2015年09月21日

永吉昴「五月の花嫁」

二年ぶり、くらいか。

 幼馴染といっても、距離が近ければ近いほど顔を合わせる機会がないもので。

 俺と彼女、永吉昴ももう長いこと会っていなかった。



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 雨が窓を叩く音だけが薄暗い店内に響いていた。

 彼女こと永吉昴は俺の幼馴染だ。

 とはいっても、もう長いこと会っていない。こうして二人きりで会うのは本当に数年ぶりだった。



 「お待たせっ」

 「自分から呼び出しておいて遅れるなよなー」

 「ごめんごめん。打ち合わせ長引いちゃって」



 そして、彼女は唐突にやってきた。

 数年ぶりに見た彼女は、俺の記憶にある永吉昴よりも女の子らしくなっていた。

 「まーいいよ。で、話ってなんだよ」



 呼び出したのは昴だ。めんどくさそうな話は早めに済ませたい。

 腹を括るため、頼んだウイスキーのロックを一気に口に含み。



 「あー……うん。あのさ。オレ、今度結婚することになったんだ」

 「……は?」



 思わず、吹き出しそうになってしまった。

 昴が? あの永吉昴が? 男と混ざって平気で野球をやってたあの永吉昴が? 結婚、か……そうだよな。お前も俺ももう28歳だもんな。



 「結婚……か。おめでと。まさかお前に先をこされるなんて思ってなかった」

 「へへっ。さんきゅ……正直言うとな。オレだってまだまだ実感わいてねえよ」





 ……そうだろうなあ。お前、本当にここ数年浮いた話なかったもんなあ。

 「というか、わざわざこれをいうためだけに呼び出したのか?」

 「ああ。ごめんな、無理言って……お前には、直接教えたかったからさ」

 「いや、いいよ」



 俺だって、メールや電話なんかで知りたくなかった。

 そういうまっすぐなところは昔から変わんないんだよな。



 「相手はどんな人?」

 「んー。仕事で知り合った人、かな。すごい優しくてさ……ほんと、オレなんかにはもったいないよ」

 「……んなことねえよ。お前がお前だからその人もお前を好きになったんじゃねえの?」

 「……っはは。変わんないな、お前」



 いつもどおりのやり取り。ああ、そうだ、そうだった。

 昔の俺は、何よりも昴との会話を楽しみにしていた。

「昴も変わんないよ……その人がおまえを好きになったのもわかるよ」



 何をするにも一緒で、あまりにも距離が近くて。

 その分、その関係が壊れるのが嫌で言い出せずにいた言葉があった。

 もはや俺と昴は家族の次に長い時間を過ごした関係で、おそらく俺が彼女とどうこうなることはないだろう。

 だから、俺は彼女を好きでいられるのだ。

 長い間共にすごした親友として。家族のような存在として。



 「……そっかあ……恥ずかしい話するとさ。オレ、いつかはお前と結婚するんじゃないなあって思ってたよ」



 ……俺もだよ。小学校くらいの時は本気でそう思ってたし、今よりもっとまっすぐにお前のことが好きだった。

 「やめとけやめとけ……旦那さん。大事にしてやれよ」

 「当たり前だろ? でもあれだな。お前も早く彼女出来るといいな!」

 「うるせえ」



 お前以上にいい女なんてそうそう見つかる気しねえよ、と言いかけて口を閉じる。これは、俺が墓場まで持っていくべきセリフだ。



 「お前絶対披露宴呼べよな。そっから相手見つけてやる」

 「うわあ……本気だよこいつ……ま、お前ならなんとかなるよ」

 「そっかね……お前、旦那さんは優しくてーって言ってたけどお前もたいがいだよな」



 何気なく、本当に他意なくこぼした言葉。

 そんな呟きに。



 「そらそうだよ! だってお前は気付いた時からずっと一緒でさ……家族、みたいなもんだからさ。オレ今すっごい幸せだからさ。お前にも幸せになって欲しいよ」



 昴は、俺の一番欲しい言葉をくれるのだった。



おわり



08:30│永吉昴 
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