2014年02月06日

《モバマス》P「(今日は社長と一緒に営業か…)」

初SSを投下してみる。お手柔らかにお願いします

事務所

ガチャッ


P「おはようございます」

ちひろ「おはようございます!」

社長「おはよう、P君」

P「(この寂しさ…。つい昔を思い出してしまうな)」

P「…考えてみればこうやって朝から事務所に来るのは久し振りですね」

ちひろ「最近は朝から営業にスカウトに出突っ張りでしたからね〜。あ、私お茶淹れてきますね」ガタッ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1352292393

社長「P君、今日の予定だが…」

P「あー、営業ですよね。社長と一緒に行くとは珍しい事もあるものです」

社長「うむ。もともと私は1人で行くつもりだったのだが」

社長「先方が君を連れてくるように言っていてね、すまないが同行してもらうことになった」

P「名指しで呼び出されるなんて、俺も随分とお貴い身分になったものです」

社長「そりゃこの業界では君の名を知らない者はいないからね」

社長「10人を超えるアイドルをほぼ同時にプロデュースして、その殆どを一流にしてしまったのだから」
P「…もう過去の話ですよ。それに、俺が良かった点を強いて挙げるとしたら…」

P「…運、ぐらいなものでしょうね」

P「ですから、今同じようなシチュエーションに自分が置かれても、できない自信があります」

社長「ふう…変わらないな、君は」

P「現に、スカウトとしての才能も無いようですし」

社長「まあ焦らずやるといい。ティンとくる瞬間はきっと訪れるよ」

P「それを望みますよ。…せめてオーディションでも出来れば良いのですが…」
ちひろ「現状では難しいでしょうね。はい、お茶どうぞ」

P「ありがとう。(ズズッ)…資金面もそうですが、やはり信用ですね。一応、方々に働きかけて根も葉もない噂は払拭したつもりですが」

P「それでもネットを中心に根強く悪評は残っていますから。本来この所為にはしたくないのですが、影響が無いと言えば嘘になります」

ちひろ「最近は女の子もネット上の噂話に敏感ですからね〜」

社長「…」
P「あ、今更社長にとやかく言うつもりは毛頭ありませんよ。そうだったらここまで付いてくる筈ないじゃないですか」

P「そうではなくて、今俺たちにできるのは地道な活動であること、それを確認したまでです」

P「…ちひろまで巻き込んでしまったのは申し訳なかったけど(チラッ」

ちひろ「今更Pさんにとやかく言うつもりは毛頭ありませんよ。そうだったらここまで付いてくる筈ないじゃないですか♪」

P「…そう言って貰えると助かるよ」

P「まあちひろは体丈夫だし、大丈夫だとは思うけど、結構無理させてしまっているからね。申し訳ない」

ちひろ「全然ありがたみを感じないんですけどー」
社長「いや、そんなことはない。千川君がいなかったならば、この短期間でここまでは再建できなかっただろう。感謝してもしきれないぐらいだ」

ちひろ「社長、おだてても何も出ませんよ?」

P「今俺がスカウトにある程度専念できているのも、ちひろが事務方や商談を引き受けてくれているお陰だよ。ありがとう、ちひろ」

ちひろ「…もうっ、突然何ですか2人してっ!?ほら、そろそろ行かないと約束の時間に間に合わなくなりますよ!?さあ、行った行った!」

P「たはは、行ってきます。お茶ご馳走様」
車内

P「すみません、社長に運転させてしまって」

社長「構わぬよ。今はドライバーを雇う余裕も無いのでね。運転ぐらいするさ」

P「まあ、今日俺は行き先を知らされていないので、運転しろと言われても困ったんですがね」

社長「おや、言っていなかったかね?」

P「(白々しいなぁ)…はい」

社長「今日行くのは西園寺物産の本社ビルだ」

P「は!?」
P「(ゴクッ)…、失礼しました。ちょっと想像だにしなかった名前が出てきたもので」

社長「いや、君が驚くのも無理はない。これまでと比べて遥かに大きな相手だ」

社長「今や水瀬グループとも比肩すると言われる、西園寺グループの当主なのだからね」

社長「私も最初、千川君から話を聞いたときは耳を疑ったよ」

P「(ちひろならあり得るか…。つくづく敵に回したくない人間だな)」

P「それで、先方はどのような方なんですか?」

社長「うん、創業者である父の後を若くして継いだ人物だ」

社長「これがやり手でね、彼がリーダーになって以来、西園寺グループは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている」

社長「現在グループがどうなっているかは、君も知っての通りだ」
P「そんな相手との商談に俺が…。完全に場違いじゃないですか」

P「何で先方は俺を呼んだんですかね?」

社長「実際に現場を指揮する君と、直接会ってみたいと言っていたそうだが」

P「まったく、お偉いさんの考えはよくわからないですね…」

P「そういうことなら一応顔を見せるぐらいはしますけど、商談でお役には立てませんよ」

社長「すまないね。本来君にはプロデュース活動に専念してもらいたいのだが、慣れない仕事をさせてしまっている」

社長「……黒井め(ギリッ」

P「あー、その話はもう止めにしましょう。社長はこれからの為に頑張っている訳ですし」

P「当然俺も、ちひろも」
社長「うむ。…千川君か。一体彼女は何者なんだい?」

P「何者って…前にも話した通り、古くからの知り合いですよ」

社長「いや、そういう意味ではない。あの若さに関わらず、彼女の商才は群を抜いている」

社長「実際、君が彼女を連れて来てから、事務所の再建が驚くほど進んだのはさっき言った通りだ」

P「まあ元々商社のキャリアウーマンですからね。それなりに商才が無いと務まらないでしょう」

社長「そして今回のこの件だ。少なくともこんな小さな事務所で燻る人材ではないと思うがね」

社長「何で彼女はキャリアを放り出してまで来たのだ?君達はそこまで深い仲なのかい?」
P「…浅い関係、と言っては嘘になりますけど、俺の勧誘だけで彼女を引き抜けるほどとは思いません」

P「彼女なりの事情があって、俺の誘いに乗ってくれたんでしょう」

社長「ふむ…。優秀な人材が雇えたのは嬉しいが、どうもそこの所が引っ掛かってね」

社長「千川君本人に聞いても、はぐらかされるばかりなのだよ」

P「まあちひろはそういう奴ですよ。俺に対してもそうです」

社長「そうか…。千川君を連れてきた君なら、何か知っていると思ったのだが」

P「すみません、期待に応えられなくて」

P「でも今はちひろよりも目の前の商談…西園寺に集中しましょう」

P「(我ながら下手な話題転換だが、仕方ないか)」

P「(社長とはいえ、ちひろの過去は…ここで俺の口から教えるわけにはいかない)」
西園寺物産本社ビル

ガチャリ

秘書「西園寺はこちらで待っています。中へどうぞ」

P「ご案内ありがとうございました」

P「(さあいよいよ当主とご対面か)」

社長・P「失礼致します」

??「ようこそいらっしゃいました」
西園寺「初めまして。西園寺と申します」

社長「初めまして。本日はお時間をとって頂きありがとうございます。社長の高木です」

P「高木の下でプロデューサーをしているPと申します。よろしくお願い致します」

西園寺「はい。それではそちらにお掛け下さい」

P「(思っていたよりも背は低いけど、何かオーラがあるな。総じて立ち居振る舞いに隙がない)」

P「(そして独特な色をした髪だ。生え際まで同じ色のところをみると、あれは地毛なのか?)」

社長「それでは早速ですが…」
P「(商談が始まったか。どうせ今までの営業と同じ事を言うだけだろうし)」

P「(ここは社長に任せて、もし話しかけられたら適当に相槌を打つくらいでいいだろう)」

P「(それにしてもさすがは社長、流れるような弁舌だ)」

P「(かつての名君高木も、まだ錆び付いてはいない、という所か)」

P「(対して西園寺氏、本当に品があるな。話を聞く姿も様になっている。ただ…)」

P「(…どうにも興味の薄い気がする。あくびをしてもおかしくないような…)」

P「(まあ普通に考えて、ちひろが大まかに説明しているだろうからな。それを理解していれば退屈にもなるか)」

P「(…そして、彼の中では…もう結論は決まっているのかもしれない)」
………

西園寺「お話はわかりました」

P「(…終わったか。さあ、どう出る?)」

西園寺「西園寺グループは、出来る限り貴社の支援をするとお約束致しましょう」

社長「…!!ありがとうございます!」

P「(え!?いくらなんでも、あっさりし過ぎだろ)」

西園寺「…ただし」

西園寺「ひとつ条件があります」スッ

P「(ふう…やっぱりか。何か秘書に合図したし、雲行きが怪しくなってきたな)」
社長「なるほど…、その条件とは?」

西園寺「…Pさん。あなたはかつて何人ものアイドルをプロデュースし、尽くトップアイドルに仕立てたとか」

P「(うわっ、俺に話題を振るのかよ!?)…えーと、彼女たちが頑張ってくれたお陰ですよ」

P「私は彼女たちを、ほんの少し手助けしたに過ぎません」

西園寺「ふふっ、ご謙遜を」

西園寺「本当にそうなら…貴方のような若いプロデューサーが、あれほど沢山のトップアイドルを輩出出来る筈がない」

西園寺「貴方の腕を見込んで…お願いがあるのですよ」

P「…はあ」

??「お父様、お待たせ致しました」
西園寺「来たか」

西園寺「琴歌、まずお客様にご挨拶なさい」

琴歌「えっ、えっと…はじめまして。私、西園寺琴歌と申します。以後お見知りおきをよろしくお願い致します」

P「(…なるほどな。そういうことか)」

西園寺「Pさん。…もう理解したようだが、貴方にこの琴歌をアイドルとしてプロデュースして頂きたい」

琴歌「え…!?お父様、今何と?」

西園寺「琴歌、お前の夢はアイドルになることだったな。今その夢を実現しようというのだ」

琴歌「は、はい…!しかし、まさか…」

西園寺「私の娘をPさんがプロデュースする…それが支援の条件です」

P「(そう来るわけだ…その為に俺を呼んだ訳だな)」
西園寺「手前味噌だが、琴歌はそこら辺の娘に負けない器量を持っていると思っています」

西園寺「失礼ながら、あなた方のプロダクションは未だ再建中…人員は多いに越したことはないでしょう」

P「…そうですね(チラリ」

P「(確かに端正な顔立ちでスタイルも良い。聞いた感じレッスンすれば声も通りそうだ)」

P「(そして父親譲りの独特な髪の色と、人を惹きつける気品…。アイドルとして武器になる)」

P「(素材として非の打ち所がない…これがティンと来るということか?)」

P「(ただ…)」

西園寺「アイドル候補生と後ろ盾を同時に得ることができるのです。あなた方にとっても悪い話ではない筈ですが」

琴歌「はい…!私も精一杯頑張ります!」

P「(チラリ…社長は俺に任せたみたいだな)」

P「…」
P「…お断りします」

西園寺「何!?」

P「申し訳ございませんが、琴歌さんをプロデュースすることはできません」

西園寺「何故だ!?」

琴歌「……やはり、私では不足ですか?」

P「いや、琴歌さん、君は素晴らしい素材だ。もし俺が街中で出会ったら、迷わずスカウトしているだろう」

琴歌「では何故…」
P「端的に言えば、この状況だよ」

P「この協議の都合上、俺のプロダクションが西園寺グループに依存する関係になることは間違いない」

P「ということは、琴歌さんがアイドルになっても、遅かれ早かれ一種の縁故入社であることは知られることになる」

P「…こういった手法には反発も多い」

P「言葉は悪いが、必然的に琴歌さんは、マイナスの状況でスタートしなければならないということだ」

琴歌「そんな…」

P「しかし、君は…残念ながらその状況を理解できていないだろう」

P「その状況を乗り越える覚悟…。それが無ければ、俺は君をプロデュースすることはできない」
琴歌「そう…、ですか…」

P「…」

西園寺「…フフッ」

西園寺「Pさん、貴方は素晴らしい方ですね。そこまで考えていらっしゃるとは、正直思いませんでしたよ」

西園寺「しかし、貴方の返答がそうであれば…この話はここで終わりです」

P「…はい。今日はお時間を取って頂いてありがとうございました!」

P「(…俺、何してるのかな)」
西園寺物産本社ビル前

P「すみません、折角のチャンスを反故にしてしまって」

社長「なに、そもそも降って湧いたような話だし、気にすることはないよ」

社長「君の話を聞いて…それでこそP君と思った次第だ」

P「…いえ、事務所の事を考えていれば、どんな状況であれプロデュースすべきでした」

社長「そんなことはない。君は彼女の将来を案じたのだろう?私も君の立場なら同じ選択をしていた」

P「社長にそう言って頂ければ嬉しいですけど…」

P「(とんだ綺麗事だ。間違いなくちひろには怒られるな)」
ヴヴヴヴヴ…ピッ

社長「…はい?」

社長「ああ、今ビルを出た所だ」

社長「…ふむ…ふむ?」

社長「分かった。セッティングありがとう」

ピッ

P「どうしたんですか?」
社長「いや、千川君からだ」

社長「別の営業相手が、急に色好い返事を寄越してきたらしい」

社長「そこでこれから、私に直接先方へ行って欲しいそうだ。今日は営業に必要な物は揃っているからね」

P「そうですか…。じゃあ俺は電車で帰りますよ」

社長「そうかい?済まないね。では、また」

社長「…気に病むなよ?」

P「…はい。失礼致します」
事務所

ガチャリ

P「…ただいま」

ちひろ「お帰りなさい」

ちひろ「そこにお茶置いてありますよ。淹れたてです」

P「…ありがとう」

ちひろ「その様子では、交渉は不調に終わったようですね」

P「…申し訳ない、俺の責任なんだ」

ちひろ「ふうん。まあ一応、言い訳は聞きましょうか」
………

ちひろ「なるほど」

ちひろ「要するに、カッコつけた挙句、私が折角まとめた話を台無しにしてくれた訳ですね」

P「…返す言葉もない」

ちひろ「私が今日の機会を作るのに、どれだけ苦労したか知ってます?Pさん」

P「ああ…本当にすまないと思っている」

P「すまん!この通りだ!!(バッ」

ちひろ「…」

ちひろ「…ふう」
ちひろ「あはは!もう気が済みましたから、顔を上げてくださいよ」

P「すまん…」

ちひろ「ほんっとうに!!貴方という人は営業に向いてないですよね(クスクス」

ちひろ「まあそれもPさんらしさだとは思いますけど♪」

P「はあ…そんなアイデンティティなんて要らないよ…」

ちひろ「大丈夫ですよ!そんなPさんの欠点を補うために、私がここにいるんですから!」

ちひろ「それにもう、私はのんびり行く事に決めたんです。その方がいいんです」

ちひろ「それに気付かせてくれたのは…Pさんじゃないですか」

P「ちひろ…」
ちひろ「だからそんな辛気臭い顔してないで。ほら、お茶ぬるくなりますよ」

ちひろ「この話はもうおしまい。さあ、また頑張りましょ♪」

P「ちひろ…」

P「ありがとう。本当に」

ちひろ「まったく、手の掛かる先輩を持つと大変ですよ」

コンコン

ちひろ「ん?誰か来たようですね。宅配便かな」

ちひろ「はーい、どうぞー」

??「失礼致します」
ガチャリ

P「!!…君は!?(ガタッ」

琴歌「良かった…こちらで合っていました」

琴歌「P様…先程は大変申し訳ございませんでした(ペコリ」

P「え!?君が謝ることは何も」

琴歌「父が突然変なことを申してしまいまして…」

P「いやいや!俺の方こそ随分と偉そうな事を言ってしまって!」

ちひろ「はいはい、立ち話はその辺にして、折角ソファがあるんだから座りましょうよ」

ちひろ「私はお茶淹れてきます」
事務所 応接ゾーン

琴歌「あの…ご迷惑だったでしょうか?」

P「…ん?いやいや、ちょっと驚いてしまってね」

琴歌「そうですか…申し訳ございません」

P「…」

琴歌「…」

P「(気まずい…ちひろ早く戻ってこいよ…)」

琴歌「…静かですね。今日は、他の社員の方は外出中ですか?」

P「いや…(無言だったのは周囲を観察していたからか)」
P「俺と、さっき君も会った社長。それと今茶を淹れてる千川ちひろ。この事務所には3人しかいない」

琴歌「!そうなのですか…」

ちひろ「はい、茶を淹れた千川ちひろですよ〜。宜しくお願いしますね」

P「(相変わらずいいタイミングで出てきやがるな)」

琴歌「ありがとうございます。私、西園寺琴歌と申します。千川様、宜しくお願い致します(ペコリ」

ちひろ「さすがは西園寺家のご令嬢、ご丁寧にどうも〜」

ちひろ「あ、私はここにいますけど、気にせずにお話進めちゃって下さい♪」
P「(話区切ったのはちひろだろ…)…まあ、今は事務所を名乗るのもおこがましい状況なんだ」

琴歌「はい。正直に申し上げますと、驚いてしまいました。再建中とは伺いましたが、まさかそこまでとは」

P「今は方々に支援を頼みに行っている状態だからね。アイドルはおろか事務員の人件費ですらままならない」

ちひろ「土曜日だというのにこんな時間まで働かせるんですよ〜。全くひどいもんです」

P「はいはい、愚痴は後で聞くから」

P「さっきは偉そうな事を言ってしまったけど、アイドル候補生さえ1人もいないんだ」

P「我ながら全く説得力なかったね」

琴歌「P様、そのことについてなのですが」
P「うん?」

琴歌「あの後、考えたのです。P様が私に仰って下さったことを」

P「あー…、そんな深刻に考えなくても良いよ。あれはあくまで俺のエゴで…」

琴歌「いいえ。P様は私の事をお考えになって仰ったのでしょう?」

琴歌「突然アイドルになれると聞いて、舞い上がっていた私を戒めて下さったのです」

P「…さっきちひろにも言われたけど、ただのカッコつけだよ」

ちひろ「そうですよ。もっと言えばただの綺麗事…」

琴歌「その様な事はございません!!」
P・ちひろ「!?」

琴歌「!…失礼致しました…」

琴歌「でも本当に、私はP様のお言葉のお陰で、自分が甘かった事に気付けたのです」

琴歌「そして…如何に自分が本気でアイドルになりたいかという事も」

P「…」

琴歌「ですから、P様。私はその覚悟を伝えるために来ました」

P「琴歌さん…?」

琴歌「…(ゴクリ」

琴歌「…例えどんな批判も、過酷な状況も乗り越える所存です!」

琴歌「ですからっ!P様お願い致します!私をアイドルにして下さい!!」

P「…」

P「(さっきの感覚…やっぱりティンと来るとはこういうことか)」

P「…わかった」
琴歌「…ぁ」

P「俺の出来る最大限の力で君をプロデュースしよう!」

P「よろしくな!琴歌さん!…いや、琴歌!」

琴歌「…は、はいっ!ありがとうございます!Pプロデューサー様」

琴歌「右も左も分からぬ不束者ではございますが、プロデュースの程よろしくお願い致します!」

P「わかった。一緒に頑張っていこう」

ちひろ「私も手伝いますよ〜。よろしくね、琴歌ちゃん」

琴歌「はい!よろしくお願い致します!」
P「まず最初に、俺はこれから琴歌のプロデューサーなんだから、そんな硬くならなくていいよ」

ちひろ「何と言っても『ヨロシクちゃ〜ん』何て挨拶する人が跋扈する業界ですからね〜」

琴歌「そ、そうですか?…なるほど。挨拶はもっとカジュアルに、ですね」

P「かと言っても琴歌が『ヨロシクちゃ〜ん』なんて言ったらキャラ崩壊も甚だしいしな」

琴歌「そうですね」

ちひろ「何それめちゃめちゃ聞いてみたいんですけど…」

琴歌「え!?」
P「はい、ちひろは黙る。できる範囲で、少しずつ慣れていくといいよ」

P「君の品の良さは武器になるんだから、それは失わないで欲しい。親御さんの教育に感謝だな」

琴歌「はいっ!」

P「ん…?親御さん…?」

P「あっ!!(ガバァ」

琴歌「い、如何なされましたか!?」

ちひろ「あー、そこが重要ですね」
P「いや琴歌、ちゃんと親御さんの同意は得ているんだろうな?まさか内緒で一人来たなんてことは…」

琴歌「いえ、Pプロデューサー様の名刺を父から借りるときに、こちらへ伺うことを伝えました」

琴歌「それに、こちらへは車で参りました。運転手は待たせております」

P「そうか、それは良かった…。一瞬焦ったよ」

ちひろ「…私はそろそろ仕事に戻りますね」

P「(?まだ仕事残っているのか)でも、運転手を待たせてしまっているのだから、今日はあまり長居はできないだろう?」

P「もう大分いい時間だからね」

琴歌「そうですね。そろそろ帰らなくては…」

P「明日は空いているか?契約について、社長も交えて詳しく話したい」
P「あとは今後について軽い打ち合わせと、君の歓迎会をやろう」

琴歌「はい。歓迎会だなんて…ありがとうございます」

P「うん、じゃあ今日はありがとう。これからよろしくな」

琴歌「はい、よろしくお願い致します。失礼致します」

P「よし、じゃあ車まで送るよ」

琴歌「千川様、本日はありがとうございました。ごきげんよう」

ガチャリ

ちひろ「はーい、またね〜」

バタンッ

ちひろ「…(カチャカチャッターン」

ちひろ「ふう〜、これでよし。全く手間の掛かる…」
夜 居酒屋

P・ちひろ「カンパーイ!」

ちひろ「(ゴクゴク)…ぷはー、美味しい!ここ来るの何気に久しぶりですよね〜」

P「久しぶりって…。先週も来たじゃないか(グビグビ」

ちひろ「だって今週はこれが初めてなんですよ!?普段は週に2、3回来るのに」

P「ま、まあそうか」

P「…でも確かにこんなに旨い酒は久しぶりだな」
ちひろ「久しぶりに目に見える進展がありましたからね〜」

P「ああ」

P「まったく、琴歌と出会えたのは幸運だった」

ちひろ「誰かさんのおかげで、危うくその幸運をみすみす見逃すところでしたけどねー」

P「それを言うなって。酒がまずくなる」

ちひろ「まあ、結果論ですけど彼女が心の準備をできたのは良かったんじゃないですか」

ちひろ「結果論ですけど!」
P「反省するよ…。琴歌と契約はできたけど、大口の取引先が無くなってしまったのだから」

P「さっきは敢えて触れなかったけど、琴歌のプロデュースに使う費用は間に合っているのか…?」

P「さらには悪評の問題も未解決のままだ。このままでは確実に琴歌へ迷惑を掛けてしまう…」

ちひろ「なんだ、そんなことを心配しているんですか?」

P「なんだってことはないだろう。目下の懸念事項じゃないか」

ちひろ「その心配はもういりませんよ。西園寺グループが何とかしてくれるみたいですから」

P「は!?」
ちひろ「あ、やっぱり気づいてない。本当にPさんはお金が絡むとダメですねー」

P「ど、どういうことだ!?」

ちひろ「そもそも、Pさんは”縁故入社を嫌う世間の目に立ち向かう覚悟ができていない”という理由で、琴歌ちゃんのプロデュースを一度断ったんですよね?」

P「そう。さっき言った通りだ」

ちひろ「でも琴歌ちゃんは”覚悟ができたから”、Pさんにプロデュースをお願いしに来たんですよね?」

P「…あ」
ちひろ「わかったようですけど、つまり琴歌ちゃんは父親にうちへの支援の約束を取り付けて、その上で訪ねて来たんですよ」

ちひろ「父親に名刺をもらってうんぬんの下りで、それを確信しました」

ちひろ「だからあの後直ぐに先方へ連絡したんですけど、あっさり支援を約束してくれましたよ」

P「そうだったのか…」

ちひろ「まあネットの悪評は一朝一夕には消せないでしょうけど」

ちひろ「それでも真っ当な大口の取引先が付いたことで、事態が好転することは間違いありません」

P「そうだな」
ちひろ「琴歌ちゃんは色々な意味でPさんを救ったんですよ。Pさんのあれを完全に帳消しにしてくれたんです」

P「…」

ちひろ「なんか落ち込んでいる様なのでフォローしますけど、Pさんの言葉のお陰でこの結果になった、とも言えますよ」

ちひろ「それでも大体は琴歌ちゃんが素晴らしい娘だった、ということになるでしょうけど」

P「まあ後者だろうな…」

ちひろ「あ、フォローになりませんでしたね。よしよし、落ち込まない落ち込まない」

P「わかったから」

ちひろ「あはは。…そして結局、私は自分で撒いたタネを自分で収穫した…と。そういうことですね」

P「…。ちひろ…」
P「ちひろ…お前は一体何者なんだ?」

ちひろ「何者って…、ふふっ、急にどうしたんですか?」

P「いやごめん、実は西園寺ビルに行く道すがら、社長に同じことを聞かれてね」

ちひろ「へえ?」

P「あんな商才のある人間が、何で商社を辞めてまでうちの事務所にいるのかって」

ちひろ「疑われているんですかね。これはもう少しお仕事怠けた方がいいかな?」

P「いや、それはやめてくれよ…。ちゃんととりなしておいたからさ」

P「それに、社長がちひろの仕事を評価していることは間違いない」
ちひろ「ふーん。まあいいですけど(ジー」

P「その疑うような目付きはやめてくれよ」

ちひろ「わかりましたよ。…本当は正直に言った方がいいとはわかっているんですけど」

ちひろ「私もまだ自分の気持ちを、完全には整理仕切れていないので」

P「そうか…」

ちひろ「きっと一生背負っていく、私の咎みたいなものでしょうね」

P「やっぱり未練があるか?」

ちひろ「んー、全くないとは言えないですけど、この仕事を選んだことを後悔している、ということはないですよ」

ちひろ「むしろ今の仕事の方が、私には向いているかもしれません」

P「それならいいけども…」

ちひろ「こうやって私を理解してくれる人と、一緒にお酒を飲める訳ですし♪」

P「おいおい、からかうなよ」

ちひろ「ふふ…」

P「…」

ちひろ「…」
P「…何はともあれ、ここからが本当のスタートだ」

ちひろ「そうですね。頑張って稼ぎますよ〜」

P「ああ。今後の幸運を祈りつつ、今日は飲もう」

ちひろ「もちろんです。言うまでもなくPさんのおごりですよね?」

P「え゛!?」

ちひろ「そりゃあ今日私はPさんの尻拭いをさせて貰ったわけですし、当然じゃないですか♪」

ちひろ「さあさあどんどん行きましょー!すみませーん!お代わり2つ下さーい!!」

                                                       おわり
書き終わった瞬間寝落ちるとは…。

>>51
もちろん、このちひろさんの過去の話とプロダクションに何があったのかなんていうのは今後書きます
今回はこれで一区切りということで

それにしても、琴歌のマグネット購入記念として書き始めたのに、書き終わってみたらちひろさんメインになってしまった…

23:30│西園寺琴歌 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: