2013年12月22日

モバP「小関麗奈のせかいせいふく」

投稿を再開します。
少しだけ書き溜めがあるので、それを投下していきます。


「お願いが、あるの」

夕食のときに、アタシは意を決して口を開いた。
今までこんな物言いをしたことがないから、両親は驚いていたと思う。

「…アタシ、やりたいことができたの」

「その…アイドルに、なりたいと思ってる」

「いつものイタズラとか…そういうんじゃないの」

いつものアタシの口ぶりは消えていた。
そこにいたのは…ただ、素のままのアタシ。
プライドも全て捨てて、ただ正直に、想いを伝えたわ。

驚くだけだった両親も、次第に表情に変化が見えた。
ゆっくりと頷きを返してくれて、それに続くように話したの。

アイドルになるには、プロダクションに所属しないといけない。
プロダクションに所属するには、オーディションを受けないと。
オーディションに受かるには、それ相応のレッスンが必要だと。

「だから、アタシは…その、養成所に通いたいの」

「…いきなりだ、って分かってる。けど…」

「お願いします」

「夢ができて、アタシは、それを叶えたいから」

「だから―――!」




『…なら、まず…その、養成所を決めないと』



『いっぱいあるんだろう?その…養成所は』

『とりあえず、資料をもらっておいで。それからにしよう』

『…しかし、麗奈がアイドル、か』

『なんだか、楽しみだ』

『イタズラばっかりの麗奈には、いいかもしれない』

そう言って、笑ってくれた。
お酒で赤くなったのか、それとも。
分からないけれど…その横顔は、なんだか赤かった。

後日、すぐに家のパソコンで資料請求をした。

調べてみて、良さそうだと思うところをいくつか。
でも、そう数が多いわけではなかったけれど。

両親とも話し合って、養成所を決めた。
何度、お礼を言ったかはわからない。
その度に、嬉しそうに笑ってた。

養成所に契約しに行って、小さな面談も行われた。
小関麗奈さん…うん、可愛らしい。これから頑張って。

年齢も何もかも関係なく、1番後輩として、そこに入ったの。
ああ。これから、アタシはアイドルへの1歩を踏み出すんだ。

…そう思っていたけれど、そこでアタシの夢は、色褪せていくことになる。



それからは、少しイタズラを控えることにした。

無理を通してくれた両親への…感謝、かな。
お金だってかかるのに、それでも応援してくれたのだから。

週に3回のレッスンが、そこでは行われていた。

ああ、これは、アタシの場合だけど。
多い人だと、週に5日以上の人もいたみたい。

話を戻すわよ。

最初は…その、声を出すのも恥ずかしかったけど。
音程もとれないし、身体も固くて、大変だったのよ。

けど、その度にアタシは夢を思い出して努力した。

このレイナサマに不可能の文字はない。
いつかきっと、特別な存在になるんだ、って。

3日、4日。1週間、2週間、1ヶ月。
休むことなく通い続けて、少しずつ上達していった。

たまの休みに遊びに行ったカラオケでも、その成果は見えていた。
上手い、すごい。麗奈ちゃん、とっても歌が上手いんだ。

そう言われる度に、アタシは嬉しくなって、努力を重ねた。
いい感じじゃない。きっと、このままいけば―――。

…そう思っていたときのことだった。



2ヶ月くらいたった、ある日のことよ。

早めに着いて、ストレッチや発声練習をしていた。
もっともっと上達したい。そう思っていたからだった。

がちゃり、と中学生の先輩方がやってくる。
おはよう、麗奈ちゃん。爽やかな笑顔での挨拶。
おはようございます。今日も、よろしくお願いします。

朝だろうと夜だろうと、ここではみんなおはようを使う。
多分…だけど、芸能界にならって、そうしているんだと思う。

別に敵対心を抱いているわけじゃないし、普通にそう挨拶した。
技術面でみても、素晴らしいものを持っていたし、尊敬してたわ。

…けれど、次の一言で、アタシは。

『あー、今日もレッスン。なんか、面倒くさい』

『早く家に帰って、録画してるドラマがみたいよ』

『何でこんなとこ入っちゃったんだろ』

信じられなかった。
今まで尊敬していた先輩が。
どうして…そんな事を言うのよ、って。

同時に、言葉にできない屈辱を覚えた。

どうして、アタシはこんな人に負けてるんだろう、って。
真剣にアイドルを目指しているのに、アタシはなぜ、この人に…って。

その日から…その人は、アタシの先輩ではなくなった。



『でもさ、アイドル候補生ってだけで、いいブランドだし』

『そうそう。周りの目が違うし、辞められないし』

『ま、それを考えたら、仕方ないよ』

仕方ない?
何が、仕方がないの?
あなたたちのそれは、ただ。

…そこで、アタシは、口まで来ている言葉を留めた。

ここで争っても意味がない。
この悔しさは、レッスンに向けるのよ。
そして、すぐに、あの人たちを抜いてみせるのよ。

そう思ったときには、アタシは既に行動に移していた。

いつもはレッスンを終えたら家に帰っていた。
けれど、その日から空いているルームを借りて練習した。
両親に連絡をいれて、ずっとずっと、夜遅くまで、どこまでも。

先輩への悔しさの反面、アタシは感謝を覚えた。

おかげで、アタシはさらに前に進める。
夢への信念が、揺らがなくなったから。

このレイナサマが、絶対に頂点にたってみせると。



『それでは、今回のオーディションについて説明します』

養成所では、プロダクションに皆一斉に応募する。
そのときはまだ、日が浅いアタシはそれに含まれはしなかった。
けれど、納得はしていた。まだまだ未熟だと、自分で思っていたのだから。

『では、ええと。今から配布するコピーを回して下さい』

それはアタシにも回ってきた。こういうものだ、と理解させるため。
そこにはどのようなアイドルを募集しているか、の説明があった。

やはり、プロダクションごとに求めるアイドルは違ってくる。

理知的な雰囲気のアイドルを求めたり、活発なアイドルを求めたり。
所属後の活動内容も、プロダクションごとに違いがある、ということを知った。

このオーディションのときには、このような服装。
ボーカルオーディションのときは、このような曲が望ましい。

ええと…なんて言えばいいの。ああ、そう。コツ、みたいなものが載ってた。

こういうところは、養成所ならではの利点だと、アタシは喜んだ。
そして、アタシにもその番が早く回ってこないかと思った。

『以上で説明を終わります。それまでに、体調等々、整えておくように』

はい。異口同音にそう答える。
参加するわけでもないのに、アタシもそう答えた。
…だって、楽しみだったのよ。練習の成果を出せるチャンスが、目の前にあるのだから。

そしてアタシも、それに加わることを1つの目標にしていた。



オーディション当日。

その日は、雲ひとつない土曜日の朝だった。
決められた時間に養成所に集まって、準備をしていたわ。
みな、見たこともないくらいきれいな衣装をきて、メイクをして。

アタシと、それから入ってきた後輩の数人は、残ってレッスン。
いつも通り集中してこなしたし、やりきった開放感もあった。
でも…頭の片隅で、やはりオーディションが気になった。

トレーナーさんはみなに付き添うことなく残っていたの。
付き添いで一緒に行くのは、養成所の副代表の人だったから。
だから、アタシたちは独り占めするかのように、レッスンを見てもらえた。

『麗奈ちゃん、すごく上達も早いし、熱心だし、とても感心するよ』

トレーナーさんにそう言ってもらえて、アタシは認められた気がした。
ありがとうございます。そう返すと、さらに思わぬ提案があった。

『よかったら、レッスンのない日も、空いている部屋を使ったらいい』

『私から話しておくから。大部屋ばかりで、みな誰も使わないから』

『君みたいに熱心な子がいると、私もやりがいがあるよ』

アタシはその提案に一も二もなく飛びついた。
ありがとうございます。お願いします。嬉しいです。

そのトレーナーさんの言葉の意味は、すぐにわかることになった。



オーディションの合格発表の日。

合否通知は養成所にまとめて送られてきていた。
レッスンを終えた後に、その日レッスンのない人も訪れていた。

送られてきたのは封筒に入った名前の記載されたリスト。
誰か、合格者はいるのだろうか。これだけ受けたんだもの。きっと。

中に入っているリストをざっと流し読みしているようだった。
その様子をみて…アタシは、なんとなくだけど、気付いてしまった。

『今回のオーディションの結果…合格者は、ありませんでした』

訪れる沈黙。
誰も彼も声を発さない。
やはり、みな、悔しいんだろう。

悔しいから、だから、声を―――――。

………。

なんだろう。

なんだか、おかしい。
周りをみても、誰の表情も変わらない。

ふうん、そう。

そんな表情をしていた。
まるで、それを知っていたかのような。
そして、アタシは愕然として…彼女らがわからなくなった。

だって…誰ひとり、結果を悔しがりもしないのだから。



『では、次回のオーディションの予定が立てば通知します…以上』

その言葉と共に一斉にみなが腰を上げる。
ぞろぞろと出口だけを目指して歩き出す。

どうして?

なぜ、悔しがらないの。
悔しくないのだろうか。日々あれだけ頑張って。
どうして、そんな平然とした表情をしていられるの?

その努力が…報われなかったのだというのに。

アタシだったら、泣いて悔しがるかもしれない。
さらにレッスンに熱を入れると思う。
それなのに…それなのに。

「…すみません、今日もよろしくお願いします」

このわだかまりを解消しようと、トレーナーさんにそう伝えた。
トレーナーさんは、こうなることを知っていて、アタシに提案したと気付いた。

相変わらず、素晴らしい指導力を持って迎えてくれる。
一挙一動を見られているよう…いいえ、本当に見てくれている。
だからこそ、一瞬足りとも気が抜けない、いいレッスンができている。

そうして、アタシは開いた時間をレッスンに費やしていった。

両親も、その頃にはさらに応援してくれるようになっていた。
レッスン用のジャージがくたびれたら、すぐに買ってくれたりした。
そのおかげで、アタシは何の問題もなく、レッスンにうちこむことができた。

…問題があるとすれば、ここからの…アタシの心だったのかもしれない。



そこから月日が経って…季節もまた、変わろうとしていた。

『今回のオーディションの概要を説明します』

今度はアタシも参加することになったの。
ようやく、アタシの魅力を伝えるチャンスがやってきた。
ここで決めて、アイドルとしてデビューすることが出来たら…いいえ、する。

一言一句聞き逃すことのないよう、真剣に耳を傾けた。

求めているアイドルは、今回はこのようになっているんだ。
山形はプロダクションが少ないから、前回のプロダクション名も並んでいた。

…そこで、アタシは、思うことがあった。

アタシはアタシを貫き通す。
包み隠さず、アタシは自分の魅力を知ってほしい。
指定された服、歌…それではなく、自分の好きな服、歌で臨みたい、って。

思う通りにやろうって決めた。だから、アタシは。

レッスンを終えて、夜。家に帰って、両親に伝えた。
はじめて、オーディションを受けることになった、って。

とても喜んで、アタシを応援してくれた。
頑張って。あれだけレッスンしてたんだ。きっと受かるよ。
じゃあ、今度の休みに、服でも買いに行こう。遠慮しなくていいから。

うん。ありがとう。このアタシよ。絶対、合格してみせるわよ。
素直に、自信を持ってそう答えることができる自分に気付いて、嬉しくなった。

…もう、あのときとは違う。そう、思っていたはずなのに。



2度目のオーディション当日。

と言っても、1回目は受けていないけど。
朝早く起きて、シャワーを浴びて。うん、いい感じ。

おろしたての、アタシにふさわしい服を着て。

少しだけど、せっかくだからとメイクをしてもらった。
ああ、とっても可愛らしい。そう言って笑ってくれた。

行ってくる。小声で伝えて、家を出た。

靴も服も、何もかもが新しい。
まだアタシの足に馴染んでいない靴も、心地よかった。
1歩1歩を踏みしめる力が少し強くなって、緊張していることを実感したわ。

いつものように顔を出し、必要のない荷物だけ、養成所に降ろしてきた。
オーディションが終わっても、戻ればレッスンをするのだから。

今日も、あの日のように、みなは綺麗な格好をしていた。
その中で、アタシの格好は少し浮いていたと思う。

黒いドレスだったり、そういう落ち着いた格好の中だったから。
けれど…アタシはこの格好が、普段のアタシなのだから。
恥じることもなかったし、むしろ、胸を張れたわ。

下に停めてあった2台のワゴン車の片方に乗り込み、景色を眺めた。

いつもと変わらない風景。これが…もう少しで、変わるのだろうか。
広告に掲載されている、煌めくアイドルの中に…アタシが。
もしかしたら、という期待が、アタシの中で渦巻いて。

そして、忘れもしない、あのオーディションがはじまった。



『では、オーディションをはじめさせていただきます』

その声と共に、1人目の候補生が隣の小部屋に移る。
壁は厚いようで、候補生の応対は一言も漏れることはなかった。
ボーカルの審査もするようだから、そのせいで壁が厚かったのかもしれない。

待機室…そこには、何十人もの候補生がいた。
鏡に顔を合わせて、様々な角度から自分を見つめていた。

人が見れば、何をしているのか、と思うかもしれない。

けれど、アタシたちにとっては、それはとても重要なこと。
ほんの少しでも、選考員の記憶に残りたい。
その心が出ているのだから。

次々と名前が呼ばれて、入退室を繰り返していく。
ちらりと退室した候補生をみると、涙を流している人もいた。
ああ、きっと…思うようにアピールすることができなかったんでしょう。

そう…これが、普通の反応なのよ。
うちの候補生の人たちは…携帯をいじってたりしてた。
そこには選考員が居ないのだから。やりたい放題とも言える状況で。

もう、だんだん、それにも慣れてきていた。
その反応を見て、アタシはそれを反面教師にしていた。

『それでは、次の方。小関麗奈さん…お願いします』

そして、ついに。

アタシの番が、やってきた。



絶句。

入ってすぐの選考員の反応はそれだった。
正直、なんとなく予想はしていた。けど、これがアタシ。

どうして、アイドルに?

―――このアタシ、小関麗奈を、認めさせるために。
―――普通は嫌だから。特別な存在に憧れて。

そう答えたら、くすくすと…嘲笑がとんできた。
アタシは何か、笑われるようなことを言った?

そして、アタシの心境を汲み取ったかのように、こう言った。

『ええと…普通は、このような事は言わない…言うことがないんですが』

『まず、服装。オーディション向きではありません』

『その大量の装飾品…アクセサリーも、そうですが』

『そして、言葉遣い…それらも、きちんとしたものがないと』

『あなたには…なんと言うか、最低限、必要なものがありません』

『…もう、行っていただいて結構です。ありがとうございました』

「え…」

すぐに退室を促されたの。
選考員の1人は次の候補生を呼びに出て行ったわ。
そんな、たったこれだけで。そう思って、選考員に向き直った。

『ありがとうございました』

…有無を言わせない、強い拒絶と共に…アタシのオーディションは、幕を閉じた。



数ヶ月…時間を無駄にすることなく、積み上げてきたものがあった。

面接を終えてからの2次選考…つまり、ボーカル、ダンスの審査。
それらを前にして…アタシは、半分も実力を出せなかった。
歌詞を忘れ、ダンスの振り付けすらも忘れて。

でも…できるかぎりのことはやったつもりだったけれど。
何度も何度も、必死になって練習したものは、どこかへ行ってしまった。

出てきた先輩の顔は…なんだか、晴れやかな顔だった。
待機室にいる間も、候補生の友達と嬉しそうに話していた。
どうやら…とても好印象で、もしかしたら…そういうことらしい。

どうして?あの先輩は…確か、コピーに沿って話していたはず。
向かう車の中でも、コピーをみながら定型句を反復してた。

アタシは包み隠さず全てを話したわ。
なのに、なぜ、アタシが嘲笑されて、先輩が?
そんな顔をしているのは、アタシのはずじゃ、なかったの?

なのに…アタシは、3分ほどで、数ヶ月の時間を失った。
あまり熱も入れず、適当に練習をしていた先輩が結果を残した。

目眩がした。

待機室の鏡の中のアタシは、ずっとアタシの瞳をみていた。
その表情は、とてもみれたものじゃなかった。
耳鳴りが起こって、気分が優れない。

アタシの希望は、絶望に取って代わられていった。



その後のことは、よく覚えていないのよ。

気付いたら、車に揺られていた。
ガラス越しに見えた景色に、色はついていなかった。
アタシは…何か、まちがえた?正直に想いを伝えることは、まちがっている?

喉はからからに乾いていた。

ゆっくりと、アタシの心に罪悪感が芽生えていた。
アタシを指導してくれたトレーナーさん。
全力で応援してくれた両親に。

…なんて言えばいいのよ。
本当に…なんて、言えば。

悩んでいるうちにも景色はどんどん変わってゆく。
すぐに見慣れた風景が視界に入る。

階段を登る足が、とても重かった。
朝には、楽に踏み出していた、力強い1歩が。
今にもバランスを崩して、落ちていきそうなほどに弱くなって。

『では、結果は2週間後に。以上で解散です』

その言葉を聞いた途端、全身から力が抜けた。
やはり、全員、ぞろぞろと出口へ向かう。

『ああ、麗奈ちゃん、お疲れさま。この後―――』

「…すみません、失礼、します…」

トレーナーさんと目を合わせることも出来なかった。
心配そうにアタシを見つめていることがわかる。
それでも…振り向くことができなかった。

…アタシは、なりたくなかったアタシに、なっていた。



上手くいきませんでした。

あれだけレッスンしてもらったのに、すみません。
でも、きっと、次は合格してみせますから、応援して下さい。

…それだけの事が、言えなかった。

その理由は…分かっていた。
選考員の、あの言葉だった。

『―――あなたには…なんと言うか、最低限、必要なものがありません』

ねえ、ちひろ。どういうことか、わかる?
あの日のアタシは、どこまでも自分らしい姿で行った。
そして、嘘偽りなく、自分の夢を、自分の想いを、全てさらけ出した。

確かに態度は悪かったかもしれない。
言葉遣いだって、直そうと思えば、できたかもしれない。

そこは反省している部分…けれど。

アタシの夢…世界中に、アタシのことを…その夢を。
それに、アタシの服装だって、そう。

これだけは、アタシらしさとして譲れない部分。
それらが…否定されてしまったのよ。

ああ、そんな顔しないで。
別にちひろを責めているわけじゃないの。
ただ…どういう意味か、それを伝えたかっただけなのよ。

…アタシの全てを、否定されてしまった、ということを。



ただいま。

聞こえるか聞こえないかの小声で家に戻った。
あら、おかえり。オーディションは…

すぐに声が止まってた。
アタシの表情を見たからだと思う。

それから…すぐに明るい声で、言った。
すぐに、夕ごはんを作るから。何がいいかしら。
ああ、今日は、麗奈の好きなものにしようかしら。待ってて。

アタシの事を想ってのその声が、胸に響いた。

アタシは何をやってんのよ。
あれだけ応援してくれた両親でしょう。
なのに、背を向けるなんて。何をしているのよ。

そう思っても…リビングへ足が向かなかった。

申し訳なくて…違う。これは、言い訳。
怖くて、伝えることができなかった。
がっかりした顔をみたくなかった。

結局、自分が傷つきたくなかったからよ。

情けないと思った。
こんな無様な姿を晒していることが。
そして、それを受け入れようとしてるアタシがいたことが。

…もう、アタシにプライドは、微かにしか残ってはいなかった。



ただいま。

父親の声が玄関に響いていた。
アタシは部屋で、ベッドの中に身体を埋めていた。
…このまま、どこまでも沈んでいくことができたなら、いいのに。

麗奈は…その声が、ぴたりと止まる。
きっと、アイコンタクトかなにかで、伝わったのよ。

景色の変わらない、暗い部屋の中で、ただ、呼吸しているだけ。
それをどのくらい繰り返したあとだったか…声が聞こえた。

麗奈。ごはんができたから、食べましょう。

確かに、お腹がすいていた。
緊張もしていたし、余計にだったと思う。
いつまでも、こんな姿はしていられない。きっと、聞かれる。

だから…そのときに、素直に、謝ることにしよう。

ごめんなさい。結果が出せなかった。
それだけは、きちんと伝えないといけないのだから。

うん、今行く。

また、小声で返事をして、部屋を出た。
リビングにはとてもいい香りと、にぎやかさがあった。
両親に目線を合わせることができず、すぐ下の箸に視線を落ち着ける。

アタシの予想は、当たることはなかった。



うん、これ、美味しいよ。

ええ。麗奈の好きなものばかり、作ったんだから。
そっか。よかったな、麗奈。疲れてるだろうし、早く寝るといい。

両親はアタシを気遣ってくれるばかりで、今日のことを聞こうとしない。

どうして?
なんとなくわかっているから?
アタシは…その疑問を、留めておくことができなかった。

「ねえ…どうして、聞かないの。今日のこと…気になってる、でしょ」

「そう。アタシ…失敗したの。なんにも、できなかった。なんにも」

「なのに…どうして、怒らないの。アタシを責めないの」

「いっぱい、お金も出してもらった。それなのに、何も結果が出せなかった」

涙が止まらなかった。留めておくこともできなかった。
事実を口に出す度に、顔が熱くなる。心拍数があがっていく。
目元に涙がたまって、ゆっくりと頬に流れて、熱を冷やしていった。

「むだに、しちゃって…っ…アタシ、その…ごめんなさ―――」

『………』





『なんで、麗奈が謝るんだ?』



「…え?」

「だって、それは…アタシ、なにも、できなくて」

『麗奈は、全力で、やりたいことをやったんだろう?』

「…うん」

『ほら。それなら、父さんが、麗奈を怒るところはないよ』

「それでも―――」

『誰だって、失敗くらいするさ。父さんだって、そうだ』

『今、麗奈が悔しいと思っているなら…それだけで、価値があるんじゃないかな』

『だから…絶対に、責めたりしないよ』

ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい。

アタシはひたすら、謝り続けた。
もういいよ、大丈夫だから。気にしないで。

そう言われても、謝ることをやめられなかった。

アタシはこれだけ、真剣に応援してくれる両親に、背を向けようとしていた。
それが、アタシはアタシの中で、許すことができなくて。
どうしようもなくて…ただ、謝り続けた。

…笑って食べる頃には、冷えていたけれど。
それに、おかずもなんだか、少しかたくなっていたけれど。
普通の家庭の、普通の夕食だけど…アタシには、最高の夕食だった。

でも…これだけでは、全ては上手く収まらなかった。



トレーナーさんにも、素直に謝って、伝えることができた。

すみません。アタシ…上手くやることが、できませんでした。
でも、次はきっと、合格してみせますから、応援して下さい。

『うん、一緒に頑張ろう』

トレーナーさんも、両親と同じように笑ってくれた。
ああ、アタシは、本当に人に恵まれていると、心から思った。

また、レッスンにも熱が戻った。
身体を動かすことが楽しいと感じられたわ。

楽しい日々はすぐに過ぎていくものよね。
この頃には、十分に実力を認められるようになった。

『これなら…他の候補生とも、対等に戦えるかもしれない』

そう言ってくれたトレーナーさんの顔は、なんだか誇らしげで。
嬉しそうな顔をみて、アタシも、少しだけ笑った。

そして、また、やってきたの。




『…それでは、今回のオーディションについて、説明します』



説明がなくとも、もう、既に理解していた。

それまでに、極限まで技術を磨く。
家に帰っても、ダンスレッスンのDVDをみていた。

レッスン後の開放感が尋常じゃなかった。
家に帰って食べる夕食も、格別の味。

今回こそ、きっと、本当の全力を出してみせる。

…ああ、でも。
以前のオーディションを思い出す。
言動、態度、服装。それを…否定されてしまったんだった。

ふと、ベッドに置かれているオーディション資料を見る。

今回、求められているのは…大人しい印象のアイドル。
確か…以前も、同じテーマで募集をしていたわね。

そして、すぐ隣に置かれた、定型句の詰まったコピー。
これで先輩は、なかなかいいところまで行った。
結局…また、合格者は出ていなかったけど。

でも、これを参考にしてみるのも、いいかもしれない。

そう…少し、参考にするだけ。
アタシはアタシ。レイナサマに変わりない。
いいところだけを吸収したらいいのよ。それだけだから。

…その想いが、アタシの全てを塗り替えていった。



最初は定型句だった。

どうして、アイドルを目指しているか。
小さな頃から、憧れていたから…そう書いてあった。

なんだか、普通。でも、間違いじゃない。
アピールポイント、自己紹介のコツなどを学んだ。

次に服装。

落ち着いた服装ってなんだろう。
疑問を想定しているかのように、雑誌の切抜きが貼られていた。

なるほど。こういう服なら、いくつかあった。
レイナサマには少し地味すぎる…そう思ってたけど。

そして選曲。

ずらりと、少し大人びた、上品な曲が並んでいた。
ええと…ああ、これなら知ってる。歌えるはず。
こんなのが、選考員の好みだっていうの?

ダンスに関しては新しく覚えよう。

とりあえず、なかなかいい情報があるじゃない。
…様子をみて、いくつか使ってもいいかもしれない。
でも…アタシは、頭の片隅では、気付いていたことがあった。

…そのアタシは、本当のアタシじゃない、ってことを。



また訪れる、オーディション当日。

少し大人びたような、そんな服を着て。
バッグの中には、いつものアタシの服とジャージを入れて。
そうよ。いざとなったら、着替えればいいじゃない。様子をみて、だから。

アタシは自分にそう言い聞かせてた。

今回は養成所のみなの中でも浮くことはなかった。
自然に溶け込めた感じがして、あのコピーに感謝した。
2度目だったから、もう、緊張することもほぼ無かった。

『それでは、オーディションをはじめさせていただきます』

きっと、今度こそ。
アタシの順番は1番最後だった。
時間には余裕がある。バッグをちらりと見た。

…着替えるべきだろうか。以前の、アタシのあの姿に。

まだ…うん。まだ、いい。
時間はある。少し考えよう。

そうしている間にも、入退室が繰り返される。
気のせいか、以前よりも泣いている人が多かった。

そして、思案を繰り返しているうちに、アタシの番がきた。
ああ、仕方ない。だから、今回は、この格好で臨むしかない。

…そのときには既に、アタシは、自分を見失っていた。



部屋に入ると、ああ言っていたけど、やはり緊張したわ。

数人の視線が、全てアタシに注がれるのだから。
誰もがアタシの一挙一動を観察している。そう思った。

『では、面接をはじめます。ええと、まずは、どうしてアイドルに?』

「それは―――アタシを」

ここから先が言えなかった。
出そうとしても、声が出なかった。
あのときの事を思い出してしまったから。

絶句、嘲笑。強い拒絶の声を。
だから…アタシは。

「…小さな頃から、アイドルに憧れていたから、です」

『うん、うん』

『ああ、すみません。質問を続けます―――――』

定型句通りの質問に、そのまま定型句で返した。
きちんと覚えていたから、何ら迷うこと無く答えられた。

そう…演技力。アタシがもともと、持っていたものを使って。
それが、さもアタシ自身の答えであるかのように、自分を塗り替えた。
アタシのそれは…プロの選考員を前にしても、通用するレベルのものだった。

『…ああ、わかりました。ありがとうございます。では、2次選考、楽しみにしています』



「失礼しました」

退室する瞬間、背中越しに声が聞こえた。

『ああ、今の、小関さん?なんだか、いいと思います』

『ええ…2次が楽しみです』

今の面接…好感触だった?
選考員に、印象を与えることができた?

しかも、楽しみだ…って。
顔に安堵と共に、喜びの笑顔が浮かんだわ。

前とは違う、なにもかもが。

今回…もし、上手くやることが出来たら。
もしかしたら。アタシも、やっと、アイドルに?

嬉しくて、再び戻った待機室で、笑顔が絶えなかった。
テンションがあがってしまって、どうしようもなかったの。

アタシは最後だったから、その後すぐに選考員が出てきた。

では、別室に移動して、2次審査の準備をはじめてください。
本当に何もかもが、今回は違う。アタシは気付いていなかったのよ。

…アタシの全てを隠したのだから、何もかもが違うのは、当然だということに。



書き溜めの投下は以上になります。
またここからゆっくりと書いていきます。すみません。



>>55 修正です。

☓ テンションがあがってしまって、どうしようもなかったの。
○ テンションがあがってしまって、どうしようもなかったのよ。

としてお読み下さい。失礼しました。



すみません。忘れていました。
本日の投下分は以上です。



時間ができたので、再度少しだけ書き溜めを投下していきます。



>>61 さん

モバP「うさみんせいじんのそうぞうりょく」
の事であれば、その通りです。ありがとうございます。



そして2次審査がはじまった。

まずはダンスからだったと思う。
自分の持ち込んだ音楽と共に、ダンスをはじめていく。
1次で結果が出なかった人のそれは、あまりやる気を感じられなかった。

全員のをひと通り終えて、すぐにボーカルに移った。
おとなしめの、けれど難易度の高い曲を歌い終えることができた。

でも…あまり、上手くいかなかったと自覚していた。

選考員も、途中で何度か首をひねっているのを見ていたから。
そして、自分でも、起伏に注意して歌うことができなかったと思うから。

演技力は、今回にあたっては問われなかった。
それがあれば、いい成績を残せたかもしれないと、少し残念だった。

前よりずっと進歩してる。アタシはそう信じきっていた。
これも、このコピーのおかげよ。いいじゃない。

今になっては、その答えは出てる。
あれは進歩なんかじゃなかったんだ、って。
当たり前でしょ。あんなのは、レイナサマじゃないんだから。

けれど…このおかげで、アタシは前に進めたと思ってる。



『今回のオーディションの合格者も…ありませんでした』

相変わらずの成績。

『では、解散とします…あ、麗奈ちゃん、ちょっと…いい?』

「…はい?」

どうしたんだろう。

『麗奈ちゃん、かなりいいところまで行ったみたいよ』

『ほら、ここの補足事項…最終選考に残ってたみたい』

嘘でしょう。
そんなところまで?
合格していないのに、すごく嬉しかった。

『ああ、それだけ。また、頑張って』

「はい!」

もっともっと頑張ろう。
もう、夢はすぐそこなんだから。

手が届く。あのアイドルの候補生の人のように。
レイナサマとして、迎え入れられる日が、すぐそこに。

光に影が差すように、アタシは、自分らしさを失っていくのよ。



あのコピーだけじゃ足りない。

色々な人の、色々ないいところを吸収しよう。
レッスンの合間、家でいる時間…雑誌を読みふけった。

アイドルのインタビュー記事。
最新の流行ファッションだったりもした。

ああ、こんな髪型が流行っているのか。
こういうファッションなら無難で、万人受けする。
このアイドルの対応、素晴らしいと思う。真似をしてみよう。

アタシは疑問を持つこと無く、それらの全てをコピーしていった。
どこまでもどこまでも。いいところ、いいところ。
こんなアイドルになりたい。

そう思っていたのが、この人自身になりたいという感情に変わっていった。

季節はさらに巡って、幾度と無くオーディションを繰り返して。
落選して、落選して。個人でもオーディションを受けて。
それでも届く通知は不合格。けれど、アタシは。

補足事項に書かれた、いいところまで行ったという記載をみて喜んだ。

ああ、まだ、足りない。もっといいところを。
落選。落選。不合格。またのご応募をお待ちしております。
そして…アタシは、また、気付くことになった。みなの表情の真実に。

…アタシも、いつしか、不合格を悔しいと…思わなくなっていたことに。



それに、ふと気付いたのよ。

何度も受けて、落選して。
そんな日々…結果に、慣れてきているって。
だから、最初の悔しさはどこかへ行ってしまったのだと。

養成所のみなのあの態度。
きっと…最初はアタシと同じようだったのよ。
先輩にも先輩がいて…その人には、もう、やる気がなくて。

それを悔しいと思って、練習して、そして―――。

今の先輩も、いつしか、悔しいと思わなくなって。
そこに、たまたま、アタシの番が来たというだけ。

…アタシも、同じ道を辿っていたということに。

それに気付いたとき…アタシは、焦った。
まずい。このままじゃ、ずっと、アタシの夢は叶わない。
感情が欠落していくのがわかった。その前に早く合格してしまわないと。

もう…そこに、自信に満ちたアタシはいなかった。





不合格。

不合格。

不合格。

その三文字が、アタシの感情を揺さぶっていた。
早くしないと。早く、早く。でないと、アタシがアタシでなくなる。

レッスンにもさらに身が入った。
休憩も入れずに、ずっと身体を動かし続けた。

トレーナーさんもアタシを心配しているようだった。
だって、今までと明らかに、目の色が違っているのだから。

『…麗奈ちゃん、そろそろ、休憩を入れよう』

「いえ…まだ、できます。お願いします」

そんな日々をずっと、ずっと、繰り返した。
ただひたすらに、有名なアイドルをコピーして。
誰にも負けないよう、前だけを見て技術を磨き続けた。

そして。

『…麗奈ちゃん。少し、話があるんだ』

この生活に、ひびを入れるできごとが起こることになった。



「…はい」

『麗奈ちゃん…レッスンに熱心で、とてもいい事だと思う』

『………』

『けど…』

『それで…楽しいかな』

「え?」

「…た、楽しいですよ。上達していくのが、わかりますから」

笑顔を作った。何度も練習した、アイドルのように。
体力は限界に近くて、そんな余裕をかろうじて絞り出した。

『私には…本当に楽しそうな顔には見えない』

『それに、その話し方…声音、声の抑揚1つとっても…君とは思えない』

『まるで―――そう、今、デビューしている…あのアイドルのようだ』

『特徴的な話し方で、すぐに分かる…彼女は確かに人気だと思うよ』

『もう…私には、君の顔がわからないんだ』

『もともと、どんな顔をして笑って。どんな事が好きで』

『その麗奈ちゃんが…私には、もう、見えない』





『麗奈ちゃん…君は、誰になってしまったのかな』



「………」

『君は、人とは桁外れの演技力を持ってた…それは私も、最初から気付いていた』

『でも、オーディションに落選するごとに、君は変わっていった』

『ある日は、街角のモデルのよう。ある日は、世界的なアイドルのような雰囲気』

『表情1つ、ささいな仕草まで…まるで、その人自身であるかのように』

「それは―――」

『確かに、いいことだと思う。いいところを吸収して、取り入れる』

『容姿だって、アイドルへの熱意だって、変わっていないとは思う』

『けれど…今の君は、完全な別人、だよ』

全て、見抜かれていた。
アタシの1番、すぐ隣にいてくれたのだから。
毎日、アタシの成長を見守ってくれていた人なのだから。

「………し」

「失礼、します…」

そして、また。

アタシは、現実に背を向けた。



家に戻って、また、部屋の鍵をかけた。

クローゼットを探した。ない。
タンスの中を探しても、ない。

どこへ行ってしまったんだろう。

アタシの、アタシらしさである、あの服は。
はじめてのオーディションの為に、買ってもらったあの服は。

ない、ない、ない。どこにあるの。
そうよ。アタシは自分で、言っていたはず。
アタシは自分自身を貫き通すって…言っていたのに。

どうして着なくなってしまったんだっけ。

いつしか、アタシはアタシじゃなくなっていた。
批判が怖くて、拒絶が怖くて。

何から何まで、自分に色を重ねて、塗り替えて。
アタシは、本当のアタシは、もともと何が好きだったんだっけ。

何のためにアイドルになろうとしていたんだっけ。

いつしか、アイドルになる事を目標にしていた。
アイドルになって、やりたいことがあったはずなのに。

なのに…アタシのそれは、どこへ行ってしまったの。
もう、部屋のどこを探しても、それは見つからなかった。

ようやく、あの日と同じアクセサリーの1つを見つけて、もう…涙を抑えきれなかった。



アタシは何をしていたんだろう。

涙を止めることができなかった。
塗装が落ちて、みすぼらしいブレスレット。
いつから、これを、使わなくなってしまったんだっけ。

大切なものだったのに。

これを着けて、あの服を着て。
アタシは合格を掴み取るはずだったのに。
アタシはアタシらしく、全てを手に入れるはずだったのに。

小さなブレスレットを、胸いっぱいに抱きしめた。

顔をまくらに押し付けて、声が漏れないようにと我慢して。
偽って合格しても、何の意味もないじゃない。

なのに、それなのに。

アタシは…本当に、何をしているのよ。
楽な方へ流されていって、みなと同じ道を辿って。

がちゃり、と玄関から音がする。
すぐに一言二言、話し合っている声がする。

なんだか様子がおかしい。
アタシの声は漏れていないはず、なら?

部屋のドアがノックされて、目をこすって、ドアを開ける。

そして、また、だった。





『麗奈…大事な話があるんだ』



『父さん…東京に、転勤することになった』

「………」

『それで、麗奈もよかったら、みなで東京に移らないか』

「…いい、よ」

即答した。

両親は納得している。今まで、ずっと、アタシの為に頑張ってくれてた。
きっと、出世をしたんだろう。それは、喜ばしいこと。
今度は、アタシが応援してあげないと。

そう思っていたから、アタシは賛成した。

いつも無理を言って困らせてた。イタズラだってした。
それでも、笑って許してくれて、アイドルにも賛成してくれた。

今…アタシは、こうなってしまったけど。

なんだか、含んだような表情をしていた。
けれど…それもすぐに、笑顔に変わって。

『…ありがとう』

「うん」

微かに笑って、そう言えた。



アタシは12歳になって…東京にきて、半年が過ぎていた。

新しい学校でも上手くやれていた。
イタズラへの熱意が、なんだか再燃してた。

今でも、地元の友達と連絡はとってる。
このレイナサマの人望はすごいんだから。

東京はとても広い。

それに、なんだか物の値段が高い。
そして…キャッチが多かった。

『ああ、君、可愛いな。モデルとか、興味ない?』

そんな声を日々かけられるのよ。

元アイドル候補生。
大抵の服は難なく着こなせる。
学校でも、そこそこ注目を浴びている。

けれど…その事実を思い出す度に、目を背けたわ。
その理由は、わかっている。夢を追いかけたくなるからよ。

あの頃抱いていた夢の答えを、また、取り戻したくなるから。

街にはアイドルの広告、大画面でのPVの放送がされている。
それをみる度に、アタシは苦しくなったの。
そんな日々の中のことだった。

アタシに、転機が訪れることになる。



その日は家族で買い物に出かけていた。

服を買ってもらえることになって、アタシは戸惑った。
アタシは…どんな服が好きなんだっけ。

以前のように、これはレイナサマにふさわしい、と思えなかった。
もう…そのように考えることも、その頃はやめていたかも。

「ねえ。アタシって…どんな服が好きだったっけ」

『………』

『そうだな…麗奈は、やっぱりこういうのだ』

『そうね。最初は派手かな、って思ってたけど、よく似合う』

『それに…ああ、こういうのもそうだな。麗奈が好きそうだ』

『うん、うん』

持ってきてくれるのは、どこまでも派手な服ばかり。
靴は光ってるし、服はラメが入った、輝きに満ちたものばかり。

『でも…いつからか、何か大人っぽい服装になった』

『それも、本当によく似合ってると思う』

「…そっか」

結局、服を買うことはなかったわ。
でも…おかげで、昔を思い出した。

あの頃は、滅茶苦茶なことばかりやっていた。
けれど、いつからか、アタシはアタシでなくなって。
家に帰る途中も、その歩幅は少しだけ、せまかった。

家に戻ると…一通の手紙が届いていた。



『これ…麗奈に来てるみたい』

「アタシに?…誰だろう」

地元の友達かな。でも、アドレスは交換してる。
よくメールもしてるし、わざわざ、手紙?
あれ。前の住所宛てだ。いったい誰が…

………。

あの養成所からだった。
今さら、どうして?もう、半年以上経つのに。
普通、1年間は以前の住所に送付されたものは転送される。

つまり…まだ、あそこに住んでいると思っている?

そして、何かアタシに伝えないといけないことがある?

わけがわからなくて、部屋に戻って封を開けたわ。

そこには…懐かしい名前が記載されていた。

そう、あのときお世話になった、トレーナーさんの名前が。

『そろそろ、服を整理しようと思うんだけど』

『麗奈の昔の服…どうする?』

「ええと…ごめん、あとで確認する」

適当にそう伝えて、アタシは手紙を読み始めた。



麗奈ちゃんへ

もう、ここを辞めて半年経つけれど、どうしていますか。
あの日…私が言ったことを、気にしているのでしょうか。

だとしたら…君の未来を奪ってしまって、本当に、ごめんなさい。

謝っても、足りないくらいでしょう。
もしかしたら、私を恨んでいるかもしれません。

けれど…気になってしまったんです。
いつもの麗奈ちゃんが、だんだんと変わってゆくことが。
1度、いつもオーディションの付き添いの人から、聞いたことがありました。

そう。

麗奈ちゃんが、はじめてのオーディションで、言っていたことを。
それに私は…とても、希望を抱きました。

みな、はじめてのオーディションで、浮かないように。
人と違うことはしないように。合格するように。
誰もが変わらないでいようとするのに。

なのに…麗奈ちゃんだけは、自らを隠さないやり方で臨んでいたことに。



レッスンにも夢中で、1番上達が早かったと思います。

君の日々の成長を見るのが、いつしか私の楽しみになっていました。
トレーナーになる前は、アイドルを目指していました。
けれど…それが叶うことはありませんでした。

だから、こうして応援する側に回りました。
そして、麗奈ちゃんに会って、自分を重ねていた気がします。

ああ、そして。聞いていたこと、ですが。
君が、選考員の人に語っていた、自らの夢。

あの人たちは、君の正直な想いを、補足事項で追求していました。
私には…とても、その事を許すことができませんでした。

だから、なおさら、君を応援してあげたくなって。
でも…ゆっくりと、君は変わっていってしまって。

そして…私が、その最後の後押しをしてしまったかと思うと、申し訳なくて。

私は…あのときの、1番はじめの麗奈ちゃんが、大好きでした。
決して揺らがない意思を持って、自分自身を認めさせようとする、その姿が。

…いつか、麗奈ちゃんが私に言ってくれた、あの夢のことも。





小関麗奈のせかいせいふくという、夢が。



もし、まだ、アイドルを目指しているなら。

余計なお世話かもしれません。
けれど…自分らしく、臨んでほしいと思っています。

私もみなと同じように流されて、悔いました。
もう…今となっては、永劫叶わぬ夢になってしまいましたが。

だから。

この手紙を、読んでいないかもしれないけれど。
それだけは、伝えておきたいと思いました。

どこまでも自分らしい姿の麗奈ちゃんを、私は応援しています。

ごめんなさい。

                      

                    そして、さようなら。



……………。

…まったく、なんて手紙を、送ってくるのよ。

ああ、もう…ダメ。手紙がにじんじゃうじゃない。

次に会ったら、必ず驚かせてやろうじゃないの。

おかげで、やっと、夢を思い出した。答えを見つけた。未来を見つけた。

すぐに、レイナサマの姿をテレビで見せて、驚かせてあげるから。



その為には、まず。



リビングに戻って、母親を探した。

そして…その手の中に、見覚えのあるものがあった。

『ええと、これも…ああ、懐かしい。麗奈、これは…』

「ちょ、ちょっと待って。それは絶対に捨てたらダメ!」

捨ててしまったと思っていた、あの服があった。
衣替えのときに、まとめてしまってくれていたらしい。

「あ、あった…あった」

『嬉しそうな反応で、よかった』

『麗奈、1回しか着てないんだもの』

「それは…うん、じゃなくて」

「…ちょっと、お願いがあるんだけど」

『ふふっ…なに?』

「あの頃のアタシの服、何もかも!全部、出してきて」

「お父さんお母さんには悪いけど…アタシ、やりたいのよ!」

「…やっぱり、諦められなかった」

「…アイドルになる、って…」

「この、アタシの夢が」

『………』

『ふふ…それでこそ、麗奈』

『じゃ、明日には、全部出しておくから』

「…ありがとう」

頬に伝わる涙とは裏腹に、アタシの表情は、嬉しさに満ちていた。



その日の夕食の席。

『ねえ。麗奈が、またアイドルを目指すんですって』

『本当?…それは、よかった!また、応援するからな!』

『ああ、養成所に行くなら、調べておくから』

「え?ああ、いいの。アタシはもう、大丈夫」

「今のこのアタシが通らないところは、見る目がないのよ」

『………』

『ふ、ふふ…あはは。ごめん。笑うつもりはなかったんだけど…嬉しくて』

『やっぱりさ。そっちの方が、ずっと麗奈らしくて、いい』

「…もう、当たり前でしょう」

「明日から…アタシは、やるわ」

「見てて。すぐに合格と言わせてみせる」

『ああ』

『楽しみにしてる』

もう、不安なんて、かけらもなかった。
あとは、前に進むだけ。

何も持っていなかったけれど、全てを手に入れた気がした。



その日から、アタシは東京のプロダクションを調べた。

上から順に所在地をリストにして、ノートにまとめた。
いくらボールペン代かかったと思う?信じられない。
東京は本当に、何もかもが揃ってると思ったわよ。

お金に関する事があるから、資料請求だけは、しておいた。
大事な情報はきちんとまとめて両親にみせていた。
でも、その他は1つも目を通さなかった。

もう、媚びるつもりはなかったからよ。

どこがどんなアイドルを募集していようと関係ない。
ただ、アタシが合格するか、しないか。それだけなんだから。

けれど…もう、半年。
ずいぶん経ってしまった。

だから、また、練習をはじめることにした。
自分の部屋だったり、リビングだったり。

ネットで探して見つけた、ダンスレッスンの動画をみて。
ひたすら叩きこんでもらった、ボーカルレッスンを思い出して。

身体も覚えていたのか、ゆっくりと、その記憶を取り戻していった。



そして、3ヶ月と少しが経った。

この頃には、全盛期と同じよう…それに近いくらいには、取り戻していた。

あと、もう3ヶ月でまた、アタシは1年を終える。
そしてようやく、13歳を迎えることになる。

できることなら、それまでにプロダクションに。

それも今日から。また、アタシは夢を描く。
何年も追い続けたんだもの。いまさら諦められるわけない。

ああ、そうじゃない。このレイナサマに不可能があるってのが許せないのよ。

履歴書を持った。
ブレスレットもあのときのまま。
ちょっと塗装はとれてるけど、これもいい思い出よ。

そして、1番アタシらしい服で、レイナサマは完成される。

少し小さくなってしまったけど、まだまだ着れる。
アタシには、これが最高に似合うのよ。

さあ、やってやろうじゃないの。
アタシの東京進出にふさわしい、1つ目のプロダクション。

…このレイナサマの土台となりなさい。



『え、えっと…小関麗奈、さん…』

腕に大量のアクセサリー。
服も靴も、何もかもが輝いてる。
このレイナサマにしか着こなせはしないの。

呼び出しの選考員も戸惑っているようだった。
周りの目もあったけど、そんなもの気にもしなかった。

むしろ、それすら心地いいと思った。

アタシはアタシで居続けるんだから。
人の上に立つものは、それぐらいの威厳が必要なのよ。

そして、その顔には不敵な笑みを携えて。
決して揺らがない意思を持って。

入室して、選考員全員の顔を見る。

また、絶句。
けれど、もう2度と怯まない。

『き、君は…どうして、アイドルに…』

「そんなもん、決まってるじゃない」





「このアタシ、小関麗奈…レイナサマを、世界中に認めさせるためよッ!」



今回の投稿は以上です。
ありがとうございました。

なんだかキャラクターが崩壊している気がして怖いです。
不正確なところなどがあれば指摘していただければ幸いです。



投稿を再開します。
本日中に完結する予定です。

コメントありがとうございます。



終わってから、選考員が何か言っていたようだった。

けど、もうレイナサマには関係ないのよ。
アタシの事はアタシで決めるんだから。

すぐにその場を後にして、晴れ晴れとした顔でそこを出た。

ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
今までのどの面接よりも楽しいと思えた。

あの絶句した表情。

思い出しただけで笑いそうになってしまう。
これよ。アタシは想ったことを素直に伝えた。
それで不合格なら、別にアタシは、後悔しない。

もう2度と、後悔するようなことだけはしないんだから。
落ちているのを確信していながらも、楽しくて仕方がなかった。

「ただいま!」

『オーディション、どうだった?』

「そ、それが…選考員、口開けて…ふ、ふふ…」

笑いをこらえるのに必死だった。
そんなアタシの姿をみても、責めはしなかった。

アタシは本当にやりたいことをやってるって、知っていたから。



学校も何もない休日に絞って、アタシはプロダクションに応募し続けた。

どこでも、何を言われようとアタシは揺らがなかった。
アタシを認めさせてやる、そう言い続けた。

…ま、でも、見る目がないプロダクション達で、不合格通知しか届かない。

…その、ちょっと…ちょっとだけ。悔し…あ、やっぱ、今のなし。
ああ、嘘。悔しかったわよ。何でアタシを理解できないのって。

どこを回っても変な目で見られる。
アタシから見れば、変なのは他の皆だと思うのよ。

アタシもそうだったけど、何もかも無難。
受け答えだって、全てが用意されていて、ただの着せ替え人形。
そこに入る顔とスタイル、性格がほんの少し違うだけの存在だっていうのに。

だから、逆に1人だけ目立てて楽しかった。
これだけは本心よ。間違いない。

悔しさもあったけど、本当に楽しい日々が続いた。
ま、不合格通知ばっかりだったけど…

それでも、東京のプロダクションの数にも、ついに限界が訪れた。



あと3件。

あと3件受けて、通らなければ、もう後が無い。
けど…アタシは諦めない。そう。まだあと3件も残ってるんだから。

とは言っても…やはり、少し心細かったかも。

あれだけあったらどこかに引っかかると希望を抱いてた。
それも上手く打ち砕かれたんだから。

でも、やってきたことに後悔はなかった。
アタシはアタシの想いを伝え続けて、それで不合格だったら、って。

別に楽観的だったわけじゃないのよ。

アタシは本気でそう思ってた。
いずれ、どんな手を使ってでもアイドルになろう、とは思ったけど。

いつも通り、最高に輝く服を着て。
いつも通り、最高のレイナサマがそこにいて。

もう、足によく馴染むようになった靴を履いて…行ってきますで外へ出た。



結果は想像通り、散々なものだったわよ。

2件目で追い出されそうになった。
最後まで言いたいことを言ってから帰ったけど。

ああ、これで終わり。

通知が届くのは2週間後。
けれど…なんとなく、わかっていた。

選考員のしらけたような態度。
質問もまともにしてくれなかった。

やっぱり…悔しいわよ。

アイドルは、自分らしさを出してはいけないのかな、って。
確かに、正直…アタシにも、分からないことはないのよ。

みなの憧れの象徴。輝く存在。希望そのもの。
だから…それは、それらしく振舞わないといけないのかも。
候補生のみなだって、きっとそれをわかった上での言動だったのかも。

オーディションを終えて、外へ出た。

そこからは嬉しそうな顔から、悲しそうな顔まで。
そんなアイドル候補生が次々と並んで、外へ出てきていた。

アタシもこのまま帰ろうか、そう思って歩き出していた。
とあるCDショップの前で、それを見つけた。
何人も立ち止まる候補生たち。

1枚のポスター。アイドルを募集しています。
ああ、どうせ、もう受けたプロダクションでしょう。
そう思ってみてみたけれど、聞いたこともない名前だった。

シンデレラガールズ・プロダクション、なんて。



ここから即興での投稿になります。



悲しい顔のアイドル候補生たちの表情に光が戻っていた。

ここを受けてみよう。今度、応募してみる。
そんな声があがっていって、アタシもその1人になったわ。

シンデレラガールズ・プロダクション?

このレイナサマにふさわしい名前じゃない。
立ち止まった先で手に入れた、最後の希望。

これを逃す手はない。まだ未来は終わっていないのだから。

家に帰って、すぐにそのプロダクションを調べた。
4月から営業開始…ということは、アタシが13歳?

ま、少し予定とはズレてしまうけれど…いいか。

もうオーディションは行われているらしい。
ふうん。なら、アタシも行くしかないじゃない。

明日、最後のオーディションに行ってくる。
夕食の席で両親にそう伝えた。

少し残念そうな顔をしてたけれど…納得してくれた。

最後まで、麗奈ならきっと受かるよ。そう言ってくれた。

…まったく、本当に…最高の両親よ。



その翌週、オーディションの当日。

立地のいい所にあったから、すぐに見つけた。
表にはオーディション会場、と書かれた看板があって。

入り口には何十人なんて、端正な顔立ちの集団がいた。
アタシはこの中から勝利を掴んで、アイドルになって、そして。

緊張していた。けれど、なんだか、わくわくしていた。

新設されたプロダクション。
業績も、何もかもが新しい。

もし…ここに加わることが出来たなら。
アタシと一緒に、誰かが…未来を歩んでくれるのかな。

深呼吸、深呼吸。

ふう。ああ、もう。
何度やっても、心拍数は下がらない。

………。

って、無理に下げなくていいのよ。
こうやって、強がって緊張しているのもアタシ。
言ってくれていたじゃない。自分らしく臨んで欲しいです、って。

なら、これでいい。

これがアタシ。

これが、小関麗奈なのだから。



既に何十人もの候補生がそこにいた。

部屋に入りきらなくて、レッスンルームのいくつかも開けていた。
でも、あそこには鏡もあるし、みなも不平不満はなさそうだった。

ここで行われるのは事務的な面接のみだった。

せっかく練習してたっていうのに、やることがないなんて。
アタシの歌を聞かせてあげられなくて、残念だった。

そして、気付いた。

なんだか、様子がおかしい。

誰ひとりとして、晴れやかな顔で出てくる人がいなかった。
どういうこと?そんなに厳しい面接だというの?

周囲も、それに気付いているようだったと思う。
なんで、どうして?そんな声がちらほらと聞こえてた。

アタシもそう。

なにを言われたら、あんな顔ができるの?
そう…まるで、あの頃のアタシのような…自分を見失っているような。

悩んでいるうちにも、人はどんどん減っていく。

そして…ついに、アタシの番がきた。
そういえば、あのときの案内は、ちひろだったわよね。
最初にみたときは、もう所属してるアイドルかなにかかと思ったわよ。

『では…次の方、小関麗奈さん。入室してください』



『こんにちは』

アイツの第一声はそれ。
本当に面接官だなんて、とても思えなかった。

「こ…こんにちは」

なんだか調子が狂う。

履歴書を渡して席についた。
そこにいるのは1人、普通の青年、って印象だった。
この人が…さっきのアイドルたちを、あんな顔にさせるような事を?

とても信じられない。

『あ、履歴書をお預かりします』

何だろう。この違和感。

『小関麗奈さん…12歳。もうすぐ13歳』

名前と写真だけをちらりと見て、すぐに履歴書を脇に置く。
普通なら細部まで読むというのに…ああ、それに、違和感。

わかった。

それは、入室のときから。

この人…アタシの姿を見ても、驚いていない。

『では、質問させていただきます。と言っても…聞きたいことは1つだけ』





『どうして、アイドルになろうと思ったんですか?』



1つだけ?

確かに入退室の速度は早い。
けれど…質問が、たった1つ?

それも、どこでも尋ねられる、初歩の初歩のような質問。

この質問には、深い意味があるのだろうか。
そう。ええと…裏がある、って感じの。

ああ、違う。何を考えてるのよ。
アタシが言うことは決まってる。

いつものレイナサマのように。

ゆっくりと深呼吸。
アイツは答えを待っていた。
ああ、もう、大丈夫。言ってやるのよ。

しっかりとアイツの目を、瞳を見て。



「レイナサマの名を…世界中に知らしめるため」

もう、普通には戻らない。

「アタシは、日本の器に収まる女じゃないの」

もう、2度と後悔はしたくない。

「小関麗奈を、認めさせるために」

ずっとずっと、追いかけてきた夢を、今…叶えるために。

「この…小関麗奈のせかいせいふくをする為に、決まってんじゃないッ!」




『………』

『……ふ』

『ふふ…ふ、ふふ…』

『…ああ、すみません…決して、悪い意味で笑っていたわけではなくて』

『おもしろい』

『素直に、そう、思いました』

………。

なに、目を輝かせて語ってんのよ。

でも…この反応。誰にもされなかった、待ち望んでいた反応。

アイツがバカにしてるわけじゃない、ってのはすぐに分かった。

だって、すごく嬉しそうなのよ。

もう、わけがわからないと思った。

なんだか、照れくさくて、仕方がなかったから。

それを隠すように、高らかなる宣言をしてから、出て行った。

「………もし」

「もし、アンタが、アタシを選ぶなら」

「そこからが…新たなる伝説の始まりよッ!」



「ただいま」

オーディション、どうだった?
いつものように、けれど、少しだけ心配そうに尋ねられる。

「…どう、だろう…分からない」

本当に分からなかった。
言葉遣いも態度のそのままのアタシ。
挙句の果てに選考員をアンタ呼ばわりしてたんだから。

けど…印象は、どうなんだろう。

すごく嬉しそうな顔をしてた。
ああ、もう、わからない。気にしない。
答えはいずれ、郵便受けに入れられるのだから。

ふう。これで、全てのプロダクションを受け終わった。

ここから、どうしよう。
いつも通りの生活を送る?

ううん。なんだか、物足りない。

今まで―――ずっと追いかけた夢を、もう追うことはない。
前に進むか、新たな道を見つけるかない、けれど。

けれど…少しだけ、寂しかった。

選考員を絶句させ続けた日常の終わりが。

紆余曲折を経た、この慌ただしい日々の終わりが。

よくもわるくも、新たな未来が開かれる…この日の終わりが、少しだけ。

寂しかった。



その日からは…思い出が、巡り巡った。

はじめて、普通でいるのが嫌だと思った、あの日。
現実を見て、自分も普通だと気付いた。
けれど…諦めなかったこと。

そして、アイドルになって…そう決めたこと。

養成所に通って、自分の成長に喜んでいたこと。
みなの態度に驚きを隠せなかったこと。
自分も…流されてしまったこと。

それでも、アタシを応援してくれる人がいたこと。

また、アイドルを目指し始めて、ここまで来た。
ここが、きっと、夢への終着点。

部屋のベッドに横になりながら、そんな事を思った。

カーテンの隙間から流れる雲をみて、うらやましいと思った。
どこまでも自由に飛んでいけて…いいな、って。

結果はまだ、出ていない。

合格したか、不合格したか定かでないのに。

それを予測するだけの、材料すらもなかったけれど。

後悔しない。やりきったのだから。

そう思っていても…頭の片隅に、失敗を思い描いて。

泣いてしまった。



ふと、ある日…あの質問の意味を考えた。

『―――どうして、アイドルになろうと思ったんですか?』

そう言っていた。
あの質問に、何を求めていたのかな。

小さな頃から、憧れて。

そんな答えを、あの人は待っていたのかな。
けれど…入退室を繰り返す彼女らの目には、涙があった。

なら…何を。

あのとき、アタシは言った。
アタシ自身を、全てをさらけ出した。
全力で、想いを伝えて…それに応えられたと思う。

そして、あの人は…笑っていた。

もしかしたら、あの人は。
アタシと、同じものを求めていたのかもしれない。

その答えは、分からないけれど。

きっと、そうだったらいいな。だったら。

アタシもきっと…あそこで、上手くやれるかもしれないから。

なんだか感情的になって、涙を流して、疲れてしまって…寝てしまった。





…成功を告げる、ノックの音にも気付かないままに。



いつの間にか、寝てしまっていた。

カーテンの隙間からは、もう雲は見えない。
取って代わられたように、月の光が微かに差し込んでいた。

部屋が暗い。

電気のリモコンはどこ?ああ、ない。
手探りでベッドの周りを探してみても、ない。

それに携帯はどこだろう。メールとか、来てるかな。
仕方がないから、身体を起こしてスイッチを入れにいった。

いきなり飛び込んでくる光に目を奪われた。
もう、眩しい。光になれるまで、目を開けられなかった。

あれ?

なに、これ。白い…封筒?
こんなの、さっきは置いていなかった。
両親も帰ってるだろうし…置いてくれてたのかな。

というか、まず…何の封筒だろう。
もう資料請求はしてないはずだし…裏面を見る。

ええと…差出人は。



シンデレラガールズ・プロダクション?



不合格通知は、薄い封筒に1枚の紙。

なのに…この、中にたっぷりと資料の詰まったような重み。
嘘でしょう。嘘でしょう。本当に?

慌てて椅子に座ろうとして、足の小指をぶつけた。痛い。
けど、今はそんなことはどうでもいい。もしかして。

封筒をあけた途端、手がすべって、たくさんの資料が床に落ちる。
その中に、もしかして?1枚、また1枚と探していく。

あれ?

不合格通知が入っているわけじゃない。
けれど…合格通知も見当たらない。

目の前の資料を全て整えて、机に並べる。

はさまっているわけでもないみたい。
…これは、何のために送られたの?

…ただの、案内だろうか。
またよろしくお願いします。そういうような。

片付けよう。虚しいだけ。
見ても、仕方がない。関係ないのだから。
資料の1枚がペン立てに当たって、中身がこぼれる。

期待させておいて、なんなのよ。

ああ、机の隙間、奥のほうに入っていた。
せいいっぱい手を伸ばす。何かに引っかかった。
…ちょっと待って。これ、まさか。急いで手元に持ってくる。

封筒。

まだ、あった?
焦ってびりびりと手で破く。
そっと開いて、アタシは泣いた。



合格…そう、刻まれていたのだから。



急いでリビングに駆け込んだ。

「アタシ、合格した!合格したのよ!」

「アタシ…っ、アイドルに…アイドルに、なるのよ!」

「やっと、やっと…アイドルになるの」

『うん』

ああ、そういえば、置いてくれていたのだから。
きっと…察しはついていたんでしょう。

『よかった…本当に、おめでとう』

『麗奈もこれからテレビとか、たくさん出るのかな』

『なんだか心配でもあるけど…応援するから、頑張って』

「うん…うん、アタシ…頑張るから」

「ああ、そうじゃなくて…すぐに、世界一になってみせる」

「だから…見てて」

強がったような表情ができなかった。
嬉しくてたまらなくて、口元が緩んでた。

涙は勝手に流れるし、こんな顔は見られたくないはずなのに。

けれど…そのときは、まったく気になってはいなかった。



改めて資料を読んで、指定された日付に訪れた。

ええと…勝手に入って、いいのよね。
だって、アタシ…ここのアイドル、なんだから。
そう思うと、とても人には見せられない顔になってたわ…情けない。

『あ。小関麗奈さん…いえ、麗奈ちゃん、よね』

「ええと…そ、そう…です」

『あら。別にいいのよ、面接のときと一緒で…いつものように、で』

「そ、そう。なら、いいわ。それで…」

『私は千川ちひろです。ここの事務員で…もう、みな集まってるから』

「え?あ、そう。えっと…ちひろ。このアタシが、よろしくしてあげるから、感謝なさい」

『ふふっ…よろしく』

資料で読んではいたけれど、想像以上に広かった。
本当に新設のプロダクションなのかな、と疑うほどに。

そこにはもう既に、たくさんのアイドルが集まっていた。
みな、負けず劣らずの端正な顔立ち…そして。
個性的…と思えるような、人たち。

そして、わかった。
アタシの出した答えは、正解だって。
どうして、アイドルになりたいか。その、答えを。

アイドルになることが夢の全てじゃない。
アイドルになって、自分の夢を叶えるために…そう答えた人が、ここにいるのだと。

季節は巡って4月。アタシの…いいえ、違う。

アタシたち全員の、新しい未来がはじまった。



アイツは最初から大忙し。

1人でこの人数をプロデュースするんだから。
というか、アイツがプロデューサーと知って驚いた。
せいぜい事務員とか、その辺の役職を想像していたから。

でも…今は、ああ、そうじゃなくて。

最初は営業に苦労した。
レイナサマに、コツコツなんて似合わない。
でも、デビューしたてのアタシにはそういう仕事しかなかった。

口ではああ言ってたけど…仕事をするのは楽しかった。

それに…アイツが、毎回毎回頭を下げてるのをみて、きちんとやった。
それでも散々仕事でミスをしたけど…アタシの事を責めない。
その度にいつも…アイツはアタシのことを励ました。

演出がショボいと思って、ライトに色付きフィルムを貼ってイタズラもした。
結果的にすごく盛り上がったけど、アイツはまた、頭を下げてた。

他にも…小関麗奈さん。今日はよろしくお願いします、って挨拶されたとき。

「あ、はい!よろしくお願いします!頑張ります」

『………ふ、ふふ…あはは』

「何笑ってんのよ!これは…いわゆる処世術よッ!」

「…そ、そう!アタシは強い者の味方よ!」

何を言ってるんだろう、ってアタシが思った。
ああ、まったく、アイツといると。

…なにか、調子が狂っちゃうのよ。



何度かライブをして、上手く行かなかったこともあった。

顔をみられたくなくて、ただ、そこに座ってた。
そしたら…アイツは、黙って隣にいた。

毎度毎度、寂しいと思う度に、アイツは隣にいてくれた。
強がって、相手の靴に画鋲でも仕込め、なんて言ってたら、また笑ってた。

…だから、よ。

だから…アタシはアイツにイタズラをするの。
アイツが仕事が取れなくて、悔しくて、落ち込んでいるとき。
他のアイドルのプロデュースで、悩んでいるとき。なんとなく、わかる。

その…下僕のことなんだから、理解してて当然よ。

ま、この前のレイナサマお手製のスペシャルバズーカは暴発したけど…
ちょっと怒られた。でも、反省なんてしてない。だって。
…アイツがあんな顔してるから悪いのよ。

そう!そうよ。アタシまで調子狂うと困るから、だからよ。

アイツは…その、アタシの力になっているから。
それがなくなったら、困るのはアタシだから…よ。

なんだかんだ言って…アタシの意見を聞いて動けるのは、アイツしかいないのよ。



さて。

アタシの話はこれで終わり。

じゃあ…ちひろ。そろそろ、はじめるとしましょうか。

世界最高のトップアイドルの、レイナサマが直々に行う、この計画を。



たった1つの、イタズラを。



最後は18時以降に投下する予定です。
ありがとうございました。



投稿を再開します。



そろそろ1週間になるだろうか。

俺は麗奈に仕事を取ってくると伝えたというのに。
未だ、俺の手の中には、1つの仕事も舞い込んではいなかった。

俺は…麗奈に、何もできていない。
きっと、彼女だって大きな仕事がやりたいはずだ。
それでも…いつも、ほとんど文句も言わず、頑張ってくれている。

はじめてオーディションを行ったとき、俺は思った。

あの頃は業界に馴染んでいなかったから、全てが疑問でいっぱいだった。
日々、何十人…何百人と、候補生のアイドルをみてきた。
けれど、彼女らの違いがわからなかった。

誰もが同じような傾向の服を着て、同じような定型句を並べていく。

後でちひろさんに聞いたことだが…養成所に所属しているアイドルはそうらしい。
そういう所はどのくらいアイドルを排出できるか、で評価が決まる。
つまるところ…機械化されているということ。

プロダクションごとに決まった対応をする。
それでたまたま、数人引っかかれば、それでいい。

アイドルが部屋を入退室する度に、俺は恐怖すら覚えた。
誰もが俺に同じ答えを残してゆくのだから。

『―――どうしてアイドルになりたいと…そう思ったんですか?』
「―――はい!小さな頃から、アイドルに憧れていたからです!」

そんな中…ひとりの候補生が、目を奪った。

それが、麗奈だった。



「―――この…小関麗奈のせかいせいふくをする為に、決まってんじゃないッ!」

最初は、正直…驚いた。

けれど、顔には出さない。
でも…すぐに、笑いがこぼれてしまった。

ああ、この女の娘となら、俺は。
アイドルになって、自分を認めさせる為に。
…そう、彼女は、揺るぎない決意で俺に言っていた。

きっと、部屋では、その服装は浮いていただろう。
着替えることもできただろうに…でも、それをしなかった。
そんな…自分を貫き通している彼女が、眩しくて仕方がなかった。

おもしろい。つい、口からこぼれた。
見ているだけで、俺をわくわくさせてくれた。
だから、俺は…その日の夜の会議で、すぐに彼女を選んだ。

そして…俺の答えは、間違っていなかった。

彼女は人の心をよく知っていた。
何をすれば喜んで、何をすれば悲しむか。
たまに俺に仕掛けるイタズラは、きっと…そう思っている。

悩んでいるとき、悔やんでいるとき。
麗奈は、怒られることを覚悟で、俺に仕掛けてくる。
その姿をみる度に…俺は、元気をもらって、仕事にも熱が入った。

なのに…俺は、彼女に、なにもできていないんじゃないだろうか。

俺の力不足で、彼女という存在を埋もれさせたくない。
そう思って、デスクから局のリストを取り出していた。

ああ、そういえば。次の企画の資料があったはずだ。

そう思って、事務所のファイルを確かめていく。

けれど…それは、どこにもありはしなかった。



確かに…ここにしまっておいたはずなのに。

それはちひろさんも、確認していたことのはずだ。
どこへやってしまったんだろう。ああ、あれがないと。

そんなとき、俺のポケットが振動していた。

携帯?

発信者は…千川ちひろ。ちひろさん?

ちょうどいい。聞いてみよう。

『はい、もしもし…』

「プロデューサーさんですか?」

『ええ、どうしたんですか?』

『そうそう…聞きたいことがあって』

「あ…ふふっ、例の資料のことを?」

『知ってるんですか?』

「はい。ええと…明日、時間…ありますか?」

『仕事を終えてからなら…17時くらいなら』

「なら、ぴったり。ではその時間に…地図を添付しておきます」

「大事なお話があるので、その話は、そのときに」

『…わかりました』

電話を切って、すぐにメールの着信音が鳴った。
送信者はもちろん、千川ちひろ。添付画像を表示してみる。

…あれ。ここは、確か…



『お疲れ様でした!』

翌日、社長にそれだけを伝えて、俺はすぐに外に出た。

ちひろさんはお昼を過ぎた辺りから出ているようだった。
俺も仕事が多く、話している時間もなかった。
大事な話…とは、なんのことだろう。

もうすぐ17時になろうかというときに、そこへ辿り着いた。

都内の大規模なライブハウス。
うちのアイドルも、あまり入ることはない。

表に掛かっている看板を見る。
今日は…そういうイベントがあったなんて、知らなかった。

プロダクション別のライブトーナメントがあったなんて。

中に入ると、入り口のすぐそばにちひろさんが立っていた。
俺を見つけると、嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。

「ああ、プロデューサーさん。お疲れさまです」

『お疲れさまです…というか、お話って…あと、資料と』

「ええ。それも含めて、とりあえず中に入りましょう」

『…はい』

「でも…そろそろ、終わる予定のはずなんですが…」

終わる予定?

何の話をしているのだろうか。

このトーナメント…誰かが出場している?

あの資料の事も、踏まえると…そう考えるとすれば。





…出場しているのは、麗奈?



奥から歓声が聞こえてくる。

ちひろさんにチケットを貰い、中に入った。
見渡す限り観客が埋め尽くされていて、スペースも少ない。

マイクを持った司会がステージの脇に立っている。
けれど…その様子は、なんだか慌てているようで。

「ええと…何かあったんでしょうか」

ちひろさんも困惑していた。
司会はスタッフに耳打ちされたあと、すぐに言った。

『では、小関麗奈さんの順番を最後に、登場していただきましょう!』

一瞬のざわめきの後に、アイドルが登場して挨拶をしていた。
その間も、しきりにスタッフは走り回っていた。

順番を最後に?
ということは、何かがあった?
飛ばされるだけの、何かがあったということ。

それを聞いて、俺はスタッフに駆け寄った。

『すみません。シンデレラガールズ・プロダクションのプロデューサーです』

『ええと。麗奈。小関麗奈のプロデューサーです…麗奈は』

「ああ、プロデューサーさんですか。よかった…行ってあげてください」

「こちらの廊下をまっすぐ行くと…ゲストルームです。そこにいらっしゃいます」





「彼女…いえ、小関麗奈さん…泣いていらっしゃるようだったので」



泣いている?

俺はちひろさんに事情を伝えて走りだした。
ちひろさんはスタッフへの対応をしてくれるそうだった。

麗奈。小関麗奈のルーム…ない、どこだ。
かなりのプロダクションが参加していることもあり、見つからない。

そして、ああ、あった。

『麗奈!』

そこには、彼女がいた。
ひざを抱えて、座っていた。
懸命に、ただ、涙をこらえて。

「アンタ…なんで、ここにいるのよ」

『え?ああ、ちひろさんに呼ばれて』

「…もう、そんな時間」

なんだか、言いにくそうにしていた。
だから…俺は、ゆっくりと彼女の隣に腰を下ろした。

「………」

『………』

そこには、沈黙が流れていた。
けれど、それは決して嫌なものではなくて。

袖で涙を拭った麗奈は、呟くように言った。



「今…代わりに、アタシの後の…最後の人が出場してる」

『うん』

「結構…有名な人。プロダクションも、有名な人」

「必死で練習して…ちひろにも協力してもらって、ここまできた」

「優勝して…アンタにそれを見せつけて、驚かせようと思ってた」

「でも、失敗しちゃった」

「それで、その人に…アタシの用意してた衣装が、バカにされたの」

『…うん』

「このトーナメントに、それは何、って。それは、遊びのつもりなのか、って」

「アタシは…その衣装が最高に似合うと思ってる。だって、レイナサマよ」

「言い返したかったけど…アンタの事もあったから、言い返さなかった」

「悔しくて、悔しくて。バカにされたのが頭に来て…それで」

『そっか』

『………』

『俺…抗議してくるよ』

『それで…きちんと謝ってもらおう』

『ありがとうな、堪えてくれて。それと…ごめん』




「…違う」



「アタシの事が、バカにされたからじゃない…それにも、怒ってはいるけど」

「…アタシのことなら、別にいくら言われたって構わないわよ」

「そうじゃ、ないの」

また、こぼれる涙を拭って、麗奈はバッグを開け始める。

「そうじゃ、ないのよ…」

綺麗にたたまれたその衣装を、麗奈が手にとって俺に見せる。

…そう、だったのか。

どれもこれも、見覚えのある衣装。

麗奈と一緒に、色々悩んでデザインした、その衣装。

これは似合う。当たり前でしょう。このレイナサマに似合わないモノなんて。

そう言って語り合った思い出が、そこに、資料から形になっていた。

「アタシが、許せなかったのは…」

「これを、バカにされたことよ」

「アンタが、ずっとずっと、必死にアタシの為に作ってデザインした衣装」

「それを悪く言われたのが、悔しくてたまらなかった」

「これをバカにされるって事は、アンタをバカにしてるのと同じこと」

「アンタを…」





「…アンタを悪く言って良いのは、アタシだけなんだからッ!」



「………」

「ああ、言いたいことを言ったら、すっきりした」

『…こんなことしか出来なくて、ごめん』

「ア、アンタもよくやってると思うわ!褒めてあげる」

『あはは…ありがとう』

「さて、アンタはとっとと出て行きなさい」

『…え?』

「何が、え?よ。アタシは今から着替えるのよ」

「アタシに比べればみんなザコよ」

「このレイナサマ自ら相手してあげる」

「わかったら、ほら、出て行きなさい」

『………』

『うん』

『待ってる…じゃあ、行くから』

「…うん」

「それなりに…」

「アンタには…それなりに、感謝してるわ」



『さて!これで…え?はい!ただいま、小関麗奈さんの準備が整いました!』

先ほど登場していたアイドルは、すごいライブをしたようだ。
経験の浅い俺ですら名前を知っている。そのプロダクション名すらも。

けれど。

出て行くときに、交わした視線。
その目には…いつもの、彼女の意思が浮かんでいた。
あの目は、間違いない。何かを企んでいるような…そんな目だ。

麗奈は、人の心をよく知っているのだから。
きっと、今回も。

また、彼女は人の心を掴んで離さないような…そんな事をするのだろう。

俺は麗奈にいつもわくわくさせられる。

彼女は…今度は、いったい何をするつもりなのか。

もう、俺は楽しみでたまらなかった。さあ、麗奈。見せてくれ。

『では、登場していただきましょう!小関麗奈さんの―――――』





「アーッハッハッハッ! アタシがレイナ様よ!」



突然スピーカーから響き渡る爆音。

その音が一気に白けかけた観客の目を向ける材料となった。
もう、さっきまでの雰囲気は、どこにもありはしなかった。

全員が彼女の姿に目を奪われる。
照明も慌てたように、全員が彼女にスポットを当てる。
ああ、よく似合ってる。やっぱりあの衣装は、麗奈じゃないと着こなせない。

やっぱり普通じゃない。小関麗奈は特別だ。

すぐに、彼女にふさわしいアップテンポな曲が流れ始める。
それによって、スポットライトも無限に色を変える。

磨きぬかれた圧倒的な歌唱力。

一瞬の隙も見せないようなダンス。

ライブハウス中に流れていた、以前のアイドルの歌声は、覚えてはいなかった。

観客も、彼女の演出する迫力に魅了されてきたのだろう。

誰もが我を忘れて、彼女に目を奪われた。

…もう、勝敗は決したも同然だった。





『それでは、今回のトーナメントの優勝者を発表します…優勝は―――――――!』



『麗奈、次の仕事まで30分だぞ!準備急いでくれ!』

「は?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!いきなり仕事増えすぎでしょう!」

「このレイナサマでも、愚民どもの相手をし続けるのは疲れるのよ!」

「あー…でも、人気者は大変よねぇ…」

なんだか、うっとりした顔で呟いていた。
確かに、俺も気を抜けばそんな顔になってしまう。

あの日から数日、事務所にかかってくる電話の応対に忙しい。
麗奈のスケジュールも分刻みのものとなってきている。

そんな中、麗奈はいそいそと深い帽子をかぶる。

『…なにやってるんだ?』

「このアタシが変装しないで街を歩いたら、大パニックになるでしょ!」

そうだった。
ああ、まだ慣れていない。

「アンタ、何モタモタしてるの」

「このレイナサマの華麗な伝説を作りに、次の現場に行くわよッ!」

数日間、ほとんど休みもとれていないが、これも麗奈のためだ。
辛いどころか、俺はこの最近が楽しくて仕方が無い。
こうなったのも、あのおかげだろうと思う。

もちろん、麗奈のおかげ。その理由は決まっている。

有名プロダクションの、有名アイドルを抜いて、優勝を勝ち取ったのだから。



「レイナサマはトップアイドルの道に向かって、今日も前進よ」

「フッ、いよいよレイナサマの名前が世界中に響き渡る日が来たようね!」

「最後までしっかりついてくるのよッ!」

「アタシはどんな手を使ってでも世界一になってみせるんだからッ!」

『………』

『ああ、もちろん!』

どこまでも、青く澄み渡る空の下で。
俺たちは強く頷きあって、そして、誓った。

『…俺も、力不足だけど…麗奈の為に、頑張るから…よろしくな』

心からの気持ちだった。
彼女にできたことは多くなかった。

もっと腕のいいプロデューサーだったなら、彼女を、もっと―――。

「………でいい」

『え?』

「まだ寝ぼけてんじゃないの?よく聞きなさい」

「…アタシは、アンタじゃなきゃダメだって言ってんのよ」

『…ありがとう』

「フフッ、アタシについてくれば世界の半分をアンタにあげるわ!」

「世界を牛耳るアタシに、相応しい男になりなさいよね!」

そうだった。
麗奈はこれじゃ、終わらない。
彼女は俺よりずっと広い視野を持っている。

日本にとどまらず、世界を目指しているのだから。
彼女の夢は、どこまでも続いてゆくのだから。

小関麗奈のせかいせいふくは、終わらない。

「ほら…行くわよ―――」





「――――――――――――プロデューサー!」



                          おわり



以上です。ありがとうございました。
html化依頼を出させていただきます。

また、21時まで補足修正を行いますので、よろしくお願いします。
それを過ぎた場合、補足修正はありません。



>>115 さん

アイドルマスターの台本形式を4作ほど書きましたが、控えさせてください。すみません。

伊織「さようなら」
夏樹「星空の輪郭」
高垣楓「ホワイトデーのおくりもの」
モバP「黒真珠の旋律」
モバP「うさみんせいじんのそうぞうりょく」

控えたもの以外だとこれで全てです。



>>132 修正です。

伊織「さようなら」
夏樹「星空の輪郭」
高垣楓「ホワイトデーのおくりもの」
モバP「天才発明家・池袋晶葉は揺らがない」
モバP「黒真珠の旋律」
モバP「うさみんせいじんのそうぞうりょく」

が正確です。失礼しました。



>>134 さん

特に参考にしている本はありません。



>>127 修正です。

☓ 「アーッハッハッハッ! アタシがレイナ様よ!」
○ 「アーッハッハッハッ!アタシがレイナ様よ!」

としてお読みください。文字の大きさが統一できていませんでした。
失礼しました。



>>136 さん

ありがとうございます。励みになります。
感想や、ご指摘をいただければ幸いです。



補足修正はありません。
ありがとうございました。

03:30│小関麗奈 
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