2014年08月29日

貴音「更になぽりたんを所望します」

前作 貴音「なぽりたんを所望します」

小鳥「…………貴音ちゃん。もう一度言ってくれる?」



貴音「ええ、ですから小鳥嬢。なぽりたんを作っていただけませんか?」



小鳥「え、あの……えっと、どうして私に……」





貴音「はい、響に一度なぽりたんを作ってもらったのですが、

それ以来、何度頼んでも料理は一人で作り、一人で食べるものだ……と言いはって作ってくれないのです」



小鳥「えっ……ああっ、響ちゃんいつも一人だから……うん……

あ、でも貴音ちゃんならナポリタンくらい作れるんじゃないのかしら?」



貴音「小鳥嬢」



小鳥「え、は、はい」



貴音「考えてはいけません」



小鳥「でも……」



貴音「なぽりたんを」



小鳥「あの…………」



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貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「ふっ…………負けたわ貴音ちゃん。もうお昼だもの。いいでしょう!作ってあげるわ!」



貴音「小鳥嬢!!」



小鳥「ふっふっふ……ではまず冷蔵庫に行きます」



貴音「はい!」



小鳥「そして、冷凍庫から袋を取り出します!」



貴音「はい!」



小鳥「そして袋から中身を取り出し、平たい皿の上に乗せ!」



貴音「 はい !」



小鳥「レンジで温める!!」



貴音「ゔぇい!」



小鳥「きゃ!?な、なに貴音ちゃん」

貴音「それは…………何ですか」



小鳥「何って……冷凍ナポリタンよ!これだって立派なナポリタンでしょう?」



貴音「違います!それはなぽりたんではありません!なぽりたんとはこう……その、

何と言うか…………と、とにかく!それはなぽりたんではありません!」



小鳥「…………」



貴音「な、何ですか……」



小鳥「貴音ちゃん、何を言っているの?」



貴音「そ、それはこちらの!」



小鳥「これがナポリタンでないのであれば……

貴音ちゃんが普段事務所で食べている物は何?」



貴音「!?」



小鳥「冷凍ナポリタンがナポリタンでないのならば、インスタントラーメンもラーメンでは無い筈よね」



貴音「そ、それは……」

小鳥「どうなの貴音ちゃん。あなたが食べている物はラーメンなのか、それとも別の…………何かなのか!」



貴音「う、ぐぅ…………」



小鳥「どうなの貴音ちゃん」



貴音「…………」



小鳥「答えなさい!」



貴音「…………ら、らぁめんです」



小鳥「何かしら、聞こえないわ」



貴音「ら、らぁめんです!いんすたんとで有ろうと…………らぁめんに相違ありません!」



小鳥「なら……分かるわね?」



貴音「ぐっ……は、はい。冷凍で有ろうと……それは……なぽりたんです」



小鳥「そう、これもナポリタンよ」



貴音「で、ですがそれは言わば『いんすたんとなぽりたん』!らぁめんが有るから『いんすたんとらぁめん』が有るように、

『いんすたんとなぽりたん』もなぽりたん有ってこその筈です!!」



小鳥「……何が言いたいの?」

貴音「ですから小鳥嬢……わ、わたくしはなぽりたんが食べたいのです。

いんすたんとなぽりたんではなく…………て、手作りなぽりたんが!!」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「…………ううっ」



小鳥「…………はぁ……いいわ。そこまで手作りナポリタンが食べたいのであれば作りましょう貴音ちゃん」



貴音「ま、真ですか!」



小鳥「ええ、でも条件があります」



貴音「条件?」



小鳥「私のナポリタンの作り方にいちゃもんを付けないこと……出来る貴音ちゃん?」



貴音「いちゃもんを付けない…………良いでしょうその条件飲みましょう!!」



小鳥「良いわ、では作りましょう…………『ナポリタン音無小鳥SPECIAL』を!!!」



貴音「『なぽりたん音無小鳥すぺしゃる』!!」



小鳥「ふふっ…………では、まず麺を選びます」



貴音「…………」



小鳥「あぁ貴音ちゃんそんなに緊張しないで。いちゃもんを付けるなとは言ったけど、

会話をするなとは言っていないわ。ただ、私の作り方に文句を言わなければいいのよ」



貴音「は、はい、済みま……分かりました」



小鳥「ふふっ、じゃあ麺だけど…………マ・◯ー早ゆで2分 1.4mmを使うわ!!」



貴音「!?」



小鳥「ふふふ、貴音ちゃんこの麺はなんと断面が風ぐるま型で湯で時間が……」



貴音「ちょっ、ちょっと待って下さい!なぽりたんの麺は2mm以上を使うのが常識です!

なぽりたんを作るのであればもっと太い麺を……」



小鳥「貴音ちゃん」



貴音「な、何ですか…………」



小鳥「いちゃもん」



貴音「あの……でも」



小鳥「いちゃもんは?」



貴音「…………禁止です」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「続けるわね」



貴音「は、はい……」

小鳥「次にフライパンを取り出します」



貴音「…………」



小鳥「そしてここへ水を入れ強火に。そして……」



貴音「…………」



小鳥「パスタを投入!!」



貴音「え……ええ!?いや其れは……其れは違うでしょう!?」



小鳥「何が?」



貴音「で、ですから、まず第一に沸騰していません!それから塩も入っていないではありませんか!」



小鳥「だから?」



貴音「だ……だからではありません!沸騰していない状態で麺を入れたり、塩を入れずに茹でるなど聞いたことが……」



小鳥「だから……なんなの?」



貴音「だから……」



小鳥「…………」



貴音「あの…………」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「…………続けてください」

小鳥「ええ……じゃあ気を取り直して麺とともに……冷凍のミックスベジタブルも一緒に入れます!」



貴音「!?」



小鳥「そして沸騰するまで待ちます」



貴音「あっ、あ……」



小鳥「そして……沸騰してから1分ちょっと茹でて」



貴音「ああ…………」



小鳥「……ボールに上げます!!」



貴音「なっ!?」



小鳥「そして茹でていたフライパンに大量のバターとケチャップを投入!」



貴音「!?!?」



小鳥「更に麺とミックスベジタブルも投入!イエス!!」



貴音「えっ、えっ!?」



小鳥「バタケチャを麺に絡ませながら煮詰めて!煮詰めて!味付けにコンソメェ!ソルトォ!!ペッパァア!

そしてその辺にあったオタフクソォオス!!」



貴音「!?」



小鳥「もっさりしてきたら後はお皿にパイルダァ…………オオォン!!!」



貴音「あっ…………」



小鳥「ふぅ…………完成よ!」



貴音「あ、あ……」



小鳥「さぁ、食しなさい貴音ちゃん!この……『ナポリタン音無小鳥SPECIAL』を!!」

貴音「…………小鳥嬢」



小鳥「うん?なぁに貴音ちゃん?遠慮しなくていいのよ。作ろうと思えば5分もかからずに……」



貴音「こ、こんな物、こんな物はなぽりたんではありません!言うなればそう……『ずぼらたん』です!」



小鳥「……ずぼらたん、ね。ふぅん。どうしてそう思うのかしら?」



貴音「どうして!?まず茹で時間が短すぎます!沸騰してから1分ちょっとしか茹でていないではありませんか!」



小鳥「そうね。で?」



貴音「な!?……そ、それから茹で置きも……みっくすべじたぶるも」



小鳥「其れがどうしたと?」



貴音「おたふく……そぉすも」



小鳥「入れたわ。何か問題が?」



貴音「…………」



小鳥「他に何か?」



貴音「…………酷い……あまりに酷い……斯様な……斯様な行いは許せません!」



小鳥「どうして?何の問題が有るのかしら貴音ちゃん?」

貴音「問題大有りです!小鳥嬢これは……なぽりたんに対する冒涜です!いえ、なぽりたんだけでない、

なぽり、ひいてはいたりあへの冒涜です!」



小鳥「何故冒涜になるのかしら?私は私のナポリタンを作っただけよ」



貴音「其れがこれですか!これからはなぽりの風も……香りも……心も感じません!」



小鳥「そう……ナポリの心が……じゃあ、貴音ちゃん。貴方ナポリに行ったことがあるの?」



貴音「あ……ありませんが」



小鳥「そうよね。私も行ったことがないわ。つまり貴音ちゃんの言うナポリは……

貴方の勝手な想像〈イメージ〉と言う事よね?」



貴音「……そうです。ですが其れがいけないことですか!」



小鳥「いいえ、いけない事では無いの……でも違うの……ナポリタンにおいてはそうではないの」



貴音「なっ……何を」

小鳥「ねぇ貴音ちゃんパキスタンって……どこの国だか分かる?」



貴音「何ですかいきなり……」



小鳥「答えて」



貴音「な、ぐっ……中東です……ぱきすたんは中東です!」



小鳥「中東……中東ね」



貴音「な、何ですか……」



小鳥「……貴音ちゃんパキスタンはね……南アジアなの」



貴音「……え?」



小鳥「パキスタンは南アジアなの」



貴音「えっ……そんな……ですが……ぱきすたんは……」



小鳥「中東っぽい?」



貴音「!」



小鳥「中東っぽいわよね……でも、それは貴音ちゃんの勝手な……想像〈イメージ〉」



貴音「わたくしの勝手な……想像〈いめぇじ〉?」

小鳥「そう、勝手なね……スタンがついてるところは何となく中東っぽいという勝手な……想像〈イメージ〉

作者自身前回のSSを書いた後何となく調べて初めて知ったわ……パキスタンが中東じゃないって」



貴音「何が……何が言いたいのですか!一体……何が」



小鳥「貴音ちゃん。ナポリタンも同じだと言う事よ」



貴音「えっ……」



小鳥「こうであって欲しい、こうで無くてはならない、こう有るべきだ、これしか認めない。そんな固定観念。

でも……そんなの、そんなの間違ってる!ナポリタンはもっと自由であるべき物のはずよ!」



貴音「!」



小鳥「ねえ、貴音ちゃん…………初めて食べたナポリタンの味、憶えてる?」



貴音「わ、わたくしの……初めての?…………プロデューサーと共に食した……ふぁみれすの……」



小鳥「そう……それが貴音ちゃんの未知との遭遇〈ナポリタンとのファーストコンタクト〉なのね。

貴音ちゃん。貴方と同じように誰しも初めて食べた思い出のナポリタンが有るわ。

喫茶店で、洋食屋で、ファミレスで、定食で、そして……家で」



貴音「……思い出の……なぽりたん」

小鳥「そして食べた人は皆こう思うの……ナポリって何て素晴らしい所だって!

こんな美味しいものを作ったナポリの人はなんて凄いんだって!」



貴音「あっ……あぁ」



小鳥「でも……人はいつか大人になる……ナポリタンがナポリの物でないと知ってしまう

じゃあ、私達が信じていたナポリはどこにあるの!ナポリは……あの素晴らしき町は!

一体どこに……どこに有るんだ……どこに……どこに……どこに!

探して、探して、そこで漸く気付くの……ナポリは……思い出の中にあるんだって」



貴音「あ、ああぁ……」



小鳥「理想のナポリ……素晴らしきナポリ……思い出の……ナポリ。……人の数だけナポリがある。

でも……それは現実にはない仮想のナポリ。勝手な想像〈いめぇじ〉の産物。

そもそもナポリタンは……イタリアとアメリカが結婚し、日本で生まれ育まれた子。

初めから本場など無い永遠のB級グルメ。……でも……だからこそ探求がはじまる。

完全でないからこそ!永遠に未完成だからこそ!其処に調理する人の独創性〈オリジナリティ〉が入る余地がある!

自らの理想とするナポリを……思い出のナポリを……まだ見ぬナポリを生み出すために人は探求することが出来る!

だから人の数だけ調理法が生まれる!個性が生まれる!味が生まれる!

そして人の数だけ…………『ナポリタン』が生まれる!」



貴音「人の数だけなぽりたんが……あ、あぁ……ならばわたくしは」

小鳥「そうよ貴音ちゃん。難しい事など考えなくて良かったの。ただ食べるだけ。それだけで。

そこにあるのは伝統や正統性ではなく……ただ、美味しいか不味いかのみ。

貴音ちゃん。貴方は最初からそれを知っていたはずよ」



貴音「あぁ、小鳥嬢……わたくしは何と言う間違いを」



小鳥「いいの……いいのよ貴音ちゃん。それは誰もが通る道だから」



貴音「小鳥嬢……」



小鳥「……食べて……くれる?……私の『ナポリタン音無小鳥SPECIAL』を……」



貴音「はい勿論です。頂きます。頂きますとも……小鳥嬢の理想のなぽりを……なぽりたんを」



小鳥「うん……ありがとう」



貴音「こちらこそ……ありがとうございます」



小鳥「うん……うん」



貴音「…………」



小鳥「さぁ、遠慮せずに……」



貴音「は、はい!」

小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「……ズルッ」



小鳥「…………」



貴音「ズルル……ゾルルルルルルルルルルル!!!」



小鳥「…………」



貴音「ゾルルルルルルルルルルル!!!」



小鳥「…………」



貴音「ゾルルルルッ!!!…………ヴェッ!?」



小鳥「…………」



貴音「ゲェッ!!……グェッ!!…………」



小鳥「…………」



貴音「グ、ガァ……ググ……ゴグン!!…………ハァ……ハァ……」



小鳥「…………」



貴音「ハァ…………」



小鳥「…………」



貴音「……ズルッ……ゾルル………ゾルルルルン!…………フゥ」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「…………どう、貴音ちゃん。私の作った『ナポリタン音無小鳥SPECIAL』は……」



貴音「…………」



小鳥「貴音ちゃん?」



貴音「……普通です」



小鳥「…………えっ?」



貴音「普通です」



小鳥「え?……な、何、普通って」

貴音「ええ、ですから普通です。普通の味です。

可もなく不可もなくと言えばいいのでしょうか……ばたぁが入ることで俗っぽさが増していますが……

ああ、ですが誤解しないで下さい!分かっています。分かっていますよ小鳥嬢!

ただ普通なのではありません。このなぽりたんからは音無小鳥という人間の生き様が感じられます!

小鳥嬢の生き様が調理法に……味に……なぽりたんに表れている!」



小鳥「えっ?えっ?」



貴音「上手くも不味くもない、褒め称える事も貶す事も出来ない平々凡々な味……

ですがこのなぽりたんには、なぽり、いえ、いたりあをも恐れぬ音無小鳥の独創性〈おりじなりてぃ〉が有ります!

独創性〈おりじなりてぃ〉其れが……其れこそが永遠の『びぃい級ぐるめ』である『なぽりたん』に必要な事!

……そうでしたね小鳥嬢」



小鳥「えっ?……あ、はい」



貴音「小鳥嬢、これは最早普通のなぽりたんではない。全く新しい代物です。

ですが……其れを表す名が無い!この独創性〈おりじなりてぃ〉を表わす名が!……名が!」



小鳥「あ、あの」



貴音「小鳥嬢!名を!この新たなぽりたんにわたくしが名を付けても宜しいでしょうか!」



小鳥「えっ、あの……ど、どうぞ」

貴音「感謝します小鳥嬢!」



小鳥「あ、はい。こちら……こそ」



貴音「では…………」



小鳥「あ……あの……」



貴音「…………」



小鳥「えと…………」



貴音「…………」



小鳥「あっ…………」



貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「……おばたりあん」



小鳥「…………えっ?」



貴音「『おばたりあん』です」

小鳥「なっ……何で!?何で貴音ちゃん!?どうしてそうなった!?」



貴音「名の由来ですか……自分で説明するのは少々気恥ずかしいですが……

ふふっ、仕方ないですね。お教えしましょう!

まず味の決め手は『ばたぁ』です。『ばたぁ』が入ることでぐっと通俗的になっています!

そこでばたぁの『ばた』を取りました!

そして『なぽり』だけでなく『いたりあ』全てを内包するかの如き包容力は『なぽりたん』ではなく、

最早『いたりあん』と呼ぶに相応しい!

ですが単純に足して『ばたいたりあん』では語呂が悪い。そこで縮めて……『ばたりあん』です!」



小鳥「ちょ、ちょっと待っ」



貴音「ですがまだ終わりません!終わりませんよ!

この名前では小鳥嬢が作ったという功績が含まれていません!

そこで思ったのです。ま・◯ぁの麺、其れは即ちお母さん!そして音無小鳥すぺしゃる。

両方とも『お』から始まります!そして『お』は美化語です。なので『ばたりあん』の前に付ける!

そこで生まれる名前、それが……『おばたりあん』!これはまさしく『おばたりあん』です!!」



小鳥「…………」

貴音「『おばたりあん』……なんと良き響きでしょう。おばたりあん……おばたりあん……おばたりあん!

ふふっ、癖になるなりますね!ああ、そこで相談なのですが小鳥嬢。

もし良かったら、今後も作って欲しいのですが……この……『おばたりあん』を!!」



小鳥「…………」



貴音「…………」



小鳥「…………」



貴音「はて?……どうしたのですか小鳥嬢?」



小鳥「…………作らない」



貴音「え……」



小鳥「私、作らない。もう作らないわ。貴音ちゃんに料理なんか……」



貴音「な、何故ですか!?…………あ、ああ!分かりました。小鳥嬢はわたくしにも手伝って欲しいのですね!

ふふっ、これでも響となぽりたんを作った時に鍋に水を入れるのを手伝ったのですよ!

言ってくだされば何りっとるでも手伝います!ですから何卒……」



小鳥「そう、ありがとう。……でもね貴音ちゃん……貴方とはもう料理しないわ」



貴音「な、何故ですか!理由を……」



小鳥「理由……理由か……」



貴音「はっ、はい理由を」



小鳥「うん……料理はね……一人で作り、一人で食べるものだからよ」



(了)



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