2013年11月16日

まゆ「ソウシソウアイ」

注意
※地の文
※コレジャナイ感
※まったり不定期更新


以上の3点を踏まえてお読みください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369841111


16歳になる年、まゆはモデルの撮影をしていた。

事務所にも入って、正式なモデルとしてのきちんとした仕事。

続けていくうちにそれは既に日常の一環となって、撮影場所やカメラマンさん、スタッフの皆さん。

色んな人や、物が、見慣れたもので溢れていた。

変化があるとすれば、たまに朝起きて作った料理を差し入れすると凄く喜ばれたり、逆にお菓子の差し入れを貰ったり。

そんな日々が続く、そんな毎日。飽きていたなんて、思ってもない。

ただ……何かが足りなかったんだと思う。

その何かが気づけていなかっただけで、ただ……それだけで。


同じ年のある日、その日は丁度梅雨が始まる前の頃。

まゆが今までの生活を振り返って『何も無い日々だった』と思えるようになった日。

その日はいつもの撮影場所じゃなくて野外での撮影だった。

しかも、アイドルと一緒の合同の撮影らしい。

どんな子が来るんだろう、と少しだけワクワクしいたら、撮影場所に一足早く着いてしまった。

それでもスタッフさんは相変わらず全員揃っていて、凄いなぁって思ってると、見知らぬ男性が1人スタッフさん達の中に紛れ込んでいた。

誰だろうと思って近づいて、ふと目が向き合う。

「あ……やぁ、こんにちは。君がまゆちゃん?」

「は、はい。そうですけど……」

彼は私の事を知っているらしい。
私は彼をどう呼んでいいか分からず、言葉が続かなかったけれど、彼はすぐに慌てた様子で名刺を差し出してきた。

「私は遠くから来たこういう者で……って、硬苦しいかな? ともかく、アイドルのプロデューサーをやってるんだ」

第一印象は気さくそうな雰囲気。

返せる名刺は無いけれど、会釈して名刺を見て、大事に懐にしまった。

「今日だけだけど、よろしくね。まゆちゃん」

顔を上げると、彼は満面の笑みでそう言って……

その笑顔を見て、まゆの胸の中で何かが弾けた。

突如、胸の奥底に襲いかかってくるこの緊張感。

さっき、はっきりと音が聞こえた……そして、回らない頭で考えてすぐに分かった。


これはきっと、恋に落ちた音……まゆは、この人に一目惚れしちゃったんだと。


その音を聞いてから、今日はあの人を見ると胸がドキドキするような気がする。

よく分からないけど、ちょっとだけ息が止まりそうになる。

……間違いない、これが『恋』なんだと。

まゆが今まで一度も経験したことの無かった事。

感じたことのなかったこの感情を抑えようなんて、ありえない。

そして、1つの思いで頭が一杯になる。


もっとあの人の近くに居たい。

こんな離れた場所じゃなくて、もっと近くで。



その日の撮影はよく覚えてなかった。記憶があまり無いと言ったほうが正しいかもしれない。

内容だけじゃなくて上手くいったのか、それともあんまり良くはなかったとか、それすらも覚えていない。

覚えてたのはただ1人、あの人の事だけ。

特に仕事が終わった時の、名残惜しそうな表情で手を振ってくれた事。

何故あんな表情をしていたのか、よく分からなかったけれど……

まゆはその時の顔が頭に焼き付いて離れなくて、むしろ離れないことが嬉しかった。

だって鮮明にあの人の顔を思い浮かべれるのだから。

撮影が終わってから、一目散に家に帰って彼から貰った名刺の事務所を調べる。

……分かったことは、都会の方で本当にまゆの居る場所から遠い所。

有名どころと比べて見劣りは当然しているものの、まゆにとってはその事務所の存在そのものが何よりも魅力的に見えた。

だって、あの人がいるから。

それだけで行く価値はあるのだから。



場所を調べた後は、すぐ行動に移ることにした。

理由は……もたもたしていられなかったから。

この気持ちがいつ収まってしまうのか分からなくて、収まってしまうのが怖くて。

次の日に事務所の人に辞めることを伝えると、驚かれたり、悲しまれたりした。

ちょっとだけ申し訳無いなと思ったけれど、事務所の人達もまゆの思いを大事にしてくれて、何も言わずに辞めさせてくれた。

事務所の皆さん、ごめんなさい。

それでも、まゆはあの人の所に行きたいから。

最後に、いつも以上に力を入れて作った差し入れの料理を振舞って……

スタッフさんの見送りの中、お世話になった事務所から離れた。



あの人の居る事務所はここから遠い都会にある。

自宅からなんてとてもじゃないけど行き帰りは無理だから、上京をする準備をして。

家族にはちゃんと話して、同意も得ることができたから、後はまゆ自身の勇気だけ。

慣れない乗り物に揺られて、あの人の顔を思い浮かんで都会へ向かった。



着いた時にまず目に入ったのは、全く違う景色。人がぐるぐる動いて、目が回って混乱しそうになる。

迷いそうだったけれど、唯一頼れる地図を頼りに人ごみの中をひたすらに進んだ。

……駅の中が一番迷ったのは、仕方ない事だと思いたい。

なんとか外に出て、タクシーなんか使っちゃったりして、そして見つかった1つの事務所。

間違っていないか何度も何度も、一字一句確認をする。……ここで間違いない。

意を決して、入り口であろう扉を叩く。


『はい、今開けます』

聞こえてきた声は、あの人の声。

開かれた扉の奥には素敵なあの人が、記憶と違わぬままそこに居た。

「……あれ、まゆちゃん……?」

唖然とする表情でまゆを見つめる彼。

そんな彼に、まゆは悪い印象を与えないようにっこりと微笑む。

……裏ではずっとドキドキしてるのは、内緒。

「はいっ、この前一緒にお仕事したまゆですよぉ」

初対面では一番の笑顔を見せれなかったから、それのお返し。

上手くできたかな? ちゃんとやったつもりではあるけど、振り返るとちょっとだけ不安になる。

「いや、あの……どうして、ここに?」

困惑する彼は手で頭を書いて、苦笑。といった感じ。

そういう顔も魅力的で、うっとりしそうになる。

けれども、それだけじゃ話は進まない。

彼はプロデューサーなのだから、まゆが言うことはただ1つ。

「まゆは……貴方にプロデュースされるために、アイドルになりにきました♪」

ゆっくりと、確実に言い切る。

……しばらく、彼はまゆのことをじっと見つめていた。

そして、見る見るうちに表情が変化していって……結構、面白かったかもしれない。

「え、ええっ!? だ、だって、あそこの事務所でモデルやってて……えっ、嘘っ!? 1人で!?」

「うふふ、そうですよぉ」

「事務所、事務所は……ああ、それ以前に1人で来たってことはまず寮……いや、まて、まずは……何をやれば!? しゃ、社長ー!」

誰から見ても慌てふためいてると分かるような、そんな彼を見て笑いが零れる。

ああ、やっぱり来てよかった。

だって、こんなにも充実した時間が、今後過ごせれるだろうと思うと嬉しくて仕方がなかった。

今回はここまで、目指せ完結。

あの後、同じようにまゆも今までの思いを全て伝えた。

途中から何を言ってるのか自分自身でも分からなかったけれど、その時の彼の恥ずかしそうな仕草は忘れられないと思う。

遠慮して彼と少し距離を取っていた少し前のまゆ。

今では彼のしっかりした体に、べったりとくっついてる。

好きな人に思いっきり抱きつけるこの幸福感がたまらなくて、中々離れることができない。

離そうとしない彼のせいで益々離れられない。

それと同時に思い出したかのように鳴り出す胸の鼓動。恥ずかしさはもうないけれど。

「初めてかもなぁ」

「何がですか?」

「こんなにスッキリした気分なのは」

「うふふ、まゆもですよ」

この時間が、ずっと続けばいいのにと考えて……ちょっと待ってと、自分で待ったをかけて。

してもらいたいことは一杯あるけれど、今一番してもらいたいことを伝えたくて――

「……まゆちゃん、ちょっとこっち向いてくれるかな」

「何です――」

「――っ」


突然の優しいキス。


頭の中が真っ白になって。

次の瞬間には真っ赤な彼の顔が目の前にあった。

まゆは確認するように自分の唇に触れる。

……一番してもらいたいことを、言うよりも先にされてしまった。


ファーストキス、貰われちゃった。


まゆの目の前で恥ずかしがって、ぶつぶつと呟いてる彼を見て、誰があの行動をした人だと理解できるのだろう。

彼らしくない強引さだったけど、すごく……良かった。

頭を掻いて明後日の方向を向いて、けれども顔の赤さを隠せない彼を見て。

ちょっとからかいたくなる。

「……まゆ、強引な男の人は嫌いですよぉ……」

彼に対してそうは思ってないけれど、わざとらしく嫌そうな声を出して言葉にすると真っ赤な顔を真っ青にして。

「あ、あああああ!? ご、ごめん、本当にごめんっ!? うわぁぁぁぁ、俺のドアホー!」

豹変っぷりにまゆの方が狼狽して、なんとか誤解を解く。

いつも通りの彼には戻ったけど、本当に謝る感じが脳裏に浮かんで、おかしくて笑いが顔に出そうだった。

「……どうして、キスしたんですか?」

「……まゆちゃんがかわいかったから、我慢できなかった……かな」

単純な理由すぎて、我慢してた笑いが出てしまった。

でも、それだけ思ってくれてるののが嬉しくて、また彼に抱きつく。

普段よりも口数が少ないけど、しっかりと抱き返してきて。

この、夢のような時間がずっと続けばいいのに――



「うわっ!?」

彼が突如大声を出して、びっくりした。

何があったのかと思ってると、携帯の時計をまゆに見せる。

表示されてる数字は23……午後11時。

数字を見て、まゆも急いで携帯を取り出す。

彼との時間を邪魔されたくなくて電源を切っていたけれど、今はそれどころじゃない。

何も言わずに外に出てこんな夜遅くまで帰ってこないなんて、普通は心配して連絡の1つは入れる。

そんな予想通り、点いた画面には何回も電話してきたみんなの着信履歴があって、冷や汗が出る。


これだけ幸せな気持ちになれたのだから、もうちょっと素敵な終わり方がよかったなと、みんなに電話で謝りながら思った。



帰りの車も、まゆは後ろの座席。

助手席でも良かったけれど、今日はこっちの方が行く時との違いが分かっていいかなって。

ハプニングもあったけど、あの唇の感触はまだ鮮明に残ってる。

もう一度唇を触れて思い出して……欲張りさんなまゆにはやっぱり、物足りない。

「……突然だったから、今度はゆっくりキスしたいですねぇ♪」

「ははっ、そうだな」

行きとは違って会話が弾む、憧れていた恋人同士の会話。

ドキドキはもうしなくて、逆にこれからの幸せな人生にワクワクしてくる。

素敵な彼と一緒に過ごす人生を想像して、幻視して。

そうしていると、彼がいきなり神妙な顔になってまゆに一言言った。


「ところで、言い訳……どうするの?」


……せっかく忘れてたのに、言っちゃだめですよぉ……ばか。


少ないけど、今回はここまで


それから、しばらくして。


今日は彼とまゆは休みの日で、2人でこっそり出かけている。

事務所のみんなには内緒のまま、最初の時とは違う意味のドキドキの日々が続く。

彼に好意を抱いてた子は……彼自ら話し合って分かってもらえたようで。

諦めた表情で、けれども彼が好きな人を応援するってのを聞いた時は、ごめんなさいと思う気持ちと同時に優越感もあった。

後者の方が強かったのは、まゆが悪い子だからだろう。


そんな悪い子の口を塞ぐ、彼の唇。


前の約束通りの、長いキス。

目を閉じるとよりそれを感じることができて、体が中に浮くような錯覚を覚える。

終わった時の名残惜しさは仕方ない。

「……ファンに見られたら大変な事になるかもね」

「だから、大丈夫な場所にしてるんですよね?」

周囲は自然が多く都会に近いとは思えない、小さな山の展望台。

町を見下ろすかのような景色の綺麗さと、尚且つ秋で涼しくなってきた時期だから吹き抜ける風が気持ちよく、居心地がいい。

勿論、彼とまゆ以外の人は居ない。

まゆの事を分かってくれる彼以外の人は――

「まぁね……都会だって、こういうところもあるから。いいでしょ?」

「素敵ですねぇ……」

「俺はまゆちゃんの方が素敵に思えるかな。なんてな……」

訂正。彼はまだ、ちょっとだけ分かってない。

今日こそはと思って今までずっと言ってなかったけど、言うしかなかった。

「今更ちゃん付け……いじわる、ですか?」

気づいたような顔で、苦笑すると同時に頭を掻く。困った感じになるといっつもこれなんだから。

「あはは、ごめんごめん」

吹き抜け続ける風が彼の髪を揺らす。

そこで一呼吸置いて、彼の満面の笑みが目の前に広がった。

「まゆ、これからもよろしくな。……愛してるよ」

「うふふ、まゆも愛してますよ」

相思相愛の誓い。

それはまるで呪いのようで、永遠に2人を離れさせないように縛り付ける。

そうだったらいいなって思って。

「まゆのことを、幸せにしてくださいね」

幸せ一色の未来を幻視して……まゆは、いつもより強く彼を抱きしめた。


これにて完結です
読んでいただきありがとうございました

蛇足ですが、この前書かせていただいた『みく「ニュージェネレーション」』のような感じで
二次創作らしくアイドルにコレジャナイ感が漂うような作品でしたが
こんな側面もありかなって思っていただければ嬉しいです

最後に、読んでいただき本当にありがとうございました

08:23│佐久間まゆ 
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