2013年12月01日

雪歩「Next my second stage」

アイドルマスターSPワンダリングスターの雪歩編をクリアした人向け。

投下します

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1354949430


第一章、秋雨の降る夕暮れに



 IUの決勝から一ヶ月過ぎたある日、残暑の候が厳しい頃。

 プロデューサーが倒れた。

 その知らせを聞いた私はレッスンを途中で切り上げ、すぐに病院にかけつけました。


「病院内では走らないでくださいー!」

雪歩「す、すみませんー!」

 看護士さんに注意されてしまいましたけど、私の足が止まることはありません。

 だって、もしプロデューサーに何かあったなら、私は、私は……!

雪歩「ハア、ハァ……」

 プロデューサーがいる階まで全力で走ったことで息はだいぶ荒くなっていて、他の患者さんたちも驚いていましたけれど、
変装用の帽子のおかげか、誰も私のことを気付いた様子はありません。


雪歩「七六五室、七六五室……」

 プロデューサーのいる病室までラストスパートをかけていると、

雪歩「しゃ、社長!」

 病室の外を眺めている高木順一郎社長を見かけました。

高木「! は、萩原君!? そうか、来てしまったか……」

雪歩「あ、あの、プロデューサーは……?」

高木「か、彼は……」

 言いづらそうに顔を渋る社長に私の中の不安が募ります。

雪歩「しゃ、社長……? プロデューサーは大丈夫……なんですよね……?」

 なぜかこたえない社長に私の頭の中で最悪の展開が浮かんで、

 い、いや……そんな……!

P「社長、ちゃんと大丈夫って言ってくださいよ。
  雪歩が不安がっているじゃないですか」

 病室から白衣を着たプロデューサーが出てきました。

雪歩「ぷ、プロデューサー……!」

 私はプロデューサーの姿を見つけると思わず飛び込んでしまいました。

高木「き、君ぃ……」

 変装の帽子も勢いで落ち、アイドルとしてやってはいけない行動だったんでしょう。
けれど、このときばかりは社長も黙認してくれました。

P「あーあー、なんで泣くんだよ、雪歩。俺はこの通り元気なんだぞ?」

雪歩「だ、だって……プロデューサーがいないと、私、私……」

P「……悪かったな、心配かけて」

雪歩「ん……」

 プロデューサーはいつものように優しく撫でてしてくれて、

P「……雪歩もう離れて良いんじゃないか?」

雪歩「まだまだですぅ……」

 その手と抱きついている体から伝わってくる温かい体温とが、プロデューサーがたしかにそこにいる証で、私はしばらく離れられませんでした。


雪歩「……えっ」

 プロデューサーが病室のベッドに戻った後、私にあることが告げられました。

P「悪いな、雪歩」

高木「……萩原君、すまない」

 プロデューサーがしばらく私の担当から外れる。
 その事実は落ち着いた私の心を再びざわめかせました。

雪歩「ど、どうして……? プロデューサーの体は大丈夫なんですよね?」

 今回は疲労で足下がふらついて倒れてしまい、そのとき当たりどころが悪くて気絶してしまったらしいので、
私も多少休みを取ってもらうつもりでしたけど、担当を外れるのは理解できませんでした。

高木「そ、それはまあ……そうなんだが……」

P「検査の結果、ちょっと悪いところが見つかってさ、今回はそれも原因らしい。
  まあ、ちょくちょく倒れるのも困るし、この際しっかり治しておこうって思って入院することにしたんだ」

雪歩「だ、だったら、プロデューサーが退院するまで私待ちます!」


雪歩「私、レッスン頑張ります。……犬も、男の人も頑張って、プロデューサーに迷惑かけないようにします。
   だから、だから……!」

 私を見捨てないでください。

 口に出すのもはばかられるそのことがないように、私はプロデューサーに詰め寄って必死になって懇願しました。

P「雪歩……」

高木「……萩原君、すまないがそれはできない」

 後ろから社長の諭すような声が聞こえました。

雪歩「どうしてですか……?」

 ダメダメな私をアイドルとして拾ってくれたり、プロデューサーに合わせてくれたり、
男の人ではプロデューサーとお父さんの次に感謝している人だけれど、この時ばかりは社長が敵のように思えました。

高木「退院しても、しばらく彼にはすぐにプロデュースをさせるわけにはいかない。
   リハビリや日常生活、仕事のかんなどを少しずつ取り戻してもらう期間があるからだ。
   それがいつ終わるのか、私にも正確にはわからない。
   半年後にはすっかり戻っていることも、逆に、一年経っても戻っていない可能性がある。

   そして、厳しいことを言うが、芸能事務所の社長として、
  そんないつになるかわからない期間、君を放っておくわけにはいかないのだよ」

雪歩「で、でも……」

P「雪歩!」

 理解はできていても、納得できなかった私だけれど、

雪歩「プロデューサー……」

P「雪歩、俺は強くなったお前なら大丈夫だって信じているぞ。」

雪歩「……わかりました」

 手を握られてあの時と同じ目で見られたから、私は渋々了承しました。

 ……ずるいですよ、プロデューサー。


高木「しばらくは彼が組んだスケジュールのまま行動してくれ。
   細かい調整は私のほうでなんとかしておく。
   まあ、そのうち新しいプロデューサーを付けると思うが、安心したまえ、女性をつけるつもりだ」

雪歩「はい……あ、あの」

高木「ん? どうかしたかね?」

雪歩「……プロデューサーが完全に治って、またプロデュースできるようになったら、
   私の担当に戻ってきてくれるんですよね?」

P「……雪歩、まだ替えのプロデューサーも来てないのに、今からそんなこと言っているんじゃ……」

高木「かまわんよ」

P「しゃ、社長!?」

高木「彼が業務にできるようになったらすぐに彼を萩原君のプロデュースに戻そう。
   ……ただし、彼が完全に治ってから、のみだ」

雪歩「はい、それでお願いします」

 プロデューサーは私のために無理をし過ぎるところがあるから、今回の機会にプロデューサーにはお休みをとってもらおう。
 別に会えなくなるわけじゃない。私がプロデューサーに会いに来さえすれば。

 そう考えた私は社長の条件をのみました。

 私の今後のことについての話が終わると、レッスンを抜けたことがばれた私はすぐに帰らされました。

雪歩(明日からプロデューサーいないのか……ううん、少しの間ぐらい、私一人でも頑張らないと)

 朝から怪しかった雲行きもいよいよ黒くなって、帰るまではなんとかもってほしいなあと思いながら階段を下っていると、

「おい、あれ萩原雪歩じゃねえ?」

雪歩「ひぅっ!?」

 通った階の遠くから不穏な声が届きました。

「ええー、嘘だろ。こんなところにアイドルがいるわけないじゃん」

雪歩(どうしてばれ……あっ、帽子!)

 抱き着いたときに落ちた変装用の帽子は、その後何気なくプロデューサーの病室に置いていて、
思い出した私は慌てて取りに戻りました。


雪歩「つ、ついた……」

 さすがに二回目の全力疾走となると、真ちゃんみたいな体力がない私はへろへろになって、
プロデューサーの病室の前で一息つかざるをえませんでした。

 そして息を整えいざ病室に入ろうとドアノブに手を伸ばした時、

「……君ぃ、本当にあれで良かったのかね?」

 社長の声が聞こえて、思わず手を止めてしまいました。

P「……良かったも何も、さっきのあいつの様子を見て本当のことなんて言えるわけないじゃないですか。
  それがわかっているから社長も、のってくれたんでしょう?」

 手を止めてしまったのは突然の声に驚いただけでしたから、ドアを開けてもよかったんですけど、
なぜか手は固まったままでした。


高木「それはそうだが、私は今でも迷っているよ。
   真実を言ったほうが、彼女がこれ以上傷つくこともないのだから」

P「どっちにしろ、もう手遅れですよ。
  それに俺はこれが最善だったと思います」

 プロデューサー、何を言っているんですか……?

 得体のしれない嫌な予感は私の体をそこに縛り付け、背中を流れる冷や汗が嫌に気持ち悪く感じました。
 そして、

高木「そうかね。……それで、もう、本当に君は……」

P「はい、医者からも言われました。……余命は僅かだと」

 その言葉を聞いたとき世界が反転したような気持ち悪さを感じました。

高木「なんとかならないのかね……?」

P「はい、こればかりはどうにもならないそうです……」

高木「……そうか」

 う、嘘ですよね……?

高木「何か私にできることはないかね?
   なんだっていい、それが私の精一杯の罪滅ぼしだ」

 だって、プロデューサー、さっきは大丈夫だって……

P「そうですね……、だったら雪歩に早く新しいプロデューサーをつけてやってください」

 言って……


 私一人が扉の前で絶望している中、プロデューサーと社長の話は淡々と進んでいました。

P「今のあいつが、俺に依存している状態の雪歩が俺の現状を知れば、おそらく自分を責める。
  そして俺ができればトラウマレベルの傷ができる。それだけはなんとしても避けたいんです。

  もし俺が死ぬまでに新しいプロデューサーと信頼を築けていたら少しは傷も弱まるし、
 その後もすぐにやっていけると思うんです。だから……」

 もう、遅いですよ、プロデューサー……


高木「わかった、すぐに対応しよう。
   それより、君個人に対しては何かないのかね?」

P「そうですね……もう一回だけ、雪歩プロデュースしたいっていうのは駄目ですよね……?」

 してくださいよ。

高木「ああ……『一回でも倒れたら二度とプロデューサーとして活動させない』そういう約束だったからね」

 一度でも、何度でも……ずっと…ずっと、私をプロデュースしてくださいよ。

 あなたがいたから私は頑張ってこられたんです。
 あなたが見守ってくれているから私は勇気が出せたんです。
 あなたと一緒だったから、私は…………


高木「……君はいつごろから自分の病気に気付いていた?
   私はIU決勝後に話を聞いたが……君のことだ、本当はもっと前からわかっていたのだろう?」

P「……正確にはわかりません。無茶をして体の調子が悪くなるのは昔からしょっちゅうでしたから。
  ただ、あのときはいつも寝れば治るだるさが治らなくてそれで病院にいってみたら……って感じでしたから。
  そうですね……IUの本選直前のころだったと思います」

雪歩「……!」

 IU、プロデューサーからその言葉を聞くとき、私はドキリとせずにはいられませんでした。


高木「そんなに前なのかっ……
   いや、そうだな、IU本選始まってからの君は毎日事務所に泊まり込み、
  萩原君と、IU本選に出てくるアイドルの研究に没頭し続けていて病院に行く暇などなかったな。

   しかし、そんな手遅れの状態で君はあれだけハードなことをしていたのか?」

P「……」

高木「君……? ……! ま、まさか、当時から治療していれば治っていたんじゃないのかね!?」

P「……治る、まではいきませんよ。ちょっとだけ命が延びて、ちょっとだけ可能性が上がる程度です」


高木「だとしてもだ。君はすがるわらがあったならどうして……
   ……! ……そうか、私のせい…なんだな」

P「社長! それは違います」

高木「『IUの優勝者は、たった1人。もし、途中の予選や、本選で敗退すれば……敗者の汚名だけが残る。そしてたいていのアイドルは、そのまま引退してしまう。』
   私のその言葉を君はずっと覚えていて、そして君は……」

 再び得体のしれない嫌な予感が私の体を駆け巡り、鼓動が早まって、

高木「君は、萩原君のために病気を隠し、彼女をプロデュースし続けていたのだな」

 その言葉を聞いた途端、私は病室かの前から逃げ出しました。


P「違います、社長! 全て俺のエゴでっ……」

「きゃあ!?」

 病室のすぐ前で聞こえた女性の悲鳴に、社長はすぐ反応してドアを開けると、

「いたたたた」

高木「大丈夫ですか?」

 床に盛大に書類をまき散らした看護士がいた。


高木「拾うのを手伝いましょう」

P「お、おれも……」

高木「君はそこにいたまえ。何、すぐに終わる」

「ありがとうございます。……それにしてもあの子、大丈夫かな?」

高木「あの子?」

「はい、さっきすれちがったというか、その子とぶつかって書類落としたんですけど、その子なんか真っ青な顔をしていて」

高木「……」

P「……」

 病院から逃げ出した私は帽子のことなんてすっかり忘れてとあるところ、とある人のところに向かっていました。

雪歩「はぁ、はぁ……」

 ……私のせいだ、私のせいだ、私のせいだ。

 とうとう降り始めた雨は天罰のように私の全身をたたきましたが、私は一心不乱に走り続けました。

 このとき周りに注意なんてしていなかったから、事故を起こさなかったのは本当に運が良かったんです。
 そして、

雪歩「はぁ、はぁ……し、四条さん……」

貴音「雪歩殿……?」

 今日一緒にレッスンをしていた目的の人のところにつきました。


雪歩「はぁ……あの、はぁ……」

貴音「……とりあえず、落ち着いてください。ゆっくりでいいですから」

 四条さんは相変わらず冷静に優しく言ってくれました。

雪歩「あの……私……!」

 けど、今言わないと、もう言えない気がしたから。自責の言葉に潰される気がしたから。

貴音「……雪歩殿?」

 こんなことをしたって何にもならないとはわかっていたけれど、

雪歩「私、四条さんにお願いがあるんです!」

 私は覚悟を決めました。


高木「……萩原君、本気かね?」

雪歩「はい、もうすでに四条さんは了承してくれました」

 翌日、私は早速社長に私の今後について相談、いえ、交渉しにいきました。

高木「……わが社のアイドルにはプロデューサーをつけるのが原則なのは知っているだろう?
   それに逆らってでもかね……?」

雪歩「はい、私のプロデューサーはあの人しかいませんから」

 私が決めたのは誰かにプロデュースしてもらうんじゃなく、セルフプロデュースを始めること。
 765プロはプロデューサーをつけるのが基本だから、反対されるだろうけれど、私はストライキも辞さない覚悟で社長に許可を求めました。


高木「君の意思は固いというのだな……?」

雪歩「はい」

 やはり、社長の顔は険しく、説得に長期戦を覚悟しました。

 それだけに、

高木「……そうか、わかった」

雪歩「……え?」

 これには思わず素っ頓狂な声が出てしまいました。


雪歩「あ、あの……わ、私が言うのもなんですけど、本当にいいんですか?」

 喜ぶべきことだとは思いしたけど、あまりにもあっさりと許可に思わず聞き返さずにはいられません。

高木「かまわんよ。たしかに765プロは原則的にはプロデューサーをつけるのが、あくまで原則だ。
   わが社の一番大事な基本理念は「絆」だ。
   君がそう言う以上、今の君と新しいプロデューサーとの間に絆は結べないだろうし、君が彼との絆を無理矢理断つのはこれに反している」
高木「幸い、うちには最近まで961プロでセルフプロデュースをやっていた四条君からいて、彼女からアドバイスをもらうのだろう?」

雪歩「はい」

 昨日の時点で四条さんにはお願いをしてセルフプロデュースを教えてもらえることになっていました。

高木「だったら私からは何も言うことはない。ただし、私からも多少は口出しをさせてもらうが、いいかね?」

雪歩「はい、それはかまいません」



 こうして私のアイドルとしてのセカンドステージが幕をあけました。
P「ごめんな、雪歩……」

 やがて寝たきりで、目覚めなくなる状態になる前に聞いたプロデューサーの最後の肉声はこれだったと思います。

 ……そして、とうとうその日はやってきました。

第三章、溶けたゆきだるまの物語

 夢を見ました。

「プロデューサー? 何をしているんですか?」

 昔の夢。

「お、雪歩来たか。手伝え、ゆきだるまを完成させるぞ」

 アイドルとしてのランクは低く、私もプロデューサーもダメダメだったころの夢。

「ゆきだるま……ですか?」

 だけど、きっと幸せだった頃の夢。

「ああ。つくったことないか?」

「いえ、そういうわけじゃないですけど、急にどうしてかなって……」

 でもどうして今この夢を……?

「俺の住んでいたところでは、願い事をこめて作ったゆきだるまが壊れることなく溶けきったら願いがかなうっていう話があってな」

 ああ。

「そうなんですか?」

 そういうこと……なんですね。

「ああ、さすがにここ10年は作ってなかったけど今年はほら、IUがあるだろ? わらにもすがるって感じで……」

 予感がしました。良いか悪いかもわからない予感が。

「……私ってわらにもすがらないといけないほどですか? うう、やっぱりダメダメな私なんて穴掘って埋まってますぅ!」

「お、俺が悪かったから、雪歩そこに穴を掘るのだけはやめろーーー!」



 そして、私は夢から覚めました。
 12月24日のクリスマスイヴの日。

「「「かんぱーい!」」」

 珍しく事務所のアイドル全員がそろった765プロでは、その日にクリスマスパーティーが行われました。

春香「じゃじゃーん!! 春香さんお手製、ケーキですよ! ケーキ!」

 やよいちゃんや響ちゃんが料理を、春香ちゃんは手作りケーキをつくって皆にふるまっているのに比べて、
私は家から持ってきたお茶の葉で、皆にお茶をいれることぐらいしかできなかったけど、

小鳥「ふぅ、やっぱり雪歩ちゃんのお茶が一番ね」

 小鳥さんを筆頭に皆にそう言ってもらえて嬉しかったです。
 そして、

「「「雪歩、おめでとうー!!」」」

雪歩「み、皆、ありがとうー!」

 たくさんのお祝いの言葉とプレゼントをもらえて私は自分がどれほど良い仲間に恵まれているのか再確認しました。

 ただ、プレゼントの中に四条さんがくれたものはありませんでした。


 パーティーが始まってしばらくたって、私は時計を確認すると、時間がせまっていることに気が付きました。

雪歩「もうこんな時間なんだ……
   ごめん、皆、私行かなくちゃ。それと、今日は本当にありがとう」

 名残惜しいけれど今日はここでお別れです。

春香「う、うん……」

千早「……」

 皆からもらったプレゼントを病院に持っていくわけにはいかないから、いったん帰らないといけません。
 なるべく早くタクシーつかまるといいなと思いながら事務所を出ようとした私に、

千早「……萩原さん、今日は行かなくてもいいんじゃないかしら」 

 千早ちゃんから声がかかりました。

春香「ち、千早ちゃん……」

千早「ごめん、春香。でも私は言いたい……いや、言わなきゃいけないんだと思う」

 制止する春香ちゃんを優しくのけて千早ちゃんは私をじっと見つめました。

千早「……萩原さん。私、上手く言えないから怒らせてしまうかもしれないけれど聞いて。
   ……今日くらい彼の、あなたのプロデューサーの見舞いにいかなくてもいいんじゃないかしら?」


千早「たしかにあなたの気持ちはわかるわ。大切な人が苦しんでして心の底からは今日のことを楽しめないのもわかる。
   ……でも、そこまでして行かなくちゃいけないのかしら?
   いくら待っても帰ってこない人を待ち続けるのは、辛くて、悲しいことだわ……
   ……何もそんな思いをしなくていいじゃない。だって今日は、あなたの……」

 詳しいことはわからないけれど、千早ちゃんの両親は最近別れたと聞きました。それも最悪の別れ方で。

 そのことで千早ちゃん自身も数日へこんでいたけれど、復活した千早ちゃんはいっそう凄く、そして優しくなっていました。
 きっと今のことも以前の他人なんて気にかけなかった千早ちゃんの変化なのでしょう。

雪歩「……千早ちゃん」

 私が一歩、千早ちゃんのほうへ近づくと、すぐに春香ちゃんが間に割って入りました。

春香「あ、あのね、雪歩。千早ちゃんは別に雪歩のプロデューサーをけなしているわけじゃないの。
   ただ雪歩のことを心配して、ね? だからね、その……」

雪歩「……くすっ、大丈夫だよ春香ちゃん」

 春香ちゃんのテンパりようにプロデューサーの面影を重ねて、そういえばそんなこともあったと懐かしく思い返しました。


雪歩「千早ちゃんの言っていることはわかっているし、それ以上に千早ちゃんの気持ちも伝わっているよ。
   千早ちゃんもありがとう。……でもね、大丈夫。今日は大丈夫なんだ。」

春香「雪歩?」

千早「萩原さん……?」 

貴音「……」

 二人は反応に困っているような表情をしていましたけれど、それでかまいません。
 私にだってこれをを上手く説明することはできなかったから。

雪歩「……それじゃあ、私行くね」

貴音「雪歩殿!」

雪歩「四条さん……?」

貴音「……もしかしたら、遅れるかもしれません。……間に合わないかもしれません。
   ……けれど、必ず、……必ず届けますから」 

 気のせいかもしれませんけど、そのときの四条さんにいつもの凛々しさはなく、今にも泣きだしそうな子供にも見えました。

雪歩「……はい!」

 両手いっぱいの荷物を持って出ていく私を今度は誰も止めませんでした。


 数時間後、私はいつもの病室にいました。

雪歩「プロデューサー、おはようございます」

 体のいたるところに生命を維持するためだけの装置がつけられているプロデューサーは、
やっぱり返事をしてくれませんでしたけれどあわてることはありません。
 今日はまだ終わっていないんですから。

雪歩「プロデューサー、今日は事務所の皆でクリスマスパーティーをしたんですよ」

 聞こえないのはわかっていたけれど、私はプロデューサーに向かって話続けました。
 それが良い予感が待ちきれなくてなのか、悪い予感をふりはらうためなのかはわかりません。

雪歩「私、皆からプレゼントをもらえて、四条さんも後でくれるって言ってくれて……」

 けれど、これが最善だと思ったから。

 そして、

雪歩「プロデューサーも……いてくれたら…………」

 いつの間にか私はイスに座りながら上半身だけうつむけにプロデューサーのベッドにつけて眠っていました。


 目が覚めた時、辺りはすでに真っ暗でした。 

雪歩「んん……」

 予感はしていました。

「起きたか……?」

 だって今日の夜は聖夜なのだから。

「おはよう、いや、時間的にはこんばんは、か……?」 

 いや、今日が聖夜じゃなくても私はきっとわかっていたでしょう。
 だって、

雪歩「……芸能界では、夜会ったときでもおはようですよ……プロデューサー」

P「ははっ、そうだったな」

 だって今日は、私の……


 就寝の時間を超えていたのか、私が起きた時の病院内はとても静かで、真っ暗で、
だけど月の光が優しく照らしてくれているおかげで、プロデューサーの顔ははっきり見えました。

 ずっと寝続けていて、苦しそうに顔を歪めるプロデューサーではなくて、いつもの優しいプロデューサーがそこにはいました。

P「……なあ、雪歩、泣かないで聞いてくれるか?」

 本来の私ならきっと普通に話をしてなんかいないです。
 涙で顔をぐしゃぐしゃにして、プロデューサーに抱き着いて、目の前の奇跡に歓喜していたでしょう。
 でも、

P「俺はもう……」

雪歩「……わかってます」

 でも、知っていましたから。

雪歩「わかっていますよ、プロデューサー」

P「……すまん。それと、ありがとうな」

 この受け答えすらどこか既視感を覚えていても不思議には思いませんでした。


P「今年はゆきだるま、つくれなかったなあ……」

 外を見ながらぼんやりプロデューサーが呟きました。

P「雪歩、覚えているか? 去年作ったゆきだるまのことなんだけど……」

雪歩「……覚えていますよ」

 忘れるはずがないじゃないですか。プロデューサーと初めての共同作業ですから。
 ……なんて恥ずかしくて言えませんけれど、プロデューサーとの思い出で、忘れたことなんてありませんよ。

P「あれは酷かったなあ。出来もそうだけど、何よりおちが」

雪歩「完成したとたんに壊れてしまいましたもんね」

 ゆきだるまは街中の雪で作ったものでしたから、綺麗な白ではなく水でびしゃびしゃに濡れていて、
しかもそれはお説教から事務所を逃げ飛び出して来た真美ちゃん、亜美ちゃんにぶつかり、
私たちの努力はあっという間に水の泡……いえ、雪の欠片になってしまいました。


P「なあ雪歩、お前はあのゆきだるまをつくっている時、なんてお願い事をしたんだ?」

雪歩「私は……『四条さんのように強くなれますように』ってお願いしました」

P「そういえばあのころのお前は、四条さん、四条さんって言ってたな」

雪歩「プロデューサーは何をお願いしたんですか?
   ……やっぱり、『私がIU優勝するように』ってお願いしたんですか?」

P「……まあ、だいたいそんなところだ」


 ゆきだるまのことを思い出すと、私はあることを思わずにはいられませんでした。

雪歩「……あのゆきだるまが壊れたから私は優勝できなかったのかな?
   それとも、私が優勝できないからゆきだるまは壊れ……」

P「俺のせいだ」

雪歩「プロデューサー……?」

P「お前がIUを優勝できなかったのは俺のせいなんだよ」

雪歩「そ、そんなわけありません。
   本選が始まってからプロデューサーはずっと、私や他のアイドルの研究をしてくれていました。
   それが結果に結びつかなかったのは私が……」

P「いや、俺が悪かったんだよ。
  なあ雪歩、優勝したあの子のプロデューサーが何をしていたと思う?」

P「あいつは俺のようなことはせずにただアイドルとコミュニケーションをとっていたんだよ。
 俺はそれを……言ったら悪いが見下していたし、諦めたのかと思った」


P「でも違ったんだよな、あいつは信じていただけだったんだ。自分のアイドルを、過去の映像やデータを頼りにすることなく。
  結局、俺は最後の最後で一番見てきたはずのお前を信じることができなかったんだ」

 ……ああ、なんだ、そうなんだ。

P「だから俺のせいなんだよ」

 プロデューサーも弱かったんですね。

P「俺があのときにしていたことは全て無意味……」

雪歩「『努力にムダなんかない』
   ……そう教えてくれたのはプロデューサーですよ?」

P「! そうだったな……」


雪歩「それにプロデューサーじゃなかったら、私なんかがIUの決勝までいけなかった……
   ううん、あの日、あの時、プロデューサーに会っていなかったら私はきっと最初のオーディションにも立っていなかっと思います。
   私をファーストステージに立たせてくれたのは間違いなくプロデューサーなんです。
   だから、そんなに自分を否定しないでください」

P「……はは、まさか雪歩に慰められる日がくるなんてな」

雪歩「ひ、酷いですぅ! プロデューサーは私をなんだと……」

 怒りきる前に置かれたプロデューサーの手は、久しぶりに頭をなでてくれて、

P「でも、たまにはいいかもな、ありがとう」

雪歩「えへへ、はい」

 その気持ちよさに私の怒りもすぐにどこかにいってしまいました。

P「……なあ雪歩、俺たちが初めて会った日のこと覚えているか……?」

雪歩「?……はい」

P「あの日、お前をむかえにいったとき、お前はチワワに怯えていたよな」

雪歩「はい」

P「その光景を目にしたとき、本当は一瞬だけ社長のところに戻って言おうと思ったんだ。
  プロデュースするアイドルを変えさせてください、ってな」

雪歩「そ、そうだったんですか……?」

P「ああ、犬が苦手ってことはたいていの動物番組ダメだし、男嫌いは事前に知っていたから、さらにプロデュースの仕方が限られてくる。
  そんな子を新米プロデューサーである俺がどうにかしようなんて無理だと思ったんだよ」


雪歩「なら、どうして私を……?」

P「お前が動かなかったからだよ」

雪歩「動かなかった……から?」

P「ああ、怖いのなら逃げればいい、買い物ならべつに犬がいない方向で店を探せばすぐにできる。
  なのにお前は逃げなかっただろ?」

雪歩「それは犬の方向にいつもいっている店がありましたから。
   それに、あの時の私は足が動きませんでしたし」

P「そうだとしてもだよ。あの時の俺はお前の姿に顔をひっぱたかれた気がした。

  だって雪歩の状況はまるっきり俺の状況と同じだったから。
  あそこで俺が社長のところに戻ることは、あのときのお前が諦めて他の店を探すことと同じことに思えた。

  お前の勇気を見て、俺も自分の直感を信じてみようって思えたんだ」


P「この子とならトップアイドルを目指せる……
  いや、この子とトップをとるために俺はプロデューサーになったんだ、っていう直感をな」

 そう言った後、失言に気付いたようにプロデューサーは罰の悪い顔をしました。

P「まあ、その前に俺の体はこのざまになったけどな、はは……」

雪歩「……なります」

P「ん……?」

雪歩「私、絶対にトップアイドルになりますから……! 報告、待っていてください」

P「……ああ、楽しみにしているよ」

 ゆっくりと私の頭をなでるプロデューサーのその手から、
以前のような力強さはありませんでしたけれど、温かさだけは変わっていませんでした。


P「……もう、そろそろ……時間がなさそうだ」

雪歩「……いやです」

 こんなことを言ってもしかたないのに、未練を残すだけなのに、
ダメダメな私はやっぱり最後の最後で決心がつかなくなりました。

雪歩「プロデューサーともっと一緒にいたいです!」

P「雪歩……」

雪歩「もっと、もっとプロデュースしてもらいたいです!」

P「ああ……俺もプロデュースしたかったよ」

雪歩「消えないで……消えないでください、プロデューサー……」

P「消えないよ……ずっと、『ずっと…見守って…いる』から」

 プロデューサーがいなくならないように、消えないように握る手を強めたけど、ゆっくりと確実に、
その時が近づいているのがわかりました。


雪歩「プロデューサー」

P「……な…んだ?」

雪歩「……好きです」

P「…………雪…歩」

雪歩「好きです、大好きです。お父さんより、真ちゃんより、四条さんより……好きです、大好きなんです!」

P「……」

雪歩「私、自分に自信がなくて、自信を持ちたくて自分を誇れるようになるために、アイドルを始めました。
   だけど今は……あなたがプロデューサーになってから……ずっと、ずっと……」

P「…………」

雪歩「あなたが……誇ってくれるアイドルに、なりたかったんですぅ……!」

P「……」


 外では雪が降っていました。
 しんしんと、穏やかに、よどみなく。
 この病室と同じ色をしている空からの贈り物は外の世界をゆっくりと染めていきました。

 ホワイトクリスマスですよ、プロデューサー。



 ……雪歩、遅くなったけど……誕生日おめでとう。




 ピ――――――――――……



 12月25日、午前0時プロデューサーは息を引き取ったそうです。




終章、Second Stage


「ぷ、プロデューサー……ごめんなさい……」

「泣くなよ雪歩。お前はあのIUを準優勝したんだぞ? しかも、あの貴音に勝って、だ」

「で、でもぉ……」

「でももくそもない。お前が精いっぱい頑張った結果なら堂々と胸を張れ。
 それがお前がアイドルになった理由だろ?」

「……」

「社長は優勝できないと引退しかないっていったけど、これだけ大きな大会での準優勝なんだ。
 そうそう簡単に消えることはないはずだから、また二人で頑張っていけばいいさ。
 だからもう今日は事務所にかえ……っと、はい、もしもし……」

「そう……ですよね、私まだプロデューサーにプロデュースしてもらえますよね? いなくなったりしませんよね……?」

「はい、では……
 よし、雪歩、今から帰るけど、もう大丈夫か?」

「はい」


「……社長、何も言わなかったですね」

「まあ、な。俺たちの気持ちや、下手な慰めが何にもならないってことがわかっているからだろ。
 あの人にもあの人なりの考えがあるんだよ」

「でも、やっぱり、私が負けなければ……」

「雪歩、また俺に同じことを言わす気か?」

「す、すみません……」

「それに負けたのは…………」

「プロデューサー……? どうかしましたか?」

「い、いや、なんでもない!
 そ、それより雪歩、IUを優勝したら「ご褒美」が欲しいって言ってたよな? それって何だ?
 今日は雪歩の頑張ったから特別に「ご褒美」くれるけど?」

「えっ、えぇ!? そ、そんな急に言われても……」

「急にって、雪歩から言い出したことだろ? いいから言ってみろ」

「じ、じゃあ、その……き、き……」

「金太郎アメ?」

「な、なんでですかぁ! キスに決まっていますぅ!」

「えっ?」

「あっ!」


「……」

「……」

「じ、冗談……だよな?」

「じ、冗談に決まっていますぅ!」

「そ、そうだよな! 雪歩がご褒美にキスなんて言うわけないよな」

「っ、そ、そうですよぉ……私が、キスなんて……」

「……よし! 雪歩、今日はパーッと、焼き肉食いに行くか!」

「えっ!?」

「こういうときは、上手いもの食うのに限るんだよ。というわけで早速行くぞ、電気消すからな」

「ま、待ってくだ……って本当に消さないでくださいよぉ、プロデューサー!
 私、暗闇も怖くて苦手なん……」

「んっ……ぷ、プロデューサー……」


悪徳「萩原雪歩が来ていない?」

 そんなはずはないと記者は思いつつ、苦労して手に入れた出席者名簿を再度確認する。
 だが、やはりそこに萩原雪歩の名前はない。

悪徳「そんな、馬鹿な……」

 たしかに式の最中ずっと彼女の姿を見なかった。
 だがそれは自分たちのような存在を気を付けて変装または隠れているだけで、この場には必ずと考えていただけに、現状は記者に取って受け入れがたかった。
 なぜなら記者が今いるこの場は彼女のプロデューサーの葬式だからだ。

悪徳「事務所ぐるみの隠蔽……」

 呟いておきながらこれはないと記者は思う。
 765プロの基本方針から考えてもそうだし、隠蔽していてもわざわざここまで必要はないはずだ。
 もし、萩原雪歩が誰か一人の目に入ったとなると『彼女が来ていることを隠蔽する事情があります』
と教えるようなものであきらかにリスクが高すぎる。

 今日無理矢理仕事を入れられたという可能性も考えたが、彼女はだいぶ前からセルフプロデュースを始めている。
 彼女の都合は彼女次第のはずだ。


悪徳「あの日といい今日といい、いったいどうなってやがる」

 実はこの記者は12月24日に萩原雪歩のプロデューサーが入院している病院に張り込んでいた。
 理由は簡単、不幸な病に侵されたプロデューサーを彼の担当アイドルが聖夜かつ彼女の誕生日に見舞いにくる。
 そんな絶好のネタを待っていたからだ。

 しかし、あの日も今日と同様に彼女の姿を見つけることはできなかった。

悪徳「はあ、明日はいったいどんな記事を書けばいいのかねえ」

 『独占スクープ! 萩原雪歩、涙ながらに語る専属プロデューサーとの思い出』
 明日はそう見出しをつけた記事で一面を飾る予定だっただけに記者は落胆を隠せない。

 いっそ、不仲説を書いてやろうとも思ったが、書いたところでたかがしれているのはわかっていた。
 大衆は痴話げんかより、悲劇をのほうがくいつきがよいのだから。

悪徳「しかし、プロデューサーさんよぉ、あんたは不幸だねぇ。
   あんたが手塩をかけてプロデュースした娘はあんたの死に際にも、見送りにも来てくれないんだから」

 そう言い残すと、記者は葬儀場を去った。


あなたはいつでも 優しい微笑みくれる

P『俺は君のプロデューサーだ』

でも私はドキドキ 不器用 引きつり笑顔

P『ニコって笑って』

雪歩『これで……いいですか?』

もしお化粧してお洒落して 背伸びした自分ならば

雪歩『わ、私まだちゃんと着替えしてないし、メイクもまだで……』

P『そのまま行け。背中なら俺が押してやる』

 この初めての気持ち通じるの? マニュアルで読んだ

貴音「……雪歩殿」


雪歩「四条さん……」

 歌を止めて後ろを振り返ると四条さんがいました。

貴音「今の歌は『First Stage』ですか……?」

雪歩「は、はい。知っていてくれたんですか?」

貴音「ええ。その歌も真、素晴らしい曲でしたから」

 私がアイドルとして初めて歌ったこの歌は四条さんの前で歌ったことはあまりなく、
IU決勝でも歌ったのは『Kosmos, Cosmos』だったけど、私にはどっちも同じくらい好きで大事な曲です。

雪歩「えへへ、四条さんにそう言ってもらえると嬉しいです」


貴音「……雪歩殿、今日が何の日か知っていますか?」

雪歩「プロデューサーのお葬式の日……ですよね?」

 時間的にきっと今頃式の最中だと思います。

貴音「プロデューサーと別れをつげに行かなくてよいのですか?」

 その質問はきっと四条さんにも返ってくるようなものでしたけれど、
その目は以前「強さ」とは何か聞いてきたときと同じ目をしていたから、

雪歩「いいんです」

 私はきっぱりと答えました。

雪歩「お別れはあの日にすみましたし、もし行ったら……
   きっと、私……穴掘って一緒に埋まっていたくなっちゃいますから」

 なるべく笑顔で、涙を見せないように。きっと不器用な笑顔でしたけれど、

貴音「そうですか」

 四条さんは笑ってくれました。

貴音「隣いいですか?」

雪歩「はい」

 私の隣に四条さんが座る。去年はプロデューサーがいたところに四条さんがいる。
 本当にプロデューサーはいないんだと実感しました。

貴音「可愛らしいゆきだるまですね」

雪歩「ありがとうございます」

 崩れずに溶けたところできっと私の願いを叶えてくれないけれど、けじめをつけるためには必要でした。


貴音「雪歩殿、泣いてもいいのですよ」

雪歩「!」

貴音「……今日くらい泣いても、弱くなったりしません」

雪歩「……っ、」

 一瞬でだめになりました。

雪歩「ひっく……」

 せっかくこらえていたのに、せっかく四条さんの前では泣かないと決めていたのに、目に見えるもの全ての輪郭が歪んでいく。

 あの日、あんなに泣いたのに、声が枯れるほど泣いたのに、
渇いたはずだと思っていたものが四条さんの優しい言葉を聞いた瞬間、目から流れていくのを感じました。

雪歩「ぐすっ……ひっく……」

貴音「泣きなさい。好きなように、好きなほど……
   それが終わったらこれからの話をしましょう」



 プロデューサー……さようなら。


小鳥「社長、それって何ですか?」

高木「これは今度我が765プロで売り出すデュオ二人の資料だよ」

小鳥「ふうん……って、社長! 二人って貴音ちゃんと雪歩ちゃんなんですか!?」

高木「ああ、そしてこの二人には原則プロデューサーはつけず、セルフプロデュースをやってもらう。
   幸いにも彼女たちはそれぞれプロデュース経験があるからね」

小鳥「そうは言いましてもいきなりこれは、いくらなんでもこれは急すぎるんじゃ……
   特に雪歩ちゃんはプロデューサーさんが……その、いなくなったばかりですし」

高木「勘違いしないでくれたまえ。これは彼女たち自身から提案してきたことだ」

小鳥「え? そ、そうなんですか?」


高木「ああ、特に四条君は前からこれを考えていたらしく、だからうちに来てから未だに再デビューしなかったふしがある」

小鳥「そういえば、貴音ちゃんここに来てからレッスンしかしていませんもんね」

高木「まあ、私もしてもすぐ認めるわけにはいかないから今日まで伸ばしていたわけだが。
   ……四条君のほうはこれを24日までに認めるようにお願いされていたよ。
   おそらく萩原君への彼女なりの誕生日プレゼントだったのだろう」

小鳥「そんなことが……社長、ちなみにこのユニットの名前は決まっているんですか?」

高木「うむ。四条君からの発案だが、なかなかティン! とくる良い名前なんだよ」

小鳥「何ていうんですか?」

高木「それは……」


「ええ!? 私と四条さんがデュオですかぁ!?」

 プロデューサー、

「た、たしかに言いましたけど、私は一緒に歌えたら素敵だなってくらいで……」

 あの日、「ご褒美」を私の唇……じゃなくておでこにした理由、
プロデューサーはアイドルにキスなんてできるかって言いましたけど、
もしあの時私がアイドル辞めるって言っておけばキスしてくれまたか?

「わ、わかりました。頑張りましょう」

 ……なんて、聞かなくても答えはわかっていますけどね。


「それと、四条さんあの……デュオを組むなら『雪歩殿』と呼ぶのはやめたほうが……」

「ゆ、『雪歩』でお願いしますぅ」

「わ、私もですか? ……わかりました。で、では……た、『貴音さん』」

「ちなみにユニット名は決まっているんですか?」

「『ワンダリングスター』……とっても素敵な名前だと思います!」

 プロデューサー、私これからアイドルとして本当のセカンドステージを歩みます。

 まだまだひんそーでちんちくりんで、男の人と犬が苦手な私だけど、

 いつかきっとあなたも振り返る 私、素敵な人になります

雪歩「Next my second stage」 end.

後書き、謝罪

このSSは>>1にも書いた通り、読んだ人がワンダリングスターの雪歩をクリアしていることを前提に書いています。
そして、ゲーム内でのできごととSS内でのできごとをごちゃまぜにしているのでわからないところがあったと思います。
なのでゲームから拾ってきたやつの解説

>>9 手を握られて、あの時と、同じ目で見られたから
IUの予選中、貴音の衣装が盗まれて、雪歩の私のこと信じてくれないんですか? の返答の選択肢、俺の目を見ろ、というやつがあります。

>>19 高木「『IUの優勝者は〜引退してしまう』」
活動三週目、高木のおどし。これは全アイドル共通

>>27 高木「最近まで961プロでセルフプロデュースをやっていた四条君」
ワンダリングスターでは貴音は961プロにいてセルフプロデュースでアイドル活動続けています。
そして貴音は優勝しないと黒井社長に見捨てられて765プロに拾われるという流れでした。

>>37 貴音「あなたは以前、私のように強くなりたいと言いましたが」
IUの予選最中のイベント会話、私は強者(つわもの)ではありませんが、も同様

>>55 千早ちゃんの両親は最近別れたと聞きました
これはワンダリングスターではなくミッシングムーンネタです

>>58 雪歩「……芸能界では夜会ったときでもおはようですよ」
活動二週目、朝の会話

>>63 雪歩「『努力にムダなんかない』」
Cランク時の営業、チャンス1、の選択肢から

>>65 P「お前はチワワに怯えていたよな」
活動初週、アイドルの選択後、雪歩をむかえにいったときのファーストコンタクト

>>75 「ご褒美」
IU本選途中のイベント会話。

>>79 P『俺は君のプロデューサーだ』
二つ上と同様、雪歩とのファーストコンタクト中の会話の選択肢

>>79 P『ニコって笑って』雪歩『これで……いいですか?』
活動初週、活動終了後の会話

>>79 雪歩『わ、私まだちゃんと着替えしてないし、メイクもまだで……』P『そのまま行け。背中なら俺が押してやる』
Fランク時の営業、ライブ(デパート屋上)、の会話から

とりあえず、以上です。
一応、雪誕SSのつもりで書きました。
読んでくださりありがとうございました。

03:30│萩原雪歩 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: