2015年08月25日

伊織「独言」


新曲のレコーディング、番組収録、ラジオ出演、ハードなレッスン。

それら全てを終えて事務所に戻ると当然の如く夜も遅くなる。

私を事務所に降ろした後に他の子を迎えに行かなければならないプロデューサーに比べたらまだマシな方か。





伊織「帰ったわよ〜。」



へとへとになって帰ってくると大概小鳥が迎えてくれるのだが、今日はそれが無かった。

大方買い出しにでも行っているのだろう、遅い時間まで大変だと思う。



迎えの新堂が来るまでソファーでのんびりしよう、そう思いソファー前に来ると先客がいることに気付いた。



伊織「美希?」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385131986





同じ事務所のアイドル星井美希が呑気にソファーで座りながら眠っていた。

Cランクの私よりもランクが上の美希は、私に輪をかけて忙しい。

そういえば画面越しではなく顔を見たのはいつ以来だっただろうか?

随分と久しぶりな気がする。



伊織「全く、スーパーアイドル伊織ちゃんが帰ってきたんだから挨拶くらいしなさいよね!」



自分の事など意に介さず眠り続ける美希に対して小言を漏らすも当然挨拶どころか反応はない。

とりあえず立っているのもしんどいので美希の隣に座ることにする。



伊織「ふぅ、今日も疲れたわね〜。」





誰に言うでもなく独りごちる。

隣では静かに寝息を立てる美希。

手狭とはいえ一人でいるとこの事務所も広く感じ、普段の騒がしさがどこか恋しくもなる。

新堂が来るまで約10分。

その間特にすることもなく、言うならば暇だ。

美希が起きていれば話し相手にでもなってもらえたのだが眠っているのだから仕方ない。



適当にテーブルの上に置かれている雑誌をめくるがコレといって目を引く記事もなくすぐに閉じてしまう。

ふと肩に重みを感じたので目をやると、ソファーにもたれていた美希が肩に寄りかかっていた。



伊織「…はぁ、全く。」



どかそうかと思ったが気持ちよさそうに眠っているのでやめておこう。





伊織「ホント、気持ちよさそうに寝てるわね〜。」



寝ている美希を見ていると不思議と不快に感じないのがこの子の人徳なのだろう。

顔が近いからか寝言もよく聞こえてくる、夢の中でも私は“デコちゃん”なのか。



伊織「デコちゃん言うなっての…。」



時計を見ると新堂が来るまであと5分程に迫っていた。

帰るには気持ちよさそうな美希を一度起こさなければいけないのは気が引けるが明日も仕事があるので仕方ない。



起こそうと美希の方に手を伸ばすと唸り声が聞こえた。

響のいぬ美でもいるのかと思ったが今事務所には私と美希の二人だけ。

となると声の主は美希しかいない、目をやるとうなされていた。





整った顔立ちが苦悶に歪んでいる、一体どうしたというのだろう?

このまま起こしていいものか迷い、伸ばした手をとりあえず頭に乗せ髪を撫でる。



伊織「大丈夫よ、美希。大丈夫…大丈夫…。」



一体何が大丈夫なのかはわからないがとりあえず大丈夫だと声をかけてみた。

透き通った綺麗な金髪が指をすり抜ける度に髪の香りが鼻腔を刺激する。

撫でられて安心したのか美希は落ち着いてきた。

うなされるのも収まり、また静かに寝息を立てている。



ふとスケジュールの書き込まれたボードが目に入った。

翌日のスケジュールを確認しようとしたら今日の日付のところに赤くこう書いてあった。





美希's Birth Day









伊織「そっか、あんた今日誕生日だったわね。」



忙しさにかまけて何も用意していない。

春香あたりならケーキの一つでも用意していそうだと思った。



伊織「あんたはどんどん先に進んでいくわね。」



  「楽しそうに。追いかけるのも一苦労。」



  「天才ってみんなこうなのかしら?って思っていたけど」



  「さっきのうなされるあんたを見たら考えが変わったわ。」



  「あんたも…大変なのよね…。」







きっと私には分からないくらいに努力して今の地位を掴んだのだろう。

美希の髪を撫でながらぼんやりとそう思った。

私だって努力しているのにとチラリでも僻んでしまった自分を心の中で叱責する。

同時に私だって負けるものかと更なる奮起を誓う。



その時携帯電話が震え着信に気づいた、画面では新堂からの着信を示している。

どうやら事務所に到着したらしい。



伊織「今行くわ、そこで待っててちょうだい。」





短い会話の後携帯電話をポケットにしまう。

撫でるのをやめ、一度美希を支えてソファーに寝かせた後しゃがみこんでもう一度頭を撫でる。



伊織「あんまり私より先に行くんじゃないわよ?」



  「じゃないと、見失っちゃうじゃない…。」



  「私が行くまで、そこで待ってなさいよね!」





撫でながら美希の整った顔立ちに目を奪われる。

薄く開いた唇、そこから時折漏れる吐息。

吸い込まれるようにゆっくりと顔が近づいていく。

触れるかどうか、すんでのところで思いとどまり唇は頬へ触れた。

そしてすぐに自分のした行為に驚き立ち上がる。





伊織「た、誕生日おめでとう!またね!///」



上ずった声で誕生日を祝う。

慌てて事務所を飛び出し、下で待っていたリムジンに飛び乗った。



伊織「早く出して!」



訝しる新堂を意に介さず、頬杖をついて窓の外に視線を泳がせる。

顔が熱い、今鏡を見たらきっと茹でたタコみたいになっているだろう。

今後どういう顔して美希に会えばいいのか思い悩むが、お互い忙しくて中々会えないのが今はありがたかった。















伊織が帰った後、ソファーの上で顔を赤くした美希が独りごちる。



美希「ミキは口でも良かったんだけどな…///」









Fin



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