2015年05月25日

響の手料理

地の文あり

簡単なプロットのみで書き溜めなし

百合はないパンツ履け

性格や話し方に変更あり

時間が来たら中途半端に終わるか中断





以上ご理解頂ければ幸い





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「いらっしゃーい、もうご飯できてるからね」



今宵、私四条貴音は同じ芸能事務所に所属する我那覇響からお呼ばれされました。兼ねてより約束しておりました夕食をご馳走していただけるとのこと。



響の部屋を訪れるのも久しぶりです。家畜たちが各々の作法で出迎えてくれました。忘れずに覚えていてくれたことが、まこと嬉しく思います。



でも、蛇はやめてくださいまし。あぁ、首は、首は…。



「今日はすき焼きだぞ!たくさん食べてね」



「ええ、お腹の準備はできております」





恥ずかしながら、この部屋に足を踏み入れる前から、私のお腹の虫がぐぅぐぅと鳴いております。



「いただきまーす」



「いただきます」



家畜たちもそれぞれの器にご飯がよそおわれ、思い思いの場所で食事をしております。



月に二、三度しか家畜のご飯を手作りできないそうですから、みな嬉しそうにしているのが手に取るように伝わってきます。

家畜たちは蛇を覗いてみな可愛らしいのですが、中でも私が一番好きな家畜は、なんと言っても豚です。あの愛らしい顔を見ていると愛でずにはいられなくなります。



豚を撫でながら皮下の肉に想いを馳せ、スープに至る行程を想像して垂涎するのが、一番の楽しみです。

「ああ、とんかつ。とんかつはいつ見ても愛くるしい…」



「貴音ぇ、トンカツじゃなくて豚太だって、何度も言ってるじゃないか!」



そういえば、生意気にも豚太という素晴らしい名前が付いておりましたね。ですが、私の命名したとんかつこそ至高の名だと、自負しております。



「とんかつという名は可愛らしくありませんか?」



「あのな貴音。可愛いとかそれ以前に、豚太は自分の家族なんだぞ!なのに豚カツなんて名前を付けるわけないだろ…」



「その通りだ四条!トンカツなんて呼んだら豚がかわいそうじゃないか!!」



突然玄関の方から侵入者が現れると、とんかつの前に躍り出ました。



「曲者!皆のものであえ、であえよろぉぉお!」



先日の時代劇で覚えた狼藉者を捕らえる際の掛け声を早速実践できる辺り、私は適応力が高いのではないでしょうか。



「おお、豚久しぶりだな。覚えててくれてありがとうな!」



しかし、狼藉者を捕らえるはずの皆のものは現れる気配がなく、それどころかとんかつは侵入者に心許している様子。

「おのれ、すでに家畜共は籠絡済みというわけですね。いいでしょう、私も本気で参りましょう!」



「お、やるのか?いいぜ、来いよ!」



「ちょっと待つさー。そもそもなんで天橋立冬馬は自分の部屋を知ってるんだ?」



一触即発の空気に割って入ったのは、この部屋の主人である響でした。



「天と名前しかあってないじゃねーか。天ヶ瀬だよ、天ヶ瀬!」



死ぬほどどうでもようございます。



「悪い悪い、面倒だから冬馬でいいよね?それで、何で自分の部屋を知ってるんだ?」



「だって、こないだの動物天国の収録終わりに教えてくれたじゃないか」



「う、そうだったかもしれない…」



置いてけぼりとはこのことですか。激しい疎外感が私の胃を締め付けたと思ったのですが、食事の途中だったので空っぽの胃袋が空腹を訴えているだけなのですね。



空腹により毒気が抜けた私は、席についてすきやきをつつくこととしました。

とんかつは後でいくらでも愛でることができます。今は阿弥陀籤冬馬に譲るとしましょう。



「犬も久しぶりだな!おーよしよし。こ、こらジーパン噛むんじゃない!」



家畜たちは冬馬を気に入っている様で、もしかすると私よりも懐いているのではと少々妬ましく思い、それが食欲を増進させるスパイスとなります。



「そうだ、冬馬もご飯食べていかないか?今日はすきやきなんだ」



「ご飯どきに乱入しといて悪いんだけど、さすがに遠慮しとくよ。また今度誘ってくれよ」



そう言い残すと、軽やかな足取りで天城越冬馬は帰って行きました。一体何をしに来たのでしょうか?

響の部屋で夕食をいただいてから数日が経った、ある日の午後。



「響、何か良いことでもあったのですか?」



どうも響の様子がいつもと違うので問いただしてみると、なんと件の天野ヶ原冬馬と一緒にドッグカフェに行くとのこと。



「冬馬も犬を飼ってるみたいでさ、一緒に散歩してからご飯食べるんさ」



とても嬉しそうに語る響ですが、世間ではそれをデートと呼ぶのではないでしょうか?そこに気づかない彼女ではないはず。



「して、そのでぇととやらには、いつ行くのですか?」







「えっとね、明後日の動物天国のロケの後に行くんさ。あ、他にも一緒に行く人がいるからデートなんかじゃないぞ」



なるほど。もしかすると響があの尼ヶ崎冬馬の恋慕しているのかと勘ぐりましたが、杞憂に終わりほっと胸を撫で下ろしました。90cmのFcupでございます。



「貴音も一緒に行くか?」



「嬉しい申し出ですが、私は犬を飼っておりません故遠慮しておきます」



私が断ると響は残念そうな顔をしておりましたが、そのような場に私が混じると場違いなことは明白ですので、恥をかく前に自重したまでです。

せっかく同じく犬を飼う者同士。楽しんできてください。



あっという間に二日経ち、今日は響が雨蛙冬馬たちと出掛ける日です。

朝方太陽を隠していた重い雲も陽が高くなるにつれ次第に四散していき、冬の陽射しが優しく降り注ぎます。絶好の散歩日和と言えるでしょう。



他にも一緒に行く方がいるのでデートではないと響は言っておりましたが、私は姉貴分として響を見守り、魔の手が及ぶようであれば振り払わねばなりません。



「いい天気になってよかったな」



「そうだな、俺の愛犬マックスも喜んでるぜ」



ですので、屈託のない笑顔で天之川冬馬と会話する響を尾行するのも、道楽で行っているのではなく姉の務めと言えましょう。

それにしても、阿武隈川冬馬と響の距離が近いこと。他の方は二人の仲を察してかなるべく距離を保とうとしております。いらぬ気遣いはおやめくださいまし。

「俺のマックスなんか、褒めてほしくて新聞を毎朝取ってくるんだけどよ、新聞を咥えたまま朝ごはんを見てしまう時があってさ」



「あははっ、わかる!いぬ美もたまに新聞や雑誌を涎でべたべたにしてしまうさー」



やはり私は参加しなくて良かったと安堵するとともに、もしかすると私といるときよりも良い笑顔になっているやもしれない響を見て、天叢雲冬馬への嫉妬がうず高く積み上げられて行くのを感じてしまいます。



あれではまるでデートではありませんか。他の方は遠慮などせず、二人の間に割って入って欲しいものですが、なかなかそうもいかないようです。



「我那覇さん、天ヶ瀬さん、この公園で少し休憩していきませんか?」



参加者の一人が提案すると、響たちも皆と同じ考えだったのでしょう、異和を唱えることなく思い思いの場所に腰をおろしました。



犬同士でも会話をするのでしょうか?人とは所作は違いますが、彼らなりの流儀で交流を図っているようでした。



「このジャーキー美味しいよね」



「お、お前これ食ったのか?」







響の顔が瞬間引きつりましたが、すぐに持ち直しました。



「そ、そんなわけないさー。いぬ美が美味しそうに食べるから美味しいんだろうなって思っただけだぞ」



いつもならそこで、いぬ美やハム蔵殿のご飯を盗み食いしたと申し訳なさそうに言う所ですが、今回安息香冬馬に対しては何故か誤魔化しておりますね。

これはもしかすると、もしかするかもしれません。俄然尾行に力が入ります。が、お腹が空きました。尾行の前に腹拵えをするといたしましょう。



近くのコンビニで購入した弁当三つを平らげると、丁度響たちが動き出すところでした。



「ドッグカフェ実は初めてなんだ。冬馬は何度も行ってるの?」



「ああ、少なくとも月イチでは通ってるぜ」



「自分も冬馬みたいに通ってみようかな」



「ドッグカフェは相性もあるし、まずは行ってみてから決めた方がいいぜ」



ドッグカフェへの道すがら、二人はこのような会話を続けておりましたがはっきりと言いましょう。



響は足柄山冬馬に恋慕の情を抱いております。



幸い佐渡島冬馬は響に下心は抱いておらず、今すぐ間違いは起こらないようですがそれも時間の問題でしょう。

響ほどの可憐な少女に慕われる男がそれに気づかぬわけも、気づいて袖にすることもあるはずがございません。



響たちが入ったドッグカフェは小ぢんまりとしていて、私も入ると今までつけていたことが露呈してしまいますので、今日はこれにて帰るとしましょう。



961プロから抜け出した天龍川冬馬らは、当初は仕事も少なかったようですが、今では私たちに勝るとも劣らないくらい忙しいようで、彼らとの接点が増えるごとにわだかまりは解れていきました。



そうした中で、同じく動物好きな安心院冬馬に響は惹かれていったのでしょう。

響の姉貴分を自負しておりますが、それでも私には響の恋路を邪魔する権利はありません。



私にできることは、過去の過ちを蒸し返し響の純情を食い物にする輩を排することだけでしょうか。





そうして幾日か経ち、一月も半ばを過ぎた頃です。



「貴音っ!明日は一日オフだよね?」



スケジュール確認をしていると、勢い良く響が入ってきました。



「ええ、明日は全日おふとなっております」



「それじゃあさ、お昼ご飯ご馳走するから自分の部屋に来てよ!」



最近は響とオフを過ごすことが無かった所にこのお誘いです。断る理由はございません。



「ええ、楽しみにしていますよ」



折しも明日は私の誕生日。もしかすると、響は個人的に私を祝ってくれるのかもしれません。



「いらっしゃーい」



いつものように響が出迎えてくれますが、玄関には男物の靴が。



「響、どなたかいるのですか?」



「うん、冬馬と一緒に作ってたんさー」



この笑顔は私と食事ができることに対してなのか、それとも焼野ヶ原冬馬とともに料理ができたことに対してなのか。ようやく気持ちの整理がついたと思ってはおりましたが、人の心は自身でも御せぬものですね。



「よぉ四条。今日はお前の好きなラーメンとそれに合わせて中華だぜ」



部屋は中華特有の胃袋を刺激する匂いに満たされ、たまに漂うふくよかな魚介系スープの香りが脳幹を揺さぶります。



「ほら、座って座って」



私が席につくと、テーブルには次々と料理が運ばれてきました。

春巻、棒棒鶏、青椒肉絲、エビチリ、餃子、炒飯、そして醤油ラーメン。



「「いただきます」」



今は、今だけはこの料理の海に溺れましょう。



「どうだ?なかなかイケるだろ?」



得意そうな天邪鬼冬馬の顔が憎らしくもありますが、反論はできません。美味しいと言うのが悔しいので、ただ黙々と箸を進めます。



「貴音はもう料理に夢中さー。こうなったらプロデューサーが話しかけても返事してくれなくなるんだぞ」



「ははは、でもそれだけ夢中で食べてくれると作った甲斐があるぜ」



私の無礼な態度にもこの余裕。霞が関冬馬への認識を改めねばならぬやもしれません。

「さすがにもう満腹だろ?もう何もないぜ?」



種子島冬馬が食後のお茶と口直しのシャーベットを持って来てくれました。今気付いたのですが、彼は私よりも女子力というものに優れているのかもしれません。



「ええ、堪能いたしました」



「これで足りないって言われたらどうしようかと思ったぞ」



もしかすると、響は稲村ヶ崎冬馬に誑かされているのやもと勘ぐっておりましたが、瞳が曇っていたのは私の方かもしれません。



「そうだ、貴音に渡すものがあるんだ」



そう言って響が取り出したのは真っ白な手編みのマフラーと帽子でした。



「誕生日おめでとう!」



忙しい仕事の合間をぬって、私のために仕立ててくれたのでしょう。その気持ちだけで身も心も暖かくなります。



「俺からも、ほらよ」

なんと、天神橋冬馬が私にくれたのは、超高級中華料理店の食事券でした。



「あのね、冬馬は貴音と仲良くなりたいみたいなんだ。だから、誕生日に貴音の好きなラーメンを作るために二人で研究してたんさ」



「こら、我那覇!言うなって言っただろうが!」



突然のことにしばし思考が停止します。



「あー、えーと……と、友達からよろしく頼むぜ」



「あはは、貴音のこんな顔を滅多に見れないぞ!」



ようやく理解が追いついて参りました。どうやら藤ヶ谷冬馬は私との関わりを得るために、共演者である響と仲良くなったということでしょうか。



「ふふ、随分と回りくどいことをされるのですね」



おわり



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