2014年07月29日

藍子「プロデューサーさん、早く帰ってこないかな」

※某所に投下したのの書き直しなんだ、すまない

  地の文注意だよ



藍子ちゃん誕生日おめでとうSS





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7月25日 駅改札





午前11時を回ったばかりだとういうのに、外はうだるような暑さだ。



額から流れ落ちる汗にすっかり辟易しながら、冷房が効いているであろう事務所を目指して歩く。



プロデューサーという仕事に就いてから、そろそろ二年が経とうとしている。



しかし外回りの営業という仕事は、いつまで経っても慣れない。



それでも自分が新米だった頃に比べ、なんとかこなせるようになってきたとは思う。

改札を出てしばらく歩くと、向こうから元気よく走ってくる子とぶつかりそうになる。





「若葉さん!早くプールに行きましょう!」



「ま、待って都ちゃん……そんなに急がなくても……」



「向こうで有香さんやゆかりさんが待ってますよ!」









「元気だなぁ……」



すれ違った、プールに行くであろう小学生を尻目に見ていると、自分の昔の夏休みはどうだっただろうかと思った。



しかし、夏休みの思い出といえば、麦茶を飲んでスイカを食べて縁側でごろごろする、そんな記憶しかなかった。



昔から自分は活発な方ではなく、暑い日はだらだらしていたと思う。



多分朝のラジオ体操も、一回も行っていないだろう。

ふと、うちのアイドル達だったらこんな炎天下でも元気に騒いでいるのだろうかと思った。



確か今日は午前のレッスンが終わり次第事務所の裏手の公園でバーベキューをする、という話だった。



それに今日は、自分にとっては特別な日だった。



事務所の皆で秘密裏に計画を立てるのは、いくつになってもワクワクするものだ。



こういった催しが大好きなちひろさん、柚や葵がやたら張り切っていたのを思い出し自然と笑みがこぼれる。







……が、すぐに照り付ける太陽に現実に戻され、今日で何度目かわからない汗を拭う。



どうしてスーツというものはこうも暑苦しいものなのだろうか。

11:20 某芸能事務所





重い足を引き摺り、なんとか事務所のビルにたどり着く。



応接室の扉を開け、冷気が体から熱を奪う感覚に身を任せる。



いつもなら騒がしいこの事務所も、今はしんと静まり返っている。



今日は高校野球に野次を飛ばしたり、部屋の中でキャッチボールをする人間やトナカイがいないせいだろうか。



……いまさらだが、なぜ事務所の中にトナカイがいるのがろうか。







誰もいないなんて不用心だな、と思いながら自分の机にデスクを置いて周りを見回すと、









「んっ……」

誰も居ないと思っていたので、思わず声をあげるところだった。



しかし、寝ているだろう彼女を起こしてはまずいと慌てて飲み込む。



ソファでは藍子がすやすやと寝息を立てて眠っていた。



紫色のロバのぬいぐるみは枕として事務所のみんなの人気者だ。



今日の藍子はレモン色のワンピースの上に、薄手のカーディガンを羽織っている。



彼女の柔らかな雰囲気によくマッチしている服だ。



午前中はポジティブパッションのユニットで合同レッスンだったはずだが、他の2人はどうしたのだろうか。



エアコンの冷気で風邪をひいてしまわないように別のソファにおいてあったひざ掛けをかぶせ、藍子の隣に座った。



何の気もなしに彼女のふわふわとした栗色の髪を撫でる。



どうやら、今この事務所には自分と彼女の2人だけのようだ。



そういえば、最近は2人でゆっくり話す時間が取れていなかったかもしれない。

しばらく藍子の寝ている姿を見ていると、携帯から聞き慣れた電子音がした。





「未央ちゃんと茜ちゃんと買い出しに行ってきます。藍子ちゃんとお留守番していてくださいね」





文面を見てちひろさんがまるで母親みたいだ、と1人苦笑し「荷物が多かったら迎えに行きます」と返事をしておく。



実際ちひろさんは事務所の母親のような存在なので間違いでは無いだろうが……。



本人に言ったら、「私はまだそんな年齢じゃありません!」と怒るだろうか。



どうやら未央と茜はレッスン後も元気が有り余っていて、買い物に着いて行ったようだ。



いや、むしろ藍子が留守番をかって出たのかもしれない。



ユニットの中で茜の体力は飛び抜けており、未央もかなりのものだ。



藍子も入ったばかりの頃に比べたらかなり体力がついた方だと思うが、他の2人には敵わない。



午前中がダンスレッスンだったことを思い出し、藍子が寝ている理由をなんとなく察した。

藍子は自分が初めて担当したアイドルだった。



今でこそ受け持つアイドルが増えたが、最初は自分も手探りの事が多かった。



売り出し方や、トレーニングプログラムの相談、営業なども初めての経験だった。



そんな新人に、彼女はよく付き合ってくれたと思う。



少しずつ仕事に対して自信が付き、人が増えるにつれ、この事務所も賑やかになっていった。



自分の担当はなぜか、マイペースでこちらを振り回すアイドルが多く、それを心地よく感じつつも気疲れしてしまう時がある。



そんなとき、藍子の存在は清涼剤のようなもので、ついつい頼ってしまうことが多い。

少し前は彼女と息抜きに散歩に出かけたりすることもあったが、最近は忙しく中々時間が取れていない。



確か撮影の合間に川原に行ったとき以来だろうか……?



彼女との散歩は自分にとって息抜き以上のものだった。



2人で何気ない日常の風景を写真に収めたり、不意に見つけたお店に入ってみたり。



公園のベンチに座り、とりとめのない話しをしたこともあった。



うぬぼれでなければ彼女もそういう、緩やかな時間を楽しんでいたと思う。



彼女は写真を撮るとき、思い出を切り取るように大切に、丁寧にシャッターを押す。



そしてその写真をこちらにも見せ、にっこりと笑うのだ。



そういうところに、自分は惹かれていったのかもしれない。



どんなに疲れたときも、仕事がうまくいかないときも、その時のことを思い出して励みにしてきた。



彼女の笑顔のためなら何でもできると思っていた。







「いつもありがとうな、藍子」





「藍子の優しい笑顔に、言葉に、ずっと助けられてるよ」

だから、思わず口に出してしまった言葉は、普段なら照れくさくて言えないようなものだった。



こうして言葉にすると、自分の中で彼女の存在がいかに大きいか再認識する。







ふわふわした髪を撫でながら、藍子の顔を覗き見る。



長い睫毛、ぷっくりとした唇、ほのかに紅潮しだしている頬、かすかに震えている肩……。





……起きて、いる?

とても恥ずかしいことを言ってしまった上に、本人に聞かれたようであった。



いいタイミングでラインを送ってきたちひろさんに心の中で毒づく。



彼女が寝たふりをしていることに気が付かない素振りで、ソファから立ち上がり、わざとらしく伸びをする。



困った。これではしばらく藍子の顔をまともに見られないかもしれない。



きっと自分の顔も真っ赤になっていることだろう。



デスクでパソコンを起動させながら、一体どのような顔をして、鞄に忍ばせた誕生日のプレゼントを渡すべきかと考えるのであった。



おわり



20:30│高森藍子 
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