2015年05月29日

緒方智絵里「で、弟子にしてくださいっ」 佐久間まゆ「はい?」

まゆ「ちょっと状況がのみこめないんですけど……いきなりどうしたんですか?」



智絵里「えっと……まゆちゃんを見習いたいと思って。だから」



まゆ「見習うというと、具体的には?」





智絵里「その……真っ直ぐに堂々と気持ちを伝えられるところかな。Pさんにいつも積極的だし」



まゆ「なるほど。そういうことだったんですねぇ。つまり、もっとPさんに自分をアピールしたいと」



智絵里「……うん」コクリ





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智絵里「アイドルを始めて、少しは成長できたと思うんだけど。わたしはまだまだ気が弱いから。だめ、かな」



まゆ「……いいえ。本当なら恋のライバルを手助けするようなことはしたくないんですけど……智絵里ちゃんにはいつも助けてもらっていますから、特別ですよぉ」



智絵里「本当? ありがとう」



まゆ「ただし、弟子にはできません。ちょっと心構えとかを教えるだけです」



智絵里「うん、それで十分だよ」



まゆ「まゆが常々心がけていることは3つあります」



まゆ「まずひとつめは、信じることです」



智絵里「信じる……?」



まゆ「自分なら必ずこの人を幸せにしてあげられる。自分もこの人のそばにいれば幸せになれる。そう強く信じることが大事です。芯になる気持ちが弱いと、何事もうまくいきませんから」



智絵里「つまり、自信を持ってってことかな」



まゆ「そういうことですね。まゆも何度も自分に言い聞かせて、気持ちを奮い立たせています」



智絵里「そうなんだ」



まゆ「意外そうな顔ですねぇ。まゆだって、Pさんにアプローチをかける時は結構緊張しているんですよ? いつも胸がドキドキしています」



智絵里「緊張してるの? わたしにはいつも自信満々に見えていたんだけど……」



まゆ「当たり前ですよぉ。大好きな人を相手にしているんですから」ニコリ



智絵里「そ、そうだよね……ドキドキしちゃうよね」



まゆ「はい。だから、何度も何度も自分の気持ちを確認するんです。朝起きた時に1回、家を出る時に1回、事務所の前で1回、Pさんにあいさつする前に1回、お手洗いに行くときに1回――」



智絵里「ちょっと多すぎるんじゃないかな、あはは……」



まゆ「ふたつめは、誠実であることです」



智絵里「誠実……Pさんに対してってこと?」



まゆ「その通りです。恋愛は、まず相手のことを思いやるところから始まるんですよ」



まゆ「たとえば智絵里ちゃん。こういう意見があったらどう思いますか?」



まゆ「私は彼のことを愛している。でも彼は女の子にモテて、行く先々でいろんな子達と仲良くなってしまう」



まゆ「私が彼を一番愛しているのに、彼は私を一番には見てくれない」



まゆ「どうして? どうして他の女のところに行ってしまうの? 私はこんなにもあなたのことを想っているのよ?」



智絵里「………(演技が真に迫ってて怖い)」ビクビク



まゆ「……もういい。あなたが私に振り向いてくれないのなら……無理にでもそうさせてあげる」



まゆ「邪魔な女は排除して、あなたの生活すべてを私が管理してあげる」



まゆ「自由に外を出歩けない体になっちゃうけど、何も心配することはないのよ? 私がたくさんたくさんたくさんたくさん愛してあげるからぁ」



まゆ「ね? いいでしょう? いいに決まっているわよね? あなたはそれで幸せなんだから」



まゆ「……うふふ、怯えた顔も可愛い♪ これからはずーーーっと一緒よ。ふふ、うふふふふ」



まゆ「あはははははは!!」



智絵里「ひいっ!?」



まゆ「というような感じの……あら?」



智絵里「ご、ごめんなさいごめんなさいゆるしてゆるして」ブルブル



まゆ「あー……すみません、少しノリノリでやりすぎちゃいました」



智絵里「こ、怖かった……今の、演技なんだよね?」



まゆ「もちろんです。それで、今のような考え方について智絵里ちゃんはどう思いましたか?」



智絵里「えっと……すごく怖いけど、でも……わからなくはないというか」



智絵里「その人のことが好きになりすぎた結果、暴走? しちゃった感じなのかな」



まゆ「なるほど。智絵里ちゃんは優しいんですねぇ」



智絵里「え?」



まゆ「まゆならこう思いますけどね」



まゆ「論外。そんな形の愛ならそこらの犬にでも食べさせておきなさいって」



智絵里「い、犬……厳しいね、まゆちゃん」



まゆ「当たり前じゃないですか。多少のわがままを言うのはかまいませんけど、これはただの束縛です」



まゆ「相手の自由を根本から奪う行為に誠実さはありません。外を出歩けないように監禁して何が幸せですか」



まゆ「まゆはよくPさんにヤンデレっぽいと言われますが、このような人と一緒にされるのは心外です」プンプン



智絵里「で、でも。出歩けないかわりに、そのぶん愛してあげるって」



まゆ「そこっ!」



智絵里「ひっ」



まゆ「そこがおかしいんです! よく考えてみてください。外を自分の足で歩く幸せと、女の子から愛してもらう幸せは完全に別物です。なのに代替できるかのように語っている時点で傲慢なんですよ」



まゆ「まゆだって、Pさんのことはすごく愛しています。けれど、Pさんの人生にとってはまゆからの愛情がすべてではありません。だから寂しい時も我慢するんです」



まゆ「相手を愛することは大いにかまいませんが、決して独りよがりになってはいけない。それが誠実な愛というものです」



智絵里「な、なるほど……うん、そうだよね。好きな人には、幸せでいてほしいもん。だからわたしも、Pさんに四葉のクローバーを」



まゆ「その通りです」



まゆ「最後にみっつめ。ためらわないことです」



まゆ「まゆ達はまだ若いんですから、猪突猛進の気持ちでぐいぐい行くべきです」



智絵里「ぐいぐい……」



まゆ「ひとつめ、ふたつめの心がけとも絡んできます。自分に自信を持って攻めるべし、けれど決して独りよがりになりすぎてはいけない」



まゆ「たったこれだけですよぉ」



智絵里「でも、なかなか線引きが難しいよね。どこまで思い切り攻めていいのか、わたしにはよくわからなくて」



まゆ「そこは自分で見極めるしかないですねぇ。まゆも、そのあたりは往生際の悪い真似はしないようにと誓っています」



まゆ「Pさんが他の誰かを選んだその時は、潔く身を引くつもりです」



智絵里「まゆちゃん……」



まゆ「Pさんが婚姻届を役所に提出するその瞬間までは諦めませんけど」



智絵里「微妙に往生際悪いね……」



まゆ「こんな感じですけど、参考になりましたか?」



智絵里「うん。なんとなくだけど、まゆちゃんがどうして堂々としていられるのかがわかった気がする」



智絵里「でも、それをいきなり自分に当てはめるのは……まだ、ちょっと難しいかな」



まゆ「そうですか……仕方ありません。特別に、おまけを教えてあげましょう」



智絵里「おまけ?」



まゆ「相手に自分を印象づけるための技術です」



まゆ「愛情がほしいとちょっぴりわがままを言う時に使うと効果的ですねぇ。求愛行動みたいなものです」



智絵里「それって」



まゆ「はい。目のハイライトの消し方です」



翌日





智絵里「Pさん。レッスン終わりました」



P「お、おう……そうか。今日も頑張ったな」



智絵里「えへへ、ありがとうございます」<●> <●>



P「ああ……ところで今日は、なんか雰囲気違うな」



智絵里「そうですか? 昨日とどんな風に違いますか?」<●> <●>



P「なんていうか……堂々としているというか、目が据わってるというか」



智絵里「わたしも、今日はちょっとだけ自信を持ててやれている気がします」<●> <●>



P「そ、そうか。うん、それはよかった。あははは」



P「おいなんだあれは。大天使チエリエルが闇に堕ちてるじゃないか」



まゆ「すこーし暗示が強くかかり過ぎましたねぇ。諸刃の剣だから多用は禁物と忠告したんですけど」



P「早く元に戻してくれ。智絵里には澄んだ瞳が似合っている」



まゆ「あらぁ? まゆには澄んだ瞳は似合っていないんですか……?」



P「そ、そういうわけじゃないぞ! うん」



まゆ「うふ、冗談ですよぉ……とはいえ、まゆは暗示の解き方は心得ていませんし」



まゆ「こうなったら、別の暗示を上からかけて打ち消すしかないですね」



P「別の暗示?」



まゆ「すでに助っ人を要請しています。もうすぐ到着しますよ」



P「助っ人って――」



??「おはようございます! 智絵里ちゃんをウサミンパワーで浄化してほしいと頼まれたのでやってきました!」



P「チェンジで」



??「ひどい!? まだ名前も出てませんよ!」



まゆ「あらあら」



まゆ「では、次はヘレンさんにでも頼みましょうか」





おわり





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