六年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は家事が上手になった。
引き取ってから七年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は少し俺に厳しくなった。
引き取ってから八年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は中学生になった。
引き取ってから九年、彼女の両親は見つからなかった。彼女は恋をしているようだ。
伊織「邪魔するわよ」
765プロ、子どもの頃から通っているけど、未だに事務所が大きくなることはない。
売れてないわけでは無いのに、不思議なものね。
小鳥「あら伊織ちゃん。パパなら今外に出てるわよ?」
伊織「知ってるわよ小鳥、ただ弁当届けに来ただけだから」
雪歩「あ、伊織ちゃん。今すぐお茶出しますね」
伊織「いいわよ雪歩、私すぐ帰るから」
春香「まあまあそう言わずに、クッキーもあるよ?」
伊織「……そこまで言われたなら、無碍にするわけにもいかないわね」
私はここで四番目の古株(社長、アイツ、小鳥、私)、先輩というかマスコット扱いなのは少々気に入らないけど……ま、アイドルじゃないし。
少し話をして、帰った。
アイツは結局外で食べたらしい、ムカついたから弁当を小鳥に施してやったわ。
彼女をどうするか。
結論は出ている。
家に帰って再放送のドラマと、色彩効果バツグンのアニメと、765プロが誇るアイドル達の活躍を見た後。
P「ただいま」
アイツが帰ってくる時間。
伊織「おかえり」
自分が、孤独でないと感じる時間。私はやっぱり、満ち足りていて幸せだ。
そんなことアイツには絶対言ってやらないけど。
伊織「もうご飯できてるけど、どうするの?お風呂はすぐ用意……」
P「伊織」
なによ。
P「話がある」
いおり「ママ、どこいっちゃったの?」
……わからない。
いおり「ママ、私のこと嫌いになっちゃったの?」
……そんなことはない。
いおり「ママ、迎えにきてくれる?」
……ああ。
もちろんだ。
P「なあ伊織、本当の家族に会おう」
伊織「……嫌よ」
P「考えてきたんだ、伊織を家族に会わせる方法を!」
伊織「……嫌よ!家族ならいる!アンタがいる!アンタだけがいれば!」
伊織「あんな最悪な家族なんていらない!」
伊織「水瀬なんていらない!」
十年前。
私は水瀬を家出した。
好奇心だった、自分がいなくなったらあのパパとママはどんな顔をするだろうか。
泣きマネをして、不幸せそうな顔をした男を騙して、不味いパスタを我慢して、汚い寝床で休み、やたら長い道を歩いて警察まで行った。
ママ、ママと手を繋ぐ男を困らせるような質問をいくつもした。
親子感動の再開(しかもあの有名な水瀬家のお嬢様)をよりドラマチックにするための、ありとあらゆる準備をしたわ。
そして、私は人生に絶望した。
私に向けられていたのは愛ではなく、私は家族ではなかった。
私はアイツらの人生を華やかにするための飾りでしかなかったの。
そして私は、私がいかに無力かを、いかにアイツらに生かされていたかを知った。
孤独な私は、なにもできなかった――兎は寂しいと死ぬ。
私は死にかけていた。
私を救ってくれたのは。
P「すいません、あの子を引き取ることってできませんかね?」
アイツだった。
私は全部を話した。
なにもかもを、そして懇願した。
伊織「家族にしてぐだざい」
涙や鼻水やらで汚れた私の前に差し出されたのは。
P「とりあえず、食べなよ」
不味いけど、あったかくって、今でも私の大好物のパスタだった。
そして。
P「食べたら、服を買いに行こう。それから布団や、歯ブラシ……いっぱい必要になる」
私は満たされた。
彼だけが家族で、そして世界で、私のすべてになった。
だから――
伊織「私はあんな家族のとこへ戻りたくない!アンタだけがいれば――私は何にもいらない!」
告白した。
憎悪も、愛情も、包み隠さず。
P「伊織」
アイツは涼しい顔で私を見ている。
捨てられちゃうのかな。
嫌だな。
嫌だ――
P「俺だって、伊織を渡す気なんてないさ」
伊織「……え?」
P「十年間、家族を始めてから一度たりともお前を手放す気なんてない。嫁にも出さん」
そんな言葉に顔が赤くなる。
P「伊織」
アイツは鞄から紙を一枚取り出した。
P「復讐をしよう」
765プロダクションアイドル契約書。
伊織「これって――」
P「お前は自慢の娘だ」
P「そんなお前が、わざわざ会いに行く必要は無い」
P「後悔させて謝りに来させるんだ、水瀬を」
P「歴史上類を見ず、前人未到の域を超えるトップアイドルになった――伊織に」
P「俺が、プロデュースしてやる!」
最後の言葉はズルいんじゃない?
だって私――
伊織「アンタを、信じているから――」
引き取ってから十年、家族は見つからない。伊織はアイドルになった。
これは後に歴史に刻まれることなるアイドル伊織と、それを支えた家族の物語である。
「家無き伊織」完
こんな感じの短編を書くぺろ、いおぺろ。
不定期ぺろ。
18:15│アイマス