2014年01月13日

道明寺歌鈴「12月31日夜 気温2℃」

アイドルマスターシンデレラガールズ
道明寺歌鈴のSSです


脇山珠美「道明寺の朝は早い」


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道明寺歌鈴「道明寺の朝は早い」
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脇山珠美「9月20日 月齢14.6」
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これらの続きとなります。

【ご注意】
前作、本作ともに百合を想起させる描写があります。
百合的要素が苦手な方は読まない方がよいと思われます。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388496424

誕生日が特別な日なのは確かな事です。
その人が生まれてきた祝福すべき日なのですから。
ですが、その日がたまたま他の意味を持つ日だったとしたら。
例えば、クリスマスに誕生日を迎える人にとっては、どうなのでしょうか?


「そうね……小さかったころは、プレゼントが誕生日とクリスマスにまとめられて、
なんだか損をした気分だったけど。
今は……そんなに嫌な気分ではないわ。だって、見ず知らずの人もなんだか幸せそうにしてるでしょ?
そんな幸せな日についでに祝ってもらえるなら、それはそれで気持ちのいいことじゃない」


クリスマスが登場日でもある柊 志乃さんは、パーティ会場で
限定もののワインを飲みながらそんなふうに答えてました。


「歌鈴ちゃんは……『ついで』じゃ満足できないかしら?」

「い、いえ、そういうわけでは………」

「ふふっ、いいのよ。私も歌鈴ちゃんぐらいの歳に思ったもの。
私を一番に祝ってくれる機会は、この先も無いのかなって。
でも……そのうちわかってしまうわ。祝う気持ちに一番も二番もないって。ね」

「そう、ですよね」

そう、祝ってもらう事に順位なんてあるはずはない。結局、気持ちの問題なのだから。
祝ってもらえる事を喜ばないといけませんよね。
そんなふうに考えている私を、志乃さんは覗きこんで問いかけてきました。


「……ねぇ歌鈴ちゃん。まだモノわかりよく我慢するには、早いんじゃないかしら?」

「えっと……あ、あの……?」


私は志乃さんに言われた意味がわからず、そのまま見返しました。


「たまには我儘言ってもいいんじゃない?言いたい言葉を飲み込むのは、
これと一緒に飲み干すようになってからで十分よ?」


そう言うと、志乃さんはワインをそのまま飲み干し、そのまま私のそばを離れて行きました。
志乃さんに言われた意味を、私はそれでも、心のどこかで、頑なに否定しようとしていました。
12月中旬
CGプロダクション事務所

「まぁ、以上がだいたいの概要だ。
前日リハーサルは午後からの予定だからな」


私、道明寺歌鈴とプロデューサーであるPさん、そしてなぜか珠美が
同席して、私の新年バースデーライブの打ち合わせをしています。


「で、今回のライブゲスト枠で、2曲だけだが『すず☆たま』で
パフォーマンスを行うことになった」

「えっ!そうなんですか?」

「あぁ、この所珠美も躍進しつつあるからな。
歌鈴のライブゲストとしても申し分ないだろうし」


この秋に、珠美は無事に大型の単独ライブを成功させました。
その時の衣装は、私のステージ衣装と似たデザインの、
和風テイストの衣装で、それをまとってのパフォーマンスは
小さい身体ながらとっても映えてました。
あれだけ成功したなら、もっともっと自信を持ってよさそうなのですが、
当の珠美は、
「い、いえ、珠美はまだまだ未熟ですよ」

「そう謙遜するな。この前の大規模ライブも大成功だったじゃないか」

「それはそうなんですが……うぅ、あの時の緊張感を思い出すと
まだ身体が震えてきます」

「ですけど、ライブでのパフォーマンスは見事だったじゃないですか」

「細かい所では結構失敗してるんですよ。まだまだ精進が足りません」

「ま、自己鍛錬もほどほどにな。とにかく、今はこのライブの事に
集中しておけ」

「は、はいっ!わかりました、P殿」


珠美は成功に慢心することなく、相変わらず高い目標に向かって
努力する姿勢を崩しません。


(まぁ、それが珠美のよさであり魅力でもあるんですけど……)


もう少しは成功した事に誇りをもっても良いと思います。
とはいえ、そんな珠美だからこそ、来年の、
私の新年バースデーライブに珠美が参加する事が出来るわけで。
無論、そのように手配して下さったのは、Pさんなわけで。
「ありがとうございます、Pさん。
珠美と一緒に舞台に出れる機会を下さいまして」

「まぁ、俺からのお年玉みたいなもんだ」


Pさんはちょっと得意げな顔で答えます。
その答えを聞いた珠美が、突然声をあげます


「あ、あのっ!P殿、その、お年玉は、珠美の分はまだ残ってますか?」

「ん?どういう意味だ?」

「そ、そのですね、P殿に相談といいますか、お願と言いますか…」

「ほう、珠美がねぇ。珍しい事もあるな。何だい?お願とは」

「新年ライブの前日リハ、午前にする事はできませんか?」


珠美のお願いごとを聞いたPさんが、一瞬驚いた顔をした後、
全てを納得した表情に変わっていきました。
なぜか私の方を見てから

「そうだな、まぁスタッフさんもゆっくり年越しを迎えたいだろうし。
いいだろう、それでスケジュール調整はかけておくよ。
で、珠美と歌鈴はそのあと、つまり31日の午後ははオフにする、
これでいいんだろ?」

「はいっ!ありがとうございます!」

「夜更かしはほどほどにな。元旦の午後には本番だぞ。
除夜の鐘を聞くぐらいはかまわんが、あまり遠くへ行かない事。
ま、そのあたりはわきまえてくれるよな?」

「もちろんです!珠美にお任せ下さい」

「あの……お二人はいったい、何の話を……」


私は特に会話を聞き逃したつもりはありません。ですが、
お二人だけがわかってるような内容で話が進んでいたので、
つい、口を挟んでしまいました。

「ん?なんだ珠美、まだ歌鈴をデートに誘ってないのか?」

「いえ、スケジュールが決まってないのに誘うも何も、
といいますかデートじゃありませんし!」

「デートじゃなければ何だ?」

「そ、それは……その、い、一緒にお出かけするだけです!」

「そういうのデートって言うんじゃ」

「それは異性とお出かけする場合ですっ!何をってるんですか。
ねぇ、歌鈴?」

「え、えっと、あの?」

「とりあえず、31日の午後はオフになったから、珠美と一緒に
デートしましょう、という話だよ」

「だから違います!一緒にお出かけですっ!」

「は、はぁ……」


お二人の会話に圧倒されてしまいましたが、つまり、大晦日に、
珠美と一緒にどこかへお出かけするという事がいつの間にか決まってしまったみたいです。

12月31日午後
某所駅前


あと数時間で今年が終わるという年の瀬。
駅前もどことなくせわしなさを感じさせますが、
それほど人通りは多くありません。
私は珠美からのメールで知らせてきた待ち合わせ場所に立っています。


メールと言えば、私の携帯のメール機能は、お仕事で使うので
Pさんに設定をしてもらっていましたが、
実際に使うのも仕事のやり取りだけで、Pさんやちひろさんぐらいしか
アドレスを登録していませんでした。

そんな私の携帯の、プライベートなメールアドレスの登録第一号は
珠美のアドレス。
最初に珠美から来たメールには、

『これからもメールしますから、よかったら返事ください』

と書かれていました。

それから、時々メールでその日あったことや、思った事なんかを
珠美とやりとりしています。
一度だけ、メールのやり取りが盛り上がって、楽しくて、
終わるタイミングを失って、ずるずるやり取りすることもありました。

さて、今回のお出かけのおさそいメールには

『必ずあたたかい格好で来てください』

そう文面にそえられていたので、藍子さんと相談して、
今日はいつもよりふんわりとした感じの衣装でコーディネイトしてみました。
藍子さんには『がんばってね』と言われましたが、
私は何を頑張ればいいんでしょうか?
そう物思いにふける私に、珠美が声をかけてきました。


「お待たせしました」

「いえ、私も今来た所ですよ。ってこれでは本当にデートみたいですね」

「で、ですから、ただ一緒にお出かけするだけですってば」


そんなふうにてれる珠美の今日のスタイルは、学校の制服にダッフルコート。
竹刀と大きな衣装バックを肩に掲げています。
そういえば珠美の制服姿を生で見たのはこれが初めてかもしれません。


「制服もお似合いですね」

「そうですか?まぁ、確かに制服を着てると、中学生に見られる事が
少なくなるのですが……」

コートの襟元を少し開いて、自分の制服姿を確認する珠美。
そんな仕草が、ちょっとどきっとさせます。


「それで、今日はどこに連れて行って下さるのですか?」

「そうですね、歌鈴にとっては寒くて冷たくて、痛いかもしれませんけど、
そんな所でもいいですか?」

「はい?」


ちょっと意地悪そうな顔でそう答える珠美を見ながら、
果たしてどんな所に連れて行かれるのか、正直、ちょっとだけ、
ほんの少しだけ不安になってしまいました。

12月31日午後
某高校敷地内剣道場

ブン、ブン、ブン

珠美をはじめ、高校の剣道部の皆さんが並んで竹刀を振っています。
今日が稽古納めということのようです。
私は道場の板の間の隅で正座して、珠美の事を見学しています。


「すいませんね。本来なら客人に座布団の一枚でも用意すべきでしょうけど、
うちにはそんなものが無いもので」

「い、いえ、こちらこそ突然の訪問で申し訳ありません」

「いや、脇山から今日見学者を連れてくるという話は聞いていたんだが……
まさか今をときめくアイドル道明寺さんを連れてくるとはね。
とはいえ脇山もアイドルだから、考えておくべきだったか」


そう話しかけてきたのは、この女子剣道部の部長さんと紹介された方です。


「足、大丈夫ですか?辛ければ崩してもかまいませんよ?」

「ええ、大丈夫です。板の間での正座は慣れていますから」

「そういえば道明寺さんはご実家があれでしたね。
そうそう、ご実家といえばこの前の奈良遠征の際は
本当にご迷惑をおかけしました。
まったく、うちの教員顧問はどうも抜けていましてね。
宿泊人数をきちんと数えられなかったみたいで。
『数学教師のくせに数もきちんと数えられんのか!』と〆ておきましたよ」


部長さんは冗談めかしてお話し下さいますが、その目は笑ってないように
見えました。
「……あの奈良の遠征試合の時、ちょっとひと悶着ありましてね。
脇山の事だから、少々時間はかかるとしても、
いずれ部に戻ってくるとは思ってたんだが……
遠征から戻ってすぐに部活に来るとは思わなかったよ。
あの時から、脇山は確かに少し成長しました。
相変わらず独りよがりな所はあるけれど、少しは話を聞いたり、
自分の事を話すようになりました」

「そうですか……」


それは、私の知らない珠美の姿。私は、珠美が剣道の部活をしていることは
知っていて、奈良の試合で、部活の仲間に責められたことも知っていて。
だけど、それからどうなったのか、きちんとお話を聞いていませんでした。

(まだ……まだまだ、私の知らない珠美の姿があるのですね……)


「脇山は……私にとってもかわいい後輩です。本当は、もう少し
面倒をみてあげかったんですが、実は私は今日で引退なんですよ」

「えっ?そ、そうなんですか?」

「ええ。次の部長は、ほら、今脇山と試合をしている娘。
奈良の時も選手権出場を競い合った奴でね。
あいつも負けん気が強くてね。ただ、負け惜しみは言わなくなりました。
今では部の中では脇山の一番の理解者ですよ」
練習試合をしてるのでしょうか。いつの間にか防具をつけた珠美が、
ちょうど試合をしていました。部の中でもやっぱり一番小さい珠美は、
防具をつけてもすぐにわかります。


「……今日は脇山の負け、か。いい試合だったけどね」

「あの、私は、剣道の事は詳しくないんですけど、珠美、けっして
筋が悪いわけではないですよね?」

「確かに剣道の筋は悪くはないんだが……」

「ですが、いまだに段が取れないとこぼしてまして……」

「あぁ……それは、ですね……うちの特別顧問が悪いと言いますか……」


そう言って、部長さんは上座に座る、白髪の方をちらりと見ます


「道明寺さんは、『心・技・体』って言葉はご存知ですか?」

「いえ、詳しくは……」

「例えば、剣道の1本を取るというのは、ただ竹刀を相手に
当てるだけでは駄目で、心と身体と技がきれいに重なるようにして
当てない限り1本にはならないんです」

「はぁ……」

「で、脇山の場合、このバランスが非常に悪い。
まぁ、仕方がないところもあると思う。脇山はまだまだ成長するだろうし。
ただうちの師範、あの特別顧問はどうも脇山を気に入ってるようで……
あそこまでバランスが悪いのは逆に大物になるぞ、なんて言い出してしまいまして。
心・技・体を小さくまとめるのはもったいないと、
もっと育つまで段はやらんといってるんです」


部長さんは、この話は脇山には内緒ですよ、と、
片目をつぶって小声でささやきました。

「私が脇山の事構ってやれるのは、あと少しです。
道明寺さん、どうか脇山の事、これからもよろしくお願いできますか?」

「……ええ、お任せください」

「まぁ、我が部には脇山のファンが大勢いますから、大変かもしれませんけど」

「それは、どういう意味で……?」

「まぁ、見ててください。もうすぐわかりますよ」


丁度試合が終わったのか、全員正座し、各々防具を外します。
珠美も面を外します。
その面を外した珠美の顔は、頬が少し赤く上気していて、
額の手拭いに収まりきらなかった汗が少し流れ落ちて、
それでいて、とても満足した、満面の笑みを浮かべていて。
その可愛さと、微妙な艶めかしさが合わさった珠美を見て、
私は、またもどきっとさせられるのでした。


「あれにはまいるよね、ほんと」


どうやら、部長さんもどきっとさせられているようでした。
あんな珠美をみたら、確かに誰でもファンになるのもうなずけます。

(あの姿をPさんが見たらどう思うでしょうか。どうプロデュースに生かすか
いろいろ考えるでしょうね)

ですが、私には、この剣道をしている珠実は、アイドル活動とは別の世界の、
ここだけの、ここで見るからこそ価値があるような、
そんなふうにぼんやりと思っていました。

12月31日夕刻
某所門前町、商店街

「はぅ……最後の最後に盛大にやってしまいました……」

「まぁいいじゃないですか、師範も笑ってましたし」

「そうなんですけれど……ごめんね、珠美」

「あやまる事は無いですよ。結果オーライなんですから」


稽古が終わり、最後は剣道場の掃除と言う事になったのを聞いて、
私は居てもたっても居られず、お掃除を手伝わせてくださいと名乗り出ました。
何しろこの所広い所を掃除する機会がありません。
この道場の床をぞうきんがけするのがとても楽しそうに思えて、
みなさんが困惑するにも関わらず意気揚々とバケツに水を汲んで……

結果、見事に足にバケツを引っ掛けて、盛大に水をぶちまけてしまいました。

私は必死にあやまります。なぜか珠美も一緒になって頭を下げています。
そんな私たちに師範さんは

『あっはっはっはっは!いや、年末にふさわしい豪快な掃除になるな!
なぁに、気にする事は無い。どうせぞうきんがけをするんじゃ。
ちまちま濡らしていくより、一気に皆で拭いて行く方が速かろう。
ほれ、皆もぼーっとせずさっさと床を拭きあげい』

そういって笑って許して下さいました。
師範さんが笑って下さった事で、みなさんにあった微妙な雰囲気も
なんとか和らぎ、最後はつつがなく掃除を終わる事が出来ました。
学校を出る際に珠美は普段着に着替えて、道着と制服の入ったバックは
駅のコインロッカーに入れていきました。


「さすがに竹刀は入りませんね」

「もとよりこいつは持ち歩く予定ですから。
他の人に当てないよう注意は必要ですけれど」

「そういえばお仕事の現場にもよく竹刀を持ってきますね」

「ええ、こいつが無いとどうも落ち着かなくて。
P殿にはよく怒られますけどね。『アイドルは竹刀なんか持ってないぞ』って。
ですが、この竹刀は珠美が剣道を始めた時からずっと付き合ってきた、
珠美の剣の歴史を知る、珠美の相棒、いわば半身みたいなものです」

「ほんとに大事にされてるんですね」

「そうですね、珠美にとって大事なお守りのようなものですね」


そんな事を話しながら、珠美がおすすめの蕎麦屋へと足を運びます。
今日は大晦日、蕎麦屋さんも大繁盛でしょうから、多分待つ事になるかも
しれませんと珠美は言ってましたが、運がよかったのか、ちょうど入れ違うように
席が空いて、ほぼ待つことなく席に座る事ができました。

「私は……そうですね、山菜そばで」

「珠美はにしんそばにしましょうか。あ、定食にすればおにぎりが付きますけど、
歌鈴はどうします?」

「私は今日はそばだけで十分ですよ」

「では珠美は遠慮なくにしんそば定食で。
ここはそばは手打ちですしご飯も美味しくて、練習の後によく寄るんですよ」


こじんまりとした店内の片隅にテレビが付いています。
年末の特番に、ちらほら同じ事務所の先輩アイドルが映っていて、
みなさんがすごく一生懸命にお仕事されているのをぼんやり見ながら
お料理を待っています。


「蕎麦屋といえばですね、珠美にはひとつ野望があるんですよ」

「野望、ですか?」

「ええ、大人になって、お酒が飲めるようになりましたら、
蕎麦屋でお酒を頼んでみたいんです」

「お蕎麦屋さんで、お酒飲をむんですか?」

「ええ、それも昼過ぎ、そうですね、3時ごろとか、それぐらいの
時間にふらっと寄って、お銚子を一本付けてもらって。
その日の肴に舌鼓を打ちながら、という感じなんですが……」

「なんだかいけない感じがしますね。そんな明るい時間からお酒なんて」

「ええ。でも昔はそういうのが普通で『粋』というものだったようですよ?」

「そうなんですか?」

「はい。まぁこのあたりは、珠美の愛読書である『剣客商売』を
読んでの想像もまざっていますけどね」
「『剣客商売』ですか……テレビでもやってませんでしたか?」

「はい、藤田まことさんが秋山小兵衛をやってたTVシリーズが
有名ですね。原作は池波正太郎さんで、結構長いシリーズなんですよ。
この秋山小兵衛、すでに初老を迎えて、名前の通りすごく小柄なのですが、
剣の腕はものすごくたってですね、すごくかっこいいんですよ」


珠美はなんだか上機嫌で作品のことを解説します。
ひとしきり『剣客商売』の魅力をお話し終わると


「あっ、す、すいません、時代小説の話なんて、あんまり
おもしろくありませんよね……」

「いえ、なんだか面白そうですね、興味がわいてきました。
今度読んでみますね」


それは別に偽りでもなく、元々珠美がどんな本を読んでいるか
詳しく知らなかったから手が出せずにいたんですが、
作者やタイトルがわかったのであれば、まずは読んでみたいと思っていたのです。
わたしがそう答えると、珠美はぱぁっと顔を輝かせ


「で、でしたら、丁度今日、ここに1巻があるので、
よければお貸しします!
あ!これはあくまでお貸しするだけですからね!!」


そう言いながらポケットからカバーのついた文庫本を出します。
私はそれを受け取ると


「はい、ではお借りしますね。読み終わったら、感想を
話し合うのも楽しいかもしれませんね」

「ええ、ぜひそうしましょう!!」


そう答える珠美はものすごく喜んだ笑顔で、すごくまぶしかった。
そんなやり取りの中、丁度お料理が来たので、二人でいただきます、と
割り箸を割りました。

「そう言えば珠美、今日はどうしてデ……いえ、このお出かけに
誘ってくれたのですか?」


私は、今日珠美と初めて一緒にお出かけする事ができて、
それは、とてもうれしかったのですが、
なぜ今日だったのか、
いえ、もしかしたら、とは思ってるのですが、
それでも敢えて確認してみたくなりました。
その私の問いに、珠美はきょとんとした顔で私を見ます。


「えっと、もしかして、珠美がお誘いした理由、
まだおわかり頂けて無いのでしょうか?
……いえ、先日、P殿を交えた歌鈴の新年バースデーライブの
打ち合わせの場で、だいたい分かったのではないかと思っていたのですが…」


そう言いながらだんだんと思案な顔になる珠美。
たしかにあのやり取りから、なんとなくそうなのかとは思っているのですが……
ここは、ちょっと意地悪してみましょうか


「はい、きちんと言っていただかないと、歌鈴はわかりかねます♪」


あえて笑顔でそう答えます。その答えに、珠美ははっとして私を見ます。

「そ、そうですね。いけません。また珠美の悪い癖が出てしまったようです。
確かに歌鈴の言うとおり、きちんと言わないといけませんでした」


こほん、とちいさく咳払いをして、珠美は姿勢を正します。


「その、あと数時間で歌鈴は誕生日を迎えます。
誕生日に大好きな人と一緒に居ないのは、意外と寂しい事を
珠美は存じております。珠美は、歌鈴の誕生日をいの一番に祝いたくてですね。
ですが、その、珠美も歌鈴が一番喜ぶプレゼントに悩んでしまいまして……」


てれて恥ずかしいのか、珠美はうつむきます。


「その、いろいろ考えてですね……普段の珠美を
見てもらう事が、一番喜ぶんじゃないか、と………
い、いえ!わかってます!!こんな自意識過剰な話はおかしいと!!!
ですが、他によいアイデアも無くてですね……
も、もし、こんなプレゼントで落胆されたのでしたら、本当に申し訳ない!!」


そう言って、珠美は両手をテーブルに乗せて、頭を下げます。

(やっぱり、そうだったんですね。よかった)

私は、今すごく幸せです。近づこうと思って、でも、臆病な私は、
どうしても普段の珠美に近づく事ができなくて。
珠美も奥手なのでしょうか、お互いまだまだ遠慮や気遣いが強すぎて、
お互いのプライベートな所に踏み込めずにいました。
その距離を、珠美は、勇気をもって、縮めてくれようとしてくれたのです。


「ということは、その贈り物は、日付が変わる先まである、という事ですね?」


私は、出来る限りやさしく答えます。
珠美は、おそるおそる顔をあげて、私を見ます。
その瞳に無くなっていた自信が、みるみる満ちていくことがはっきりとわかります。


「でしたら、受け取り終わったときに、きちんとありがとうを言わないといけませんね。
まだまだプレゼントの途中のようですから、今はまだ、ね?」

「はい!珠美からのプレゼントは、もう少しだけ続きますから」


私の笑顔に元気つけられたのか、珠美も、普段の笑顔に戻って、
にしんそばをあらためて手繰り始めました。
12月31日夜
某神社門前町付近

年越し蕎麦を堪能した私たちは、そのまましばらく商店街を歩いて、
近所の、わりと有名な神社へと足を向けます。

日付が変わるまでもう残り少なくなってきました。

(来年も変わらず、あけましておめでとう、そしてお誕生日おめでとう、なんでしょうね)

そう、私の誕生日、1月1日は元旦、1年の始まりを迎える、大切でおめでたい日。
だから、始まりのあいさつである『あけましておめでとう』は、最優先となります。
実家でもそれは変わる事はありません。特に、1年の中でもっとも忙しいその日に、
私の誕生日を落ち着いて祝ってもらった事は、あまり記憶にありません。
私自身も、一緒になって実家のお手伝いをするぐらいでしたから。

それでも、両親はきちんと私を祝って下さいましたし、その思いに
1番も2番も無い事はわかっています。
アイドルとしてデビューして、今年のバースデーライブでは
ファンのみなさんにもたくさん祝って頂いて。
来年も、きっと、たくさん祝ってもらえるのでしょうけれど。

(でも、『そして』という枕詞は、きっと消えませんね……)


「歌鈴、大丈夫ですか?寒くありませんか?」


誕生日に関する想いにふけっていた私に、珠美は心配そうに声をかけます。


(それでも、珠美は一生懸命私を祝おうと頑張っているんですから)

珠美を見て、私は、改めて、今は珠美と一緒に年越しをする事を
楽しむ事に心を切り替えます。


「ええ、大丈夫です。寒いのは強い方なんですよ?小袖と緋袴は
それなりに防寒性はありますけど、それでもやっぱり寒いですから」

「ですよね。この前着た時、道着より薄かったので、これで
寒空の中外に居たらかなり凍えるんじゃないかと思いました」

「それでも正月は冬なので、一番活躍の時なんですよ。
ですから、自然と寒さにも強くなってきました。
生まれも1月ですしね」

「なるほど。珠美は9月生まれですが、暑いのは
案外駄目かもしれません」

「珠美の場合、いつもエネルギッシュですからね。
少し寒いぐらいの方が全力が出せるのではありませんか?」

「まぁ、夏場の稽古とかは確かに地獄ですからね。
寒いぐらいが確かに全力が出せるかもしれません」 

二人して境内へと続く道に開かれた夜店をあちこち覗いて、
珠美は焼きイカとかトウモロコシを買い食いしています。
私もベビーカステラを頬張りながら、珠美と二人で、
夜店が照らすきらきらとした道を歩いて行きます。

遠くに鐘の音が響き始めます。
少しづつ人が多くなってきて、次第に身動きがしずらくなってきました。


「もうすぐ、日付が変わりますね」

「ええ」

いつの間にか周りは人であふれています、みなさん、祭壇に向かって
ゆっくりと歩いて行きます。その流れに、私たちも自然と乗って進みます。


――――そんな中――――


わぁっ!人々のざわめきが一瞬大きくなりました。
1月1日、元旦を迎えたようです。
あちこちで「あけましておめでとう」とあいさつを交わす声が聞こえます。
人の流れが少しずつ澱み、泊ります。
私は、珠美の方を向きます、珠美も私の方を向いてました。


「あけ―――」
「ちょっとまって下さい!!」


私が新年のあいさつをしようとした所を、珠美は手をあげて制止します。
そして、目をつむり、小さく息を整えると、
目を開き、私の大好きな自信に満ちた目で私を見据えて、




「誕生日おめでとうございます、歌鈴。そして、あけましておめでとうございます」




私にはっきりと、そう言って下さいました。


「珠美にとって、新年を迎える事より、歌鈴が生まれた事を祝う方が大切な事ですから」


茫然としている私に、いつも通りの自信に満ちた笑顔で、珠美は私にそう言いました。

(『そして』、が付かないだけなのに………ただそれだけのことなのに……)

私の視界がぼやけるのがわかります。
祝ってもらう事に1番も2番もありません、だけど、やっぱり、
2番目よりも、『そして』が無い、一番最初に祝ってもらえる方が、
こんなにもうれしくて、自分の事を見ていてもらえるような、
そんな満ち足りた気持ちにさせてくれる事を、
私は、ずっと望んでいたのかもしれません。


「か、歌鈴?大丈夫ですか?」

「い、いえ、すいません、とっても嬉しくて……っ……」


私は涙を拭います。そして、改めて珠美を見据えます。


「え、えっと。ありがとうございます!そして、あけましておめでとうございます、珠美」


顔は笑顔なのですが、うれし涙が止まりません。そんな私を見かねてか、
珠美はハンカチを差し出します。


「……珠美に泣かされてしまいました………」

「歌鈴だって何度も珠美を泣かしてるじゃないですか。おあいこです」

「まさか新年そうそう泣かされるなんて思いもしませんでした。
ですけど、うれし涙ですし、それはそれで幸せな事でしょうから」

「今年もたくさん泣いて、たくさんわらって、そうして共に進みましょう。
珠美たちはアイドル。どうせならトップアイドルを目指しませんと」

「そうですね。珠美、私と共に進んでくださいますか?」

「もちろんです。これからも、ずっと、よろしくお願いしますね、歌鈴」

「ええ、行きましょう、珠美」
周りの方々もひととおり挨拶が終わったのでしょうか。
祭殿へと向かう人の流れがまた動き始めました。
私たちも、その流れに乗って、祭殿の方へ向かい始めました。

祭殿の前の人だかりは今がピークかもしれません。
私は、珠美とはぐれないように、手をつなぎます。


「ちょ、ちょっと歌鈴!」

「だめですよ、この人だかりじゃ、もしはぐれたら
珠美を探し出せません」

「それは、そうですが……うう、やはりちっちゃいといろいろ不利です……」

「珠美は、私と手をつなぐのはお厭ですか?」

「そ、そういうわけでは……むむむ……」


暗くてわかりませんが、きっと珠美の顔は赤くなっているのでしょうね。

やっとの事でお賽銭箱の近くまで着ましたが、これ以上は進めそうもありません。
私たちは立ち止まると、ちょっと遠くからお賽銭を投げて、柏手を打ちます。

(これからも、ずっと、珠美と仲良くしていけますように。
そして、願わくば、CGプロのみなさんがアイドルとして輝けるように、
Pさんが、ちひろさんが笑顔でいれますように。
珠美と私が……トップアイドルとして輝けますように。
もちろん、その為の努力は、私も、きっと珠美も全力を尽くしますから)


そんな事を神様にお願いしてみました。


「さ、お願は済みましたか?」

「はい、珠美もきちんとお願しておきました」

「では、この人込みを頑張って抜けるとしましょうか」


私たちは再度手をつなぐと、出口の方に向かう人の流れにその身をまかせました。

元旦、午前零時を過ぎても、街中はまだそこかしこに賑やかで。
神社を抜け出した後、一旦駅に戻って珠美の荷物をロッカーから取りだし、
人通りもそれなりにある中、私たちは女子寮に向けて歩き始めてます。
空には星も月も見えず、厚い雲に閉ざされています。


「かなり冷えてきましたね。温かい格好をして良かったです」

「ええ、ここまで冷えるとは珠美も思いませんでしたが……」


吐く息が白いのがよくわかるほど冷たい空気の中、
何か白いものが視界の中を落ちていきます。


「……雪、ですかね」

「……雪、ですよね」


多分積もるほどではないのでしょうけど、小さな白い塊が
ぱらりぱらりと空から降ってきます。


「初雪ですね……」

「ええ、綺麗ですね……」


なんだか幻想的な風景の中、私たちは歩きます。

「そう言えばですね、新しい年を迎えたにあたり、
珠美は、新しい竹刀をあつらえることにしました。
このまま使い続けると、きっと近いうちに
竹が割れて使い物にならなくなると、先日師範にも言われましたので。」

「そうなんですか?」


珠美の半身でありお守りともいえる竹刀です。
ずっとそのまま使うものだと思ってましたけど……
寿命と言いますか、使い物にならなくなるのは
ちょっと悲しいですね。
そうなる前に、使う事は無いけれど、きっと
これからも珠美の半身としてあり続けるのでしょう。
そんなふうに思ったのですが、

「それでですね。この竹刀、珠美の使い古しなんですが、
歌鈴、良ければ受け取ってもらえませんか?」

「え、えええっ!!?
そ、そんな!駄目ですよ!!だって、その竹刀は珠美の
長年の相棒で、お守りで、半身で」

「だから、歌鈴に持っていてほしいんです」


うろたえる私に、珠美は真顔で答えます。


「この竹刀は、珠美が剣道を始めようと手に入れた日から、
歌鈴と出会う前の珠美と、歌鈴と出会った後から今日までの
珠美とともにありました。そんな珠美の思いの詰まったこの竹刀を、
大切な歌鈴に持っていてほしいんです」

「珠美の思いが詰まった竹刀、ですか……」


珠美は竹刀袋を少しほどくと、持ち手の所を出します。

「あれから何度か洗ってみたんですが、血の跡って落ちないものですね。
あの時、歌鈴が珠美を抱きしめてくれたから、まだ珠美は頑張れているんです」


愛おしいものを見る目で握り手を眺める珠美。
私も引き寄せられるようにその持ち手を触ります。


「出来るなら、いつでもずっと歌鈴のそばに居て、歌鈴を守りたいし
歌鈴に守られたい。それは無理だとわかってますから、せめて
珠美の思いを持っていて下さいませんか?」

「………わかりました。この刀、生涯私のそばに置いておきますね。
珠美の思いとともに」

「ありがとう、歌鈴」


珠美は再度竹刀を袋に仕舞うと、両手に竹刀を掲げて、私に差し出します。
私も、両手でしっかりと竹刀を受け取り、優しく抱きとめます。


「……珠美は卑怯です……」

「えっ!?な、何がでしょうか??」

「私には、こんな、自分の思いを託したものなんてありません。
これじゃ私はお返しのしようがありません」

「そのかわり、大事な約束を贈ってくれたじゃありませんか。
珠美にとってはこの竹刀でも足りないくらいだと思います」


果たしてそうでしょうか?私にはこの竹刀の方が
私の約束より大事な物のように思えるのですが……
このあたりはそれぞれの主観があったりなので、
言い出してもきりがないかもしれませんが……
そして、ふとある疑問が浮かびます。


「そう言えば、プレゼントならこの竹刀だけでもよかったんじゃないですか?」


そう言う私に、珠美は得意げな笑顔で答えます。



「いいじゃないですか。誕生日プレゼントは一つだけなんて決まりは
どこにもないんですから」



それは、去年の誕生日に私が珠美に言った言葉。

(私が贈ったのは、あの日の月と、今年の誕生日に一緒にいるという約束。
だから珠美は、この竹刀だけでなく、普段の珠美という贈り物を用意したんですね)


珠美はなんだかやりきった感じの笑顔になって、上機嫌で歩いて行きます。
そんな珠美を見て、私も幸せな気持ちなりながら、珠美の隣を歩きます。

「珠美、今日は本当にありがとうございました。素敵なプレゼントを三つも頂いて」

「えっ!?珠美は二つしか用意していませんよ?」

「いいえ、珠美は三つ、私に素敵な贈り物をくださったんですよ」

「はて??むむむ??いったいもう一つは何でしょうか??
あ!剣客商売はプレゼントじゃありませんからね!あれはお貸ししてるだけですから!」

「ええ、わかっていますよ」

「むむむむ……それではいったい、もうひとつは何なのですか?」

「さて、何でしょうね?」

「えーっ?教えてくれないのですか?」

「ええ、内緒です」

「そ、そんなぁ。教えて下さいよ、歌鈴、ねぇ、歌鈴、てばぁ」


珠美は縋るうにお願いしてきますが、しばらくは内緒にしておきましょう。
私が本当は欲しくてたまらなかった、一番に祝ってくれた事は、
きっと私の宝物に違いありませんから。


幻想的に粉雪がちらつく夜。私たちは和気あいあいと女子寮へ戻るのでした。

終わり
というわけで、なんとか歌鈴の誕生日に間に合わせる事が出来ました。


とにかく、リアルタイムで、日付が変わってすぐに、珠美にあのセリフを言わせたくて、
それを目指して頑張ってみました。



とにかく、みなさま
あけましておめでとうございます。

すず☆たま関連は、また何か思いついたら書こうと思います。

それでは、HTML化依頼、出しておきます。

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