2014年09月18日

秋月涼「千早さんの笑顔」






初めて千早さんに出会ったとき









最初に僕が抱いた感想は









『笑顔がとても綺麗な人だ』









だった





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1410780551



そのことを真さんに話したら



「そっか」



と、ニコリと微笑み





やよいさんは



「とーっても素敵だよね!」



と、とびきりの笑顔で同意してくださり





あずささんは



「うふふ、そうね」



と、いつものように優しく微笑んでくださった



律子姉ちゃんは



「そう」



と、遠くを見るような目をして、少し素気なく感じる返答だった



でも



口元が少しだけ緩んでいるのを僕は見逃さなかった



そしてすぐにイタズラっぽい笑顔に変わり、



僕の頭をガシガシと乱雑になでまわしながら、



「それは、あんたもお年頃って話〜?」



と、僕をからかい始めた



どの反応も、なにか含みがあるように感じていた



でもそれと同時に



共通しているのは皆、優しい目をしていることだった





765プロのみなさんにしかわからない、なにかがあるのかもしれない





僕には少しだけ、それに心当たりがあった





でも確信にいたるには、僕の主観が入りすぎていたために信じきれずにもいた



それは







千早さんの







笑顔に







歌に







ほんの少しだけ混じる







悲しみの色



千早さんの歌は本当にすばらしい



人の心を大きく揺さぶり



同時に



つかんで離さない



それは彼女のライブで埋め尽くされるドームの集客人数が証明していたし



アイドルはもちろん、数多の歌手や音楽家たちさえ彼女の歌を絶賛した





でも、僕はこうも感じていた



どうして







この人は









こんなにも











消え入りそうなんだろう



いつか







彼女の細胞すべてが









音符になって









風にのって









消えていきそうな









そんな気がする









そんなこと、ありえないのに



「千早さん?どうかしましたか?」





「秋月さん」







ある日、仕事の移動途中にある、河原で



千早さんに出会った



手や服に砂や泥がつきながら、彼女は何かを懸命に探しているようだった



「なにか探しているんですか?手伝いますよ」





「そんな、悪いわ。どこかへ行く予定があるのでしょう?」





「大丈夫ですよ。仕事にはまだ時間がありますし、いつも仕事でお世話になってるお礼です」





「ありがとう……お願いできるかしら」





「はい!」





「これくらいの、小さい、ビーズのミサンガなのだけど・・・・・・」





「わかりました」



「・・・・・・」





「女の子が……くれたの」





「そうなんですか?」







「……」





「私の歌が好きだって」





「私のファンだって」





「私のために、一生懸命作ったって」





「だから……」





「……」



「……」





……絶対、見つけなくちゃって



そう思ったんだ



これだけは絶対に見つけなくちゃって



僕は千早さんがわからなかった





初めて出会ったとき、すでに彼女はトップアイドルだった





歌への姿勢、想い、情熱、人としての考え方、夢―――





すべてが、千早さんは紛れもないトップアイドルだと確信させてくれた







でも、同時に







彼女がとても遠い人のように思えたから



だから



ファンを想って、行動し



いつもの歌姫である千早さんの姿からは想像できない



土や泥で汚れた姿を見て





少し可笑しくて







少しだけ近くなったような気がして







少し







うれしかった



でも





いくら探しても見つからなかった



もう少しで夕日も沈み切ってしまう



千早さんの顔が、それにあわせるように暗くなっていくのを



どうにもできない自分が



たまらなく悔しかった



「千早?と、秋月さんか?なにやってるんだ」



「プロデューサー」



「遅いから心配したぞ」



「すみません……」



そこにいたのは765プロの千早さんの担当のプロデューサーさんだった



千早さんを導いたことで、業界でも名の知れている人だ

「千早さん、落し物をしてしまったみたいで、探していたんです」





「なに?そうだったのか?わかった。オレも一緒に探そう・・・・・・ん?」









「お、もしかして、これじゃないか?」





「あ……!そ、そうです!それです!」



「ああ、ああ。ありがとうございます、プロデューサー!」





「見つかってよかったな」





「はい!」











そのとき





千早さんは





いつもの彼女からは想像できない





無邪気な子どものようなとびきりの笑顔を





プロデューサーさんに見せた



それを見て僕は









ああ……よかった











そう、思ったんだ



落し物が見つかったこともそう



でも、それ以上に





千早さんは









見つけることができたんだ









笑顔でいられる場所を



この居場所があるかぎり











千早さんは、大丈夫なんだ









それがわかったから



その後、千早さんに何度もお礼を言われながら



プロデューサーさんが車で仕事場まで乗せて行ってくださったおかげで



仕事に遅刻せずにすんだ









でも

「遅―い!」





「夢子ちゃん」





「何してたのよ」





「ちょっと、ね」





「早めにきてチェックしようと思ったのに!」





「ごめん。でも、夢子ちゃんなら合わせられるでしょ?」





「ふーん、言ってくれるじゃない。自信あるんだ?」





「今日は、いつも以上に気合入ってるんだ、なんかね」





「なら、今日は初めから飛ばしていくわよ!」





「うん!」







僕にもいつか、見つけられるだろうか







ありのままの僕の、笑顔でいられる場所を



終わり



17:30│アイマス 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: