2015年01月08日

「真のグルメ」


遅く起きた朝。

時計を見ると既に10時を回っている。

母さんはとっくに朝食を下げ、父さんは仕事に出ていた。





冬休みに入り、仕事も休みの今日。

とりあえず寝間着から着替え、日課のランニングをこなそう。

みっちり二時間走ったらちょうどお昼時になるし、そのまま外で昼食を摂るのもいい。

うん、そうしよう。





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思い立ったが吉日、すぐに運動着に身を包み、母さんに昼食はいらない旨を伝えて家を飛び出した。

雲ひとつ無い快晴。



風も弱くスッキリとした天気の中、家を出て河川敷まで走る。

そのまま土手を走って走って走り続けた。



ともすれば耳の痛くなるような寒さの中、こうやって走るのがボクは好きだった。



真「ふぅ」





きっちり二時間走っていい汗をかき、河川敷から家までの道のりを、ジョギングで流す。

クールダウンは大事だ。



突然止まったり、歩いたりすると最悪の場合倒れてしまう。

だから、走る速度を緩めながら徐々に歩くようにしていくのが良いと、父さんから教わった。



たっぷりの運動の後はお腹が空くもので、今ボクは、家に帰りがてらお昼ごはんを食べられる所を探している。

家の近所だから食べられる物は限られるけど、今の気分では何がいいだろうか。



ジョギングから歩きへと変わり、のんびりと街中を歩く。

道行く人は皆忙しなく、師走とはこういうことなのかと思いふけった所で、鼻腔を刺激する匂いに気づいた。

スパイシーで、心惹かれる香り。



カレーだ!





通りに面したお店から漂うこの香りに、そして運動後の、ともすれば今日何も食べていない身体には抗うことは出来ず、匂いに誘われるまま気づくと扉を開いていた。



店員「イラッシャイマセ」



店に入って出迎えてくれたのは、日本人ではなくアジア系の外国の人。

内装も、所々に仏様の絵や、像が飾られていたりと、異国情緒を感じさせる。

二人がけのテーブル席に通されると、すぐに水を運んできてくれた。



片言の日本語ながら、丁寧な接客をしてくれている。

一所懸命な感じが伝わってきて、とても好印象だ。



真「さて、何を食べようかな」





備え付けのメニューを見ると、どうやらランチセットメニューがあるようだった。

カレーと言えばインドというイメージだが、この店はネパールカレーのお店みたいで、たまたま選んだ店ではあるが思いがけない出会いは嬉しくなる。



ランチセットメニューはAからDまであり、Aは順に値段が上がっていっているようだ。

上の等級になればその分セットの内容も増えるので当然だろう。

ランチ以外のメニューにも目を通してみたが、単品だとそれなりに値は嵩むし、なにより初めて来た店で冒険する勇気はない。

なのでここはセットを頼むのが無難だと思い、Bセットを頼むことにした。



真「すみません」



食べるものを決めて、手を上げて店員さんを呼ぶと、すぐに来てくれた。





店員「ハイ、ナニニシマスカ」



真「このBセットを一つ。辛さは中辛で」



メニューには0〜10段階で辛さが選べるようになっていて、更にその上にも30とか50とか、最大で100までの辛さが設定されていた。

100辛とかもう想像つかないな……。



店員「アリガトウゴザイマス、Bセットヒトツ。ライストナンハドッチシマスカ?」



真「ナンでお願いします」



注文を受けた店員さんはすぐさま厨房へオーダーを通している。

こういうところに来たら、やっぱりナンで食べたくなる。





ちなみにAセットはシンプルにカレーとナンかライスとサラダのセット。

Bセットはそれにラッシーが付く。



真「このパパダってなんだろう……?」



B以上のセット全てに付く謎のメニュー、パパダ。

凄くインドとか、そっち方面の雰囲気を感じる名前だが、名前からどういったものか全く想像がつかず、メニューに写真も載っていない。

注文する時に聞いてみればよかったな。



料理が来るまでに持て余してしまったので、なんとなく店内を見渡してみる。

昼時ということもあり、お世辞にも広いとはいえない店の中は客で埋まりつつあった。

ボクが来た時はピーク直前だったのだろうか。

席に着いてからもひっきりなしに客がやってきている。

人気のお店なのだろう。





料理が来るのを待っていると、店員さんが陶製のカップを持ってきた。



店員「サービスノスープデス」



薄く濁りのある半透明のスープが運ばれてきた、テーブルに置かれたカップから湯気が立ち上っている。

礼を述べてからカップを持ち上げて、ふーふーと息を吹きかけ冷ましてから口を付ける。



真「あっつい!」



息を吹きかけて冷ましたくらいじゃ全然きかないくらい熱い。

しかし、味は旨い。

生姜が入っていて、寒い日には身体が温まってぴったりだ。





暫くスープを楽しんでいると、サラダが運ばれてきた。



箸は無いのでフォークでサラダをつつく。

黄色いドレッシングのようなものがかかっており、カレーの味がするのかとおもいきやそうでもなく、何だか不思議なドレッシングだった。

サラダをつつき続けていると、お盆に載せられてカレーとナンとラッシーが運ばれてきた。



ナンがでかい。



お盆から前も後ろもはみ出している。



メニューによるとカレーはポークカレーのようだ。





両手を合わせ、スプーンを親指と人差し指の間に挟んでから



「いただきます」



そう宣言してからまずはスプーンでカレーをひとすくい。

ナンにつけずに一口。



真「あ〜……んっ……ん〜! あんまり辛くない!」



以前行ったインドカレーのお店では中辛でも結構辛かった覚えがあるが、これはそこまででもなく、マイルドな辛さだった。



お待ちかねのナンはまだ熱を持っていて、柔らかくちぎりやすい。

二口分くらいのサイズにちぎって、カレーの中へ。

白いナンが、朱色の衣装を纏って口の中へ入ってきた。





真「はぐっ……んむっ……んっ!?」



美味しい。

カレーとの相性がいいのもさることながら、単純にナンだけで美味しいのだ。



真「もっちもちだ……あぐっ……んぐっ……ほいひい……!」



残った一口分はカレーに付けずに食べてみた。



真「んむっ……んぐっ……んっく……ぷぁ……」



何も付けずに食べるナンがこんなに美味しいとは思わなかった。

軽く衝撃を受けていると、ナンに隠れて小皿の上に謎の物体があることに気づく。



薄焼きせんべいのような色をした、半円状の物。



真「なんだろう、これ……?」





思い当たるフシとしては、パパダと呼ばれる物だが。

とりあえず手に取ってみる。

特に匂いはなく、少し力を入れるとすぐに割れてしまった。

見た目以上に脆いようだ。



とりあえず割れた欠片をひとつ、恐る恐る口の中へ。



真「あ〜むっ……」



カリカリとした食感だった。

まるでお菓子みたいに。

しかし、ものすごく味が濃く、そのままでは感じなかったのに、噛むことによって香ばしさが口内で爆発的に広がった。



初めは食べるのが少し怖かったけど……。悪くない、決して悪くないぞ。





濃い味同士だからカレーとは合わないけど、サラダを乗せて食べたら意外なくらいに良く合った。



真「はぐっ……んぐんぐ……はぁ」



小さなパパダはあっという間に無くなり、それに合わせてサラダも無くなった。



真「こんなに美味しいとは思わなかった……」



ここで一度ラッシーに口を付ける。

シンプルなヨーグルト味のラッシーは、口の中のカレーやパパダの味を全部洗い流してくれた。

もしもカレーを辛くしていたら、辛さも一緒に洗い流してくれるんだろう。





さて、ここで箸を、もといスプーンをカレーに戻す。

ポークカレーなので、ルーの中にゴロゴロとした豚肉が入っている。

よく見ると、細長い野菜のような物の姿も。

気になってすくって食べてみる。



真「はむっ……あむっ……むはっ……これ、生姜だ!」



食前のスープ、そしてカレーにも生姜が入っている。しかし、生姜特有の辛味がするわけではなく、味付けのアクセントとしての生姜味にとどまっていた。

これならば生姜が苦手な人でも食べやすいのではないだろうか。



真「は〜むっ……ん〜、お肉もやらかい……まぐっ……んっく……」





一口大の豚肉はよく煮込んであるのかとても柔らかく、噛むとほろほろと崩れ、しかし味わいがぎゅっと閉じ込められている。

スプーンで肉をすくってナンに乗せ、かぶりつく。

ナンの柔らかさと旨さ、そこに肉とカレーの旨さがそれぞれ喧嘩せずに交じり合っていた。



真「あむっ……はむっ……んっく……ぷはっ」



カレーを食べ、合間にラッシーを飲んで口の中をスッキリさせる事で、最初の一口目のような新鮮さを保てる。

そんな風に食べていたらあっという間にカレーもナンも最後の一口を残すだけとなっていた。



真「は〜むっ……んぐんぐ……んっく……はぁ〜。ごちそうさまでした!」



全く手付かずだった水を最後に飲み干し、口元をティッシュで拭って一息つくと、来た時よりも店内に人が溢れている事に気づいた。

混雑時に長居しても迷惑になるのですぐに出ることにしよう。





伝票を掴んでレジまで行き、会計を済ませる。



店員「961円デス」



真「えっと、あ、じゃあちょうどで」



店員「アリガトゴザマス」



真「ごちそうさまでした! 美味しかったです」



扉を開けると、朝と違って冷たい風が吹くようになっていた。

ランニングとカレーとで、沢山の汗をかいた身体に風が心地よい。



すっかり温まった身体を冷やし過ぎない内に家に帰って、あっついシャワーを浴びよう。





おわり



08:30│菊地真 
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