2013年11月23日

P「765探偵事務所」美希「想い人を探すの!」

事件3 「想い人を探せ」


P「…」ずずっ…


美希「ハニ〜…ハーニ〜!」

P「ん〜…どうした?」

美希「どうしたもこうしたもないの!たまにはどこかに連れて行ってよ〜」

P「どこかって…萩原堂なら毎日連れてってやってるじゃないか?」

美希「もうっ!そうじゃなくて、二人でどこかに行きたいって言ってるの!」

P「萩原堂以外にってことか?」

美希「そうっ!映画とか、歌舞伎とか!あっ…寄席も捨てがたいの!」

P「やめとけやめとけ、休日なんだから今日はどこもかしこも混んでるぞ」

美希「混んでたっていいの!美希はハニーとお出かけしたいの!」

P「えぇ…」

美希「ね?良いでしょハニー!」

P「まぁ…この様子じゃ今日も仕事は来ないだろうしなぁ」

美希「ぜーったいこないの!だからハニ〜!」

P「う〜ん…新しい歌舞伎座になってから行ってないし…そこまで言うならたまには遠出でもしてみるか」

美希「やった!それなら早速お着替えしなくちゃ!」

P「着替え?その格好のままじゃダメなのか?」

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美希「ハニー…それ本気で言ってるの?」

P「え?あ、あぁ…」

美希「はぁ…」

P「な、なんだよその目は…」

美希「ハニーは全然わかってないの…」

P「わかってないって…」

美希「恋人同士でお出かけするんだよ?それならしっかりおめかししないといけないと思うな」

P「恋人同士って…誰と誰の話だ?」

美希「それはもちろん美希とハニーなの!」

P「馬鹿言うな、保護者と子供の間違いだろうが」

美希「美希がママなの?う〜ん、いくら何でもハニーが子供っていうのは無理があるかな…」

P「俺が保護者に決まってるだろうが!」

美希「美希はもう大人だよ!この前も弥吉さんに大人っぽいって言われたし!」

P「ぽいって言われてる所でまだまだ子供なんだよ…」

美希「とにかく!美希もおめかしするんだから、ハニーもちゃんとした服を着なきゃダメだよ!」

P「ちゃんとした服って…俺も着替えてくのか?」

美希「あったりまえなの!そんなヨレヨレの袴じゃハニーがみんなに笑われちゃうの!」

P「わ、笑われるって…」

律子「あら?二人して随分と楽しそうにしてますね?」

P「おぉ律子嬢、帰ってきてたのか?」

美希「おかえりなさい!」

律子「ただいま、あ〜まったく…毎月毎月やんなっちゃいますよ」

P「体のためなら仕方ないさ、それで?今日も問題なしだったのかい?」

律子「はい、小鳥さん曰くまったく問題なしみたいですね」

P「おぉ、そりゃ良かったな…」

律子「もうそろそろ検診しなくてもいいような気がするんですけどね?これだけピンピンしてるのに病院に行くのはどうも気が引けて…」

P「気を使うに越したことはないさ、ちゃんと来月も行くんだぞ?」

律子「はいはい…ちゃんと行きますから、それより二人してなんの騒ぎだったんですか?」

P「あぁ、美希が外に連れてけってうるさくてな?急だけどちょっと歌舞伎でも行こうかと…」

律子「ほ〜う…仕事も見つけずに歌舞伎とは、随分と良いご身分じゃないですか」

P「いや…だからそれは、美希が行きたいといったからでな?」

律子「美希がねぇ?」

美希「たまにはハニーと遊びに行きたいの、良いでしょ律子さん!」

律子「駄目だ…と言いたいところですけど、まぁ今日は特別に許してあげましょうか」

美希「え?良いの?」
P「これはまた珍しい…律子嬢のことだから、遊びに行くくらいなら仕事の一つでもーって怒り出すかと思ってたぞ」

美希「美希も怒られると思ってたの…」

律子「本当ならそう言いたいところですけど…やよいちゃんの一件から小さな仕事なら、ちょくちょくこなしてますし…まぁ今日ぐらいなら構いませんよ?」

美希「それじゃあ、今日はお休みでいいの?」

律子「貴方達はいつもお休みみたいなもんですけどね?でもそうね、今日はうち自体お休みってことにしますか」

P「まぁ律子嬢も色々と働き詰めだからな、たまには良いかもしれん」

律子「私だって先生が書類整理を手伝ってくれるのならもっと休めるんですがね?」

P「うっ…それはだな…」

美希「それじゃあ律子さんも今日はお休みするの?」

律子「そうさせてもらおうかしらね、久しぶりに気分転換もしたいし」

美希「そっか!それなら律子さんも一緒に歌舞伎を見に行こうよっ!」

律子「え…私も行っていいの?あんたの事だから先生と二人っきりで行きたいんじゃないかと思ってたんだけど」

美希「いいの!今日は三人でお出かけしたい気分になったの!」

律子「気分って…でも…」

P「美希がこう言ってるんだから良いんじゃないか?」

律子「そうですか?それじゃあお言葉に甘えて」

美希「それじゃあ律子さんも一緒におめかしするの!」

律子「え?おめかしって…」

美希「いいからいいから!さっ…早く!」

律子「わっ…ちょっと美希押さないで!」

美希「♪〜…あっ、ハニーもちゃんとカッコイイ服に着替えておいてねっ?」

P「はいはい…わかったから、さっさと着替えてこい」

美希「は〜い!」


ガチャン…


P「まったく…しかし、格好の良い服か…」

P「…」

P「た、タキシードなんてどこにしまってあったかな…」


コンコンッ


P「ん?はーい、どうぞー?」

雪歩「あ、あの…」

P「おぉ雪歩、お前からここに来るだなんて珍しいじゃないか」
雪歩「その、実は先生にお願いしたい話がありまして…」

P「お願いしたい話…雪歩がか?」

雪歩「いえ!私じゃなくて、その…父のお知り合いの方なんですけど」

P「ほう…と言うことは、依頼か何かかい?」

雪歩「そうなんです、とっても困ってるみたいで…父がその方達から相談されて」

P「雪路さんが?」

雪歩「はい、先生も知っていると思いますけど…父はこの界隈じゃ相談役みたいなこともしていますので」

P「あぁ、いつもお父上にはお世話になっております…」

雪歩「い、いえ!お父さんったら先生に変な話ばかり持っていってるみたいで…」

P「その変なお話が俺らの生活の糧になってるんだからさ、ありがたいもんさ」

雪歩「こちらこそ、いつもありがとうございます!」

P「いえいえ…」

雪歩「それで…相談を受けた父が、その手の話なら先生のところに持っていくといいと話したみたいで」

P「なるほど…わかったよ、それじゃあ早速仕事させてもらおうか」

雪歩「あ、ありがとうございます」

P「おっと、その前に…少しばかり時間をもらえるかな?」

雪歩「え?」


ガチャン…
律子「み、美希!こんなピラピラしたので私に外を歩けって言うの!?」

美希「とっても似合ってるの!」

律子「似合ってる似合ってないじゃなくって!こんなの恥ずかしくて歩いてらんないわよ…」

美希「なんで?美希は全然平気だよ?」

律子「あんたの神経と一緒にしないでちょうだい…ってあら、雪歩ちゃん?」

雪歩「あ、あのっ…」

P「お嬢さん方、綺麗に着飾ってもらったとこ悪いんだが…」

美希「えっと…」

律子「もしかして…」

P「ご依頼でございます」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


P「仕事が舞い込んでくるなんて!」

美希「雨が降っちゃうの!」

律子「あんたらねぇ…」

雪歩「すみません!すみません!いきなりこんなお願い事を…」

律子「良いのよ雪歩ちゃん、お仕事ならこちらからお礼しなくちゃいけないぐらいなんだから!」

P「そうそう、気にせんでくれ」

雪歩「で、でも…どこかにお出かけする予定だったんじゃ?」

美希「いーの!お出かけならいつでもできるんだから!」

P「という事で雪歩、早速話を聞きたいんだが?」

雪歩「は、はい…」

P「今回の依頼人の方は、雪路さんのお知り合いの方なんだよね?」

雪歩「はい、なんでも昔からのお知り合いの方らしくて」

P「どういった方なんだい?」

雪歩「呉服屋さんです、万代の大通りのところの三浦屋さんっていうところで…」

美希「ごふくやさん?」
P「着物を売ってるお店だよ」

律子「三浦屋って…あの三浦屋さん!?」

雪歩「は、はい…そうです」

P「なんだ律子嬢、その三浦屋とかいう所を知ってるのか?」

律子「私は先生が三浦屋を知らないことの方が驚きですよ…この界隈じゃ本当に有名なところなんですから」

P「え…そんなに有名なとこなのか?」

美希「美希は聞いたことないけど…」

律子「まぁこっちに来て日が浅い美希ならわかりますけど…いい大人の先生なら三浦屋ぐらい知ってたって…」

P「雪歩、そこはそんなに誰でも知っている店なのか?」

雪歩「はい、東京でも1、2を争う大きさの呉服屋さんなので、多分…」

P「えぇ…」

律子「はぁ…先生は本当に変なところで世間知らずというか…」

P「ほっといてくれ、呉服屋なんかには縁がないんだよ!」

律子「それで?その三浦屋さんが、うちに一体どういった御用なの?」

雪歩「それが…どうやら人探しをお願いしたいらしくて」

P「人探し?」

美希「誰かいなくなっちゃったの?」

雪歩「私も詳しくはわからないんですけど…娘さんの恋人が行方不明らしくて…」

P「ほう…」

律子「行方不明…その方たち、もちろん警察には行かれたんですよね?」

雪歩「それがどうやら、警察には行ってないらしいんです…」

P「どうしてまた?」

美希「警察は春香のお母さんの時も探してくれなかったの、だからあてにならないと思うな?」

P「あれは偽装とは言え手紙があったわけだがな、そのいなくなった恋人とやらはそういった物を残してなかったのかい?」

雪歩「手紙も残さずに消えてしまったみたいですけど…」

律子「それならやっぱり警察に行くべきじゃ…事件性があれば動いてくれるかもしれないのに」

雪歩「私もそう思うんですけど…色々と事情があるみたいで…」

律子「でもねぇ…」

雪歩「すみません…私もこれ以上のことはわからないので…」

P「まぁやっぱり、詳しいことはその三浦屋さんとやらに聞いたほうが良いだろう」

律子「そうですね…ありがとう雪歩ちゃん、ここからは先生が何とかしてくれると思うから」
P「あぁ、とりあえず引き受けさせてもらうって事だけ雪路さんに伝えておいてくれないか?」

雪歩「は、はい…わかりました」

P「それじゃあ俺達は早速、三浦屋さんの所に向かわせてもらおうか…」

美希「うんっ!」

律子「先生、向かうは良いんですけどね…三浦屋の場所はわかってるんですか?」

P「あっ…」

律子「知ってるわけないですよね、名前も知らないんですから…それじゃあ私も一緒に行きますから」

P「あぁ…そうしてくれると助かるよ」

律子「といっても万代通り沿いを歩けば着くはずなんですがね…それじゃあ行きましょうか」

P「おうっ」

美希「おうなの!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


P「やっぱり人が多いな…」

律子「人が多いって、休日なんだから当たり前じゃないですか」

P「人ごみはあんまり好きじゃないんだよ…空気が薄く感じるというかな」

律子「世間知らずの上に出不精ですからね、たまの休日に大通りをあるけばそうも感じますよ」

P「しかし…依頼とは言え、結局図らずしも三人で出かけることになったな」

美希「うんっ、歌舞伎座に行けなかったのは残念だけど三人でどこかに行くことなんてなかったから嬉しいかな!」

律子「そう言われてみれば、三人でどこかに行くことなんてありませんでしたね」

P「ん?萩原堂ならしょっちゅう三人で言ってるじゃないか」

美希「…」

律子「…」

P「お、お前らなんだよその目は…」

美希「美希、もうちょっとハニーにはそういうところを考えて欲しいって思うな?」

律子「無駄よ美希、二年近く先生といるけど…この人そういう事は本当にわからない人だから」

P「おいおい…なんだよ二人して」

律子「まっ…良いんですけどね?っと先生ほら、ここですよ」
美希「おっきなお店なの!」

P「あぁ、これがその三浦屋なのか…」

律子「あんなにデカデカと看板が出てるっていうのにこの人は…」

P「この前、弥吉さんと飲んだ時にこの前を通ってえらくデカイ建物があるとは思ったんだが…まさかそれが三浦屋とは」

律子「はぁ…」

P「い、いやいや!まさかこんな洋風な建物が呉服屋とは思えないだろう!」

律子「震災で元々あった建物がダメになったらしいんですよ、それで立て直す時にこの形になったみたいですね」

P「ほ〜う…しかし震災でやられたっていうのに、こんな立派なものを立て直す自力は大したもんだな」

律子「主の三浦新太郎はかなりのやり手らしいですよ」

P「やり手といってもこれは…」

律子「それに元々大層なつながりを持ったお家みたいですし、それこそ歌舞伎役者なんかもここが着物を卸してるらしいですよ?」

美希「え!それじゃあシン様もいるかもしれないって事?ねぇねぇハニー!早く入ろうよ!」

P「まぁ歌舞伎役者とそうそう出会えるとは思えないが…まぁそうだな、とりあえず入ろうか」

律子「そうですね、こんなところで立ってても仕方ないありませんし」

P「よしっ…行くぞ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



P「いやしかし、これはまた…」

律子「偉く立派なお部屋に通されちゃいましたね…」

P「置いてあるものも高そうなものばかりだし…俺ももう少しまともな格好してくれば良かったな…」

律子「確かにその袴じゃ場違いかもしれませんね…」

美希「ねぇねぇハニー、この壷やっぱり高いのかな?」

P「まぁそりゃそうだろうな…って!なんでお前は持ち上げてるんだ!」

美希「え?やっぱり重いのかなぁって思って」

P「そんな事どうでもいいだろうが!いいから早く置きなさい!」

美希「そんなに焦らなくても大丈夫なの、落としたりなんてしないから!」

P「お前ならやりかねんだろうが!あはっ、落としちゃったのじゃシャレにならん!」

美希「むぅ〜…」

律子「おそらく私達の一生分の稼ぎでも足りないような値段なんでしょうね…」

P「あぁ、割れた壺のために残りの人生を使うなんてゴメンだからな…」


コンコンッ…
P「はい!」

新太郎「やぁやぁ…遅れて申し訳ない」

P「いえいえ、今日は急に押しかけまして申し訳ありません…」

新太郎「急なお願いをしたのはこちらの方ですよ、まぁ掛けて下さい」

P「失礼します…」

新太郎「それで、貴方が件の探偵殿でよろしいのかな?」

P「はい、万代町の外れで探偵社をやっております」

新太郎「ほう…という事はやはり高木殿の探偵社でしたか」

律子「…」

P「社長をご存知なんですか?」

新太郎「えぇ、昔から何かと面倒を見てもらっておりましたからな…そういえば高木殿は…」

P「はい…ですからその間は私が社を預かっております」

新太郎「そうですか…しかし高木殿の所の方ならば信頼できそうですな…よろしくお願いいたします」

P「はい…こちらこそよろしくお願いいたします」

新太郎「しかし萩原も人が悪い、相談を持って行った時に高木殿の一言も言いませんでしたからな」

P「はぁ…あの方もせっかちですから、伝え忘れたのかもしれませんね…」

新太郎「違いない、あれは昔からまったく変わらないですよ…おっと、そちらのお嬢さん方は?」

P「あぁ、彼女達は当社で働いている者です…こちらが星井美希で」

美希「はじめまして!」
新太郎「これは元気なお嬢さんですな」

P「こっちは、高木律子…高木社長の娘さんです」

律子「初めまして、この度はご依頼ありがとうございます」

新太郎「おぉ…高木殿の!これは随分と美しくなられて!」

律子「え?えっと…」

P「律子嬢と会われたことが?」

新太郎「まだ小さな頃でしたがな、人見知りだったようで高木殿の後ろにずっと隠れてしまっていたが」

律子「す、すいません!まさかお会いしたことがあるとは…」

新太郎「いやいや、もう何年も前のことですしな?それに貴方にとっては子供時分の事だ、忘れていても仕方ありませんよ」

律子「は、はい…」

新太郎「貴方とはもう少しお父上のお話をしたいところなのだが…探偵殿?」

P「はい、本題の方に入らせていただきましょうか…」

新太郎「探偵殿、その前に娘を部屋に呼んでも構わないでしょうかな」

P「直接伺いたい話もありますし、是非そうしていただけるとありがたいです」

新太郎「そうですか、それでは…」

P「…」

新太郎「あずさ!入っておいで!」

あずさ「はい…」
P「…」

美希「わぁ…」

新太郎「これが、私の娘のあずさです…あずさ、こちらが件の探偵殿だよ」

P「初めまして、我々765探偵社のものです」

あずさ「初めまして、三浦あずさと申します」

新太郎「さぁ、あずさもここに掛けなさい」

あずさ「はい…」

P「早速ですが…お話を伺っても?」

新太郎「えぇ、しかし私はその男に会ったこともないのでね、詳しい話はあずさに聞いてください」

あずさ「はい、よろしくお願いいたします」

P「今回の依頼は、いわゆる人探しとお伺いしましたが…お間違いないですね?」

あずさ「はい…私の恋人を探して欲しいんです」

P「引き受けたからには精一杯お手伝いさせていただきます、貴方もご心配でしょうし」

あずさ「はい…」

P「それじゃあまず、貴方の恋人がお名前からから伺いましょう」

あずさ「岩田時彦さんという方です」

P「岩田時彦さんっと、御年齢は?」
あずさ「二十二歳ですね」

P「二十二歳、それでは岩田さんがいなくなった時期を…」

あずさ「会えなくなったのは…今から二ヶ月ほど前でしょうか、それからはパタッと…これほど会えないのは初めてで」

P「二ヶ月ですか」

あずさ「彼も仕事が忙しいらしいですし、私も父の手伝いがありますので頻繁には会えませんでしたが」

美希「美希だったら、ハニーと二ヶ月も会えないなんて考えられないの…」

P「お前の物差しでなんでもかんでも見るんじゃない、それで?以前からその様な間隔で会われていたんですか?」

あずさ「これまでは二、三週間に一度は会っていたんですが」

P「お付き合いされたから、どれくらいなんでしょうか?」

あずさ「一年行かないぐらいでしょうか、ただ先程も言ったようにそれほど会うこともありませんが」

P「なるほど…それでは時彦さんの事について詳しくお聞きします」

あずさ「は、はい」

P「どの様な職業をされていたんでしょうか?なかなか会えないともなると忙しいご職業だったんでしょうが」

あずさ「確か、缶詰の工場で働いていると聞いたことがあります」

P「缶詰の…ちなみにそれはどちらの工場なんでしょうか」

あずさ「すいません、そこまでは…あまり彼からそういった話をしたことがないので」

P「働いている場所までは聞いたことがないと」

あずさ「はい…」
P「構いませんよ、それじゃあ次に時彦さんのお住まいなどを聞きたいのですが」

あずさ「あの、それも詳しいことがわからなくて…」

P「お住まいもですか?」

あずさ「彼からは工場の近くに住んでいると聞かされていたので、でも私はその工場がどこにあるのかを知りませんし」

P「では家族構成などについて聞かれたことは?」

あずさ「お父様が亡くなられて、お母様と妹さんの三人で暮らしていると言っていました」

P「他に家族の話を聞いたことはありませんか?どんな話でもいいので」

あずさ「そうですね…妹さんが可愛いとか、お母様が口うるさなくて敵わないとか、その程度の話しか聞いたことはありませんね」

P「妹さんの年齢などはわかりませんかね?」

あずさ「まだ小さいとは言っていましたが、年齢までは」

P「わかりました、それじゃあ少し話を変えさせてもらいましょうか」

あずさ「はい」

P「これまでの話を聞いていると、時彦さんと貴方の接点というものが私には浮かんでこないのですが…時彦さんとはどちらで出会われたんですか?」

あずさ「あの、実はわたし映画を観るのが大好きでして」

P「映画ですか?」

あずさ「はい、子供の頃から父によく連れて行ってもらっていて…今では仕事の合間を見つけては近くのキネマ万代に通うぐらいで」

P「それは相当な映画好きですね」
あずさ「はい、彼とはそこで出会いまして」

P「という事は時彦さんも映画好きでいらっしゃった?」

あずさ「私ほどではないと思いますけど、彼と会っている時はほとんど映画の話をしていましたから」

P「同じご趣味を持つもの同士、お付き合いに至ったというわけですね」

あずさ「そうですね、ですから彼の素性とかいったものにあまり興味を持っていなくて…お互い映画好きがこうじての関係でしたから」

P「すると、時彦さんも貴方の素性をご存知ないんですか?」

あずさ「私からは話していないので、知らないはずかと…」

P「そうですか…ちなみに時彦さんの写真などはお持ちじゃないでしょうか?」

あずさ「写真もありませんね、すいません…お仕事をお願いしているのに、こちらからお話できることが少なくて」

P「いえいえ構いませんよ、それをどうにかするのが我々の生業ですからね…それじゃあ律子嬢?」

律子「はい!」

P「道具は揃ってるのか?」

律子「もちろんですよ」

あずさ「あの、何を…」

P「あぁ、これは人相書きみたいなものです」

あずさ「人相書き?」
P「えぇ、写真も住んでいた所もわからないとなるとやはり見つけ出すのが難しいのは事実ですから」

美希「だから人相書きを作るの!」

P「これはは絵が得意でね、人探しの依頼の際には人相書きの作成を担当してるんですよ」

あずさ「そうなんですか」

律子「はい、書きながら見せていくので確認してくださいね」

あずさ「わ、わかりました」

律子「それじゃあ顔の形から、どんな形ですかね?」

あずさ「そうですね…割と普通の」

律子「こんな感じですかね?」

あずさ「はい、そうですね」

律子「髪型は?」

あずさ「短めの、あっ…もう少し短いですね」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

律子「さぁ、どうですか?」

あずさ「すごい…本当にそっくり書けるんですね」

律子「えぇ、特技ですから!」

あずさ「それにしてもお上手ですよ」

P「それじゃあ人相書きも終わったところであずささん、最後にもう一つだけよろしいでしょうか?」

あずさ「はい、なんでしょうか」

P「ここまでお話を伺っておいてあれなのですが、どうしてまたこのような人探しを我々に依頼したんですか?」

あずさ「あの…ご相談した萩原さんから貴方がたを紹介していただいたので」

P「本来ならば人探しは警察の本分です、私達探偵なんかより余程効率的に見つけ出してくれるかもしれません」

あずさ「それは…」

P「何か理由がお有りならば先に教えていただきたい、そうでないと後々で時彦さん探しの障害になってしまうかもしれませんし」

あずさ「…」

新太郎「それは、私の方からお話させていただきましょう」

P「お願いします」

新太郎「自分で言うのもなんですがな、当三浦屋は東京でも知らぬものがいないであろう呉服屋です」

P「…」

律子「そうですね、一部の変人を除いてはですけど」

P「律子嬢、今は本当にやめてくれ…」
新太郎「これぐらいの商売をしてますと、かなり横の繋がりも多いものなのですよ」

律子「それは、家柄同士のお付き合いというわけですか?」

新太郎「えぇ、しかしそうなると面倒なものも多く舞い込んで来る」

P「面倒なもの、ですか?」

新太郎「見合いですよ、見合い」

P「お見合い?」

新太郎「この時代でも家同士の付き合いを一番強くするものは結婚ですからな、無論このあずさにも多くの見合いの話が来ている」

あずさ「…」

新太郎「うちにはこの子しか子がおりませんし、是非とも婿をとって早く後継を作りたいところなのですが、これまではこの子が私の仕事を手伝いたいからと断っていまして」

P「ほう、これまでは…ですか?」

新太郎「私としてはこの子にそう言って貰えるのは嬉しいんですがな?まぁしかし適齢期というものが有りましょう、二ヶ月半前に来た見合いの話は必ず受けるように言ったのです」

新太郎「結婚したとて私の手伝いならばいくらでもできますしな、世間体もあるしそろそろと…しかしこの子もかなり渋りましてな」

美希「待って!でもあずさにはちゃんと恋人がいるの!」

新太郎「そう、そこでこの話に繋がるのですよ」

P「その口ぶりからすると、お父様はあずささんの恋人の存在すらご存じなかった」
新太郎「その通り、あまりにも渋るので事情を聞いてみれば、恋人がいると言うではありませんか…この子といったらそんな態度をまったく出していなかったものですからな」

美希「え?おじさんはあずさの恋人のこと知らなかったの?」

新太郎「あぁ、知っていたのならひとまず見合いの話を受けることは無かっただろうね」

律子「あずささん、どうしてまた時彦さんの事を黙ってたんですか?」

あずさ「それは、やはり父が反対すると思っていたので」

新太郎「確かにどこの馬の骨ともわからん男にあずさを取られたのは父として悔しいですがな、それでもこの子が惚れている男ならばしょうがないではありませんか」

P「という事はお父様はお二人の関係を許す気持ちでいたと?」

新太郎「えぇ、こればかりはしょうのない事ですから」

P「ほぉ…随分と寛容なお心をお持ちですな」

新太郎「まぁね…ですから二週間ほど前に腹を括ったつもりで、この子にその時彦とか言う男を家に連れてくるように行ったのですが」

P「その時には行方不明になっていたと」

あずさ「はい…」

新太郎「よくよく聞いてみれば住んでるところもわからぬ男のようですし、遊ばれた可能性だってあるのです…しかしそれでも娘の初めて惚れた男、この子が求めるのなら探し出してやりたい」

あずさ「あ、遊ばれただなんて」

新太郎「可能性だってあるという事だ、しかしそうなるとおずおず警察にお願いに上がるという事は難しい」

P「世間体というものがある、ですか?」
新太郎「三浦屋の一人娘がわけのわからん男に騙されたということを世間様に広めることになります」

P「まぁしかし、まだ騙されていたという風に決まったわけではありませんし」

新太郎「そこも含めて調査していただきたいのです、もし本当にその男が純粋にあずさを愛しているというのなら私は何の文句もありませんしな」

P「…」

新太郎「私はその事実を知りたいのです、ですからその時彦という男を貴方に見つけ出していただきたい」

あずさ「お父様…」

P「なるほど、承知いたしました…三浦屋さんの看板に傷を付けずに必ず時彦さんの行方を探しだしてみせます」

新太郎「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」

P「いえいえ、本格的な調査は明日からになりますがよろしいでしょうか?」

新太郎「構いません、良いだろうあずさ?」

あずさ「はい、よろしくお願いいたします」

P「それじゃあ私どもはこれで…何か思い出されたことがありましたら社の方までお越し下さい」

美希「絶対に恋人さんを見つけてあげるからね!」

あずさ「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいわ」

新太郎「それではお見送りを…あずさ、送って差し上げなさい」

律子「あっ、私たちなら大丈夫なので」

新太郎「そういう訳にはきません、さぁあずさ」

あずさ「はい、それではこちらへ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


P「いやぁ、来た時も思ったが…やっぱり中も立派な作りですね」

あずさ「ありがとうございます、と言ってもまだ出来たばかりなのでそう見えるだけかもしれませんが」

P「しかし呉服屋さんと伺っていたんですが、それ以外の物まで取り扱っているんですね?」

律子「ちょっと先生、恥ずかしいこと聞かないでくださいよ…」

P「え?何かおかしなこと言ってたか?」

律子「三浦屋さんは確かに立派な呉服屋さんですけど、この建物になってからは百貨店でもあるんですから」

P「百貨店、通りで物が多いわけだな」

律子「すいません、この人本当に世間知らずなもので…」

あずさ「ふふっ、良いんですよ?三浦屋もまだまだっていうことですから」

律子「そんなっ!三浦屋さんがまだまだだなんて…」

P「これからも伸びるっていうことでいいじゃないか、縁起も良さそうだし」

律子「あなたはねぇ…」

あずさ「そうですね、もっともっとたくさんの人に三浦屋を知ってほしいですし」

P「ほら、あずささんもこう言って…って美希のやつはどこに行ったんだ?」

律子「そういえば、あの子ったらどこに行ったのかしら…」

P「こんなだだっ広い所で迷子なんてゴメンだぞ」

美希「ハ〜ニ〜!!!!」
P「おっと、あんなところに…お前そんな所で何やってんだ」

美希「見てハニー!すっごく綺麗なお着物見つけたの!」

P「着物?そりゃあ呉服屋なんだから着物ぐらいあるだろうに」

美希「そうだけど、ほら!とっても綺麗でしょ!」

P「おぉ…まぁ綺麗だな」

律子「うわぁ…とっても良い品みたいですね、色も可愛いですし」

美希「ねぇねぇハニー!美希これ着てみたい!」

P「馬鹿言うな、お前の事だから一度着せたら欲しいとか言い出すだろうが!」

美希「言わないから!ねぇお願いハニー」

P「えぇ…」

律子「ダメよ美希、買わないのに着せてもらうだけじゃお店の人に迷惑でしょう?今日は諦めなさい」

あずさ「あら、構いませんよ?こんなに可愛い女の子に着てもらえたらお着物も嬉しいでしょうし」

美希「やった♪」
律子「いえ、でも…」

あずさ「良いんです、どうせでしたら貴方も一緒に着られてみたらどうです?」

律子「え!?いや私は…」

あずさ「遠慮なさらずにっ!さぁさぁ」

美希「あずさもこう言ってるの!行こう律子さんっ!」

律子「ちょっと…やだ押さないでって!」

P「本日二度目のお色直しですか…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


律子「…」

美希「ハニー!」

あずさ「あらあら〜、やっぱり二人共よく似合ってるわ〜」

P「おぉ、これはなかなかのもんじゃないか」

美希「そうでしょ?美希自分でもとっても似合ってると思うな!」

あずさ「律子さんもとっても綺麗よ?」

律子「お、お世辞でも嬉しいです」

あずさ「あらお世辞だなんて、探偵さんもそう思いますよね?」

P「馬子にも衣裳とはまさに…」

律子「なんですって?」

P「これは失敬…」

あずさ「うふふっ、それじゃあこれは私からお二人への贈り物にさせてもらおうかしら?」

律子「お、贈り物ですか?」

あずさ「はい〜、これだけ似合ってるんですもの、是非これからも着ていただきたいわ」

P「いやいや、生憎そんな持ち合わせは…」
あずさ「ですから贈り物ですっ、お代は結構ですよ?」

美希「えっ!このお着物くれるの?」

律子「そんな、こんな高価なもの頂くわけには…」

あずさ「良いんです、こんなに綺麗なお嬢さんたちがうちの着物を着てくれればそれだけで宣伝になりますし」

P「いや、でも…」

あずさ「もちろん依頼料とは別ですから安心してくださいね?」

美希「やった!ありがとうあずさ!」

律子「本当にありがとうございます!」

P「はぁ…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌日



警官「ん〜…ここのところ殺人や失踪人の届けは出ていないみたいだなぁ」

P「岩田時彦っていう名前以外でもか?」

警官「失踪人は女性ばかりだしな、男の名前は出てない…それにその名前に前科者はいないみたいだな」

P「そうかい、忙しいのところ悪いな?」

警官「それは構わんが、また何かの依頼かい?」

美希「うん!今度はまた人探しなの!」

P「失踪人の届けが出てれば早いと思ったんだがなぁ、やはりそううまくはいかないか」

警官「力になれずにすまんな、先生には先日の一件で世話になったっていうのに」

P「気にしないでくれよ、それより件の署長飛ばされたんだってな?」

警官「あぁ、あれだけ滅茶苦茶な事やってくれたんだからな」

P「クビにならなかっただけまだマシか」

警官「しかし、区長殿なんて未だにのうのうと椅子に座ったままだしな」

P「まぁそんなもんさ」

警官「悲しい限りだよ」
P「とにかく、この男の事で何かわかったら連絡をくれると助かるよ…それと人相書きをここに置いておくから」

警官「あぁ、近隣の署の人間にも聞いてみるから」

P「頼んだよ、それじゃあな」

美希「じゃあね!」

警官「あぁ、わかり次第連絡するよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


美希「ねぇねぇハニー?」

P「ん?どうした?」

美希「いなくなったあずさの恋人って時彦さんっていうんだよね?」

P「そうだが、それがどうかしたのか?」

美希「どうしてハニーは警官さんに時彦さん以外の人のことも聞いていたの?」

P「あぁ…そりゃ岩田時彦が岩田時彦じゃないって可能性があるからだよ」

美希「えっと…どういうこと?」

P「つまり、偽名を使っていた可能性があるってことだ」

美希「偽名?なんでそんなものを使う必要があるの?」

P「そりゃお前、あずささんを騙すためだろうが」

美希「で、でも…時彦さんはあずさがお金持ちだって知らなかったって」

P「知っていたけど黙っていた可能性もあるぞ」

美希「それはそうだけど…」
P「それに俺やお前のように三浦屋を知らない人間だっているだろうが、あれだけ高そうな着物を着てれば少なくとも良いとこのお嬢さんだってのはわかるしな」

美希「じゃあやっぱりあずさは騙されちゃったの?」

P「それはまだ何とも言えんな、実際この辺りで有名な詐欺師の話は聞かないし、何よりあずささんはまだお金を取られちゃいない」

P「あれだけ美人だから単純に弄ばれたってのもあるかもしれないが、その割には清いお付き合いにも見えるしなぁ」

美希「う〜んわからないの…」

P「そういえば美希、お前昨日は嘘の匂いを感じなかったのか?」

美希「したことにはしたんだけど、そんなに嫌な匂いじゃなかったかな」

P「という事はそんなに悪意のある嘘じゃないって事か」

美希「多分そうだと思うな?」

P「そうか…ならとにかく今は時彦の人相書きを見せて回るしかないって事だな」

美希「美希もしっかり頑張るの!」

P「そりゃああれだけ上等な着物をもらったんなら頑張るよなぁ」

美希「ち、違うの!美希はあずさの幸せのためを思って!」

P「はいはい、幸せのため幸せのため」

美希「もうっ!ハニーがいじわるなのっ!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


弥吉「岩田時彦ですかい?」

P「あぁ、顔の広い弥吉さんなら知ってるかと思ってさ」

弥吉「すいやせんが、あっしは覚えがないですねぇ…どこかで聞いたような気もするんですが、知り合いにはいやせんね」

P「それじゃあこの顔には?」

弥吉「この顔にも見覚えは…おいやよい!おめぇは知らねぇのかい?」

やよい「う〜ん…私も見たことないかな〜って」

美希「やっぱり二人も知らないんだね?」

弥吉「お力になれず申し訳ありやせん…」

P「いやいや、気にしないでくれよ」

やよい「私も、先生にはお返ししなくちゃいけないのに…」

P「やよいも、お返しだなんて気にしなくていいんだからさ」

弥吉「しかし先生、人探したぁまた何かの事件ですかい?」

P「まぁそんなところさ、とにかくありがとう!それじゃあ…」

やよい「うっうー!またお庭の掃除に行きますね!」

P「おう、今回も綺麗にしてくれな!」

美希「やよいに弥吉さん、またねー!」

弥吉「へい!それじゃあまた!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


小鳥「あら、若先生が来るだなんて珍しいですね?」

P「お久しぶりです小鳥先生、いや今日はちょっと人探しでね?」

美希「小鳥先生こんにちは!」

小鳥「こんにちは美希ちゃん、でも若先生?久しぶりに来てくれたっていうのに人探しのついでなんてがっかりですよ?」

P「健康なのにそうしょっちゅう病院なんてこれませんよ…それで、少し聞きたいことがあるんですが?」

小鳥「人探しですっけ?」

P「えぇ、岩田時彦っていう名前とこの顔に覚えはないですか?」

小鳥「岩田時彦…う〜ん聞いたことありそうでない名前ですねぇ、顔にも覚えがないし」

P「音無医院でもダメかぁ…」

小鳥「ていうことは、手がかりはまだ見つかってないんですか?」

P「そうなんですよ、これがまったく…」

小鳥「若先生がこれはまた珍しいですね」

P「今回も面倒なことにならなきゃ良いんですけどね…」


ガチャン!

春香「小鳥先生!ただいま戻りました!」

小鳥「あぁ春香ちゃん、お帰りなさい!」

P「おぉ春香ちゃん、久しぶり」

春香「あっ、先生!お久しぶりです!」

P「どうだい、仕事には慣れてきたかい?」

春香「仕事って言ってもまだまだお使いぐらいしかできないですけど、一生懸命頑張ってます!」

P「そうかい、それは何よりだ」

小鳥「春香ちゃん、結構筋が良いんですよ?普段がおっちょこちょいなのは玉に瑕ですけど」

春香「小鳥先生っ!それは言わないでくださいよ〜」

小鳥「ふふっ、ごめんなさい!」

P「そうだ春香ちゃん、この顔と岩田時彦っていう名前に覚えはないかい?」

春香「岩田時彦…聞いたような気もしますけど多分勘違いだと思います、顔も覚えがないですし」

P「そうか、ありがとう」

美希「はーるかっ!」

春香「あっ美希も来てくれてたんだね!ってどうしたのその着物?すっごく綺麗だね!」

美希「へへっ、そうでしょ?美希の一番のお気に入りなんだよ?」

春香「良いなぁ〜、先生に買ってもらったの?」

美希「ハニーは甲斐性なしだから買ってくれないの!」

P「おいおい…」
小鳥「あら?事実じゃないんですか?」

P「やめてくださいよ小鳥先生まで」

春香「え?じゃあ律子さん?」

美希「違うよ?あずさなの!」

P「っておい美希!余計なことを」

春香「あずさ?」

美希「あっ…」

小鳥「あずさ…あずさって、あの三浦屋のお嬢さんの事ですか?」

P「あちゃぁ…おい美希、お前はまったくあれほど言うなと釘を刺したのに」

美希「ごめんなさいなの…」

小鳥「その様子だと今回の依頼人はあずささんみたいですね?」

P「はぁ…まぁそんなところです、しかし美希!今日の晩御飯のおにぎりは一個減らすからな」

美希「うぅ…」

P「依頼人の事は極力言っちゃだめなんだからな?」

美希「はい…」

小鳥「そんなに怒ることないじゃないですか、それとも私たちが誰かにこの事をベラベラ話すとでも?」

P「そういうわけじゃないんですが、一応信用の商売なんでね」

小鳥「それはそうですけど、でもそうか…あの子がですか」

P「えぇ、ご存知なんですか?ってまぁそりゃ三浦屋の一人娘なら知ってますか」

小鳥「はい、私映画が好きで結構通り沿いの映画館に行ってるんですけど」

P「キネマ万代にですか?」

小鳥「そうそうっ!そこでよく三浦屋のお嬢さんを見かけるんですよ」

春香「小鳥先生ったら、お仕事抜け出して映画見に行っちゃうんですよ?本当に困っちゃいます」

小鳥「はははっ…その事なら何度も謝ったじゃない」

P「見かけるって、映画館の中でですよね?その時他に一緒にいませんでしたか?」

小鳥「う〜ん、私が見かける時はいつも一人でしたけど、あのお嬢さんほとんど毎日映画館に通ってるみたいですし…」

P「そうですか…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


一週間後


P「はぁ…駄目か」

律子「この一週間かなり調査しましたけど、手がかりはまったくありませんね」

P「近隣の缶詰工場を調べたが岩田時彦なんて名前も、こんな顔のやつもいない…三浦屋の昔話なら出てきたが、今回の件には関係ないだろうな」

律子「警察もあれから連絡がないところを見るとダメそうですね」

P「やっぱり偽名の線が強いのかぁ…」

律子「でも、顔すらも知られていないんですよね?」

P「外から入ってきた人間なら顔が知られていなくても仕方ないな、しかしそうなると」

律子「捜索範囲がとんでもないことになりますね…」

P「お前らが着物なんてもらったせいで、今更断るにも断りきれんし」

律子「なっ!先生だって必ず探し出すなんて安請け合いしてたじゃないですか!」

P「あの場ならそう言うしかないだろう、それにまさかここまで面倒なことになるとは思わなかったんだよ」

律子「それはまぁ、そうですけど…でもそうなると本当にあずささんは騙されていたってことになるんですかね?」

P「そうかもしれないな」
律子「なんともやりきれません…」

P「想い人に騙されたとあっちゃ、そりゃやりきれないだろうなぁ」

律子「色恋と無縁の先生の口から想い人なんて言葉が出ると、ちょっと不思議ですね?」

P「馬鹿言わないでくれ、律子嬢!俺だって色恋の一つぐらい!」

律子「ほう、じゃあ先生にも想い人とやらがいるんですか?」

P「そ、それは…」

美希「決まってるの!」

P「うわっ!いきなり抱きつくんじゃない!」

美希「ハニーの想い人は美希なの!」

P「何を言っとるんだお前は…」

美希「当たり前の事を言ってるだけ!ちなみに美希の想い人もハニーだよ?両想いなの!」

律子「そういえば美希、あんたさっきから台所で何かごちゃごちゃやってたけど…」

美希「あっ、そうなの!はいハニー!それに律子さんも!」

P「はいって、こりゃなんだ?」

律子「これって、おはぎじゃ?」

美希「うんっ!春香から教えてもらって作ってみたの!」

P「そういえば春香ちゃんはこういうのが得意だったな」

律子「小鳥さんも言ってましたね、でもどうしていきなり作ったの?」

美希「美希、この前ハニーに言っちゃダメって言われたことを言っちゃったから…これはそのお詫びの印なの」

P「あぁ、なるほどね…」

律子「まぁ誰にでも失敗はありますから、今度からはちゃんと気をつけるのよ?」

美希「うん!それで、ハニー…」

P「おはぎに免じて許してやろう、ちょうど小腹がすいたところだったしな」

美希「やった!それならさっそく食べて食べて!」

律子「それじゃあ…わっ、これ美味しいですよ先生!」

美希「春香直伝なら当然なの!」

P「ほぉ…美希が料理できるようになるとは」

美希「ハニーの分は特別な味付けをしてあるの!さぁ食べて!」

P「それじゃあ…ん?」パクっ…

美希「美味しいでしょ♪」

P「…」

美希「どうしたのハニー?早く感想を聞かせて欲しいかな?」

P「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
律子「せ、先生!大丈夫ですか!?お水!お水持ってきますから!」

美希「どうしたのハニー!」

P「どうしたもこうしたあるか!なんだこの味は!?」

美希「味って…美希特製の」

P「だからその特製は何を入れたんだと聞いてるんだ!」

美希「えっと、まず最初にハニーが大好きな珈琲の豆をたくさん入れて…」

P「最初から間違ってるじゃないか!」

美希「え?ハニー珈琲好きでしょ?」

P「あんな苦いもん練りこんで食えるわけないだろうが!あぁこんなに珈琲豆使って…」

美希「う〜ん自信作だったんだけどな」

P「良いか美希、物事の肝心はなんでも初めなんだ!」

美希「はじめ?」

P「人と人の出会いもそう、お前は初対面で嫌な奴と仲良くなりたいか?」

美希「嫌な人だと思うからやなの!」

P「そうだろ?料理だってそう、最初からわけのわからんことをするんじゃない!」

美希「はいなの…」
P「俺たちの仕事だってそうだぞ考えを最初から間違ってたら答えに行き着かないだろう?」

美希「うん」

P「だからだ、物事は最初が肝心…」

P「あれ…?」

美希「どうしたのハニー?」

P「最初、そうか…そうだったんだ」

美希「ハニー?」

P「何を俺はバカ正直に…戻ってみればわかることじゃないか!」

美希「え、えっと…」

P「そうか…これは最初から違ってたんだ」

美希「さ、最初から?」

P「おい律子嬢!」

律子「はいはい、今お水を…」

P「そんなことは良いから!今すぐ用意してもらいたいものがあるんだ!」

律子「い、今ですか?」
P「美希は萩原堂に行って新太郎さんに電話を!」

美希「あずさのお父さんに?何かわかったのならあずさに連絡してあげたほうがいいんじゃ」

P「あずささんの為にも新太郎さんに連絡するんだ、頼んだぞ!」

美希「は、はい!」


ガチャン!


P「…」

P「まぁせっかく、作ったんだから食べてやらんとな」パクっ…

P「…」

P「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌日



あずさ「あのっ、父から私に何か聞きたいことがあるという風に伺ったんですが」

P「わざわざご足労いただいてすいません、人相書きの事でもう少しお願いしたいことがありまして…それと少し私どもからもお話をと」

あずさ「お話と人相書きですか?でも人相書きならこの前も」

P「えぇ、ですが先日書いてもらったものよりもう少ししっかりしたものを書かせてもらおうかと思いまして」

あずさ「この前書いていただいた物で充分な気がするんですが…」

律子「あれだとまだ判別が付きにくいですからね、時彦さんを早く見つけるためですから!」

P「是非ともご協力を」

あずさ「そうですね、こちらこそよろしくお願いいたします」

P「それじゃあ律子嬢」

律子「はい…あずささん、これが先日書いた時彦さんの人相書きです」

あずさ「は、はい」

律子「顔はこういう雰囲気であってるんでしょうか?なかなか時彦さんの手がかりがつかめなくて、私も自信がなくなってしまって」

あずさ「とてもよく書けてますよ、本当に本人みたいです」

律子「そうですか、それじゃあこの人相書きを元にして新しいものを作っていきたいと思うので」

あずさ「はい」

律子「それじゃあ…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


律子「こんなもんでどうでしょうか?」

あずさ「もっと本人に近づきましたね、そっくりですよ」

P「…」

律子「そうですか、本当に直すようなところはもう無いんですか?」

あずさ「はい、二回も直させていただきましたから」

律子「先生?」

P「ありがとうございました、それでは」

あずさ「お話、ですか?」

P「えぇ、今日あずささんを呼んだのは他でもありません」

美希「時彦さんの事件が解決したかもしれないの」

あずさ「え?か、解決ですか?」

P「はい、長々とお待たせしましたがなんとか」

あずさ「それは、時彦さんが見つかったということですか?」

P「いえ、残念ながら私どもは時彦さんを見つけることが出来なかったんですよ」

あずさ「見つからなかった…」

美希「そうだよあずさ、時彦さんなんて人はこの世の中に存在していないの」
あずさ「それは、もしかして時彦さんがもう…」

P「いえ、亡くなったというわけではありません」

あずさ「それじゃあ…」

P「元より岩田時彦なんて男、存在していないんですよ」

あずさ「えっと…私には貴方がおっしゃってることの意味が」

P「ですから岩田時彦なん名前の人間は存在していないんです…この万代町の誰もそんな名前に覚えはなかった」

あずさ「それは、彼がこの街の人間じゃないからで」

P「捜索範囲を広めても結果は同じでした、それと貴方が仰っていた缶詰工場もあたってみましたが」

美希「こっちもさっぱりだったの」

P「この人相書きを使ってもやはり該当する人間はいませんでした、しかし顔が知られていないにしても限度がある」

P「まるで幻でも追わされているような気分になりましたよ、顔も名前もここまで引っかからない人探しは初めてでしたから」

美希「いろんなところ歩きすぎて、クタクタなの…」

あずさ「そ、そんな…じゃあ、私は彼に騙されていたということですか?」

P「いえ、それも違いますね」

あずさ「だって、それなら…」

P「先程も言いましたが、岩田時彦は名前ならず顔までも認識されていない人間なんです」

あずさ「だからそれはこの街の…」

P「あずささん、貴方が彼と出会ったのはこの街の映画館でしたね?それなら彼はこの街に来ているということになります」

あずさ「それは最初の時だけで、それからはこの街の映画館ではなく別のところで会っていましたから…」

P「しかしお父様も仰っていたように、貴方は恋人の存在をここ一年全く周囲に感じさせていなかった」

P「それに、貴方はほとんど毎日のようにキネマ万代に通っていたようだ…百歩譲って貴方の言う通り、別の場所で会っていたというのなら」

あずさ「…」

P「それなら一体いつどこで会っていたというんですか?」

あずさ「それは…」

P「それは?」

あずさ「そのっ」

P「…」

あずさ「…」

P「はぁ…」

あずさ「…」

P「そもそもです…時彦という名の人間がいない時点で、偽名の可能性も限りなく低くなるんです」

あずさ「な、何故ですか?」
P「どこの世界に時彦なんて特徴のある名前を偽名に使う人間がいるんですか、そんな名じゃ調べられたらすぐにバレてしまいます」

律子「確かに自分の素性を隠すにしては仰々しい名前ではありますね」

あずさ「…」

P「時彦という存在しない名前、しかし偽名の線も限りなく薄い…こうなるとひとつの考えに私は行き着きました」

あずさ「考え?」

P「えぇ、あずささん…貴方が仰っていた岩田時彦は存在しない」

P「貴方が作り出した、架空の人物であると」

あずさ「そんな!私が嘘をついているというんですか!」

P「その通り、私は貴方が嘘をついていると思っています」

あずさ「いくら時彦さんが見つからないからって、そんな無茶苦茶な!」

P「無茶苦茶なのは貴方の方ですよ、居もしない人物を探せだなんて…お陰で随分と苦労させられました」

あずさ「だから居もしないだなんて、貴方が勝手に言っているだけで!」

P「まぁ落ち着いてください…律子嬢、人相書きを出してくれないか」

律子「はい…」

P「これを見て下さい、貴方に先ほど協力してもらって作った人相書きです…間違いないですか?」

あずさ「えぇ、そうですが」

P「右は先日書かれた物…左は今日、これを元にしてより詳しく書かれた物、そうですね?」

あずさ「はい、ですからそれが…」
P「今日書かれた人相書き、これを見た貴方はとても時彦とよく似ていると言いましたね?」

あずさ「い、言いましたが」

P「そうですか…しかしそうなると、やはり貴方が嘘をついていることを証明してしまう」

あずさ「どういう意味ですか」

P「実はこの右側の人相書き、先日貴方の前で書かれたものではないんですよ」

あずさ「えっ?」

P「この右側の物は昨日、律子嬢が先日書かれた本物から特徴を少しづつ変えた物なんです」

律子「変えたといっても、本当に少しですよ?でも…」

P「ただ、人相書きの全ての部分に手を加えてあるんです…一見すると右側の物と先日の物は変わらないようですが」

あずさ「それなら、何も問題ないんじゃ?」

P「いえ、これが問題があるんですよ…まぁ見てもらえればわかると思いますが、美希?」

美希「はいなのっ!」

P「これがその人相書きです」

あずさ「…」

P「昨日書いたものとこれを並べてみると、まぁ多少の違いはありますが同一人物の絵と見ることはできます…しかし」

律子「今日書いたものとこれを比べてみると」

あずさ「っ…!」

P「お気づきですね?」
美希「ぜーんぜん違う人になっちゃうの!」

P「そう、一枚目を三名目の人相書きはまったく異なる人になってしまっているんです…手を加えたものに更に手を加えてるんですから当然ですが」

あずさ「それは…」

P「会う頻度が少なかったとは言えです、いくら何でもここまで違う顔が出来上がることはありえるんでしょうか?」

あずさ「…」

P「人の記憶というものはあやふやな物です、しかし恋人の顔を忘れるということは普通ありえない」

P「しかしです、架空の人物であれば話は別だ」

律子「あずささん…いくら架空の名前や職業を見繕うことができても、顔となると話は別なんです」

あずさ「…」

P「岩田時彦という名前…おそらく役者の岩田祐吉と英パン、岡田時彦からとった名前じゃないんでしょうか?」

P「街の人間に時彦の名前を聞いて回った時、多くの人がその名前にどこか引っかかった様子だったんですが」

律子「人気役者と同じ名前ならどこかで聞いたことがあるはずです」

P「今回の見合い話、お父様からだいぶ強く進められていたようですね」

P「しかし貴方はその話を受けたくなかった、とにかく断りたかった」

P「それでもお父様から強く進められれば、理由もなしに拒絶することはできない」

律子「そこでついた咄嗟の嘘が恋人の存在だったんですね?」
P「だが、嘘を突き通すためにはその嘘に嘘を塗り固めていかなくてはならない」

律子「名前、職業…果ては顔までも」

P「貴方は焦ったはずだ、恋人がいるといえば見合いの話がなくなる程度に思っていたはずが、お父様に恋人を連れてこいと言われてしまった」

P「何とかその場は誤魔化したかもしれませんが、そうそう長く誤魔化しきれるわけがありません」

P「しかし嘘がバレてしまえば再び見合いを受けさせられてしまうだろう」

律子「そしてまた貴方は嘘をついた、今度は恋人が行方知れずになってしまったと…」

P「もちろん、まさかお父様が探偵まで使って恋人の行方探しまでやるとは思っていなかったでしょうがね」

あずさ「…」

P「あずささん、そろそろ本当の事を話してくれませんか…もうこれ以上嘘を付く必要なんてない」

あずさ「…」

美希「あずさっ、本当の事を言って」

律子「あずささん」

P「…」

あずさ「私は」

P「はい…」

あずさ「私はただ、運命の人に出会いたいだけだったんです」

P「運命の人?」

あずさ「こんな家柄ですから、子供の頃から籠の鳥のように生きてきました…もちろんこの歳になるまで恋の一つもしたことがありません」

P「…」

あずさ「子供の頃は特に厳しくて、他の子供たちみたいに外で元気に遊ぶことすら許されていませんでした」

あずさ「でも、そんな子供時分にも唯一楽しめることがあったんです」

P「それが映画ですか」

あずさ「はい、それでもたまにでしたけど…父に連れられて行く映画館は、当時の私にとって本当に大きな世界だったんです」

あずさ「剣劇の忠臣蔵や喜劇、どれも本当に楽しいものでした…でも、その中でも一番私が惹かれたのは恋を扱った映画」

あずさ「その映画の中の女性は本当に綺麗で、そして本当に自由でした…生き方も恋愛も、その時の私では考えつきもしない生き様」

P「…」

あずさ「そんな映画を見て子供の私は思ったんです…私もいつかこんな恋がしてみたい、私もいつかこんな風に綺麗になりたいって」

あずさ「お恥ずかしい話ですが、この年になってもその気持ちに変わりはないんです」

P「なるほど…」

あずさ「自分の運命の人は自分で見つける、あの時の自分の気持ちを裏切りたくはないんです…だからっ」

P「だから、こんな嘘をついてまで見合い話を断ろうとした」

あずさ「はい、これまでも何度もお見合いの話を断ってきていたんですが、今回は父もなかなか折れてはくれなくて…皆さんには本当にご迷惑をお掛け致しました…」

P「気にしないで下さいとは流石に言えませんが…しかしどうしてまた貴方はこんな強引な手法でお見合いを拒絶したんですか」

あずさ「どうしてって…」

P「貴方のその気持ちを、お父様にぶつければ良かったのではないですか?そうすればこんな事にはならなかったかもしれない」

あずさ「ぶつければって…そんな事を言って父が見合いの話を断るとは…」

P「どうしてですか?現に恋人の存在を知ったお父様は見合いの話を断られたじゃないですか」

あずさ「それは、そうですけど」

P「貴方のお父様はお父様は貴方が思っているよりもっと頭の柔らかい方ですよ、と言っても過去のトラウマが原因のようですが」

あずさ「トラウマ…ですか?」

P「あずささん、貴方、お父様にお姉さまがいた事はご存知でしたか?」

あずさ「はい、でも父がまだ成人する前に亡くなったと…」

P「亡くなった経緯まではご存知ではないようですね?」

あずさ「は、はい」

P「ここに来る前にお父様に会って直接伺ったんですが、実は貴方のおば様…心中しておられるんですよ」

あずさ「心中…ですか?」

P「えぇ、無理に見合いをさせられて恋人と離れ離れにされたのが原因のようです、見合い相手の家に嫁ぐ数日前にその恋人と川に身を投げて…」

あずさ「そんなことが…」

P「最愛の兄弟をこうして亡くされたお父様ですから、その辺りの事は貴方がしっかりと気持ちを伝えれば、わかってくれると思いますよ」

あずさ「でも…」

P「あずささん…貴方の映画好きの理由、子供の頃にお父様に映画に連れて行ってもらったからなんでしょう?」

あずさ「はい」

P「それなら、貴方に運命の人を見つけようとする気持ちを与えてくれたのはお父様じゃないですか、きっと大丈夫ですよ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


律子「しかし今回の依頼は本当になんというか…」

P「あぁ、全身から力が抜けてしまったよ」

律子「でも依頼料はかなりのものでしたね、迷惑料も頂きましたし」

P「新太郎さんとあずささんの、あの謝りようったらなかったけどな」

美希「美希、あんなに綺麗な土下座はじめて見たの!」

律子「往来でいきなりあんな事されたら、こっちの方が恥ずしくなりましたよ」

P「でもまぁ、あずささんも自分の気持ちを新太郎さんに伝えられたみたいだし、とりあえずは一件落着じゃないのか?」

律子「お父様もあずささんの気持ちをわかってくれて、見合いはもう受けないって言ってくれましたしね」

美希「あずさも嬉しそうだったの!」

P「可愛い可愛い一人娘だからな、最初からあずささんがちゃんと伝えてくれていれば新太郎さんも言うこと聞いてくれていたろうに」

律子「それはそうですけどね、そのおかげで依頼料が入ったんですから」

P「そういうふうに考えると本当に難儀な商売だと思うよ…よそ様の困り事で飯を食うなんて」

美希「そうかな?美希はそんなに嫌なお仕事じゃないと思うよ?」

P「そりゃあ、お前はそうかもしれんが…」

美希「春香もやよいもあずさも、事件を解決したらみんな笑顔になったんだよ!それってとっても嬉しいことじゃない?ハニーもそうでしょ?」

P「まぁ、それはな…」

美希「なら探偵はとってもいいお仕事なの!」

P「…」

律子「先生、美希に言いくるめられてますよ?」

P「た、たまにはそういう事もあるんだよ」


コンコンッ…


律子「あら、誰か来たみたいですね?私ちょっと行ってきます」

P「あぁ、頼むよ」

美希「ねぇねぇハニー」

P「ん?どうしたんだ美希?」

美希「美希、前から思ってたんだけど…ハニーって秘密がとっても多いと思うの」

P「秘密?お前、これだけ四六時中俺の後を付け回してるくせに良くそんなことが言えるな?」

美希「むぅ〜…違うの!美希とハニーが出会う前の話!」

P「会う前って、そんなに大層な秘密俺には無いぞ?」

美希「嘘っ!絶対に隠してることがあるの!」

P「隠してることって、例えばどんなことだよ?」
美希「う〜ん例えば…そうだ!昔の女の子のこととか!」

P「生憎甲斐性なしなもんでね?浮いた話の一つもありゃしないよ」

美希「怪しいの…ハニーが皮肉を言う時は何かごまかしてるときなの」

P「わけのわからんことを行ってなくていいから、お前はさっさと掃除でもしてなさい」

美希「そうやってごまかして!むぅ〜…」

律子「先生!先生宛に手紙が来ましたよ」

P「手紙?誰からだ?」

律子「四条家のお嬢様からですね、近いうちに家に来て欲しいって書いてありますけど」

P「」
美希「おじょうさま?」

P「…」

美希「お掃除はやめなの、ハニー?聞きたいことができたんだけど」

P「俺が喋ることは特にないんだが…」

美希「美希にはあるの」

P「しかs」

美希「美希にはあるの」

P「…」

美希「じーっくり聞かせてもらうからね?ハニー、覚悟しておくの」

P「か、勘弁してください…」



事件3 「想い人を探せ」 完

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
美希「ハニー…まだつかないの?」

P「もう少しだから我慢しろ、ほらっ…さっさと歩く」

美希「もう限界なのっ…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
美希「ここほれわんわんなの!」

P「楽しそうにしやがって…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
美希「ハニーは美希のハニーなのっ!」

P「お前も張り合わんでいい…」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
貴音「あなた様の婚約者は私なのですよ?」


事件4「四条家の秘宝を探せ」




おわり
>>66

うんそれそれ

12:30│星井美希 
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