2014年02月16日

P『スマン、今日限りでプロダクション解散だ』ほたる『』

アイドルマスター・シンデレラガールズより白菊ほたるちゃんのSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365005988


不幸体質──幼い頃からの少女のそれは、自身ではなく周りに振り撒かれるものだった。

友達が病気に見舞われる、唐突に怪我を負う。両親の勤め先が経営不振になる、転職に追いやられる…。

いつしかその体質を自覚した少女は、それを払拭すべく皆を幸せにできる存在……アイドルを夢見て上京した。

娘の体質を気にしつつもそれを克服してほしいと願う両親は、その夢を応援しようとした。

自分ではどうしようもない『不幸』を振り撒いてしまう少女は、

それでもその境遇に諦観することだけはせず笑顔を忘れないように努める。

…決して経営の不安定なプロダクションではなかった。

けれど、少女がスカウトされた先々は突如仕事の依頼が減り、結果倒産に追い込まれていく。

迷信染みた体質はひた隠し、その罪悪感に苛まれながらもアイドルを目指し続ける。



『…済まない…このプロダクションも今日までだ』


そうして何度目かのその言葉。

ファンを笑顔にするハズだった少女…白菊ほたるは、

いつしか自分すら笑顔になれなくなっていた。

――――――――――


「………………」

 午前に寮へ挨拶に向かい、キャリーバッグに纏まるだけの私物を手にプロダクションを後にする。少女を見初め最後までサポートしてくれたプロデューサーは、別れの際で少女の行く先の成功を願ってくれた。


−……また…最後まで言えなかった…


 郊外の公園。ベンチに腰掛け、ほの暗い曇り空を見上げる。

今後のことを考えなければいけないが、何もまとまりそうにない。

今まで所属してきた会社は全て無くなった。そんな『疫病神』の過去を口にすれば、スカウトすらしてもらえない…
その葛藤を何度もし、その度にアイドルを目指して逆境に抗おうとした。結果が、この有り様だった。


−…やっぱり…無理だったのかな…。ここに来て…また私に関わった人を不幸にしただけ……

 同年代では飛び抜けたもので、その都度スカウトされた事からも少女の容姿は確かな愛らしさ。

けれど今その顔は、13とは思えないほど暗いものになっている。鈍色の空がよく似合っていた。



−……帰ろう…。きっと私はもう、誰とも関わらない方がいいんだ…──




『にょわー』ヒョコッ


「っ!?」


 曇天の中、視界の端から入り込んできた…女の子。驚くほたるの顔をしげしげと見下ろしている。


「…っあ…あの……?」

 狼狽える少女をよそに、大きな瞳でじぃーっと眺めてくる。

突然のことで驚くが、さらに驚かされるのは彼女の体。大木のような巨躯の女の子が、不釣り合いにも見える愛らしい視線を向けてくるのだ。


「んー…ちょっち大っきいけどカワイイー☆はぐはぐしていーい?いーいぃ?☆」


「ぇ、えっ?あの、ちょ…」



『こら、きらり…怖がってるでしょう…』

背後から男の声がした。“きらり”と呼ばれた女の子はむくれた表情で向き直る。


「Pちゃんひどーいっ!きらりはぜーんぜん怖くないにぃ!そぉでしょ?にょ?」


そうしてもう一度ほたるを見やって詰め寄る。気圧されて言葉も出ない少女を見かね、男はきらりの襟首を摘んで引っ張った。


「うきゃー」


「すみませんお嬢さん。ちょっと目を離した隙にこの子が走り回るものだから…」


「きらりのカワイーモノせんさーが反応したんだよぅ…ティン☆って!」


 呆れるように乾いた笑い声を洩らし、…しかしほたるの姿を改めて認めた男は、次第に目の色を変えた。
>>3,12
画像どもです



「お嬢さん、お名前は?」


「あ……白菊ほたる…といいます…」


「きらりはねー、諸星きらりだよー☆」


「ほたるさん…少しお時間を戴いてもよろしいですか?」


「お?Pちゃんナンパ?ナンパ?うきゃー、ダイターン☆照れゅー☆」


「はいそうです、というワケできらりはちょっとこれで飲み物でも買ってきてもらえますか」


「にょわー、りょぉおかーいっ!ぱしーっといってきゃーすっ☆」


お札を受け取って凄まじい勢いで走っていくきらりを背に、男はにこやかに微笑んだ。


「○○プロダクションのPと申します。わが社でアイドルになってみませんか?」


―――――――――――



「13歳…?いや失礼、大分大人びて見えたものですから」

 156cmと身長は年齢通りだが、これまでの境遇から知らず知らず表情に陰が濃くなっていた。“大人びて”と言えば聞こえはいいが、今着ている黒色の服も相まって陰鬱に見えなくもない。


「その荷物…見たところ遠出をしてきた様ですが、ひょっとして家出中だったりします?」


「ぃ、いえっ、そうではないんです…。えぇと………」


 少し言い淀むが、どうせ今日で全て終えるつもりだったのだ。彼の申し出を断るべく、ほたるはこれまでの事をぽつぽつと語っていった。


―――――


「……………」

少女の話を聞き終えて黙り込むプロデューサー。そんな冗談を…そう笑い飛ばしてしまいたくなるが、けれどほたるの纏う雰囲気がその軽口を挟ませない。



「私は…今までそれを隠してきました…。分かっていながら…アイドルという夢を諦めたくなくて……たくさんの人を不幸にしてきました…」


「…なぜアイドルになろうと?」


「……認めたくなかったんです…自分が皆を不幸にするだなんて…。アイドルになって、誰かを笑顔にすることが出来れば……そうすれば…私は……」

それ以上言葉は出てこなかった。俯いたまま肩を震わせ、努めて笑おうとする。端からはそれは笑顔に見えない。

しばらく言葉に詰まるP。この仕事をある程度続けていれば、少女がいつか輝ける素質を秘めた原石だと見てとれる。けれど、望んだ末に理不尽に阻まれ、今その夢を諦めようとする少女に何と言えばいいのか解らなかった。


「おまたしぇー☆」

と、そこできらりが走って戻ってくる。額にじんわり汗をにじませ、満面の笑みで飲み物を差し出す。…フルーツミックス、おしるこ、ナタデココジュースのラインナップ。


−…甘ったるい物ばかり…


「そんでそんで、Pちゃんナンパはばっちぐー?」


「あ、いえ…それが…」

缶ジュースを受け取ったほたるは、愛想笑いを浮かべられるくらいには落ち着きを取り戻していた。


「きらりさん……私にはアイドルなんて…」


「アイドル、すっごぉーい楽すぃーんだよ!ほたるちゃんもきらりやPちゃん、みんなと一緒にきらきらはぴはぴしよっ☆きらりんっ☆」
 

常に全身に元気がみなぎっているような彼女を前にしては、重い空気も吹き飛んでしまう。

ほたるが口ごもったのを未だ躊躇しているのだと考えたきらりは、2人が腰掛けるベンチから数歩離れてびしっと手を上げた。


「にょわーっ☆一番、諸星きらりっ、歌いまーっす!『ましゅまろ☆キッス』♪」


「…!?」


聞いたことのないタイトル。ほたるはもちろん、Pさえも。

驚く2人をよそに、きらりは大きく口を開いた。


『まっしゅまーろほっぺー

指先でぷにぷに 楽しそうにあなたが弾いて笑う ぷにぷに☆』


唐突に歌い始めたその歌詞も、当然初めて聞くもの。所々耳に入るフレーズはきらり独特の感性で書いたものなのか、一度聞いただけでは何を唄う歌なのかよく解らない。


「………………」

だが、そんな事はどうだってよかった。きらりの歌、その一挙一動に、ほたるは目と心を奪われた。
大きな体をパワフルに動かし、それでいて可愛らしい仕草を挟むキュートなダンス。伸び伸びとした声で、感情を余すとこなく込めて響かせる歌唱。そして、何よりも。

−…楽しそう…


たった2人の観客を前に、全開のパフォーマンス。

満面の笑顔で、歌うこと、踊ること、全身で表現することを楽しんでいた。


「──きらりんっ☆☆」

最後のキメのポーズ。全てを出し切ったように満足げな顔で額の汗を拭う。

そのままP達の前に駆け寄り、人懐っこい笑みを向ける。

「むはーっ!うぇへへへ、Pちゃん、ほたるちゃん、どぉどぉ?ほんぽー初後悔、きらりの…」





「…………(ポロポロ」



「にょっ!?」

いつの間にか、ほたるの瞳から涙が溢れている。


「…っあ、いえ、これは…っ…」

きらりの反応ではじめて自覚したらしく、慌てて手袋でそれを拭おうとする。

不幸体質を克服したい…皆を笑顔にしたい…それらと同じくらいに望んだハズだ。

ブラウン管の向こうに映る、夢のような世界…そこに立ち、輝く舞台を楽しむこと。

規模も場所も違えど、この大きな駆け出しアイドルは、たった今そのステージを全力で楽しんでいた。

…それがどうしようもなく羨ましかった。



「ど、どぉしたんだに…お腹いたい…?おしるこ、腐ってたかにぃ…」


「っ、ちがう、んです…っ。…わた、し……」

断たなければいけないのだ。もう誰も不幸にしたくないと、ほんのさっき決意しようとしていたのに。

胸の内に生まれた悔しさと悲しみで、涙の答を口に出来ない。


「…ほたるちゃん、悲しーこと、あった?」


「……ぐすっ…(こく」


「んじゃんじゃ、きらりたちと一緒にアイドルやろーっ!

一緒にはぴはぴして、毎日きらきら☆すれば、ヤなコトも悲しーコトもみぃーんな吹き飛ばせるにぃ!」
 先まで迷っていたPは、ついに掛けるべき言葉が見つかった。

同時に、きらりもまた輝く原石であることを改めて実感した。


「ほたるさん。私は、アナタの今までを信じない事にしました。

きらりが言うように、アナタが輝けば不幸など消し飛ばせるのだと思います。

──もう一度、アイドルになってみませんか?」


自分の本当の気持ちを知った。過去を知ってなお、手を差し伸べてくれた。

ならばもう、何も迷うことはなかった。



「私、せいいっぱい頑張ります!期待に応えます…!

 白菊ほたる、よろしくお願いしますっ!」



「にょっわーーっ!!」

 途端、Pよりも先ににじり寄ったきらりがほたるを抱き締める。

加減を知らないのか全力でハグし、大きな身体でこれでもかと包み込んでいた。


「にゃっほーい、ほたるちゃんおっすおっす!一緒にてっぺん目指すにぃ☆」


「ふぁぁ……は、はぃ、がんばりまふ…」


「…はは」




駆け出しアイドル白菊ほたる。新たな決意を胸に、もう一度スタートラインに立つ。

あの輝く舞台を目指して。




おわり

08:30│白菊ほたる 
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