2015年06月19日

星輝子「泡と溶ける、想い」

地の文ありのSSです



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ボッチでいるからには周りに不快感を与えてはならないと思う。ただ吃ってしまうしゃべり方はどうしようもならないし、友達のいない雰囲気は消すことが出来ない。だからせめて清潔であろうと思った。自分は長風呂であるし、綺麗になっていくのは好きだ。





「フヒ…それに湿っているとキノコも育つしな…」

まずは洗面器でお湯をくみ体にかける。すると自分の長い髪が背中にくっついてなんだかくすぐったい。髪が長いと大変だから切りたいけど、美容院などという コミュ力必須の場所に行く勇気はない。一回行ったのだけど店員の言われるがままになってしまい逃げるように帰ったのだ。それ以来怖くて行けない。

石鹸を使い髪を洗う。自分には石鹸が一番似合っている。分相応というかそれ以上お洒落なものを使うのは申し訳ないというか…そういえば幸子ちゃんの髪はい い匂いがする。きっと椿とかそういう自分とは別世界のものを使っているんだろう。憧れないといえば嘘だけど、自分が使っている石鹸の香りが好きだ。

やっぱり髪を切りたい。洗い終わるまで一苦労だ。親友が元美容師のアイドルをスカウトしてくれれば美容院に行かなくても髪が切れるな。そんな都合のいい話 はあまりないんだと思うけど。風呂に入っている少しの時間だけはそんな空想を許されいる気がするな。洗面器の湯を被ると現実に戻ることになる。

また石鹸を泡立て今度は体を洗う。首や脇、そんなに成長していない胸を通りすぎ、お腹に流れ、ヘソに入る。足を付け根からふくらはぎまでマッサージするように何往復かする。次に背中を一直線に流れる。全身泡だらけになると少しだけ気持ちよさを感じる。とても幸せ。

「な、なんだか変態みたいだな…」

湯を被り現実に戻る。綺麗になったのでいよいよ湯船に入る。お湯は少し熱めにしてある。足がピリピリ痺れるような感じがして心地いい。一気に湯船に浸かる と今日一日の疲れがどこからともなく現れる。そのまま眠くなってしまうのをぐっと堪え足をバタバタさせる。嫌なことも良いこともみんな溶けていく。

P『なあ輝子』


輝子『フヒッ…いきなりどうしたんだ親友?』



P『食レポとか興味ないか?』



輝子『…ボッチに食事の感想を求めるとかイジメか?』



P『オファーが入っているんだ。142`sで商店街を食べ歩くってやつが』



輝子『小梅ちゃんと幸子ちゃんと一緒なら…』



P『頼んだぞ』



ここの所自分を喋らせようとする仕事が増えてきた。私はライブがやれてキノコについて語れればいいと思っていたんだけど。どうやら大人の事情とは簡単なものではないらしい。こんなボッチを見てみんな笑っているんだろうか?馬鹿にされているじゃないだろうか?時々すごく不安になる時がある。

きっとアイドルになるってことはそういうことなのかもしれない。シンデレラは半分笑われながら、もう半分は応援されながら舞踏会で踊るのだ。踊り終わった時のことなど誰も分からない。ガラスの靴を落とせる人もいるし、魔法使いに連れられて元の世界に戻る人もいるだろう。まだ私がどっちか分からない。

出来ればガラスの靴を残せる側であって欲しい。メタルをやっている時の自分も、ただのキノコ好きボッチでいる時の自分も、そんな自分のことを応援してくれるファンのみんなも、そしていつも支えてくれる親友も大好きだ。…うん。自分で思っているだけでも照れるな。やっぱりこういうのは似合わないな。

でもそれとは反対の気持ちも確かにあるんだ。この気持ちは親友にとっても私にとっても事務所のみんなにとってもよくない気持ち。だからなにがなんでも隠し通さなければならない。アイドルは可能性が生まれただけでもアウトだからな。フヒヒ…誰も知らないところに生えるキノコみたいなものだ。

飛鳥『輝子っていうんだっけ?』



輝子『フ、フヒ…?』



飛鳥『驚かせるつもりはなかったんだ。少し聞きたいことがあっただけで』



輝子『答えられることなら…答えるぞ…』



飛鳥『君の本質はどっちなんだい?』



輝子『?』



飛鳥『言葉が悪かった。ライブをやっている君と普段の君どっちが本質?』



輝子『どっちかな…?考えたことなかった』



飛鳥『そうかなら簡単だ。君にとってどっちも本質なんだね』



輝子『どっちも本質?』



飛鳥『蕾には花を内包しているように花が咲いた時に蕾は消えてなくならない。蕾を否定したものが花という答えを出す。弁証法だね』



輝子『そうなのか…難しいな…』





今なら昼間の二宮さんとの会話もなんとなく分かるような気がしてきた。ありたい自分も否定しようとしている自分も同じ自分で、どんなに隠そうとしてもその自分が出てきてしまうんだろう。それはどんな形であれ確実に。だからこういう考えを持っていること自体自分が変わってきているという証明だ。

お風呂に入っていると余計なことまで考えてしまう。半身浴はとても気持ちいい。でもここで沈みこむ。俯瞰したらクラゲみたいになっているだろう。最近本当に友達が増えてきた。友達といると幸せだ。でもボッチにはボッチの楽しさがある。両方の良いところを取り合わせればいいなって思う。

小梅『輝子ちゃん…』



輝子『…ん、どうした?』



小梅『…DVD借りてきたから…見よう?』



輝子『…怖いやつか?』



小梅『うん』



輝子『…付き合うぞ』



幸子『ボクは付き合いませんからね!』



小梅『えっ…ダメ?』



幸子『うるうるした目で見てもダメです!もう怖いのは懲り懲りですから!』



輝子『…幸子ちゃんダメか?』



幸子『勿論です!』



小梅『Pさん、この映画のシリーズ好きなんだって』



幸子『へえそうなんですか。ちなみに聞きますがどんなあらすじなんですか?』



小梅『…それは見てからのお楽しみ』



輝子『…秘密だな』



幸子『フギャー!見ればいいんでしょ!見れば!』

幸子『…』



輝子『…中々だったな』



小梅『…うん。もうちょっと血がリアルでも良かったと思うな』



幸子『…』



輝子『…最後のどんでん返しには…びっくりした』



小梅『…期待を裏切らない…展開だったね』



幸子『…』



輝子『これならPさんお気に入りも納得』



小梅『見てよかったね』



幸子『なんてもの見せるんですか!これR18でしょ!』



小梅『…間接的な描写だから大丈夫なんだよ』



幸子『いりませんよ!そんな無駄知識!』



輝子『役に立つこともあるかも…』



幸子『あーボクが女優をやるときにどうすればR規制入らないようになるのか…ってそんな場面一生ありませんよ!』

幸子ちゃんはついつい弄ってしまう。幸子ちゃんの反応がすごくカワイイのだ。幸子ちゃんは本当に優しい子だから許してくれる。私はボッチで心が狭いのに隣に居させてくれる。小梅ちゃんはボッチな私に合わせて優しくしてくれる。自分は本当にいい友達が出来たボッチなんだと思う。

P『おっ、面白いもの見てるな。どうだった?』



幸子『最悪です!こんなもの好きなんですか?』



小梅『…最高だったよ。他にお勧めある?』



P『意見が割れたな。今度はラブロマンスみたいな映画を教えようか』



幸子『お願いします!幸せなやつがいいです!』



P『任せろ。えーっとな…』

親友、楽しそうだな。親友、笑顔だな。親友、幸せみたいだな。親友、嬉しそうだな。親友…親友…

手で器を作ってお湯を掬い顔にかける。少し目が覚めた。多分酔っていたのだ。まだ見ぬ恋と自分に。私はボッチで親友を作るのに精一杯。それ以上のものはまだ早いというか分相応。自分と違った世界の住人のものだ。多分私は王子様のいないシンデレラ。舞踏会で踊るのが精一杯。それ以上のことは……



おわり



08:30│星輝子 
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