2014年04月03日

みく「みくの中の女」

・少しだけえろあり



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あの人のことが好き。どうしようもなく、好き。

どこが、と聞かれたら困ってしまう。だって、全部なんだから。





みく「……すき」



ぽつりと。誰にも聞かれないくらい小さな声で、こうやって時々こぼさないといけない。

そうしないと、いつか想いが溢れてしまうから。溢れてしまえば、あの人を困らせてしまう。

あの人の迷惑になってしまう。



あの人を、困らせたくない。

胸の奥に想いをしまいこんで、気づかれないように、見つからないように、気丈に明るくふるまう。



でも、それだって限界はある。あの人の顔をみるたびに、顔があつく火照る。

話しかけられるたびに、うれしさが、しあわせが、みくの中の想いの器に注がれていくのだ。

P「どうした、みく?」



みく「な、なんでもないにゃ!」



ほら、気づかれそうになった。危ない危ない。でも、その危うさにみくは快感さえ覚えている。

おへその下あたりがきゅんきゅんと疼いている。

恋のドキドキ。気づいてほしい、とみくの中の女が叫んでいるのだ。



P「それならいいが、体調には気をつけろよ?」



大事な体なんだから、と彼は続けた。

くらくらする。倒れてしまいそう。自分の体のことを気遣われただけで、こんなにしあわせ。

自分が少女マンガの主人公にでもなってしまったようだ。彼が王子様で、みくがヒロイン。

陳腐で使い古されたかもしれないけれど、あこがれる夢。



それじゃあな、と彼は手を振りながら出かけていった、たぶん、別のアイドルを迎えにいくんだろう。



みくのことだけ、見てくれたらいいのに。



無理なのは分かっているけれど。

ソファーに深く体を埋めて、ぼんやりと天井を見る。かたかたとキーボードの音。

ちひろさんが淡々と事務仕事を消化しているのだろう。



秒針の音も聞こえる。レッスンまではかなり時間があった。

でも、少しでも長くあの人の顔を見たくて、こんなに早く来てしまった。最近はいつもそう。



みく「……にゃー」



想いをはせる。こんなに人を好きになったことはなかった。15年生きてきて、一度も無い。

もちろん、好きな人が出来たことはある。学校の同級生や、先輩。

しかし、それは愛というよりは、憧れに近いものだった。事実、すでに彼らには恋人がいると聞いても、たいして傷つきはしなかった。





でも、今のこの想いはちがう。あの人の全てが愛しい。恋しい。





あの人のためなら、自分の大切なもの全てを差し出してもいいと思えるほど。

――みくの体でさえも。

ひやり。冷たい感触がした。もしや、と思う。

弾みをつけてソファーから体を起こした。



ちひろ「みくちゃん、どうしたの?」



みく「ちょっとお花摘みにいってくるにゃー」



トイレの便座に座って、下着を下ろした。

ちゅく、と小さな水音。やはり、濡れていた。



あの人のことを考えただけでこんな風になってしまうほど、みく溺れているのだ。そう思った。

みくも気づかないところで、だんだんと想いが形になって溢れているのかも、とも。



気づいたら、手が伸びていた。ちゅく、ちゅくと指でさわる。ダメだ、と思ってもやめられない。

みくは自らの指を、あの人の指に重ねて感じていた。

秘裂を指でなぞり、肉芽を爪でこする。びりびりと電撃に似た衝撃が襲った。





きもちいい。

みく「……にゃ……ふ……」



唇を噛み、声を漏らさないように。分かっている。事務所のトイレでするなんて、とんだ発情猫だ。

こんなところ、ファンには絶対に見せられない。それに、こんなことを知られたら、あの人にも引かれてしまうだろう。

でも、ダメだ。みくの中の女が、指を動かし続けろと命じてくる。



みく「はふ……にゃ……ッ」



快感の波が押し寄せて、みくはさらに指をはやくする。ちゅく、ぢゅく、くちゃりと、狭い個室に水音が響く。

この指はあの人のもの。あの人が、みくを見つめていじっているのだ。

目を閉じると、その妄想はより輪郭を濃くして、みくの感情をさらに昂ぶらせた。



みく「ふにゃ……ッ」



びくん、と全身が震えてみくは達した。熱い吐息が口から零れる。

快感の余韻に浸りながら、からからとトイレットペーパーを取り出して丁寧に拭く。





少し、長すぎるトイレになってしまったかもしれない。

ちひろ「お帰りなさい。顔が赤いけれど、どうしたの?」



みく「にゃっ!? な、なんでもないにゃ〜♪」



あわてて取り繕う。笑顔がひきつっていたかもしれない。ちひろチャンは眉をひそめ、訝しげにみくを見ていた。



ちひろ「……最近、みくちゃんの様子がおかしいのは知ってますよ。何でも相談に乗るから、言ってみて?」



ぎくり、と背中に冷たいものが流れた。言い訳をしようと口を開くが、声がかすれて出ない。

思わず伸ばした右手も、やり場を失ってにぎにぎとしている。

人間、咄嗟に何かを言おうとしても出ないものなのかと、半ば他人事のように感じていた。



もう言うしかない。このまま決壊ギリギリの想いを抱えていては、いつかボロが出るだろうとは考えていた。

ジュースでいっぱいのコップの中にさらに注ごうとするようなものだ。誰も飲んでくれないのに注いでしまえば、一気にこぼれてしまう。



そうすれば遅かれ早かれ、あの人には気づかれてしまうから。

だったらせめて、あの人にバレる前に相談しよう。そうして、コップの容積を広げよう。



心に決めた。

みく「実は、にゃ」



そこで一呼吸置いて、心に溜めておいたあの人への想いを、一気にちひろチャンに吐き出していった。

どうしようもなくあの人のことが好きなこと。

みくの中の女が、みくに囁いてくること。





――みくの全てを差し出してもいいということ。





さすがにさっきの自慰のことは言わなかったけれど、ちひろチャンは笑いもせず、真剣なまなざしでみくの言葉を受け止めてくれていた。15歳の女の子の戯言だと、相手にしなくてもよかったのに、本当に真剣に聞いてくれた。





みく「だから、隠さないといけなかったにゃ。みくは、みくはあの人を困らせたくない。あの人が、Pチャンのことがすきだから。



だから、だからね……」





そこから先は続ける事ができなかった。涙がとめどなく流れる。手で顔を覆っても、隙間からぽたぽたと零れるのだ。涙は頬を伝って、みくの服を濡らしていく。



ちひろチャンは何もいわず席をたって、みくの頭を優しく撫でてくれた。

温かくて、優しくて、余計に涙が溢れ出る。ああ、この涙もPチャンへの想いなのだ、となんとなく思った。

みくがおちつくのを待って、ちひろチャンは優しく笑いかけてくれた。



ちひろ「みくちゃんは、本当にプロデューサーさんのことが好きなのね」



みく「すき、すきにゃ……。だから、だから迷惑になるとおもって――」



ちひろ「それはちがうわ」



え? 思わず聞き返した。

ちひろチャンはおかしそうにくすりと笑うと、もう一度同じ言葉をくりかえす。



ちひろ「プロデューサーさんが、みくちゃんの気持ちを迷惑なんて思うはずない」



みく「でも、Pチャンは他の子もプロデュースしてるにゃ。もしみくが気持ちをこぼしたら、Pチャンはどう断るか悩んじゃう。



……Pちゃんは優しいから、みくを傷つけない答えを返そうと考えるにちがいないにゃ。忙しいPチャンに悩み事をつくることになったら、みく、嫌にゃ……。」



ちひろ「あら、どうして断られると思っているんですか?」





ちひろチャンは笑顔で続ける。



ちひろ「プロデューサーさんはきっと受け入れてくれるはず」



みく「どうして……」





ちひろ「だってプロデューサーさん、いっつもみくちゃんのこと気にかけていますから。



『みくは今日大丈夫ですか?』『みくは元気そうですか?』みく、みく、みくーっていっつも。」





ちひろチャンは窓の外に広がる青空を眩しそうに見ていた。



――今まで考えないようにしていた、Pチャンが自分を受け入れてくれるという可能性。

少しだけ希望を持ちそうになるが、ふるふると首をふってそれを追いやる。



みく「でも、でも、みくはアイドルだから……」



ちひろ「そんなの関係ないわ。ファンにバレなきゃいいのよ、バレなきゃ。今度あったとき、想いを伝えてみたら?」



みく「想いを……」



いざとなってもその方面は黙らせればいいし、と黒い顔でぼそりと呟いていたのは聞かなかったことにする。

―――

――





レッスンはハードだ。

体を動かしながら歌を歌うというのは、思っている以上に難しいものだ。音程とステップ、つま先から指先まで気を配らなくてはいけない。

小気味よく流れる音楽にのせて、ステップし、ターンし、ポーズを決める。





ふと、ちひろチャンが言っていたことが頭にうかんだ。Pチャンに、告白する。考えるだけで沸騰してしまいそうだ。



Pチャンに告白したら、みくは……。



そのときがくり、とバランスが崩れた。ステップするときに踏み違えたのだ。足を締め付けるような鈍い痛みを感じ、床にへたりこんでしまう。



トレーナー「だ、だいじょうぶ!?」

音楽を止めて、あわててトレーナーさんが駆けつけてきた。だいじょうぶにゃ、と返して立ち上がろうとするが、足の痛みが邪魔する。

無理に動かないように、とみくを止めて、トレーナーさんはみくの足首を診てくれた。ぐるぐると足首を動かして確認しているらしい。





トレーナー「よかった、どうやら折れてはいないようですね。念のため病院に行ったほうがいいかもしれません。今日のレッスンは中止しましょうね」



みく「ごめんなさいにゃ……」



トレーナー「しょうがありませんよ。とにかくあまり動かさないようにして。今プロデューサーさんをお呼びしますから」





ああ、迷惑をかけてしまった。しかし同時に、Pチャンに会えるという喜びがふつふつと沸く。

我儘なのはわかっている。けれど、みくの本能が、みくの中の女が喜んでいるのを感じていた。

P「みくは大丈夫ですか!?」



あわてた顔で、Pチャンは勢いよく入ってきた。

外は肌寒いというのに、額には玉のような汗がうかんでいる。よほど急いで来たらしい。



みく「ごめんねPチャン、忙しいのに……」



P「そんなこと気にしなくていいさ。それより、大丈夫か?」



みく「だいじょうぶにゃー」



足は大丈夫だった。それよりも痛いのは、心。

Pチャンが目の前にいて、みくのことを思ってくれているという喜びと申し訳なさが、みくの心の中で渦巻いていた。

相反する二つの感情はみくを静かに掻き乱す。





P「そうか、それはよかった。では、すみませんが今日は失礼しますね」



トレーナー「ええ、お大事になさってくださいね」



歩きづらいだろうから、とPチャンはみくをおんぶしてくれた。少し恥ずかしい。

広い背中に手をかけると、Pチャンはゆっくりと立ち上がった。いつもと違って高い視界。



体を預けると、Pチャンの匂いがみくの鼻腔をくすぐった。

その汗のにおいはみくにとって不快ではなかった。

むしろ心地よかった。マタタビに酔いしれる猫のように、Pチャンの香りに酔いしれている。



ぴっとりと、Pチャンにくっついた。そのほうがぬくもりと、匂いを感じられるからだ。

Pチャンの体がぴくりと動いた気がした。





みく「本当にごめんね?」



P「何度もあやまらなくていいさ。今日の失敗を次に生かしていけばいい」



どこまでも優しいPチャン。それが狂おしいほどに愛しい。

みくの中の想いの器に、うれしさが、しあわせが、どんどん注がれていく。





みく「でも、みくは駄目な猫にゃ。迷惑な猫にゃ……」



P「みくは駄目でも、迷惑でもないよ。誰にだって失敗はある。みくは良く頑張ってるじゃないか。俺はちゃんと見てるぞ」





ああ、こんなこと言われてしまったら、もう後戻りできなくなってしまう。

ほめられただけでこんなに嬉しくなるなんて。

顔が熱く火照る。

ドキドキする。おへそのしたが、きゅんっと切なくなる。



やっぱりみくはPチャンのことが大好きだ。もう迷いは消えていた。

我慢もしない。ちひろチャンの言うとおりにしてみるんだ。







告白、しよう。

事務所に戻ると、事情を聞いていたのか心配そうにちひろチャンが近づいてきた。

大丈夫にゃ、それより……。

みくがそう切り出すと、ちひろチャンは訳知り顔でうなずく。



ちひろ「ちょーっと備品を買いに出かけてきますねっ! プロデューサーさん、少し留守をお願いします!」



P「え? ええ、わかりました……」



がんばってね、と言い残し、ちひろチャンは事務所から出て行った。

ドアがしまると、事務所はふたりきり。お互いの呼吸の音と、みくの鼓動の音しか聞こえない。恋のドキドキと緊張のドキドキ。



前髪をととのえて、胸に手を当てて、ゆっくり息をした。



さあ告白しよう、と簡単に決めてしまっても、恥ずかしさでそう簡単には言えない。

いままで溜めて、我慢してきた想いならなおさらだ。

心臓が早鐘を打っている。口の中が乾く。







でも。ここで言わなければ。



ここで言わなければ、みくは一生後悔するから。勇気を出して言葉をつむいでいく。







みく「あのね、Pチャンに言いたいことがあるの」





覚悟は決まった。どんな結果になろうと、もう後悔はしない。

すう、と清らかな空気を吸う。



そして、







みく「みくは、Pチャンのことが――」







「最近みく、肌つやいいよねー。何してるの?」



「何してるというか、ナニしてるというか」



「え?」



「ううん、なんでもないにゃ! 毎日笑顔で、毎日幸せな気持ちだからかもにゃー!」



「ふーん……」







「みくー、そろそろ仕事いくぞー!」



「わかったにゃー!」



「今日も期待してるからな」



「もちろんにゃ!ばっちりきめてくるにゃー!」



「おう、頑張れよ」



「ねえ、Pチャン、こっち来て? ん〜っ、すりすりにゃ♪」



「Pチャン、大好きにゃあ!」









おわり



23:30│前川みく 
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