2015年09月02日

晴「ボク?」 幸子「オレ?」

モバマスSSです



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晴「うーっす」





幸子「ああ、新人さんですね。お話は聞いてますよ」



晴「アイドルなんて別に目指してたわけじゃねーんだけどな。オヤジのヤツが勝手によー」



幸子「その割りにはこうして事務所に来てるようですが」



晴「面白そうなヤツがいたからな。ちょっと付き合ってやってもいいかと思って」



幸子「そうしてアイドル業にのめり込んでいく方も多いです。あなたはどうなるでしょうね?」



晴「さーな。……っと、オレは結城晴(ゆうきはる)っていうんだ。よろしくな、センパイ」



幸子「総選挙第4位のボクのことをご存知とは思いますけど、輿水幸子です。どうぞよろし――」



晴「……」



幸子「……」



晴(……ボク?)



幸子(……オレ?)

晴「あー。センパイ?」



幸子「はい。ええと、何でしょう?」



晴「アンタって……男なのか?」



幸子「あなたが言いますか! それをあなたが!」



晴「だってよー。自分のこと『ボク』なんて言ってる女みたことねーよ」



幸子「鏡をみれば似たような方が案外近くにいると思いますよ!?」



晴「あん? なに、センパイって見えちゃう系?」



幸子「ボクに余計な属性をどんどん追加しないでください!」



晴「じゃあなんだってんだ」



幸子「ボクも自分のことを『オレ』なんて呼ぶ女性の方は初めてだと言ってるんです!」



晴「……え?」



幸子「信じられない、みたいな顔しないでくださいよ! まさか流行り? 流行ってるんですか!?」

晴「冗談だよ。たしかにオレの周りにはオレくらいしかいなかったなー」



幸子「ボクの周りにだってあなただけですよ」



晴「でも『ボク』なんてのも見かけなかったぜ?」



幸子「それは……そうでしょうけども。それよりボクはちゃんと女性ですからね?」



晴「オレも女だよ。つっても、少女趣味とか持ってないし女ってのがよくわからん」



幸子「そうなんですか?」



晴「育った環境がな。オレんち、男ばっかの家族だから」



幸子「なるほど。となると、それはそれは可愛がられているでしょう?」



晴「たまにうぜーけど、楽しくやってる。まさか勝手に応募されるほどとは思わなかったけどよ」



幸子「いいご家族じゃないですか。でも男性ばかりというのは何かと苦労するのでは?」



晴「オレにとっては当たり前だったし、どうだろう――ああそうだ」



幸子「?」



晴「どことなく気を遣ってくるようになってから『一緒に風呂入ろう』ってからかって遊んでる」



幸子「あなた性格悪いですね!」

晴「家族なんだしオレが気にしなきゃ問題なくね?」



幸子「あ、あなたは気にしないんですか?」



晴「いや。気にする」



幸子「線引はちゃんとなされてるんですね! ご家族に代わってボクが安心しました!」



晴「難しいこと考えるなよ」



幸子「簡単ですよ! 難しいこと何もないです!」



晴「じゃあお前んちはどうなんだ?」



幸子「ボクの家?」



晴「どんな家庭で育つとこんな子に育っちゃうんだろうな……」



幸子「遠い目をしながら訴えかけないでください!」



晴「オレが男口調なのは家庭環境のせいだって言ったろ? 幸子はどうなんだよ」



幸子「ボクの家は――そうですね、ご想像にお任せします」



晴「……。つらいなら、相談に乗るぜ?」



幸子「お任せしたボクが馬鹿だったああ!!」

晴「わかる、わかるよ、君の気持ち。って歌あったよな」



幸子「何一つわかってませんけどねボクの気持ち!」



晴「真面目な話、幸子のことをわかってやれるのはオレだけだって」



幸子「その自信はどこからくるんですか! 少なくともあなたの育った環境とは全く異なりますからね!」



晴「違うのか?」



幸子「違いますよ!」 



晴「恥ずかしがるなよ。まぁ、幸子は育ちが良さそうだなーってのはわかるけど」



幸子「そこは今はどうでもいいです! 父がいて、母がいて、ボクがいる。ボクの家はそんな普通の家庭です!」



晴「……母親、か」



幸子「え? あ……その、すみません」

晴「大丈夫大丈夫。慣れっこだから」



幸子「そういうわけには……」



晴「気にすんなよ。母親がいなくてもオレにはその分、オヤジ達やアニキ達がいるから」



幸子「いえ、そんな。今のはボクの配慮が足りませんでした……ん?」



晴「今度はなんだ?」



幸子「えっと、何でもないです。きっと聞き間違えでしょうから」



晴「そっか」



幸子(そうでなくとも、言い間違いとかの類でしょうし)



晴「……それにしても、幸子の家も父親が2人いると思ったんだけどなー」



幸子「聞き間違えじゃなかった!! あなたの家の家族構成はいったいどうなってるんですか!?」



晴「どうなってって、想像に任せるよ」



幸子「任せちゃダメです! 想像通りだったらジェンダーフリーすぎますよ! あなたの元お母さんが!」



晴「冗談だってば。お前面白いな」



幸子「今日ほど笑えない冗談を聞かされる日もそうはないでしょうねえ! いくらボクがカワイくとも!」

晴「幸子って堅いよな。バリバリ敬語だし」



幸子「あなたが無駄に砕けてるんです。今さらな気もしますけど、年だってボクのほうが上ですからね?」



晴「なんだ、幸子も冗談言えるじゃんか」



幸子「事実しか言ってませんよ!? ボクは14歳ですから!」



晴「マジ? タッパも同じくらいだし、境遇も似てるからてっきりタメかと」



幸子「境遇は似てませんってば!!」



晴「ふーん……。てことはオレの成長期ってもう終わったようなもんなのか」



幸子「諦めないでください! ボクを見ながら諦めるのやめてください!」



晴「ガム食う?」



幸子「突然ですね!? 話を逸らしてるのだとしたら不自然ですよ!」



晴「ガム噛んでると落ち着くんだよ。ほら」



幸子「……では、いただきます」



晴「サッカー選手もガム噛みながら試合に臨んでたりするんだぜ。知ってるか?」



幸子「聞いたことはあります。理由までは知りませんが」



晴「なら今度、ガム噛みながらステージに上がってみたらどうだ? 集中力上がるぞ」



幸子「ボクの人気は急降下しそうですけどね!!」

晴「ブフゥー……」



幸子「お上手ですね。これってフーセンガムだったんですか」



晴「好きなんだよ。別にやれってんならキシリトールのガムでもできるぞ、何個か噛めば」



幸子「お腹下しますよ……」



晴「幸子はフーセンガムとか食わなそうだな」



幸子「ガム類はあまり人前で食べたくなるものじゃないですね」



晴「そういうもんなのか?」



幸子「ええ、まあ。それにボクではあなたみたいにガムを膨らませてる姿が様になりませんし」



晴「……」



幸子「どうかしました?」



晴「いや、別に……ふん」



幸子(ふふん、ちょっとはカワイイところありますねこの人)

晴「あいつはまだ来てないのか?」



幸子「あいつ? もしかしてプロデューサーさんのことですか?」



晴「おう。あいつがいねぇんなら事務所に来たところで何もする気になれねーな」



幸子「来たからには動きましょう。働きましょう? 働かない人は間に合ってます」



晴「オレはたしかに新人だ。でもアイドルに興味はねぇ」



幸子「言い切りますね」



晴「まあな。オレがここにいるのはあいつで退屈しのぎしに来てるようなもんだし」



幸子(……まったく、女の子と仲良くなるのだけは妙に早いんですから)



晴「あいつが来るまでサッカーでもしてようぜ」



幸子「ボクを巻き込まないでくださいよ!」



晴「あー、でも肝心のボールがいないんだっけ」



幸子「ボールが『いない』!? あなたプロデューサーさんに何してるんですか!」



晴「野球のボールみっけ。サッカーボールはないのか?」



幸子「無視しないでください!」



晴「おっ、なんだそこにあったのか。幸子ナイスプレイ」



幸子「ボクはあなたのプロデューサーさんへのプレイが気になるんですが!!」

晴「んだよー。少しくらいいいだろ?」



幸子「ダメですよ。何かするにしても室内でできることにしましょう」



晴「じゃあ幸子で遊ぶか」



幸子「もう十分遊ばれましたよ!」



晴「アイドルなら芸の一つや二つ持ってるものなんじゃねーの?」



幸子「芸人ではないですからね! 芸人ではないですからね!!」



晴「あ、となるとオレも何か身につけておかないといけないのか……めんどくせー」



幸子「ボクはあなたの対応が面倒になってきました!」



晴「しょーがねーな。ここは一つフーセンガム膨らませて空でも飛んでみるか」



幸子「軽いのがノリだけでは浮かびませんよ!」



晴「いや、やらねぇぞ? フーセンガムで飛ぶ猿がでてくるゲームを、アニキがやってたの思い出しただけ」



幸子「どんなゲームか想像つきませんね」



晴「RPGだったかな。古いやつ。感慨深そうにやってた」



幸子「そうですか」

晴「幸子はあだ名とかあったりするのか?」



幸子「ボクですか? 特には何も」



晴「え、アイドルなら無理やりつけられるもんなんじゃねーの?」



幸子「さあ?」



晴「あいつに言わされるんだよ。フレッシュアイドルはるちんがどーのこーの……」



幸子「はるちん、ですか。へぇ」



晴「なんだよその目は。オレだって違和感しかねーよ!」



幸子「いえいえ。カワイイじゃないですか、はるちん」



晴「やめろ!」



幸子「ファンに定着したら慣れざるを得ないんですし、ふふっ。はるちんさん?」



晴「く、くそー……だったら幸子はさっちんな」



幸子「さっちん!?」



晴「オレにだけ恥ずかしい思いさせようたってそうはいかないぜ、センパイ?」



幸子「さっちん……さっちん……ま、まあ悪くはないですね?」



晴「いいのかよ!」

幸子「ところで気になったことがあるのですが」



晴「なんだ?」



幸子「あなたのかぶってるそれってベースボールキャップですか?」



晴「ん……それってオレのセンスを疑ってるとかか?」



幸子「いいえ、とてもお似合いですよ。ってそうじゃなくてですね……なにを俯いてるんです」



晴「うるせーな! だったらなんだよ」



幸子「うちの事務所には熱狂的な野球ファンの方がいるんですが」



晴「ははーん、宗教戦争か」



幸子「発想が物騒ですね!?」



晴「なぁに、野球が悪いとは言わねーけどさ。今の時代はサッカーなんだよな」



幸子「まあその、それをかぶってるともしかしたらその方に絡まれることもあるかもと思いまして」



晴「ふーん。どんなヤツだ? 学生か?」



幸子「え……っと、学生に見えなくもない方です」



晴「見えなくもない!? どういう意味だそれ」

幸子「こんなアイドルになりたいって目標はありますか? 興味がない、は抜きにして」



晴「……そうだな、とりあえずフリフリした衣装は着たくない」



幸子「ボクみたいにカワイイアイドルを目指してもいいんですよ? 目指すだけなら無料ですから」



晴「無料でもやだよ。どうせならカッコイイ方がいい」



幸子「カッコイイというと、ヒーロー的な感じですか?」



晴「それはとっくに卒業したっつーか……なんだよヒーロー的って」



幸子「いえ、何となく。うちだけでもいろんなアイドルがいますからね、参考にするといいですよ。ボクとか」



晴「お前はいいっつーの。オレはカワイイとかとは無縁でいきたい」



幸子「そうですか……」



晴「なんでそこで肩を落とすんだよ」



幸子「ボクほどまでとはいかなくとも、カワイイ人は多いほうがこちらに波風が立たないといいますか」



晴「まるでこれから嵐でも来るみたいな言い草だな」



幸子「嵐……うーん、竜巻? そのうちわかりますよ、にょわにょわした嵐が」



晴「?」

幸子「まあ、これから方向性が変わるかもしれませんしね。成長につれて」



晴「だからオレの成長期は」



幸子「問題ないですよ!? ボクもあなたもまだまだ余地がありますからこっちを見て言わないでください!」



晴「そうか? ならあと30センチは欲しい」



幸子「高い! 夢のある数字ですね!」



晴「なんなら10センチほど分けてやるぞ?」



幸子「まさか適当に言ってました!?」



晴「タッパは欲しいよな。小さいってだけでカッコイイよりカワイイって見られるし」



幸子「そういうものですよ。大型犬よりも小型犬、大人の猫より子猫。でしょう?」



晴「なら幸子は小さいほうがいいってことか。カワイイが売りなら」



幸子「かもしれません。ボクなら身長高くてもカワイイでしょうけどね」



晴「よし、じゃあ大きくなってもいいように名前を小さくしておこうぜ。今日から幸薄子な」



幸子「イヤですよ! 何ですか縁起の悪い!」



晴「小さな幸せをかみ締めて生きてる感するよな。カワイイんじゃね?」



幸子「カワイイかどうかはともかく間に合ってますから!! もう薄幸の方はいますから!!」

幸子「……あ、プロデューサーさん」



晴「おせーぞ。何やってたんだ? あん、いいから来いだと?」



幸子「新人さんは挨拶回りですか。まずは方々に顔を売らないといけませんからね」



晴「めんどくせーな……他のヤツも待ってる? わーったよ。先行ってろすぐ行くから」



幸子「どうしたんですか? フレッシュアイドルはるちん、早く覚えてもらえるといいですね」



晴「うっせー! ……なんだ、その。暇つぶしに付き合わせちまって、悪かった」



幸子「?」



晴「まあ、楽しかったよ。オレまだ知り合いとかいないし……それだけ。またな、さっちん!」



幸子「……。ええ、また」







幸子「ふふん、やっと静かになりました」



幸子「……強力なライバル出現かもしれませんね。ボクももっと頑張りますよ!」







 おわり



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