2015年08月07日

千早「鳥肉のハンバーグ」




Pの部屋のベッドの上。







千早「あの…プロデューサー……」



P「ん?何だ千早?」







千早「何時になったら私と結婚してくれるんですか?」







P「えっ!?」





 



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千早「もうプロデューサーとこんな関係になってずいぶん経って、私としてはそろそろいいかなって思うんですけど」



P「いやいやいやっ。お前はアイドルとしてこれからのタレントじゃないか。まだ結婚どころか、交際宣言だって早すぎる」



千早「…………」



P「そういうのはもっと先の話だよ。それに俺たちはアイドルとそのプロデューサーと言う関係だから、そう言うのは余計にかなりマズい」



千早「……私は…もういいんです。歌さえ歌えれば、別にアイドルじゃなくたって……」



P「アイドルでいる事がまだ嫌なのか?」



千早「それは…確かに今ではアイドルとしての自分も嫌いではないですし、ファンの皆さんも大事です。でもそれ以上に―――――」





千早「私は―――――あなたと一緒になりたいんです――――――」





千早「ココロとカラダだけじゃなくて、きちっとしたカタチで」



P「千早……」



 

 



千早「その為なら私は…アイドルとしての自分も・…・ううん歌手としての自分も、捨ててもいいと思っています」



P「ダメだよ。さっきも言ったが、まだそういうのは早すぎる。お前はもう少し自分と、周りを見詰め直した方が良い」



千早「プロデューサー……」



P「でも…どうしたんだ、いきなりそんな事言いだして?」



千早「いきなりじゃないです。私はあなたを好きになってから、ずっとそう思っていましたし、でも…それでもアイドルとしての自分も自覚してました」



P「…………」



千早「でも…最近、中々こうやって逢えないし……その時間が長い程、不安になって……」



千早「そうですよ!こうなったのも全部アナタの責任ですから、いづれは責任を取って下さいね」



P「責任って…それはお前が俺を強引に誘ったから……その仕方なく…………」



千早「………………………………」



P「いや!分った!分ったからこれから、出来るだけ会えるようにするから。だから結婚とかそういうのは、もう少し経ってからな?」



千早「はい。信じてますからねプロデューサー」にこ





 





翌日。





765プロ事務所。



コト…

小鳥「おはようございます。今日も寒いですねプロデューサーさん。あったかいお茶お茶を入れましたからどうぞ」



P「おはようございます。頂きます」



ずず…

P「…………………」はぁ



小鳥「ん?どうされたんですか?ため息なんて吐いて」



P「いえ…何も……」



小鳥「………………………!」

こく…





小鳥「あっそうだ。あの…少し手伝ってほしい事があるんですけど、ちょっといいですか?」



P「えっ?ああ、いいですよ」



小鳥「ありがとうございます。じゃあ――――――」





 





給湯室。





P「……それで俺は何をすれば?」



小鳥「フフ…」すっ

だきっ



P「えっ!?」ドキッ





P「お…音無さん……?ダメですよこんな処で。もし誰かに見られでもしたら―――――」



小鳥「大丈夫ですよ。今、事務所には私たちの他には律子さんしか居ませんし、彼女…今、自分の仕事の手が離せないみたいですから。それに―――――」



小鳥「プロデューサーさん。今…悩み事とか有りませんか?」



P「それは……」



小鳥「ですから――――――」すぅ

ちゅっ



P「―――――――//////」





 





小鳥「ん……」すっ



小鳥「どうです…これで少しは元気出ました?」にこ



P「音無さ――――」



小鳥「今は小鳥でいいですよ」にこ



P「小鳥さん……ありがとう。少し元気が出ましたよ」



小鳥「ふふ…よかったです。でも…少しだけじゃあだめですね……」





小鳥「今夜…あなたの部屋に行ってもいいですか?もっといっぱい元気にしてあげますから」



P「……………はい……」こく…





 



給湯室の入り口付近。







千早「………………………………」じー

ギリィ…







 





Pの部屋。







P「ご馳走様」



小鳥「お粗末様でした」



P「始めて食べたけど、料理上手かったんですね……部屋の掃除をしてくれたし、家事が得意なんですね」





小鳥「ありがとうございます。これでも一応、花嫁修業もしてますから。でも――――――」



P「でも?」







小鳥「――――――それは千早さんよりも……ですか?」じ…







 



P「えっ!?」ドキッ



小鳥「コレ…さっきお部屋の掃除をしている時に見つけたんですよ、この長い髪の毛」



P「それは……でもどうしてそれが千早のだと?」



小鳥「この髪の毛はベッドのシーツにあったんです」



小鳥「……そして、あなたは気付いてないのかもしれませんが、そのシーツに付いた残り香は、千早さんがいつも付けてる香水と

同じでしたから……」





P(匂いが残ってる事自体、気付かなかった……千早が香水を使っていたことは知ってたけど、ほんのわずかだった筈だし……)



P「そ…それは……」





 





小鳥「いいんですよ」



P「えっ?」



小鳥「私たちがお付き合いをし始めたのも、最近の事ですし……その前から、実は貴方が千早さんと何かあった事は知ってまし

たから」



P「それは……千早が俺に関係を求めて来て、拒絶したらアイドルを辞めるとか言い出してきて……それでなし崩しに…………」



小鳥「そんな事だろうとは思ってましたけど……」



P「済みません……」



小鳥「ふふ…いいんですよ。千早さんは今や人気アイドルの一人ですからね。事情は分かりますから……」



小鳥「私はそれを知った上で、そういう事だろうと思って、あなたに告白したんですから」



P「小鳥さん……あっ!でもこの事はくれぐれも内密にして下さい。お願いします」



小鳥「判ってますよ。流石の私だってそれ位の事は。それに私。結構おおらかですから、ちょっとやそっとじゃ怒ったり、動じたりははしません」



P「ありがとうございます……」





P(普段はちょっとした事ですぐピヨるのに、いざとなったら肝が据わってるタイプなんだな……)





小鳥「でも…暫くはいいですけど、いつかは私の巣だけに帰って来て下さいね」



P「はい」





小鳥「ふふ…」すっ

ちゅっ



P「……………」ん…



ぷはっ…









小鳥「そうだ…必ずそうなる様に、今から私と貴方のカラダにそのヤクソクを刻み付けて下さい――――――」





 

 



 





―――――





Pのマンションの前。





千早「………………………………………………」じ…

ググ…

ギリィ…











 







翌日。



765プロ事務所。





千早「音無さん――――――」



小鳥「はい?」



千早「ちょっといいですか?」





給湯室。





千早「昨日の事なんですけど……」



小鳥「昨日?」



千早「プロデューサーとの事です」



小鳥「プロデューサーさん…との事?」



千早「恍けないで下さい。私…見たんです。昨日ここでアナタとプロデューサーが…その……キ…キスしていたのを……」



小鳥「………………そう…見ていたんですね」はぁ



千早「それどころか、昨夜はプロデューサーの家で――――――」



小鳥「まったく…覗き見とは趣味が悪いですね。でも、そうだとして、それが千早さんと何の関係があるんですか?」



千早「―――――!!私は…あなたは知らなかったかもしれませんが、私とプロデューサーは実は恋人同士なんです!それを―――――」



小鳥「ちょっと待って下さい!声が大きいですよ。誰かに聞かれたらどうするんですか?」



千早「うっ…」ぐっ…





小鳥「……………判りました。今度…二人でじっくりと話し合うという事でどうですか?」



千早「………………………………………………………………………………それなら……」









千早「今夜…私の部屋でどうですか?今日は夜には仕事が終わりますから――――――」









 







千早の部屋。





千早「そこ…どうぞ」





すっ…

小鳥「ありがとうございます。千早さんの部屋…こんな処にあったんですね」



千早「ええ。ここは建物も、ここまでの帰路も人目に付き難いんです。あまり自分の個人情報を人に知られたくないですから」



小鳥「アイドルという仕事も大変ですよね。そういう事にも気を配らないといけないんですから」



千早「…………ええ。でも…それは今はいいでしょう。私がアナタと話したいのは―――――」



小鳥「プロデューサーさんの事でしょう?」



千早「ええ」こく…



千早「……短刀直入に言います。音無さん…もうプロデューサーを誑かすのはやめて下さい」



小鳥「…………誑かす?……私がプロデューサーさんを…ですか?」



千早「そうです!朝も言い掛けましたけど…私とプロデューサーは恋人同士なんです。それをアナタは!それだけじゃない…その

日の夜だって―――――」



小鳥「……アナタは今朝もそう言ってましたけど。でも…本当に……本当にそうなんですか?」







千早「えっ?どういう……」





 









小鳥「本当にあなたとプロデューサーさんが恋人【同士】なんですか?と訊いているんです」



千早「な…何を言っているのか判らないわ」



小鳥「はぁ…ここまで言っても分らないんですか?あなたはプロデューサーさんと恋人同士だと思っていても、彼の方が本当にそう思っているのか?と、いう事ですよ」



千早「!?」



小鳥「コレは…彼に口止めされている事ですけど、プロデューサーさん、私に…アナタに関係を強要されて仕方なくって言ってましたけど?」



千早「えっ!?」



小鳥「言う通りにしないとアイドルを辞める!なんて言って脅迫するなんて、流石にちょっと酷くないですか?」



千早「…………」ぐっ…



小鳥「アナタは765プロにとって大事な大事な商品なんですから。それも今から更にブレイクするであろう、期待の星……」



小鳥「それを自分の言う通りにしないと辞めるなんて言い出されたら……」





小鳥「あの人の立場…ひいては765プロそのものに損害を与えかねないですから。そりゃ受け入れるしかないですよね?」





 







千早「それは……でもっ私とあの人は本当に―――――!!」



小鳥「だったら、あの時、どうしてあの人は私を受け入れたんでしょうね?」



千早「うっ!そ…それは……一時の気の迷いで……」



小鳥「千早さんが好きになった人って、そんな一時の気の迷いで、簡単に他の女を受け入れて、不貞する様な人だったんですか?」



千早「そんな事っ!それはアナタが誑かして……」



小鳥「誑かしてですか……もし私が仮にあの人を誑かしたとして…それに簡単に乗ってしまう程度の関係だった…って事ですよね?」



千早「だからそれは!」



小鳥「そう…アナタと彼の関係は、その程度でしかなかった――――――」



千早「―――――――!!」



小鳥「だってそうじゃないですか?アナタと云う恋人がいながら、あっさりと私に心を許すなんて……そうとしか考えられないでしょ?」



千早「ちっ違う!!私と彼は愛し合って…何時かは結婚してくれるって―――――」



小鳥「本当に彼はそうはっきりと言ったんですか?千早さんと結婚するって?」



千早「言いましたよ!!私と結婚――――――」はっ







P『――――結婚とかそういうのはもう少し経ってからな?』







千早「――――――するって……言っ………………」

ぶるぶる…







 



小鳥「――――これは今日は言う心算ではなかったんですけど……」はぁ



小鳥「私と彼…プロデューサーさんは、実はもうすでにお付き合いをしているんですよ」



千早「!!!!!!?」



小鳥「と、言ってもお付き合いし始めたのは、つい最近の事なんですけどね」



千早「うそ……………そんなの嘘よ!!!」



小鳥「それに私はそれ以前から、知ってたんですよ。アナタとプロデューサーさんのコト……」



千早「だったらどうして!!?」



小鳥「だって…一目で判ったんです。プロデューサーさんに、アナタに対する愛がない。という事が――――」





千早「そん…………………な……」ぶるぶる…

がくっ





 





小鳥「千早さん…アナタは本当に彼の…プロデューサーさんの事を愛していられるんですよね?」



千早「勿論です。私はあの人の事を―――――」



小鳥「でしたら―――――」



小鳥「もう彼の事を解放してあげたらどいうですか?」



千早「!?」



小鳥「アナタのあのヒトに対する一方通行の愛が、あのヒトを苦しめているのだから…本当にあの人を愛しているのであれば――――――」



千早「やめて!!それ以上言わないで!!!」



小鳥「……………………」



小鳥(でも…そのおかげで、私は彼に近づく事が出来たのだけど……ね)フフ…



千早「あの人は……あの人が――――――――」



千早(あのヒトが私を愛していないなんて……そんなの…………そんなの――――――――――嘘だ!!)



千早(私と彼は愛し合っている!!この女に誑かされたのも、ただ魔が差しただけ!!)



千早(そうよ――――――この目の前にいる女さえいなければ……彼は私だけのモノ―――――)











千早(……そう………………この女さえ――――――いなければ―――――――――――――――)ギラッ







 



小鳥「……?千早さん?」





千早「あの…すこし一人で考えたいんですけど…いいですか?」



小鳥「ええ。いいですよ」





千早「ありがとうございます」

すくっ

すたすた…







小鳥(…………………この感じなら思ったより、早く解決しそうね。ふふ…これで晴れてあの人と―――――)







 





――――。





千早「…………冷たいモノを持って来たんですけど…ドウデスカ?」



小鳥「もういいんですか?ええ。ありがとう。いただきます」





千早「そう……それは良かった―――――――――――――――――――」

スッ―――





キラッ――――――





小鳥「えっ!?」ビクッ!!!



小鳥(お盆の中に包丁が―――――――――――!?)





千早「コレを貰ってくれるって言ってくれて―――――――」

スッ――――





小鳥「ちょっま――――――――――――――――――――」ずさっ



千早「待ちませんよ!!!!!」ダッ!!!

バッ―――――――





グサッ!!!





小鳥「グアッ!!!!!!!?」

がく…





 





小鳥「あ…ああ………………ど…どう…して……」



千早「どうしてって…判るでしょ?私とあの人の仲を引き裂こうとする、アナタが邪魔だからですよ」



小鳥「―――――そ…そんな…理……由で……」かふ…かふ…



千早「そんな理由?…………………私がどれ程の…どんな想いであの人を求めているか」





千早「それすら…知らないくせに―――――――」





小鳥「この―――――――――――――――――――――」ぱくぱく…

ばたん……





小鳥「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――」







千早「………………」はっ



千早(や…やってしまった……私…私――――――――――――――)



千早(と、取り敢えずどうにかしないと……でもどうすれば……)はっ!













千早(そうかぁ…………………だったら、みんなに手伝ってもらえばいいんだ―――――――)

ニヤァ…





 



 





数日後。





音無さんが行方不明になって数日が経った。



連絡もつかず行方不明になった翌日には、警察に通報していたが、警察によると行方不明になった日の退社後の行方が、全く掴めないとの事だった。





P「小鳥さん……どうして……何処に行ってしまったんだ…………」



俺は呻く様に声を絞り出す。



小鳥さんは俺にとって大切なヒトだ。その大切なヒトがある突然、俺の前から何も言わずにいなくなってしまった……。



何となくではあるが、彼女との将来も考えていたというのに……。



俺のココロは正に筆舌に尽くし難い思いに苛まされていた。





それは765プロのみんなも同じで、事務所内はあの以来、とても重苦しい空気に包まれ、支配されていた。





そして俺は勿論、765プロの皆の焦燥が、日に日に強くなっていく中での事だった。



千早がこんな時だからこそ、一度、皆を集めて食事会でも開いて気分転換しよう。と、俺に提案してきた。



確かに俺も皆も、何時までも沈んでいてもしょうがない。







そう思った俺は…自らをもう一度奮い立たせる為にも。彼女の提案を快諾し、会を計画して皆に声を掛けたのだった……。





 

 

 





765プロ事務所。





P「えー今日は寒い中集まってくれてありがとう。と言ってもここは君達の事務所なんだから当たり前か」



アイドル達「「「「はは…」」」」



P「…………」コホン…



P「そんな事は…まぁ置いておくとして…皆も音無さんの件では大変心を痛めている事とは思う。だけど、君達の仕事はファンをはじめ多くの人達に笑顔に、元気になって貰う事だ」



アイドル達「「「「…………」」」」



P「その君達が公の場で沈んだ貌を見せてはいけない。だから、少しでも元気になって貰えるように今回の食事会を開かせてもらった――――」



アイドル達「「「「……………」」」」



P「今日は皆で持ち寄った料理を大いに食べて話して、英気を養ってもらいたい。では――――」





P「乾杯!!」





アイドル達「「「「かんぱーーい!!!!」」」」







 





わいわいがやがや。







雪歩「プロデューサー大丈夫ですか?あの日以来、随分と落ち込まれていた様でしたけど……」



P「あ、いやすまん。裏方の同僚って事もあってな……本来なら、俺が率先して皆を元気づけてやらないといけないのにな……」



P「その俺がアイドルであるお前に心配されるなんて、プロデューサー失格だな」はは…



雪歩「そんな事ありません。親しい人が突然いなくなってしまうのは、とても……悲しい事ですから……」



P「雪歩……ありがとな。こんな俺を心配してくれて」にこ



雪歩「!!////////あの…プロデューサー……こんな処で言うのもなんですけど私…私……実はプロデューサーのk――――」



千早「―――――プロデューサー。雪歩と何を話されているんですか?」



雪歩「!?」びくっ



P「千早か…あっ、そうだ。実はこの食事会は、俺じゃなくて千早が企画したものでな」



雪歩「千早さんが?」



P「ああ。元気を取り戻すには食べるのが一番って言ってきてな」



千早「…………」





P「外でやるのもいいけど、だけど今は事情が事情だし。ここでみんなで作った料理を持ち寄ってやった方が、何かといいじゃないかって。それでここでやる事にしたんだよ」





雪歩「そうだったんですか……」



千早「ええ……」







 



春香「あっ千早ちゃん!千早ちゃんが、このハンバーグ作ったんだよね!?」



千早「そうよ」



雪歩「春香ちゃん……」



春香「すっごく美味しいよ!千早ちゃん料理上手かったんだね」



千早「そう。ありがとう」



やよい「ホントにおいしかったです。こんな美味しいハンバーグ食べた事ないです」うっうー



春香「確かに…そう言えば今まで食べた事の無い感じだったけど…千早ちゃん、コレ何のお肉を使っているの」



千早「コレ?コレはね…………」









千早「鳥肉のハンバーグ」









千早「よ――――――――」







  





春香「鳥肉?へぇ…そうなんだ。でも…鳥肉ってこんな味してたかな?」はて



やよい「美味しければ何でもいいのです」うっうー



春香「あっそうだ。プロデューサーさんも雪穂ちゃんも、まだだったら食べて下さいよ。とってもおいしいから」



P「そうだな」もぐ



雪歩「はい……」もぐ



雪歩「!!」



P「おっホントに旨い!確かにこんなの初めてだ。なぁ雪歩?」



雪歩「……………………………………そうですね……」





やよい「千早さん。このお肉どこで買ったんですか?」



千早「このお肉はね。他のトリのエサを奪ってブクブクになった、ドロボウ鳥って言うの」



やよい「どろぼーはいけない事です!」



千早「ええ。そうね。とってもいけない、決して赦されない事だわ。やよいはそれがどんなに欲しいものでも、人のモノを盗る様

な人なってはダメよ」



やよい「はいなのです!」



千早「あと、このお肉をどこで手に入れたかは、残念だけど教えられないわ」ふふ…





やよい「えー残念ですぅ」







 







わいわい





P「……最初は少し心配だったけど、やっぱりやってよかったよ。千早」



千早「そうですね。私も色々と整理する事が出来ましたし……」



P「そうか……」





雪歩「……………あの千早ちゃん。少し話があるんだけど……」



千早「どうしたの雪歩?」





P「それじゃあ俺はちょっと、他の人のとこに行って来るよ――――」すたすた







―――





P「今日はここでひとまず解散とするが、みんなも今まで以上に頑張って、音無さんが帰って来た時に、笑顔で元気に迎えて彼女を驚かせてやろう!」



アイドル達「「「「はい!!!!」」」」







P「では…解散!」





 









――――





会場の隅。





千早「……それで話って言うのは?」



雪歩「うん。あのね千早ちゃん。私――――――」すっ





雪歩「私…………千早ちゃんが作ったこの【鳥肉のハンバーグ】を食べた事があるの…………」ぼそ…



千早「!!!!!!?」ドキッ!





雪歩「どうしたの?千早ちゃん。こんなに怖い貌して」



千早「雪歩……あなた」







千早「…………判ったわ。場所を変えて話しましょう―――――」







会場内。





響「貴音のラーメンおいしーかったぞ!なっプロデューサー?」



P「ああ。そうだな。何時の間にラーメンの作り方なんて覚えたんだ?」



貴音「今回のお話を頂いて、いい機会ですから挑戦してみようと思い経ったのです。何分、初めての事で上手くいくか心配でしたが、喜んで頂けたようで良かったです」



P「いや。本当に旨かったよ。とても初めてとは思えない位に」



貴音「ありがとうございます。それに響もありがとう。響のこの、らふてーも美味しかったですよ。私のらぁめんのとっぴんぐにしてもいいかもしれませんね」



響「おっそれいいな!コラボってやつだな!!」





貴音「ふふ…そうですね、あなた様もありがとうございます」にこ







…。





P(……………ふぅ。どうやら成功したと言ってもいいかな?これでみんなが少しでも気分転換してくれれば……ん!?)





P(千早と雪歩……もういないな。もう話は終わったのか?)





P(最近の千早の行動や言動には困らせられる事も多かったが…それでも、みんなや俺の事を考えてくれてたんだな……)





P(その千早は俺と小鳥さんとの事は何も知らないと思うと、少し心苦しくなるな……)









P(それにしても…小鳥さんは本当にどこに行ってしまったんだろう……何でもいいから早く帰って来てほしい……俺も皆もずっとあなたが無事に帰って来るのを待ってるますから……)





 

 





千早の部屋。





千早「はい。お茶どうぞ」



雪歩「……どうも」



千早「……前置きなんてしないで訊くけど。あのハンバーグを食べた事があるっていうのは、どういう事なの?」



雪歩「………ですから、私も食べた事があるの。アレは…今日のと比べて、少し固かったけど……」



千早「固かった?」



雪歩「ええ。私はメスではなくてオスでしたから……」



千早「!?」





雪歩「大方…あの食事会を開いたのも、処分する為だったんじゃないですか?何だかんだで処分に困るから…【鳥】の死体は」







千早「………………」





 

 





雪歩「……あなたも私と同じで何かのはずみで、やってしまったんですね……音無さんを…………不幸な事に……」



千早「不幸な事って…まるで私が、鳥を…音無さんを殺してしまったみたいに言うのね」



雪歩「まだそんな事を言うんですか?何なら見てみましょうか。そうですね…………冷凍庫の中とか?」



千早「…………」



雪歩「返す言葉がないのと、その表情。もう認めたと言ってるのも同じですよ?」



千早「…………雪歩。そこまで判っていて、よく私の部屋に一人で来れたわね」





雪歩「ここに来る事をプロデューサーには、それとなく伝えておきましたし……」



雪歩「それにこの事が露見したら765プロのアイドルの中に殺人者がいたってだけでなく……」



千早「だけでなく?」



雪歩「765プロのアイドルは人を喰ったアイドルだって…そんな事になったら、イメージダウンどころか、私たちも事務所も共倒れになってしまいますから」



千早「…………」



雪歩「私だってそんな事にはしたくないですし…それに皆が…プロデューサーが悲しむ事になるから…………千早ちゃんも考えたね」







千早「…………そうね」



千早(……ホントはそこまで考えてはなかったけど……なるほど、そうか…………)







 





千早「それで…結局、何が目的なの?ただ隠蔽したいなら、黙っていればいいだけだし、何か目的があるとしか思えない……それに――――」



雪歩「それに?」



千早「さっきアナタ言ってたわね?何かのはずみって………それってどういう事なの?」



雪歩「………………私が男性の事が苦手なのは。もう知ってると思いますけど…そんな私にも実は男性とお付き合いてた時があったんです」



千早「…………へぇ…」



雪歩「その人は私と同い年で、優しくて大人しい感じの人でしたから、私たちがお付き合いをしていた事は、私たち以外は誰も

知らなかったと思います」



千早「…………」



雪歩「男の人とお話したり、デートするのが新鮮で楽しくて、一緒に居てすごく安心できる人で、私はその人の事が本当に好きでした……」



千早「…………」



雪歩「でも…そんなある日の事でした……一緒に学校から帰っている時の事でした……」



雪歩「人通りが殆どない所で、彼がいきなり私に迫ってきたんです」



雪歩「今となっては冗談のつもりだったのかもしれません…でもその時の私はいきなりの事で、吃驚してしまって、拒絶する様に彼を突き飛ばしてしまったんです……」





千早「…………」



雪歩「そして、彼は倒れざまに石に頭をぶつけて…当たり所が悪かったのか…そのまま――――」







千早「……………ふぅん……」







 





雪歩「私は怖くて気が動転して…どうしたらいいのか分からなくなってしまって……藁にすがる思いでお父さんに連絡して、事情を説明したんです。そしたら……」





雪歩「あとの事は心配するな俺が何とかする――――と言ってくれて……」





千早「…………」



雪歩「私はその言葉にほっとしてする自分を否定出来ませんでした。でも…でも……そんな私にも彼に対する罪悪感と好きだっていう気持ちもあって……そして、処分する前に少し分けて貰ったんです」







雪歩「彼の…………一部を―――――」







千早「…………」





雪歩「そして…それを使って、あなたと同じようにハンバーグにして食べたんです。彼に対する私なりの贖罪と弔いの気持ちとして…………この事をこの罪を決して、忘れない様に……」







千早「…………そう…」



雪歩「……あまり驚かないですね」



千早「すごく驚いて声が出ないだけよ。アナタからは想像も出来ない様な話だし」







雪歩「確かに…にわかには信じがたい話ですから……信じるも信じないもアナタしだい。といった処でしょうし……」







 





千早「私は信じるわ。ここまで来てアナタが、そんな冗談を言う様な人じゃないのも知っているし」



雪歩「……そうですか。あと、この事で私をどうこうしようとしても無駄ですよ?もうこの事件は【行方不明】のままで処理されてしまいましたし……」



雪歩「肝心の彼の遺体は……私もよく分からないですけど、私の家の職業を考えれば…………何となくは分りますよね?」



千早「…………アナタの話は大体は分かったわ。それで雪歩。アナタの目的は何?」



雪歩「そうですね……単刀直入に言います。千早さん私に――――――」







雪歩「私にプロデューサーを譲って下くれませんか?――――――――」







千早「!?」







 







雪歩「あの日以来…男性恐怖症に更に拍車が掛ってしてしまった私は、それを少しでも克服しようとして……この世界に入りました」



雪歩「そんな私をここまで支えてくれて、そして真摯に向き合ってくれたのが、プロデューサーでした……」



千早「あの人は…今、私が心もカラダも許せるたった一人の大切なヒト……私にとってもうあの人以外は考えられない」



千早「…………アンタがそんな風に彼を見ていたとはね……何となくは分っていたけど」



雪歩「千早ちゃんがあの人と何かあるのは、何となく分ってる……」



雪歩「でも…765プロの、プロデューサーの……そして自分自身の事を考えれば、身を引く方がいいって思う事が出来るんじゃないかな?」



千早「………………………………もういいわ……」



雪歩「私の口は堅いって事は知ってるでしょ?だからお願い千早ちゃん。私にあの人を―――――」









千早「雪歩―――――――――」







 





雪歩「!?」ゾワッ!!



雪歩(今、物凄い寒気が――――――)



千早「――――――――――」すぅ…

ばっ!!!

びしゃっ!!





雪歩「きゃ!?」



雪歩(お茶をかけられ――――――)



すっ

キラッ――――



グサッ!!

雪歩「がっ!!!!!?」





雪歩「あ…が……ち…千早ちゃ……」がくんっ



グリグリ……







千早「ここをこうやって刺すと致命傷になるんだって。あとね雪歩…アナタは幾つか思い違いをしている……」





雪歩「…がぁ…・お…・・・……も・…い………?…・・…・…………」





 

 







千早「まず。音無さんは私からあの人を奪おうとしたドロボウ鳥だったって事。もう一つ、あの時の私は突発的な事だったとはいえ…明確な殺意があったという事」





千早「アナタとは違ってね―――――――」





雪歩「……が…あぁ……あ…………」

ガクガク…



千早「そして私は…あの人と一緒になる為なら、何でもするという事。そう…それがたとえ……人を殺める事であったとしても―――――」



雪歩「…………………ぁ……」

ブルブル…



千早「ふふ…一人殺ったら、もう二人も三人もどうってことはないしね?」にこっ



雪歩「ち…千早ちゃ……ん…あなた・………って…ひ…とは……………」がくっ

バタン……





雪歩「――――――――――――――――」







千早「…………ふぅ…もう冷蔵庫にはもう入りきれないわね…………そうだ。だったら――――――――」ニヤァ……









 







この日、早朝に出社した俺を待っていたのは、蒼褪めた貌の律子と、そして彼女と同じ様に顔を強張らせている千早の姿だった。





P「一体どうしたんだ二人とも、朝からそんな怖い顔して?」



律子「……プロデューサー……心して聞いてください。音無さんに続いて、雪歩も昨夜から行方不明になったみたいなんです」



P「ふぁっ!?」



P(あ…あまりの事に訳が分からず、間抜けな声を出してしまった……)



千早「…………」



P「ど…どういう事だ?雪歩が行方不明って……?」



律子「今朝…私が出社して、留守番電話を確認したら、雪歩の父親からのメッセージが入ってまして……」



律子「どうも昨日の夜から、どうやっても彼女と連絡が付かないみたいなんです」



P「まさか……いやちょっと待て、もしかしたらもう帰ってるんじゃ?」



律子「いえ…プロデューサーが出社されるほんの少し前に、また萩原さんからの電話があって

まだ帰ってないって……」



律子「どうしてくれるんだ!と、それはもうすごい剣幕で」



P「マジか……」



律子「先方の話では、もう警察に捜索願を出したそうです。恐らく近い内に…ここにも事情聴取をしに来ると思いますが……」



P「なんて事だ…音無さんに続いて雪歩まで…………」









千早「………………」





 











律子「それにしても…こう立て続けに765プロの関係者が失踪するなんて、どう考えても異常ですよ」



P「確かにな……」



律子「プロデューサー。どんな些細な事でもいいですから、何か心当たりはありませんか?」



P「えっ?」



律子「萩原さんにも訊かれたんですけど、私には二人が失踪してしまう様な理由は何も思い付かなくて…プロデューサーならもしかしたらと思ったんですけど……」



P「心当たりか……」



P(寧ろ俺が教えてほしいくらい―――――――――――ん?そう言えば昨日…雪歩が俺に何k―――――――)





千早「………………」さっ――

すすっ



P(千早!?)







千早「大事なお話が有ります。今日の仕事が終わったら、私の部屋に必ず来て下さい」ぼそ





 







P「!?」ゾクッ!!



P(今一瞬すごい寒気が……そうだ…・確かあの時、雪歩は誰かに…千早に会うと、それとなく俺に伝えてたんだ……)はっ!





律子「どうしたんですかプロデューサー?それに千早も……」



P「い…いや。何でもないんだ…何でも……」



千早「ええ。何でもありません。ねっプロデューサー?」ニィ…



P「…………ああ……」こく









千早がこの時、俺にだけに見せた一瞬の微笑みに、俺はどこか恐怖にも似た、底が知れない不安を感じていた……。







 







その日の深夜。





仕事を終えた俺は千早の部屋にいた。



彼女の部屋に入るのはいつ以来だろうか?俺が千早と密会し、一夜を共にするのは、ほぼ全て俺の部屋だった。



もしかしたら一度きりだっただろうか?だからもう殆ど、初めてといってもいいのかもしれない。





P(だが……)



俺は千早の部屋を見廻しながら、どこか違和感を覚える。



千早らしい整然とした部屋のレイアウト。それはいい。だが……。



テレビなどの家電、箪笥などの家具の大きさが、どう考えても一人暮らしには似つかない、家族用のソレだった。





P(前に一度来た時はそんな事は無かった筈だ……)







俺は何故か、このある種、異常な光景に千早の何かに対する強い想い、いや…情念の様なモノを感じずにはいられなかった……。





 











千早「どうしたんです?プロデューサー。そんなきょろきょろして」



P「い…いや。何でもないんだ……」



千早「今日も寒かったですね。雪が降ってもおかしくない位に……」



P「ああ…そうだな。それより、大事な話というのh――――――――」はっ





この時…俺は突然、まるで導かれる様に、頭の中にある考えが浮かんできた。





P(そう…雪歩は行方不明になる前日…あの食事会の日……終わった後、雪穂は俺に千早の部屋に行く事を、それとなく俺に示唆していた……)





P(俺はその時は何とも思わなかったけど……昨日…本当にここに来たのであれば―――――)





P(それに…小鳥さん……小鳥さんが行方不明になった時も、確か千早は夜の仕事は無かった筈だ…………)はっ





P(いや……まてよ…昨日……あの食事会の時に千早が作った。【鳥肉のハンバーグ】……アレはあの肉は本当に今まで食べた事のない肉だった――――――)





P「!!」はっ!





P(あ…あの一人暮らしには不必要な程に大きな冷蔵庫……まさか――――――)

ブル…









俺はこの瞬間強い嫌悪感と吐き気に襲われ、半ば無意識に胸と口に手を当て、それを必死に耐えながら、自分の導き出した恐ろしい【答え】に、心も身体も震えが止まらなかった。







 





千早「どうしたんですか?今度はそんな呆けた表情(かお)なんかして?」



P「ち…千早……お前…まさか………」



千早「ええ…良き気付かれましたね?私のお腹の中に二人の赤ちゃんが…ふふ責任取ってくれ―――――」

P「こんな時に冗談を言うな。お前も分っている筈だ、お前は小鳥さんと雪歩を――――――」







千早「…………あら?もう気付きましたか?そうです。私があの二人を排除したんです―――――――」





P「!!!!?」





P「や…やけに素直に白状するんだな……」



千早「ふふ…そうですか?と言うよりも、その為に今…貴方にこの部屋に来て貰ったんですから」



P「…………俺は認めてほしくはなかったよ。違うと言ってくれたら、俺はそれ以上は追及しなかった」



千早「そういう訳にはいかなかったんですよ…色々な理由で」



P「理由?お前がわざわざ殆ど自分から、俺に罪を告白する理由なんて何処にあるんだ?」







千早「…………では。ちょっと、来て貰えますか?」





 





風呂場前。





千早「開けますよ……」

ガラ…





P「――――――――――!!?あ…あああ………………」





覚悟はしていたが、ソレを見た瞬間、俺は無意識に嗚咽にも似た声を上げる。



そこには…浴室には無造作に横たわる雪歩がいた。



いや……正確には雪歩の抜け殻があった。



その目は魂が宿っていないにも拘らず、大きく見開き、その光を、生を失った瞳は、その無念さを強く訴えるかの様に、まっすぐに俺を見詰めている様な気がした。



俺はその瞬間、居た堪れない気持ちになり、半ば無意識に彼女のその両目にそっと手をやり、瞼を閉じさせる。







瞼を閉じた雪歩の顔は、気のせいかほんの少しだけ穏やかなものになった様な気がした。





 







千早「開きっぱなしだと、死んだ魚の目みたいで気味が悪くて…私が何度かやっても絶対閉じなかったのに…流石プロデューサーですね」



P「冗談を言っている場合か!?お前は…お前は人を二人も殺してるんだぞ!」



千早「冗談なんて言っていませんよ。私は何時でも本気です」



冗談で…嘘であってほしかった。この眼でソレを見るまでは、彼女の言っている事が虚言であると思いたかった……。



だが真実は残酷で、更に実行犯である千早は、開き直りというよりも、寧ろまるでそうする事が当たり前だとも言うかの様に、悪びれもせず平然と…堂々としている様に見えた。







俺はそんな千早の態度に、怒りよりも、暗く重く冷たいモノに感情が沈められている様な気がした。





 







千早「……音無さんも見ますか?彼女は冷凍庫に入ってますが……」



P(小鳥さんは…コイツにハンバーグにされて……だとしたら今の彼女のカラダは―――――)



P「いや…やめておく」



千早「そうですか。まぁ今はいいでしょう」



P「な…なぜこんな事を…お前はこの二人に恨みでもあったのか?」



千早「恨み?そんなのはありませんよ」



P「だったらどうして…そうか何かの事故か?そうだったら――――」



千早「音無さんは、あのヒトがアナタを誑かしていたからですよ?」



P「た…誑かす……?そんな確かに俺はあの人と……だがそれだけで殺すなんて理由には――――」







千早「なりますよ」



P「!?」





 

千早「雪歩は…彼女にこの事がバレてしまって……彼女、過去に食べた事があるんですって…………【鳥肉のハンバーグ】を」



P「!?」



P(雪歩が?どういう事だ……?)





千早「……そんな事はどうでもいいんです。何よりも…その雪歩が事件の事を黙っている条件として、プロデューサーと自分をくっ付けて欲しいなんて言うから……」



P「俺か!?理由はまた俺なのか?だけど…そんな事でお前は人を…仲間を殺すのか?」





千早「ええ。当り前じゃないですか」





P「!?」





千早「…………プロデューサーは…私の家族の事は知ってますよね?」



P「ああ……でもそれがどうしt――――――」



千早「私はね…家族というモノに憧れているんです。そう…アナタから見たら病的であると言ってもいい程に……」



P「………………」



千早「出来る事なら、もう一度やり直したい…みんなが家族が幸せだったあの頃に戻りたい……」



千早「…………でもそれは……失ったら決して取り戻す事なんて出来ない、もう叶う事の無い夢……幾ら追い掛けても決して掴む事の出来ない幻なんです」





P(………………)

千早「ですから…私はこの人に決めた。と、心から思える人と一緒になって、子どもを産んで……笑顔の絶えない幸せな家族を作る。それが私の今の夢……」



千早「いいえ…生きる目的。と、言っても過言でも何でも有りません。そう…歌よりも何よりも…………」



P「…………千早……」



千早「そして…私は遂にこの人なら一緒になりたい、家族を作りたいと思える人と出逢ったんです」



千早「そう…それがプロデューサー。貴方です」



P「俺が……?」



千早「貴方と添い遂げる為ならば、あの幸せを日々を再び取り戻す事が出来るのなら、私はどんな事でもやる。たとえ…それが赦されない事であったとしても……」





千早「それが私の【全て】だから」





P(千早から今まで感じた事の無い、強い執念も様なモノを感じる……決して変える事など出来ない、歪んだ…それでいて真っ直ぐ過ぎる決意……)



P(もう俺にはどうする事も……それなら―――――)





P「…………千早……そうか…分った。俺はお前を受け入れる……」





 





千早「プロデューサー!!」ぱぁ



P「だから…だから頼むから自首してくれ……罪を償うんだ。そうしたら、俺はお前と―――――」



千早「…………駄目ですよ」



P「えっ?」



千早「だって、そんな事をしたら何年も…何十年もアナタと一緒に…家族になれないじゃないですか?」



千早「………それに…もしかしたらその間に、春香辺りに貴方を盗られてしまうかもしれない」



千早「そんな事になったら、それこそ本末転倒じゃないですか?」



P「だからって―――――」



千早「それに…もし私が警察に逮捕されたら、私は全て話しますよ。犯行の理由、雪歩のコト……それに――――――」



千早「鳥肉のハンバーグを765プロのアイドル達が、みんな美味しそうに食べた。という事……」





P「!!?」





 







千早「そんな事になったら、どうなります?食人アイドルなんてなったら、まず芸能界で生きていくことなんて出来ないでしょうね」



千早「それどころか有名人という職業上、普通の生活も送れるかどうか……そんな生活を悲観した彼女たちは――――――」



千早「どうなってもおかしくはないですよね?」



P「!?」



千早「それに…致命的なイメージの悪化になりますから、事務所自体も存続できなくなるかもしませんよ?」



千早「何よりも人殺しに、人を喰ったアイドル達の居る事務所……そんな事務所なんかに人が…新たなアイドルの卵達が来ると思いますか?」





P「千早……お前って奴は…………」







  





千早「……私がここに貴方を呼んだ訳は、全てを話て私の全てを受け入れてもらう事……そして―――――」



千早「処分が困難になったこの二人の処分をして貰う事――――――なんです」



P「!!?」



千早「良かったですよ、今の季節が冬で。特に今年は寒い日が多いから、そういう意味では助かりました。これがもし夏だったらどうなっていた事か……」



P「…………」



千早「あの…プロデューサーの実家って、確か凄い田舎にあるんですよね?でしたら、そこで取り敢えず二人を埋めてしまいたいんです」



P「千早……お前って奴は……本当に俺を手に入れる為なら、平気で何でもするんだな」



千早「ええ。そうですよ。それで、どうするんですか?私を警察に突き出しますか?それとも―――――――」







P「俺は―――――――――」





 





 





ザクッザクッザクッ…





数日後。





千早と一緒に俺の実家に帰って、穴を掘っている自分がいた。





両親は年を取ってこんな田舎に居て、何かあるといけないから、俺が頼んで街中のマンションに越してもらったので、今はここには誰も住んではいなかった。



都会に行った俺に、たまには顔を見せろと言う意味もあったのだろう。



彼等が引っ越す条件として、俺に提示したのは、俺が定期的に家に帰って様子を見て、それを両親に報告するという事だった。



そして…それが幸いして、ど田舎にも拘らず、俺が突然ここに帰って来ても特に誰も訝しがる人はいなかった。



そして俺は…家の庭に設置してある焼却炉の前で、機械的な動きで、冷たい地面を黙々と掘っていた。







勿論。一緒に持って来た袋の中身を埋める為に……。







 







一緒に来た千早は俺の休憩中に俺の代わりに掘り、それ以外は殆ど無表情のまま、俺の掘っている姿を黙って後ろから見つめていた。



そして、充分な深さまで掘り終わると、袋から布で覆われた二人の遺体を取り出し、俺はその顔にせめてもの思いでそっと白い布をかけ、穴に入れる。



そしれ心の中で、あらん限りの謝罪とせめてもの供養の言葉をずっと二人に送りながら、土をかけ埋めていく。



そして、埋め終わった後、焼却炉をずらして、その埋めた場所の真上に移動させる。



これで動物とかに掘られたりする事は無い筈だ。





俺はこの異常極まりない行為を、半ば無心で行った。そうじゃないと罪の意識で押し潰されそうだったから。





あの時、俺は彼女に――――――。









千早に屈したのだった。





 

 





勿論。彼女が逮捕される事で、多くの人たちが不幸になって終い兼ねなかったからだ……。



アイドル達が、765プロがそうなってしまうのは、俺が事件の発端という事もあって、絶対に避けたかった。



この二つを天秤にかけた時…千早を断ずるよりも、765プロの皆の未来を守る事の方に傾いてしまった。



それで本当に良かったのか?皆の未来のためになったのか…分らないままに……。



ただ一つ犠牲になった二人には、どんなに詫びても贖罪しても、全く足りない選択をしたことだけは確かだった……。





だから俺は、自身の弱さと非道ぶりを二人に詫びながら、千早の言う事に従ったのだった……。





そして一通り作業が終わった後、千早の強い願いもあって、俺は彼女を連れて両親の住むマンションに向かった。







二人は礼儀正しく挨拶する千早を見て、「でかした」とか「お前がこんなキレイで若い人を連れて来るなんて吃驚した」等と言っ

て手放しで喜び、千早もそんな両親に、本当に嬉しそうに微笑みを返していた。





 





そしてその後……。





事件は迷宮入りし、俺たちは白骨化した二人の骨を焼却炉で燃やし、その遺骨を少しづつゴミの日に出し終わる事によって、取り敢えず証拠を完全に消す事に成功する。





この時、千早には内緒で、俺は彼女たちの少量の遺骨を抜き出してお守りに入れていた。





そして…それ以降、俺は毎日そのお守りを握りしめ、彼女たちに贖罪し祈りを捧げている。





その間に千早は徐々にアイドルから歌手へ路線を変え、時期を見計らって俺は彼女と結婚した。









もう…こうなった以上、こうするしか俺の選ぶ道はなかった……。











 









更にその二年後……。







病院。





看護師「おめでとうございます。元気な双子の男の子と女の子ですよ」







病室。





P「千早…よく頑張ったな、双子を産むのは大変だっただろ?」



千早「ええ。あなた。でも……それ以上に嬉しい…幸せな気持ちでいっぱいです……」にこ



P「そうか……」



千早「それでですね…実はもう二人の名前を考えてあるんです」



P「へぇ。なんて言うんだ?」













千早「はい。男の子が【優次】(ゆうじ)で女の子が【千草】(ちぐさ)です」



ニコォ…









P「――――――――――」





その名前を聞いた瞬間…俺は自分の視界が…頭の中が深くどす黒い闇に似た、それでいてあまりにも純真無垢な情念に包まれた様な気がした……………。









 



おしまい。







 



21:30│如月千早 
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