2014年01月06日

前川みく「乃々チャン、いっしょにアイドルがんばるにゃ!」

「それじゃこれで終了でーす」

ADさんの一声で張りつめていた現場の空気がゆるまる。

「お疲れさまでしたにゃ」


スタッフのみなさんに挨拶をして回る。

おつかれさまーと声を返された。

「ああ、みくちゃんも朝早くからご苦労さま」

ディレクターさんも笑顔で応えてくれる。

「いやーいい画が撮れたよ。NGもほとんどなかったし。機会があったらまた出てくれよなっ!」

「はいっ。その時は、またよろしくおねがいしますにゃ」

撤収作業をしているスタッフさんに声をかけて、現場を後にする。


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――――――――――

んーっ、とひとつノビをする。
そうそう、終わったのを言っておかないと。
電話を取りだして、かける。

「みくにゃ。プロデューサーチャン、お仕事終了にゃ」

『あー、お疲れさま。大丈夫だったか?』

バッチリオッケーにゃ、電話越しで見えないのに思わずガッツポーズをしてしまう。

『現場で一人にしてすまないな……』

「今日はちひろチャンがお休みだからしょうがないにゃ」

『それで……これから事務所に戻れないか?』

「にゃ? だいじょうぶだけどどうかした?」

『いやな……』

プロデューサーが言うには、みくの後輩の森久保乃々チャンが事務所から逃亡したらしい。
追いかけたいのだが、事務所を留守にする訳にもいかない。
それでみくに留守番を頼みたいとのこと。

『まったく、ちひろさんが休みのときに限って問題が起こるんだからなぁ』

そういうことなら仕方ない。

「おっけーにゃ、30分くらいで戻るから待ってて」

電話を切って、少し駆け足で事務所へと向かった。

――――――――――

それじゃ後は頼む、わかったにゃ、そんな言葉を交わしてプロデューサーを見送る。

それから預かった鍵で事務所を開け、中に入る。

「おっはーにゃ」

返事がなくても、一応あいさつはしておく。
さてと……ただ留守番をするだけって退屈だにゃあ。
こんなことなら何か暇つぶしになるようなものを持ってくれば良かった。

そんな事を考えながらリラックス兼応接用のソファーへ向かう。
 
そこに、からだを丸めて眠る女の子を見つけた。

「乃々チャン……」

舞台衣装らしきものを抱きしめている。
ほっぺには涙を流したあとが見える。

きっとどこかに隠れていて、プロデューサーが出て行ったあとに出てきたんだろう。
とするとプロデューサーが今戻ってきたら、また逃げ出すんだろうにゃあ。
さてどうしたものかにゃ……。

――――――――――

「んんっ……」

2時間後、ようやく乃々チャンが起きだしてきた。

「おめざめかにゃ?」

「……あれ? みくさん……?」

「乃々チャンおっはーにゃ」

とりあえず笑顔で挨拶。

おはようございます……とまだはっきりしない様子で乃々チャンが言う。

「さて……まずはその衣装をしまってくるにゃ」

乃々チャンが胸元の衣装を見る。
そして、何か言いたそうにこちらを見る。
けれど、きっぱりと言う。

「その衣装はまだ乃々チャンのものじゃないにゃ。
 ライブの時の時まで、勝手に汚したり、シワにしちゃダメにゃ」

「わかりました……」

あきらめたように乃々チャンが言う。
それからクローゼットに衣装を戻す。

「それで……どうするんですか……?」

「どうってなにがにゃ?」

プロデューサーに連絡しないのか、と言いたいようだ。

「まー、女の子の泣かせるようなヤツなんてほっとくにゃ」

みくがそういうとホッとした表情になる。
そして気がついたように頬を袖で拭った。

「それよりホットミルクでも飲もう。乃々チャンは飲めるかにゃ?」

「だいじょうぶ……です……」

「よし、じゃあみくのとっておきみせちゃうにゃっ!」

――――――――――

給湯室で冷蔵庫から牛乳を取りだす。
大きめのマグカップにハチミツを少したらしてから、半分ほど注ぐ。

そしてレンジでチン。

最後にスプーンでかき混ぜてできあがり。

トレイにのせて乃々チャンのところにもどる。

「ホントはお鍋でつくりたいんだけど、事務所は火気厳禁だからね」

カップを差し出す。

「ありがとうございます……」

受け取りながら乃々チャンが言う。

しばらく二人でだまってホットミルクを飲む。

「あ、おいしい……」

「それはよかったにゃ」

「それになんだかいいにおいがしますけど……」

それは特別なハチミツをつかってるからだにゃあ。
自慢げに言う。
実はラベンダーのハチミツを使っているのだ。
ちょっとお高いけど、気分を落ち着けるときにはバッチリだし。
これは必要な贅沢だにゃ。
「それで……どうしてプロデューサーチャンから逃げてたのかにゃ?」

カップをテーブルに置いてきいてみる。

「それは……」

言葉に少し詰まったものの、乃々チャンはぽつりぽつりと話し始めた。

プロデューサーにライブの予定を勝手にたてられたそうだ。
そのまま、なし崩しにスケジュールが進んでいった。
そして今日、ライブの衣装が届く。
いっぱいいっぱいだった乃々チャンは、この衣装さえ無ければライブをしないでいいと思ってしまった。
だから、衣装をもって逃げ出した、そういうことらしい。

そっか……あのライブの話、乃々チャンに了解とってなかったのか……。
プロデューサーだけノリノリでおかしいとは思ってたけど、やっぱりそうだったか。

「ふんふん……そんなにライブだめなのかにゃ?」

「はい……でも……」

「でも?」

乃々チャンの言葉を促す。

「プロデューサーさんは、もりくぼがむーりぃーっていくら言っても聞いてくれないんです……」

まあ、プロデューサーもあれはあれで頑固な所があるし……。

「乃々チャンはどうして自分がライブできないと思うかにゃ?」

「……だって、もりくぼは、大勢の前に立てるほど歌もダンスもうまくないですし、かわいくないですし……」

この自己評価の低さ、どうにかならないものかにゃあ。
それでもアイドルを続けさせてるプロデューサーが凄いのか。

さて、みくが今、先輩としてしなきゃいけないのは……と。
「乃々チャンはみくのことどう思うかにゃ?」

「すごいアイドルですけど……」

「じゃあ、そんなみくをプロデュースしてるプロデューサーチャンはどうかにゃ?」

「すごい……かな?」

疑問系なんだ……まあいっか。

「そのスゴイプロデューサーチャンに見込まれたアイドルはどうかにゃ?」

みくの言いたいことがわかったらしい、乃々チャンは黙っている。

「乃々チャンは自分を信じられないかもしれない。
 でも乃々チャンがスゴイアイドルになれるって信じてるプロデューサーチャンをもっと信じてもいいんじゃないかにゃ?」

「ですけど……」

乃々チャンは言い切れず口ごもった。
「さてと、これでみくからのおはなしはおしまい」

空になったマグカップを持って立ちあがる。

「それから乃々チャンに悪いけど、プロデューサーチャンを呼んでおいたにゃ」

「えっ……!?」

味方がいなくなったと思って乃々チャンの顔が曇る。

「みくは朝からのお仕事で疲れてて帰るから、あとはふたりでじっくり話すにゃ」

非情かもしれないけど、これから先は乃々チャンの問題だ。
みくが無理矢理励ましてアイドルを続けさてるんじゃ意味がない。
自分で決めなきゃいけない。
また逃げ出すのか……それとも……。

カップを洗って、事務所を出る。

「じゃおつかれさまにゃ」

「……おつかれさまです……」

力の無い声が返ってきた。

「そうそう、スゴイアイドルのみくも乃々チャンのことは信じてるにゃ」

――――――――――

ドアの向こうにプロデューサーがいた。
どうやらみくたちの会話が終わるまで待っていてくれたらしい。

「じゃあ、あとは任せたにゃ」

「悪いな、みく」

 先輩として当然にゃ、と軽口で返す。

「それより乃々チャン、あんまり追いつめちゃダメだよ」

「わかってるよ」

じゃまた明日、そういって別れた。

――――――――――

帰り道、メールの着信を告げる音が鳴る。

プロデューサーからだった。
どうやら乃々チャンを説得できたらしい。
最後に、ありがとう、とメッセージ。

返信するか迷っていると、またメールが来た。
乃々チャンからだ。
お礼とアイドルをもうちょっと続けてみようと書かれていた。

こちらは返信しておく。


――乃々チャン、いっしょにアイドルがんばるにゃ! ――




おわりだにゃ
SS書き終わりましたみくにゃんのファンに戻ります


やだ……ウチのみくにゃん、可愛すぎ……!

いろいろネタ扱いされるみくにゃんですけど、まっすぐにアイドルを頑張るいい子だと思います

08:30│前川みく 
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