2015年09月01日

モバP「駄目な男と」佐藤心「駄目な女と」

アイドルマスターシンデレラガールズ、佐藤心さんのSSになります。



キャラがおかしいですが、お許しください。







注意点として、台詞内のPはプロデューサーの名前として解釈してください。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1440769228



東京 事務所



モバP(以下P)「心さん……?」



心「P……?」



 長野から就職で東京に来た。今までの環境を全部変えてみたくて、親にも友人にも詳しい事は告げずにひっそりと。もちろん携帯も変えたりして誰ひとりとして俺に連絡が出来ないようにしていた。



P「どうしてここに?」



 しかし、俺の思惑はうまくはいかなかった。一切の関わりを捨て、新たな自分として何年か過ごしていた時だった。

 うちの事務所に一人の女性がアイドル候補生として所属した。



心「……アイドルやりに」



ちひろ「お知り合いなんですか?」



 アシスタントについてくれているちひろさんが疑問を投げかけてくる。そりゃまだ初顔合わせで、名前すら名乗っていないのに、お互いの名前を呼び合えば当然だろう。



P「えぇ……長野に居た時の……」



心「知らない人です」



 俺が説明しようとした矢先、心さんが思いもよらない事をちひろさんに言った。



ちひろ「え、でもプロデューサーさんはご存じのようですが……?」



 ちひろさんが困惑気味にこちらの様子を伺っている。申し訳ないですが、何故、心さんが知らないなんて言ったのか見当がつかないです。



P「……いえ、気のせいでした。すみません。知り合いに良く似ていたもので」



 心さんがどういうつもりなのかは分からないが、彼女がそう言うのであれば俺は彼女の意見を尊重しよう。以前の人間関係をすっぱり切って新しい自分になったのだから。



P「すみませんが、自己紹介お願います」



心「はぁ〜い♪ アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆ さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ☆」



 戦慄した。これしか言葉が思い浮かばない。戦慄した。

 俺とちひろさんが言葉を失っていると心さんは恐怖の自己紹介を続けてくれた。



心「……あれぇ、おかしいなぁー? 反応が聞こえないぞ? もう一回、アナタのはぁとをシュガシ……」



P「大丈夫です。わかりました。ストップです」



心「えっ? もうういい? え?」



俺が止めに入ったのが意外だったのか心さんは困惑気味だった。しかし、今はそれどころではない。

 このしゅがーはぁとを名乗る女性は俺の知っている心さんではなかった。これは確かに他人の空似の可能性すら出てきた。



P「……えー、佐藤さん。いくつか質問させて頂いても?」



心「佐藤さんなんて呼んじゃダメ☆ しゅがーはぁとって呼んでね! 呼べ☆」



P「……ではしゅがーはぁとさん……、質問させてもらいますね……」



 何故だろう。どう見ても俺の知っている心さんに違いないのだが、ここまでキャラが違うともう同じ人だとは信じたくはない。



P「では、まず一つめです……、女性に歳を聞くのは失礼ですが、現在26歳で良いんですよね?」



心「やーん、歳は聞いちゃらめらめなのー!」



スタイルの良い身体をくねくねさせながらそんなことを言うしゅがーはぁとさんを見て俺はもうどんな顔をすれば良いのか分からない。ちひろさんに助けを求めて視線を送っているのだが、ちひろさんはちひろさんで笑顔のまま凍り付いている。



P「……ごめんなさい。では、気を取り直して……。しゅがーはぁとさんの年齢でアイドルをやっていこうとすると割と賭けになりますが、その辺りご了承頂けますか?」



心「だーいじょうぶ☆ はぁとは、失敗しても気にしなーい☆」



 まぁ、社長の面接を合格しているということはそれだけでも、すでに才能は充分なのだが。しかし、このキャラで行くとなると今まで以上に賭けになってしまう。



心「それにー、この事務所は片桐早苗さんとかー、川島瑞樹さんとかデビューしてる大丈夫っしょ☆ はぁとやる気まんまーん!」



P「確かにそうなのですが……」



 しゅがーはぁとさんが言うようにうちの事務所は比較的年齢層が高めのアイドルも所属している。しゅがーはぁとさんが挙げた二人は28歳からアイドルを始めて、成功している大人組の双璧だ。



P「あの二人としゅがーはぁとさんには決定的な違いがありまして……」



 触れてはいけないことなのかもしれないが、触れないことには話が進まない。



P「佐藤さんの年齢でその残念なキャラでは一か八かも良いとこでして……」



心「はぁとは残念な子じゃないもん! もう、ぷーんぷん!」



 その反応からしてすでに残念な子でしかないのですが……。



心「そ・れ・に、しゅがーはぁとって呼んでって言ってるだろ☆」



 可愛らしいポーズを取りながらも若干物騒になる台詞を重く受け止めることにしよう。



P「わかりました……。では、しゅがーはぁとさんの売り出し方については少し検討させて欲しいので、また後日こちらから連絡しますね」



 これはちひろさんと緊急会議をするべきかもしれない。出来れば社長の意見も欲しいところだが、社長とは時間が合わないだろう。



心「はぁい♪ じゃあ連絡先は……」



 しゅがーはぁとさんが見慣れた折り畳みのガラケーを取り出す。今時ガラケーなんて珍しいが彼女は昔からこの携帯を使っている。



P「あー……。大丈夫です。履歴書の番号で良いんですよね? 多分2〜3日の間に連絡入れれると思いますので、繋がる状態にしておいてください」



 ちひろさんから履歴書を受け取り、しゅがーはぁとさんの履歴書に目をやる。電話番号の欄には見慣れた電話番号が記されていた。



心「じゃあ、お願いしまーす♪ お疲れさまでしたー☆」



P「まだ変えてなかったんですね」



 歩き去ろうとするしゅがーはぁとさんの背中にポツリと語り掛ける。

 一瞬、体が強張ったようだったが、聞こえていないのかそのまま扉をあけて出て行った。



P「ふー……」



 溜息をついてしまう。今の出来事だけで今日の分の頭の容量はいっぱいになった気分だ。



ちひろ「お知り合い、なんですね?」



 ちひろさんがいつの間にか淹れてくれたコーヒーを受け取り、お礼を言って一口飲む。



P「ええ、知り合いです。地元の」



ちひろ「言い辛ければ深くは聞きませんが、どうします?」



 さすがはちひろさんだ。俺と心さんの間に何かあったのをあのやり取りから察してくれた。そもそもバレバレだったかもしれないが。



P「んー……、じゃあちょっと俺の知り合いの話でも聞いてくれません?」



ちひろ「ええ、構いませんよ」



 いろいろと地元に居た頃を思い出す。意図的に思い出さないようにしていたのに、神様ってのはいじわるなものだ。



P「じゃあ、少し長くなるかもしれませんが……」







心さんと出会ったのはそいつが、中学生の梅雨ですね。中3……だったと思います。



初めて出会ったのはそのくらいの歳ですね。学校嫌いだったそいつは時たま学校サボって駅前をふらふらしてたんです。



その日もそんな風に学校サボってふらふらしてたんですが、お昼頃でしたかね。ちょうど雨が降ってきまして。幸いにもそいつは傘を持ってたのでそこまで困る事はなかったんです。



雨が降ろうが雪が降ろうが学校サボってる身としては家に帰るわけにもいかないのでその辺をぶらぶらしてたんですよ。その時に出会ったんです。当時高校生だった心さんと。



彼女はシャッターが下りてるタバコ屋の軒先に突っ立ってました。髪が少し濡れているから雨宿りだったんでしょうね。



鞄を抱えて詰まらなさそうな顔して空をにらんでいるのが印象的でした。何せ見た目は超絶美人ですからね。思わず見惚れてしまいましたよ。



そんな風に傘持ったまま心さんに見惚れていると、見られていることに気付いたのか、心さんがこっちに声かけてきたんですよ。

『何見てんだよ』って。



 美人に声かけられたってだけで内心おどおどしてるのに、更に口を開いたらそんな暴言ですよ? 純真な中学生男子にはもはや手におえない事態でした。



え? サボるような奴は純真じゃない? まぁ、いいじゃないですか。



で、話しかけられたそいつは何でもないと言って立ち去ろうとしたんですが、運の悪いことに逃げられなかったんですよ。



『傘持ってるなら丁度良い、ファミレスまで入れてけ』って言われて半ば無理やり近所にあったファミレスまで連行されました。



ファミレスまで送り届けた後、そいつがさっさと立ち去ろうとすると、手を取られて無理やり店内にまで引っ張り込まれちゃいましたよ。



そこでそいつは心さんに昼飯奢ってもらう事になるんですが、飯食ってる間は心さんの愚痴に付き合わさせれてもうさっさと帰りたくて仕方ありませんでした。



料理も食べ終え、心さんの話がひと段落したのを見計らって、自分の分のお金だけ置いて帰ろうとしたら『ガキが気を使うな』って出してくれたんですよね。そこで単純なそいつは心さんの評価がなんかよくわからない怖い人から、ご飯を奢ってくれた良い人になるわけですが。



その日はそれで終わりだったんですが、その後もちょこちょこ心さんには会ったんですよ。何故か雨が降りそうな日の昼頃にタバコ屋に行くと雨宿りしてて。毎回毎回、そいつが傘さして心さんと一緒にファミレスに行って、昼飯を奢ってもらう。そんな関係でした。



中学生男子なんて単純なもので美人にご飯奢ってもらえるとなるとなんの疑問も抱かずについていくんですよね。馬鹿丸出しですよ。



話が逸れましたね。で、心さんとそんなやりとりを続けているうちに、心さんもまともに学校に行っていない事を知ります。理由は学校が詰まらないだとか、そんな感じでした。『学校行くよりお前とこうしてた方が楽しい』って言われた時はなんだが嬉しくなったのを良く覚えています。



そうやって何度か会ってた後、そいつも進路を決める時期がきました。もちろんサボり気味なそいつの内申点が良いなんてことはありません。勉強もほどほどにしかできませんでしたし。



先生にも親にも進路どうするって散々言われた辟易してた学校の帰り道でした。その日は晴れてたんですが、なんとなく駅前に足を運んでみたんですよ。心さんと会うのは決まって雨の日だったので、ほんとうになんとなくだったんですが。



いつものタバコ屋の前まで行ったんですが、案の定心さんは居ませんでした。もし居たら進路の相談をするつもりだったので落胆しつつ、諦めて家まで戻ろうと歩き出した時でした。後ろから突然呼び止められたんですよ。



驚きつつも振り返るとそこには心さんが居ました。制服姿ではなく、ジャージ姿の。



どうやらジョギング中だったらしくて、会えたのは本当に偶然だったらしいですが、進路相談をしたかったそいつにとっては渡りに船です。近くの公園で話が出来ないか誘いましたよ。



心さんは渋い顔をしつつも、そいつの提案に応じてくれて、二時間くらいそいつの愚痴に付き合ってくれました。進路相談なんて5分もしてなかったんじゃないですかね。



その短かった進路相談で心さんは『じゃあ私が通ってる学校来い。私は17だから1年しか一緒に通えないけど、一緒に登校しよう』、『それまで私も学校辞めずにお前の事待ってるから』って言ってくれたんです。何にも決まってなかったそいつに目標が出来た瞬間でした。



まぁ、高校名聞いたら割と有名な進学校で、当時のそいつの学力じゃ逆立ちしたって入れなかったんですけどね。でもそれからのそいつは頑張りました。夏休み前の成績じゃ話にならなかったのを合格まで持っていくんですから。



受験勉強中はあんまり心さんとは会わなかったんですが、というか心さんもそいつもサボるのやめたんで会えなかったんですけど。



まぁ、なんとか無事合格して晴れて心さんと同じ高校に通えるようになったわけですよ。それからの一年は平日は毎日心さんと一緒に登校、休日もなんだかんだ会っててほぼ毎日一緒に過ごしてたんです。



心さんは二つ上だったのであっという間に卒業でしたが、その一年は楽しかったですね。



心さんは高校卒業後短大に行くのが決まっていたんで、いつものファミレスで合格祝いと卒業祝いを兼ねて一緒にご飯食べてたんですよ。そこで心さんからあるものを貰いました。なんだかわかります? ボタンとかじゃないです。



 まぁ、分からないと思うので、答え言っちゃいますけど、鍵だったんです。ええ、鍵です。なんでも心さんは短大では一人暮らしをするらしく、その心さんの家の鍵を貰ったんです。『まぁ……これからもよろしく……』とか言いながら。



心さんとこんな風に毎日会えるのはその一年間だけだと思ってたので、思わぬプレゼントに大喜びですよ。そいつが高校卒業するまでほぼ毎日心さんの家に遊びに行ってましたね。毎日毎日晩飯作ってもらって、一緒に食べた後、そいつは帰宅って流れでした。



あ、泊まったことはないですよ。飯食ったら遅くとも22時前には帰ってました。



 そんな高校生活を続けて、そいつが大学入った歳です。心さんも就職して、何故かそいつの大学の近くに家を借りて新しい生活を送っていました。場所が変わってもそいつは相変わらず心さんの家に晩飯を食いに行っていましたけど。



泊まりはないです、と言えれば良かったんですが、一度だけ。サークルの新歓コンパで未成年のくせして酒飲まされてぐでんぐでんになったことがありまして、一人で歩けなくなっちゃった事があったんです。サークルの先輩達も酔いつぶれているそいつをどうするか悩んでたらしいんですが、タイミングよくそいつの携帯に着信が入りました。ええ、心さんからでした。



 新歓コンパが終わったら連絡するって約束してたんですが、日付変わっても連絡来なかったから心配になったそうです。



 酔ってまともに会話できなかったそいつに代わって先輩が電話に出て、心さんに状況を説明したらなんと心さんが迎えに来てくれたんです。その場に居た先輩も同輩も心さんを見て騒然となったらしいですが、詳しくは知らないです。



 そうやってべろんべろんになってるそいつを家に帰すのはまずいと思ったのか、心さんは自分の家に連れてって水飲ませてくれたりと介抱してくれたんです。



 泊まったのはその一度きりですよ。やましいことは何もありません。



 なんとか二日酔いやらなんやらから復帰して大学に行ったら質問攻めでしたよ。あの美人は誰なんだって。めんどくさかったそいつは姉って言って誤魔化してましたけど。



そうやって心さんとの生活が同期や先輩にバレたんですが、姉って誤魔化したおかげでそこまで大きな問題にはならず、そいつには超美人の姉が居るって程度でした。何度も心さんを紹介してくれって言われましたが、全部断ってました。面倒ですし。



 そんなこんな大学生活をなんとなく満喫してたある日です。四回生になったそいつがその年の新歓コンパに参加してた時です。新入生が無理して酒飲んじゃったんですよ。飲ませてなんかないですよ、もちろん。



 で、案の定酔いつぶれちまったのを、そいつの友人が見てあの時のお前にそっくりだよなって話を振ってきたんです。まぁ、そいつにはその時の記憶はほとんどないので、ああこんなんだったのかって程度でしたが。



 そんな新入生を介抱しながら友人と話していると、友人がふとこんな事を聞いてきました『まだお姉さんのとこで飯食ってるの? なんで家で食わないの?』って。そいつとしてはもうそれが日常になっていたのでどうしてもこうしてもなかったのですが、『楽しいから』って答えたんです。



 まぁ、酔ってたんでしょうね。本当に姉の元でごはん食べてただけなら楽しいからとは普通は言わないでしょう。友人も酔ってたのでそんな深くは気にしなかったようですが、次の友人の言葉にそいつは衝撃を受けました。



『これが姉貴じゃなくて、彼女とか女友達の家で、とかだったらお前完全にヒモだよなー』という言葉に。ちひろさんはすでにそいつをヒモ認定してたと思いますが、本人はその時言われるまでまったく思ってなかったんです。まさかヒモだったなんて。



 ええ……軽蔑するのは仕方ないと思います。俺だってどうかしてると思いますから、そんな奴。



 ですが、その言葉を聞いたそいつはあの高校受験の時のようにやる気を出し始めました。まず、心さんの家に行く頻度を徐々にですが減らしたんです。急に来なくなったそいつに心さんは不思議に思ってたみたいですが、就活がって言ったら追求はしてきませんでした。



 就活が忙しかったのも事実です。ですが、そんな一緒にご飯食べる時間がなくなるほど忙しくはなかったですよ。でも、就活を言い訳に心さんの家に行く頻度を減らして、ヒモなんて呼ばれないようにするので精いっぱいだったんです。時々、ふと声が聴きたくなって急に電話してたりしてましたが。



 そうやって、自分がヒモなんて呼ばれないように心さんと距離を置き始めて半年くらい経った冬の初め頃ですかね。東京のとある芸能プロダクションから内定が出ました。



なかなか内定が出なくて苦しんでたそいつにとって内定が出た事は非常に喜ばしかったことです。思わず心さんに報告に向かいそうになってましたが、心さん離れをするって決めてなんとか半年頑張ったのにここで会いに行ったら意味がないなんて思っちゃったんですよ。



 だから電話での報告だけにしときました。どこに内定が出たかは言わず、東京で就職するってだけ伝えて。あの時の心さんがどんな事考えてたかは分かりませんが、喜んでくれていたと思います。



 そんなこんなで大学も卒業して、上京する日でした。駅に行くと不貞腐れた美人が立ってたんです。『私に挨拶も無しに行くのか』って出会った頃くらいの目つきの悪さで言うんですからそれはもう怖かったです。



 しどろもどろになりつつも挨拶に行かなかった事を詫びて、今までのお礼を言ってその場から逃げ出すように改札をくぐりました。あの時の心さんの目は一生忘れないと思います。



 それが心さんと会った、最後の記憶です。









P「その後のそいつはヒモだった過去から逃れるように携帯を変え、地元とも連絡を絶って逃げるように生活してるらしいですよ」



P「こんなもんですね。長い割に面白くない話で申し訳ない」



 軽く頭を下げつつちひろさんを見やる。何か言いたげな雰囲気でマグカップをいじっているちひろさんがそこには居た。



ちひろ「なんていうか、その方はとっても身勝手ですね」



P「俺もそう思います。でもそれが分からないようなガキだったんですよ。お恥ずかしながら」



ちひろ「プロデューサーさんは……、いえ、その方は心さんに連絡を取るつもりはないんですか?」



P「……どうなんでしょうね。心さんからしたら心さんの人生を振り回した挙句、急に逃げ出すような奴ですし、もう会いたくないって思ってるかもしれませんよ」



 そうなのだ、こんな屑みたいな奴に心さんが会いたいなんて思ってくれるわけはない。



心「ふざっけんなよ!」



 そんな時怒号と共に心さんが部屋に入ってきた。怒り狂っているのは火を見るより明らかだ。



心「私がどんな気持ちでお前と一緒に居たかわかってんのか! 勝手な憶測で私を語るんじゃねぇ!」



P「ちょ、心さん、ネクタイはやめて、締まる締まる」



 修羅の顔をした心さんにネクタイを掴まれて逃げるに逃げれない。



ちひろ「心さん! 一度落ち着いてください! 後で私も協力しますから!」



 ちひろさんが不穏な台詞を吐きつつも心さんをなだめてくれる。



P「あー……、えっと心さん帰られてから結構経ってますが、どうしてここに?」



 答えはわかりきっているが聞かずにはいられない。



心「……」



 心さんはむすっとした表情でこちらをにらみつけている。逃げ出したくなってしまうが、そんなことをしたらこれは本気で殺されかねない。



P「えっと……聞いてました?」



 尋ねると心さんは無言のままこくりと頷くだけであったが、先の話が心さんに聞かれていたとなるとこちらの心中穏やかではいられない。



P「えっと……」



心「Pが、私の事をなんとも思ってないのは知ってた」



 俺が口を開こうとした時に心さんに先を超される。しかし、先を超された言葉が若干理解出来ない。



心「私がやっとの思いで合鍵渡した時になんの反応もなかった時点で気付いてた」



P「えっと、どういうことでしょう……」



 こうやってヘタれるところが俺の悪いところだ、と以前早苗さんにたしなめられたことがある。一向に良くなる気配がない。



心「だから、お前が私の事を女として見てくれないのはずっと前から知ってた」



心「だから、うちに来てごはん食べるだけの関係でいいやって思ってた。もし、Pに彼女出来たら諦めるつもりだった」



 心さんの口から衝撃的な事実が聞かされる。女としてって……。



心「だから、Pが勝手に連絡先変えて行方くらました時は本気でキレた。お前の実家に乗り込んで家探しするくらいには」



心「でも、お前につながるような情報は何にもなかった……」



 それは当然の事だろう。上京を決めた日に俺に関する物はほとんど処分していった。実家からは今の俺につながるようなものは何一つとして存在していない。



心「しばらくは泣きながら過ごしたんだぞ……。泣いて泣いて泣きまくって、散々泣き喚いてある日決心したんだ。Pを探しに行こうって」



心「でも簡単に見つかるとも思ってなかったから準備に二年もかかった。Pが芸能プロダクションに内定もらったって言ってたのは覚えてたから、東京の芸能プロダクションに片っ端から電話したり」



ちひろ「あっ……、もしかしてあの電話って心さんだったんですか……?」



心「1年前くらいなら、たぶん」



 驚愕の事実が次々飛び出してきて茫然自失となる。心さんがそんなにしてまで俺を探してたのか。



P「え、じゃあなんで今アイドルなんてやってんですか……? 仕事は?」



心「長野に居て出来そうなことは全部やったから、あとはもう直接東京に乗り込むしかないと思ったから。それにアイドルやってればPが見つけてくれるかもって思ってここのオーディションに応募した」



 唖然としてしまう。じゃあ心さんは俺を探すためだけにアイドルになろうとしたのか。



心「でも、まさか合格もらった先にPが居るとは思いもしなかったわ……」



そりゃそうだろう。芸能プロダクションなんて山のようにあるんだから、まさか尋ね人に一発で出会えるなんて誰が思うのだろうか。



P「……じゃあアイドルやめときます?」



心「……」



 正直、目的を達成できたならばアイドルなんて不安定な職業にその歳で就いて欲しくはない、と思う気持ちと、心さんをプロデュースしてみたいと思う気持ちが半々。



心「Pは……。Pは私がトップアイドルになれると思う?」



 心さんが瞳に涙を浮かべつつ上目づかいで聞いてくる。



ちひろ「ここで逃げたら、最低も良いとこですよ?」



 ちひろさんに助けを求めたらいい笑顔で返されてしまった。覚悟を決めるしかないか……。



P「俺は……」



 心さんの身体がビクッと震える。



P「心さんならトップアイドルになれると思います。なんてったって俺の憧れの人ですし!」



P「一緒にトップアイドル、目指しましょう!」



 心さんに手を差し出す。過去の俺ならこんな事出来なかったと思う。だが、ここで逃げたら男じゃない。



心「ぐすっ……」



 心さんが軽く鼻をすすって俺の手を取ってくれる。



心「はぁとは、アイドルとしては一年生だから、これからたぁっくさんプロデュースしてほしいな☆ ……トップまで頼むわ☆ 歳が歳なんで☆」



 こうして、駄目な男と駄目な女は再び一緒に歩むことになった。









数年後



P「心さん! このライブ成功すれば名実共にトップアイドルですよ!」



心「しゅがーはぁとって呼べっての☆」



心「でもまぁ、ちょっくら行ってくるわ。アイドルの頂点、取ってくるぞ☆」



P「はいっ! あと、このライブ終わったら言いたいことあるんで、時間ください」



 長年自分の心の奥底に隠してた気持ちを伝えよう。彼女の隣で胸を張って歩める自信がついたから。



心「とりあえずライブ終わるまではしゅがーはぁとだから♪」



心「終わったら佐藤心としてちゃんと聞くよ。P」



心「ともかく、今は」



心「はぁとをもっともーっとかわいくプロデュースしてね、プロデューサー☆」



end





11:30│佐藤心 
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