2015年08月26日

千早「嵐の後には凪がくる」

「ねえ、真美」



「……なに?」



「い……、いえ。何でもない……」





「そう。真美さ。今忙しいから、千早お姉ちゃん、邪魔しないでくれる?」



「え、ええ……」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422119840



まただ、また、真美に冷たくされてしまった。



私は真美に背を向けてとぼとぼと事務所を後にする。



こうなったのもきっと、全て私の所為なんだ。



私があの時、もっとしっかりしていれば。

―――

――





「千早、真美。二人とも喜べ!ユニット結成が決まったぞ!」



私たち二人は、プロデューサーに呼び出されて会議室に向かうと、テンションの高いプロデューサーにユニットを組む事を告げられた。



駆け出しアイドルの私たち二人でユニットを組んで、トップアイドルを目指すそうだ。

真美は双子の妹、亜美の陰に隠れないように、私は私に欠けているアイドルらしさを補う為に。



それぞれの弱点を補えるようなユニットを組めば、きっと事務所のみんなにも負けないコンビネーションを発揮出来るだろう。



そう、プロデューサーは考えたそうだ。



「これからよろしく、真美」



「うん!千早お姉ちゃんと二人なら、百円引きっしょ!」



「……ぷっ、ふふふふっ!ま、まみっ、百人力で、くくっ、うふふっ」



「ツボりすぎだよ!」

とにかく。私たちのコンビネーションなら、きっと頂点を目指せる。



……そう、思っていた。

けど、現実は。



『765プロの新プロジェクト、失敗か!?』



『伸び悩む原因は双海真美の実力不足』



『如月千早の独りよがりユニット』

あることないことを週刊誌に囃し立てられ、私たちは自信を失い、オーディションにも落ち。



とにかく、悪循環だった。



真美が実力不足なわけがない。一緒にレッスンをしている私がそれを一番よく知っている。



ならば、私が今以上に周りを見る余裕を持てばいい。

そう思って丁寧に真美のレッスンに付き合っていたんだけど、それがかえってストレスになっていたのだろう。



汚名返上を賭けて挑んだオーディションに落ちて、ついに真美は爆発した。



結果を知るや否や、控え室で私の胸ぐらを掴んできたのだ。

「ほんとは憐れんでるんでしょ!?真美のこと!!」



「そんなわけない!」



「レッスンも真美の事ばっかで!!ホントは真美が足引っ張ってるって思ってるんでしょ!?」



「違う、違うの!私がもっと貴方を生かせるようにって……」



「ほらやっぱり足手まといって思ってるんじゃん!もういい!!真美、千早お姉ちゃんと一緒にアイドルするのやだ!!」

目に涙を溜めた真美が控え室を出ていき、私は一人取り残された。



……私の、わたしのせいだ。



――

―――



その日以来、真美に話しかけてもさっきみたいに返されるのが常で、私もかなり気が滅入っていた。



ユニットは休止状態、真美は黙々とレッスンをして帰るだけ。



きっと一人でもやっていけるように、と言う事だろう。

私は事務所の近くにある公園に入って、缶コーヒーを買ってベンチに座る。



甘い缶コーヒーに口付けて、冬の空をぼーっと眺める。



私は何をしているんだろう。



私のせいで真美は……。

「隣、いい?」



「はる……か?」



春香は私の隣に腰掛けて、紅茶のペットボトルの蓋を開ける。



「寒いね、千早ちゃん」



「そう、ね」

私たちは飲み物を手に持ちながら、暫く黙り込む。



「ねえ、千早ちゃん?」



「どうしたの、春香」



「真美と仲直り、したい?」



「えっ……?」

「真美の事、見限ったりしてない?」



「そ、そんな事はない……私は、真美と一緒じゃないと、嫌」



「そっか。ふふ。妬けちゃうな。真美もさ、こうやって一人で空を眺めてたんだよ」



「真美も?」

「うん。私になんて言ったと思う?」



「いえ、分からないわ……」



「仲直りしたい、千早ちゃんに謝りたいって。八つ当たりしたことを」



「八つ当たり?いえ、あれは私が不甲斐ないせいで……」

自分の力不足が真美を苦しめている。それを思い出して、私は言葉を詰まらせて俯く。



春香が何も言わずに私の背中をさすってくれた。



萩原さんじゃないけど、私はなんてだめだめなんだろう。



色々な思いがこみ上げてきて、地面に一つ染みを作る。

「千早お姉ちゃんは、不甲斐なくない!!」

振り返ると、隣でよく聞いていたあの声。



「真美……」



「ごめんなさい、ごめんなさい!!」



真美は、私に縋り付いて泣き始める。



縋り付く真美を、私は優しく撫でてあげる。

「私こそ、ごめんなさい……」



「千早お姉ちゃんは悪くない、真美が、真美が……!」



「……あーあー、えーと。イチャイチャするのも良いけど私の事、忘れてないかな?」



ハッと顔をあげると、ちょっとむくれた春香がいた。



「まぁ、私が手助けする必要がなくて、良かった……かな?」



そう言って春香は微笑んで、お邪魔虫は退散しまーす、と言って事務所に戻っていった。

改めて真美が隣に座って、ぽつりぽつりと話し始める。



「その……真美もさ、千早お姉ちゃんが伸び伸び歌えるように、サポート出来るように、頑張ってたんだ」



「ええ……私も、真美が伸び伸び出来るようにって、サポートに徹していたのよ……」



「だから、その。ごめんね、千早お姉ちゃん。ちゃんと、話せば良かったね」



「そう、そうね。私も、真美にちゃんと話せば良かった」



「うん……ごめんね。ごめんね……!」













後日。正式に活動を再開した私たちは、まずは小さなローカルテレビのオーディションを受けに来ていた。



「真美。自由にやっていいからね。私が後ろに居るから」



「千早お姉ちゃんも、好き勝手やってて良いんだからね?」



「ふふ、そうね。真美、頑張りましょう」

自分の長所を出し合うのが私たちのコンビネーションだ。



長所を出し合うことがサポートになる、そう知っている私たちは、きっと、もう大丈夫。



このオーディションは絶対に合格する。そう私たちは信じている。

そして、結果は……。

「真美!やったわ!!」



「やったね!初めて合格したよぉ!」



「ふふふっ、でも、これからがスタートよ」



「うん。でもね千早お姉ちゃん!」



「なに?」

「今は、喜ぼうよ!!真美達の初めての合格だもん!!」



「そう、そうね!ふふふ、真美、おめでとう!」



「千早お姉ちゃん、おめでとう!」



ひとしきり喜んで、初めてのテレビ出演の打ち合わせに向かう。



初めての打ち合わせは、凄く緊張した。



ディレクターの人の言っている事が中々飲み込めなくて、プロデューサーにちょっと怒られたりもしたけど。



でも、私たちのユニットは……そう。ここからが再スタートなのだ!

「如月千早さん、双海真美さん!スタンバイお願いします!」



「さあ、行きましょう!」



「うん!」



私たち二人は、手を繋いで、駆けだした。





おわり



相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: