2014年01月29日

P「白と黒のうさぎ」

そろそろ仕事が終わるという時に声をかけられた

「あなた様」

「プロデューサー」


二人同時に、だ

「貴音に響か、どうしたんだ?」

うちの事務所でも特に仲が良い二人

「えっ? ……うぅ」

「ふふふっ」

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何やら恥ずかしそうな響

貴音は楽しそうな笑みをこちらに向けている

「ちょっとした趣向を考えてみたのです」

趣向……?

「そ、そうだぞ! プロデューサーは自分たちのために頑張ってくれてるから……」

もごもごと口ごもる響

「どうした、響?」

顔を覗き込むと赤くなっていた

「うぎゃー! 顔が近すぎるぞプロデューサー!!」

そう言うと、バックスステップをして貴音の後ろに隠れてしまった

何とキレがある動き、流石は響だな

「うぅ……貴音ぇ」

貴音の服をちょこんと掴み上目づかい

思わず笑ってしまいそうになるのを堪える

こいつ、なかなかやりやがる

俺をノックアウトさせる気か

「もう、あなた様も響も落ち着いてください」

響の頭を優しく撫でながら微笑む貴音

おっと、ついつい悪乗りしてしまった

からかいすぎてしまったようだ

「悪い悪い、ところで趣向ってのは?」

そう、二人が思いついたらしい趣向

「よろしいですか、響?」

「うん」
二人が視線を交わし、こくりと頷く

「プロデューサー、今日は十五夜なんだ」

仲秋の名月ってやつかな

十五夜か、もうそんな時期だったのか

「そこで、今宵は月見と洒落こもうと思いまして」

貴音が続ける

「響がどうしてもあなた様をお誘いしたいと」

へぇ、嬉しいこと言ってくれる

「あー、ずるいぞ貴音! 貴音だって誘いたいって言ってたじゃないか」

「はて……私、身に覚えがありませんね」

面白いやつらだな

見ていて全く飽きない

「月見か、風情があって良いじゃないか」

優しく夜空を照らす月

たまにはこういうのも悪くない

返事を返すと、二人はにこりと微笑んだ

「貴音、じゃあ準備しなくちゃ!」

「そうですね、では急ぎましょう、響」

準備か、俺も手伝うとするか

「俺も手伝うよ、もう少しだけ待っててもらえるか?」

男手も必要だろうし……

「駄目!」

響からの拒絶の言葉

「えっ?」

思わず変な声をだしてしまう
「あ……違うんだプロデューサー! これには訳があって……」

響の焦っている声

「いや、大丈夫だ。気にしなくてもいいぞ」

手伝われると何か困ることでもあるのだろう

「申し訳ありません、あなた様。今はまだお教えすることはできませんが……」

貴音も困ったような表情をしている

ふぅ、まったく……

「二人してそんな顔をするなって、俺は待っていればいいんだろ?」

二人に悪気がないことなんてわかっているのだから

「ありがとう、プロデューサー!」

顔を上げて笑顔を見せる響

うんうん、お前にはその表情が一番似合うよ

「ではあなた様、一時間後に屋上にてお待ちしております」

仕事を終わらせて、一服したら丁度いい時間かな

「わかった、くれぐれも変なことはしないように」

「心得ております。では参りましょう、響」

「うん、またねプロデューサー」

貴音と響が事務所から出るのを見送って、自分のデスクへと座る

残りの仕事を片づけてしまわないと

しかし、さっきはびっくりしたな

響にあんなに強く言われたのは初めてかもしれない

貴音にもはぐらかされたし……

何をたくらんでいるのやら

まぁいい

今は仕事に集中してとっとと終わらせてしまおう
月の中にはうさぎが餅をついている

日本人ならこう教わるだろう

ちなみに俺もそう教わった

しかし、だ

今は自分自身の前にうさぎがいる

白と黒のうさぎが

どちらも特徴的で、どちらもとても美しい

スカウトできるならしたいぐらいだ


最近は出張サービスでもしてるのかね

需要があるかはわからないが

いや、ないほうがいいか

これだけ美しいうさぎなら独り占めにしたい

そう思ってしまうのも仕方ないだろう

「お疲れ様です、あなた様」

白いうさぎが

「お疲れ様、プロデューサー」

黒いうさぎが

そう、労ってくれた




「お疲れ様……」

さてさて、これは夢か幻か

頬をつねってみるか……

「痛い……な」

うん、現実のようだ

「何をしているのですか、あなた様?」

白いうさぎがくすくすと笑う

「プロデューサー……おかしくなっちゃったの?」

黒いうさぎが不安そうな顔をする
本当に不安そうな顔をするな

「いや、その……な?」

しどろもどろである

何というか、言葉にできない? そんな感じだ

非日常的と言うか……

「貴音ぇ、やっぱりこの格好が……」

と、黒いうさぎ

「そのようなことはありませんよ、響」

と、自信に満ち溢れた白いうさぎの声
「そうでしょう、あ な た 様?」

白いうさぎの妖艶な笑み

どくん、と心臓が高鳴る

落ち着け、落ち着け俺

相手は担当アイドル、OK?

自分は担当プロデューサー、OK!

相手は白と黒のうさぎ、OK?

自分は見惚れている、OK……!?
「ご覧ください、響。私たちの格好は気に入って頂けたようですよ」

「そっか、よかったぁ」

そんな表情をするな

顔が赤くなってしまうじゃないか

「さぁ、あなた様。こちらに」

「座って座って、ほらほら」

白と黒のうさぎに手を取られ、座椅子に座らされる

「俺は逃げないから落ち着けって」

ぐいぐいと引っ張られ、転びそうになる
俺を中心をして、右側に白いうさぎ、右側に黒いうさぎ

このような配置になった

「ふふっ、気が急いてしまったようです」

「プロデューサーがぼーっとしてるのが悪いんだぞ」

悪いのは俺か?

確かにぼーっとしてしまったのは認めるけどさ

「すまんすまん……おっ?」

そして気づく

「どう? 自分たち頑張ったんだからねっ!」
大きなお盆に載せられた料理の数々

それに月見団子、酒

「本当に凄いな、全部手作りなのか?」

響は料理上手だと聞いてはいたが、まさかこれほどとは

「そうだぞ? 腕によりをかけたんだからね」

ふふんと、澄ました顔をする黒いうさぎ

おいおい、そんなに胸を強調するな

自分がどんな格好をしているのか自覚しろ
「ま、貴音は主に味見係だったけどね」

団子にそっと手を伸ばしていた白いうさぎがびくりとする

「私は自分にできることをしたまでです」

「お、おう……」

何という力強い言葉

これ以上は何もいうまい

「ほらほら、早く食べてってば! それともお酒?」

黒いうさぎが目配せをすると

「どうそ、あなた様」

白いうさぎがおちょこを持ってきた
「ああ、ありがとう」

とくりとくりと透明な液体が注がれる

おちょこの中を覗くと、まんまるいお月さま

「うん、美味い」

お月さまごと飲みほした

「ふふっ、良い飲みっぷりです」

「お酌をしてくれた人が美人だからな」

冗談で言ってみる

「あなた様……そのような事……恥ずかしいです」

そっぽを向かれてしまった

ここは受け流すとか、笑って誤魔化すとか……

真正面から受け止めなくてもいいんだぞ?

「もう! プロデューサー、こっち向いて」

拗ねたような、怒ったような黒いうさぎの声

おっと、忙しいな

逆側の黒いうさぎのほうへ

「はいはいっと」
「ほら、プロデューサー……ん!」

そこには箸を持ち、待ち構える黒いうさぎ

「うん?」

こっちもそっぽを向いている

それに、ん! だけじゃわからないぞ

「だからー! その……あーん、して」

真っ赤な顔でこっちを向いたと思った瞬間

そんな台詞を言いやがった

潤んだ瞳と、上目づかいのオマケつきだ
「……」

勝手に体が動いていた

「どう? 美味しい……かな?」

力強く咀嚼する

しばしの沈黙

どこか期待と不安を混ぜた視線で俺を見ている

「美味しい」

ぼそりと出た本心

外で食べる飯は基本的に美味く感じる

しかし、そんなの抜きにしても抜群に美味い
「本当に美味しいよ、料理上手なんだな」

男は胃袋をつかめと言われているが

それを実体験すると思わなかった

「へへっ、もっと、ほめてくれていいぞ! ね〜、ほめてほめて!」

よしよし、では褒めてやろうじゃないか

「よーしよしよし」

わしゃわしゃと頭を撫でる

「うぎゃー! もっと優しく撫でてよ!」

怒られた
「わかったよ」

髪の毛に沿うように

優しく手を動かす

さらりとした感触が心地よい

「そうそう、そんな感じ」

自分から頭を擦りつけてくる

黒いうさぎを上機嫌にすることに成功した

こいつ本当に小動物みたいだな


「ふふっ、あなた様。どうぞもう一献」

「ああ、頂くよ」

片手で撫でつつ、もう片方の手で酌を受ける

一口でおちょこを開ける

「まこと、男らしい飲みっぷりですね」

それはどうも

「ほら、プロデューサー、あーん!」

うん、美味い美味い
「……ふぅ」

飲ませ上手なうさぎにたくさん飲まされてしまった

ぐーっと伸びをする

上を見上げれば綺麗なお月さま

隣には綺麗なうさぎたち

料理も酒も美味いときたもんだ

いやはや、まさか屋上に楽園があるとはね

世の中わからないことばかりだ
「ん?」

両肩が暖かいことに気づく

そして何やら柔らかい感触

「あなた様…」

白が

「プロデューサー…」

黒が

「もう少しだけ、このままで……」

二人の合わさった声

「ああ、少しだけだぞ」

こくりと頷くうさぎたち

ああ……風が気持ちいいな

二人の体温も心地良い

とくんとくんと、肩越しに鼓動が伝わってくる

夜が、更けていく

お月さまの輝きが一層増して

うさぎたちをスポットライトのように照らしている

ステージは地球ってとこか

たった俺一人のために用意されたこのステージ

まだまだ楽しませてもらおうじゃないか






おしまい

読んでくれた人に感謝を
ひびたか可愛いよひびたか

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