2013年11月29日

モバP「寒空に咲く意志の花」

モバマスSSです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1384916251


ちひろ「あ、プロデューサーさんお電話です」

P「はい。今代わります」

P「はい。お電話代わりました」

ディレクター「あ、どうもご無沙汰してます」

P「こちらこそご無沙汰してます」

ディレクター「実はですね、少し頼みたいことがありまして……」
P「――なるほど。温泉と地酒と地域の料理ですか。確かにウチの高垣には合ってると思いますけど。他にはどうしましょうか?」

P(菜々さんとか)

ディレクター「そうですね。そちらの事務所さんではあとは、二十歳を超えてる方がいらっしゃらないようですので、それくらいですね」

P「えっ…」

ディレクター「どうかされましたか?」

P「い、いえ、なんでもないです」

P(そう言えば、菜々さんは17歳だったんだっけ。対外的には)

ディレクター「それでは失礼しますねー」

P「はい。失礼します」

ちひろ「どんなお話だったんですか?」

凛「仕事の話?」

P「まぁ、そうだな」

凛「ふぅん?誰の?」

P「楓さんのかな」

楓「私ですか?」

P「えぇ、楓さんです」

杏「よし!」

P「随分嬉しそうだな杏」

杏「杏は昨日の収録で疲れたんだよー」
P「まぁ、拘束時間が長かったしな」

杏「カメラの前にはそんなにいなかったけどね。待つってのもダルいね」

P「俺も付いてやれてなかったしな」

杏「ホントだよ。飴が切れて死ぬかと思ったよ」

凛「結構さ、仲いいよね二人共」

杏「それじゃ、凛が飴くれたりするの?」

凛「流石に今は持ってないかな」

杏「だよね」

P「ほれ、杏」

杏「ん」

楓「Pさん、私にも…」キラキラ

P「楓さんもですか。はいどうぞ」

楓「ありがとうございます」

楓「これ美味しいですね」コロコロ

P「喜んで貰えると嬉しいです」

杏「まぁ、杏が選んだ飴だからねー。失敗はないよね」

P「あれだけ言われればな…」

ちひろ「何かあったんですか?」
あ、シリーズものです。
すみません。
P「えぇ、まぁ…。何と言うかですね」

ちひろ「はい」

凛「私も気になるな」

P「ま。いいか。いや、この間杏の初任給が入った時にですね、飴をくれたんですよ」

杏「あげたって言うか、ほとんど杏が食べてるんだけどね」

P「多分杏の策略に乗ってると思うんですけど、正直ちょっと嬉しくてですね、そこから同じものを買ってるんですよ」

杏「全く乗せやすくて助かったよ」

ちひろ「……つまり、杏ちゃんがプロデューサーさんにプレゼントを?」

杏「そ、そういうわけじゃなくて、杏に飴をあげる係りだから、次からこれをくれって」

凛「はいはい。そういうことにしておこっか」

菜々「お疲れ様でーす☆ あれ、どうかしたんですか?」

P「あ、お疲れ様です。そう言えば菜々さん聞いて下さい」

菜々「はいはい。何かありましたか?」

P「菜々さんは17歳でしたよ」

菜々「えっ…?あっ、もうっ何言ってるんですか!ナナは17歳ですよー☆」キャピ

凛「私も17になったらあぁなるのかな…」

杏「杏みたいになるかもね」

凛「他の道があって欲しいと切に願うね」

杏「まぁ、杏みたいなのが二人になってもこの人が困るだろうけどね」

凛「それは簡単に想像出来るね…」

凛(でも、構って貰えるなら悪くないかも)

楓「それだったら私も…」

P「楓さんはもういい大人なんですから」

楓「むぅ…」プー

菜々(ナナもいいですか? って聞かなくて良かった…)

楓「あれ?」

P「どうかしましたか?」

楓「私一人でロケなんですか?」

P「えーっと、アイドルは一人だけですね。ナナさんが17歳ですんで」

菜々「な、なにを当たり前のことを言うんですか、嫌ですねもうっ!」

杏「選択肢が増えたね」

凛「う、うん…。あんまり増えて欲しくなかった方向になんだけどね」

P「それで、流石に楓さんを一人で行かせる訳にはいかないんで、俺も付いていきます」

楓「わぉ」

菜々「えっ」

ちひろ「あ、そうなんですね」

菜々「ちょ、ちょ、ちょっといいですか?」

P「はい。どうかしましたか?」

菜々「そ、それって最早、二人で温泉旅行ですよねっ!?」

P「いや、流石に俺と楓さんは部屋別ですし、夜も撮影あったら、ほとんど一緒にいないですよ」

菜々「確かにそうですけど…」

菜々(全ては、ナナが17歳だから悪いんですけどね。20歳超えてたらオファーあったでしょうし)

杏「ねぇねぇ」
P「どうした?」

杏「温泉まんじゅうよろしく」

ちひろ「出来れば、皆で食べれる感じのモノをお願いします」

P「分かりました。凛は何かいるか?」

凛「いや、別にいいかな。ありがと」

P「そうか」

凛「ただ…」

P「ん?やっぱりなんかあるのか?」

凛「やっぱりいいや、なんでもない」プイッ

P「ん?分かった」
菜々「それじゃ、ナナ達はレッスンに行ってきますね」

杏「行ってらっしゃい」

P「お前も行ってこい」

杏「なんでだよー」

P「そういう予定だからだ。俺は杏に期待してるんだからさ」

杏「…しょうがないなぁ」

菜々「な、ナナには何かないんですか?」

P「菜々さんはいつも期待以上の結果を見せてくれますからね」

菜々「あ、ありがとうございます…」

ちひろ「最近、杏ちゃんの扱いに慣れてきましたよね」

P「そうですか?」

ちひろ「だって、なんだかんだでレッスンにもお仕事にも行ってるじゃないですか」

P「そう言われるとそうかもしれないです」

ピロリロリーン

P「ん。メールだ」

P(凛から…? 何か忘れものかな)

凛『特別何か欲しいわけじゃないけど、ちゃんと帰ってきてね』

P「……っ」

ちひろ「どうかしましたか?」

P「い、いや、なんでもありません!」

P(まさか、凛がこんなことを言うなんて…)ジーン

P(保存しとこうっと…)ピッ

P「さ、それじゃ、仕事頑張りましょうか!」

ちひろ「い、いきなり元気になりましたね…」
P「さて…」

楓「飛行機で移動なんですね」

P「車の方が良かったですか?」

楓「いえ、どちらでも。ただ、車だったら楽カーなって」

P「多分それを言いたかっただけですね」

楓「えぇ、よく気づきましたね」

P「まぁ、それなりの付き合いですからね楓さんとは」

楓「確かに言われてみれば」

P「俺の椅子でくるくる回ってるのも見慣れましたし」

楓「あ、そう言えばこの間油挿しておきましたよ」

P「やけに滑りが良かったのはそのためですか」

楓「えぇ、CM通りの効き目で嬉しかったです」

P「今度からは一言言って下さいね」

楓「分かりました」

楓「次からは何かしてみます」

P「無理になにかしなくていいですから」
楓「そう言えば…」

P「はい」

楓「今回は一人だけでロケなんですかね?」

P「と、謂いますと?」

楓「いえ、私一人しかいないのかなって。例えば他のアイドルさんがいるとか…」

P「そんな話は聞いてないんで恐らく一人なんでしょう」

楓「なるほど」

P「寂しいんですか?」

楓「いえ、ちょっと気になってしまって」

P「ならいいんですけど」

楓「あ、でも、温泉が男湯と女湯の内装が違う場合はどうするんでしょう…」

P「…さぁ?」

楓「Pさんが入ることになるかもしれませんね」

P「流石にそんなことはないと思いますけど…。それに、今回の予定地だとそんなことはないようですし」

楓「そうなんですか」

P「えぇ」
楓「こうして二人で飛行機に乗ってるじゃないですか」

P「そうですね」

楓「周りの人からはどう見られるんでしょうね」

P「えっ」

楓「Pさんはどう思いますか?」

P「え、えーとですね。マネージャーと売れっ子アイドルですかね?」

楓「……」

P「か、楓さん…?」

楓「あ、すみません。そうですねそういう方でしたね。とりあえずお酒でも飲みましょうか。すみま――」

P「ま、まだ早いですって!撮影終わってからでお願いします」

楓「しょうがないですね」

楓(こっちのお願いは聞いてくれそうにないのになぁ…)
P「さぁ、着きましたね」

楓「意外に距離がありましたね」

P「まぁ、言われてみれば肩が少し凝りました。さ、行きましょうか」

楓「えーと、テレビ局にですか?」

P「はい。タクシー呼びますんでちょっと待ってて下さい」

楓「はい」
楓「えいっ」パシャ

P「え?」

楓「タクシーを待つPさんを激写しました。菜々ちゃんにでも送っておきますね」

P「別にいいですけど…」

楓「ふふっ…」

P(楽しそうだからいいか…)
テレビ局

ディレクター「こんにちは。わざわざすみません」

P「いえいえ、こちらこそ」

ディレクター「それじゃ、確認作業になってしまいますがスケジュールの方を」

P「はい。まずは――」

事務所

ちひろ「今頃二人は現地に着いたころですかねぇ」

文香「こ、こんにちは…」

ちひろ「あ、こんにちは。文香ちゃん」

文香「まだ…慣れません…。その、呼び方…」

ちひろ「あ、鷺沢さんの方がいいですか?」

文香「い、いえ…。決してそういう訳じゃなくて…ですね」

ちひろ「分かりました。これからもよろしくお願いしますね文香ちゃん」

文香「は、はい」
菜々「おはようございま―って今日はPさんはロケに付いていってるんでしたっけ」

周子「あ、菜々さんだ。おはようございます」

菜々「えっ、なんで敬語なんですか!?」

周子「え、だってねぇ文香さん?」

文香「えっ、だって、安部さんは…17じゃ?」

周子「あー、うん。そうだったあたしの勘違いだった。ごめんごめん菜々ちゃん」

菜々「それもそれで何か座りが悪いですね…」

ウッサミーン

周子「なに今の音」

菜々「あ、ナナのメールの着信音ですよ」

周子「中々ユニークだね…」

菜々「楓さんからですね」

周子「あ、そう言えば、Pさんと二人でロケ行ってるんだっけ?」

菜々「そうですよー」

文香(会話に入れない…)

菜々「あ、写メールですね」

周子「ふぅん?風景とか?」
菜々「いえ、タクシーを探しているPさんの写真です…」

周子「どこに需要があるのかなそれ…」

菜々「ナナもどういう理由で撮ったか分かりませんよ。文香ちゃんは分かりますか?」

文香「えっ…、か、皆目…検討もつきま…せん」

文香(いきなり来るからびっくりしました…)

周子「そう言えば、ロケと言ったら前に京都に行ってたよね」

菜々「あぁ、そうですね」

周子「だよねー」

文香「け、結構多いのですか?その、どこかに行くというのは…」

周子「ん?どうだろうねぇ、あたしとか行ったことないし」

菜々「多分ですね、その人のキャラですよねー。例えば、温泉とかグルメリポが多かったらそうなるんじゃないんですかねー」

周子「菜々さんは早くウサミン星で撮影があるといいね」

菜々「うぇ!?」

文香「ウサミン星…ですか?」

文香(どこだろう…?)

周子「そっか、えーとね。ここにいる菜々さんは実はウサミン星の住人なんだ。その昔、天人として地球に現れた末裔なんだよ」

文香「…あぁ、なるほど。まさか本当にいるなんて…」ジー

文香(天人の末裔ですか…)

菜々「い、いきなり、何を言い出すんですか」

周子「いや、この間テレビで頼子がやってた内容を真似てみたんだけど」

文香「えーと…つかぬことをお聞きしますが…」

菜々「は、はい」

菜々(凄いキラキラした目で見られてる…)

文香「実は…実年齢が17歳より上…ってことはありませんか?」

菜々「な、ナナハリアルJKデスヨー」アハハ

ちひろ(楽しそうですねぇ…)

小料理屋

ディレクター「それでは、ここから始めます」

P(地酒の紹介もあるから小料理屋からのスタートか)

P(飲み過ぎなきゃいいけど)

楓「……」チラリ

P「…ん?」

楓「……」ピース

P「あはは」

P(まぁ、カメラ回ってる時は真剣だし、心配はないか)

P「さて、邪魔しちゃ悪いし、外に出てきたが何をしようかな」

P(どうせ、今晩飲むんだろうし、おつまみでも探そうかな)

P「そう言えば、こういう感じで周子に会ったんだっけか」

P「懐かしいなぁ…。流石にこれ以上は俺一人じゃ無理だけど」

P「あ、これなんかおつまみに良さそうだな…」



楓「こんな所で何をしているんですか?」

P「あ、あそこでの撮影は終わったのか?」

楓「えぇ、今、ちょっと休憩中です。料理とお店の方を撮るらしいので抜けてきちゃいました」

P「そうなのか。いや、おつまみを探していてな」

楓「おつまみですか?まさか一人で?」

P「いや、どうせ夜飲むのかなぁって」

楓「流石ですね」

P「まぁな」

楓「しかし、ここはちょっと風情がありますね」

P「そうですね」チラッ

楓「…どうかしましたか?」

P「いや、似合うなぁって」

楓「何がですか?」

P「こういう雰囲気と」

楓「…褒めてるんですか?」

P「まぁ、そうですね」

楓「そうですか…。そうなんですね…ふふっ」
P「そう言えば、どれくらい休憩なんですか?」

楓「…さぁ?」

P「さぁって…」

クイクイ

P「…ん?」

少女A「……」

少女B「あの…」

P「はい。どうかしましたか?」

少女B「ここってどこだか分かりますか?」スッ

P「ん?」

P(住所と名前の書いた紙か…)

楓「二人共ここに行きたいんですか?」

少女A「……」コクン

少女B「はい。ちょっとお父さんに行ってこいって」

P「お兄さんもそこまで詳しくないんだけど、一応場所は分かったから一緒に行こうか」

少女B「はい。ありがとうございます!おじさん」

P「あはは…」

楓「あ…Pさん私は…」

P「えぇ、お仕事頑張って下さいね」

楓「あ、はい。頑張ります」
P「お父さんに電話とかする?」

少女A「……いい」

少女B「お父さんは今お仕事してるみたいなんですよ」

P「そうなんだ。二人は姉妹なのかな?」

少女B「はい。私が妹です」

少女A「…姉」

P「お、そうなんだ。二人で出かけるなんて凄いね。飴でも食べるかい?」

少女A「知らない人…貰っちゃダメ」

少女B「ごめんなさい。あんまりおじさん悪い人に見えないんだけど、知らない人から物貰っちゃいけないんだー」

P「まぁ、確かにそうかもしれないな。ごめんごめん」

少女B「こっちこそごめんなさい」
P「えーと、ここをこっちに」

P(ちょっと街の外れに来てるなぁ)

P(不審者と間違われなければいいけど…)

少女A「…あ」

P「どうかしました?」

少女B「あ、ここからなら分かります。ありがとうございましたっ!」

少女A「ありが…とう」

P「どういたしまして。二人共ちゃんと着くんだよ」

少女B「はい。ありがとうございますっ」

少女A「これ…あげる」

P「ん?石?」

少女B「あ、それだったら私もこれあげますねー」

P「お、花か。どっちもありがとう」

P(昔、こうやって泥団子とかをお金代わりにしてたなぁ)

少女A「離さないで…ね」

少女B「今度は一緒に持ってて下さいねー。それじゃありがとうございましたー!」
P「黒い石と白い花か。綺麗だなーどっちも」

P(しかし、どこに行くんだろう…?)

P「まぁ、地図には大まかな目的地しか書いてなかったし…」

P(しかし、携帯は便利だよなぁ…)

P「さ、楓さんの所に戻るか」
旅館

P「お疲れ様です」

楓「お疲れ様でした」

P「流石ですね。すいすいとOKが出るのは見ていて気持ちがいいですよ」

楓「まぁ、『マネージャー』さんに恥をかかせたくないですからね」

P「…まだ、根に持ってるんですか?」

楓「なんのことでしょうか?」

P「飛行機での話ですよ」

楓「別にそういうわけじゃないですよ『プロデューサー』さん」

P「ならいいんですけど」
楓「そう言えば、あれはなんですか?」

P「あれ?」

楓「あの石とお花ですよ」

P「あぁ、あれはあの双子に貰ったんですよ」

楓「何かお礼にですか?」

P「はい。お礼に」

楓「随分と綺麗ですね。私は花の名前に明るくないですけれど綺麗なのは分かります」

P「摘んでから大分時間が経ってそうなのに綺麗ですよね」

楓「造花には見えないですけれど…」

P「こっちは自然が多いし、空気が綺麗だからですからね?」

楓「どうなんでしょう。あ、お猪口が空いてますね」

P「あ、わざわざすみません」

楓「いえいえ。しかし、静かですね」

P「まぁ、ちひろさんと菜々さんがいませんからね」

楓「二人に失礼じゃないんですか?」

P「いやいや、別に二人共酔っぱらっても可愛げがありますからね」

楓「…そうですか」

楓(私はどうなんでしょうか…?)

P「そう言えば、楓さんも京都に行った時に潰れちゃいましたね。びっくりしました」

楓「そんなことありましたっけ?」

P「えぇ」
楓「そうですか。でも、それを言うならPさんだって人のことは言えませんよね?」

P「確かに、言えませんね…」

楓「タクシーから運ぶの大変だったんですから」

P「申し訳ありません…」

楓「まぁ、構いませんけどね」

P「あの時、飲んだ味噌汁の味は忘れませんよ」

楓「そこまで大したものを用意したわけではないですけど…」

P「いやいや、ずっと、味噌汁を作って――んぐっ!?」

楓「どうせ、あなたのことですから無意識なのでしょうが、それ以上は…まだいけません」

P「…? すみません」

楓「気にしてませんよー」グイッ

P「そんなに勢いよく飲んで平気ですか?」

楓「自分のことは自分が一番分かってますから」グイッ

P「そ、そうですか…」

P(大丈夫かな…)

楓「……ん」スー

P「まぁ、こうなることは予想出来てたけど」

P(しかし、なんだっていきなりあんな飲み方を…)

P「と言うか、このままじゃマズイから布団出して、俺は押入れかソファで寝ればいいか」

P「よいしょっと」

P「失礼しますよ楓さん」

P(やっぱり軽いよなこの人)

P「それじゃ、おやすみなさい」

P(俺はそうだな…玄関の方にでも寝るか)

P「しかし、まだ綺麗に咲いてるな」

P(不思議だなぁ。何か仕掛けでもあるのかな)

P「ま。いいか」

P「おやすみなさい」
ピリリリリ

P「……ん?」

P(こんな時間に誰だ…?)

P「はい?」

楓「…こです…か」

P「はい…?」

P(この声は楓さん?)

楓「どこにいるんですか…!」

P「こ、ここに」

楓「あ…」

P「一応襖を閉めておいたんですが…え?」

楓「どこに…行ってたんですか!」ギュウ

P「え?あ、いや、一緒の部屋で寝るのはマズイかな…って」

P(泣いてる?)

P「え、えーと…」

楓「どこにも…いなくならないで下さい。いきなり消えないで下さい…!」ヒック

P「えっ、あっ、ど、どこにもいなくならないですから落ち着いて下さいっ」

楓「……」グスッ

P「水…持ってきますね」

P(いきなりどうしたんだろう…)


楓「……ふぅ」

P「落ち着きましたか?」

楓「恥ずかしい所を見せてしまいました…」カァァ

P「何があったんですか?」

楓「ちょっと、夢を見てました…」

P「夢ですか?」

楓「はい。 いつの間にかPさんがいなくなってしまう夢でした。さっきまで近くにいたのに。振り向いたら煙のようにいなくなっていました」

P「なるほど…」

楓「それと同時に今までのことが全部夢だったような気がしてきたんです。ライブもレッスンもお仕事も、事務所の皆も。あなたも…!」

P「大丈夫ですから。誰もいなくなったりしませんから」ギュ

楓「少しそのままにして貰っていいですか…?」

P「はい。気が済むまで」
楓「ありがとうございます。ちょっと外の景色でも見ませんか?」

P「はい。どうぞ」

楓「月が綺麗ですね」

P「空気が澄んでるから余計に綺麗に見えますよね」

楓「そう、ですね」

楓「あ、安心して下さいね」

P「何がですか?」

楓「瞼腫らしたりしませんから」

P「そこは心配しませんよ。楓さんですし」

楓「それは…」

P「褒めてますよ」

楓「そうですか。それは良かったです」
P「涼しいですね」

楓「お酒が回ってるせいか心地よいです」

楓「少しお話を聞いて貰ってもいいですか?」

P「どうぞ」

楓「先程、昔の話をしましたよね」

P「昔?」

楓「初めて会った時のことです」

P「話しましたね」

楓「正直第一印象ってどうでしたか?」

P「物静かな印象でした」

楓「まるで石のようでしたか?」

P「……はい?」

楓「静かに多くを語らず。多分、Pさんと話す前はこんな風だったと思います。明確な目標もなく、人生を消費していましたし」

楓「一人でお酒を飲んでました。幸いなことに、何だか近寄りがたい雰囲気があったのか私の周りには誰もいませんでしたし」

P「そうでしたっけ」

楓「えぇ」
P「でも、アイドルになってからの楓さんはまるで花のように明るいじゃないですか。事務所の皆ともスタッフさんとも上手くやってるし」

楓「そう言って貰えると嬉しいです」

楓「でも、たまにふと思うことがあるんですよ。いつか終わっちゃうんじゃないかって」

P「終わる…?」

楓「アイドルとしての仕事なんて花と同じですから。出番がなくなれば、オファーが若い子に取って変わられたら終わりです」

楓「枯れてしまいます。春に紅葉を、秋に桜を見る人はほとんどいませんから」

P「……」

楓「特にお二人は新しいアイドルのプロデュースに時間を割かなければならなくなりますよね。いえ、これは当たり前のことだからしょうがないのですけれど…」

楓「そうなると私は、元の石のような人間に戻ってしまうような気がして。生来、そこまで人付き合いも得意ではないですし」

P「……」

楓「そんなことを思ったら泣いてしまいまして…。すみません。少しネガティブ過ぎましたね」

楓「こんな私をあなたはらしくないとで思うのでしょうか?」
P「――そう言えば、一つ思い出したことがあります」

楓「は、はい…」

P「あの双子のことなんですけどね」

楓「まさか、スカウトでもしたんですか?」ジー

P「いや、それは流石にしてないですよ」

楓「それじゃ、なんでしょうか」

P「あの二人の目的地は佐々禮石神社周辺だったんですよ」

楓「さざれ石…?」

P「えぇ、あの、細かい石のことです」

楓「国歌にもありますね。それがどうかしたんですか?」

P「そこにはですね、磐長姫と木花開耶姫が祀られてるんです」

楓「どちら様ですか」

P「姉妹の神様ですね。片方は、永遠の命を。もう片方は華のような繁栄を」

P「尤も妹しか、嫁入り出来ず、姉は返されてしまった為に二人は離れてしまったんですけどね」

楓「離れ離れですか…」

P「えぇ、結局その因果のせいで命は限りあるものとなってしまったらしいです」

P「花は綺麗だけどいつか枯れるものに」

楓「ですけど、この花は…枯れませんね」

P「えぇ、一緒にいますからね。一緒にいれば、永久に栄えたでしょう。俺の話は以上です」
楓「姉妹って…偶然ですかね?」

P「さぁ、どうなんでしょう。そもそも関係ないかもしれません。たまたまそこの近くに家があったのかもしれませんし」

楓「それもそうですね。でも…素敵じゃないですか?」

P「そうですね」
楓「そう言えば、何を伝えたかったんですか? 私が二人いるわけじゃないですし…」

P「いるじゃないですか」

楓「え? 確かに血液型はAB型ですけど、あ、星座も双子座ですよ」ドヤ

P「ま、まぁ、そういう訳でもいいんですけど」

P「物静かな楓さんも、皆の前で楽しそうに振る舞ったりする楓さんもどっちも楓さんなんです。表裏一体とはよく言った
ものです。それに、決して、アイドルの生活が終わったとしても楓さんは、一人じゃないんですよ」

P「楓さんには皆がついてますよ」

楓「そうですかね…?」

P「えぇ、郭公は時鳥を見捨てはしませんでしたしね」

楓「…不思議ですね。煙に巻かれた気もしますけど、そう言ってくれると本当にそうなる気がします」

P「言葉には魂が宿りますからね」

楓「ふふ…そうですね」

P「それに、俺は夢物語を言ったつもりはありません。そもそも楓さんは更にお仕事が増えていきますよきっと。こういうロケかもしれないですけど」

P「それに、春の紅葉も、秋に見る桜もそれはそれで風流があるものだと思いますよ?」

楓「もしロケだとしたら…私、一人で行くんですか?」

P「いや、流石に俺がついていくと思いますよ」

楓「そうですか…。それならば寂しいということはなさそうですね…。あ、どうです? もう少しだけ飲みますか?」

P「本当に少しだけですよ?」

楓「えぇ、分かってますって。事務所の名にもあなたの名にも傷は付けませんから」ニコ

P「そろそろお開きにしますか」

P(流石に俺も結構酔っぱらってきたかも…)

楓「えぇ、そうですね。気持ち良く寝れそうです」

P「それは良かった」

楓「そう言えば、一つ気になったんですけど」

P「なんですか?」

楓「そのお話では、二人共一度は、お嫁さんになったんですよね?」

P「まぁ、姉の方は戻されましたけど…」

楓「私を貰ってくれる方はいるんでしょうかね?」

P「え…?」

楓「それじゃ、おやすみなさい♪」


P「磐長姫はその才能が花開き、木花開耶姫になる…か。俺も頑張るか」
事務所

P「ただいま帰りました」

文香「お帰り…なさい」

夕美「おかえりー。何持ってるの?」

P「ん?あぁ、事務所に飾ろうと思ってさ」

夕美「花?って、それ千切ってきたの?根っことかないじゃん」

P「貰いものなんだよなこれ」

楓「あ、それは私が頂いていいですか? これからの為に」

P「え?あ、構いませんけど」

楓「ありがとうございます。 それじゃ、私は今日は帰りますね。やみのまっ!」ビシッ

P「お疲れ様です」

夕美「やみのまーって気に入ってるんだ」
夕美「結局あれはなに?造花?」

P「なんだろうなぁ…」

文香「随分と、要領を得ませんね…」

P「枯れない花かな」

文香「枯れない…?」

夕美「なるほどやっぱり、造花なんだ。でも綺麗だったね」

P「昨日からあんな感じだったな」

夕美「へぇ…、今度楓さんに見せてもらうことにしよっと」

P「鷺沢さんいいですか?」

文香「…はい?」

P「妖怪や、幽霊の類は信じますか?」

文香「私…個人的には信じていますよ。ただ、見る人にとっては枯れ尾花の可能性もあるということです」

P「そうですね。飼い猫が猫又に見える世界ですから」

文香「えぇ…そうですね」
文香「そう言えば…私が入る前から…そういう不思議なことがいくつか起きていたらしいですね」

P「そうでしたっけ?」

文香「…お話しされていませんでしたか?」

P「確かに狐に化かされたりしましたけど」

文香「ですよね…。もしかしたら、そういうものを引き寄せる何かがあるのかもしれないですね」

P「霊感も何もないんでそんなことはないと思いますけどね」

翌日

菜々「あ、おかえりなさーい」

P「昨日には帰ってたんだけどな」

周子「そういや、そうだね」

美嘉「昨日帰ってきてすぐ仕事って凄いね。さすが私たちのプロデューサー★」

P「まぁ、仕事に穴を空けられないしな」

周子「まぁ、Pさんの体は自分一人のものじゃないしねー」

P「そうだな」
P「あ、菜々さん一つ聞いてもいいですか?」

菜々「はい。なんですか?」

P「引退したら、菜々さんは何かしたいこととかありますか?」

菜々「えっ…ナナはクビですか!?」

P「いや、仮の話ですよ。菜々さんはまだまだ行けますって!」

菜々「そ、それは良かったです…」ホッ

菜々「そうですねぇ…ウサミン星に帰って親孝行でもしようかなって」

菜々(色々迷惑掛けましたし…)

周子「えらーい」パチパチ

菜々「そ、そうですかね」ハハ

菜々「それと、ウサミンカフェでも作ってみたいですねぇ…」

P「なるほど…周子は?」
周子「あたしはね、多分引退してもPさんの隣に住んでるかな」

P「お、そうなのか?」

周子「希望でしょ? ならそうかな。そして、養って貰おうかなって」

P「誰に?」

周子「Pさんに」

美嘉「なっ…!」

菜々「えっ!」

P「おいおい…」

周子「まぁ、勿論Pさん次第だけどね。ねっ、美嘉?」

美嘉「え、あ、あたし?」

美嘉「えーと…あたしはどうしよっかな…。分かんないや」

美嘉(養って貰うってその、そういうことだよね…?)ブツブツ
ガチャ

楓「おはようござ―」

菜々「あ、楓さんと温泉も行きたいですねー」

楓「……」ピタ

周子「菜々さんは、お酒が飲みたいだけでしょ」

美嘉「あ、そういうの行ってみたいなー」

P「皆が同時に泊まれるくらいの休みなんてそれこそ引退してからになるかもしれないもんなぁ…」

美嘉「いつになるんだろうねー」

菜々「まぁ、引退してからはそんな感じ――えぇっ!?」

周子「あ、楓さん…って、なんで泣いてるの?」

楓「え……?」ポロポロ

美嘉「ちょ、ちょっと大丈夫?」

周子「あー、菜々さんが泣かせたー」

菜々「うえぇ!? ご、ごめんなさい?」

楓「い、いや、そんなつもりじゃないですけど…その、なんて言うかちょっと嬉しくて」

P「大丈夫ですか?」
楓「はい…。少し安心しました」

楓(私はもう一人じゃないってことに)

楓「あ、Pさん、私も引退してからの夢が一つ出来ました」

P「菜々さん達と旅行ですか?」

楓「勿論、それもありますけど…」チラッ

P「他にあるんですか?」

楓「毎朝、お味噌汁作ってあげますね♪」

菜々「えっ?」

周子「ヒュー♪」

楓「ふふふ。それでは、レッスンに行ってきますね」

美嘉「ちょ、ちょっと、説明して貰っていいかな?」

菜々「な、何があったんですか!」

周子「もしかして、引退の話ってそういう…」

P「そんなわけないだろ…まったく」

ちひろ「今日も事務所は平和ですねぇ…」ヤレヤレ

終わりです。

ちょっと時間がないので解説はあとで書きたいと思います。

もう流石に楓メインは書かないですが、他のアイドルはわからないです。

源氏物語ぼちぼち入れていかなきゃとも思っています。

それでは、一旦ここで失礼します。

10:30│モバマス 
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