2015年08月06日

橘ありす「私とヒーローさんの七分半戦争」


光「待たせたな、ありすちゃん!」コトッコトッ



ありす「待ってないです。何で部屋の前に机を置いて、コーヒーなんか淹れてるんですか?」





光「守秘義務があるから……悪いけど答えられない!」



ありす「通して下さい」



光「せめてあと十分! ところで、ガムシロップとミルクは幾つ入れたい?」ガサゴソ



ありす「今、話逸らしましたよね」



光「アタシは一緒にコーヒー飲みたいだけだよ?」



ありす「はぁ……もう。足止めしたいなら、付き合ってあげます」



光「ありがとう!」



ありす「というか、光さんってコーヒー淹れられるんですね」



光「自分で淹れられたらカッコいいなってさ。特訓したんだ!」



ありす「あ、わかります。━━━で、光さんはどう飲むんですか」







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光(ここまでは順調。しかし、ここからが問題だ)



光(アタシがいる以上、ありすちゃんは意地を張ってブラックで飲みたがるだろう。余計なお世話かもだけど、それで苦い目に遭わせるのは嫌だ)









ありす(とか、いつもの光さんならきっと考えます。大きなお世話ですね)



ありす(かと言って強引にことを進めるんじゃ、たぶん光さんも嫌がります)



光(自分で決めるのが好きなありすちゃんだから、砂糖とかはまだ入れてない……でも、ありすちゃんにこのままブラックを飲ませたくない)



ありす(どうせコーヒーを飲むのなら……今日、私は大人なんだと証明したい)



光 ありす(ありすちゃん / 光さんをどうやって説得 / 論破しよう……!)





光「アタシはそれぞれ四つだな。甘いの好きでさ!」



光(ありすちゃんが意地を見せたいのなら、簡単な話だ。アタシが率先してミルクコーヒーを飲めばいい! そうすれば、砂糖を入れてもヘンじゃない流れになる!)



ありす(四つ!? 私、まだ六・六なのに……そうは見えないけど、一応年上だから、私より苦みに強いとでも……?)



ありす(仮にそうだとして……いえ、光さんが私にブラックじゃないのを飲ませたいのなら、砂糖を入れて恥ずかしく無い流れを作ろうとしてるんでしょうか)



ありす(……そんな気遣い、私にはもういりません。シロップ類が入る前に『気遣い無用です』と、先手を打ちましょう)



ありす(かといって直接言うのは、何だか嫌味な感じがするし、純粋に光さんの趣味の可能性も高いです。気遣ってくれてるか確認しましょう。一応)



ありす「二つで十分じゃないですか? 多すぎますよ」



光「いや、四つだな! ところで、ありすちゃんは二個なのか? すごいなぁ」



ありす「あ、いえ、そういうわけじゃ……。常識的には多いかな、と」



光「あはは、かもな?」サッーコクッ



光「……うん、美味しい!」



ありす(くっ……何だか美味しそうです……。私も喉も乾いてきたような……)



光「そうそう、コーヒーに牛乳を入れると胃に優しいらしいぞ!」



ありす「それは、そうでしょうね。脂肪が胃を守ってくれそうですし」



ありす(ここでウンチクを出して、揺さぶりを掛けてくるんですか!?)



光「ってことで、沢山あるから必要だったら使ってね!」



ありす(そして、一気に勝負をかけてくるなんて!)



ありす(ブラックが飲みたいだけなら、光さんが差し出して来るのを受け取らずに飲めばいい)



ありす(でも、それじゃ彼女の心配は無用なのだと、理論で論破したことにはなりません……)



ありす(……でも、ここで光さんが動いたのはミスです!)



ありす「お気遣いありがとうございます。でも、このまま飲んでいいですか?」



光「アタシ、ミルクコーヒーを飲んで欲しいなあ」



ありす「どうしてですか?」



光「その方がきっと美味しいからだ!」



光(遠慮が無くなった? 一気に勝負を決めに来た?)



ありす「光さんはそうかもしれないけど……今日を契機に、飲めるようになりたいんです。特訓ですよ」



光「とっても苦いよ?」



ありす「克服出来たときの感動も大きいでしょうね」



光「くっ、……わかった」



ありす(……これが私の切り札。日頃から特訓だとレッスンに過剰に励む光さんに、私のカードは返せません)



ありす「では、いただきます」



ありす(なんていうか、すてきな香りがします。オレンジみたいにフルーティーな酸味というか、それと、鼻をくすぐる焙煎臭が心地よくて、……あ、何だか飲めそうな気がします)



ありす(……いざ目の前にすると、興味と怖さが半々になって……)



ありす(……でも、すくんではいられないから!)ゴクッ



ありす「うんっ!?」



光「ありすちゃん!」



ありす「んっ、ん〜!」プルプルプルプル



ありす(この苦さはいったい!? もはや風邪薬のそれです!)



ありす(コーヒーはもともとお薬だったって話は聞いたことがあります。でも、そんなの関係無いくらい苦い!?)





光「だから言ったんだ。このコーヒー、とっても苦いんだって」



ありす「そ、それがどうして、こんな苦さに……!?」









光「このコーヒーさ……すっごく濃いめなんだ!」



ありす「そんな、シンプルな……!?」



光「最初からミルクとシロップを入れて飲むバランスだったんだ。だから聞いたんだよっ」



ありす「……くっ……」



光「……苦いままだと美味しくないかもだし、コーヒーの為にも、ミルクとか入れてくれないかな?」



ありす(そんな、ここで一気にカードを切ってくるなんて。私にはもう、打つ手が……いやしかし考えれば……う、でもこの苦さじゃ頭が……!)



光「うーん、それにしても苦くしすぎたなぁ。あと三つくらい入れちゃうか!」サッー



ありす「そんな!?」



光(これがアタシの二面作戦だ。アタシが砂糖をたっぷり入れることで、ありすちゃんがお砂糖を入れても恥ずかしくない流れを作り……一口目が防げなかった時も、アタシ以下の量なら格好がつく!)



光(……そうでなくても、普通に苦くしすぎたな! 超苦いぞ!)



ありす(そうか、光さんは私を気遣おうと思えば、いくらでもミルクとシロップを追加出来る。もともとゴーイングマイウェイな人だから、子供っぽいとかそんな対外的評価を、あまり気にしてない……だから出来る)



ありす(そして私は……一口目で、根を上げた)



ありす(……けど!)ゴクッ



光「動いた!?」





ありす(食道を通るコーヒーのトロリとした喉ごしすら、わかる……)ゴクゴクゴクゴクッ



ありす(私はコーヒーを飲めないと考えてる、光さんの思いこみを破壊するための……これが最後に残った道しるべ!)ゴクゴクゴクゴクッ!



光(やせ我慢……だって……!)



ありす「んく、んくっ……ごちそう、さまでした」プハッ



ありす「……んぅ……」モジモジ











光「……いい飲みっぷりだった。アタシの負けだ」スッ



ありす「いいえ。光さんを論破する目標が最後にどっか行っちゃったんだし、私の負けです。」スッ



ガシッ



光「ありすちゃんは試合に負けたかもだけど、勝負に勝ったんだよ。飲めるようになっただろ?」



ありす「今日が特別なだけですし、光さんがいたからここまでやれたんです。……またコーヒー、作ってもらっていいですか?」



光「へへっ、とびっきりのをご馳走するよ!」



ありす「あ、苦さは手加減してくださいね?」



光「やっぱり? ……ところで、ありすちゃん」



ありす「なんですか?」



光「シロップ直接飲んだりってする?」



ありす「いつもはしません」



光「今日は?」



ありす「……八つください」





ありす「それにしても、不思議なコーヒーでした。凄く複雑な香りがするというか……普通のコーヒー豆とは違うんじゃないですか?」



光「へへっ、当たり! 違いがわかるありすちゃんなんだな!」



ありす「そんな、これぐらい誰だってわかりますよ。とっても美味しいですから」



光「そこまで言われたら、譲ってくれたPさんもきっと喜ぶだろうなぁ。秘蔵の豆らしいし」



ありす「そうなんですか?」



光「ああ。ずいぶん高いらしく、なんでもコピルアックって言うらしいぞ!」



ありす「そうなんですか。今度調べてみますね」





ありす「さて、飲み終えたんだし、そもそもの問題に立ち戻らせてもらいますよ」



光「……な、なんの話?」ヒヤッ



ありす「何で部屋に入れさせてくれないんですか」



光「オールドホイッスルって番組、面白いよな!」



ありす「露骨に話題を逸らさないで下さい!」バンッ



机「ひっ」



光「ごめんごめん! 反省するから!」



ありす「あ……おほん。それとオールドホイッスルは漫才始めてから見てないです」



光「それもう止めてるはずだけど」



ありす「何時からですかっ!? ……ってそれより。光さんが邪魔するなら、自力で入ります」



光「後生だ、せめてあと三分!」



ありす「聞く耳持ちません。いい加減入らせてもらいます」ギィ



光「ああっ……!」









ぱんっ   ぱんっ











晴 梨沙 「「ありす、誕生日おめでとう!」」



ありす「……えっ?」



光「ごめんね晴ちゃん。せっかくの依頼を達成出来なくて……」



晴「いいって、準備はすんでたんだし」



梨沙「ほらほら、ありすは座って!」



ありす「あの、その、……これはいったい?」



晴「今日誕生日だろ?」



梨沙「ドッキリパーティーなんて子供っぽすぎるって言ったんだけどさ、晴が聞かなくって」



光「梨沙ちゃんが飾り付けに集中してくれたお陰だ!」b



梨沙「ちょ、今それ言うの!?」



晴「お陰でちょっとだけ用事が早く進んだんだぜ?」



ありす「そうでしたか。梨沙さん、ありがとうございます」



梨沙「どういたしまして♪って、何この流れ!?」



ありす「ふふっ……ほんとうに、三人とも子供っぽいんですね」



光「子供らしいことは、悪いことじゃないだろ?」



梨沙「アンタが言うの?」(身長143cm)



晴「い、いいんじゃねーか、別に?」(140cm)



ありす「何で晴さんが反応を?」(141cm)



光「言っちゃダメだった?」(140cm)



梨沙「そう言ってくれるなら……マキで準備した甲斐があるわ」



晴「ケーキの火は数字のやつにしといたからな。えっと、火、火……」



光「アタシがつけるよ! はい、離れて!」シュボッ



ありす「いつも思うんですけど、食べ物に蝋を刺すのって違和感ありませんか。すごい匂いですし」



梨沙「わからなくはないけど、まぁ飾りだし?」



ありす「蝋燭の香りは、食欲の妨げになる気がして」



晴「これがあるからバースデーケーキって感じしないか?」



光「よし、付いた。ささ、ふぅっとどうぞだ!」



ありす「あ、その前に電気を消してもらえますか」



晴「案外ロマンティックなんだな?」



梨沙「なんか以外……」



ありす「い、いけないことですか!?」



光「じゃー消すよー、さん、に、いちっ」パチン









ありす(三人のハッピー・バースデーの輪唱に囲まれながら、私は火を吹き消しました。当然部屋は真っ暗になり、照明を探そうと一悶着あったのは言うまでもありません)



ありす(……お陰で、泣いてたのには気付かれずにすんでるかもしれません……)



おわり



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