2014年03月12日

速水奏「行く末」


ガタンゴトンと周期的な音が響き渡る





夕暮れに染まる電車







そのボックス席に男女が向かい合って座っていた





「起きてる?」





男が問い掛ける





『起きてるよ』





女が答えた





「そっか」





男の言葉を最後に、再び沈黙が広がる





夕陽の赤と電車の音だけに満たされ、穏やかな時が流れていった



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───

──────





「なぁ、奏」





『なぁに?』





「どうしてアイドルになったんだ?」





『Pさんがスカウトしたんでしょ。忘れちゃったの?』





「もちろん覚えてるよ。そうじゃなくて、理由を知りたいんだ」





『乙女は誰しもアイドルに憧れるものよ』





「憧れ…か」





『もっとも、それ以上に貴方に惹かれたから』





「俺に?」





『思えば、一目惚れだったのかも』





「後悔してる?」





『するわけないじゃない』





「良かった」





『ねぇ、Pさん』





「どうした?」





『Pさんはどうしてプロデューサーになったの?』





「社長にスカウトされてな」





『Pさんが?』





「ああ。就職活動してる時に誘われてホイホイ着いてった」





『変なの』





「俺もそう思う」





『後悔してる?』





「するわけない」





『良かった』





「なんたって、奏に逢えたんだから」





『…ばか』





「奏はさ」





『うん』





「アイドルやってて楽しかった?」





『もちろん』





「即答か」





『非日常の連続だもの』





「辛くなかった?」





『辛いときもあったけど、そのたびにPさんが助けてくれたじゃない』





「そうだっけ」





『そうよ。いつもPさんが側に居てくれたから楽しめたの』





「知らなかったな」





『鈍感ねぇ…』





『Pさんは?』





「ん?」





『Pさんは楽しめた?』





「半々、かな」





『半々?』





「奏のファンが増えてくのは嬉しくもあり楽しかった。けど…」





『けど?』





「支えきれてないんじゃないかって。それが辛かった」





『そう…』





「だから、さっきの言葉は嬉しかったよ」





『ふふっ…何度でも言ってあげる』





「嬉しい、と言えば」





『言えば?』





「最初のバレンタイン」





『懐かしいわね』





「チョコレート、嬉しかったよ」





『ちゃんと食べた?まだ取っといたりしてないでしょうね』





「食べたよ。甘くて美味しかった」





『なら良かった』



「チョコが甘いのは、二人の関係が甘くなって欲しいから」





『よく覚えてるわね』





「俺達はどうだろう」





『少なくとも、甘くはないわ』





「ほろ苦い、かな」





『ほろ苦いのも嫌いじゃない』





「懐かしいな」





『懐かしい、と言えば』





「言えば?」





『みんな、元気にしてる?』





「久しく連絡取ってない人もいるからね。どうだろう」





『消息の分からない人とか居るの?』





「のあさん」





『ああ、なるほど』





「あの人、結局見た目の年齢変わらなかったな」





『まだまだできそうだったのに』





「それを言うなら、奏だって」





『私は、もう満足したから』





「そう」





『それに、アイドルよりなりたいものができたしね』





「そう」





『照れてる?』





「いや」





『赤いよ?』





「夕陽だ」





『そういうことにしといてあげる』





「見てみなよ。あと少しで日が沈む」





『綺麗な夕陽』





「都会じゃ見れないな」





『田舎には田舎のいいところがあるのね』





「それは都会人から見たらだけど」





『でも、大切なもの』





「そうだな」





『大切なものって、いつの間にか見失っちゃうのよね』





「ああ。だから俺には、大切なものは一つでいい」





『そうね、一つでも大きすぎるくらいだもの』





「すっかり日が暮れたな」





『夜になると、あの撮影を思い出すわ』





「ああ、あのウェディングドレスの」





『そう』





「あれは綺麗の一言に尽きるよ」





『ふふっ、ありがとっ』





「次に奏のウェディングドレスを見るのはいつになるかな」





『私は今すぐにでもいいんだけど…』





「引退後すぐはマスコミがうるさいから」





『分かってる。どうやら、未婚女性が着ると婚期が遅れるって噂、本当みたい』





「北条は?」





『例外ね』





「あの二人は上手くやっているらしい」





『加蓮にご両親への挨拶の仕方、教わっとけば良かった』





「緊張してる?」





『私だって緊張ぐらいするわ』





「大丈夫だよ。うちは名家でも何でもないし、早く嫁もらえってうるさいぐらいだから」





『そうなの?』





「あ、そろそろ着くから降りる用意してくれ」





『えっ、いきなり?』





「すまん、ぼーっとしてた」





『もう、また緊張しちゃったじゃない』





「大丈夫だって。もし認められなかったら愛の逃避行だ」





『ふふっ、映画みたいね』





「あ、恋愛映画は嫌いだっけ?」





『Pさんとなら、恋愛映画も悪くないかな』





「緊張、ほぐれたみたいだな」





『えぇ、もう大丈夫。Pさんが支えてくれたから』





「じゃあ、行こっか」





『星が、綺麗……』





「街灯が少ないからね」





『ねぇ、Pさん』





「ん?」





『私は、輝けてたかな』





「輝いてるよ」





『過去形じゃないんだ』





「アイドルとしての速水奏は終わってしまったけど、俺が見てる速水奏は変わらずに輝いてる」





『そういえば、前に訊いたことがあったわね。アイドル速水奏か私、どちらを欲しいか』





「あの時ははぐらかしたけど、今なら言えるよ」





『今は言わないで。バレンタインの返事も貰ってないのよ』





「そろそろホワイトデーだったな」





『ふふっ…鈍感なPさんにしては、鋭いじゃない』





「何年も一緒にいるんだ。鍛えられるさ」





『これからも側に居てくれる?』





「もちろん」





───

──────





晴れ渡る空の下、二人が電車を待っていた





「これからどうしようか」





男が問い掛け





『そうねぇ…』





女がはっきりしない答えを返した





「奏はどうしたい?」





『……旅がしたいわ』





「旅?」





『一足早い新婚旅行よ』





「いいな、それ」





『気の向くままに世界中を。色んな世界を見て回る』





「何が待ってるかな」





『さぁ、分からないわ』





「隣に君がいて」





『隣に貴方がいて』





「手を繋ぐ」





『それだけでいいの』





「幸せ、だな」





『そう、幸せ』





『私達の行く末は、幸せに違いないわ』



おわり





08:30│速水奏 
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