2015年01月20日

小関麗奈「お年玉袋を使ってイタズラしてやるわッ!」


 家族や親戚に貰ったお年玉袋から中身を全て取り出し、アタシはほくそ笑む。



 例年と比べてもかなりの金額になった。これなら今年はますますイタズラにお金が掛けられそうだ。





「愚民達もようやくレイナサマの偉大さが理解できたみたいね。アーッハッハッ……ゲホゲホッ」



 高笑いの途中で咽せてしまい、慌てて息を整える。



「ふぅ、それにしてもこのお年玉袋、このまま捨てるには少し勿体ないわね」



 机に並べられたそれらを見て、アタシは考える。それからしばらくして。



「フフン、いいことを思い付いたわ。この袋を使ってイタズラしてやるのよ!」



 差出人をアイツにしてアイドル達にプレゼント。



 アイツからのお年玉ってことで大喜びで開けたら中身は……でガッカリという作戦よ。



「我ながらアタシの非道さに戦慄が走るわね……ふっふっふ、こうなれば悪は急げで早速実行するわッ!」



 それにしても……。いつか役立つかと思って練習しておいたアイツの筆跡コピーの特技がこんなところで役に立つとわね。



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「まずはやっぱりあの女に仕掛ける袋から作るべきね」



 アタシがアイツにイタズラしようと近付く時に無言でじーっと見てくるのよね。



 それがちょっと怖……フ、フン! アタシがあんな女を恐れるわけがないわ!



 そう、全く怖くないからあんな女にはアタシの服に付いてたゴミで十分よ!



 わくわくしながら袋を開けても何も出てこない。



 不思議に思って中身を覗いたら、糸くずがぽつんと袋の底に。



 ――ま、まゆは貴方にとってゴミみたいな存在ってことですかぁ……?



「絶望するあの女の顔が浮かんで良い気分だわ、アーッハッハッ!」





「次は留美に仕掛けるお年玉袋を作ることにするわッ!」



 留美は自分の年齢のことを気にしてるみたいだから……。



「ふっふっふ、思い付いたわ!」



 アタシは机の上からメモ用紙一枚とマジックを取り出す。



 あとは文字を書いて、と。よし、これで完璧ねッ!



 袋を開いたら入っていたのは一枚のメモ用紙。そこに書いてあったのは……。



 ――わ、私はそんな年齢じゃないわ……まだ子供どころか結婚もしていないのに。



「袋の中身を見た瞬間にショックで崩れ落ちそうね、アーッハッハッ!」



「次は誰に……そうだ、泉にするわ」



 中身は、そうね……。



 部屋の掃除ついでに不要なおもちゃを押し付けてやるわッ!



 子供に大人気だからって親戚のおじさんがくれたけど、誰でも喜ぶと思ったら大間違いなのよ!



「大体アタシはそんな年齢じゃないってのに……」



 アタシですら不要なんだから、アタシより年上の泉だったらもっと要らないに違いないわねッ!



 ――えっ? あの人には私がこんなおもちゃで遊んでる子供に見えてるのかな……。



「子供扱いされてるんだと知って落ち込む泉の顔が今から楽しみね、アーッハッハッ!」



「四人目は年下の癖に生意気なありすに決定よッ!」



 こっちが何か言うとそれをクールな顔で訂正してきたりしてッ!



 思い出したらムカムカしてきたわ。私は何でも知ってます(キリッ みたいな顔しちゃって!



 なーにが「はい論破」よ、ぐぬぬぬぬ。全部タブレットで調べた知識の癖に!



 ありすには……クククッ。



 うっかり折ってしまって慌てて部屋に隠した門松の枝先を送りつけてやるわッ!



 証拠隠滅も出来て、まさに一石二鳥というやつね!



 ――あの人はどういう意図を込めたのでしょうか。本人に聞いてガッカリされたくないし……。



「意味なんかないのに悩み続けるありすの姿はさぞかし滑稽に違いないわね、アーッハッハッ!」



「最後のターゲットは、凛に決めたわッ!」



 凛は三代目のシンデレラガールなのよね……あ、そういえば。



 シンデレラからふと連想したものがあって、アタシは机の中を漁る。



 ややあって見つけたのは、前に仕事先の人から貰った封筒だ。



 中にはシンデレラ城がシンボルになっている遊園地のペアチケット。



 ただし有効期限は去年12月31日。つまりは時間切れ。まさにお似合いだわッ!



「ふっふっふ……」



 アタシはイタズラにこういうネタも仕込めるのよ、何しろレイナサマだからねッ!



 ――期限切れのチケットなんて押し付けてきて、どういうつもりなんだか。



「いつもクールな表情を崩してイライラしてる凛の顔が浮かんでくるわ、アーッハッハッ!」



 あとはこれを朝一番に事務所に行って、みんなの個人ロッカーの扉にでも貼っておけば完璧ね。



 ああ、早く反応が見たくて待ちきれないわッ!



 ***



「あらぁ……?」



 事務所に着いて、自分のロッカーの前に行くとそこにはお年玉袋。



 セロハンテープを綺麗に剥がし、貼り付けられた扉から外して裏をめくる。



 そこにはあの人の名前。



「まあ……」



 その文字を見て、まゆの心が嬉しい気持ちでいっぱいになる。



 ちょっとだけ筆跡に違和感があったけれど、そんなことすら気にならないくらいに。



「使うのは勿体ないから、部屋に飾っておこうかしら?」



 そんなことを呟きながら、お年玉袋を開ける。



 すると――――中に入っていたのは、赤い糸。



「これは……うふふっ」



 まゆはあの人がこれを送ってくれた意図に気付いて、最高に幸せな気分になる。



 ようやくまゆの想いに応えてくれる気になったんですねぇ……。



 改めて、手のひらの上の赤い糸を見る。



 運命の赤い糸みたいに二人の小指を繋ぐには余りに短い。



 だからきっと、お互いの小指同士をくっつけて一巻きして結ぶのが精一杯。



 ――これは、少しも離れたくないって意味かしら?



「あぁ……嬉しい。まゆ、もう絶対に離れませんよぉ……ずっと、ずっと、永遠に……」



 ***



「こ、これは……」



 私は自分のロッカーに貼り付けられていたお年玉袋の中身を見て絶句する。



 ――もう、お年玉なんて貰うような年齢ではないのだけど。



 そんな風に苦笑しながら、それでも愛しい彼からの贈り物に心は躍って。



 開けてみれば、そこには一枚の紙。 



 “なんでもいうこときく券”



 まるで私が子供の頃に両親に送った“かたたたき券”みたいだ。



 彼の子供っぽさに、私は微笑ましくなる。これではまるで私は彼のお母さん。



 けれど、当然ながら私と彼は母子などではなく、大人の男女。



 ――それは彼だって分かっているはずで。



 それなのにこんなものを送ってくれるなんて、つまりはそういうことなのだろう。



 遠回しな、私へのアプローチ。



「この券を利用する時の添付資料は、役所で貰えるあの紙でいいのよね?」



 ***



 お年玉袋の中から出てきたものを見て、私は驚く。



「これって、確か弟が欲しがってたやつだ……」



 弟くらいの年頃の子供達に大人気で、一時期は品薄でどこでも買えなかったっていうおもちゃのメダル。



 それにしても、私の弟にお年玉のプレゼントをくれるなんて。



 これは家族ぐるみの付き合いがしたい、って意思表示なのかな。



「もう、それならもっと早く言ってくれたら良かったのに……」



 そうすれば、親戚一同で集まった今年のお正月。みんなに彼を紹介出来たのに。



 まあ、けれど。別に急ぐことはないのだ。



 お互いの気持ちが通じ合っているのだと分かった以上、これから幾らでも機会はある。



 ――きっと、弟だけじゃなくて。私の両親も気に入ってくれるよ。



 だって、私の大好きな貴方のことなんだから……。



 ***



『回答頂いた皆様、本当にありがとうございました』



 私はタブレットで質問掲示板の回答者の皆さんにお礼を書き込んだ。



 お年玉袋の中身を見て、真っ先に思い浮かんだこと。



 けれども、万が一ぬか喜びだったら嫌だと思って質問したのだ。



『松の小枝を他人に送る行為に何か意味合い等はありますか?』



 そして返ってきた答えは。



 ――花言葉などはあるものの、松を送るという行為自体に特別な意味はない。



 つまり、ということは、だ。



「……楓さんじゃないんですから」



 私は一人呟いた後、思わず笑ってしまう。



 松、つまりは“待つ”――きっとブライダルのお仕事の時に訊ねた私の質問への答えだろう。



 どうせなら、こんな駄洒落めいた形ではなくて、二人きりで直接言って欲しかったというのはあるけれど。



「でも、そうなんだ……待ってて、くれるんだ……」



 私は自分の呟きを耳で聞いて、改めて実感する。



 これまでは、他の女の人と仲良く話してるのを見て嫌な気持ちになっても我慢していたけれど。



 もう、我慢する必要なんてないんだ。



 ――事実上、私達は婚約関係で。



 私と他の女性には、婚約者と赤の他人という絶対的な立場の差があるのだから。



 ***



 私はプロデューサーからのお年玉袋の中身を見て、悩んでいた。



 入っていたのは、遊園地のペアチケット。



 ペアで送ってきた以上、勿論そこには意味があるはずで。



 たとえばこれが三人分だったら、卯月や未央、或いは加蓮や奈緒と行くことを考える。



 しかし、二人分。……私と、もう一人。



 私はアイドルだ。こういうところに二人で行く彼氏なんていない。



 それはプロデューサーだって分かっているはずだ。



「……だとすると、やっぱりそういうことなのかな」



 うん、そうに違いない。それ以外には考えられなかった。



 アイドルの私がそんなの駄目だと思うけど。



「まあ、どうしても私と行きたいって言うなら……しょうがない、かな」



 そんな風に呟いて、ふとチケットの下の方の文字が目に入る。



 ――って、有効期限切れてるじゃん、これ。



「はぁぁ……」



 私は深い溜息を吐く。



 散々私を悩ませておいて、実は期限切れなんて……。



「ふふっ、もう……。変なところで抜けてるんだから」



 溜息を終えた後、思わず私の口から笑みが漏れる。



 私を誘う為にチケットを用意したのは良かったけれど、中々誘えなかったのだろう。



 ようやく決心してお年玉にかこ付けて誘った時には、肝心のチケットの期限が切れちゃっていた、と。



「まったく、しょうがないんだから……」



 やっぱりプロデューサーには必要なのかもしれないね。



 ――少しおっちょこちょいな彼を支えられる、しっかり者のパートナーが、さ。



 それはきっと、彼の最初のアイドルである私にしか務まらないと思うから。



「そうだよ……私が付いててあげないと。変な女に引っかかったりしたら大変だし、ね」 



 ***



「アタシとしたことが、ちょっと寝過ごしてしまったわ……」



 他のアイドルが来る前にと思って朝早くに事務所に来て、お年玉袋を仕掛けたから。



 眠たくて仕方が無くて、仮眠室で横になっていたのだ。



 少しだけ眠るつもりが、割とぐっすり。



 壁掛け時計を見れば、流石にもう皆来ている頃だろう。



「あー、失敗したわ、本当に」



 もしかしたら、もうお年玉袋のガッカリ感から立ち直ってしまっているかもしれない。



 危惧を抱きながら、アタシが仮眠室の扉を開いてみれば――――。



 目から光の消えた五人が、お互いを絶対零度の眼差しで見据える光景が広がっていた。



 アタシは見なかったことにして、扉を閉めて鍵を掛けて再び眠ることにした。



「それにしても今日は冷えるわね。毛布と布団だけじゃ全然足りないわ」



 ああ、身体が震える。本当に寒くて寒くて仕方がない。



 風も強くなってきたみたいね。



 ……それにしても不思議だわ。



 窓は静かなのに扉だけガタガタと揺れていて――。





おわり



20:30│小関麗奈 
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