2014年08月23日

和久井留美「あなたは……?」ミル姉「ミル姉さんよ」




――数年前 とある公園









和久井留美「はぁ……」





留美(とうとう辞めちゃったわね……仕事)



留美(別に未練があった訳ではないけれど、もう少し準備を整えてからでもよかったかしら)





留美「……」



留美「私……これからどうしよう」













『グッドモウニング。平日の朝、いかがお過ごし?』



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408627073





留美「……えっ?」









ミル姉「ミル姉さんよ」





留美「なっ……!?」







留美(な、何この人……見ず知らずの私にいきなり話しかけてきて)



留美(いえ、それ以上に気になるのはこの格好……これって牛のコスプレ?)







ミル姉「もしもし? 聞こえなかったかしら?」



留美「あっ……こ、こんにちは」



ミル姉「隣、座っても?」



留美「は、はい……どうぞ」





ミル姉「どっこいしょ」



留美「……」



ミル姉「また言ってしまったわ……女がどっこいしょって言ったらもう終わりねぇ」



留美(何なのかしらこの状況……)



ミル姉「ところで貴女、お名前は?」



留美「あっ……留美、和久井留美です」



ミル姉「留美。んー、素敵な名前じゃない」



留美「あ、ありがとうございます」





ミル姉「それに、あたしの親友の名前にも似ている」



留美「えっ……?」



ミル姉「あたしの親友ね、ミル美って名前なんだけれども」



留美「……」











ミル姉「このあいだ街で見かけた牛革のバッグ、ミル美だった……」



留美(すごく反応しにくいわ……)





ミル姉「ごめんなさいね、急にこんな暗い話しちゃってさ」



留美「いえ……」



ミル姉「でもあたしはね、ミル美の分まで悔いのないよう生を全うしようって思ったの。ウシだけに」



留美「ンフッ」



ミル姉「……」



留美「あっ……ご、ごめんなさい!」



ミル姉「貴女、やっと笑ったわね」



留美「……えっ?」







ミル姉「さっきまでの辛気臭い顔と違って素敵じゃない」ニコッ



留美「……!」







留美(この人……格好はよく分からないけれど悪い人ではないのかも)





留美「あの、ミル姉さん」



ミル姉「ミル姉でいいわ」



留美「あなたは一体……」



ミル姉「あたしの事よりももっと貴女の話をしましょう、留美」



留美「あの」



ミル姉「いいからいいから。あたしを信じて」



留美「し、信じるって何を……!」





―――

――







ミル姉「そう。留美は仕事をやめてしまったのね」



留美「ええ……」



ミル姉「詳しく詮索はしないわ。誰にだって言いたくないことはあるもの」



留美「……私は仕事人間だったから、辞めた途端に心にぽっかりと穴が開いてしまって」









留美「それで、こうして平日の朝からあてどなく公園に来てしまったの」





ミル姉「何か気分転換でもしようと思わなかったの? 辞めてすぐに動き始めるのも大変じゃなぁい?」



留美「これといった趣味もなくて……強いて言えば仕事が趣味だったから」



ミル姉「それじゃ、あたしがいいモノを紹介してあげる」



留美「いいモノ?」



ミル姉「あたし映画を見るのが好きでね。他の人に紹介するお仕事とかもしているんだけどモー」



ミル姉「これを留美の趣味に……とまで行かなくても、少しでも気晴らしになってくれればっ、って思うわけ」



留美「ミル姉……ありがとう。ぜひ教えてほしいわ」





ミル姉「とってもマイナーな作品だからタイトル言っただけじゃ分からないかもしれないけど……」

















ミル姉「タイタニック」



留美「……いえ、流石にそれは知ってるわ」





ミル姉「あら残念」



留美「ごめんなさい……ミル姉の気もちは嬉しいけれど、やっぱりすぐにでも動き出さないと」



ミル姉「焦って動いても良いことなんてないわよ」



留美「それは分かっているわ。でも、それでも動き出さないと」



留美「だって……私には仕事しかないから」



ミル姉「そう」



留美「……ええ」









ミル姉「――ねぇ留美。実はあたしね、職を転々としているの」





留美「えっ?」



ミル姉「この世知辛い世の中で牛が生きていくのも大変でね、色々と辛酸を嘗め続けてきたの」



留美「……」



ミル姉「だけどプライドだけは捨てなかった。一度、あたしを安く見たヤツがいた時にはこう言ってやったの」



ミル姉「『あたしはそんなに安い牛じゃない。グラム800円の牛よ』……ってさ」



留美「ミル姉……」



ミル姉「でも二万円出されたから抱かれたわ」



留美「ミル姉ェ……」





ミル姉「幸いにも今はお仕事にも干し草にも恵まれているけど、牛生いつどうなるかなんてわかったもんじゃない」



ミル姉「一寸先は吉と出るか凶と出るか分からない……出るものなんて乳ばかり」









ミル姉「でも、それでも……未来がどうなろうと……つよく、生きていこうって思うの」



留美「つよく、生きる……」





ミル姉「留美を止める権利なんてあたしにはありゃしない」



ミル姉「でもこれだけは言わせて」



留美「……何かしら?」



ミル姉「あなたには……自分を諦めることだけはね、してほしくないの」



留美「……」



ミル姉「何があっても自分を信じぬくこと。そうしたら追い詰められて咲く花もある」



留美「追い詰められるほどにならないのが一番ではあるわね」



ミル姉「ん、それも一理あるわ」









留美「でも――ありがとう、ミル姉」ニコッ



ミル姉「フフ、やっぱり貴女は笑顔が素敵よ」







・・・・・・

・・・







ミル姉「お喋り続けて疲れたでしょう。あたしが持ってきた牛乳あげるからお飲みなさい」



留美「ありがとうミル姉」グビッ



ミル姉「それにしても留美、貴女おっぱい小さいわねぇ」



留美「ガッ、ゲホッ……な、何を急に!?」



ミル姉「あたしを見なさいホラ、まさに牛サイズよ」



留美(確かに……凄く大きいわ)





ミル姉「でもこんな大きさなのに星座は蟹座なの」



留美「それは関係あるのかしら?」



ミル姉「こないだも私、搾乳機っていうの? あの、痛い機械胸につけられてさ、おっぱい……スッポンスッポン!」



留美「あ、あまり想像したくない光景ね……」



ミル姉「留美も今度付けてみる?」



留美「遠慮しておくわ」





ミル姉「まぁ、いつかオトコでもできたら揉んでもらいなさい」



ミル姉「でもやりすぎはダメよ。あたし最近もまれすぎて、ちょっと乳首黒くなっちゃったから」



留美「今さらだけど朝っぱらの公園で会話する内容じゃないわコレ」



ミル姉「ついでにミル姉さんの一口メモゥー。大晦日に子ども産んどいた方が何かと得するのよ」



留美「話聞いているかしら」



ミル姉「人のことだけじゃなくてあたしも良いオトコ見つけなきゃ。去年は馬とつきあってたんだけど」



留美「馬!?」







prrrr





ミル姉「ハイ!!!」



留美「きゃっ……!」







ミル姉「あら、原田プロデューサー」



ミル姉「はい、はい……ん、了解」ピッ





留美「い、今のは?」



ミル姉「ごめんなさいね、留美。急用が入って……そろそろお別れの時間」



留美「……そう」



ミル姉「留美、貴女と過ごした時間は短かったけどとても楽しかったわ」



留美「ミル姉……ええ、私も楽しかったわ。また逢えるかしら?」



ミル姉「いつか、きっと」





留美「そう」



ミル姉「ん、それじゃ」



留美「ええ」











留美「……さようなら」













「留美」





留美「……!」



ミル姉「最後にもう一言だけ」



ミル姉「いつか、貴女にとって大切ななにかをひとつを見つけ出しなさい」



留美「……」



ミル姉「そのなにかひとつがあれば生きていける……生きているならラッキーよ」











留美「――ええ!」







―――

――







その後、私はとある男性と出会いなんとアイドルへと転職することになった



彼にスカウトされたその場所は、ミル姉と出会ったあの思い出の公園







ふと思ったことがある



ミル姉は、私とプロデューサーを引きあわせてくれた



出会いのキューピットならぬギューピットだったのかもしれない……って





・・・・・・

・・・





留美「……この公園の前を通るのも久しぶりね」









あれから数年経ち、私は今もアイドルを続けている



幸いにも周囲の人々やお仕事にも恵まれ充実した日々を送っている



もちろん大変な事も沢山あるけれど、挫けることはない



自分を信じ強く生きろと言ってくれた彼女の言葉を覚えているから









留美「ねぇミル姉。私、『大切ななにか』……見つけることができた気がするわ」



留美「だから、あなたに今の私を見せてあげたい」



留美「……」







留美「……今、どこにいるのかしら」







―――

――







留美「おはようございます」



モバP「おはようございます留美さん。今日もお早いですね」



及川雫(16)「留美さん、おはようございますー♪」





留美「ええ、おはよう」



留美「それにしても、プロデューサーさんはともかく雫ちゃんも今日は随分と早くから来ているのね」





雫「実は、新しくアイドルになるかもしれない人が来るんですよー!」



P「以前、雫と行った仕事先で出会った方なんですけどね。ひとまず見学だけでもと思って今日会う約束をしていたんです」



留美「あら、そうだったの」



雫「早く来ませんかねー? 楽しみですー♪」



留美「雫ちゃん、とても嬉しそうね」



P「その人と雫、随分と意気投合していましたから」



留美「へぇ……どういう人なのかしら?」



P「そうですねぇ……なにせ色々とインパクトのある人でしたけど、例えるなら桃井かおりみたいな感じの人ですね」



留美「ところで私はここにいてもいいのかしら」



P「ええ。よろしければ留美さんも同席してください」



雫「とぉーっても素敵な人ですよー♪」



留美「それじゃあそうさせてもらうわ」





カツ カツ





P「そろそろ約束の時間です」



留美「ふふっ」



P「どうされましたか留美さん?」



留美「いえ、少し昔の事を思い出していたの。プロデューサーさんや……皆との出会いを」





カツ カツ





P「懐かしい話です。あれからもう数年ですか」



留美「ねぇプロデューサーさん。新たな出会いって素敵ね」



P「ええ! だから今日のこの出会いも、留美さんにとってもまた素晴らしいものになると俺は思いますよ」









ガチャッ









『グッドモウニング。アイドルプロダクションの朝、いかがお過ごし?』













『――』





『――グッドモウニング。とても清々しくて、素敵な気分よ』









おわり





21:30│和久井留美 
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