2013年11月24日

モバP「誰がために鐘がなる」

凛「やっぱりプロデューサーはホモだと思う」

加蓮「ぽいよね」

未央「反論出来ませんなー」


奈緒「そんなことない……よな?」

卯月「違うと思うけどなぁ」

ありす(またひどい話をしていますね)ピコピコ

未央「だってさ。私がこの前、ちょーっときわどい衣装で抱きついても慌てなかったよ?」

卯月「でも私がブルマ履いたときはちょっと嬉しそうだったし
   未央ちゃんの時だって服装褒めてたよね」

奈緒「いや、あいつの褒めるって……」

加蓮「聞いてないけどどうせ『いいねぇ。最高だよ、おっぱい』とかセクハラでしょ?」

未央「そのうち捕まりそうだよね」

凛「それは異議なし」

加蓮「全員一致だね」

奈緒「お、男だから仕方ないんだろ」

加蓮「フーン?」

未央「おやおやー?」

凛「奈緒は本当にプロデューサーにぞっこんだね」

奈緒「ちげーよ! 一人くらい味方してやんないと可愛そうだろ!」

卯月(カワイイ)

奈緒「でもさ、こう弁明すればするほどなんかあいつって本当にそうなんじゃないか
   って思えて来るんだよな……」

凛「ついに奈緒にさえ見放されるなんて」

未央「この前のお風呂事件の影響もでかいね」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381647116

奈緒「あれはなぁ……」

卯月「あの時現場にいたのは私と奈緒ちゃんだけだっけ?」

加蓮「そうだね。確か聞いた話だと脱衣室にアレが出て……」

奈緒「そうそう。で、騒ぎになってPが駆けつけたんだけど
   その、脱衣室だからさ。裸の人とかいるんだ。アタシは大丈夫だったけど」

卯月「それでパニックになってた鷹富士さんとイヴさんが抱きついて」

未央「全裸でサンドイッチ?」

加蓮「意外だよね。あの二人はあまり虫とか動じなさそうなのに」

凛「……わざと?」

奈緒「まさかそんなはず……いや、でも抱きつきながら笑顔だったような」

未央「全裸でサンドイッチにしながら?」

卯月「うーん。言われてみれば……」

加蓮「でもPさんは全く動じなかったと」

奈緒「うん。で、アレを素手捕まえてそのまま出てった」

凛「やっぱりおかしいよ。だってあの二人に抱きつかれたんだよ?」

未央「全裸でサンドイッチ?」

奈緒「全裸全裸うっせーよ! そうだよ全裸だよ!」

加蓮「あの二人の全裸だもんね……」


イヴ(81)『あはは〜』

茄子(88)『うふふ〜』


未央(84)「あの強力な兵器すら効かないなんて」

卯月(83)「で、でもプロデューサーもアレが苦手で余裕がなかったってことも!」

奈緒(83)「でもアクビしながら出てっただろ」

加蓮(83)「もしかしてさ……小さいほうがいいとか?」

凛(80)「そう。ありえるね。うん。それかもしれないね。うん」

加蓮「凛……」

奈緒「もしかしてロリコン……?」

ありす「」ガタッ

未央「どーどーどーどー」

ありす「」スゥ
加蓮「ロリコンだとしたらちょっと勝ち目ないよね。諦めないけど」

凛「難しいね。諦めないけど」

奈緒「お、おう。そもそもこの事務所で一番あいつの好感度が高い奴って……」

卯月「みくちゃんだね」

未央「間違いないね」

加蓮「正直付き合ってるんじゃないかって思うくらいだよね」

凛「だけど双方否定してるよね」

卯月「みくちゃんも『Pちゃんはいい人だけど付き合うのはちょっと……』って
   真面目な回答してたしね」

奈緒「あんな真面目なみくは初めて見た」

未央「んー、じゃあここは特別ゲストに話を伺おう。
   ということでここまでを踏まえてどうですかね」

P「そうだな。お前らがバカだってことはよくわかった」

加蓮「バカでもいいけどどうすればPさん落とせるか教えてよ」

P「お前らさ。八百屋が店先に並んだ商品を齧った後並べるか?
 並べないだろ? それと一緒だよ。お前らは八百屋のトマトと一緒」

卯月「私は苺のほうがいいです!」

P「そういう話じゃねぇよ!」

凛「じゃあプロデューサーは何が好きなの?」

P「あー、夏はキュウリかな」

奈緒「そういう話じゃねぇよ!!」

未央「もうホモでいいよね」

P「諭すように言うのはやめろ」

加蓮「具体的に誰が好きなのか言ってよ」

P「具体的に? うーん……」

六人「」ゴクリ
P「……復活の声?」

※参考画像
http://minus-k.com/nejitsu/loader/up265353.jpg

ありす「火柱ァ!」

P「やめろぉ!」

奈緒「鹿じゃねぇか!!」

加蓮「復活の声ってなんだろう」

凛「とりあえず鹿らしいね」

卯月「ゲームかアニメかな……」

未央「せめて人で回答してよ」

P「人で? うーん……ああ、いたわ」

凛「それは?」

P「エーリカ・ハルトマン」

※参考画像
http://minus-k.com/nejitsu/loader/up265354.jpg

奈緒「ウィッチじゃねぇか!!」

凛「誰?」

卯月「ウィッチって魔女だよね?」

加蓮「またアニメかゲームかな」

ありす(このキャラ、パンツのまま空飛んでる)スースーポンポン

未央「オーケー。わかった。せめて事務所内の人間にして」

P「ワガママだな。事務所内だと……ちひろさんかな」

凛「賄賂はいくら?」

ちひろ「凛ちゃんそれはどういうことかな?」

加蓮「だってねぇ」

未央「うん」

卯月「ちひろさんですからね!」

ちひろ「プロデューサーさん。この事務所での私のイメージが最悪なんですが」

P「ありす。話があるからちょっと来て」

ちひろ「フォローしてください……」

奈緒「なんでありす? まさか」

凛「やっぱり」

ありす「四年待ってくれるんですね!」

P「あ、いや、とりあえず応接室な」

ありす「はい!」
テクテクバタン

未央「しまむー! コップ! コップ持ってきて!」

卯月「あいあいさー!」

加蓮「あれで本当に聞けるもんなのかな」

奈緒「さーな。でも応接室に二人っきりで何の話だろう」

凛「……ああ、わかった。そういうことか」

加蓮「カレンダーに書いてあるの? ……あ、そっか。Pさん明日いないんだ」

奈緒「明日って確か……」


P「まぁ座って……いや、別にいいか」

ありす「いえ、大事な話なんですからきちんと座りましょう」

P「お前はいつまで勘違いしてるんだ。ほら、これ」

ありす「なんですか、これ」

P「あー、俺明日いないからさ。ほら、その誕生日プレゼントってやつだ」

ありす「あ、ありがとうございます」

P「今年で十二歳か……ん、あれ十三……いや、十二であってるな」

ありす「十二歳ですよ。担当アイドルの年齢ぐらい覚えていてください」

P「すまんな。でも嬉しそうで何よりだ。ここで開けなくていいのか?」

ありす「家に帰ってから開けます」

P「返品するなら今だぞ」

ありす「Pさんからのプレゼントを返すなんてありえません」

P「じゃあそれは懐にでも仕舞ってくれ」

ありす「はい」
ガチャ

未央「お、帰って来た。誕生日プレゼントなんだった?」

ありす「まだ開けてません。家で開けようかと」

卯月「プロデューサーって誰かの誕生日にはいつもプレゼント上げてましたね」

奈緒「どうせ上げることバレてるんだから二人っきりにならなくていいだろう」

P「別にいいだろ」

凛「あ、顔赤い」

加蓮「照れちゃって。ふふっ」

P「うるせー! ばーかばーか!」

ちひろ「あれ……私貰ったこと無いんだけど……」

P「ちひろさんの誕生日知らないんで」

ちひろ「」

P「そういえば夏に大きなイベントがあるんだけどさ、未央」

未央「なに?」

P「そのイベントのメインキャンペーンガールな」

未央「……まじ?」

P「まじまじ。多分今までで一番大きな仕事だと思うから」

未央「が、ガンバリマス!」

卯月「あ、それ私のセリフ」

加蓮「未央おめでとー」

奈緒「確かに夏っぽいからぴったりだな」

凛「うん。合ってると思う」

P「それとトライアド三人組もユニットで出るからな」

卯月「あれ、私は?」

P「多分ソロかな」

卯月「出れるんですね! 頑張ります!」
P「舞台は沖縄だ! 自由時間に遊べるぞ!」

五人「おー」

P「というかイベント後に全員二日間のオフ入れてるからちょっとした旅行だ!」

五人「おー!」

P「ライブに向けて頑張るぞー!!」

五人「おー!!」

P「……そういえばありすは?」

ちひろ「そこでプロデューサーからのプレゼント見ながらにやにやしてます」

ありす「……ふふ」ニヤニヤ

P「ただの猫のストラップだしあまり期待されても困るんだがな」

ちひろ「それでもプレゼント貰えるのは嬉しいもんなんですよ」

P「ちひろさんもですか」

ちひろ「そりゃあ嬉しいですよ」

P「じゃあ今度考えておきますよ」

ちひろ「本当ですか? 約束ですよ。嘘ついたら死んでも労働させますよ」

P「こえー……この人こえー……」
マストレ「奈緒! 手をもっと上げろ! 凛! 走りすぎだ! 加蓮は遅れてるぞ!」

P「やってるねぇ」

マストレ「おや、P殿。時間にはまだ早いだろう?」

P「俺のかわいいアイドルがどのくらい成長したか見に来たんだ。
 仕上がりは良さそうだな」

マストレ「そうだな。個人的にはもう少し上達しそうなんだが……。
     奈緒! そこのステップはもっと大きく!」

P「おー怖い怖い。少しはお手柔らかに頼むよ」

マストレ「言われなくても無理はさせんさ。
     そういえばイベントに参加するとは聞いたが詳細は決まっているのか?」

P「んーまぁな」

マストレ「ほう。彼女たちには教えないのか」

P「直前で教えようかと思ってね。
 それに相手がわかったからといってやることが変わるわけでもない」

マストレ「なんにしろ全力は尽くすということだな。
     止め! 十分休憩ー!」

加蓮「み、水……」

凛「さすがに……」

奈緒「死ぬ……」

マストレ「人数分のスポーツドリンクは用意してあるから安心しろ」

P「その調子で頑張れよ」

奈緒「Pさんからも言ってよ。このままじゃライブ前に死んじまうぞ」

P「安心しろ。彼女はプロだ。お前らの限界を見誤ることなんてない。
 それに厳しいのはお前らにはまだ成長の余地があるからだ。
 彼女にすごい期待されてるってことだぞ。ボンクラだったら速攻見限ってるのに」

マストレ「見限りはしないさ。あっちから逃げるだけだ」

P「まぁこのしごきに耐えて頑張っているお前らはすごいということだ。
 自信を持て。俺だって期待してるんだしな」

凛「そっか」

加蓮「そこまで言われたら……」

奈緒「やるしかないよなぁ」

P「やる気になってもらえてなによりだ」

加蓮「でもまだ足らない」

P「何が欲しいんだ?」

加蓮「ぎゅーって抱いて」
奈緒「ちょっ」

凛「待って。私も足りないから抱いて」

奈緒「えっ」

P「え、イヤだ。お前ら汗びっしょりなんだもん」

奈緒「おい! そこは抱いてやれよ!」

P「この背広高いんですわ」

マストレ「P殿……」

P「わかったよ! わかった!
 ただしちゃんとシャワー浴びて汗をきっちり流してからな!」

凛「よし」

加蓮「頑張ろう」

奈緒「お前ら……」

P「じゃあ俺は他のところ行って来るわ。マストレさん。あとお願いします」

マストレ「任せたまえ。きっちりしごいてやろう」

ガチャ

P「やれやれ。年頃の女の子があんなんでいいのかね」

ありす「よくないと思います」

P「いつからいたんだ」

ありす「先ほどからです。Pさん、私も抱いてくれますか」

P「お前、一個前のセリフと言ってること矛盾してないか」

ありす「私はいいんです。はやく屈んでください」

P「最近ハグがブームなの? 欧米式プロダクションなの?」

ありす「早く。もう休憩時間終わっちゃいます」

P「仕方ないな……。よし、汗っぽくないな。ほら、ぎゅーっと」

ありす「んっ……」ギュー

P「よしよし」

ありす「……絶対に待っててくださいね」ギュー

P「前にも言っただろ。ありすが大人になって身長が170越えて
 バストが85オーバーしたら考えてもいいって」

ありす「……努力します」ギュー

P「ニセモノはわかるからな。天然物限定だぞ」

みく「Pチャン小学生にセクハラはよしたほうがいいにゃ」
P「おー、みく。お前も休憩か」

みく「みくはもう終わりにゃ。橘ちゃんはもう時間じゃないかにゃ」

ありす「あと三分……」ギュー

P「時間厳守」

ありす「うー……また抱いてくださいね。必ずですよ」

P「行ったか……」

みく「Pチャンも仕事終わり?」

P「んー、もうちょい残っているがトライアドの連中を待たなきゃならん」

みく「何かあったにゃ? 焼肉ならついていくにゃ」

P「いやー、かくがくしかじかというわけだ」

みく「相変わらずのデレっぷりにゃ」

P「いやー、プロデューサー業やってて本当によかったと思うよ」

みく「そういうこと言ってるといつか背中刺されるにゃ」

P「そりゃーまぁうん。気をつけます」

みく「Pチャンの友人としての忠告にゃ」

P「友人としてか。なんだか救われるよ」

みく「Pチャンは友達少なそう」

P「うるせーうるせー。あ、なんか飲む?」

みく「オレンジジュースがいいにゃ」

P「はいはい……ほらよっ」

みく「ありがとにゃ。そういえば夏のイベントは事務所総出でいくにゃ?」

P「ああ。どうにか全員イベントにはねじ込んであるからな。
 それに仲間はずれなんか作ったら可愛そうだろ」

みく「楽しみにゃ。新しい水着を買って……」

P「お前水平気なの? 猫なのに」

みく「水遊びは平気だけど磯臭いのは勘弁にゃ」

P「魚っぽいもんな……。ところでさ、なんかテンション低くない?」

みく「レッスンで疲れてるからにゃ……」

P「俺は元気なみくが好きなのにな。ほら、お前も抱いてあげようか?」

みく「だーかーらー! そういうことをやって乙女の純情をもてあそぶにゃ!」

P「んじゃーもう踊るしかねぇだろう……っ!」

みく「疲れてるって言ってるでしょ!」
ニャーギャーニャーギャー

加蓮「あ、Pさん……またみくといる」

みく「はっ、また無駄に時間と体力を使わされたにゃ!」

奈緒「仲いいなぁ。お前ら」

凛「それよかプロデューサー。約束果たしてね」

P「ん、ちゃんとシャワー浴びてきたか?」

加蓮「ばっちしだよ」

P「どれー」クンクン

奈緒「やっぱりお前警察行くべきだよ」

みく「大賛成にゃ」

加蓮「ね、大丈夫でしょ」

P「ああ、石鹸の匂いしかしないな」

みく「恋は盲目すぎるにゃ」

奈緒「普通首のあたり嗅がれたらイヤだろ」

P「脇のほうがよかった?」

奈緒「」スゥ

P「オーケー。その携帯をしまえ。ジョークだ」

加蓮「じゃあ早速……」

凛「待って」

加蓮「何?」

凛「順番。じゃんけん」

加蓮「…………さーいしょはぐー」

ジャンケンポン!
凛「よっし」

加蓮「くっ……」

凛「じゃあプロデューサー」

P「はいはい、ぎゅーっと」

凛「……ん?」クンクン

P「げ、もしかして汗臭い? みくと戯れたから猫臭い?」

みく「失礼にゃ!」

凛「……他の人の匂い。みくじゃない」クンクン

P「あー……ありすだな」

凛「ありす?」

P「さっき抱いたから」

凛「ふーん……そっかそっか。プロデューサーは女の子なら誰でも抱いちゃうんだ」

P「俺が抱くのはかわいい子だけだ!」

みく「ひどいこと言ってるにゃ!」

奈緒「なんでこんなやつがアイドルのプロデューサーなんだ!」

凛「えっそれって私もだよね……?」

P「そりゃな」

凛「そっか。可愛いか。うん、それならいいかな……」ギュー

奈緒「凛、目を覚ませ。何も解決してないぞ」

みく「これじゃただのバカにゃ」

加蓮「そろそろ交代してよ」

凛「待って。あと三分」

P「なげーよ! はい、交代交代」

加蓮「やった! しつれいしまーす」ギュー

P「しかし昔の二人からは想像出来ないよな。この姿」

奈緒「まぁな。昔の凛はもうちょっとツンツンだったし加蓮はやる気なかったし」

凛「私は変わってないよ。奈緒だって昔はツンデレだったのに今はデレデレじゃん」

奈緒「デレデレじゃねぇよ! そもそもツンデレじゃねぇよ!
   まぁ昔に比べたら話すようになったけどさ……」

P「今じゃメールする仲だからな。話が合うっては大事なもんだ」
凛「奈緒。後で話聞かせてもらうよ」

奈緒「アニメの話してるだけだよ! 睨まれるようなことしてねぇ!」

加蓮「みくとはなんで仲いいの?」ギュー

P「みくはな、見た瞬間ティンと来た。こいつぁ原石だ! と思って
 他の事務所から抜き取った。今頃あの事務所は悲しみにくれてるよ」

凛「それって一目惚れってこと?」

加蓮「みく。後で話あるから」ギュー

みく「誤解にゃ! Pチャンどうにかするにゃ!」

P「ああ、あの感覚が一目惚れか。なるほどな」

加蓮「みく。ちょっとこっち来て」

凛「そこの影でいいかな」

みく「お断りにゃ!」

P「でも安心しろ。凛見た時も加蓮見た時も奈緒見た時も。俺のアイドル見た時は毎回感じてるさ」

凛「……ふーん」

加蓮「ならいい、かな」

みく「助かったにゃ……」

P「さてと、俺は事務所に戻るかな。お前ら帰るなら駅まで送るぞ」

奈緒「お、じゃあ乗らせてもらうよ」

みく「帰るにゃ帰るにゃ」
P「はい、到着。気をつけて帰れよー」

奈緒「さんきゅー」

加蓮「やっぱり車は楽だね」

みく「でも後部座席に三人は狭いにゃ」

凛「じゃんけんで負けたんだから文句言わない」

P「あ、凛だけ待ってくれ」

凛「えっ?」

奈緒「じゃあ先行ってるからな」

みく「行ってるにゃ」

加蓮「私はここで待とうかな」

奈緒「みく、右手持て」

みく「任せるにゃ」

加蓮「うああぁぁぁ引きずられてくううぅぅ」ズリズリ

P「駅前でよくやるな……」

凛「それで何かな」

P「ああ、プレゼントだよ。当日会えるかわからんから今の内にな。ほい」

凛「え、この箱ってもしかして」

P「ああ、指輪じゃないぞ」

凛「月のイヤリング……。何か高そうだけど」

P「セールだった」

凛「そういうことは言わなくていいの。
  でもありがとう。嬉しい」

P「気に入って貰えてよかったよ。それじゃあまた明日な」

凛「うん」
P「というわけでお前らはこのメインステージでやることになる」

奈緒「……マジ?」

P「おう、マジマジ。しかも時間帯は最後のほうだ」

凛「このステージでかいね」

加蓮「こんなところでライブするんだ」

P「最近マストレに褒められてちょーっと気が抜けているようだったが
 これで少しは緊張出来ただろ」

奈緒「ユニット対ユニットのライブバトルで現地にいるファンが評価か。
   なぁ、うちの事務所で他にここでやるユニットはないのか?」

P「ない。お前らオンリー。うちの代表だ」

加蓮「代表……」

P「もしもドジ踏んでみろ。俺の目からハイライトが消える誰も得しない展開が待ってるぞ」

奈緒「そりゃ確かに誰も喜ばない展開だな……」

加蓮「ところで相手ユニットとか他のユニットの情報がないんだけど」

P「一応極秘扱いだからな。当日になったら全部発表だ」

奈緒「ファンが来る時間に困りそうなシステムだな」

P「他に質問なければレッスンに戻りな。
 今はちょっとでも時間が惜しいだろ?」

凛「……うん。そうだね。加蓮、奈緒行こう」

加蓮「そうだね」

奈緒「見てろよ。完璧なライブにしてやるからな!」

P「楽しみにしてるぞ」

みく「ただいまにゃ。なんかやる気に満ちたトライアドとすれ違ったけど
   何かあったにゃ?」
P「おかえり。今、あいつらがやるステージの写真を見せてやったんだ。
 ほら、これのメインステージってやつ」

みく「どれどれ……おお、でかいにゃ。野外でこんな大きいステージ初めてみるにゃ」

P「だろ? ちなみにこれがサブステージでお前がやるとこな。こっちはライブバトル形式
 じゃない。あとフードコートとか。まぁイメージ図だからこの通りかはわからんが」

みく「フードコート……。もしかして魚介類が……」

P「たっぷりらしいぞ」

みく「うぅ……。近寄らないようにするにゃ。にぅにぅ」

P「しかしあと一週間か」

みく「みんなレッスン頑張ってるにゃ」

P「未央は今が一番忙しい時だがな。撮影だのイベントだので引っ張りだこだ」

みく「最近顔も合わせることがないにゃ。うらやましい」

P「なーに。イベントが終わったらお前もそうなるさ」

みく「もしも忙しくなってもご飯は奢ってね」

P「俺に期待されてるのはその部分だけなのか……」
P「夜になれば少しは涼しくなると思ったがそうでもないな」

「……」

P「やはり熱気のせいかな。すごい盛り上がりだ。
 イベント自体はまず大成功に違いない」

「……」

P「風がもう少しあれば過ごしやすいんだが……。
 ずいぶんと緊張しているな。空港ではあれだけ騒いでたのに」

奈緒「緊張するなってほうが無理だろ。なんでメインステージの最後の組が
   アタシたちなんだよ。しかも相手が……」

P「初代シンデレラガールと二代目のシンデレラユニットだ。相手に不足はあるまい」

加蓮「うん、ほんと不足ないよ……」

P「そう青くなるなって。緊張解すために頭撫でてやろうか?」

凛「……プロデューサーはさ、どっちが勝つと思う?」

P「そんな質問して俺があっちのユニットだって答えると思うか?」

凛「じゃあ第三者として見て、シンデレラガールズとトライアドプリムスどっちが勝つと思う?」

P「間違いなくシンデレラガールズだな。メディアへの露出度や実績の数が違う」

凛「何か無いの? 私達が勝つためのアドバイスとか」

P「ないね」

奈緒「おいおい、言い切るのかよ」

P「ああ。俺から言えるようなことは何一つ無い。
 お前達は間違いなく俺が見てきた中で最高のユニットだ。
 故に俺はお前達の勝利を確信している」

加蓮「最高の……」

凛「ユニット……」

P「昔の俺に言ってやりたいね。お前の目は何も間違っていなかったと」

「スミマセーン。準備おねがいしまーす」

P「はーい。よし、お前ら出番だぞ。
 ファンたちに最高のステージを見せてこい!」

「「「はい!」」」
P「おつかれー!」

カンパーイ

未央「今日も一日中走り回って超疲れたー!」

卯月「明日も頑張ってね!」

未央「なにせ明日が終われば遊び放題だからね! 頑張るよ!」

ありす「宣伝とか大々的にやっててお金もかかってそうなのに
    イベント自体は二日しかやらないんですね」

P「一週間連続開催したって仕方ないしな」

茄子「プロデューサー。このエビおいしいですよ」

イブ「こっちのお肉もおいしいですよ〜」

P「そんな突き出されてもいっぺんに食えないからな。まずは自分達で食べなさい。
 みくもちゃんと食べてるか」

みく「うまいにゃ!」

P「そうか。よしよし。さてと……」

凛「……」ズーン

奈緒「……」ズーン

加蓮「……」ズーン

P「そこの三人娘。空気が重くなるから落ち込むのやめてくれないかな」

加蓮「だってPさんの期待に答えれなかったから」

P「いやいや、期待通りだった。最高のライブだったよ」

奈緒「でも負けたし……」

P「いい勝負だったじゃないか」

凛「でも私たちは勝ちたかった。勝ってプロデューサーに喜んで欲しかった」

P「お前らなんで俺が喜んで無いと決め付けてるんだ。
 正直想像以上の出来だったからむしろお礼すら言いたい気分だぞ」

加蓮「でも……」

P「はー、やれやれ。そもそもな。あのライブの投票権を持っているのは誰か知ってるか?」

奈緒「そりゃあファンだろ?」
P「そうだ。正しくは今回のイベントに来た全ての観客だ。
 つまり見て無い人間も投票することは出来る。ステージの出来は関係なくな。
 あちらが大きなポカをやらかしでもしない限りは人気であっちが優勢になるんだよ。
 逆に言えばこれだけ票差がないということはそれだけお前達は健闘したということだ」

凛「じゃあもしもライブを見たファンだけが投票できたら結果は変わったかも
  しれないってこと?」

P「かもしれないな。それにこの結果から見れば俺がやりたかったことも出来たようだし」

加蓮「やりたかったこと?」

P「そ。つまりファンを盗むことだ」

奈緒「盗む? なんか人聞きが悪いな」

P「あれだけの大きなステージに超人気ユニットが来るとなれば
 大量のファンが押しかける。ただファン全員があちらにぞっこんと言うわけではない。
 もっと浅いところ。つまりシンデレラガールズ好きだしちょっと見に行くかとかその程度
 のファンが重要なんだ。程度が軽ければ軽いほどこっちのライブ次第ではこっちの
 ファンに傾く可能性が出てくる。その層のファンを魅了してあちらから盗む」

凛「魅了して盗む、か」

P「結果から見ればおそらくかなりの数のファンがこっちに傾いてくれた。
 まぁ全部推論でしかないけどな。案外うちのファンが大量にいた可能性もある。
 いずれにしろ明日のライブでわかるんじゃないか? 明日は別のユニットとバトルだし」

奈緒「そっか。明日もライブだもんな。落ち込んでられないな」

みく「今は食べるにゃ。ほら、加蓮にゃんこれあげるにゃ」

加蓮「ありが……魚じゃん。みくが食べれないだけでしょ」

凛「加蓮もそっぽ向きながら野菜乗った皿をこっちに寄せないで」

茄子「プロデューサー飲まないんですか?」

P「飲むのは明日終わった後ですよ。だから茄子さんも飲まないでくださいね」
みく「みんなー! 盛り上がってるかにゃー!!」

「「「ウェーーーーーーイ!!」」」

P「みくは大丈夫そうだな。さてと、三人娘のところへ行くか」

「おや、あなたは……」

P「ああ、これはこれは。昨日はありがとうございました」

「いやいや。むしろこっちが言いたいくらいですよ。
 うちの蘭子も勉強になったでしょう」

P「ははは。うちのもいい刺激になったと思います」

「……堅苦しいのは抜きでいこう。加蓮ちゃんくれよ」

P「ご冗談を。菜々さんください」

「十七歳だぞ! ちゃん付けしろよ! それと絶対に上げん!」

P「十時さんのプロデューサーに会った?」

「いんや。今日は会ってないな」

P「……見ました? バニーガール」

「あれはな。卑怯だよ」

P「だよな。絶対サイズ小さめの着させたんだよ」

「はぁ愛梨ちゃんうちに移籍しないかな……」

P「シンデレラガールズどうなん?」

「最初は蘭子の扱いに愛梨ちゃんがちょっと困ってたけど
 今は仲良くやってるよ。期間限定ユニットなのが惜しいくらいだ」

P「やっぱり他の事務所の子と組ませるのは難しい感じか」

「長期間は色々絡んできて面倒だな。今回のイベント終わったら奏と
 組ませようかなって思ってる。翼生えた衣装着させて」

P「ああ、あの奏ちゃん可愛かったな。いいんじゃないか」

「だろ? 帰ったらまとめておくかな。お前は確か帰らないんだっけ」

P「この後そのまま事務所旅行になりますわ」

「うちのアイドルも何人かそのまま泊まってくみたいだから
 なんかあったらよろしくな」

P「責任は持てんぞ」

「適当にいちゃモンつけてアイドルかっさらってくからヨロシクぅー!
 おっともうこんな時間か。そんじゃまた。お疲れ様」

P「お疲れ様。トライアドの今日の相手は誰だったかな……」

卯月「プロデューサー!」
P「おお、卯月か。出番終わったんだな」

卯月「はい! 見ててくれました?」

P「ちゃんとトークで噛んだのも見てたぞ」

卯月「そこは見なくてよかったのに……」

P「ソロで頑張ったな。お疲れ様」

卯月「はい! ありがとうございます!」

P「トライアドの様子見に行くけど一緒に行くか?」

卯月「はい。ご一緒させていただきます」

P「しかし早いもんだな。祭りももう少しで終わりか」

卯月「そうですね。なんだか寂しいです」

P「祭りのあとの静けさというのもいいものだ」

卯月「ライブしているとたまに思うんですよ。
   この楽しい時間が永遠に続いて欲しいって。
   もちろんそうはいかないんですけどね」

P「どんな楽しい夢もいつか覚めてしまう。
 だったらまたその夢を見ればいいのさ。幸運にもそのチャンスが卯月にはまだあるしな」

卯月「そうですね。またどこかでファンと一緒に最高の時間を作りたいです」

P「卯月もアイドルが何たるかわかってきたな。俺はわからんけど。
 トライアドの控え室はここかな」

加蓮「あ、Pさ……ん」

凛「なんで卯月が一緒にいるの」

P「会ったから一緒に来た。どうだ、昨日よりかは緊張してないだろう」

奈緒「そんなことねぇよ。さっきから心臓バクバクいってる」

P「なに、それは大変だ。俺が触って調べてやろう」
奈緒「アッパー」ドゴォ

P「ッ」ドサ

奈緒「あ、悪い。つい反応して」

凛「大丈夫?」

P「……いいアッパーだったぜ」

卯月「ボクサーに転向する?」

奈緒「しねーよ」

加蓮「観客の入りどうだった?」

P「俺が見た時はまだ前の組のライブバトル中だったが結構入ってたぞ」

凛「今日の相手は……ファナティックバニーズだね」

奈緒「メンバーは安部菜々、相葉夕美、兵藤レナ」

P「ああ、蘭子ちゃんのプロダクションのユニットだな」

卯月「そうなんですか。よく知ってますね」

加蓮「やっぱり可愛い子はチェックしてるの?」

P「べ、別にそんなことナイヨ?」

凛「ちゃんとこっち見て」

卯月「みくちゃんも他の事務所から抜いてきたしもしかして……」

P「いやいや、あの時のみくは駆け出しだったから出来ただけで
 このクラスのアイドルなんて簡単には引き抜けないよ」

加蓮「じゃあ私も簡単には引き抜かれないってこと?」

P「そりゃそうだ。お前のプロデューサーは俺だからな」

加蓮「一億円積まれても?」

P「…………この話やめやめ! お前らウォーミングアップは出来てるか!」

加蓮「ねぇ今の間何? Pさん、私悲しくなってきたよ」

凛「仕方ないよ。プロデューサーにとって私達は商品なんだから……」

P「だー! 心配すんな! 一億積まれようが十億積まれようが手放さないから!」

加蓮「ありがとう。Pさん」

凛「そろそろ行こうか。私達のステージへ」

奈緒「……まぁなんだ。お疲れ様」

P「ああ、行って来い」

卯月「……私もですよね」

P「もちろんだ。はー、俺達も舞台横に移動するか……」
P(昨日もここから見ていたが彼女たちのライブについては文句の付けようが無い)

P(観客の反応もいい。今回のライブバトルは勝てるかもしれない)

P(でもなぜだろうか。何かが引っかかっている。昨日も同じ感覚に囚われた)

P(……これは既視感。俺は彼女たちのライブを見た事がある)

P(それもおそらくは別の視点。この会場の観客の一人として、だ)

P(もちろんそんなことはありえない。このイベントは今年が初めてだし
 そもそもトライアドでこの曲をやるのも初めてだ)

P(働きすぎて頭がおかしくなったのだろうか)

P(そういえば最後に一日休みだったのはいつだ?)

P(……記憶にないぞ。いや、でも早く帰れる日とかあったしな)

P(でも残業のほうが多いような。その割には給料が少ないような……)

P(よそう。余計な詮索は寿命を縮める可能性がある)

P(今は彼女たちの為に全力を尽くす。それだけでいい)

凛「みんなー! ありがとー!!」

「「「ウオオオオオオオォォォ!!」」」
「「「かんぱーい!!」」」

未央「やっと終わったー!」

卯月「未央ちゃん、大活躍だったね!」

P「ライブも勝てたし、これでうちの事務所も安泰だな」

茄子「プロデューサー。お注ぎしますよ」

イヴ「私も注ぎますよ〜」

P「溢れてる。すっごい溢れてるから!」

加蓮「明日から二日間オフかー」

奈緒「帰りは何時の飛行機だっけ?」

ありす「午後七時の便です」

凛「丸一日と半分ぐらいは遊べるね」

みく「新しい水着も買って来たし準備万端にゃ」

未央「みくにゃんは猫だから泳がなくてもいいんだよ?」

みく「え、ひどくない?」

卯月「私も新しい水着買えばよかったかな……」

イブ「大丈夫ですよ〜。ホタテと昆布あればどうにかなりますし〜」

凛「全然大丈夫じゃないよ」

茄子「日焼けして焼き茄子〜。なんちゃって」

奈緒「もう酔ってるぞ。この人」
加蓮「ちゃんと日焼け止め塗らないとね。日焼けしたら困るし」

未央「えっ」

加蓮「えっ」

奈緒「おい未央。ちょっと動くなよ」

未央「ああ、奈緒。こんな人前でだいtイテッ」

奈緒「変な事言うな。あ、こいつちょっと日焼けしてるぞ」

卯月「明日は肌が白くなるまで塗らないと」

凛「塗りこんでも仕方ないから」

ありす「本田さんは意識が低いんですよ」

未央「あははは……。ちょっと失礼」

ありす「え、あ、ちょっと」

未央「ふっふっふー。日焼けがありますなー」

ありす「それは学校の体育で……その……」

未央「大丈夫だよ。プロデューサーは日焼けしてるほうが好きだから」

加蓮「」ガタッ

凛「日焼けクリーム捨てるね」

奈緒「待て」

卯月「どうなんですか。プロデューサー!」

P「うぇーいwwwwwwwwwwwwwwww」

茄子「わーい」

イヴ「はーい」

みく「酒臭いにゃ! 酔っ払い三人組にゃ!」

茄子「ガッとやって」

イヴ「チュッと吸って」

P「Haaaaaaaaaaaaaaan」

奈緒「うるせぇ! 他の事務所の曲を歌うな!!」

凛「負けてられないよ」

ありす「渋谷さんが対抗意識燃やしてます」

みく「お酒の匂いに酔ってるにゃ!」

ワーギャーワーギャー
未央「ウェミダー!!」

卯月「ウォー!!」

ありす「あの二人テンション高いですね」

みく「準備体操もせずに海に突っ込んで行ったにゃ」

奈緒「まぁいいんじゃねぇの?」

加蓮「ふふっ、奈緒も走っていきたそう」

凛「準備体操はちゃんとしないとダメだよ」

奈緒「わかってるっつーの! 別にそんな……」ウズウズ

P「日焼けクリーム忘れずに塗れよー」

茄子「プロデューサーは泳がないんですか?」

イヴ「一緒に遊びましょう〜」

P「荷物番もあるし、それに……」

愛海「……」

P「こいつの番もある」

茄子「それじゃあ、仕方ないですね」

イヴ「プロデューサーの分も遊んできますねぇ〜」

P「おう、行って来い」

愛海「……あの」

P「なんだい、棟方さん」

愛海「ちょっと埋まってるんで助けてもらえませんか」

P「そりゃあ難しいな。なにせうちのアイドルじゃないし」

愛海「その他の事務所のアイドルをノリノリで埋めたのあなたじゃん!」

P「キミのとこのプロデューサーに頼まれたんだよ。うちのアイドルも
 何人か泊まって遊ぶみたいだからよろしくってね」

愛海「プロデューサーめ……」

P「俺としても不本意ではあるが自分のアイドルを守るためにこうするしかなかったんだ」

愛海「うわーん! プロデューサーの目から逃れて自由のはずだったのにー!」

P「砂風呂だと思ってゆっくりしたまえ」

愛海「ああ、目の前に極上の料理が並んでいるのに。遥かなる楽園……あれ」
P「どうした?」

愛海「あの子。迷子かな」

P「親が近くにいないだけじゃ……この感覚! ちょっと行ってくる!」

愛海「行く前に出してもらえるとうれしいなーってもうあの子の元に行ってるし。
   なんか話してるけど……」

未央「ふー、喉渇いた。何やってるの?」

愛海「財宝を目の前にして落とし穴にはまった感じかな」

未央「大変だね」

愛海「そう! だから出して!」

P「未央。出すんじゃないぞ」

未央「わかって……プロデューサー。その子、どうしたの?」

P「スカウトした」

こずえ「ふわぁ……」

未央「誘拐……?」

P「人聞き悪いこと言うな。迷子になってたのをスカウトしただけだ」

愛海「誘拐だよ」

P「ちゃんと親御さんが来たら説明するさ。それでまでは寝てていいよ」

こずえ「んー……」

未央「プロデューサーの膝の上で寝ちゃった」

P「この子はいいアイドルになるぞ。間違いない」

ありす「説明してもらいましょうか」

P「いつの間に」

ありす「なんでプロデューサーの膝の上で寝てるんですか」

未央「……頑張って!」

P「おい、なんだ、その慰めの目つきは」

ありす「質問に答えてください。そもそもこの子は誰なんですか」

P「えーっと、それはだな。そのな……」

愛海(…………出たい)
P(夏ライブが終わってから二週間が経った)

P(二日間の些細な休暇を終えて帰って来た俺達を待っていたのは)

P「仕事、仕事、そして仕事!」

ちひろ「騒いでないで仕事してください。ああ、また電話が……」

P「ライブの効果は想像以上だったようだな」

奈緒「ホントだよ」

未央「こんな忙しくなるなんて思いもしなかったよね」

加蓮「ま、いいじゃん。仕事があるのはいいことだしさ」

未央「機嫌いいね。何かいいことあった?」

加蓮「まだないかな。もうすぐある」

奈緒「ああ、そういえばもうそんな時期か。なぁ、Pさん」

P「んー? 誕生日プレゼントならもう買ってあるぞ」

未央「一番暇がなさそうなのによく準備出来るね」

P「まぁな。今度の誕生日で加蓮が十七で奈緒が十八だっけ?」

加蓮「いやいや、私十六だから。奈緒は合ってるけど」

P「……あれ、お前ら二つ違いだっけ」

奈緒「そうだよ。なんだ、ボケてんのか?」

P「凛加蓮奈緒で年齢が階段になってた気がしたからさ」

未央「誕生日祝ってくれるのに年齢覚えてないとか変なの」

P「いや、やっぱりおかしい。だってそれじゃあ奈緒は」

ちひろ「プ ロ デ ュ ー サ ー さ ん ?」

P「ハイ、ハタラカセテイタダキマス」
未央「怒られてやんの」

ちひろ「未央ちゃんはドラマのセリフ覚えましたか?」

未央「え、えっと……」

奈緒「加蓮。ラジオの話題についてなんだけどさ。ちょっとあっちで話そうか」

加蓮「そうだね」

未央「み、見捨てないで!」

ちひろ「プロデューサーさんにちょっかいを出す暇があったら
    やることをやってください!!」

未央「は、はいぃ〜」

ちひろ「全く。確かに急な環境の変化で体がついていかないのはわかりますが……。
    ちょっと。プロデューサーさん、また手が止まってますよ」

P「……奈緒って十八でしたっけ」

ちひろ「え、そうですよ? 凛ちゃんが十五で奈緒ちゃんだけ一個離れてるんですよ」

P「卯月って十七でしたよね」

ちひろ「ええ、どうしたんですか?」

P「卯月と奈緒は同い年だったはず。凛と未央も同じで加蓮がその間」

未央「へ? 私、今年で十六だよ? 加蓮と同い年で」

ちひろ「プロデューサーさん、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ?」

P「……すみません。ちょっと休憩貰っていいですか」

ちひろ「ええ。仮眠室誰も使ってないんで使って大丈夫ですよ」

P「ありがとうございます」

未央「……どうしちゃったんだろう」

ちひろ「…………」

未央「ちひろさん?」

ちひろ「ん、いえ、プロデューサーさんの最後の休日っていつだったかなと」

未央「夏のライブの後は……いつだろう」

ちひろ「ああ、そっか。ライブ後の二日間が休みでしたね。ならまだ大丈夫です」

未央「大丈夫……?」

ちひろ「私がここ数ヶ月休みなしですし大丈夫でしょう」

未央「ブラックだ……」
P(何かがおかしい)

P(これでもプロデューサーなのだ。アイドルの年齢を間違えたりはしない)

P(事実、スリーサイズから嫌いな物まで全て記憶している。年齢だけ間違えるなんておかしい)

P(しかしその後、事務所の資料を調べたが間違っているのは俺の記憶だった)

P(加蓮の年齢は十五歳。奈緒が十七歳)

P(他のアイドルは記憶通りだ)

P(疑念は晴れることなく、加蓮の誕生日を迎えた)

P「加蓮。ちょっと会議室で話そうか」

加蓮「そうだね」

凛「次の仕事の時間が近いから早くね」

奈緒「そんなにみんなの前で渡すのが恥かしいのか?」

P「うるせーうるせー」

ガチャバタン

加蓮「ふふふ、こんな密室に閉じ込め何をするのかな」

P「プレゼント渡すだけだ。はい、おめでとう」

加蓮「ありがと。開けるのは家に帰っての楽しみにしようかな」

P「花の髪飾りだよ」

加蓮「人が言ってる傍からひどいなぁ。家に飾って大切にするね」

P「着けろよ! さて出よう」

ガチャバタン

凛「何貰ったの?」

加蓮「秘密」

奈緒「プロデューサーって大きいヤツはプレゼントしないよな。
   髪飾りとか小物ばかり」

P「かさ張るものをプレゼントするのはあまり好きじゃないんだ。
 小物のほうが渡しやすいしな」

奈緒「ふーん。アタシのプレゼントはもう決まってるの?」
P「アニメのDVDボックスだな」

奈緒「さっきと言ってること違うじゃんか!」

凛「あれ、いらないの?」

加蓮「じゃあ私が代わりに……」

奈緒「いらないとは言って無いだろ!」

P「そういえば奈緒って今度何歳だっけ」

奈緒「そこからかよ!! 十七だよ!!」

P「やったな! 十七歳教に入れるぞ!」

奈緒「十七歳が十七歳教に入ってどうすんだよ!!」

加蓮「奈緒。そろそろ時間だから終わり」

凛「それとあまりプロデューサーといちゃつかないで」

奈緒「いちゃついてねぇよ!」

ワーギャーギャワー

P「これで凛加蓮奈緒で年齢が階段になるんですね」

ちひろ「ええ。綺麗に揃いますね」

P「ということで午後から半休貰いますね」

ちひろ「どういうことですか。理由はなんですか」

P「奈緒のプレゼントを買う兼ちょっと医者に」

ちひろ「医者? どこか悪いんですか? 頭ですか?」

P「ちひろさんは意地を治療しましょう。歯が痛むんですよ」

ちひろ「それじゃあ一回できっかり治してきてください」

P「はい。ありがとうございます。では、予約の時間もあるので失礼……の前に」

ちひろ「どうしたんですか」

P「いえ、ちょっと資料を……よし、それではお先失礼します。お疲れ様です」

ちひろ「お疲れ様です」
晶葉「信じがたい話だな」

P「ですよね」

晶葉「しかしこうやってライバル事務所のアイドルに相談するくらいなのだから
   嘘ではないのだろう」

「いきなり手土産もなしに尋ねて来るぐらいだしな。ほら、コーヒーだ」

P「ああ、すまない。ありがとう」

晶葉「世界が書き変わっている、か。しかし証拠はないと」

P「残念ながらないです。出る前に確認しましたが前は今年で十八だと記載されていた
 資料も十七に書き変わっていました。どのタイミングかはわかりませんがおそらくは
 他のみんなの記憶と共に記録の類も書き変わっているのではないかと」

晶葉「……敬語はやめてくれ。なんだかむず痒い。
   しかしな。現実的な観点から答えを出すとすれば
   キミが精神病の類に罹っているという結論しか出せないんだ」

P「精神病……」

晶葉「そうだ。証拠はないが世界全てが書き変わっているんだと言われて
   はい、そうですかとはとても言えない。なぜキミだけが書き変わる前の記憶
   を保持しているのか。誰が書き変えているのか。何のために。どうやって。
   そういった事が納得のいく説明がされない限りは妄想の範囲を出ない」

P「……」

晶葉「そしてこういうことは私の専門外なのだが……」

P「……すまない。誰かわかりそうな人というのが池袋さんしか浮かばなかったんだ」

「まぁ確かにうちの晶葉は天才だけど工学だからな。専門は」

P「おとなしく病院に通うことにしよう。時間を割いてもらってすまなかった。
 コーヒーありがとう」

晶葉「……あー、待て待て。座りたまえ」
P「しかし……」

晶葉「なに、時間はある。このまま帰すのもなんとなく後味が悪い。
   解決できるとは思わないが糸口ぐらいは掴めるかもしれん」

P「……ありがとう」

晶葉「大の大人がそんな頭を下げないでくれ。居心地が悪い。
   ではまず最初に違和感を感じたのはいつだ」

P「思い返して見ればありすの誕生日の時も何か違和感があった。
 今までアイドルの年齢なんて間違えた事なかったのにあの時初めて間違えたな」

晶葉「となればキミが知覚しなかっただけでその……書き変わり現象自体はもっと
   前からあったということになる。確か橘ありすくんは現在十二歳のはずだね。
   仮に今年十三歳であれば中学生になっているはずだが彼女は確か小学生のはず」

P「ああ。ありすは今年で小学六年生だ。去年は五年生だったのか……?
 違う。スカウトした時に既に六年生だったはず」

晶葉「おそらくキミの記憶は間違っていない。橘ありすくんは十二歳で小学六年生
   というのが基本になっているのだろう。だから四月になっても進学しないし
   今年で十二歳なんだ。そういう風に書き変えられている」

「あれ、でも俺が晶葉をスカウトしたのは十二歳の時だよな。あれから二年経って
 十四歳なわけだし」

晶葉「おそらくそれも書き変えの一部なのだろう。正しくは十四歳でスカウトされて
   それ以降の記憶はだんだんと押し出されていく。そして記憶に矛盾が生じない
   ように辻褄を合わせる」

「じゃあ俺の中にある晶葉が中学生の制服を始めて来て照れながら『似合ってるか?』とか
 聞いてきたのも全部嘘だってことかよぉ!! 畜生めぇ!!」

晶葉「そんなこと今思い出さなくていい。いや、待てよ。私が十三歳の時にスカウト
   されて十四歳になってから現象が発生したという可能性もあるのか。私の誕生日は
   六月十日だから去年の誕生日はちゃんと迎えている可能性がある」

P「待ってくれ。つまりいつからみんなが今の年齢だったかと思い出せばいいんだな……」

晶葉「みんなと言うよりも今の年齢で一番古い人間の記憶だな。もしかしたらキミに
   観測された時点で年齢が止まっているのかもしれない」

P「一番古い……なんだろう。同じ場面なのに複数の映像が浮かび出る……」

晶葉「おそらくキミの書き変わった記憶と本来の記憶だ。書き変わり後は歳相応で
   本来の物は今の年齢になっている。無理をするんじゃないぞ。
   矛盾した二つの記憶を持つなんていつ気が狂ってもおかしくない」

P「大丈夫だ。大学を卒業した後……思い出せない。だがその後、俺はプロデューサー
 としてスカウトされて……そうだ。あいつらに会ったんだ。今の年齢のあいつらに」

晶葉「あいつらと言うのは今のキミのとこのアイドルか。
   ということはキミがプロデューサーになった時にはもう既に……」

P「……ありがとう。池袋さん。何か掴めたよ」

晶葉「む、そうなのか? 現象自体はそれより以前からかもしれんのだぞ」

P「現象が起きたのは俺がプロデューサーにスカウトされた時点だ。
 そしてその時俺と一緒にいた人が犯人かもしれない」

晶葉「キミをスカウトした人か。社長かな?」

P「いや、スカウトしたのは――」
「あれ、お疲れ様です」

P「よかった。まだ居てくれましたか。ちひろさん」

ちひろ「ええ、ええ。仕事が増えてしまって。およよよ……」

P「お手伝いしますよ。その前に一つ答えていただけますか?」

ちひろ「なんでしょう。……ま、まさか残業代の行方」

P「それもすごく気になりますがまぁそれは置いといて。
 この世界の記憶を……いえ、みんなの時間を止めているのは
 あなたですね?」

ちひろ「……えーっと明日休暇にしておくので病院のほうを……。
    歯ではなく頭ですよ?」

P「先ほどある人に最近違和感がするもんで相談してたんですよ。
 それでみんなの年齢が止まっているところまではわかったんです」

ちひろ「……」

P「いつ頃から止まっているのか記憶を遡ったらどうやらこのプロダクションに
 入った辺りからではないかと検討がつきました。それでも誰がやったかまで
 はわかりません」

ちひろ「それで、私がなんでえーっと……時間を止めた? 人間だと思ったのですか?」

P「記憶を遡るうちに複数の記憶を思い出すことが出来ました。
 一つは俺の記憶の中だけにある年齢が止まった世界。
 もう一つはみんなの記憶に中にある年齢と共に積み重ねてきた世界。
 そしてもう一つ。こちらは霞がかかってて年齢のことはわかりませんが……
 俺がプロデューサーになっていない世界」

ちひろ「なっていない世界?」

P「ほとんどの記憶が失われていますが……。
 覚えているのはあの夏のイベントで観客席からトライアドのライブを見たこと。
 そしてその後、ちひろさんに出会っていることです」

ちひろ「!」
P「そこから先の記憶はありません。そこから推理すると……。
 ちひろさんは何かしらの力、そう、魔法とでも言いましょうか。
 それを使用して時間を巻き戻し、俺がアイドルたちのプロデューサーになる
 世界へと変えたんです。そうですね。ちひろさん」

ちひろ「…………」

P「…………」

ちひろ「……明日からプロデューサーさんには長期休暇を取ってもらいます。
    有休も全て使用していただきます。その間に代わりにプロデューサー
    さんを見つけておきますので休暇が明けたら仕事を教えて上げてください。
    今から二ヵ月後にプロデューサーさんを解雇させていただきます」

P「……そうですか」

ちひろ「これから忙しい時に入るのに大きな戦力を失うのは痛手ですが……
    その……今のプロデューサーさんはまるで……」

P(そりゃ、そうだよな。何も知らない人がいきなりこんなこと言われたら
 こうなるわな。狂っていたのはやはり俺なのか)

ちひろ「なーんて言われちゃいますよ? 全く」

P「へっ?」

ちひろ「しかしよく気付きましたね。大した物です」

P「それじゃあ」

ちひろ「概ねプロデューサーさんの言うことに間違いはありません。
    私がみんなの時間を止めた犯人です」

P「なんでこんなことを。いえ、それよりもどうやって」

ちひろ「まぁまぁ落ち着いてください。
    そうですね。今から二週間後の夜の十一時にここにいてください」

P「二週間後? そんな後なんですか?」

ちひろ「ええ。ちょっと悶々するかもしれませんが我慢してください。
    今から二週間後が丁度いいので」

P「今から二週間後ですね。わかりました。
 それじゃあ仕事手伝いますよ」

ちひろ「ああ、どうも。日が変わる前に帰りましょう……」
P「月が綺麗ですね」

ちひろ「ありがとうございます」

P「いや、そっちの意味じゃなくてね」

ちひろ「わかってますよ。中秋の名月、十五夜ですから。
    さてと、月見に来たわけではないですからね」

P「そうでしたね。ここで話すんですか?」

ちひろ「ここではないです。では一旦建物に戻ってください」

P「あれ、何のために屋上に」

ちひろ「必要な物は満月。月光を浴びているドア。そして鍵」ガチャッ

P「鍵をかけるんですか」

ちひろ「開けたんですよ」キイィ

P「……どこだ、ここは」

ちひろ「早く入ってください。見られると困るので」

P「あ、はい。この螺旋階段はどこに続いているんだ」

ちひろ「鐘のある場所ですよ。さ、歩きましょう。まだ時間はありますが
    日付が変わる前に着いてないといけませんから」

P「ちひろさん。俺は今日言われるがままに着いてきたけどそろそろ
 説明してもらえませんか?」

ちひろ「歩きながら説明しましょう。ここは数ある異界の一つです。
    さきほど言った条件が整ったときに鍵を差すと繋がります。
    普通の人はここには辿り着けません」

P「なぜちひろさんがそんなことを」

ちひろ「それはもちろん私が異界の住人だからです。
    プロデューサーさんが知らないだけで結構いるんですよ。
    異界の住人って」

P「異界の住人がなんで俺達の世界の時間を止めたんですか」
ちひろ「んー……それはもうちょっと後で。
    ああ、でも一つ聞いておきます。
    プロデューサーさんは世界を元通りにしたいですか?」

P「ああ、そりゃそうですよ」

ちひろ「そうですか。どちらにしろ後でまた聞きますけど……。
    この異界にあるのはこの螺旋階段と屋上にある鐘だけです。
    その鐘を鳴らせばプロデューサーさんの世界は元通りになります」

P「どうやって鳴らすんですか? やっぱりごーんって突くんですか?」

ちひろ「いえ、歯車を所定の位置に嵌めれば日付変更と共に鳴ります」

P「それだけ?」

ちひろ「それだけです」

P「思ったより簡単そうですね」

ちひろ「まぁ簡単ですよ……着きました」

P「おお、綺麗な鐘だな。思ったより小さいし」

ちひろ「大きさなんて些細なことなんですよ。そこにある歯車を
    ここに嵌めれば大丈夫です。後は時間を待つだけです」

P「歯車のほうが大きいな。えーっとこれをここに」

ちひろ「その前にですね。大体の事をお話させていただきます」

P「結論が変わるとも思えないし嵌めても問題は……」

ちひろ「嵌めればプロデューサーさんはプロデューサーでなくなるんですよ?
    彼女たちとああも親しく話すことはなくなります」

P「……」
ちひろ「まずはですね。プロデューサーさんのいた世界。
    あれは夢の世界です。季節は移ろい行くというのに
    誰も歳を取る事の無い理想的な世界。
    それを望んだのはプロデューサーさんです」

P「俺?」

ちひろ「はい。プロデューサーさんは、前の世界とでも言いましょうか。
    あちらの世界で彼女たちのライブにとても感動して
    俺がもしも彼女たちのプロデューサーだったらなと願いました。
    それで出会った私がその願いを叶えたのです」

P「それじゃああの世界は」

ちひろ「ええ。誰でもないプロデューサーさんのために作られた、
    プロデューサーさんの望んだ世界です。
    あの世界、あの夢の終わりに何が待っているのかはわかりませんが
    おそらくは今の状態がこれからずーっと続きます。
    多少の山谷はあるでしょうがプロダクションの彼女たちと
    トップアイドルの座を目指して努力し続けるのです」

P「あいつらはトップアイドルになれないんですか」

ちひろ「もしもプロデューサーの望んだ夢が彼女たちをトップアイドルにする
    とかであればもしかしたらなれるかもしれません。ですがプロデューサー
    の望んだ世界は可愛いアイドルといちゃつきながらプロデューサー業を
    する日常世界とかそんなのだと思うのでそうなる確率は低いでしょう」

P「そのまま時間が進み、記憶に矛盾が出来ても辻褄が合うように書き変えられると」

ちひろ「ええ。もしもお望みでしたら私自ら辻褄を合わせて、これからもずっと
    アイドルといちゃつくことが出来ますよ?」

P「ちひろさんはどうしてそこまで俺に尽くしてくれるんですか?」

ちひろ「別に尽くしているわけではありません。契約ですよ。契約」

P「契約?」

ちひろ「ええ。代価は既に頂いてますし内容は機密事項なので話せませんが
    プロデューサーさんが私と契約してこの世界を作ったんです。
    それゆえにプロデューサーさん自身が矛盾に気付くのはおかしいんですよね。
    自身の望んだ夢を自身が壊そうとしているんですから」

P「俺の望んだ世界……」

ちひろ「そうですよ。不変でありながら新しい毎日を送れます。
    もう先にある未来という巨大な暗闇を恐れる必要もありません。
    ああ、でも記憶を消したらこれも忘れちゃいますね。うまい具合に
    未来を恐れなくてもいいように記憶を変えますか」

P(悩む必要があるのだろうか。
 あの世界にいればおそらく幸せの絶頂にずっと居られるんだ。
 そういう風にかつての俺は望んでいたはずだ。巡っていく季節をずっと彼女たちと居られる。
 こんな幸福がほかにあるだろうか)

ちひろ「プロデューサーさん。そろそろご決断を」

P「……俺は」
P「俺は確かにこの世界を望んだかもしれません。ひたすら幸福なあの世界を。
 しかし今の俺は少しだけ考え方が変わったみたいです」

ちひろ「……」

P「見てみたいんです。彼女たちが歳を取って行く姿を。進学したり、成人したり。
 日が刻むごとに変わっていく彼女たちを見たいんです」

ちひろ「元の世界に戻れば、彼女たちは遠い存在になります。
    この世界の記憶もなくなるでしょう。それでもいいんですか?」

P「……はい」

ちひろ「では嵌めてください。もう時間になります」

P「……」ガチャガチャ

ちひろ「……」

P「……あれ」ガチャガチャ

ちひろ「ちょっと。何やってるんですか」

P「嵌らない……」ガチャガチャ

ちひろ「不器用ですね。ここをこうやって」ガチャガコン

P「すみません」

ちひろ「世話の焼ける人ですね」

P「もうちょっと嵌めやすく……あ、時間です」

カラーンカラーンカラーン

P「世界が光に包まれていく」

ちひろ「夢の終わりです。いえ、もしかしたら新たな夢の始まりかもしれません。
    なにせ夢は人に最も近い異界ですから」

P「ちひろさんはこれからどうするんですか」

ちひろ「契約は一応果たせましたからね。新しい契約者でも探そうかな」

P「ちひろさん。ありがとう。ああ、でもやり忘れた事が――」

ちひろ「もう遅いですよ――」
「ん……」

「朝か……。腹減ったな」

「……飯がねぇぞ。クソが」

「だりぃ……」

「……なんか変な夢見てた気がするんだけどなぁ」

「なんだっけ……」


「『みくにゃんのおっぱいに真心込めてダイビングなう』と」

「しかし可愛いな。みくにゃんは。本当に中学生かよ」

「このおっぱい……たまんねぇな……放出するか」

「…………ふぅ」

「換気ついでに窓あけっか」

モワァン

「あちぃ!! ファッキュー夏!!」

「ん……もうすぐありすの誕生日か」

「プレゼント贈んないとな」

「しかしあのプロダクションって未だにプロデューサーとかいないんだよな」

「事務員が全部兼任してるらしいが人間じゃねぇだろ」

「だがアイドルの質はすごいからな。俺の押しプロダクションなのも納得ですわ」

「このストラップとかいいな。これにすっか」

「ぽちっとな。あとは改めて包装して送ればいいな」

「……しっかしもう夏だな」
ありす「これは……」

未央「あれ、まだ変なのあった? 一応チェックしたんだけど」

茄子「私もチェック済みですから大丈夫だと思いますよ」

ありす「はい。普通のストラップなんですけど」

未央「猫のストラップ? 可愛いじゃん」

ありす「……どこかで見たような気がするんです」

茄子「送り主は……ああ、このペンネームはよく見ますね」

未央「この人、何かあるたびに送ってくるからね。
   誕生日はちゃんとプレゼント送ってくれるし」

茄子「もしかしたらネットで見たんじゃないんですか?
   ありすちゃんはよくタブレット使ってますし」

ありす「かもしれませんね。携帯に着けておきましょう」

ガチャ

みく「あづいにゃあ」

卯月「溶けちゃう……」

凛「暑くなるからあまり言わないで」

未央「お、みんな帰って来た。
   ってあれ、一人足らないような」

イヴ「」グテー

茄子「ああ、イヴちゃんが溶けてる」

ありす「サンタクロースにこの暑さはきつかったんですね」

みく「あづい」

ちひろ「はいはい、みなさん。そんなこと言っても涼しくなりませんよ」

みく「ちひろチャン! なんでこの事務所にエアコンがないにゃ!!」

ちひろ「みなさんが頑張って稼げば修理出来ますよ?」

未央「夏の始めに壊れるのは予想外だったね」

卯月「早く直したい……」

ちひろ「仕方ありませんね。冷凍庫にアイス入ってますよ」

加蓮「もう持ってきたよ。はい、お疲れ様」

奈緒「チューペットだけどな」

みく「? チューチュー棒にゃ」

奈緒「ん?」

みく「にゃ?」

未央「ほわちゃー! よし、綺麗に折れた!」

イヴ「すずやか……」
ちひろ「はいはーい。齧りながら聞いてください。
    夏のイベントの参加が決定しました!」

凛「ああ、あの沖縄でやるやつだっけ」

ちひろ「はい。そこで未央ちゃんがメインキャンペーンガールに選ばれました。
    拍手〜」

パチパチパチパチ

未央「どうもどうも。誠心誠意真心込めて頑張らせて貰います」

ちひろ「他の子も全員何かしらの形で参加なのでちょっとした旅行になります」

「おおー」

ちひろ「その上、イベント後に二日間のオフをみなさんに作りました!」

「おおー!」

ちひろ「イベントが終われば! 夏の南の島で遊べます!!」

「おおー!!」

ちひろ「このイベント必ず成功させましょう!
    ちひろプロー、ファイト!!」

「オー!!!」

加蓮「ちひろプロクションって名前じゃないですよね」

ちひろ「まぁまぁ、ノリですよ」

奈緒「電話とか大丈夫なのか? 二日間空けるんだろ?」

ちひろ「携帯に転送するようになってますし多分大丈夫でしょう。
    ……みんなが南の島で遊んでるのに私だけ事務所はイヤですし」

みく「正直者にゃ」

凛「もう一人誰か雇えばいいんじゃない? プロデューサーとか」

未央「そうそう。男手はあったほうがいいしね」

卯月「頼れる人だといいね」

凛「……なんで男前提なの?」

未央「あれ、なんでだろう」

卯月「プロデューサーと言うと男のイメージがあるからかな」

加蓮「うーん、私もプロデューサーと言われると男を思い浮かべる。
   女性で有名なプロデューサーがいるのに」

奈緒「あのアイドルプロデューサーはまぁ……別格だろう」

ちひろ「……人を雇うのはいいですが修理できなくなりますよ」

みく「ちひろチャンにはこのまま頑張ってもらうにゃ」

未央「ちひろさんは犠牲になったのだ。プロダクションの犠牲にな」

ありす「それよりも夏のイベントに向けて色々やったほうがいいのでは」

茄子「衣装とか曲とかありますからね」

ちひろ「ああ、その辺はですね。この計画書に……」
加蓮「ただいまぁ……」

奈緒「つ、疲れた」

凛「このぐらいで負けてられないよ」

ありす「お帰りなさい。お疲れ様です。
    渋谷さんに誕生日プレゼントが届いてますよ」

凛「そっか。そういえば今日だっけ」

加蓮「ふっふっふ、実はケーキを内緒で買って来てるんだよね」

奈緒「あんまり盛大には出来ないけどささやかにやろうと思ってな」

ありす「持ってきますね」

奈緒「悪いね。人数分あるから四つお願いな」

凛「よく覚えてたね」

加蓮「そりゃ友人の誕生日ぐらいはね」

ありす「これですよね。スプーンもどうぞ」

凛「ありがと。カップケーキなんだね」

奈緒「ホール買おうかと思ったんだけど冷蔵庫に入るかわからないからな」

加蓮「じゃあ歌おっか」

凛「いいよ、別に……」

奈緒「照れちゃって」

加蓮「代わりにこっちのプレゼントの山でも崩しながら食べますか」

ありす「ちひろさんのチェックは通ってるので安全ですしね」

奈緒「さすがに誕生日に不幸の手紙なんていらないからな」

凛「あれ、これって……」
ありす「月のイヤリングですか。綺麗ですね」

奈緒「おー、似合いそうじゃん」

凛「……前にもどこかで見た。いや、貰ったような」

加蓮「あれ、じゃ家にもう一個あるの?」

凛「いや、持ってない」

奈緒「どういうことだ?」

凛「貰ってないけど貰ったような。夢の中で見たのかな」

加蓮「誰に?」

凛「誰だろう……」

奈緒「どこかで見てそれが夢に出てきただけじゃないか?」

ありす「その可能性が高いと思いますが……。
    私もそういうデジャビュを体験したので何かあるんでしょうか」

加蓮「ありすがそんなこと言うなんて珍しいね。現実主義なのに」

ありす「一応根拠があります。この送り主です。
    私が誕生日に体験したときと同じ送り主なんです」

奈緒「あー、この人か。よく手紙くれるよな」

凛「うん。ここが創立してからずっと手紙くれてる人だね」

加蓮「……前にさ、プロデューサーを雇うかどうか話した時に
   男の人が浮かぶって話したじゃん。あの時なんかおぼろげだけど
   こう、具体的な男性像が浮かんだんだよね」

奈緒「あ、わかる。なんか見たこと無い男が浮かんだな」

凛「……実は私もあの時男の人が浮かんでた。なんでだろう」

ありす「私の覚えている限りではこのプロダクションに男性はいない
    はずですけど……。何か、忘れているのでしょうか。
    どちらにしろこの送り主とは関係ないですよね」

加蓮「うん。なんか今、ふと思い浮かんだから」

奈緒「おいおい、もしかして送り主がその男だったりするのか?
   そんなホラーっぽい展開はイヤだぞ」

ありす「SFっぽい感じもしますね」

凛(なんだろう。この気持ち。何か忘れているような……)
「ライブ順が当日発表ってクソシステムだろ」

「まじいつ誰が来てもいいように朝から会場入りで待機っすわ」

「まぁライブはやってるし飯屋もあるから困ることはないけど」

「だけどまさかこっちでこんなビックイベントやるとはな」

「二日分の入場券もゲット済みだし杞憂することなく楽しめるな」

「仕事もないし」

「……金ありニート最強だし。うん」

「お、もうすぐトライアドの出番か。ライブバトル相手は……
 シンデレラガールズか。こりゃあ強敵じゃねぇか。しっかり応援しないと」

『それでは本日最後のライブバトルユニットの紹介です。
 トライアドプリムスとシンデレラガールズです!』

「「「ワアアアアアァァァァァァ!!!」」」

「ううおおおおおトライアド頑張れー!!」

加蓮「トライアドプリムスの北条加蓮です!
   今日はめいいっぱい歌うから応援してねー!!」

「うおおおおおお加蓮俺だー!! 俺なんだー!!」

「ねぇ奈緒こっち向いてー!!! 恥かしがらずにー!!」

「凛が手を振ってくれたぞ! 俺に凛が手を振ってくれたぞ!!」

「違う! 俺達だ! 俺達に振ってくれたんだー!!」

蘭子「我が眷属たちよ! 今宵我ら灰かぶり姫たちから舞踏会への
   扉が開かれた! いざ約束の時なり!!」

「うおおおおおおおお蘭子ー!! 愛梨ー!!!」

「セクシーでキュートだよー!」

「愛梨ー! 暑いけど脱ぐなー!! まじでー!!」

「月、天に輝きし時! 天使達舞い降りて羊たちに光を与えんー!!」

『それでは先攻、トライアドプリムスからライブスタートです!!』
「…………」

「…………」

「…………すげー」

「アイドルってすげー」

「東京のライブにも行った事はあるけど今日のはちょっと別格すぎた」

「あんなに舞台で綺麗に笑顔で輝いていられるなんて」

「俺とは大違いだな。ははっ」

「帰るか。帰ってリフレインしよう」
みく「みんなー! 盛り上がってるかにゃー!!」

「「「ウェーーーーーーイ!!」」」

「みくにゃああああああん!!!」


「あー、やっぱりみくにゃん最高ですわ。ファンがっちりですわ」

「さてと、そろそろトライアドか」

「ステージ移動しないと。前列キープするなら早めに行かないといけないけど
 サブステージも見に行くし前列は押しつぶされるし後列で十分ですわ」

「飲み物でも買っていくか。たまに売り子がアイドルだったりするんだよな」

「……一般ぴーぽーやな。あれは。残念っすわ」

「今日は昨日よりも人が少ないな。昨日はトリだったってこともあるか」

「相手は……ファナティックバニーズか。これまた強敵だな」

「だが今日こそは勝ちたいな」

『それでは次のライブバトルユニットの紹介です。
 トライアドプリムスとファナティックバニーズです!』

「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」


「昨日と負けず劣らずのいいライブだったな」

「満足だ。本当に満足だ……」

「…………」

「なんだろう。この喪失感」

「なんだか彼女たちがすごく遠くに行ってしまったような感じがする」

「元からそんなに近いところにいたわけじゃないけどずっと応援してきたからな」

「飛躍していく彼女たちを祝福すべきなのだろう」

「あーあー。いっそのこと俺が彼女たちのプロデューサーになれねぇかな。
 もしもなれるんだったら……」

「なれるんだったらどうしますか?」

「えっ?」

「もしも本当に彼女たちのプロデューサーになれるとしたらあなたは何を捧げますか?」
「……千川ちひろさん。どうしてあなたが」

ちひろ「初めましてこんばんは。興味深い呟きが聞こえたのでつい反応しちゃいました。
    それにしてもよく私の名前をご存知で」

「ええ。あのちひろさんのところのプロダクションのファンなんです」

ちひろ「ありがとうございます。ということは彼女たちというのはうちのアイドルですね?」

「はい。それでさっきのは……」

ちひろ「言葉のままそのままですよ。到達出来ぬ夢を叶えるための代価。
    あなたならどのくらいまで払うことが出来るのですか?」

「……もしも。もしもそれが叶うとしたら俺は」

ちひろ「……」

「……いえ、何もしないです」

ちひろ「あら」

「きっと彼女たちがあの輝きを放てるのはあなたの手腕あってのこと。
 私では力不足なんです。だから傍観者のままで構いません」

ちひろ「なるほど。確かにそれも一つの回答ですね。予想外でしたが」

「だからちひろさん。これからも頑張ってください」

ちひろ「ありがとうございます。申し訳ありません。お時間を頂いて。
    また縁があればお会いしましょう。失礼します」

「こちらこそあなたとお話できて嬉しかったです。ありがとうございました」

「……行っちゃった。なんだか変わった雰囲気の人だったな。
 俺がプロデューサーか。そういう妄想も悪くは無い。うん」
「くぅ〜。昨日のライブはよかったなぁ」

「東京からこっちに戻って本当によかった。うん」

「……そろそろ。そろそろ立たないといけないよな」

「彼女たちが遠くの存在に感じるようになったのはそういうこともあるかもしれない」

「うん。変わろう。明日と言わず今日から」

「そうと決まればまずは外に出るか。一日中引きこもるのもよくないしな」

「職安ってどこだろ……」

「……出てきたはいいものの暑すぎるだろ。溶けるわ」

「あー、海で泳ぎたいな。今年まだ一度も泳いでないもんな」

「職安はおいといて海にでも行くか」

「家から海まで近いからこそ泳ぎに行かないもんな」

「東京に居る頃は夏になるとあんなに海が恋しくなったというのに」

「んー、着いたけど思ったより空いてるな」

「ライブ見に来た観光客でもう少し混んでるかと思ったがそうでもない」

「水着ないし泳ぐわけにもいかんな。あ、あの海の家まだあったんか」

「懐かしいな。俺がガキの頃からあったような」

「きゃっ」ドン

「おっとっと。アラッ」コケッ

「すみません。大丈夫です……か」

「ああ、下は砂浜だったからなんとか。キミこそ大丈夫?」

「……」

「おーい……ん、もしかしてキミって」

「プロデューサー……?」

「いや、違うけど。それよりもキミもしかして橘ありすさん?」

ありす「そうですけど」ジィー
「え、あの、ファンなんです。お会いで来て光栄です。
 ……何か顔に付いてますか?」

ありす「いえ。何も付いてないです。ちょっと来ていただけますか」

「はぁ。何でしょうか」

ありす「確かめたいことがあるんです」

加蓮「未央ー。これ以上焼くとちひろさんに怒られるよー」

奈緒「あいつ日焼け止め塗る気ないだろ」

ありす「北条さん、神谷さん。プロデューサー見つけました」

加蓮「プロデューサー? あれ」

奈緒「そんなものいないだろ……ホントだ」

「ええっと……」

加蓮「そうそう。こんな顔なんだよね。プロデューサー」

奈緒「ちょっとありす。携帯貸して。これに見覚えない?」

「ああ、このストラップは私が橘さんの誕生日に送ったやつですね」

ありす「ということはあのペンネームの人ですか」

加蓮「私の直感が合ってたってことだね」

奈緒「ちょっと他のやつ呼んでくるか」

「あのどういうことなんでしょう。私が昔いたプロデューサーに
 似ているんですか?」

ありす「正直言うと私達にもよくわかりません」

加蓮「うん。あなたがプロデューサーだってことはわかる」

「はぁ……」
未央「お、本当にプロデューサーがいる」

卯月「あれ、でも初めまして……ですよね」

凛「……そうだ。あのイヤリング。プロデューサーに貰ったんだ」

みく「よくわからないけどPチャンだにゃ」

イヴ「なんでプロデューサーだと思うんでしょうねぇ」

茄子「不思議ですね」

「え……あ……? ドッキリかなにかですか」

未央「プロデューサーは何も感じないの?」

「何を、ですか?」

卯月「私達を見て、こう……何かですよ!」

「応援してるアイドルに囲まれてかなり嬉しい反面緊張してますけど……」

茄子「そうじゃなくて……なんでしょう。いつもの光景といいますか。
   見慣れた顔みたいな感覚です」

「この光景がいつものなんて豪勢な話ですよ」

凛「プロデューサーは感じないんだ」

卯月「私の思い違いなのかな」

ありす「島村さん一人ならともかくプロダクションのアイドル全員ですよ。
    この人が私達のプロデューサーだったってことは間違いないと思います。
    ただそれがいつのことだかわからないだけで」

加蓮「もしかして記憶が捏造されてる、とか」

奈緒「誰にそんなことされるんだよ」

「一体どういうことなんだ……」

未央「つまりね。あなたは私達のプロデューサーだってことだよ」

「いや、全く意味がわからないです」

ちひろ「まぁそういうことなんですよ」

凛「あれ、ちひろさん。いつの間に」

「あ、先日はどうも」

ちひろ「思ったよりも早い再会でしたね。しかも予想だにしなかった状況で」

イヴ「ちひろさんお知り合いなんですか?」

ちひろ「ええ、昨日話しただけですけど。
    とはいえこれは私にも何がなんだかわからないんですけどね」
茄子「ちひろさんも感じないんですか?」

ちひろ「はい。さっぱりですよ。
    ただみなさんの話を聞いている限りではこの人がここにいるのは当たり前。
    感動の再会でもなんでもないって感じですね」

みく「なんかジュース買って来てくれたぐらいの感覚にゃ」

奈緒「そうそう。さっきまでそこにいた感じ。
   むしろ今、敬語使われてるのがすごい違和感がある」

ありす「そうですよ。なんで敬語使ってるんですか」

「え、えぇー?」

ちひろ「まぁまぁ落ち着いてください。あなたたちからすれば親の顔より見慣れている
    相手なのかもしれませんがこの人からすれば憧れのアイドルに囲まれているだけ
    なんですから」

「その通りです」

凛「じゃあこれから慣れればいいよ」

卯月「ああ、そっか。本当にプロデューサーになればいいんですね!」

ありす「今何か仕事してますか? やめましょう」

「いや、やってないけど……助けてください。千川さん」

ちひろ「雇ったらエアコン直せませんよ?」

加蓮「いいよ。そのくらい」

イヴ「うぅ〜ちょっと困りますけど我慢します〜」

ちひろ「そういうわけなんですけどどうですか?
    うちのプロデューサーになりませんか?」

「いや、急に言われても。これ、夢じゃないんですか」

ちひろ「紛うこと無き現実です。いいじゃないですか。
    憧れのアイドルに囲まれながら仕事出来るんですよ?
    事が急ですしわけわからないことばかりですけど
    これも一つ、そういう運命だと思ってください」

「はぁ……そうか。これもチャンスなんですよね。
 ……やります。やらせてください!」

ちひろ「細かい書類は東京に戻った後ですね。住居を確保しないといけませんね」

未央「じゃあとりあえずビーチボールしよっか」

「あれ、こんな軽いノリなんですか」

ありす「私達からすれば外れてたピースが元あった位置にはまっただけですから」

ちひろ「あ、プロデューサーさん。今日中に荷物まとめてくださいね。
    明日の夕方にはあっちに戻るんで」

「急すぎやしませんか」

凛「休んでる暇はないよ。プロデューサー」

みく「今まで居なかった分ビシバシ働くにゃ!」

「ははは。じゃあまぁ……」

P「頑張らせていただきますか!」
P「今年は綺麗な月ですね」

ちひろ「ええ、雲ひとつ無く。いい天気です」

P「すみません。今日は色々と」

ちひろ「そんな気にしないでください。
    まだ入ったばっかりなんですから」

P「そのまだが外れる日が怖いですね」

ちひろ「そのためにもびしばし働いてもらいますよ」

P「ははは。どうかお手柔らかにお願いします。
 ああ、そうだ。これをどうぞ」

ちひろ「これは……?」

P「私から千川さんへのプレゼントです。その……ファン時代は
 アイドルにはプレゼントを送ったのに千川さんには送ってなかったので」

ちひろ「……万年筆」

P「すみません。もっとかわいらしいものにしようかと思ったのですが
 こういった実用的なもののほうが喜ぶかなと……」

ちひろ「ふふふ。そっか。私へのプレゼント、か……」

P「えーっと……」

ちひろ「ありがとうございます。プロデューサーさん。嬉しいです。
    誰かにプレゼント貰ったのなんていつ以来でしょう」

P「喜んで貰えて何よりです」

ちひろ「さ、お月見はここまでで仕事に戻りましょう。
    今日はスタドリ奢っちゃいますよ」

P「あれ、ちょっと苦いですよね」

ちひろ「そうですか? おいしいと思うんですけど」
今回の契約に関し、このような結果に辿り着いたのは本当に予想外である。
あの鐘が鳴った時、契約者の夢が解け本来の世界に戻るはずだったのに
契約者の周囲にいた人物、アイドルたちの記憶に契約者の事柄が残留していた。
これは鐘を鳴らすことで発生したのがやり直しではなく巻き戻しであったからと推測される。
僅かに残っていた記憶は徐々に思い出され、契約者との再会へと結びついた。
今思い返して見るともしかしたら契約者自身も無自覚ながら記憶が残っていたのかもしれない。
だからあの時かつてとは違う回答をしたのでないだろうか。
まぁどちらでもいいんですけどね。
今回、最後に面白いものが見れてよかったと思います。このようなこともあるのかと、まさしく
これこそが数奇な運命というものなのでしょう。
でもですね。プロデューサーさん。あの時は契約しないことを選びましたがもう遅かったんです。
だってもうプロデューサーさんは契約して代価を既に支払っているんですから。
『……もしも。もしもそれが叶うとしたら俺は』

『俺の望む世界が手に入るのだとしたら』



『俺は残りの命を全てを差し出してもいいです』
以上

02:30│モバマス 
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