2015年02月26日

貴音「新月」

〜765プロ〜



貴音「ふう……」



小鳥「お疲れさま、貴音ちゃん。はい、お茶」





貴音「これは小鳥嬢。お気遣い、感謝します」



小鳥「いいのよ。それより貴音ちゃん、どうしたの?」



貴音「……はて。何か気になることでも」



小鳥「えっと、その……どこか、疲れてるみたいだったから」



貴音「わたくしが、ですか?」



小鳥「あっ、ごめんね、急に。私の勘違いだったらいいんだけど」



貴音「……いえ。あながちそうとも言い切れないかも知れません」



小鳥「うーん……ねえ、貴音ちゃん。私でよかったら、話してくれない? さすがに、プロデューサーさんみたいには行かないと思うけど、少しくらいなら、力になれるって思うの」



貴音「小鳥嬢……真、ありがたきお言葉です。では、少し甘えさせていただきます」



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小鳥「気にしないでいいのよ。それで、どうしたの?」



貴音「小鳥嬢。今日が何の日か、ご存じですか?」



小鳥「えっ? 今日って、それは勿論……貴音ちゃんの、誕生日よね」



貴音「はい。一月二十一日……わたくしの誕生日です。先程のばーすでーぱーてぃーも、忙しい中、事務所のみなに祝ってもらい……わたくしは、この上なく感激いたしました」



小鳥「ええ。律子さんが頑張って調整してくれたのよね」



貴音「ふふっ。小鳥嬢も、ですよ」



小鳥「ええっ? 私なんて、そんな、大したことしてないわよ」



貴音「しかし、プロデューサーがはりうっどに渡ってからと言うもの、律子嬢と小鳥嬢がわたくし達を支えて下さっているのは、紛れもない事実です」



小鳥「プロデューサーさん……そうね、今頃どうしてるかしら。きっと、私達以上に頑張ってるんでしょうね」



貴音「……閑話休題といたしましょう。今日は、確かにわたくしの誕生日。ですが……もう一つ、わたくしにとって特別な日でもあるのです」



小鳥「もうひとつ? それって何かしら、貴音ちゃん」

貴音「小鳥嬢。窓から空を、見ていただけますか」



小鳥「空を? わかったわ……わあ、綺麗な星空」



貴音「はい、確かに。今日は一層、星達が輝きに満ちております。雲一つない夜を、遊び、喜ぶかのように……」



小鳥「あら? でも……月が、見あたらないわね。これって」



貴音「はい、その通りです。今日は……新月、なのです」



小鳥「貴音ちゃん。貴音ちゃんの元気がないのって、もしかして……」



貴音「……はい。そのことに関係しております。聞いていただけますでしょうか」



小鳥「もちろんよ、貴音ちゃん」



貴音「感謝いたします。では。……小鳥嬢。わたくしは、月を眺めることに至上の幸福を感じております」



小鳥「ええ、知ってるわ。貴音ちゃん、月、好きだものね」



貴音「はい。そして、あの方が去ってから、より一層、その時間は増えました。なぜなら月は、この世界のどこであっても、等しく浮かぶからです。

わたくしが見ているのと同じ月を、遠いかの地で、きっと、あの方も見ていると、そう思えるからです」



小鳥「そうね。どこにいたって月を見れば、プロデューサーさんならきっと、貴音ちゃんのことを思い出すんじゃないかしら」

貴音「……しかし、今日は新月です。月が夜を照らさぬ日です。

これがたとえば、何でもない日であれば、わたくしも耐えられたことでしょう。しかし、今日はよりによって……わたくしの、誕生日でした」



小鳥「えぇっ? でも貴音ちゃん。そんなの、偶然で」



貴音「わたくしも、そう思います。いえ、思いたかった。

しかしわたくしには、それがなぜだか、どうしても、あの方の心が、わたくしから離れて行く予兆のような気がしてならなかったのです」



小鳥「貴音ちゃん……」



貴音「……先程のぱーてぃー。みなの祝福は、確かに嬉しく感じました。しかし、わたくしの心のどこかには、常に、そのことが暗く疼いておりました。

みなの心からの想いを、純粋に受け取れないわたくしがいたのです。あの方のことを、気にする余りに……」



小鳥「……ねえ、貴音ちゃん。プロデューサーさんがそんな人じゃないって、貴音ちゃんだって、わかってるはずじゃないかしら」

貴音「それは、言うまでもありません。しかし……だからこそ、なのです」



小鳥「だからこそ?」



貴音「みなの想いも素直に受け入れられない。自身のプロデューサーを信じることもできない。わたくしは、なんて醜いのでしょう。

こんなわたくしを、いったい誰が、アイドルとして見てくれるでしょう。

今のわたくしを見れば、あの方も……プロデューサーも、きっと、わたくしを見捨ててしまわれることでしょう」

小鳥「……ねえ、貴音ちゃん。ちょっと、いいかしら」



貴音「小鳥嬢?」



小鳥「私ね。この765プロができてから、ずっと皆を見てきたわ。デビューする前から、トップアイドルになった今でも……それこそ、皆の出てる番組を全部見るくらいに」



貴音「ええ、存じております」



小鳥「そんな中で、貴音ちゃん。あなたは、とっても大きく変わったわ。一番といってもいいくらいに。

少なくとも、最初の頃の、全てが謎に包まれた“銀の女王”はもう、いないって思う」



貴音「それでは……やはり、私は、私の心は……」



小鳥「違うの、貴音ちゃん。最後まで聞いて。変わったと言っても、それは、普段の貴音ちゃんを見てるから思うことなの。

テレビで見る貴音ちゃんは、今でも相変わらず“銀の女王”よ」



貴音「普段の……わたくし」



小鳥「ええ。プロデューサーさんと出会ってからは、特にそうね。一人で抱えていたことも、徐々に、打ち明けるようになって。

事務所の皆とも、打ち解けて……今だって、そう。私に相談してくれるなんて、前の貴音ちゃんからは考えられなかったわ」



貴音「しかし、それは……やはり、私が弱くなった証ではないかと」



小鳥「確かにそうかも知れないわね。大切なひとができるって、弱くなることよ。甘えちゃうもの」



貴音「小鳥嬢……わたくしは、どうすればいいのでしょうか」

小鳥「別に、どうもしなくていいって思うわ。そのままで、いて欲しいって思う」



貴音「どういうことでしょうか。わたくしは、弱いままでいいのですか?」



小鳥「私はね、貴音ちゃん。それって、悪い事じゃないって思うの。だって、大切な人がいて、信頼できる仲間がいて、弱くなっちゃうぶん……それ以上に、強くなれることも、あるから。

貴音ちゃんだったら、きっとわかるって思うな」



貴音「大切な人……仲間……」



小鳥「私だって、そう。プロデューサーさんがいなくて、心細くて、寂しくて……一人じゃ、潰れちゃってたかも知れないわ。でも、みんながいるから。

頑張ってる皆と、私に皆を預けてくれたプロデューサーさんのために……私は、頑張れるの。自分の限界を超えて、ね」



貴音「小鳥嬢は……強いのですね」



小鳥「ううん。一緒よ、貴音ちゃん。ただ貴音ちゃんはきっと、まだ怖いんだと思う。初めての気持ちを知って、戸惑ってるんだと思うの。

貴音ちゃんは大人びてるけど……そういう意味では、まだ、子供だと思うから」



貴音「子供……確かに、そうかも知れません。ただ、不安を訴えるために泣きじゃくるだけの、幼い稚児。それが、今のわたくしなのでしょう」



小鳥「でも、大丈夫。そうやってみんな、大人になっていくの。強く、なるのよ。ねえ、今の貴音ちゃん、とっても可愛いわよ。そうね……王女、じゃなく、乙女、って感じかしら」

貴音「乙女……あの、小鳥嬢。小鳥嬢は、この想いを、ご存知ですか」



小鳥「……うん。知ってるわ」



貴音「ふふっ。大人、なのですね」



小鳥「わ、わたしだって、最近知ったのよ。そこは乙女、っていって欲しかったなぁ」



貴音「……では、そんなあなたにこそ、訊きます。わたくしは、これから何をすべきでしょう?」



小鳥「何を……かあ。ねえ、貴音ちゃん、実は私、ちょっと怒ってるのよ?」



貴音「そ、それは……申し訳ございません。確かに、己の進むべき道くらい、己で決めるべきです。わたくしは、何と愚かな………」



小鳥「ああ、違うのよ、貴音ちゃん。そういうことじゃないの。ただ、うらやましいなって」



貴音「羨ましい……わたくしが、ですか?」



小鳥「ええ。だって、貴音ちゃんは、アイドルだから。私はせいぜい、応援することくらいしかできないもの」



貴音「……はて。それは一体」



小鳥「貴音ちゃんならわかると思うわ。月が大好きな貴音ちゃんなら」

貴音「わたくしと……アイドルと、月……? ……はっ!」



小鳥「わかった?」



貴音「はい……はい、小鳥嬢! わたくしは何と……何と大事なことを忘れていたのでしょうか。

月が空にないのなら、わたくしが代わりに輝けばいいのです。遠い彼方の、あの方に届くように。

何故なら……何故ならわたくしは、アイドルなのですから!」



小鳥「ふふっ。貴音ちゃんが元気になってくれて、よかった」



貴音「感謝致します、小鳥嬢。今のわたくしに、もう迷いはありません。どんな仕事だって、きっと、いや必ずこなしてみせましょう!」



小鳥「……うん。もう心配なさそうね。今の貴音ちゃん、とってもいい顔してるわ」



貴音「顔……ですか?」



小鳥「ええ。繊細な乙女の貴音ちゃんも、誇り高い王女の貴音ちゃんも、全部一緒になった、本当の貴音ちゃん、って感じかな」



貴音「本当の……わたくし……」



――……



貴音「……あの、小鳥嬢」





『人知れず咲く かの花は』





小鳥「うん、何かしら?」



貴音「此度行われる、わたくしの個人らいぶですが……どうしても、歌いたい曲があるのです」





『気高き炎のように』





小鳥「もちろん、いいわよ。どの曲かしら?」



貴音「……わたくしの、大切な曲です。わたくしという輝きが、この世界のみなに。……あの方に、届くように。そう、願った曲」





『貴方と願う 凛とした』





貴音「その、曲名は――」







『藍の空に彩なす』











貴音「ふたつの月」













(いつの間にかわたくしの中に根付いた、この感情)



(それはまるで、誰にも知られることなく育った花のように儚く)



(それでいて、燃え盛る炎のように熱く、強い)



(ならば咲き誇って見せましょう)



(全ての者が見上げるあの空に向かって。わたくしの、全てを以て)



(月のように……いえ、月の見えぬ夜すらも、貴方のしるべと成る様に)



(わたくしという月が……貴方の道を照らす様に)



(どうか、見ていて下さいね……“あなた様”)



〜おわり〜



貴音「ああ、そうそう……小鳥嬢」



小鳥「うん? 何かしら、貴音ちゃん」



貴音「自分はせいぜい、応援することくらいしかできない……貴方はそう仰いました。ですが、それは違います」



小鳥「ぴよ?」



貴音「わたくしが月なら、あなたは……太陽。みなを照らす、眩き、太陽です」



小鳥「え、えぇっ? べ別に、私はそんな大層なものじゃ……」



貴音「ふふっ。これからも頼りにしていますよ……小鳥嬢」





〜本当におわり〜



17:30│四条貴音 
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