2014年09月05日

黒川千秋「気高きプライド」


子供の頃から歌が好きで



千秋「お願い シンデレラー♪」





数え切れないクラシックを聴き



千秋「夢は夢で終われない♪」



音楽の勉強もたくさんした



千秋「叶えるよ 星に願いをかけたなら♪」



歌なら誰にも負けない自信がある



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千秋「見つけよう My only star♪」



私の夢は、この歌声を世界に轟かせること



千秋「まだまだ小さいけど♪」



その夢を叶えるために



千秋「光り始めてる 輝く日のために♪」



私はアイドルになった



__

_





千秋「どうでしたか?」



ボイストレーナ「相変わらず綺麗な歌声ねぇ 惚れ惚れしちゃうわ」



千秋「ありがとうございます」



ボイトレ「ただ…」



千秋「ただ?」





ボイトレ「なんていうか…千秋ちゃんの歌には感情がこもってないの」



千秋「感情…?」



当然だ



こんなちんけなポップスに感情などこもるわけない



私が歌いたいのはもっと…





ボイトレ「えぇ、もっと聴く人が楽しくなるような」



千秋「…それは、歌に必要なことですか?」



ボイトレ「当たり前じゃない あなたはアイドルなんだから」



千秋「アイドル…」



アイドルなんて、夢を叶えるための通過点に過ぎない





ボイトレ「じゃあ次はもっと心を込めて歌ってみましょうか」



千秋「今日の練習時間はもう終わりのはずですが」



ボイトレ「少しくらいいいじゃないの」



千秋「これ以上の練習は喉を壊しかねません、これで失礼します」スッ



ボイトレ「あっ!千秋ちゃん!?」



千秋「…」ツカツカ



ボイトレ「…」



ボイトレ「…フンッ、可愛げのない子」ボソッ



千秋「…」ツカツカ



聞こえてるっての





千秋「そういえば明日からマストレさんのレッスンだったわね」



千秋「少し、見学しにいきましょう」



アイドル事務所に入ってから半年ほどが経つ



が、来る日も来る日もレッスンの毎日



時々くる仕事は小さなライブくらい



本格的な歌の仕事はしたことがない



解せない どうして私の歌は評価されないのだろう



確実に、この事務所の中の誰よりも上手いのに



私より歌が下手なアイドルがCDデビューしている



千秋「例えば…」チラッ



マストレ「こらっ姫川!ステップ遅れてるぞ!」



友紀「そ、そんなこと言ったってー!」ハァハァ





姫川友紀さん



私と同期で年齢も同じだ



彼女はソロではないものの、CDを出している



彼女個人のCDデビューも決まっているらしい



どうして彼女なの?



ダンス…については私も人のことを言えないけれど



歌は確実に私の方が上



なのにどうして…





どんっ!



千秋「?」



マストレ「何を転んでいるんだ!立てっ!」



友紀「ちょっと!ちょっとタンマー!」ゼェゼェ



みりあ「あはは!」



莉嘉「友紀ちゃんったらおかしー!」ケラケラ



千秋「」ピク



千秋「あなたたち」



マストレ(黒川…?)

千秋「ここはレッスンをする場所なのよ」



千秋「真面目にやる気がないなら帰りなさい!」



莉嘉「ひっ…」



みりあ「ご、ごめんなさい…」



友紀「まぁまぁ千秋ちゃん、そんなに怒らなくても…」



千秋「あなたもよ、姫川さん」



友紀「え?」



千秋「CDデビューが決まってるのにいつもヘラヘラして」



千秋「あなたはなんでアイドルをやっているの?」



千秋「あなたみたいに何も考えてないような人が私は一番…」



マストレ「黒川、それ以上はよせ」



千秋「っ!……」



千秋「……邪魔して、ごめんなさい」



千秋「失礼します」



友紀「あっ!千秋ちゃん…」



マストレ「…」





女子寮 千秋宅



千秋「ただいま…」



千秋「…」



千秋「私は…何をしているのかしら…」





姫川友紀にぶつけた言葉



完全にただの負け惜しみだった



無口な私がよくもまぁあんなにつらつらと話せたものだ



醜い嫉妬、激しい自己嫌悪の波がおし寄せる



もうアイドルなんて辞めてしまおうかしら



__

_





千秋「もうこんな時間…」



千秋「ご飯…は食べたくないわ…」



千秋「何もしたくない…」



千秋「シャワーを浴びて、もう寝ましょう…」





翌朝



千秋「結局ほとんど眠れなかった…」



ここの所、眠れない夜が続いている



しかし、レッスンに行かなくてはならない



鏡を見ると、やつれた女が映っていた



ひどい顔だ、とてもアイドルとは思えない



今日のレッスンは大丈夫なんだろうか



千秋「行ってきます…」





事務所



千秋「おはようございます…」



ちひろ「おはよう…って!千秋ちゃんどうしたの!?すごいクマよ!」



千秋「少し…寝不足で…」



ちひろ「今日のレッスン、おやすみにした方がいいんじゃない…?」



千秋「そういうわけにはいかないわ」





ちひろ「で、でも…」



千秋「大丈夫よ、それじゃあ行ってくるわ」



ちひろ「無理しないでね…?」



ばたん



ちひろ「大丈夫かしら…」





レッスンルーム



千秋「はぁ…はぁ…」



マストレ「何をやっている!完全に動きが遅れてるぞっ!」



千秋「す、すみませんっ!」



体が動かない



足がいうことを聞いてくれない



今にも倒れそうだ



でも、ここで負けるわけにはいかない



ここで負けたら、私は…





千秋「あっ…」フラッ



マストレ「おっと」ガシッ



千秋「はぁはぁ…」



マストレ「大丈夫か?」



千秋「す、すみません、もう一度最初から…」



マストレ「…」



マストレ「今日のレッスンはこれで終わりだ」



千秋「えっ…?」



マストレ「黒川、お前疲れているんだろう?」



千秋「そ、そんなことは…」



マストレ「長いことトレーナーをやってるんだ、それくらいわかる」



千秋「…」



マストレ「今の状態でレッスンを続けても体を壊すだけだ」



千秋「このくらい平気です!続きを…」



マストレ「黒川っ!」



千秋「!」ビクッ



マストレ「大丈夫だから…なっ?」ニコッ



千秋「…」



千秋「はい…」





休憩室



千秋「…」



昨日あんな偉そうなことを言っておいて自分はこの様だ



情けない



私は本当に、何をしているんだろう





千秋「…」



千秋「うぅ…」



千秋「ひっく…うぅぅ…」グスッ



「君に涙は似合わないぜ」



千秋「えっ…?」



友紀「はい、ハンカチ」すっ



千秋「姫川さん…?」

__

_





友紀「落ち着いた?」



千秋「えぇ…ありがとう…」



友紀「いいってことよ!」ニッ



千秋「あの…姫川さん…」



友紀「ん?」



千秋「昨日は…ごめんなさい…」



友紀「昨日?あー、いいっていいって」



千秋「でもあたし、あんなひどいことを…」



友紀「もう忘れたって!」



友紀「それより千秋ちゃん、このあと空いてる?」



千秋「この後…?まぁ、レッスンもなくなっちゃたし…」



友紀「へへっ、じゃあ少し付き合ってよ」



千秋「…?」





__

_





友紀「とうちゃーく!」



千秋「ここって…居酒屋…?」



友紀「そうだよ、ここ昼間からやってるんだ」



千秋「昼間からお酒なんて…」



友紀「たまにはいいじゃん!千秋ちゃんは真面目すぎるんだよ」





千秋「でも…」



友紀「ほらいくよっ!」グイッ



千秋「あ、ちょっと…」



がらがら



店員「いらっしゃいませ!こちらの席へどうぞー!」



友紀「よいしょっと」



友紀「とりあえず枝豆とたこわさとビール…千秋ちゃんは?」



千秋「あっ、えっと…それじゃあハイボールを…」



店員「かしこまりました!」





店員「お待たせしましたー!」



友紀「ありがとうございまーす」



店員「ごゆっくりどうぞー!」



友紀「それじゃ、千秋ちゃん」



友紀「乾杯っ♪」



千秋「か、乾杯…」



友紀「…」ゴクゴクゴク



友紀「かぁー!!うまいっ!」プハー



千秋「すごい飲みっぷりね…」



友紀「この1杯のために生きてるからね」



千秋「ふふっ、何よそれ」



友紀「はいっ!その顔!」



千秋「…?」



友紀「千秋ちゃんは笑った顔が可愛い!」



千秋「え…?//」



千秋「な、何なの?急に…//」



友紀「千秋ちゃん昨日、私はなんでアイドルやってるのかって聞いたよね?」



千秋「えぇ…聞いたわね」



友紀「私はみんなを笑顔にするためにアイドルをやってるの!」



千秋「みんなを…笑顔に…?」



友紀「うん」



友紀「最初は、アイドルになればキャッツの選手に会えるかなー?ってくらいの軽い気持ちで始めたんだけど」



友紀「でも、初めてライブをした時…小さなライブだったけど、私の歌や踊りを見てお客さんが笑顔になってくれたんだ」



友紀「それが嬉しくて、アイドルって楽しいなって思ったんだ」



友紀「お仕事やレッスンでツラいこともあるけど…」



友紀「みんなの笑顔を見ると、そんなのも忘れちゃうくらい楽しいの!」



友紀「だから私はアイドルをやっているんだ!」



千秋(これが…)



千秋(これが私と姫川さんの…)



友紀「千秋ちゃん、聞いてる?」



千秋「え?うん、聞いているわ」



友紀「むむっ、リアクション薄いな〜」



友紀「そういう千秋ちゃんはなんでアイドルになったのさ?」



千秋「えっ、私?」



友紀「そーそー」



千秋「私は…」



千秋「子供のころから歌が好きで」



千秋「数えきれないクラシックを聴いて、音楽の勉強もたくさんした」



千秋「歌なら誰にも負けない自信があった」



千秋「私の夢は、自分の歌声を世界に轟かすこと」



千秋「その夢を叶えるためにアイドルになった」



友紀「ふむふむ」



千秋「でも…」



友紀「でも?」



千秋「私の夢を叶えるのと、アイドルとして成功するのとは違う…」



千秋「あなたの話を聞いて、ようやくわかったわ」



千秋「私ね、歌やダンスが上手ければトップアイドルなんてすぐになれると思ってた」



千秋「でも、そうじゃない」



千秋「どんなに綺麗な歌声でも、どんなに華麗なダンスでも」



千秋「人を楽しませようとする気持ちがないと意味がない」



千秋「それが私と姫川さんの決定的な違い」



千秋「私は、自分の目標のためだけにアイドルをやっていた」



千秋「自分の夢を叶えるためだけに…ね」



千秋「私はアイドルについて何もわかっていなかったわ…」



千秋「また…一からやり直しね…」



友紀「…」



友紀「大丈夫だよ、千秋ちゃん」



千秋「えっ…?」



友紀「千秋ちゃんなら、すぐに次のステップへ進めるよ!」



千秋「そう…かしら…?」



友紀「うん!だって千秋ちゃんの笑った顔可愛いもん!」



千秋「え…?//」



友紀「あっ!照れてる顔も可愛いね!」



千秋「からかわないでちょうだい!//」



友紀「怒った顔も素敵よ千秋ちゃん!」



千秋「も、もう!//」



友紀「あははっ!千秋ちゃんの新しい一面に乾杯!」



翌日



千秋「ねぇ、友紀 本当にやらなきゃいけないの…?」



友紀「とーぜんっ!」



千秋「でも…やっぱり…」



友紀「あ、ほら来たよ 行きなって!」ドンッ



千秋「きゃっ!」



莉嘉「あ…」



みりあ「千秋さん…」





千秋「あ、あの…二人とも…」



千秋「この前は怒ったりして ご、ごーめんね!」シュビッ



莉嘉「え…?」



みりあ「千秋さん…?」



千秋「許してちょんまげ!」シュビッ



莉嘉「…ぷふっ、あはは!」



みりあ「り、莉嘉ちゃん!笑ったら…ふふっ」プルプル





千秋「いいのよみりあちゃん、笑っても」



みりあ「えっ?」



千秋「笑いたい時には笑うものよ」



千秋「アイドルはやっぱり、笑顔じゃないとね」



みりあ「…?」



__

_





友紀「なかなかよかったよ、千秋ちゃん」



千秋「うぅ…恥ずかしくて死ぬかと思ったわ…」



友紀「今のは全部スマホで録画してたからね」



千秋「えっ」



スマホ「千秋『許してちょんまげ!』シュビッ」



千秋「やっ、す、すぐに消しなさい!//」



友紀「やーだよー!」



千秋「もう!友紀!//」



友紀「へへっ、昨日千秋ちゃんがトイレでうずくまってたのもあるよ!」



スマホ「千秋『うぅ〜、苦しい…』」



千秋「」



友紀「千秋ちゃんったら寝不足のくせにあんなに飲むから」ウププ



千秋「全部消しなさーい!//」





私の夢



それは自分の歌声を世界に轟かすこと



そして



その歌声で、世界中を笑顔にすること





おわり





21:30│黒川千秋 
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