2013年12月22日

和久井留美「猫の森には帰れない」

和久井留美「……あら?」


※モバマスSS短編現在趣味は仕事=アイドルです、るーみんメイン
※いかんせん二次創作です(いろいろとアイドルの過去なり関係性なりが捏造されています)
※急に るーみんが 来たので
※過去作と同じ世界線ですがここから読み始めても差し支えありません
※さくさく投下します

過去作
並木芽衣子「休暇旅行」
高峯のあ「銀河通信」
大原みちる「マイケルという名のパン屋さん」
「空からキラリが」
鷺沢文香「図書館はどこですか」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1386889554

モバP「あれ?留美さん?」

留美「P君……こんな街中で会うなんて……偶然ね」

P「そうですね……。留美さん、今日は確かオフでしたよね」

留美「ええ、だからちょっと買い物をしていたところなの……」

留美「P君は……仕事のはずよね?どうしてここに?」

P「や、今日は朝から事務所で作業してたんですよ……ちひろさんが休みなもんで」

P「で、お腹がすいたんでちょっと飯食おうとに出たんです」
モバP「あれ?留美さん?」

留美「P君……こんな街中で会うなんて……偶然ね」

P「そうですね……。留美さん、今日は確かオフでしたよね」

留美「ええ、だからちょっと買い物をしていたところなの……」

留美「P君は……仕事のはずよね?どうしてここに?」

P「や、今日は朝から事務所で作業してたんですよ……ちひろさんが休みなもんで」

P「で、お腹がすいたんでちょっと飯食おうと思ってこうして外に出てたんです」
留美「あら、ということは今からお昼?」

P「はい。これからです……、ということは留美さんもまだお昼は?」

留美「ええ、これから食べようと」

P「ちょうどいいですねえ、じゃあ適当にどこかで一緒にご飯でも食べに行きませんか?」

留美「いいわね。じゃあ、お店はP君にまかせるわ」

P「そうですね……。では、あそこのイタリアンなんて……」
――――――


P「ふう……ごちそうさまです」

留美「ごちそうさま……ところで、事務所には誰かいるの?」

P「俺が出るときにいたのは、電話番のあいさんと……えっと、みくとまゆ……あ、そうそう乃々もいたような」

留美「みくちゃん?あれ、今日みくちゃんって……」

P「ああ、仕事の予定が入ってたんですよ」

留美「そうよね。彼女、確か猫カフェでの撮影じゃなかったかしら」

P「そのはずだったんですが……店の猫たちが集団で風邪ひいたらしくておじゃんに」

留美「え?そんなことあるの?」

P「店の人も猫たちの体調管理には気を遣っていたはずなんですがね……」

P「なんで今、留守番がてら事務所に待機させてます」

留美「そう……」
留美「……それにしても、うらやましいわ」

P「何がです?」

留美「猫カフェに行けるってこと自体が、ね」

P「あー……猫アレルギー、でしたね」

留美「そうよ。……ああ、きっと猫カフェの中ではカワイイ猫たちがあっち見てもこっち見てもいるんでしょうね……」

留美「気ままに走り回ってたり……ご飯を食べてたり……そして、ああ……丸まってお昼寝なんか……」

留美「この体質さえなければ……一日中入り浸っていても飽きないわ、きっと」

P「猫好きなのにアレルギー持ち、ってのは理不尽なものですね」

留美「そう……本当にそうよ……」

留美「昔は……昔は、大丈夫だったのよ」
P「え?」

留美「知らない?アレルギーって生まれたときから拒否反応を起こすものじゃないのよ」

留美「そういう体質の人が、アレルギーの元となる物質を一定以上取り込むと症状が出始めるの」

P「へえ……知らなかったです。俺、花粉症ですらなったことないもんで……」

留美「……だから私も、くしゃみや鼻づまりがひどくなるまでは……猫をこの手で抱きしめてさえいたのよ」

留美「ちっちゃい頃、近所に猫がいっぱい住む雑木林があって……、よくそこで遊んでいたわ」

P「そんな森があったんですか」

留美「放課後や休日になると、近所の友だちと一緒に林に分け入って探していたわ」

留美「時々猫の家族にも出会えてね、子ねこを一匹抱きとめると他の子もみんなすり寄ってきて……」

留美「はああ……あの時の感触、あのふわふわがいっぱい……」
留美「……でも、今あの森はどうなっていることやら……」

P「どういうことですか?」

留美「高校に進学と同時に、引っ越したのよ」

留美「山のほうに住んでたんだけど、親の仕事の都合で港町に……」

留美「中学の頃の友だちとは疎遠になっちゃって……もう10年も会っていないわ」

P「10年は長いですね」

留美「ええ、もう私の知っている森ではなくなっているのかもしれないわ……」
エヴリデイドリーム〜♪


P「おっ、まゆからメールだ」

留美「……P君、その着信音まゆちゃんの歌よね?」

P「あ、ええ。まゆ専用の着信音です」

留美「というかその携帯、プライベートのよね」

P「ええ。まゆのメール量で業務用の携帯が業務に差し障る事態になっちゃって……」

P「やむを得ずこっちを教えたんですよ」

留美「……」

P「……ああ、やべっ!そろそろあいさんの仕事か……」

P「す、すみません留美さん、俺、事務所にかえ……どうしたんです、そんな顔して」

留美「P君」

P「は、はい?」

留美「私にも教えて、P君の携帯のアドレス」

P「……え、あ!……は、はい、わかりました教えますからそんな怖い顔しないでくださいゴメンナサイ」



……その日の午後は、知り合いと誰にも会わなかった

私は残った買い物――ほとんどが食料であるが――を早々にすませ、帰路についた

あの昼下がり、P君と出会えただけでも嬉しいというのに、まさかアドレスを聞けるとは……

二人で食べたナポリタンの味を思い出すと、今でも顔がにやけてしまう


留美「……休みでもいいから、P君とあのまま事務所に行けばよかったかな……」


自分の家が見えてきて、私は誰ともなしに呟いた



留美「…………ん?」


家に帰り玄関の郵便受けを開けると、実家の母親から手紙が来ていた

細長い茶封筒に細い線でこの家の住所と私の名前が書かれている

中を開けると、一枚の便箋と入れ子のようにもう一通封筒が出てきた

こちらの封筒にも私の名前が書いてあった

住所は……広島の実家のものだ

私はひとまず付随していた便箋に目を通した



『留美、手紙で失礼します』

『中学の頃の友だちから留美宛に手紙が届きました』

『便箋と写真が入っているようですが中身は見ていません』

『そのままの状態で封筒に入れて送りますので返事はそちらからお願いします』



奇妙な偶然というものだろうか

P君と昔の話をしたと思ったら、その昔の友人から手紙が届くなんて……

私ははやる気持ちをおさえ、手紙をベッドの上に置き、服を着替えて買った物を整理した

それほど手間はかからなかった

冷蔵庫からミネラルウォーターを一杯、コップに注ぐ

それをベッドの前のテーブルに置き、ベッドに腰掛ける

そうしてようやく、私は手紙を手に取り、封を開けた

中に入っていたのは、便箋が一枚と、何枚かの写真

私は写真に収まる風景を一目見て、はっとした

――この森は、この猫たちは


留美「……ああ、こんなことって」


その森は、はたして私の記憶の中にあるがままの猫の住まう森であった
撮影日は一か月ほど前のようだった

一枚目は猫たちの写真……木漏れ日の中でうたた寝する色々な姿をした猫たち

二枚目から数枚は、森の風景を写しているらしい……隅の方にちょこんと猫のしっぽが写り込んでいるものもある

それから、猫の家族の写真……親猫に寄り添って子猫たちが歩いているものが数枚

そして、手紙の差出人であろう女性が猫を抱えて笑っている写真……

私はじっとその写真を見て、古い記憶を辿る

……ひと息おいて、思い出した。私とよく猫の森で遊んでいた彼女……ユウちゃん

あの頃はおてんばだった彼女も、10年も経つとこんなに変わるものなのか……

私は写真を一か所にまとめ、彼女からであろう手紙に目を向けた


『ルミちゃん、お元気ですか』

『もう10年も帰らないので心配してます』

『ルミちゃんが今どこにいるのかわからないので、ルミちゃんが引っ越したという住所に送ります』

『……ちゃんと届いたかな?』

『私は今、地元で森の環境を守る仕事に就いています』

『もちろん、この森の猫たちも一緒に』

『猫たちは、今でも元気です』

『私たちのころ子どもだった猫たちが親になり、子を産んでいます』

『少し前に生まれた猫の赤ちゃんの写真、見てくれると嬉しいです』

『猫アレルギーはあれからよくなりましたか』

『ルミちゃん、アレルギーがひどくなってからもよくこの森で遊んでいましたね』

『くしゃみも気にせず、猫を撫でようとして……』

『涙目になりながらも嬉しそうにしていたこと、今でも覚えています』

『ルミちゃん』

『ルミちゃん、アイドルになったと聞きました』

『インターネットを見ていると、たまにルミちゃんの姿を見ます』

『あの頃よりとても綺麗で、なんだかやきもち妬いちゃうな』
『……ルミちゃん』

『成人式にルミちゃんがいなくて、すこし淋しかったです』

『ケンくんやマーちゃんも心配してました』

『こんど同窓会を開こうと考えています』

『その時に会えると嬉しいな』

『メールアドレスを下に書きましたので、そちらからお返事してくれると嬉しいです』

『それでは、また会える日を楽しみにしています』

『アイドルとして頑張ってね』


一番下にはユウちゃんの名前と、メールアドレスが添えられていた
……ユウちゃん

……少し、涙腺が緩んだ

私はしばらく、手紙と写真とをじっと見つめていた

写真の猫たちの愛くるしい表情……それを見ただけで昔の記憶が脳裏に映し出される

――おにぎりを持って森に出かけて、猫たちと一緒に食べたことも

――森の奥深くまでユウちゃんと行ってしまって近所の人たちに助け出されたことも

――枝に刺さって死んでしまった猫を埋葬してやったことも

――産気づいた母猫を見守って、新たな命が生まれるところを目にしたことも

…………ああ、ユウちゃん

10年という月日を改めて噛みしめると、自然と心が締め付けられた

……ああ、でもね、ユウちゃん……

私は傍らのノートパソコンを立ち上げ、メールを書き出した


『ユウちゃん、久しぶりです』

『お手紙ありがとう』

『久しぶりに猫の森が見れて、本当に嬉しい』

『あの頃を思い出して、少し泣いちゃった』

『ユウちゃんも元気そうでなによりです』

『私は今東京で一人暮らしをしています』

『東京はいいところです』

『ユウちゃんの言う通り、アイドルを仕事にしています』

『成人式の時はごめんなさい』

『あの頃は忙しくて……帰る余裕もありませんでした』
『ユウちゃん』

『猫の森を守るお仕事をしてると聞いて、ユウちゃんが昔私に言ってたことを思い出しました』

『ユウちゃん、大きくなっても猫の森は猫の森のままでいてほしいって言ってましたね』

『私もそれに大きくうなづいて、二人して森に落ちてるゴミを拾い歩いたりもしましたね』

『きっとユウちゃん、それを将来の夢にして頑張ってきたんですね』

『……ユウちゃん』

『私……今でも猫アレルギーなの』

『だから、まだ猫の森には帰れない』

『でも、私、ここで色々出会いがあって、今は元気にやっています』

『だから心配しないで』

『同窓会、きっと行きます』

『それまでには……猫アレルギー、治るといいな』

『じゃあ、またね』




送信にあまり時間はかからなかった

完了のメッセージを確認してパソコンの電源を消した

ひと息に文章を書いたので目が少し疲れてしまった

大きく伸びをして、そのまま寝転ぶように天井を見上げた

付けていた明かりが少し眩しかった


――メールには書かなかったけれど

――私、たぶん、もう猫の森には帰らない

――昔のことを思い出して淋しくなるの、いやなの

――だから、ユウちゃん、ごめん

――私の、あの猫の森で失くした夢は、もう二度と戻らない……



ピピピ、ピピピ……


携帯が鳴る。この着信音は……


留美「もしもし、P君?」

P『もしもし、留美さん今家ですか?』

留美「ええ、そうよ」

P『……留美さんなんか声が震えてません?どうかしたんですか?』

留美「あ……いいえ、今昔の友人から手紙が来て……懐かしくて、少し……」

P『それって、お昼話してたところからの?』

留美「そう……猫の森から」

P『へえ……それはまた偶然ですね』

留美「……で、何か用でもあるの?」

P『あ、ああそうでした。それで、今度の日曜日なんですけど……』


――それにね、ユウちゃん

――私、ここでいいひとを見つけたの

――その人と、ゆくゆくは二人で生きていきたいと思っているから……



――だから、猫の森には帰れない



おわり





08:30│和久井留美 
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