2015年04月23日

春香「響ちゃん、キスしてみよっか」

ガチ百合です。春香誕生日だからがなはる書きたい書きたい思ってたらこんなことになった。なんだこれ



春香おめでとう。誕生日ssだけどお祝いっぽい内容じゃなくてごめんよ



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 ソファに腰掛け、手元の雑誌から目を離さず何の気なしに春香は言い放った。



響「えっ、何だって?」



春香「だからぁ……」



 パタンと雑誌を閉じ、春香は自分をまっすぐ見つめて、



春香「キス、してみよっか」



といった。どうやら聞き間違いではなかったらしい。

響「どうしていきなりそうなるのさ?」



春香「雑誌にね、書いてあったんだ。キスはとっても良いものだって」



春香「響ちゃんは、キスってしたことある?」



響「いや、ないけど……」



春香「じゃ、私とやってみようよ」



響「何でそうなるんだ!?」

春香「響ちゃん、私とキスするの嫌?」



響「い、嫌って訳じゃないけど……だって、自分達女の子同士だし」



春香「女の子同士ならノーカンだよ。外国じゃ挨拶みたいなものだし。ね、やってみようよ」



響「でも……恥ずかしいぞ」



春香「大丈夫だよ。ほら、目、瞑ってて」



 春香の顔がどんどん近づいてくる。息づかいがはっきりと聞き取れる位置から、鼻息が自分の顔をくすぐるくらいに近づいた時、自分はぎゅっと目を閉じた。



 時間が永遠に感じる様な一瞬のキスだった。触れるか、触れないか。春香の積極的な態度の割には、壊れてしまいそうなほど優しいキスだった。

春香「っ。どう、だった?」



響「ぅ……なんだろ、よく分かんないよ」



春香「そっか……」



 春香はどうだった? その言葉が喉から出かかったが、止めておいた。



春香「じゃ、また明日」



響「ふぇっ!?」



春香「ばいばい、響ちゃん」



響「ば、ばいばい!」



 あんなことがあったのに、普通に会話を続けられるんだ。春香にとっては、自分とのキスって本当に挨拶程度のものなんだろうか。

 翌日、いつも通りの笑顔で春香はやってきた。千早と屈託無く談笑する春香は、昨日とはまるで別人のようだ。自分は昨夜は全然眠れなかったと言うのに、良い気なものだ。



 気がつくと春香の唇を見つめていた自分に気付く。これじゃまるで変態だ。昨日のコトを思い出し、一人赤面する。



春香「……」



千早「どうしたの、春香?」



春香「ん? ううん、何でもないよ、千早ちゃん」

 しばらくするとプロデューサーがやって来て、ミーティング。流行、売れ筋、ライバルの分析……熱心に話してくれるプロデューサーの言葉が、何故か一つも入らない。まるで頭に霞がかかったようだ。



P「……ぃ、響!」



響「……えっ!?」



P「どうしたんだ響、さっきからボーッとして。それに何だか顔も赤いぞ」



響「ご、ごめん! 自分、ちょっと熱っぽいみたいで」



P「そりゃ拙いな。今日はレッスンだけだし、俺が送るから家に帰った方が」



響「だ、大丈夫だから! ちょっと休めばなんくるないさー!」



P「そ、そうか? とりあえず、隣の部屋のソファで横になっとけ。後で様子見に行くから」



響「うん」

 美希御用達のソファに横になり、ブランケットを頭からすっぽりと被る。



響「はぁ……自分何やってんだろ」



 こんな事でミーティングを抜けるなんてプロ失格だ。プロデューサーや他の皆にも迷惑をかけてしまうし、全然完璧じゃない。



 そもそも春香は全然気にしてなかったじゃないか。自分一人ドキドキして、バカみたいだ。



響「そうだよ。春香は全然気にしてなかったんだから、自分も少し寝て忘れよう。あんなの、きっと遊びのつもりだったんだよ」



 何故か胸が痛むのを気付かないふりして、自分は眠りについた。

 誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。肩を揺すって、起きるように促す。きっとプロデューサーだろう。



響「あふ……おはよ……う」



春香「おはよう、響ちゃん」



 頭が真っ白になった。

響「なっ!? プロデューサーは?」



春香「プロデューサーさんには私がつきそうって言っておいたから」



響「そ、そうなんだ……ごめんな、時間取らせちゃって」



春香「ううん。私もちょっと寝不足で疲れてたから、ちょうど良かったよ」



 そう言って屈託なく笑う春香に、また胸がズキンと痛む。



 本当に何事も無かったかのように微笑む春香。自分と楽しそうに話す春香。どうして自分だけこんなに思い悩まなければならないのだろう。どうして自分は、春香のことでこんなに悩んでいるのだろう。

春香「……そういえば、響ちゃん」



 とりとめのない話の切れ目に、春香はふと思い出したようにとんでもないことを言い出した。



春香「キス、してみない?」



 自分は春香とは仲良くやってきたつもりだ。961プロにいた頃から一番のライバルだったし、765プロに来てからも親友のつもりだった。お互いのことを良く理解し合えていたと思う。だけど、今は春香が何を考えているのかさっぱり解らない。



響「なっ……え!?」



春香「昨日はお互いよく分からなかったみたいだし、ね。もう一度、試してみようよ」



 そう言いながら、ゆっくりながら確実に唇を近づけてくる。今朝、千早と雑談していた唇が、今は自分の唇にゆっくり接近し……

 温かい、そう思った。

 最初の時より感触を、春香の体温を感じ取れた。



春香「っぷは……どうだった、響ちゃん」



 心なしか上気した顔の春香をボーッと見つめていると、そんなことを聞かれた。



響「ど、どうって……」



春香「まだよく分からない?」



響「う、うん……」



 嘘だ。さっきの口づけで解ってしまった。



 自分は、春香のことが好きなのだ。 



 アイドルとしてでなく、友人としてでなく、恋愛対象として、天海春香のことが好きなのだ。

 自分にそんな趣向があったなんて思いもしなかったが、一度そう認識してしまうと意外と違和感は無かった。

 それから、春香は毎日のようにキスをしてきた。自分も、何も分からない様な顔をしてそれを受け入れた。



 幸せだった。好きな人から毎日のように受ける口づけは、それが彼女にとって好奇心や親愛によるものであると分かっていても、自分をはかない幸福感で包み込んでくれた。



 だけど、それはやっぱり偽りの上に成り立つ幸福であるという事も重々自覚していた。春香にその気はない事は事の起こりを思い出しても明らかだ。



 そして、そんな彼女の純粋な心につけ込んでいる自分に嫌悪感を抱いてしまう。



 そんな嫌悪感が、ある日とうとう爆発してしまった。いつものようにキスをしようと近づいた春香から、顔を背けてしまったのだ。



 春香は一瞬とても悲しそうな顔をした後、すぐさま貼り付けた様な笑顔で、ごめんねと言って部屋を出て行った。



 違う、謝るのは自分の方だ。自分は春香を騙していた。利用していた。傷つけたのは自分の方だ。

 その日、春香は事務所に帰ってこなかった。電話にも出ないし、メールも返事をしてくれない。翌日以降も、皆の居る前ではいつも通りだが、自分と二人になりそうになると途端にどこかへ行ってしまう。



 春香に会いたい……けど、会って何を話せば良いんだろう? 謝罪? 告白? それとも誤魔化して、これまでの関係を続けるのか?



 困り果てた自分は、もう一人の親友に相談する事にした。

貴音「……そうですか。その様なことが」



 全てを聞いた後、貴音は静かに涙を流し始めた。



響「た、貴音!? どうしたんだ!?」



貴音「お願いします! 今は……今は放っておいて下さい。後生ですから」



 そう言って自分を制止し、ひとしきり泣き終えた後で鼻をかみ、真っ赤になった目で自分に向き直る。



響「た、貴音、大丈夫?」



貴音「ええ、ご心配おかけしました。心の整理はつけたつもりですので、案ずることはありません」



 貴音の言っていることはよく分からなかったが、その目がこれ以上聞くなと語りかけてきていたので、自分はそれ以上何も聞かなかった。

貴音「それで、響は……春香の事が好きなのですね」



響「……うん」



貴音「響は春香とどうなりたいのですか?」



響「どうって……」



貴音「その愛が真の物であれば、伝えるべきです。春香の心が他の誰かの物にならぬうちに」

 他の誰かの物に……その言葉に胸が痛んだ。



 想像したくもない。あの唇が他の誰かと触れあうなど。あの笑顔が、優しい言葉が他の誰かだけに向けられるなど、考えたくない。



響「だけど、そんなの……」



貴音「恐ろしいのですね、道ならぬ想いを伝えるのが。ですが、想い人が他の誰かと結ばれた時、貴女はそれを偽りの笑顔で祝福し、友誼を保ち続けられますか?」



響「……」

貴音「そうする自信がないのなら……伝えなさい、響。想い人が、いつまでも己を待っていてくれる等と高を括っていては……後悔しますよ」



 そう言い残して、貴音は部屋を出て行った。











 貴音が出て行ってから1時間は経っただろうか。随分悩んでいたので、それほど時間が経ったようには感じなかったけれど、時計を見るとそれくらいは進んでいた。



 春香に想いを伝えよう。そう決意した。



 このまま誤魔化しながら友達を続けていても、貴音の言うとおりきっと後悔する。気持ち悪がられようと、この想いを伝えてしまった方がきっと良いはずだ。後は、どうやって春香に会うかだけど……

 悩んでいると、がちゃりと扉の開く音がした。



春香「貴音さん、話って……っ!?」



 久しぶりに見た春香は、自分の記憶よりやつれて見えた。春香は自分を見ると驚いた顔をした後、急いで踵を返そうとする。



響「待って!」



 立ち上がり、出て行こうとした春香の手を取る。振り向いた春香は、酷く怯えた顔をしていた。



響「聞いて欲しい話があるんだ……入ってくれないか?」



 そう言うと、観念した様にうなだれ、素直に部屋に入り、自分の居た向かいのソファに腰掛けた。





春香「話って……こないだまでの事について、だよね?」



 先に沈黙を破ったのは春香だった。



響「それもあるけど……」



 自分の言葉に少し不思議そうな顔をする春香。



響「春香はさ、女の子同士の恋愛ってどう思う?」



春香「っ!?」



響「意味分かんないよね? 自分もついこないだまで分からなかったし、考えたこともなかった。自分もいつか男の人と恋をして、結婚するんだって、思ってた」



響「けど、違ったんだ! 自分はっ、自分は……」



 息が苦しい。後少しだというのに、続きが……好きだという言葉がなかなか出てこない。

響「……好き、なんだ。春香のことが」



 ようやく絞り出したか細い声は春香に届いただろうか。頭が熱くて熱くて、目線を春香にあわせることも出来ないから、よく分からない。



響「春香が遊びで始めたキスで気付いたんだ、自分の気持ちに。自分、春香の事が好きなんだ! 多分、765に来た頃からずっと! 優しくて、まっすぐで、誰とでも仲良くなれる春香のことが、自分は大好きなんだ!」



春香「……響ちゃん」



 春香が立ち上がる音が聞こえる。そのまま立ち去られても仕方がないと思った。



 が、足音は徐々に自分に近づき、ついには俯く自分の隣に春香は腰を下ろした。

 何なのだろうかと勘ぐっていると、急に抱きしめられた。そして大きな声で泣き出した。



 自分はいまいち状況が飲み込めぬまま、しゃくり上げる春香の背中をさする。春香の泣き声はだんだんと小さくなり、最後には聞こえなくなった。



春香「響ちゃん、ごめんね」



春香「私の事、そんな風に想ってくれてるなんて思わなかった。私の事で、そんなに悩んでくれるなんて……ありがとう」

春香「でもね、私は響ちゃんの思ってるような子じゃないんだよ。響ちゃんの純粋な心を利用してた、最低の人間だもん」



響「っ!? それ、どういう事?」



春香「……響ちゃんってさ、結構にぶいとこあるよね」



響「へっ?」



春香「好きだよ、響ちゃん」

響「嘘……だって春香は」



春香「騙してゴメンね。私、響ちゃんの純粋で押しに弱い性格を利用したの」



春香「最初は一回、遊びみたいな感じで一回するだけのつもりだったんだけど……気付いたら、自分を抑えられなくて」



春香「多分ね、響ちゃんの好きって気持ちは、キスのドキドキを勘違いしちゃっただけなんだよ! 雛の刷り込みと一緒で、私じゃなくってもきっと良かったんだよ。響ちゃんには私みたいなのより、もっと素敵な人がいるから……だから」

響「違うぞ! 確かにきっかけはそうだったけど……だけど、自分気付いたんだ!」



響「黒井社長に捨てられて、行き場を無くした自分たちを765プロに迎えて……かみついてばっかりだった自分に優しくしてくれた。そんな春香だったから好きになったんだぞ! 誰でも良かったなんて、自分を馬鹿にするな!」



春香「響……ちゃん?」



響「春香が自分の気持ちを疑うって言うなら、自分が本当に春香の事好きって証拠を見せてやるぞ!」

 そうだ。自分の気持ちを行動で表すのだ。何をすれば良いのか、それは春香がずっと教えてくれていた。



春香「証拠?」



 何度も繰り返したその行為を口にするとなるとこれほど勇気が要るものなのか……だが、春香だって好きと言ってくれたんだ。ここで言わなきゃ、我那覇響の名が廃る。



響「春香……キス、しよう」



 春香ははっと目を見開いた後、小さく、嬉しそうに頷いた。



 生まれて初めて自分からするキスは、涙で少ししょっぱかった。









おわり



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