2014年09月11日

小鳥「流れ星を探して」

いつまでも夜空を見上げていた。



昨夜は星がとても綺麗だったから。







こんな大都会の真ん中でも、数えきれないほどの星が瞬いている。



眠らない街の灯りに、懸命にかき消されないように。





今はまだ、とても小さな光だけど……



うちのみんなも、いつかどの星よりも強く輝くだろう。





そんなことを考えながら、時を忘れてずっと流れ星を探していた。



こんな素敵な夜には、きっと小さな奇跡が願い事をかなえてくれるはずだから。







おかげで朝から首が痛くて仕方ないです。



http://i.imgur.com/q0zqnrd.jpg





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独り身の夜は長いもの。



ワンカップ片手にロマンチックな気分に浸ってみたくなることだってあるわ。



だって私、2X歳乙女だもんね♪





 グキッ



小鳥「ぅぐっ……!」





ふ……ふふ、そうね嘘はいけないわ。



この痛みは、きっと自分への戒め。



だって2X歳なんて言葉で自分をごまかすことができたのは、昨日までのことだもの。



 - 9月9日 朝 765プロ事務所 -





ああそうさ、今日は私の誕生日さ。



最後のあがきで、流れ星にお願いして無かったことにしてもらおうと思ったらこのざまですよ。





だいたい流れ星自体そう簡単に見つからないのに、あんな一瞬で願い事を三回なんてムリゲーよね、ムリゲー。



最初から願い事聞くつもりないだろチクショー!





まあね、そんな迷信、本気で信じてるわけじゃないけど。



いや、ほんとに。負け惜しみとかじゃなく。





小鳥「ふぅ……」





2X歳は昨日で使い納め。





使い始めたのは、四半世紀を過ぎたあたりからだったかしら……。



多分あの頃は、自分がいつまでも二十代でいられるなんて無邪気に信じていたのね。



今日この日が来るなんて、考えてもいなかった。





私も若かったわね、ふふっ。



そう、若かったわ。



若かった……。





小鳥「はぁ……」





うん、現実逃避してもしょうがないわね。



今日からどうやって歳をごまかすか考えないと!



春香「おはようございまーす!」



亜美「おっはよー!」



小鳥「おはよう。春香ちゃんと亜美ちゃんが一緒なんて珍しいわね」



亜美「うん、来る途中で偶然転んでるはるるんを見つけて」



春香「転んでないよ!」



小鳥「うふふ」



春香「あ、小鳥さん、お誕生日おめでとうございます!」



亜美「おめでとー、ピヨちゃん!」



小鳥「え? ええ、ありがとう」



亜美「え〜と、たしか……さん」



小鳥「あー! あー! 聞こえなーい!」



亜美「うあっ!? いきなりおっきな声出してどったの?」



春香「……」



小鳥「あ、あら? 誕生日でテンションが上がりすぎたみたい。うふふ」



亜美「そ、そっかぁ」



春香「そ、それより小鳥さん!」



小鳥「ん、なに?」



春香「これ、ケーキを焼いてきました!」



亜美「おお!」



小鳥「そんな、気をつかわなくていいのに」



春香「いつもお世話になってるお礼ですから」



小鳥「そう? ありがとう春香ちゃん」



春香「えへへ、どういたしまして」



ロールケーキを生クリームで丁寧にデコレーションした、とても可愛らしいバースデーケーキ。



春香ちゃんらしい、心のこもったプレゼント。



本人にとってはありがたくない日だけど、こんな素敵なお祝いをしてもらったらやっぱり嬉しい。





小鳥「なんだか食べるのがもったいないぐらいね」



春香「そ、それほどじゃ……///」



亜美「食べないんだったら亜美がもらうよ?」



小鳥「律子さんにチクるわよ?」



亜美「うぇっ!? じょ、冗談だよ〜」



春香「あはは」



小鳥「みんなが来てから一緒に食べましょうね」



春香「そうですね。今のうちに人数分に……」



亜美「あれ? このケーキ、なにか足りなくない?」



小鳥「え?」



春香「足りないって……なにが?」



亜美「ん〜……あ! ロウソクだ!」



小鳥「……」



春香「……」



亜美「ん?」



小鳥「ホールケーキならともかく、ロールケーキにロウソクはちょっと、ね?」



亜美「え〜? 誕生日のケーキっていったらロウソクっしょ?」



春香「あ、あ〜……用意するの忘れてた〜。ごめんね〜」





春香ちゃん、そのへん気を使ってロールケーキにしてくれたのかも。



なんだか私のほうが申し訳ない気持ちになってくるわね……。





だいたい、私の年齢分のロウソクなんて……。



フライパンで目玉焼きを作れるぐらいの火力はありそうね。



想像してみたら、ちょっとだけ泣きそうだわ。ふふっ……。





亜美「あ、ちょっと待ってて」



春香「ど、どうしたの亜美?」



亜美「たしか、この引き出しに……」ゴソゴソ…



小鳥「?」



春香「?」



亜美「あった! まこちんとあずさお姉ちゃんのときのロウソク!」



小鳥「えっ」



春香「えっ」



亜美「ほら、ちょっと大きいのが3本あるよ!」



小鳥「」



春香「ぅゎぁ……」



亜美「ちょうどキリがよくてよかったね!」



小鳥「え、ええ……」



春香「あ、亜美。あとでちょっと話ししよっか?」



亜美「?」





頭では理解していたつもりだったけど……



現実がつらすぎて、心がへし折られそうだわ……。





うん、帰ってから泣こう……。



───



──









律子「おめでとうございます、小鳥さん」



小鳥「ありがとう律子さん。って、あら?」



律子「大したものじゃないけど……プレゼントです」



小鳥「私の誕生日なんか忘れてくれていいのに」



律子「そういうわけにもいきませんよ」



小鳥「律子さんだったら、今日だけ私のお嫁さんになってくれてですね」



律子「は?」



小鳥「手料理を作ってくれたり、膝枕して耳かきしてくれたり……」



律子「……」



小鳥「お風呂で背中を流してくれたり、添い寝して抱き枕になってくれたり……」



律子「……」



小鳥「プレゼントは私です/// ……みたいなのでもいいんですよ?」



律子「それはお断りなので、どうぞ受け取ってください」



小鳥「もう、律子さんのいけず〜」





冗談ですよ、うふふ。



どんな形だって、律子さんからのプレゼントなら嬉しいに決まってます。



ううん、もちろん律子さんだけじゃなくて……



真「小鳥さん、お誕生日おめでとうございます!」



雪歩「おめでとうございます」



真美「おめでとー!」



やよい「おめでとうございます!」



伊織「お……おめでとう」



あずさ「おめでとうございます」



美希「おめでとっ♪」



千早「おめでとうございます」



響「おめでとう!」



貴音「おめでとうございます」



高木「おめでとう!」





みんな、ありがとう!



 - 同日 夜 765プロ事務所 -





P「音無さん、誕生日おめでとうございます」



小鳥「ありがとうございます、プロデューサーさん」



P「みんなと一緒にお祝いできればよかったんですけどね」



小鳥「そうですね……」





朝からこんな時間まで仕事に追われて……。



せめて直帰すれば少しでも休めるのに、お祝いしたいからって駆けつけてくれて……。



私のことなんかより、もっと自分のことを考えてくださいね?





でも……それはそれとしてですね。



やっぱり、嬉しいです……。





そんなの嬉しいに決まってます。ふふっ///





P「こうして二人だけでお祝いも悪くはないですよね」



小鳥「ええ……えぇ!?」



P「え?」



小鳥「い、いえ……」



P「?」





二人だけでお祝い……。



うん、今ここには私とプロデューサーさんしかいない。



彼と二人きりの……私の誕生日。



P「屋上に行きませんか?」



小鳥「え?」



P「シャンパンを買ってきたから、乾杯しましょう」



小鳥「屋上でですか?」



P「事務所で飲んだなんて律子にバレたら大変でしょ?」



小鳥「あはは、それもそうですね」





 - 屋上 -





小鳥「わぁ……星がきれ」



 ビキッ



小鳥「んぐっ……!?」



P「どうしました?」





く、首が……。



2X歳の私からの置き土産をすっかり忘れてた……。





小鳥「な、なんでも……くぅ」



P「そうですか?」





流れ星を探してたら首を痛めたなんて、もちろん言えるわけない。



二十代最後の夜の思い出としては、ちょっと恥ずかしくて笑えないもの……。



小鳥「この時間だと、もうたいぶ涼しいですね。少し寒いぐらい」



P「そうですね。なにか羽織れるものでも持ってきましょうか?」



小鳥「いえ、そこまでじゃ……」



P「あ、俺の上着でよかったら」



小鳥「でも、プロデューサーさんが寒いんじゃ」



P「俺は大丈夫ですよ。はい、どうぞ」



小鳥「あ、ありがとうございます」





プロデューサーさんがさっきまで着ていた上着。



まだ温もりが残ってる……。





P「どうですか?」



小鳥「はい、暖かいです……」



P「それはよかった」



小鳥「……///」





ちょっと暖かすぎて、顔が真っ赤になってる気がする……。



し、仕方ないわよね、こんなに暖かいんだから///





なんだか、幸せ……。



P「これだったら熱燗とおでんのほうがよかったかな」



小鳥「……」



P「どうしました?」





どうしました、じゃないですよ。



せっかくの雰囲気がぶち壊しじゃないですか。



ついでにお腹すいてきちゃいましたよ!





小鳥「なんでもないです!」



P「あれ? そういうのお嫌いでしたか?」



小鳥「なに言ってるんですか。今度ぜひ誘ってください!」



P「そうですね、今度二人で行きましょう」



小鳥「ええ、二人で……え?」



P「え?」





今までは、食事のお誘いってあずささんとか律子さんも一緒だったけど……。



二人でと言いましたか、今?



二人きりでお食事なんて……もしかしてデート?





デートよね、おでんだけど!





小鳥「あ……はい、よろしくお願いします///」



P「いい店を探しておきますよ」



小鳥「はい、期待してます♪」



P「それじゃ乾杯しましょうか」



小鳥「はい」



P小鳥「「乾杯」」



 チンッ





なんだか、信じられないぐらい素敵な誕生日。



たぶん2X+1回の中の、どの誕生日よりも。





なんで無かったことになんてしようとしたんだろう。



そんなことできるわけないのに。



今はもう、無かったことになんてしたくない。





小鳥「星空の下で乾杯なんて、すごくロマンチックですね」



P「もちろんそのつもりですよ」



小鳥「なんですかそれ。ふふっ」



P「ははは」





今日が終わらなければいいのに……。



P「音無さん」



小鳥「はい?」





おっと、危ない危ない。



もう少しで首がレッドゾーンを振り切るところだったわ。



体ごとプロデューサーさんのほうを向いて、と……。





P「……小鳥さん」



小鳥「え?」





ああ、大事なことだから二回言ってって……あれ?



今、小鳥って名前で?





P「……」



 グイッ



小鳥「ふゎ!?」



肩を軽く抱き寄せられて……



さっきよりずっと近く、目の前にプロデューサーさんがいる。





小鳥「あ、あの……?」



P「……」





これって……や、やっぱりそういうことよね?



ええ、髪の毛に芋けんぴなんて付いてないはずだもの。





大丈夫! 落ち着くのよ私!



こんなときどうすればいいか、何度も脳内でシミュレーションしてきたじゃない。



そう、目を閉じて、ほんの少しだけ顔を上げれば……。





ん? 顔を……?



…………



……





く、首がっ!?





小鳥「ぅ……」



P「?」



ど、どうする? どうすればいい!?



このままじゃ埒が明かないし、だからって上を向こうにも……



 ビキッ



む、無理……。





ううん、諦めちゃダメ!



身長差を少しでも埋められればいいんだから……。



つま先立ちで……と、届く?





P「……」



小鳥「あ……」





プロデューサーさん……離れちゃった。



遅かった……?



P「ごめんなさい……こんなこと迷惑でしたね」



小鳥「ち、ちがっ……!」



P「今のことは忘れてください」



小鳥「そんなの……」



P「ははは……ほんとバカみたいだな、俺」



小鳥「……」





バカなのは私だ。



こんなときに、言うべきことをなにも言えないんだから。





ほんの些細な、本当につまらない誤解。



たった一言、私の気持ちを伝えるだけでいい。



その程度のことなのに。





でも、その一言が出てこない。



P「それじゃ、そろそろ帰りましょうか」



小鳥「……」



P「音無さん?」



小鳥「あ……」



P「どうしました?」



小鳥「いえ……そうですね」





もう、「小鳥さん」じゃないんだ……。



はっきりと思い知らされてしまった。





P「……」



小鳥「……」





流れ星……見つからない。



今度こそ本当にお願いしたいのに。



- 9月10日 765プロ事務所 -





小鳥「……」カタカタ…



真美「ぴ……ピヨちゃんがモクモクと仕事をしてる!?」



響「どうしたの、ぴよ子? 具合でも悪いの?」



雪歩「ちょ、ちょっと二人とも。そんな言い方したら失礼だよ」



小鳥「え……あ、みんなおはよう」カタカタ…



真「お、おはようございます」



小鳥「……」



一同「「……」」



小鳥「ふぅ……」カタカタ…



真「ねえ、律子。小鳥さん、どうしたの?」



律子「朝からあんな感じだから、私もわからないわ」



真「そっか」



律子「まあ、病気とかではないでしょ」



雪歩「でも、心配ですね」



真「うん、あんな元気のない小鳥さん初めて見た」



律子「そうね……」



真美「き、気にすることないよピヨちゃん? さんじゅ」



響「ちょっと真美!?」



小鳥「ん〜……?」カタカタ…



響「あ、あはは……なんでもないよ」



小鳥「いいのよ、それはもう諦めたから……」



ひびまみ「「えっ!?」」



小鳥「さ、仕事仕事……」カタカタ…



真美「……」



響「……」



真美「や、やっぱりおかしいよね?」ヒソヒソ



響「う、うん……無駄な抵抗をしないなんて、ぴよ子らしくないぞ」ヒソヒソ



真美「まさか……!」ヒソヒソ



響「な、なに?」ヒソヒソ



真美「この1年でおっぱいが3cm縮んだとか!?」ヒソヒソ



響「……」



真美「よし、ひびきん! 第一形態(+3cm)にフォームチェンジだ!」



響「わ、わかった! ……って、なんのことだー!」



http://i.imgur.com/p5PyjBR.jpg



P「ただいま戻りました〜」



あずさ「おはようございま〜す」



真美「あ、兄ちゃんとあずさお姉ちゃん」



律子「おはようございます。今日はずいぶん早いですね」



あずさ「はい。途中でプロデューサーさんに拾ってもらいました」



律子「拾ってって……」



P「みんな揃ってるな? すぐに出発するぞ」



一同「「は〜い!」」



小鳥「……」



P「……」





プロデューサーさんとは、朝、挨拶だけしてそれっきり……。



目も合わせようとしないし、明らかに避けられてる。





でも……正直なところ、そのほうが気楽だ。



私だって、どんな顔をすればいいかわからないし……



なにより今は見られたくない。





鏡で見たら、ほんとにひどい顔をしていたから。



あずさ「あら? プロデューサーさんと音無さん……」



P「……」



小鳥「……」



あずさ「律子さん?」



律子「だから、私は小鳥さんの保護者じゃないですって」



あずさ「うふふ。なにも言わなくてもお見通しなんですね」



律子「そういうの、ずるいですよ……」



あずさ「でも、ほうってはおけないですよね?」



律子「はいはい、わかってますよ、もう」



あずさ「さすが律子さん♪」



P「それじゃ、いってきます」



一同「「いってきま〜す!」」



律子「いってらっしゃい」



あずさ「いってらっしゃ〜い。気をつけてね〜」



小鳥「……」



律子「小鳥さん?」



小鳥「あ……はい」



律子「今夜、時間取れますか?」



小鳥「今夜ですか?」



あずさ「うふふ、大人の付き合いです」



小鳥「はあ、別に構いませんけど……」





お姉さんコンビが、二人してなにかしら?





ふふっ、なんてね。



わかってますよ、お節介焼きのお二人さん。



 - 同日 夜 たるき亭 -





律子「……」



あずさ「あらあら〜」





本当なら思い出したくもないし、誰かに話すなんて以ての外なんだけど……。



誰にも頼れないのはもっと辛いから……。



律子さんとあずささんだって、こんな話を聞かされても困るでしょうけどね。





小鳥「よ〜し、今夜はヤケ酒だー!」



あずさ「おー!」



律子「ダメに決まってるでしょ」



小鳥「え〜」



律子「あずささんも悪ノリしない」



あずさ「は〜い」



小鳥「いいじゃないですかぁ、こんなときぐらいお酒に逃げたって〜」



律子「こんなときだけじゃないでしょ、小鳥さんは」



小鳥「うっ」





心当たりがありすぎて言い返せないじゃないですか!



律子さんのイジワル! メガネ属性!



小鳥「うぅ……泣いてもいいですか? あずささんの胸の中で」



あずさ「あら? うふふ、私でよかったら」



律子「だから、甘やかさないでくださいよ」



小鳥「律子さんがいじめる〜」



あずさ「よしよし」ナデナデ



律子「まったく……」





なぜだろう、不思議と涙は出てこない。



昨夜だって泣き明かすつもりだったのに、どうしても泣けなかった。



泣きたいのに泣けないって、とてもつらい……。





律子「小鳥さんだって、ほんとはわかってますよね?」



小鳥「なにがですか?」



律子「どうすればいいか、ですよ」



小鳥「それは……」



あずさ「そうですね。ちょっとした誤解を解くだけでいいんですから」



小鳥「……」





それは、わかってます。



わかってますけど……。



律子「ま、大人なんだから自分でなんとかしてください」



小鳥「そんな言い方しなくてもいいじゃないですかぁ」



律子「私やあずささんにできることなんて、なにもないですよ」



小鳥「それはそう、ですけど……」



あずさ「あら、プロデューサーさんのこと諦めちゃっていいんですか?」



小鳥「諦める……?」



あずさ「だったら私が……」



小鳥「そ、それはダメです!」



律子「……」



あずさ「……」



小鳥「あ……」



あずさ「うふふ、冗談です」



律子「そういうのは冗談にならないからやめてください……」



あずさ「は〜い、ごめんなさい」



小鳥「……」



あずさ「音無さん」



小鳥「はい……?」



あずさ「プロデューサーさんの前で、今みたいに素直になればいいと思いますよ?」



小鳥「あずささん……」



律子「ふふっ、やっぱりあずささんには敵いませんね」



あずさ「そんなことないですよ。一番心配してたのは律子さんじゃないですか」



律子「わ、私は別に……」



あずさ「うふふ」



小鳥「律子さん……」



あずさ「律子さんは年下のみんなだけじゃなく、私や音無さんのこともいつも気にかけてくれてますからね」



律子「ちょっ、やめてくださいよ」



小鳥「ふふっ、そうですね。律子さんにはお世話になりっぱなしです」



律子「だから、やめてくださいって……」



あずさ「律子さんは765プロみんなのお姉さんですね」



律子「は? そういうのは年上のお二人が……」



小鳥「律子お姉ちゃん?」



あずさ「律子お姉ちゃん♪」



律子「……///」プルプル



小鳥「ん?」



あずさ「あら?」



律子「もう帰る!///」



小鳥「ああん、もう冗談ですよ」



あずさ「ほら、律子さんもグイっと」



律子「いただきます!」ゴクゴク…



小鳥「おお〜!」



あずさ「うふふ♪」



小鳥「あははは……」



律子「なんですか、いきなり笑ったりして」



小鳥「なんだか、悩んでるのがバカらしくなっちゃいました」



あずさ「そうですよ。困ったときこそ笑顔です♪」



小鳥「ふふふ、そうですね」



律子「ふふっ」



小鳥「ありがとう……律子さん、あずささん」



律子「ま……まあ、仕事に差し障られても困りますし」



あずさ「うふふ、少しはお役に立ててよかったです」



小鳥「ありがと……」ポロポロ



律子「こ、小鳥さん?」



あずさ「……」



小鳥「う…………ぅあ……ひぐっ」ポロポロ



律子「小鳥さん……」



あずさ「大丈夫。その気持ちがあれば絶対に大丈夫です」



律子「ええ、これ以上小鳥さんを泣かせたら、私たちがプロデューサーを許しません」



小鳥「ふふっ……はい」ポロポロ



あずさ「さあ、私の胸でどうぞ」



小鳥「お言葉に甘えます…………うぅ……あ」ポロポロ





私なんかにはもったいない……ううん、そんなこと言ったらきっと二人には怒られる。



私の、とても素敵な仲間。





ありがとう。



 - 9月11日 夕方 765プロ事務所 -





小鳥「ぷ……プロデューサーさん」



P「え?」





今、事務所には私とプロデューサーさんの二人だけ。



ここでなにもできなければ、たぶんずっとなにもできないままだ。



それでいいの?





ううん、そんなのはイヤ。





P「なんですか、音無さん?」



小鳥「このあと……時間ありますか?」



P「時間ですか? 今日はあと書類の整理だけですから、まあ……」



小鳥「だったら……」



P「はい?」



小鳥「約束しましたよね、二人でおでんに行くって」



P「……」





プロデューサーさん、露骨に不審そうな顔してる。



それはそうよね。彼からしてみたら、自分をふった女からこんなこと言われてるんだから。





小鳥「私は、約束忘れてません」



P「そうですね……わかりました」



小鳥「よかった! 屋台だけど、すごく美味しいところがあるんです」



 - 同日 夜 路上 -





小鳥「……」



P「……」





風が少しだけ冷たい。



言葉が無いほどに、なおさら二人の距離を感じる。





上着を借りて舞い上がっていたあの日のことが、まるで夢みたいだ。



うん、素敵な思い出だけど、今は忘れよう。



この距離から、また始めなきゃいけないんだから。





P「寒くは、ないですか?」



小鳥「え? ええ、大丈夫です」



P「……」



小鳥「……」



P小鳥「「あの」」



小鳥「あ……」



P「な、なんですか?」



小鳥「そ、そちらからどうぞ」



P「俺……少し大人げなかったと思います。ごめんなさい」



小鳥「え?」



P「あからさまに避けたりして……よくないですよね、そういうの」



小鳥「ああ……」



P「なにか察したんでしょうかね。真と雪歩から散々お小言をもらいましたよ」



小鳥「ふふっ、アイドルに心配されてちゃダメですよね」



P「まったくです。面目ない」



小鳥「ふふふ」



P「ははは」





さっきまでの自分からは信じられないぐらい、自然と言葉が出てくる。





私自身はなにも変わっていない。



私にも背中を押してくれる仲間がいたから……



きっと、そのおかげ。





小鳥「私も一緒です」



P「え?」



小鳥「あんまりウジウジしてたものだから、あずささんと律子さんに」



P「ああ、飴とムチですね」



小鳥「あら? どっちが飴でどっちがムチですか?」



P「いやいや、勘弁してください」



小鳥「ん〜……大根とちくわぶと玉子で手を打ちますよ?」



P「かしこまりました」



小鳥「よろしい。律子さんには黙っててあげます」



P「それだと律子がムチのほうだと言ってるみたいですね」



小鳥「な、なにいってるんですか。あ! あの屋台です」



 - 屋台 -





小鳥「大根とちくわぶと玉子を♪」



P「同じものと、熱燗を二つ」



店主「あいよ」





こういう、いかにも昔ながらの屋台って、なんでそれだけで美味しそうなんだろ?



あれもこれも、いろいろ目移りしちゃう♪





あ、ちなみにこのお店は貴音ちゃんからの情報提供です。



未成年なのに、こんな風情ある屋台を見つけてくるなんて……。



さすが食の探究者貴音ちゃんね。侮れないわ。





店主「はい、おまたせ」



小鳥「いただきま〜す♪」



P「いただきます」



小鳥「じゃあ、まず大根を……」



 パクッ



小鳥「ふわぁ、お出汁がしみててホクホクで美味し〜♪」モグモグ



P「ん……たしかに」モグモグ



店主「お兄さんたちは恋人同士かい?」



P小鳥「「えっ!?」」



小鳥「……」



P「……」



店主「おや、違ったかい? お似合いだと思ったんだがね」



小鳥「そんな……///」



P「恋人同士どころか、つい最近ふられたばかりですよ」



小鳥「ちょっ、なに言ってるんですか!?」



P「ははは、ほんとのことでしょ」



小鳥「そ、それは……」



店主「ここで修羅場は勘弁してくれよ。ははは」



P「そんなことなら、一緒にお店に来ませんよ。ねえ?」



小鳥「え、ええ……」





そう……そうだったわね。



プロデューサーさんは、私にふられたものだと思ってる。



少しぐらい距離が縮まっても、誤解されたままなことに変わりはない。





小鳥「ん……!」ゴクゴク



P「ちょっ、そんな一気に飲んだら……」



小鳥「ふぅ……」





よし、覚悟は決めた!



小鳥「あの日のことは、プロデューサーさんの誤解です」



P「誤解? なにがですか?」



小鳥「だから、あれですよ。ガッとやって、それから……その、ね?」



P「あ……ああ。あれは、あんなこといきなり迫った俺のほうが……」



小鳥「違います」



P「え?」



小鳥「あのとき、私は……拒絶したわけじゃないんです」



P「どういうことですか?」



小鳥「その……あの日、首を痛めてまして」



P「首を?」



小鳥「プロデューサーさんのほうに顔を向けようにも……できなかっただけなんです」



P「はあ?」





うん、言えたわね。



プロデューサーさん反応は予想通りだし。



そりゃあ、「なに言ってんの、この人?」って顔にもなりますよね。





我ながら情けないやら恥ずかしいやらで、できれば逃げ出したいところだけど。



ここで逃げたら、たぶん取り返しのつかないことになる。



P「……」



小鳥「……」



P「なんで、あのとき言ってくれなかったんですか?」



小鳥「それは……」



P「言ってくれれば……」



小鳥「ちょっと待ってください」



P「はい?」



小鳥「言ってくれればって、それはこっちのセリフですよ」



P「は?」





そうよ! こっちにだって言い分はあるんだから。



こうなったら、言いたいことを言わせてもらいます!





小鳥「んくっ……!」ゴクゴク



P「……」



小鳥「大将、お銚子もう一本!」



店主「おいおい、もうやめといたほうがいいんじゃ……」



小鳥「これが飲まずにやってられますか!」



店主「やれやれ……お兄さん、ちゃんと家まで送ってやんなよ?」



P「わかってます」





ふーんだ! 大きなお世話ですよーだ!



この程度で酔っぱらってたまるかってんだい!



P「あの、お騒がせしてしまって……」



店主「ああ、いいっていいって。今日はあんたたちの貸切だから、気の済むまでやってくんな」



P「すみません……」





おっ! さすが大将、話がわかる!



どこかの朴念仁さんに見習わせてやりたいもんですね!





小鳥「いいですか、プロデューサーさん!」



P「なんですか?」



小鳥「物事には順序ってものがありますよね?」



P「順序?」



小鳥「ガッとやってチュッ……の前に、なにか忘れてませんか?」



P「?」



店主「あ〜……そりゃあ、お兄さんが悪い」



小鳥「ですよね!」



P「ええ? どういうことですか?」



小鳥「私……まだプロデューサーさんの気持ちを聞いてません」



P「それは……」



今、わかった。



あのとき、私はプロデューサーさんの言葉を待ってたんだ。





私が一番聞きたい言葉。



知りたいこと。





……プロデューサーさんの気持ち。





P「言わなくてもわかってもらえてると……」



小鳥「わかりません」



P「俺は、いい加減な気持ちであんなことはしません」



小鳥「そんなの、私にはわかりません」



P「どうして……!」



小鳥「私がどんなに不安かって、わかりませんか!?」



P「……!」



小鳥「私、まだ自分の気持ちも伝えられてないんですよ!?」



P「音無さん……」





私にはわからないことばっかりだから。



言葉にしてもらえないのも、言葉にできないのも……怖い。





……って、やっと自分でも理解できた。



やだ、泣きそうだ……。



P「そう、ですね……」



小鳥「……」



P「まだ大切なことを伝えてなかった……」



小鳥「私も、まだです」



P「もう一度、やり直してもいいですか?」



小鳥「……」



P「お願いします」



小鳥「わかりました。きんちゃくとチーズはんぺんとジャガイモで手を打ちます」



P「大将、同じのを彼女と俺に」



小鳥「お銚子ももう一本♪」



店主「はいよ」





これでやっとスタートライン。



泣くのは、まだちょっと早い。





店主「おまたせ」



小鳥「わぁ♪ あら?」



店主「牛すじはサービスだ。しっかりやんな、お二人さん」



小鳥「はい、ありがとうございます♪」



P「いただきます」





変なの、ちょっとだけ塩辛い……。



でも……うん、すごく美味しいです♪



 - 路上 -





小鳥「あ……あらら?」



 フラフラ〜



P「おっと、大丈夫ですか?」



小鳥「大丈夫ですよ〜」



P「やっぱり酔ってますね」



小鳥「いけませんか〜?」



P「いいえ。ちゃんと面倒見ますから、ご心配なく」



小鳥「んふっ♪ 今日は優しいんですね〜」



P「今日はは余計です」



小鳥「うふふ〜♪」



P「歩けますか?」



小鳥「歩けますよぉ、ほら〜」



 フラフラ〜



小鳥「うぉっと……っと」



P「ああもう。おんぶしましょうか?」



小鳥「お姫様抱っこ!」



P「はいはい、無理です」



小鳥「む〜……」



P「今日は行けなさそうかな……」



小鳥「なんですか? 私をどこかに連れ込むつもりですか?」



P「ええ、屋上ですよ。事務所の屋上」



小鳥「屋上?」



P「誕生日のやり直し……のつもりだったんですけどね」



小鳥「あ……」





今ので、頭のほうはすっきり醒めました。





ああもう! バカバカ、私のバカ!



当分お酒なんか飲まない! たぶん!





小鳥「あの……もう大丈夫です」



P「まだフラフラしてますよ?」



小鳥「歩けます。でも……」



P「ん?」



小鳥「倒れないように……支えて歩いてもらえますか?」



P「……」



小鳥「……///」



P「よろこんで」



小鳥「ふふっ、よろしくお願いします///」



 - 屋上 -





風が少しだけ肌寒い。



見上げてみれば、あの夜のような満天の星空。





P「少し寒いですね」



小鳥「ええ……」



P「……」



小鳥「……」





あの夜と同じように、差し出されたプロデューサーさんの上着を羽織る。



やっぱり、すごく暖かい。





P「首はもう大丈夫ですか?」



小鳥「試してみますか?」



P「そのつもりです」



小鳥「あら? ずいぶん強気ですね」



P「そうでもないと思いますよ」



小鳥「どうでしょうね? ふふっ」





少しばかり遠回りをしたけれど、やっとあの夜に戻ってこれた。



二日遅れの、私の誕生日。



P「音無さん」



小鳥「んん?」



P「……小鳥さん」



小鳥「はい♪」



P「改めて、誕生日おめでとうございます」



小鳥「ありがとうございます」



P「……」



小鳥「……」



P「あのとき、言えなかったことがあります」



小鳥「はい……」



P「好きです、小鳥さん」



小鳥「私も……プロデューサーさんが好きです」





ずっと聞きたかった、プロデューサーさんの気持ち。



伝えたかった、私の想い。





やっと言葉で形にすることができた……。





P「恋人として、お付き合いしてもらえますか?」



小鳥「はい、よろこんで……」





今度こそ泣きそう……だけど、ダメ。



つらいときだけじゃなく、幸せなときもやっぱり笑わなきゃね!



P「小鳥さん」



小鳥「あ……」





そうだった。



あの夜の、もうひとつの忘れ物……。





目を閉じて、少しだけ顔を上げる。





P「……」



小鳥「ん……」









私の長い長い誕生日……



いろいろあったけど、ハッピーエンドです♪



小鳥「あ、流れ星……」



P「そうですね」



小鳥「……」



P「なにか願い事はしましたか?」



小鳥「いいえ、なにも。プロデューサーさんは?」



P「俺もなにも」



小鳥「そうだと思いました」



P「ははっ、わかりますよね」



小鳥「ふふっ、もちろん」





小鳥「これ以上の願い事なんて、なにもないですから」









おわり





23:30│音無小鳥 
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