2015年03月27日

晶葉「無邪気な王子と天才の姫」


 

※地の文あり

 









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―――西園寺家―――



『おお、姫よ。どうして貴方は元気がないのですか?』



『上手くピアノが弾けないからです』



『ならば私が貴方に魔法をかけて差し上げましょう!』



『まぁ!王子様は魔法使いだったのですか?!』



『ではご覧あれ……スリー、ツー、ワン!』



『……?』



『あ、あれ。スリー、ツー、ワン!』



『……』



カットカットー



柚「あれー?おっかしいなー」



晶葉「しっかりしてくれ柚……これで何回目だ?」



柚「ごめんごめん。わかってはいるんだケド。どうにもマジックが成功しなくて」



晶葉「本当に柚が王子でよかったのか?」



柚「むー。酷いなー、晶葉ちゃん。アタシ、一度ナイト様をやった事あるんだよっ?」



晶葉「ナイトと王子様は違うだろう」



柚「似たようなものだよ!それに、今回の王子様は確かにアタシが適任だと思ってるんだっ♪」



晶葉「天真爛漫で無邪気な王子様、だったか」



柚「そーそー。ほら、ピッタリじゃない?」



晶葉「まぁ、イメージは一致しているな」



柚「でしょー」



晶葉「流石に20回もマジックを失敗していると見てみろ。スタッフと監督の顔も引きつっているぞ」



柚「おっかしーなー。出来ると思ったのにっ」



晶葉「……試しに訊くが、簡単なマジックでもいいから、とにかくやった事あるのか?」



柚「ない!」



晶葉「ないのに今回のドラマの王子役を引き受けたのか……台本にもやると書いてあっただろう」



柚「だってできると思ったんだもーん」



晶葉「……お前は少し練習してこい。今日は撮影するシーンをPやスタッフと相談して変えてもらおう」



柚「ラジャー!」



晶葉「……心配だ」

―――数時間後―――



柚「今日の撮影も終わった終わったー!」



あい「お疲れ様、柚君」



柚「お疲れ様ですあいさんっ」



あい「柚君の方、撮影がなかなか進んでいないようだけど大丈夫かい?」



柚「実はアタシがマジックでいつも失敗しちゃって……」



あい「ふむ。マジックか」



柚「そうだっ!あいさん、あいさん、あいさんはマジック、できないんですか?」



あい「私か?やった事はないな……」

柚「そうですか……もしできるんなら、教えてもらおうと思ったんだけどなー……」



あい「レナ君にでも教えてもらったらどうだ?」



柚「レナさんに?」



あい「ああ。彼女なら、簡単なトランプマジックはお手の物だろうし、それなりに難しいものもできるはずだ」



柚「ほうほう!それなら膳は急げ!レナさんはどこにいるんですかっ?」



あい「確か今日は事務所にいると言ってなかったかな」



柚「本当ですか!?じゃあアタシ、急いで事務所に帰ります!」



あい「気をつけたまえよ」



柚「はいっ。あいさん、ありがとうございました!」



あい「お礼を言われるほどの事でもないさ」



―――廊下―――



ポロン……ポロン……



柚「んっ?」



ポロン……



柚「……ピアノの音かな?」



ポロロン……ポロン……



柚「撮影場の方から聞こえてくるけど……あれ?でももう撮影場には誰もいないよね……?」



ポロロン……



柚「これはこれはもしかしてっ。西園寺家に住み着く悪霊!?」



ポロン……ポロン……

柚「ふっふっふー……アタシの好奇心は、恐怖を遥かに上回るのだっ」



柚「いざ、ご開帳〜♪」ギィィ



晶葉「……」



柚「あ……れ……?晶葉ちゃん?!」



晶葉「……っ?!誰だっ!」



柚「あ、アタシだよ。柚だよ」



晶葉「柚か……どうしたんだ?忘れ物でもしたか?」



柚「ううん……ピアノの音が聞こえてきてたから、もしかして幽霊かなって」



晶葉「……そうか」



柚「晶葉ちゃん、ピアノも弾けたんだねっ」



晶葉「別に前から弾けたワケじゃないぞ。ドラマの撮影で使うというから、練習してここまで弾けるようになっただけだ」



柚「練習?晶葉ちゃんが?」



晶葉「……悪いか?」



柚「んーん?晶葉ちゃんって、天才だから練習なんて必要ないんじゃないカナって」



晶葉「……私は、多分、柚が思っている以上に天才ではない」



柚「え?」



晶葉「アイドルの世界に入るまで、私は一番天才だと思っていたんだ。だが実はどうだ。私以上の天才がそこにはゴロゴロいた」



晶葉「マキノや泉はその典型的な例だろう。正直私は、二人に勝てる気がしない」



晶葉「勉学に限った話じゃない。夕美は言わば花の天才だし、智香は応援の天才だ」



晶葉「このプロダクションには、天才だらけだった。……柚だって、そうだ」



柚「アタシが?天才っ?流石にそれはナイって!」



晶葉「その無邪気さと天真爛漫さは、私は手に入れようと努力しても絶対に手に入れる事はできない」



晶葉「だから柚は無邪気の天才だよ」



柚「……なんかそこまで言われると照れるナ」



晶葉「そうやって考えて、思ったんだ。今回のドラマを期に、私も変わろうと」



晶葉「まずはいつも頼りにしていたロボットは、今回一切使わないようにした」



柚「そういえば晶葉ちゃん、確かに今回はロボットとか全然出して来ないね」



晶葉「全て自分の力で、やり遂げようと思ったんだ。そうする事で、別の視点から見た池袋晶葉が見えるのではないか、とな」



柚「別の視点から見た自分かぁ……」



晶葉「だが……やはり、ロボット無しで0から努力するのは大変な事だな。身に染みてわかったよ」



柚「でも、さっきの演奏は上手だったよっ」



晶葉「ありがとう。だが、これじゃダメなんだ。私の求めている演奏とは、程遠い」



柚「……努力家で天才な姫」



晶葉「今回のドラマの私の役柄の話か」



柚「なんだ。晶葉ちゃんも役、ぴったりだねっ」ボソッ



晶葉「何か言ったか?」



柚「んーん、別にっ。それじゃあまた明日も撮影、頑張ろうね♪」



晶葉「ああ。また明日」

―――翌日―――



『それではお礼に、私がピアノを弾いて差し上げましょう』



『本当かい?それは嬉しいな』



『では、聞いてください』



〜♪〜♪



『……素晴らしい音色だ』



カットカーット



柚「えっ!?あ、アタシ何か間違えた!?」



晶葉「……いや、今回のは柚じゃない」



柚「アタシじゃないなら一体なんで……」

監督「池袋君。もう一度弾いてみてくれ」



晶葉「はい」



〜♪〜♪



監督「……」



柚「(綺麗な演奏……だよね……?)」



監督「……わかった。もういい」



晶葉「……はい」



監督「晶葉君。もう少し……だな」



晶葉「……」コクリ



柚「い、今の凄くよかったと思うんですケド、あれじゃダメなんですかっ?」



監督「ダメじゃない。ダメじゃないが、合格点ギリギリだ」

柚「何でですか。凄く綺麗だったじゃないですか!」



監督「綺麗だからこそ、ダメなんだ」



柚「え……?」



監督「池袋君の演奏には……感情が、見えない。ただ弾いているだけにしか見えないんだ」



監督「質問だ。今のシーンは、どんなシーンだい?喜多見君」



柚「え、えっと……王子様が屋敷に忍び込んで、姫様を手品で泣き止ませた数日後、お礼として姫様がピアノを披露するシーンです」



監督「そうだ。なのに、綺麗なだけで……感謝や嬉しさが伝わってこない演奏なんておかしいだろう」



柚「……」



晶葉「柚。いいんだ。上手く弾けていないのは、私が一番よくわかっている」



柚「晶葉ちゃん……」



監督「ところで喜多見君の方はどうなんだい?」



柚「あ、アタシはー……そのー……鋭意練習中、です」



監督「……早めに頼むよ」



柚「はい……」



―――廊下―――



柚「ドラマのシーン沢山取ったから、遅くなっちゃったっ。早く帰らないと」



ジャーン!!



柚「な、ななな、何今のっ?!」



柚「……気のせい?」



〜♪〜♪



柚「……この、音楽って」



ジャーン!!



柚「うわっ、な、何してるんだろ……晶葉ちゃん……」



柚「……少しだけ、様子を見てこよう!」



柚「お邪魔しまーす……」ギィ

晶葉「くそっ!」ジャーン!!



柚「わっ!?」



晶葉「……わかってる。わかってるのにどうして……!」



晶葉「どうしてこんな……!!」



晶葉「……くっ。自分の思い通りに行かないというのは、こんなにも……!」



柚「……晶葉、ちゃん」





その時、アタシは思ったんだ。



やっぱり晶葉ちゃんは天才だって。



どこまでも自分の理想を追い求めて、他人がどうであれ、自分が納得しない限り妥協はしない。努力し続ける。



ロボットだってそうだよ。いつもそうだったじゃん。



自分が満足できないから、ライブで使わなかったロボットが沢山あるの、実は知ってる。



晶葉ちゃんの研究所に秘密で入った時、その欠片達を見ちゃったんだ。



その時は、何でそんな事してたのかわからなかったけど、



今なら分かるよ。



だから、アタシはそんな人を支えたいんだっ!



あの無邪気な王子様のように、悩んでる姫を、助けたいんだっ!



そしてアタシは晶葉ちゃんへ向かって駆け出した。

柚「おお、姫よ。どうして貴方は元気がないのですか?」



晶葉「え……?」



柚「ピアノが上手く弾けないのですか。ならば私が魔法をかけてあげましょう!」



晶葉「ゆ、柚」



柚「では……ご覧あれ!スリー、ツー、ワン!」





ばっ、と。



突然現れ、ドラマの台詞を叫ぶ柚に呆気に取られる私の眼前に、花びらが舞った。



それは、ドラマで王子様が姫に対して行ったマジックだ。



色とりどりの花びらを、手を振っただけで空に散らせる。



そのマジックは、今まで一度たりとも成功した事はなかったはずなのに。



「出来た……へへっ、どうだ!」



無邪気な王子は、そう言って花びらの中で笑った。



ひらり、と鍵盤に置かれた私の手に桜の花びらが舞い落ちる。



……そうか、私は一つ間違えていたのだな。



柚は無邪気の天才なんかじゃない―――人を、笑顔にする天才だ。





晶葉「……いつ、出来るようになったんだ?」



柚「今!」



晶葉「わかった。質問を変える。いつ、練習したんだ?」



柚「事務所でレナさんに教えてもらってね!あと実はドラマの撮影やってる最中もずっと、道具を袖の中に仕込んでたり」



晶葉「……やるじゃないか」



柚「いい気分転換になった?」



晶葉「もちろんだとも。これは私も負けていられないな」



柚「そか、ならよかったっ」



晶葉「……なぁ、柚」



柚「なにー?」



晶葉「今回のドラマの王子様、やっぱり柚が適任だ」



柚「アタシも、今回のドラマの姫は、晶葉ちゃんが適役だと思ったよっ」



晶葉「……そうか。なら期待に答えるため、努力しないとな」



柚「もしかして、まだ続けるの?」



晶葉「ああ。まだまだ足りないからな」



柚「そっか。晶葉ちゃん、ファーイトっ!」



晶葉「ふふ、明日柚の度肝を抜かしてやるから覚悟しておくんだな」



柚「楽しみにしてるっ!じゃあね!」



晶葉「……さて、私は王子様にふさわしい姫にならなくてはな!」



―――翌日―――



『それではお礼に、私がピアノを弾いて差し上げましょう』



『本当かい?それは嬉しいな』



『では、聞いてください』



〜♪〜♪



柚「…………」



カットカーット



晶葉「おい柚。台詞を忘れたのか?」



柚「ご、ごめん……なんか、凄かったから何も言えなかった」



晶葉「だから言っただろう。明日、柚の度肝を抜かしてやると」

柚「……流石、天才だね」



晶葉「というよりは……そうだな」



柚「?」



晶葉「柚がピアノが上手くなったと感じるのはきっと……誰かさんに感謝の気持ちを込めて、ピアノを弾けるようになったから、かな」



晶葉「なぁ……王子様?」



柚「……ふふっ。そうだね、姫様」







おわり



21:30│池袋晶葉 
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