2013年12月07日

モバP「成宮由愛をお祭りLIVEに参加させる?」

注意事項
1:地の分付き&Pの一人称視点
2:CoPということで文中のPの呼び名はCo=コウ
3:Coアイドルメインです


上記の点に問題ない方は続きをどうぞ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1355250493

「知らない人に会うの……ムリなのに……。私……どうしたら……」

 それが俺がプロデュースした少女にはじめて会った時、彼女がもらした言葉だった。成宮由愛、それが彼女の名前である。
 色素の薄い髪と華奢な体つき、やわらかな顔立ちは妖精のようであり、うちの事務所に応募してくれた由愛のお母さんには心底感謝している。
 はじめこそアイドルをやることには前向きではなかったものの、コミュニケーションを重ねていくうちに彼女と少しずつ打ち解け、仕事も少しずつ増えてきた頃、こんなことがあった。

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 「神社のお祭りでライブ、ですか?」
 「ああ、去年よそに依頼したのが盛況だったとかで今年はうちの子をお願いしたいそうだ」

 朝の事務所で俺は事務員の千川ちひろが入れてくれたお茶を飲みながら今度の仕事について説明した。
 千川は最初きょとんとした後、はいはいと納得したようにあいづちをうつ。

 「日時と場所はどこですか?」

 人員の足りないうちでは千川は事務員というより便利屋みたいな扱いでたまに申し訳なくなることもある。本人いわく楽しんでやっているそうだが。

「後で地図と日時が入った資料を渡す、一応下見はしておいてほしい」
「ええ、わかりました」

 にっこりと通称ちひろスマイルを返す千川に苦笑を返し俺は当日の参加メンバーのスケジュールを座って確認した。

「神崎○、博士○、古澤○、うちの人気どころはだいたいライブに参加できそうか」
「由愛ちゃ……成宮さんはどうするんです?」
「由愛か、少人数でのライブも慣れてきたとはいえあの子はまだこの規模のライブは経験したことがないからな」
「何事も経験だと思いますよ?」
「かといってトラウマになるような事態にはしたくない、由愛のためにもだ」

 俺の言葉に千川は満面のちひろスマイルからいたずらっぽい表情にスライドする。この顔を見せる時はあまりよいことは考えていないのだ。
 現に過去にあやうくトラブルになるようなこともあったのだが……

「あまり妙なことはたくらむなよ?」
「ひどいですね〜私も皆の為を思って行動しているのは一緒ですよ」
「リスクぎりぎりの線を攻めるから怖いんだよ、まったく」
「物事はリスクがあるから楽しい、ですよ(クスクス)」
「困った奴だな、こいつ」

 とりあえず千川のおでこを人差し指でこつんとつつく。と、その時、事務所の入り口が開く音がして俺と千川はそちらを向いた。
 銀めいて色素の薄い髪の妖精、いやいや現実のアイドルである成宮由愛がそこに立っておりはにかんだ笑顔を俺に向けていた。
 思わず、どきりとする。プロデューサーとして一線を越えるどころか近づかないよう心がけているつもりなのだが、だが、千川に言わせるといつ踏み越えるか気が気ではないとニヤニヤしながら指摘されたこともあった。

「こんにちわ、コウさん、ちひろさん」
「こんにちは、由愛。レッスンにはまだ時間があるはずだいたぁ!?」
「うふふ、私は由愛ちゃんのお茶を入れてくるわね」

 俺の体を由愛から見えないようにつねると千川はそそくさとその場を離れていった。さほど広くない事務室にアイドルと二人、ファンなら垂涎のシチュエーションかもしれないがプロデューサーとしてはこう、話すことに困ることもある。

「あー…ここじゃなんだから応接室で……」

 俺の言葉に由愛はおずおずと顔をあげて言葉を返してきた。

「あの……私、コウさんと話したくて」
「そ、そうか。それじゃ仕事片づけるからそれまで横に座ってまっててくれ」
「はい……♪」

 俺がどうにも挙動不審に空いていたいすを持ってくると彼女はちょこんと座り込んだ。この子は育ちが良いらしく、ちょっとした振る舞いにも品良く愛らしい振る舞いを見せる。アイドルとしての資質は十分すぎるほどだ。……プロデューサーである自分が魅入られそうなほどに。
 すぐそばで自分を見守る由愛から意識すべきではない感情をおさえつつ、俺はパソコンと向き合う。事後確認になってしまうがとりあえず事務所側でのスケジュールには参加アイドルを記載して置かなくてはならない。

「あの、今は何のお仕事を……?」
「今度行われるお祭りでうちの事務所のメンバーでライブイベントを行う。その調整だな」
「お祭り、ですか」

 今のやりとりの後、うつむいて何事か考え込むそぶりを見せる由愛から視線を外し(つい撫でてしまいそうになるからだ)俺はパソコンに向き直った。ステージの設営や資材の搬入について、業者に申し込む必要がある。準備すべき事柄は非常に多く、煩雑だ。
 俺は仕事のためにプライベートは削りたくない人種なので(もちろんアイドル達とする仕事は楽しいのだが)急遽舞い込んだ仕事を手早く整理し、行うべきやりとりを振り分け、期日を手帳に書き込む。
 ややタイトなスケジュールだがアイドル達はその日はまるまる空いているようなので問題はないはずだ。

 手早くイベントの調整進める俺に、少女はそっと顔をあげて声をかける。

「あの、私はそのお仕事には……?」

 由愛の言葉に俺は返事が遅れる。実力もついてきたし、由愛の魅力は本物だ。だが少々時期尚早だと感じているのも確かなのだ。
 しばらく考えたのち、俺は由愛に答えを返す。

「会場の規模がかなり大きいみたいで、由愛にはまだ早いんじゃないかと……」
「……やります、私にも、やらせてください」

 少女の決意を秘めた瞳は俺にとって意外なものだった。ほんの少し前までこの子はアイドルなんてできそうにない内気な少女だったというのにだ。もっとも前向きなことは良いことなのだが。
 由愛の美しい瞳と目を合わせて思案したのちに俺は承諾する。
「わかった、由愛にも参加してもらうよ」

 俺の言葉に少女は緊張した面もちを破顔させて微笑む。
あまりの可愛らしさに思わず見とれてから、俺は軽く咳払いをして再度由愛と視線を合わせた。

「簡単に内容を説明するから聞いて欲しい」
「はい……♪」

 何故か上気してうるんだ少女の瞳。
 視線を合わせただけで俺はどこか陶然としている感覚をおぼえた。
 まるで恋人の様だと漠然と考えたところで幸か不幸か横やりが入った。

「闇に飲まれよ!(お疲れさまです!)」

 がちゃりと事務所のドアが開き、奇妙な言い回しの黒銀の少女が入ってきた。
 由愛とはまたことなる色合いの銀の髪に陶磁器にたとえるのがふさわしい白い肌の芸術品の人形めいた美しい少女。
 神崎蘭子、それが彼女の名前だ。
 彼女の独特の表現はつい出てしまう代物らしく、意志疎通には多少慣れが必要である。
 ……特にテンパった時は理解するのに苦労するのだ、こんな風に。
「わ、我が下僕と魂の盟友が夕闇の下で契りを交わそうと……!(ぷ、プロデューサーさんと由愛ちゃんがキスしようとしてるっ……!?)」

 蘭子の乱入に硬直した後、彼女の言葉を理解するのに数瞬の時間を要してから、(なお由愛は言葉の意味をすぐに理解したのかさっと目を伏せた)慌てて俺は弁解を始めた。我ながら情けない姿だ。

「違う、違うぞ蘭子、俺はあくまでプロデューサーであってお前たちアイドルと一線を越えるようなことは、じゃなくて由愛には仕事の説明をしようとしてただけだ!」

 急いでまくし立てたせいか呼吸が苦しくなるがおかげで蘭子は納得したのかわずかに表情をゆるませた。顔は紅潮し、目も潤んで愛らしい。

「儀式の……?(仕事の?)」
「そうだ、仕事の話だからつい熱が入って」

 蘭子の表情に後ろめたさを感じつつ必死に説明を続ける。
 こうみえて根は純朴で繊細な少女であるため身の回りの人間の情事など見て平静で居られるわけがない。
「い、偽りの真実をもって惑わすは罪であれば(紛らわしいことはしないでください……)」
「すまん」

 何とか落ち着きを取り戻した蘭子と、頬を赤らめている由愛と共に俺は応接室に移った。
 千川は影からことの事態を楽しんでいたのか微笑んでいる。後でしり叩きだな……
 千川がお茶を置いて退出した後、由愛と蘭子はようやく落ち着いたようでいつもの様子に戻っていた。年も近く、趣味も絵を描くことと共通している二人は実の姉妹のように仲がよい。
 「それで、今度の仕事のことだが」

 応接室に座り込むと俺は二人に説明を始めた。
 二人の銀の少女は緊張した面もちでじっと耳を傾けている。

「近いうちにあるお祭りにてライブを行う。去年の催しが公表だったらしく今度は今評価の高まっているうちの事務所にてライブをしてほしい、とのことだ」

 俺の説明に二人とも素直にうなずく。

「設営や準備についてはすでに手配した。参加メンバーも……かなりの人の入りだが二人ともいけるな?」
「はい、頑張ります」
「我が朋友と共に絶唱にて民を魅了しよう(由愛ちゃんと二人ならばっちりですよ!)」

 蘭子の言葉に由愛はちらりとそちらをみる。期待と緊張の入り混じった顔。蘭子は売れっ子とあってそれなりに場数をふんでおり、度胸もついてきている。それに比べればやはり由愛の経験不足は否定できないが……
 俺の視線に気づいたのか由愛はこちらを向いてうなずいた。
「……大丈夫、やれます」

 少女の頬をゆるく汗が流れ落ちる。
 由愛の緊張をほぐすために俺はぽふ、と彼女の髪をなでてやる。
 目を閉じて感触を確かめる由愛と少々不満げな蘭子の視線。
 ノックの音がした時、正直助かったと思ったのは内緒だ。

「コウさん、そろそろレッスンの時間だけど話は済んだかしら?」

 うちの事務所の子達を教育しているトレーナーさんの声に、二人とも少し残念そうな表情を見せた。男冥利なのかもしれないがかぶりをふって二人を送り出す。

「資料はおって渡す、期日までしっかりレッスンをつんでくれ」
「はい」
「受諾の意よ(わかりました)」

 おずおずと出て行く美少女二人を手を軽くふりつつ見送り、俺は応接室のテーブルに突っ伏す。

(平常心、平常心……)

 二人の魅力に苦悩する俺を影から千川が見ていたことには気づかなかった。

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 それからイベントの数日前のことだ。
 舞台の設営、演奏する楽曲の選択と順番など必要な案件はきっちりつめておき、後はアイドル達の仕上がりを待つばかりとなった。
 レッスンをたびたび確認しても仕上がりは着実に近づいてきている。後は本番のプレッシャーと人数の威圧感につぶされなければ問題はない、彼女達を信じなければ。
 そうこうしているとレッスンを終えた少女達の会話が聞こえてきた。

「博士はこう変身!できるベルトとか……」
「私の専門はロボなんだがなぁ」
「知ってる!ダイザーとかだろ?でも私はやっぱり自分で変身する方がいいな」
「むむ、君の趣向は尊重するがその分私の好みにも理解を示してもらいたい物だ。ガチタンとかキャタピラとか」
「今度教えてくれよっ仲間を理解するのもヒーローの役目だっ」
「それじゃまずACから……頼子は話に混ざらないのか?」
「お二人の話を聞いているだけでも楽しいですから」

 会話だけでわかる特撮ファンの黒いロングのちびっ子が南条光、それに対し苦笑しつつも受けごたえしてる博士と呼ばれたブラウンのツインテールでメガネをかけているのが池袋晶葉、最後にぽつりと返事を返したミステリアスな少女が古澤頼子だ。
 三人ともすでに私服に着替えた後で、女子トークとはかけ離れた雑談をしている
(まあ個性があっていい……のか?)

 博士の趣味なんかは露骨に錆びた鉄と硝煙の香りでむせそうになる。ボトムズとかああいう路線を目指しているのだろうか?

「三人ともお疲れさま、ユニットの調子はどうだい?」
「ああ、問題はないよ。私の知性に南条の勇気に頼子の知性……だとかぶってしまうか、まあ怖いもの無しだな」
「プロデューサーも本番に期待しててくれよな!」

 元気の良い返事に、頼子は静かに微笑みを返した。彼女は余り多くを語るタイプではないが、仲間への信頼が厚いことははっきりとわかる。

「それは楽しみだ……ああ、それと成宮と神崎は?」
「二人とももう少しつめるってさ、無理してなきゃいいんだけど」
「心配は無用だろう、特に成宮の真剣な表情を見ていたら私達も負けていられないな」
「ええ……あ、抜け駆けは無しですよ?晶葉さん」
「お互いにな、フェアにいく約束だ」

 いたずらっぽい笑みの博士と包容力を見せつつも同時に底知れない微笑みの頼子に挟まれて南条が困惑する。

「何の話かわからないけど帰ろうぜ?」
「ああ、帰って開発の続きをしないとな。二足のわらじは中々大変だ」
「ええ、余り遅くなってしまっても危ないですから」

 帰り支度を始める三人に、千川に声をかけて送ってもらうようお願いする。送迎はおおむね千川か自分の仕事だ。
 三人を見送ると俺はレッスン場に歩いていく。二人の様子が気がかりだった。
 レッスン場のドアをあけると少女二人の美しい歌声が耳をふれる。
 トレーナーの指示の元、二人はデュエットに力を入れているようだ。息もあっており、見事な歌唱力を俺に披露してくれていた。
 指導のための中断などもなく最後まで歌い終えると、二人とも俺の姿を見つけてかけよってきた。そのことに苦笑しつつもトレーナーさんは笑って見逃してくれる。

「二人ともお疲れさま。調子はどうだい?」
「欠けたるはなき真円の月(完璧だって誉めてもらいました!)」
「後は会場の雰囲気にのまれなければ大丈夫だって、トレーナーさんが」
「そうか、頑張っているな」

 この前由愛だけ撫でてしまって蘭子から不服の眼で見られたので、今度は二人同時に撫でてあげる。今度は二人とも満足したようだ……俺は顔をトレーナーさんに向けレッスン終了の確認を取った。

「ええ、今日はこれで終わりね。そろそろレッスンをするのは姉さんの方がいいんじゃないかしら」
「お二人とも中々引っ張りだこですからね」
「今度予定を組むように言っておくわ、こんな逸材なら教えがいがあるでしょうから」

 トレーナーとしてやりがいがある、ということなのだろう。プロデューサーである自分としても悪い気はしない。
 トレーナーさんに礼をいい、着替えに行った二人を待つ。
(二人ともきれいな体してるよな……)

 ぼんやりと出た感想をかぶりをふって打ち消す。二人ともまだ中学生、なのだが。
 俺の葛藤を他所に二人はすぐ戻ってきた。
 こちらを見て笑いかてくれる二人になんともいえない感情を持て余しつつ、俺はトレーナーさんに別れを告げてレッスン場を後にした。

 アイドル達の女子寮への帰宅は先ほども説明したとおり車での送り迎えだ。さほど遠くはないとは言え徒歩などもってのほかであるし、ご家族に心配させない意味もある。
 俺の運転する車の中で、少女二人はひそひそ話を続けていた。
 もちろんそういったやりとりにこちらから首を突っ込むことは基本的にはない。デリカシーにかけるからだ。
 だがバックミラー越しにちょいちょい二人の表情は見える。どうも二人してうつむいて、恥ずかしがっているようだがいったい何を話しているのやら。
 そうこうしているうちに蘭子から声がかかる。

「下僕よ(プロデューサーさん)」
「ん?どうした神崎」
「黄泉路への一里塚にて失われし甘露をこの手におさめたい(コンビニでジュース買いたいです)」
「コンビニに寄りたい、ね。わかったよ」
「さすがは我が下僕、大儀である(プロデューサーさんに伝わって嬉しいです)」
「それはいつも話していればな」

 微笑む蘭子の横で由愛はまだうつむてもじもじしていた、一体二人で何を……と思いつつもすぐに最寄りのコンビニにつく。
 念のため入り口から一番近くにとめて、ヨタモノがたむろしていないか気を配るが、幸い誰もいなかった。
「ついていこうか?」
「余りにも短き道程であれば(すぐそこだから大丈夫です)」

 さっとドアを開けて出て行く蘭子の姿を見やる横で今度は由愛に話しかけられた。

「あの、プロデューサーさん」
「ん〜なんだ?」

 わざとゆるい返事を返す。かけられた声で由愛が緊張しているのはすぐにわかったからだ。

「あの……その……」

 少女の返事をじっと待つのは苦痛ではない。たまにとんでもない要望を聞かされることもあるが……と、由愛が続きを話し出す。

「今度のライブの前に、一緒にお祭りを回れません……か?」

 由愛からの思いがけない提案に俺は数瞬思考した。ファンに見咎められる可能性も低くはない。だが、ライブ前の不安を解消できる公算もある。何より、由愛の希望にはなるべくはそってやりたい。
 プロデューサーとしては複数の意味で甘いのは間違いないが。

「ああ、わかった。それなら俺と早めに現地入りしよう」
「本当、ですか?」
「だが俺なんかでいいのか?他に仲のいい子もいるだろうに」
「蘭子ちゃんとはライブの後で、と約束しましたから」
「わかった、それじゃ当日は時間を前倒しして現地入りしよう」
「……っありがとうございます!」

 俺の返事に満面の笑顔を返す由愛にこちらも不意に照れてしまう。
 この笑顔だけでも承諾して良かったと思える、そんな笑顔だ。
 何となくほんわかした空気が流れる中、そそくさと蘭子が戻ってくる。
 彼女はとにもかくにも一目につきやすいのが心配だ。

「王の悠遠の帰還(戻りました、お待たせしてごめんなさい)」
「おかえりなさい」「おかえり」

 蘭子を乗せて社用車を再び発進させる。今度は二人は笑いあって話していた。蘭子が背中を押したのかね……?
 夜の闇の中、女子寮に到着する。ここまで来れば問題はない。
 入り口まで車を回して自分が先に降り、うやうやしく後部座席を開ける。ゆるりと車を降りる少女二人。

「下僕よ、一夜の別離。そして陽光とともに再びあいまみえん(おやすみなさい、プロデューサーさん。また明日)」
「私も、また明日……おやすみなさい」

 二人と別れの挨拶を交わして寮に入るのを見送ると、俺はそそくさと車を発進させる。年長組に捕まると中々解放してもらえないのだ。
 帰りの車の中で、来るイベントに、いやそれ以上に由愛と祭りへいくことに思いを馳せていたのは否定できなかった。

 それから数日後、イベントの当日の朝の、事務所でのことだ。

「それじゃ、成宮さんはコウさんが送っていくんですね?」
「ああ、約束したんでな」

 俺の回答に千川がにっと笑った気がしたが、この時は正直イベントへの意識と由愛のことで気がそぞろであったために指摘そびれたのは失敗だった。まったくもって油断ならない女狐なのだ、こいつは。
 その時の俺は千川の内心など気にもとめずに今日の行程について指示を出した。といっても由愛以外の参加アイドルを召集してイベント会場に送迎する、それだけのことだったのだが。

「スケジュールや集合時間はすでに全員に伝えてある、よろしく頼む」
「はいはい〜由愛ちゃんとごゆっくり〜」
「茶化すな、祭りを見て回るだけだ」
「本当に回るだけで我慢できるんです?」
「むぐ……」

 にふふ、とちひろスマイルを披露する千川に反論できず、俺は千川の頬を引っ張ることで不満をはらす。

「ひょっろひゃめてひゅひゃひゃい」
「相変わらず良く延びるなおい」
「もう、レディの顔をもみくちゃにするなんてプロデューサー失格ですよ?」
「そんなタマかよ、お前」
「失礼な、アイドルは無理でも心は立派な乙女です(ドヤ)」
「ないない、それはない」

 いつも通り千川を邪険に流すと、俺は事務所を出ようとする。

「もう現地入りをするんですか?」
「現地での下準備を早めにすませておきたいんでね」
「それじゃ、ぱっぱとすませちゃってください。後からいきます」
「あいよっと」

 この時点で千川に背を向けた俺はあいつがどんな顔をしていたか知るよしもなかった。一度くらい振り向いて良かったかもしれない。

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 現地での最終確認は驚くほど順調だった。前日にリハーサルはすませておいたし、機材にも不備や欠損はない。衣装とメイクスタッフもすでに現地入りしてスタンバイしている。
 チェック項目を一つづつすませ、アイドル当人達以外の準備が済んだのを確認してから俺は臨時に設営されたスタッフルームにて一息ついていた。

(由愛を迎えに行くにはまだ時間があるな)

 携帯で時間を確認し、アラームをセットしてからイスにもたれて俺は眼をつぶった。
 疲れがあったのか眠くてしょうがなかったのだ。
 視界が暗くなってすぐに眠りはやってきた。
 祭りの会場とは思えないほどにスタッフルームは静かだった。
 眠っているのか起きているのかわからない曖昧な意識下でどの程度時間が立ったのか、俺はふと隣に違和感を覚えた。
 何かが体にあたっているのだ。寝落ちる前にはなかった感覚だったが不思議と不快ではなかった。
 しばらく曖昧な意識下でまどろんでいたのだが、不意に胸元に何かがあたって意識が覚醒した。
 目を開けて周囲を見回して、違和感の招待に気づいた。
 浴衣姿の由愛が俺の隣で寄り添って眠っている。胸元にあたったのはもたれた由愛の頬だ。
 どうした物かと硬直していると、不意に由愛も目を覚ます。そして彼女と目が合う。

「お、おはよう」
「おはよう…ございまひゅ」

 どうやらまだ眠いのか由愛はまた俺の肩にもたれてしまう。

「良く眠れなかったのか?」
「はい……その、楽しみで眠れなくて」
「そうか」

 そっと由愛の髪を撫でる。幸い時間ならまだあるようで、携帯を見ると由愛の母から送っていくとのメールが来ていた。あの御仁は何を考えているか良くわからないところがあるのだ。

「まだ眠い?」
「はい、もう少しこのまま……」
「ああ、かまわない」

 別段突き放す理由もなく、俺はそのまましばらく由愛にもたれられていた。

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 それから小一時間ほど立ってからのこと。
 ようやく目が覚めた由愛と連れだって、俺はお祭りを散策し始めた。
俺は来るのは初めてだったこのお祭りは思ったよりも規模が大きく、夕焼け空の下で多くの人がごった返している。油断するとはぐれてしまいそうな人混みをかき分けて俺と由愛は祭りの縁日を楽しんでいた。

「あの……」

 声をかけられたことにすぐに反応を返す。

「ん?どうした由愛」
「裾……掴んでても良いですか?」
「ああ、この人混みだしな」

 俺の返事を聞いて由愛ははにかんで背広の裾を手にした。そんな彼女の姿に俺は暖かいものを感じつつ、人混みを後ろの少女を巻き込まないようにかき分けていく。
 幸いライブ目当ての人間ばかりではないのか俺達は見咎められることもなく(この人混みでは無理もないが)散策できていた。
 だが流石にそのままでは、と思っているところでおめんが多くかかっている良くある屋台の前を通る。
 そこで俺は足を止めて由愛に声をかけた。

「由愛、せっかくだから」
「はい……?あ、そうですね」

 おめんを指さした俺の意図は由愛にはすぐ伝わった。以心伝心という奴か。

「それじゃ……このあひるさんを」
「わかった。親父さん、これを一つ」

 屋台の店主はすぐに指定したおめんを渡してくれて、俺は代わりに代金を支払う。

「いいん……ですか?」
「プライベートで女の子に支払いさせるのはちょっとな」

 遠慮する由愛にかまわず俺はおめんをかぶせてあげる。由愛の裾を掴む手にわずかにぎゅっと力がこもった。

「ありがとう……ございます……♪」
「ん」

 由愛の笑顔につい照れてそっぽ向いてしまう。
「人混みは平気か?」
「はい……人がいっぱいいるところ苦手で……お祭りは来たことがなかったから……き、今日はプロデューサーさんがいるから……平気……です。でも……離れないでくださいね?」
「ああ、もちろんだ」

 照れ隠しに聞いた質問に由愛はおずおずとうなずいた。彼女は他人の存在が苦手だったはずだから、耐性がついてきたのは良いことだ。
 この後にはライブもあるし、少しは緊張もほぐれるといいのだが。
 周囲は相変わらずの人混みで、油断すると押しつぶされそうになる。そんな中を由愛は懸命についてきてくれた。

「せっかくだから何か食べるか?」
「えっと……何でも、いいです。コウさんの選んだのなら」
「そうだな……」

 歩きながら屋台を物色する。ライブもあるし余り重いのは良くないだろう、水物も同様に×、ならどうするか。
 選別する俺の目にりんご飴の屋台が目にうつる。りんご飴なら中身が果実だし、問題ないだろうと判断する。

「りんご飴は、どうだ?」
「はい……お願い、します」

 笑顔を返す由愛の反応に気をよくしつつ、りんご飴屋台の店主に二つ大きいのを頼んだ。手渡されるりんご飴の封を切って、由愛にそっと手渡す。
 その際に、彼女の小さな手に触れるが意識しないようにする。

「わぁ……りんご飴……食べるの、初めてです……」
「少し座れるところを探そうか」
 りんご飴を手にした由愛を連れて人混みをかき分け、座れるような場所を探すと運良く休憩所にされた空き地を見つける。
 臨時に設置されたベンチに先に由愛を座らせ、自分も座る。
 横の少女の様子を見ると、はじめてなせいかどう食べるのかわからないのか、あるいはその透き通った輝きに見入っているのかじっと由愛はりんご飴をかざしている。
 とりあえず、どう食べるのか、といってもスプーンで叩いてひびをいれるのは出先では無理があるので前歯でてっぺんをかんで割ってから、かりかりと食べ進めて見せる。
 由愛も俺の食べ方を見て納得したのかりんご飴を食べ始めた。もっとも彼女の小さな口では俺のようにはいかないのだが。
 一口食べ終えてから由愛は屋台の光がうつりこんだ瞳をきらきらさせながら感想を言う。

「コウさん……りんご飴……屋台の光でキラキラして……甘いの」
「そうか、気に入ったならまた食べよう。約束だ」
「……はい♪」

 祭りの喧噪から隔離されたような休憩所で、しばしりんご飴の甘酸っぱい味を楽しむ。それは隣の少女との関係にも似ているなどと夢想させられた。
 そんな穏やかな時間を携帯の着信音がけたたましく遮る。
 仕事柄着信音に割って遮られるのは慣れているが流石にこのタイミングでの横やりには少々いらっとさせられつつ俺は着信を取った。
 心配そうな由愛の視線がつらい。だが電話にでた俺に相手、千川が伝えてきたのは予想外のトラブルだった。
「到着時刻に間に合わない?」
「はい〜……道路が予想以上に混んでいて、皆さんの集合にも時間がかかってしまいまして」
「いいわけは後だ、後どのくらいかかる」
「予想できません、その、全然進まないですよ?」

 千川の涙声を聞き流し(どうせ演技だ)俺は現在時刻とスケジュールを確認する。
 本来であればまだしばらく猶予はあったのだが、開始時間に間に合わなかった場合も考えると現地にいる俺達はすでに準備に向かった方がいい。
 歯噛みする思いを表にはださず、由愛にも状況を説明する。

「皆さんが……間に合わない……?」
「すまない、もっと早く現地入りするように指示していたんだが……とにかく会場に向かわないといけなくなった」

 俺の言葉に由愛はうつむく。無理もない、本当は五人でのライブのはずだったのだ。
 だが、うつむいている間につぶやいた言葉を俺は聞き逃さなかった。

「大丈夫……ひとりでも、頑張るの……!」

 顔をあげた由愛の瞳にはあの気の弱い少女とは思えない強い意志が見えた。目と目を合わせて、俺達はうなずく。

「行きましょう……会場へ……!」
「ああ、いそごう」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 会場に入場するファンの人々を横目にそそくさと控え室に移動する。
 こちらは時間的には問題ない、ライブのための着替えやメイクの時間も十分だ、だが……

(ちひろの奴ほとんど進んでないな)

 スマートフォンの位置検索アプリによると千川の運転する社用車は現在は会場よりだいぶ離れた道路で立ち往生になっているようだ。
 もとより、徒歩で間に合う距離ではないしアイドルに走らせるわけにもいかない。

「手詰まりだな……」

 全く間に合わなかったら遅延、最悪中止だ。事務所のイメージもがた落ちだろう。
 アイドル達は頑張っているというのになんというザマだ。
 イスに座って思わずうなだれてしまう。
 そこに、再び着信音が鳴る。

『コウさん?』
「はい……頼子か」
『ええ、そちらはどうなっていますか?』
「このままでは開場遅延した上で由愛一人が歌うことになりかねない、まいったよ」
『そうですか……では今から蘭子ちゃんを連れていきますから何とか間を持たせてください』
「連れて、ってどうやってだ?」
『晶葉さんがちょっとした物をお持ちでしたので、それを使っていきます』
「……すまん、頼めるか」
『はい、なるべく早くいきます』

 通話が切れる。頼子の提案はありがたいがそれでも開場までもう間もない。ライブを開始しないままファンを待ちぼうけさせるなどもってのほかだ……やはりここは。
 スタッフルームで頭を抱える俺は不意に少女の視線に気づく。
 ドアから、ライブ衣装に着替えた由愛が俺のことを心配そうにのぞいていた。

「由愛……」
「あの、準備できました」
「……すまん、本当なら5人でのライブのはずだったのに」
「顔を、あげてください」

 イスに座ったまま顔をあげると由愛の瞳と目が合う。
 怯懦のない瞳、少し前からすれば想像できない強い意志を秘めたその目。
 由愛の目を見て俺もぐっと腹をくくる。少女が覚悟を決めているのに俺が覚悟できないでどうするというのだ。

「いこう、じきに頼子が蘭子を連れてくる。それまでの間一人で歌えるか?」
「はい、大丈夫……あの」
「お客様には俺から説明する、が何だ?」
「上手に出来たら、ご褒美、もらえますか?」

 由愛の真剣なまなざしが俺を見上げている。

「ああ、俺に出来ることで良ければ約束する」
「……良かった、これで頑張れそうです……」

 由愛の見せるはにかんだ笑顔にこちらが安心させられつつ、覚悟は決まった。
 お客様にトラブルの影響をお詫びしつつ、由愛の舞台を整える。
 後は頼子と蘭子が間に合うのを信じるだけだ。

「いこうか、ファンの皆さんが待ってる」
「はい……!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ステージのそでで会場の客入りをそっと探る。
 客席はすでに満員で立ち見の人も多い。こんな事態でなければ大成功間違いなしと歓喜していたかもしれない。
 だが諦めるのは精一杯やってから、それからでも遅くはない。
 改めて配布済みのパンフレットを確認し、ライブの順番が予定とは前後するのを把握する。
 まずは俺が予定されていたスケジュールとは違ってしまうことを釈明してから、由愛にライブを初めてもらうのが適切だろう。

「いけるか?」

 後ろを振り向き、由愛の様子を見る。
「はい、大丈夫です」

 振り向いたそこにはライブ前の一人前の一人のアイドルが居た。
 この子なら大丈夫だ、という確信を得て自身も奮起する思いになれる。
 由愛と共にまっすぐ舞台を見据え、俺は宣言する。

「行こう、由愛。ライブの始まりだ」
「はい……!」

 少女と連れだって舞台へ、ファンの詰めかける会場へ歩きだす。
 会場から受けるプレッシャーはいつもより心なしかきつかった。
 一歩ずつ重い足取りを進めて、舞台の中央へ先に俺が立つ。すぐ後ろに由愛も。
 開始の予兆を前にざわつく会場に対してまずは俺からライブスケジュールが前後することを謝罪し、次に由愛にソロライブを初めてもらう。後ろを軽く向いて目配せすると由愛も深くうなずいた。
 会場のファンに対し、会釈し、挨拶を淡々と始めていく。

「本日はご来場いただき、まことにありがとうございます。わたくし、本イベントでのライブを企画させていただきましたプロデューサーです」

 俺の挨拶に対しにわかにざわつく会場に対し平静を保ちつつ挨拶を続ける。

「ライブの開始を前に一つ、私からみなさまにお詫びしなければならないことがあります。それは、わたくしどもの不手際によりライブスケジュールにて予定されていた順番が前後してしまうことについてです」

 ざわめきが大きくなる、無理もない話だがそこで話を折るわけにはいかない。畳みかけるように俺は釈明を続ける。

「ですが、参加を予定しておりますメンバーは全員参加いたしますのでどうかご安心ください」

 ざわめきがにわかに静まる。伝わってくる安堵の気配に同調したくなりつつもしめの言葉を吐く。

「それでは、本日のライブをどうか最後までお楽しみいただきますようお願い申しあげます。一番手は当事務所でも新進気鋭のアイドル、リトルフェアリーこと成宮由愛です!」

 会場が困惑から熱気に転化しつつあることに手応えを感じつつ、俺は脇に下がって由愛の挨拶を待つ。
「みんな、今日は来てくれてありがとうございます!成宮由愛です!今日も全力でライブしますから楽しんでいってくださいねっ♪」

 マイクでの大音量で由愛の声が響き渡り、会場のファンは熱狂の渦を吹き上げる。上々の調子だ。
 邪魔にならないように自分はそそくさと舞台のそでに引っ込み様子をみる。
 歓声の後、ミュージックがスタートして由愛のライブが始まった。
『おぼえていますか?夜霧舞う空の下、大きな夢を聞かせてくれたこと』

 会場が静まりかえり、辺りに少女の美しい歌声が響きわたる。

『誰もが大人になるかわりに 大切な宝物を置き去りにしてしまう』

 由愛の歌声がファンに染み渡るのを舞台の影で見守っているところに、幸いにも間に合ったのか衣装に着替えた蘭子が俺のそばに息を切らせ駆け寄ってくる。

「我が友よ!盟友は、明暗なる災禍の果ては!?(プロデューサーさん!由愛ちゃんは、ライブはどうなりました?)」
「心配するな、あの子なら何も心配はいらない」

 蘭子を促してライブの様子を見せると、少女の顔に安堵の表情が戻る。

『だけど忘れないで あの日あの時見た虹の彼方を 夢を』

 ライブはサビの部分にさしかかり、会場の熱気もボルテージがあがっていく。
 息を整える蘭子の背中をさすってやり、ついでに指示を出す。

「由愛のソロのサビが終わったら途中からデュエットだ、いけるな蘭子?」
「惨劇の代償は我が身にてあがなわん(遅れちゃった分頑張ります!)」

 由愛はライブに集中していてこちらに気を回す余地はない。
 だが蘭子ならうまく合わせてくれるはずだ。
『時には鳥のように 時には蝶のように 想いよ、さあ舞い上がれ』

 サビの部分が終わり会場が盛り上がる中、蘭子も駆けだしていき由愛の隣に並んでファンに挨拶する。

「深淵の民よ!堕天せし我が魂の鼓動に集え!(皆さんこんばんは!神崎蘭子です、今日は沢山歌いますから楽しんでいってくださいね♪)」

 二人の少女は舞台の上で僅かに視線を合わせ微笑みあうと会場のファンに向き直って歌い続ける。

『いつの日にか消えてゆくさだめなら 心にウソをつかずに生きていたい』

 二人のライブに会場の熱気は最高潮となる。
 その様子に安堵する俺の後ろにそっともう一人の少女が用意を済ませて現れた。

「何とか、間に合ったようですね」
「すまない頼子、助かったよ」

 おそらく蘭子を抱えてきたにも関わらずまるで息を切らしていない頼子に俺は底知れなさと深い信頼を感じつつも礼を言う。

「ふふ、ファンの皆さまのため……でしょう?お安いご用です。晶葉さんと光さんももうじき着きますよ」
「そうか……二人も着たら由愛と蘭子の二人と入れ替わりで出番だ。よろしく頼む」
「はい、頼まれまして」

 軽い打ち合わせを交わす間も歌は続いていく。
『瞳を閉じないで 歩みを止めないで 虹の彼方へゆこう』
『希望をのせた羽 未来照らす光 あなたに舞い降りるように』

 由愛と蘭子は息のあったコンビネーションで歌の後半を歌い上げてゆき、それに合わせて会場のファンもさらなる熱狂を巻き上げる。

『だから忘れないで あの日あの時見た 虹の彼方を 夢を』
『時には鳥のように 時には蝶のように 想いよ、さあ舞い上がれ』

 そして歌い上げられるライブに、会場のファンは拳を突き上げてライブの熱狂を表現する。

『瞳を閉じないで 歩みを止めないで 虹の彼方へゆこう』
『希望をのせた羽 未来照らす光 あなたに舞い降りるように』

 曲が終わった時、会場の熱気は絶頂に達して少女達を祝福していた……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いや〜一時はどうなることかと思いましたが何とかなって良かったですね♪」

 急なライブプランの変更も物ともせずに参加した少女達がライブをやりきった後の事。
 少女達の仕事を労う俺のところへ一応悪びれた風情で千川はひょっこり控え室に顔を出した。
 ライブの出来を上気した顔でたたえ合う由愛達から少し離れて、俺はじと目で千川を出迎える。

「誰かがミスらなければこんなごたついたライブにはならなかったんだけどな?」
「いやですね〜不可抗力ですよ不可抗力(汗)」

 どこまで本当な物か。俺の疑心を裏付けるように俺と千川の会話に気付いた昌葉が会話に割って入る。

「それなんだがな、ナビのログを見るとわざと混む道を選んだ形跡があるんだがちひろ嬢、これはどういうことかな?」

 昌葉の言葉に千川の表情がビシッと固まる。
 そこに追撃の南条の疑問が投げかけられる。

「それに予定が変わったって言って集合時間変えたのもちひろさんだったよな?」

 ますますひくつく千川の笑顔に頼子からとどめの一言が飛んできた。

「プロデューサーさんと由愛さんが先に現地入りしてお祭りを回るように仕向けたのもちひろさんですし、ね?」

 もはや四面楚歌と覚悟を決めたのかやおら悪役顔でぐわらと顔をあげて千川はたんかを切った。

「その通り!プロデューサーさんを修羅場に突っ込んで楽しみ、もとい由愛ちゃんといい雰囲気にさせてあげつついい経験を積んでもらうための策略でしたが見破られてしまっては仕方ありませんね!」

 アクションゲームめいたバックステップから脱兎の如く逃げ出そうとした千川だったが一瞬早く光のタックルからの抱きつきで胴を、頼子が投げたワイヤーで腕を、昌葉の謎っぽい機械で足を拘束されてしまった。

 アイドル達の見事な連携のもとあっさり千川はすまきにされて拘束されてしまった。こういうシーンを見ていると彼女達が本当にアイドルか疑わしくなる、もっとも頼子と晶葉は訳ありなのだが。

「こ、これはしたり……私としたことが」
「さて、どうした物かな?」

 晶葉が含みのある笑顔を見せる。彼女は良識人だがそれだけに今回の多方面に迷惑をかける千川の悪癖には腹に据えかねるところがあるのだろう。
 一方頼子はいつもの微笑みを崩していない。だがしかしそれがかえってかなりの威圧感を放っている。
 そして光は信頼していた相手の所業に大層憤慨している、ヒーロー志望だけあって彼女はこの手の悪ふざけは滅法嫌うのだ。
 最後に由愛と蘭子の二人は荒事な苦手なせいか少し離れて事態の成り行きを見守っていた。

「コウさん助けてくだしあ〜;;」
「どの口がそんなこと言うんだどの口が」

 千川の口をつまんでむにゅってしてやる。どの道この女狐がこの程度でめげるわけもない。しかしアイドル達に無茶をさせた以上無罪放免というわけにもいかない。
 アイドル達は俺の判断に任せたのか何も言わずに待っている。
 嘆息しつつ俺は処分を口に出した。
「皆お祭りを回りたいだろ?」
「はい?」

 俺の言葉にアイドル達は少し怪訝な表情を見せた後一斉に

「いきたい!」
「そうだな、私も助手と回りたいが」
「ふふっそうですね」
「祭場への登壇を!(私も私も!)」

 と口々に答えた後、少し遅れて由愛も

「あの……私も、まだ回りたいです」

 と答えた。

「そういうことだ、千川はイベントの事後処理を全部やってもらおう」
「えっちょ、ちょっと待ってくださいよ!私はお祭りには」
「ダメだ」
「そんなー!浴衣も持ってきたんですよー!?」
「ダメだ」

 しょぼくれる千川にきっぱりと告げる俺の袖がくいくいっと引かれる。
 ひかれた方を見ると由愛が申し訳無さそうな顔で立っている。

「その……ちひろさんがこんなことしてくれたの、私のせいなの……ごめんなさい」
「どういうことだ?」
 背をかがめて、由愛をおびえさせないように優しく問うと由愛はもっと俺にアイドルとして信頼されるにはどうすれば悩んでいたこと、それを千川に相談したこと、一人でもライブ出来ればきっと認めてくれると千川が由愛一人でライブせざるをえないような状況にすることを提案したことなどを打ち明けてくれた。
 すべて聞き終わってから俺はつい深く深くため息をついてしまった。
 由愛にこうも思い詰めさせたのは自分の責任であり、それが今回の事態につながってしまった訳だ。

「おい千川」
「な〜んですか〜;;」
「まさかお前由愛のことダシにしたんじゃないだろうな?」
「天地神明に誓って違います!」

 いまいち信用できないが仕方あるまい。
 俺は千川の拘束を解いてやり、立ち上がらせる。

「皆は先に着替えて待っててくれ、俺と千川でさっさと後始末してくる」
「私も回ってもいいんですね!?」

 さっと笑顔になる現金な千川にアイドル達はやや呆れつつも笑って承諾してくれた。
 そうして順番に言い残して控え室から一人ずつ出て行く。

「それじゃ先に行って作業指示してきますね」
「ちょうどいい、私の開発した片付けロボの威力を見せてやるか。だから助手もすぐ済ませて私と祭りをまわろう?」
「プロデューサーなら大丈夫だって!早く着替えようっ」
「それでは、先に失礼しますね?」

 後には俺と由愛が残される。
 どちらからともなく視線を合わせると由愛の方から言葉をかけてくれた。
「あの……怒って、ますか?」
「そんなまさか。もし怒っているように見えるならそれは自分に対してだな」

 ぽんと由愛の髪を撫でてやる。

「自分に……?」
「ああ、由愛が思い詰めてたことに気付かなかった自分に、な」
「ごめん、な……さい」
「由愛が謝らなきゃいけないことなんて何一つない、ただ」
「ただ……?」

 涙ぐむ少女と目を慰める。自分はプロデューサー失格だなと思いつつ。

「次からは素直に俺に相談してほしい、な?」
「は、い……はいっ」

 涙で途切れた返事を涙をぬぐってから改めて言い直す少女をたまらなく愛しく思いつつも表には出さずに立ち上がる。

「それじゃあ行こうか、余り待たせるのもな」
「はい、その一つお願いが……いいですか?」
「俺に出来ることなら」
「ぎゅっとして、ください」

 少女の願いに少し面食らいつつも、俺は由愛のことをそっと抱きしめた。胸の鼓動が伝わってくるような、そんな錯覚を覚える。
 そして、由愛も俺の背に両手をそえてくる。

「私、頑張ります……きっとコウさんの一番のアイドルに……」

 何ともいえない、心地よい感覚。しかしこういう瞬間は長くは続かない物と相場が決まっていて。
「我が友たちよ、早く冥宴への来臨を……な、何故深き抱擁を二人がっ!?(由愛ちゃん、プロデューサーさん、早くお祭りに……って二人が抱きしめあってるー!?)」
「なにぃ!私だってまだハグされた事はないんだぞ!じょ、助手!もったいぶらないで私のことも抱きしめてくれ!」
「あの、晶葉さんそれはストレートすぎじゃ……私もしたいですけど(ボソボソ)」
「ああ、次は私にもしてくれるよなプロデューサー!」
「熱き親愛の行為は我の物よ!(わ、私もぎゅってされたいです!)」

 戻ってきた蘭子の叫びを皮切りに控え室になだれ込んできたアイドル達にもみくちゃにされつつも俺はプロデューサーとして充足感を感じていた。
 願わくばこんなにぎやかな日々が続いてくれたらいい、そう思わずにはいられなかったのだった。


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 後日談。

「いやーやっぱり娯楽は色恋三昧に限りますねぇ」

 事務所にて一人ごちる千川ちひろ。
 デスクに座る彼女の手元にはアイドル志望者のファイルがある。

「しかし皆いい子過ぎて平穏無事に日々が過ぎるのはちょっと刺激にかけますわけで……」

 ファイルをめくるちひろの手がぴたりと止まる。

「ふふふ、この子なら今の均衡をいい感じに崩してくれそうです♪」

 ファイルを開いたままに席を外すちひろ。
 開かれたファイルには『輿水幸子』のプロフィールが踊っていた。

 to be continue。。。?

02:30│成宮由愛 
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