2015年07月27日

蘭子「眩しさへ、手をのばそう」

※一部アニデレ設定。Pは武内Pではない。



※蘭子の熊本弁が変だったらごめんなさい。



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ふと、気がつくと分からなくなっていた。



楽しくて楽しくて、楽しくて忘れていたのかもしれない。



私は神崎蘭子。14歳。4月8日生まれ。血液型A型。趣味は絵を描くこと。好きな食べ物はハンバーグ。



――私はアイドル。





「……こ……ん!……らん……ちゃん!」



「蘭子ちゃん!」

「あ……。みくちゃん、おはよう?」



「おはよう蘭子ちゃん。もう朝だよ?」



彼女は前川みく。同じ芸能事務所に所属する仲間。



どうやらなかなか起きない私を見兼ねて起こしに来てくれたらしい。



ここは東京。私も彼女も遠方から来ているので、こうして共に寮生活を送っているのだ。





「早くしないと朝ご飯、片付けられちゃうよ」



「き、着替えたらすぐ行くから、先に行って待ってて……?」



「じゃあ蘭子ちゃんの分も取っておくからね」



「ありがとう!」



何故だか今朝は頭が回らない。いつものカッコイイ私はどこにもいない……。

然し、そんなことはさしたる問題ではない。



いつも通り黒衣を身に纏えば――。





やめた、気分がのらない。



適当な文字入りのTシャツとチェックのスカートに着替え食堂へと向かった。







「おはよう……」



「お、おはよう蘭子ちゃん……。ほら、この子もおはようって言ってる……」



「フヒ……。お、おはよう……」





白坂小梅と星輝子。二人の横を通り過ぎると、二人がヒソヒソと話し始めたのが聞こえた。



『今日の蘭子ちゃん何か変だね』



とでも話しているのだろう。そんなこと私が一番よく分かっていた。

そんなこんなで、自分の様子がおかしいと思いながら過ごしていると、時計は午後3時を示していた。





「おやつの時間だよ〜」



三村かな子がそう言い放つと、赤城みりあと城ヶ崎莉嘉が彼女の元に駆け寄る。



「さっきトレーナーさんに注意されたばっかじゃん。太るよ」



「美味しいから大丈夫だよ〜」



多田李衣菜の忠告も無視して、かな子ちゃんは自前のお菓子へと手を伸ばす。



それと同時に事務所内に居た皆がかな子ちゃんの元へと集まり、お菓子に手を伸ばす。



皆、楽しそうにお菓子を食べながら談笑している。私は――。

「蘭子ちゃん?」



かな子ちゃんがお菓子の箱を持って歩み寄ってくる。



「蘭子ちゃん、食べないの?」



1メートルくらいの距離まで近づいてきたところで、急に距離が縮まった。と思ったら、またどんどん離れてった。



私はかな子ちゃんの横を走り抜け、そのまま飛び出したのだった。





外に逃げなきゃ。何故逃げるのかは分からない。然し、今の私の中にはそんな思いしかなかった。



必死に、エレベーターのボタンを連打する。何度も何度も。こうしたってエレベーターが早く来るわけでもないのに。こうしている間に皆が追ってきてしまう。皆の顔を見るのが怖い……!





「蘭子ちゃん!!」



ようやくエレベーターが到着すると、その効果音は李衣菜ちゃんの声にかき消された。

「一人……?」



「まあね。みりあちゃんが泣き出しちゃうもんだからさ、みんなそっちに付きっきり」



「そっか……。泣かせちゃったんだ……」



「あんま驚かせちゃダメだよ。私までびっくりしちゃった」



「ごめん……なさい……」





なんだか不思議な気分だ。こうして李衣菜ちゃんと二人で話す機会なんてあんまりなかったから……。もっと違うシチュエーションが良かったな。



「場所、変えよっか。下まで行くつもりだったんでしょ?」

「私もさ、逃げ出したくなるときあるんだよね」



李衣菜ちゃんは独り言のように口を開き、続ける。



「でもさ、楽しいんだよ。楽しいからやめられない。楽しいことをめいいっぱい楽しむってロックでしょ?」



と言いながら私に微笑みかけると、エレベーターが1階に到着する。

「私だって、楽しくないわけじゃない……」



「嘘。今日の蘭子ちゃん、全然楽しそうじゃない」



「アイドルは、楽しくなくない……」



「じゃあ、辞めたりしないよね……?」



素直に首を縦に振ることができなかった。もちろん辞めたりはしない。ただ、怖かった……。





しばらくの沈黙。それが気まずかったのか、李衣菜ちゃんは首に掛けていたヘッドフォンを私に差し出した。



「……聴く?」

意外だった。差し出されたヘッドフォンを耳に掛けると、聴こえてきたのは――。



「これ、何かのアニメの曲?」



「アニ……あっ!」



一瞬、キョトンとした顔をした李衣菜ちゃんは、すぐにその顔を引っ込めて赤面した。



「ま、間違い!ちょっと待って……」



急いで別の曲を選曲しようとする李衣菜ちゃんの手を、私は止める。

「えっと……」



「いいの。この曲、好き……」



伸びやかで元気な歌声は、どこか私の歌に似ているような気もした。



「それね。正確にはアニソンじゃないよ。アニソンのカップリング曲なんだ。別に私が好きなわけじゃなくて、友達に勧められて聴いてみたらなかなかロックだったからさ……」





ここで素直に李衣菜ちゃんにお礼を言って、そのままみんなと仲直りすればこのお話は終わりだったのだろう。



そう簡単にはいかなかった。





私は怖くなった。私によく似た歌声を聴いているうちに、未来への不安がどんどんボリュームを上げていくような気がして……。





私は逃げ出した――。

「説得、ダメだった」



「李衣菜ちゃん、お疲れ様」



「蘭子ちゃん、やっぱり昨日のこと……」



「それしか考えられないでしょ……」



「でもアタシたち直に見たわけじゃないし……」



「それはそうだけど……」



「だからって蘭子ちゃんの為に何もできないなんてイヤ!」



「私も莉嘉と同じだけど……」



「実際何かできるってわけじゃ……」



「……」



「李衣菜ちゃん?」



「みんな、悪いんだけどさ、ここは私に任せてくれない?」



「李衣菜ちゃんに?」



「うん……。乗り掛かった船だし。それでさ、みくちゃん、それからみんなにも、お願いがあるんだけど……」

私はただ怖かった。あれは誰?どうしてあんな風に歌えるの?



あれは私?違う。私じゃない。もう一人の……“誰か”。



私は布団に蹲っていた。このまま眠ってしまいたかったが、また邪魔が入る。



「蘭子ちゃん!ご飯食べよー!食堂しまっちゃうにゃ!」



正直、どんな食べ物も喉を通らない気がしていた。だから「いらない」とでも言いたかったが、私のそんな思いとは裏腹にお腹の音が鳴る。



聞かれてしまってはしょうがないと思い、しぶしぶ部屋の扉を開けると、そこにはこの女子寮にいないはずの人物の姿があった。





「李衣菜ちゃん……?」

―――――――――



――――――



―――





「みくちゃん、それからみんなにも、お願いがあるんだけど……」



「改まってな〜に?」



「まず、みくちゃんになんだけど、またみくちゃんのとこ泊めてくれない?」



「ヘンなモノいっぱい持ち込まないならいいケド……」



「うん。今回は、この音楽プレイヤーとヘッドフォンしか持っていかないよ。あ、着替えとかは別だけどね」



「なんか素直すぎて怪しいにゃ……」



「みんなには、プロデューサーにあるお願いをしてほしいんだ」



「あるお願いって?」



「うん。無茶だとは思うんだけどね……」





―――



――――――



―――――――――

「蘭子ちゃん、話の続き、しに来たよ」



「どうして……?」



「中途半端は嫌だからね」



「いやだ……。来ないで……」



私の願いを聞き入れることなく、李衣菜ちゃんは近寄ってくる。



そして腕をつかんでこう言い放つ



「とりあえずさ、ご飯食べに行こう?」

食卓では私はだんまりだった。みくちゃんとアーニャちゃんがただ談笑するだけで、李衣菜ちゃんは黙々と食べ進めていた。



食事を終えると、私と李衣菜ちゃんの二人きりで私の部屋にいた。みくちゃん達は空気を読んでのことか、それぞれ自室にいるのだろが、私には心細かった。というよりは、今は李衣菜ちゃんと二人きりにはなりたくなかった。



「蘭子ちゃんさ、さっきどうして逃げちゃったの?」



「それは…… 怖くなって……」



「嘘だ」



意外だった。こういう状況なら誰であろうと「うんうん」と首を縦に振って賛同してくれるものだと思っていた。まさか何の根拠もなしに否定されるとは思いもしなかった。



「嘘だね。だってあの曲、怖いところなんて一つもないもん」



「えっ……と、そうじゃなくて!……あれは、私だったから……」



「あれが?蘭子ちゃん?どういうこと?」



「……似てたの」

「似てた?何が?」



「……声?」



「声?」



「うん……それで、まるで未来の自分が見えてくるみたいで……」



「なるほど。それで怖くなったんだ」



なんだか李衣菜ちゃんが初めて私の話を聞いてくれた気がした。いや、話は聞いてくれていたが、受け入れてくれたのはこれが初めてだろう。しかしそんなのは束の間の喜びだった。



「そんなわけないじゃん。蘭子ちゃんはあの人とは違うよ」



「そうじゃないの!」



「そうなの!蘭子ちゃんは誰なの!?神崎蘭子でしょ?それ以外の誰でもないの!」



みくちゃんとのいつものじゃれ合い以外で李衣菜ちゃんが怒るところなんて初めて見た。あれは本気には見えないが、これは本気だ。彼女は本気で怒っている。



「自分が誰でもないなんて言うのは蘭子ちゃんみたいな人だけなんだよ!?そういう人をさ、なんて言うか知ってる!?」

「“厨二病”って言うんだよ!!」

私は私が誰でもないなんて言ってない。李衣菜ちゃんが勝手に飛躍させただけだ。



「私は――」



違う。私はこうじゃない。私は――



「私が病に侵されることなど、あり得ないわ!」



「戻ったね……」



あっけなかった。結局私は何に悩んでいたのか分からなかった。



厨二病というのはそういうものなのかもしれない。自分が自分で居ることが怖くなって、仮面を被る。そうして自分を手に入れる。



私は自分を少し見失っただけで、再び手に入れたかったのかもしれない。だから、“厨二病”だと言ってほしかったに違いない。

――――――



「結局さ、なんだったの?」



「神のみぞ知る……」



「もう普通にできない?」



「李衣菜ちゃんが言うなら……いいけど」



「聴く?」



「聴く」





「やっぱりこの曲、好きだなぁ……」

翌日、事務所に着くと、みんなとプロデューサーが何か話をしていた。



「だから、そんな急な話は無理だって!」



「そこをなんとかって言ってるんだよ」



「ね〜P君、おねが〜い!」



「ダメだダメだ、この話はやめやめ!」



「あの、何の話……」



「おっ、蘭子、それに李衣菜か。おはよう。それがな、聞いてくれよ……。みんなが蘭子の為にどうしてもソロライブをやらせてやってくれって言ってな……」



「みんなが……?」



「私が言ったんだ」



「李衣菜ちゃんが?」

―――――――――



――――――



―――



「無茶だとは思うんだけどね……蘭子ちゃんの為に、ライブを開いてもらうようにプロデューサーにお願いしてほしいんだ」



「どうして?」



「やる気を出させるにはこれが一番かなって。無理でもいいからさ、とりあえず、頼むだけでも、お願い!」



「いいよ」



「李衣菜ちゃんのお願いなら協力すゆよ☆」



「杏は見てるだけでいいよね」



「ええ〜!杏ちゃんも協力しましょうよ〜!」



―――



――――――



―――――――――



「そんなことが……」

「でも李衣菜、どうしてなんだ?」



「いや、もういいの。もう蘭子ちゃんのやる気は十分だからさ、今日はみんなでカラオケでも行こうよ」



「李衣菜から誘うなんて……」



「何かあるに違いないにゃ……」



「怪しい〜」



「うん、そうだね。ね?蘭子ちゃん」



「……そうだね!」

「ん〜?これ入れたのだ〜れ?」



「『高鳴りのソルフェージュ』だって。知らない曲」



「私!」



「蘭子ちゃん!?」



「うん……李衣菜ちゃんに教えてもらって……」



「ちょ、それ言わないでよ!」



「ごめんなさい……。でもね、この曲を歌うには今しかないかなって……」



この曲には、今の私の等身大のオモイが溢れているから!







……あの時、ヘッドフォンのボリュームを上げたのは私。そうだった。それでいいんだ。私は私のままで!



「我が魂の赴くままに!!」





終わり



22:30│神崎蘭子 
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