2013年11月12日

拓海「アタシの聖地」

ガタンッ

?「ハイ、このジュース当てて冷やしといた方が良いよ」

拓海「……悪い」


?「怪我は大したことないけど痕は残ると思う……女の子だからメイクで隠せるから大丈夫だね」

拓海「なぁ、なんで助けてくれたんだ?下手したらお前も巻き込まれてたかも知れねぇ……ケンカするって面にもみえねぇしよ」

?「ああいう人達にはなれてるんだ。それに街のあるべき姿は理不尽と暴力ばかりじゃない……それを知ってるからこそ見過ごす事はできなかった」
 


 思わず息を飲んだ


 優男にしか見えない


 目の前の男の雰囲気は
 今まで出会った誰よりも


 研ぎ澄まされた雰囲気に包まれていた。


 
拓海「……」

?「街は僕にとっての聖地だ……光も闇も知ったからこそ素晴らしい場所だったと胸を張って言える。だからこそ、今居る人達には絶望と失意で去る様な事をしては欲しくない」

拓海「アタシは……別にこの街に思い入れなんか……」

?「でも、この街に居場所がある」

拓海「……なんで、他人のアンタにそんなこと」

?「なんとなくかな。大事にすると良いよ……誰もが得られるものじゃない」

拓海「……アタシの聖地」

?「居場所と聖地は違う。暗闇と光、痛みと優しさ、色々な物がない交ぜになってる場所……そこにはいつまでもいられない……だから強く胸に刻まれる」
拓海「なんで……いつまでもいられないんだ?大事な場所なんじゃねぇのか?」

?「君もいつか気付くよ……1つだけ言うとするならいつの間にか空は広くなっているんだ」

拓海「さっぱりわかんねぇよ……アタシにはわかんねぇよ……」

?「……だったら君はまだ聖地の中にいる」

拓海「…………」

?「それじゃあ……僕は行くよ。気をつけて帰ってね」スタスタスタ

拓海「……聖地ってなんだよ」

拓海「いつか気付くっていつだよ……なんもできねぇアタシに何が気づけるんだよ」
―― 事務所

P「不良狩り……不良狩り……あった」

P「下北不良狩り伝説……ただのイジメられっこだった高校生の快進撃。最初は不良から逃げるための手段だった」

P「いつの間にか柔道家、空手家、剣道、ボクシング、総合格闘技などの武道経験者と一対一の所謂タイマンを繰り返す事になる」

P「当初は不良の標的だったが繰り返されるストリートファイトの高揚感とタイマンを繰り返す度に成長していく不良狩りの姿に不良少年達は畏怖と尊敬の念を込める様になってくる」
P「路上のカリスマと言われた伊沢マサキとの交友関係にあった事も要因としてあげられるだろう……」

P「伊沢マサキって総合格闘技のチャンピオンの!?え、伊沢マサキとも戦ってるのか!!」

P「イジメられっこのサクセスストーリー……まるで漫画か小説みたいだ……ええっと、不良狩り"神代ユウ"は伊沢マサキの街引退と共に街から姿を消した……彼の行方を知る者はいない」

P「神代ユウ……タイプは違うが拓海と同じく屈折した青春を送っていった……いや、彼の方がもっと鈍く痛みを伴う物だったかも」

P「……彼なら拓海に未だにしつこく絡み付く鎖をほどいてくれるかも」
―― 翌日

P「ちょっと出かけて来ます」

ちひろ「今日は事務作業だけじゃありませんでしたか?」

P「実はある人にアポをとってあるんです!もしかしたら拓海の問題の解決になるかも」

ちひろ「もしかして昨日話してた不良狩りとか言う」

P「手掛かりになるかもしれない人です」

ちひろ「プロデューサーさん……わかってると思いますが暴力的なものは」

P「わかってますよ?その……精神的にも拓海を救う光になるかもしれないんですよ」

ちひろ「ふふ、拓海ちゃんは幸せ者ですね」

P「幸せになって欲しいんですよ……屈折した日常だけが全てじゃないと骨の髄まで知って欲しいんです」
P「えっと、伊沢マサキさん……ですか?」

伊沢「あなたがアイドル事務所の?」

P「ええ、プロデューサーをやってる者です。今回はお忙しいなかありがとうございます」

伊沢「神代ユウの事を聞きたいと言う事じゃ無ければ応じませんでしたよ……アイドルとは無縁の世界に居ますからね」

P「アハハ、確かに……それでさっそくなんですが」

伊沢「その前に、あなたはなぜ神代と関わりを持とうと思ったんですか?もし、アイツの過去を知り何か面白がってるとするなら俺は許しません」
P「面白がってるわけではありません……ただ、彼の存在が弊社のアイドルを新しい世界に導くのではと」

伊沢「それはアイツがすることではなくあなたがすべき事では?それにアイツは確かに闇の中から光を求め傷つき苦しみながら手を伸ばした……だからと言って強いわけじゃない……俺と一緒で弱いからこそいらない傷をおってもがいた」

P「…………」

伊沢「神代ユウは与えられこそすれ与える様な人物じゃない……何もなかったんだ……居場所も友達も幸せも……今は人並みだとしてもそれでも神代ユウにはまだまだ足りない……もっと得て良い人間なんだ」
伊沢「失礼しました……アイツの事となると……俺にとってもアイツが居た場所は聖地なんです」

P「いいえ……私はきっと小説の様に思っていたのかもしれません……そこには痛みが伴った現実があったんですね」

伊沢「人それぞれですけど……どうしようもない苦しみや痛みを背負った人間がいて……迷い、足掻く……その偶像が不良狩りであり神代ユウです。誰しもが神代ユウであるとも言える」

P「……誰しもが」

伊沢「すいません……そろそろトレーニングの時間なので」

P「いいえ……ありがとうございました」

伊沢「神代ユウは必ず俺達の世界に現れる。だから、俺はアイツの行方を知らなくても構わない……これがあなたが気になっていた答えです」
P「俺は……身勝手だったのかもな……」

P「ん?まさか!?」タッタッタッ

P「神代さん!神代ユウさんですか!?」

神代「あなたは……確かこの間の」

P「先日は助けていただいてありがとうございました」

神代「いえ、礼を言われる様な事は……」

P「いいや……あなたに助けてもらわなければ……実は、先ほど伊沢マサキさんにあなたの事を聞いていたんです」

神代「伊沢さんに!?」

P「えぇ……僕はアイドル事務所でプロデューサーをやってるのですが問題が起きまして身勝手ながらあなたに助けていただけないかと」
P「……だけど、それはできません。俺は……俺の考えは浅はかだった」

神代「誰しも自分の事に必死で……迷い、間違い、足掻く……それは過ちではないですよ」

P「……実は、うちのアイドルにやんちゃをしてたアイドルがいまして……昔の因縁に悩まされているんです」

神代「だいたいわかりました……だけど、僕は街から退いた身だ……それに出来ることなんてたかがしれてる」

P「……わかってます。僕はあなたをヒーローか何かと勘違いしていた……だけど、違う。あなたは誰よりも自分に向き合って歩き出した一人の人間だ」

神代「そう……ちっぽけな……だからこそ自分のする事は自分で決める。僕の道はそうやって選んで来たから」
Prrrrrrr

拓海「ハイ」

総長『拓海……ごめん、下手うった』

拓海「総長!?」

チンピラ『拓海ちゃん聞いたー?と言う事で来ないと大事なお友達が酷い目にあっちゃいまーす!早く来てね?○×倉庫で待ってるから』ピッ

拓海「クソッ!……全部アタシのせいじゃねぇかよ……迷惑かけてばっかで間違いだらけだ……」

拓海「プロデューサー……ごめん。せっかく引っ張ってくれたのに裏切る事になるな……本当にごめん」タッタッタッ
―― ○×倉庫

チンピラ「まだかなー?」

不良「遅いっすねーコイツら先にヤっちゃいましょうよー」

チンピラ「お前らは猿かwwwもうちょい我慢しろってー」

ブゥゥゥゥン

チンピラ「お、来たみたいだねぇ」

拓海「総長!!」

チンピラ「総長ちゃんにはちょっと眠ってもらってまーす」

拓海「テメェ……」

チンピラ「君が大人しく拉致られてくれてればこんな事にならなかったんだよ?」

拓海「今さら昔の因縁ほじくり返しやがって……」

チンピラ「昔の因縁?ばーか!!別にそんなんじゃなくって元レディースアイドルの拓海ちゃんと遊びたかっただけですぅ」
拓海「……なにすれば良い」

チンピラ「わかるっしょ?服を脱いで〜俺の上でケツ振ってくれりゃ良いんだよ〜」

拓海「……わかった」

P「拓海!!」ハァハァ

拓海「プロデューサー!?なんでここに!」

P「ちひろさんがお前と連絡つかないって言うから……それにアイドルに万が一の事があったらって思ってGPS機能を使えるように準備してあるんだ」

チンピラ「あーあ、なんだー彼氏いたんだーつまんねー……あ、でも彼氏の前で拓海ちゃんが姦されるのも面白いかも」

P「……拓海さがってろ」

拓海「プロデューサー!!」
チンピラ「なになに?ケンカしちゃうー?いいよ!ケンカしよう」

P「……お願いします!俺はどうなっても良いから拓海だけは逃してください」

チンピラ「ひゃひゃひゃ!土下座かよーカッコイイなぁ〜でもダメーダメったらダメー」

P「……お願いします!お願いします!!」

不良「チンピラさんがダメって言ってるのが聞こえねぇのかよ」バキッ

P「うぐッ……お願いしますから……」

拓海「プロデューサー……ごめんな……本当にごめんな」ポロポロ

P「拓海は悪くない……誰だって間違ったり迷ったりする……だけどそれに向き合って前に進むんだ……傷を追って苦しんでも……俺はそんなお前に手を差しのべる義務がある」
チンピラ「カッコイイ!でもダメ〜俺もう我慢出来ないから拓海ちゃんをレイプしま〜す!!おっと、言う事きかないと彼氏と総長ちゃんが痛い目に合うからねぇ」

拓海「……わかってる」

P「拓海!やめるんだ」

不良「おめぇは黙ってろ!」ドスッドスッ

P「……うぐっ」

拓海「……アタシは居場所を失うんだ……アタシには聖地なんて」

神代「君が苦しんで傷ついて足掻いてるこの場所こそ君の聖地だ……いや、足掻いていたかな」

チンピラ「まーた、彼氏登場かよ……拓海ちゃんビッチ疑惑ですかぁ?」
拓海「あ、あんたは……昨日の」

P「神代さん、来てくれたんですね」ポロポロ

神代「君は聖地から卒業する時が来たんだ……新しいステージへ進む時が」

神代「君の居場所は彼がいる場所……その場所を大事にするために君が光を求めて痛みをおったこの場所を忘れてはいけない」

不良「うるせぇ野郎だな!死ねッ!!」

神代「僕も同じ思いを抱いて足掻いた……だからこそ、君の道を開く手助けをさせてほしい」シュッ

不良「ぐあっ」ドサッ

拓海「一撃!?つうかパンチが見えなかった……」
神代「久しぶりだな……この感覚は……」

チンピラ「なんだよ〜どいつもこいつも邪魔してさぁ〜……つーかお前誰だよ〜」

神代「神代ユウ……君たちがかつて不良狩りと呼んでた人間だ」

チンピラ「不良狩り……マジで?ひゃひゃひゃあのホラ話を信じてんのかよ!ウケる〜まぁ、いいや……自分が強いとか勘違いしてるヤツにボクシングやってた僕ちんが世間の厳しさ教えてあげまーす」シュッ

神代「遊ぶつもりはない……」スパンスパンバキッ

チンピラ「」ドサッ

拓海「不良狩り……ってマジかよ」

P「すげぇ……本当に全部あの話の通りだったんだ……」
不良「マジで……不良狩りかよ……こ、殺されるー!!」タッタッタッ

P「ハハッ……助かった……」

拓海「プロデューサー!」

神代「無理に動かさない方が良い……アバラが折れてる可能性があるし頭にダメージが来てたら大変だ」

P「……神代さん、ありがとうございます」

神代「喋らないでください……救急車と警察を呼びましょう」

P「あ……警察には」

神代「わかってますよ?僕がなんとか上手く言っておきます」
神代「よし……後で病院に見舞いに行ってあげると良いよ」

拓海「あ、うん……それにしても警察はおせぇなぁ」

神代「警察は呼んでない……実は、ここに来る時に昔の知り合いに会って頼まれたんだ……身内だから身内だけでケリをつけたいって」

拓海「その知り合いって」

神代「もう僕たちが関わる事はない……だけど僕たちがいるこの世界には必ず居る様な人だ」

拓海「……その」

神代「帰ろうか……送って行くよ」

拓海「あ、ああ……」
―― ○×倉庫

?「起きろ」ガシッ

チンピラ「……あ、俺は」

?「神代にやられたんだ記憶を飛ばすのも仕方ねぇとはおもうけどなぁ」

チンピラ「よ、吉井さん!?な……なんで!組にはバレてないはずなのに」

吉井「テメェの身勝手で手間とらせんなよ……組にはバレ出なかったから良いけどよ?」

チンピラ「す、すいません」

吉井「別に良いんだぞ?ガキの面倒見んのは俺の役目だからよ……ただ、神代ユウがでばって来たんじゃ話は別だ……テメェは最低限の掟を守れてねぇんだよ分かるか?」

チンピラ「掟……?」

吉井「つまり俺のメンツとプライドに泥塗ったってこったよ!詫びいれてもらうぞコラァ」

チンピラ「ゆ、許して……許してッ!!」
拓海「……あの不良狩りって」

神代「昔とった杵柄ってヤツかな?街を卒業した今、その名で幅をきかせるつもりもないし僕にとっては忌むべきであり宝物なんだ」

拓海「……すげぇ、本当に居たのかよ」

神代「僕は特別な人間じゃない……街を行く人達となんら変わりない普通の人間だよ?君だってそうだ」

拓海「なぁ、聖地ってなんだ?居場所って……アンタはあの倉庫がアタシの聖地って言ったけど」

神代「聖地は誰もが居たことがある場所さ……時や位置は違うけど誰もが感じる場所」
神代「恐怖、悲壮、苦痛、快楽、屈託、憤怒、様々な感情の中で迷い戸惑いそれでも眩しい何かを求め続ける……そこにはもちろん素晴らしい出会いや出来事もある」

拓海「……それが聖地」

神代「そう……子供時代と大人時代の狭間、無力と苦痛に嘆き喜びと憧れに包まれる場所……それを僕は"ホーリーランド"と言ってる」

拓海「……あ」

神代「君にだって覚えがあるだろう?そして君は聖地から抜け出そうと一歩を踏み出して……今日、卒業したはずだ」

拓海「アタシの聖地は……やんちゃしてたチーム、いろんな思いを抱えて後悔すら与えてくる場所」
神代「そして、君は居場所を新しいステージに選んだ」

拓海「そっか……アタシはあそこに居たかったんだ……」ポロポロ

神代「もう、大丈夫だね?僕も戻らなくちゃ……道の上で友達が待ってる」

拓海「あ、あのさ……」




拓海「アタシを……プロデューサーを助けてくれて……ありがとう」

神代「僕の方こそありがとう……かつての思いを改めて見つめ直した……僕はやっぱりいつまでもここを忘れない」
 


 不良狩りは、神代ユウはアタシの前から消えた。


 突然現れて、突然消えたあの人は、もしかしたらアタシの気づいていなかった答えなんじゃないか

 神代ユウはアタシの中に返ったそんな気さえする


 
拓海「プロデューサー」

P「おッ!!早く早く!」

拓海「な、なんだよ!アタシは見舞いに来ただけで……」

P「なんだ、お前知らないのか?ほれ!」

拓海「格闘技関係者騒然……神代ユウ電撃デビュー戦!?マジかよ!!」

P「いつか神代さんの試合一緒に見に行こうな?」

拓海「だ、だったらよ……アタシがトップアイドルになってVIP席に座れるようにしてやるよ……」

P「アハハ、期待してるよ?あ、始まるぞ!!」

拓海「ちょっとッ!!そこにいたら見えねぇだろ」


 ―― 大人時代と子供時代の狭間にその場所はある


 誰しもが胸に秘めて、忘れない


 "ホーリーランド"


おわり
ホーリーランドが好きだから書いた。後悔はない。実はもっと上手く書きたかったけどちょっと挫けた。

ありがとうございました。

ホーリーランドは全18巻(完結)白泉社から発売中です

13:23│向井拓海 
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