2015年09月10日

まゆ「赤糸」


 

 

【運命】が見える彼女の最初のお話





 

 





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441607212



運命の存在を知ったのは、確かわずか三歳のころ。



だけどそれからしばらく私は、運命とは実在していて誰にでも見えるものだと思っていた。



ある日の事、朝ごはんを作っている母親の小指から真っ直ぐ、赤い糸が伸びていた。



赤い糸はキッチンをたどり、父親のいるリビングを伝い、長い長い廊下を抜けて、外に向かって伸びていた。



その時の私は、特に気に留めることなくすぐにおもちゃで遊びに戻ったけれど。



それからまた数年経って、



この糸は私にしか見えていないんだと知った。



そのおかげで、色んな人の恋愛相談を解決できたりしたけど、



私はそのせいで、運命とか、恋とか、



そういったものに対して、冷めてしまった。

そして16歳になった今、目の前にいる母親の小指の赤い糸。



隣の父親の後ろを通って、未だに外に伸びていて。



「……じゃあ、仕事行ってきますねぇ」



「……気をつけろよ」



そういう父親の小指から伸びた糸もまた、窓を伝って外に伸びていて。



【運命】って何だろう、と悩むお年頃。



外に出ると真っ赤な線がトラップのように張り巡らされていて。



切れてもすぐに戻りそうな丈夫な糸はいいんですけれど、今にも切れてしまいそうな頼りない糸は避けて歩かないといけないのは少し面倒ですね。



「……」



まゆの小指、真っ直ぐ太く伸びた赤い糸。



運命の赤い糸、だなんて洒落た言葉だと思うけれど。



あなたがそう信じているだけで、本当の運命の人はもっと遠くにいるんじゃないか。



両親の知人の結婚式や、テレビを見ているとよく思います。



まゆの両親はそんな中よく続いている方ですけれど。



駅前。



人ごみは嫌いです。いつも間違って、他人の運命を切ってしまいそうで。



別に切ったところで私に影響はないんですけれど……気持ち的に嫌で。



いつかその報いを受けて、私の赤い糸も誰かに切られてしまうんじゃないかってそう思ってならないんです。



……まぁ、まゆはもう当てにしてはいないですけどね。この糸も。



きっとまゆの両親のように、別々に運命の人がいる同士で結婚するんでしょう。



ふらふらとできるだけ人の少ない場所を通って、何とか駅の改札口へ。



と、その時でした。



ぐい、と右手が引っ張られる感覚。



誘われるがまま、私は改札口の前で振り返って歩き出しました。



ぐいぐいと、右手は導くように私を引っ張ります。



こんなことは初めてで、少し困惑していました。

しばらく歩いていると、駅の外に出た辺りで引っ張られる感覚はなくなってしまいました。



いったい何かと思っていると、ふと、駅前のベンチに座るスーツ姿の男性が目に入ってきました。



その人の右手から伸びた赤い糸。



ふにゃふにゃと少し頼りないその糸は。



私の右手の小指の赤い糸と結ばれていて。



「……あっ!そ、そこの君!」

糸に意識をとられていると、スーツ姿の男性は私のほうへ一目散に駆けてきて。



「アイドルに、興味、ない?」



そう、笑うのでした。



とたんに、心臓が高鳴って、



とたんに、何だか気恥ずかしくなって、



とたんに―――今まで冷めてた心が、嘘みたいに熱くなって。

神様なんて信じていません。



だってまゆには運命が見えるんですから。



でも、だけど、この瞬間だけは。



考えを少し改めようかと、思ったのでした。



「まゆ、東京に行きます」



両親にそう告げると、二人は驚いたように顔を見合わせました。



そこからは質問が矢継ぎ早に飛んできます。



「仕事はどうするんだ」「学校は」「いきなりどうして」。



そんな質問を断ち切るように、



「運命の人を、見つけたんです」



まゆはそう告げるのでした。

重たいキャリーバックを引き摺って、渡された名刺に書かれた住所へ。



ここから、まゆの運命は始まるんだと思うとドキドキがとまりません。



仕事でも緊張しなかった心臓は今もバクバクと高鳴っています。



お城のような建物の、大きな門を潜り抜けて、



自動ドアを通って、エレベーターに乗って。



ドアを開こうとした時、



「……?」

ドアの鍵穴、そこが真っ赤に染まっています、



何か塗ってあるのかと思えば、それはまゆが見慣れたもの。



「……糸?」



なんだか嫌な予感がして、ドアを力いっぱい開きます。



「わっ、あ……君は」



すると目の前には、まゆをスカウトしてくれた男の人。



だけどその男の人の小指。



あの時は、1本だったはずの糸が。



今は無数に枝分かれして、本数も数えられないほど巻きついています。



「……」



唖然とするまゆを男の人は事務所の中のソファに座らせてくれましたが、まゆとしてはそれどころじゃありません。



こんな人、まゆは始めて見ました。



何本も絡んでいる人は見たことがありました。



でも、この数と、それぞれの太さは……



……やっぱ神様、嫌いです。

「ん?どうかした?」



じっと彼の右手を見ていると、不意に声をかけられて少しドキっとしました。



けど、私はすぐに頭の中を切り替えます。



こんなにライバルがいるんですから、第一印象で負けちゃいけませんよね。



「えっと……まず、君の名前は……」



「まゆです。佐久間、まゆ」





「まゆは……Pさんに、プロデュースしてもらうために、来たんですよぉ。これって……なんだか運命、感じませんか?」



おわり



08:30│佐久間まゆ 
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