2015年11月20日

みく「猫チャンの言葉と気持ちがわかったら」

みく「ねぇねぇ」



みく「もしも、猫チャン達の気持ちがわかったらどう思う?」



みく「表情や鳴き声でなんとなくわかる……ってことじゃなくて」





みく「喜んでいるとか、悲しんでいるとか、感情がはっきり伝わってきたらってことにゃ」



みく「きっと、今まで以上に猫チャンのことが大好きになると思うにゃ」



みく「猫チャンが嬉しい気持ちでいっぱいなら、自分も嬉しくなるだろうし」



みく「猫チャンが悲しい気持ちになったら、となりで撫でてあげられるもの」



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みく「あとはね……そう、お話」



みく「猫チャンと会話ができたとしたら、どうかな?」



みく「人間同士で話すみたいに、いろんなことを話せたら絶対に楽しいにゃ!」



みく「好きな食べ物、お気に入りのお昼寝場所、よくお世話してくれる人……」



みく「猫チャンだけが知っている、猫チャンらしいお話」



みく「高い高い人間の目線とは違う、低い低い猫チャンの目線から見た世界のこと」



みく「みくはとっても気になるにゃ♪」

みく「……猫チャンって気まぐれでしょ?」



みく「自由で気ままで何も考えていないって、みんな思っているけど」



みく「それは、違うと思うの」



みく「人間と同じように相手を気遣ったり、空気を読んだりしていて……」



みく「あと、内緒事や秘密も持っているにゃ!」



みく「人間には、それが伝わっていないだけで」



みく「きっと……」





――――――――――



――――――――



――――――



――――

猫「ニャー」



雪美「その時……どうしたの……?」



猫「ニャー」



雪美「へぇ……」



猫「ニャー」



雪美「今度……私も……会ってみたい……」



猫「ニャー」



雪美「……ふふ」

みく「んー♪ 今回のにゃん・にゃん・にゃんの新曲、最高にゃ♪」



みく「あの曲を作ってくれた作詞家さんと作曲家さんは、絶対に猫チャン大好きな人にゃ!」



みく「振り付けも猫チャンらしい動きになるのかな? 気になるなぁ〜」



みく「ダンスレッスンが楽し……おっ?」



みく「あそこの空き地にいるの、雪美チャン……?」



みく「何しているんだろう」

猫「ニャー」



雪美「うん……うん……」



みく「ゆーきーみーチャン♪」



雪美「あっ……」



みく「こんにちは」



雪美「みく……こんにちは……。お仕事の……帰り……?」



みく「今日はにゃん・にゃん・にゃんの新曲の打ち合わせにゃ」



みく「もらった歌詞を見て曲を聞いただけだから、歌もダンスもまだだけど、良い曲だから期待していてほしいにゃ!」



雪美「楽しみ……」

みく「雪美チャンはここで何していたの?」



雪美「お話……」



みく「お話?」



雪美「この子と……お話……」



猫「ニャー」



みく「あれ、カワイイ猫チャンにゃ! 首のところ撫でてあげるにゃー♪」



猫「ニャーオ♪」

みく「んふふふ、いい子いい子。近くの家で飼っている猫チャンなの?」



雪美「ううん……野良……」



みく「野良? こんなに人懐っこいのに?」



雪美「人間が……好きな……野良も……いる……。人それぞれ……猫それぞれ……」



雪美「決めつけ……ダメ……」



みく「ぐうの音も出ないほど正論にゃ……」



みく「そうだよね。雪美チャンの言う通り、いろんな性格の猫チャンもいるよね」



みく「キュートなネコミミアイドルとして、みくもまだまだにゃ」

雪美「みくのこと……この間……この子……教えた……」



みく「そうなんだ。はじめまして、猫チャン」



雪美「あのね……この人……前に……言った……」



猫「ニャー」



雪美「そう……面白い……猫の人……」



みく「雑! 紹介が雑!」



雪美「あと……こんな感じに……ツッコミ魔神……」



みく「誰がやねん!」

みく「……はっ!? いけないいけない」



みく「みくは猫チャンアイドルなんだから、ナニワの血をむやみに目覚めさせないでほしいにゃ」



雪美「でぃーえぬえー……刻まれて……いる……」



みく「雪美チャンだって京都出身だから、DNAに刻まれているんじゃないの?」



雪美「そう……どすえ……」



みく「なんか無理やり取って付けた感がハンパないにゃ……」



みく「でもカワイイからよし!」



雪美「にゃー……」



猫「ニャー」

みく「みくはこのまま帰るけど、雪美チャンも早く帰ったほうが良いにゃ」



みく「もう夕方だし、あんまり遅いとお父さんもお母さんも心配するよ?」



雪美「大丈夫……あと……もうちょっと……」



猫「ニャー」



みく「遅く帰ったらきっとペロチャンも心配するにゃ」



みく「雪美チャンまだかな〜……遅いなぁ〜……って。玄関でニャーニャー鳴いちゃうかも!」



雪美「それなら……帰る……」

雪美「ペロが……悲しくなる……それは……ダメ……」



雪美「だから……帰る……」



みく「雪美チャンは本当にペロチャンのことが大好きなんだにゃあ」



雪美「うん……大好き……」



雪美「みく……1番……好きなもの……何……?」



みく「みくが好きなのは、もちろん猫チャン! でも、特に好きなのは……今カバンに入れてあるんだけど、これかにゃ?」



雪美「それ……いつも着けてる……ネコミミ……?」



みく「そうにゃ。この白いネコミミが大好きなんだにゃ!」

雪美「耳が……好きなの……? 本物……じゃなくて……」



みく「もちろん本物の猫チャンだって大好きだけど、これはそれとは別枠で好きなのにゃ」



雪美「つまり……」



みく「猫チャンに関わるものは、全部大好き♪」



みく「雪美チャンもそうだよね?」



雪美「うん……ペロも……好き……だけど……他の猫も……好き……」



猫「ニャー」



雪美「この子も……好き……」



みく「この子が羨ましいにゃあ。雪美チャンにこんなに可愛がってもらえて」



雪美「ふふっ……」

猫「ニャー」



雪美「今日は……もう帰るから……」



猫「ニャー……」



みく「ごめんね、猫チャン。みく達はお家に帰らなくちゃいけないにゃ」



雪美「明日も……来るから……」



みく「じゃあ、途中まで一緒に帰ろうか」



雪美「ちょっと……待って……」



みく「うん?」



雪美「手……繋ぐ……」

みく「手を繋ぎたいの? わかったにゃ。はい」



雪美「ん……♪」



みく「雪美チャンの手は温かいにゃあ」



雪美「みくの……手も……あったかい……」



みく「ありがとう♪」



みく「猫チャーン。バイバイにゃー」



雪美「それじゃ……バイバイ……」













(うん。バイバイ)

みく「――えっ」



みく「え、あ……え?」



雪美「どうしたの……?」



みく「ゆ、雪美チャン、何か言った?」



雪美「バイバイって……言った……」



みく「あぁ、うん……そうだよね。そうだよね! あはは、ごめんにゃ!」



雪美「ふふ……みく……変なの……」



みく「変とかひどいにゃ! もー!」

みく (違う。今のは雪美チャンの声じゃなかった)



みく (だったら、誰がバイバイって言ったんだろう?)



みく (この空き地には、みくと、雪美チャンと……)



みく (あとは猫チャンしか……)



みく (まさか、猫チャンが?)



みく (いやいやいや。みくは何を考えているにゃ。猫チャンはニャーとしか鳴かないんだから、人間の言葉はしゃべらないにゃ)



みく (しゃべらないにゃ……)



数日後 事務所





雪美「……耳は……もうちょっと……とがって……いたかも」



雪美「目は……これくらい……」



みく「お疲れ様ですにゃー」



雪美「お疲れ様……」



みく「あっ、こんにちは雪美チャン! 今日はレッスン?」



雪美「そう……発声の……。さっき……終わって……今……空き時間……」



雪美「やっぱり……苦手……あんまり……大きな声……」



みく「トレーナーさん達に注意される?」



雪美「もっと……大きい声で……とか……」

みく「苦手なものは、がんばろうって気持ちがあるなら、いずれできるようになるにゃ!」



雪美「本当に……何でも……?」



みく「もちろん!」



雪美「でも……みく……お魚……キライなまま……」



みく「うぐぁっ!」



みく「み、みくは、あの……あれにゃ! がんばってはいるんだけど、結果に伴っていない……的な?」



雪美「みく……」



みく「はい」



雪美「がんば……」



みく「がんばります……」

みく「今気づいたんだけど、雪美ちゃんが持っているのは……スケッチブック?」



雪美「うん……空き時間で……絵を……描いてた……」



雪美「何に……見える……?」



みく「んーと、これは……わかった! あの空き地にいた猫チャンだよね?」



雪美「おぉー……」



みく「みくは猫チャンに関しては意外と細かいところまでチェックしているんだにゃ♪」



みく「あの子は、耳がピンとしているのが特徴的だったにゃ」



雪美「みく……すごい……!」

みく「雪美チャンの絵が上手だからわかったんだにゃ」



雪美「上手……なんて……そんな……」



みく「本当だよ! 雪美チャンには才能があるにゃ!」



雪美「それほどでも……ない……いや……ある……」



みく「あるんかーい! ……はっ!?」



みく「だーかーらぁ! むやみに大阪の血を掘り起こしちゃダメなのにゃあ!!」



雪美「ふふっ……」

拓海「おっ、猫キャラ2人じゃん。うーっす」



雪美「こんにちは……たくにゃん……」



拓海「あ?」



みく「たくみチャ……たくにゃん!!」



拓海「待て。ちょっと、待て」



みく「どうしたんだにゃ、たくにゃん?」

拓海「雪美は、まぁ良い。別に良い」



拓海「お前わざわざ言い直したよなッ!?」



みく「雪美チャンが言った『たくにゃん』のほうが猫キャラみたいでカワイイ響きに聞こえたからだにゃ♪」



雪美「たくにゃん……カワイイ……」



拓海「アタシは猫キャラじゃねーぞ」



みく「でも、前にライオン風の衣装を着ていたにゃ」



雪美「仲間……」



拓海「ネコ科ってつながりだけじゃねーか! 猫キャラの範囲デカすぎだろ!」

みく「でもでも、たくにゃんにも猫チャンを愛する猫キャラたる資格があるにゃ!」



拓海「たくにゃんじゃねーっつうの……何だよ資格って」



雪美「飼ってる……猫……」



拓海「あぁ、アイツのことか」



みく「最近はどう? 元気?」



拓海「アイツなら超元気だよ。どうした、最近話題に出さないから死んだと思ったか?」



みく「そんな縁起でもないこと思わないにゃ……」

拓海「ことあるごとに写真を撮ってるから、携帯には画像がわんさかあるぞ」



拓海「ほら、これが昨日の」



みく「わぁっ……ひざの上で寝てる! カワイイ!」



雪美「気持ち……良さそう……」



拓海「まぁ、こうやって写真に残すのはほとんど姐御のためでもあるけどな」



みく「姐御って、留美さん?」



拓海「ああ。あの人、猫大好きなのに猫アレルギーだろ?」



拓海「自分で触れない分、せめて写真だけでもと思ってさ」



拓海「こいつの写真を見せたり、近況を教えるとすげぇ喜んでくれるんだ」

雪美「まだ……いっぱい……あるの……?」



拓海「あるぞ。アタシも撮影してて楽しいもんだから、とにかく撮っちまってな!」



拓海「そのうち現像してアルバムでも作ってみるか」



みく「それは良いにゃ! アルバムにすれば留美さんもいつでも猫チャンを見られるし!」



拓海「だろう? それに、思い出は形にして残しておきたいからな」



雪美「私も……ほしい……アルバム……」



みく「みくも欲しいにゃー」



拓海「しょうがねぇな。作ったら渡すから、それまで待ってな」



雪美「やった……」

拓海「しかし……猫を拾ったことが資格なのか? 別にたいしたことじゃないだろ」



拓海「雨の中、猫がダンボールに入れられて路上に放置されていたらどうよ?」



拓海「それも子猫……子猫なんだ。自力で生きられるかどうかも怪しいくらい小さい猫」



拓海「助けるさ。当たり前だ」



雪美「うん……」



拓海「意外か?」



雪美「全然……。だって……たくにゃん……優しいから……」



拓海「誉め過ぎだよ。アタシは……ただ、生きてほしかっただけだ」



拓海「無視すればこの子は死ぬかもしれない。そんな状況が目の前にあって、素通りできるほどアタシは非情じゃないさ」

みく「うん。雪美チャンの言う通りにゃ」



みく「猫チャンのことを思って、そうやって即断で行動できて……」



みく「留美さんのために猫チャンの写真を撮って見せてあげているんだもん」



みく「その優しさが良いところにゃ、たくみチャンの! あっ、違う、たくにゃんの!」



拓海「言い直すなって!」



雪美「ナイス……ツッコミ……」



拓海「疲れてきた……」

みく「たくにゃんも見る? 雪美チャンの絵!」



拓海「たくにゃんって言うなっつーの。何を描いてたんだ?」



みく「猫チャンを描いてるんだにゃ♪」



拓海「猫か。アタシも見ちゃって良いのか?」



雪美「まだ……完成して……いない……いろんな人に……見せるの……恥ずかしい……」



雪美「でも……ちょっとなら……」



拓海「そうかい。ありがとうな」

拓海「どれどれ……おぉ、上手いじゃん!」



雪美「ふふ……」



拓海「丸っこさとか、穏やかそうな雰囲気とか、猫の特徴がよく出てる」



みく「そうでしょ? そうでしょ!」



拓海「お前が描いたわけじゃないだろ?」



みく「そうだけど、猫チャンのことなら自分のことみたいに嬉しいにゃ! それが猫キャラなのにゃ!」



拓海「猫キャラってのは、なんつーかすげぇな……」

拓海「この子はモデルがいるのか?」



雪美「うん……いる……。結構前……仲良くなった……猫……モデル……」



みく「この間、みくも会ってきたんだにゃ。その子に」



拓海「アタシも会ってみたいなぁ。で、そいつの写真を撮って姐御に見せる」



雪美「写真は……ダメ……」



拓海「ダメなのか?」



雪美「カメラの……カシャッて音とか……フラッシュの……光も……嫌なんだって……言ってた……」



拓海「んん? 言ってた……?」



雪美「うん……だから……絵に……描いてる……」



拓海「はぁ、そうか」



みく (言ってた、ってどういうことだろう……?)

拓海「何にせよ、機会があったら会わせてくれよな!」



雪美「伝えて……おく……約束……」



みく「カワイイ子だから、一目見てすぐに気に入ると思うにゃ♪」



拓海「ははは。姐御に話したらアレルギーが発生しても構わず会いに行きそうだな」



拓海「んじゃ、アタシはレッスンがあるから。そいつによろしくなー」



雪美「わかった……」



みく「レッスンがんばってにゃー、たくにゃん」



拓海「たくにゃんじゃねえ!!」

みく「みくもレッスンがあるから行くにゃ」



雪美「がんば……」



みく「うん♪」



みく「そうだ、雪美チャン?」



雪美「なあに……?」



みく「さっきの、カメラが嫌だって“言ってた”ことについてなんだけど……」



みく「……いや、やっぱりいいにゃ! じゃあね雪美チャン!」



雪美「……?」

みく (雪美チャンが“言ってた”って聞いて、つい空き地で聞こえた声を思い出しちゃった)



みく (もしかして、雪美チャンは猫チャンとお話が……?)



みく (いや、やっぱりそんなことは無理だよ。人間と動物でお互いに会話するなんて)



みく (でも……じゃあ、あの声は……)



みく (仮に雪美チャンがお話できるとして、あの声が猫チャンだったら……)



みく (どうして、みくはそれを聞くことができたんだろう)



みく「……今はレッスンに行くのが最優先にゃ」



レッスンルーム





みく「失礼しまーす」



アーニャ「プリヴィェート、ミク。こんにちは」



みく「あーにゃん、おはよう!」



のあ「おはよう、みく」



みく「のあにゃんもおはようにゃ!」



ベテトレ「遅いぞ前川。遅刻だ」



みく「えっ、まだ集合予定より10分以上早いのに!?」



ベテトレ「冗談だ。これくらい前に到着すれば問題無いさ」



みく「ほっ……」

ベテトレ「どちらかといえば、例外的にその2人が早いだけとも言えるな」



みく「何時に来たにゃ?」



アーニャ「今よりも、10分くらい前ですね」



のあ「……1時間前よ」



みく「早っ! のあにゃん早すぎ!」



のあ「早く来れば、他の子の練習風景が見られる。直接関係は無いけれど……その歌い方や踊り方は、私を構成する要素となるわ……」



ベテトレ「聞いたか前川? 高峯はずいぶんと勉強熱心みたいだぞ」



みく「むむむっ、みくだって負けていられないにゃ! がんばろうね、あーにゃん!」



アーニャ「カニェーシナ! がんばります!」

ベテトレ「今回の新曲の振り付けでは、共通の動きの他に3人それぞれの個性を取り入れた動きも混ぜてみようと思う」



のあ「ほう……」



アーニャ「個性、ですか?」



みく「じゃあ、例えばみくはキュートな猫チャンのダンスってことかにゃ!?」



ベテトレ「そうなるな」



みく「本当に!? 楽しみだにゃ〜♪」



アーニャ「良かったですね、ミク♪」



のあ「みくがカワイイダンスなら……私達は?」

ベテトレ「もちろん2人にも同じく個性を活かした振り付けをしてもらう」



ベテトレ「高峯の振り付けは、時に静か。時に激しく」



のあ「……緩急をつけた動き、ということね」



ベテトレ「そうだ」



アーニャ「静かで激しく。トルードヌィ……アー、難しそうですね、ノア?」



みく「大丈夫だよ、あーにゃん。のあにゃんなら何でもこなせるにゃ!」



のあ「……ええ。期待があるからこそ任される。これくらいできなければ……意味が無い」



ベテトレ「難しく考えるな。前川の言う通りお前ならできるさ」

アーニャ「私は、どんなダンスですか?」



ベテトレ「アナスタシアはしなやかで優艶、高貴な猫のようにゆったりと」



アーニャ「ユウ……エン……?」



のあ「ブラガロードヌィ」



アーニャ「あぁ、わかりました! 上品な感じですね♪」



みく「なんでのあにゃんロシア語話せるのにゃ……」



のあ「……アーニャが言葉の壁に遮られた際、身近で助けるためよ」



のあ「例えば、今のように……」

アーニャ「ダー。ノアには、よく助けられています」



のあ「……ユニットメンバーであり、友でもある。ならば手を貸すのも理の当然」



みく「な、なんか知らない間にあーにゃんとのあにゃんが親密になってるにゃ!」



みく「みくはロシア語しゃべれないし、蚊帳の外だにゃあ……」



アーニャ「ニェート、それは違います!」



のあ「……みく。貴方は誰よりも猫が好きで、その猫愛が高じて『にゃん・にゃん・にゃん』が形になった」



のあ「蚊帳の外どころか……中心なのよ」



アーニャ「ミクは大切な、仲間です」



みく「あーにゃん……のあにゃん……!!」

みく「というわけで、お互い友達思いのにゃん・にゃん・にゃんです!」



のあ「……にゃん」



アーニャ「にゃー?」



ベテトレ「仲が良いのはわかったが、もう始めて良いか?」



のあ「……準備はできている」



アーニャ「振り付け、がんばりましょう♪」



みく「みくもバッチリ! 今なら猫チャンパワーで何でもできそうにゃ!」



のあ「焼き鮭弁当も食べられる?」



みく「ごめん! 何でもとか気安く言うものじゃないよねっ!」



ベテトレ「はいはい、とにかく始めるぞ」



みく「あーにゃん、のあにゃん。ネコミミの準備にゃ!」

ベテトレ「ワン トゥー スリー フォー。ワン トゥー……」



ベテトレ「アナスタシア! テンポ早いから、もう少し力を抜いて行け!」



アーニャ「ダ、ダー! わかりました!」



ベテトレ「前川! お前はワンテンポ遅れているぞ! 2人の動きをよく掴むんだ!」



みく「すいません!」



ベテトレ「高峯はそのままで良い! ペースを崩さずリズムに乗れ!」



のあ「……わかった」

ベテトレ「よし、一旦休憩だ。次は頭からもう一度やってみよう」



みく「ふへぇ……わ、わかりました……にゃ……」



アーニャ「はぁ、はぁ」



のあ「ふぅ……」



みく「にゃあ〜、何でもできる気がしたけど意外とできなかったにゃ」



アーニャ「ミクの動き、とても激しくて、大変そうです」



のあ「……軽やかで活発な猫の動き」



みく「体はなかなか着いて行かなかったけど、元気な猫チャンの気持ちは出せたにゃ!」

アーニャ「ダー。私も、おしとやかな猫の気持ちで、やりました」



アーニャ「でも、ちょっと動きがずれてしまいました……」



みく「みくもそうにゃ。2人よりもテンポ遅れちゃったし」



みく「のあにゃんは?」



のあ「……猫は気まぐれ。走ったと思えば止まり、擦り寄って来たと思えばそっぽを向く」



のあ「そんな猫の姿をイメージし、みずからもその気持ちになったつもりで動いただけ……」



みく「のあにゃんが言うと、なんかとてつもないことをやってるっぽく聞こえるにゃ」



アーニャ「ノアは、すごいですね!」

のあ「A cat has absolute emotional honesty.」



みく「にゃ?」



アーニャ「パスローヴィツァ……ことわざ、ですか?」



のあ「……アメリカの作家、アーネスト・ミラー・ヘミングウェイの言葉よ」



のあ「意味は……“猫は絶対的な正直さを持っている”といった具合かしら」



のあ「人間と違って、猫は感情も行動も正直ということね」



のあ「かまってほしいから擦り寄って来て、満足したから違うところに意識を向ける……」



のあ「……そんな気持ちになって踊ろうとすれば、おのずとダンスも成功する」

みく「みくも、もっともっと元気ハツラツでカワイイ猫チャンをイメージしてみるにゃ! 気持ちを大事に!」



アーニャ「ミクの振り付けはとってもミールィ、カワイイです♪」



みく「あーにゃんの振り付けも、美しいって言葉がよく似合う感じだったにゃ」



アーニャ「バリショーエ スパスィーバ♪ そう言われると嬉しいです♪」



みく「みく達は、さらに一流の猫キャラユニットに近づいた気がするにゃ!!」



のあ「……貴方は、まず魚嫌いを克服しないと、そもそもスタートラインに立てない気がするけれど」



みく「うにゃあ……」



アーニャ「ミク、がんばりましょう♪」



みく「最近、いろんな人からそれに関してがんばれって言われている気がするにゃ……」

雪美「失礼……します……」



ベテトレ「ん? 佐城か?」



みく「あー、雪美チャンにゃ!」



アーニャ「プリヴィェート、ユキミ!」



雪美「アーニャ……のあ……お疲れ様……」



のあ「……お疲れ様、雪美」



ベテトレ「どうしたんだ、佐城? 今日はボイスレッスンじゃなかったか?」



雪美「見学……したい……」

みく「みく達のレッスンを見たいの?」



雪美「うん……」



ベテトレ「私は構わないぞ。3人の動きを見て、大いに勉強してくれ」



ベテトレ「3人共、しっかりと練習するんだ。先輩として良いお手本になるんだからな」



みく「おまかせにゃ! 雪美チャンにも、みく達のダンスを見せてあげるにゃ♪」



アーニャ「練習をじっくり見られるのは、ちょっとだけ、恥ずかしいですね」



のあ「胸を張るのよ、アーニャ……ステージで観客に向けて踊るのと大差無いわ……」



みく「にゃん・にゃん・にゃん、ファイトだにゃー!」

夕方 帰り道





みく「にゃあぁ……」



雪美「ふふっ……」



みく「あー、雪美チャン今笑ったでしょ?」



雪美「空耳……」



みく「いいや、今の静かでカワイイ笑い方は間違いなく雪美チャンだにゃ」



みく「みくの耳は猫チャン並の精度を誇るから、それくらいすぐにわかっちゃうにゃ!」



雪美「ふふふ……すごいね……」

雪美「みくの……振り付け……良かった……」



みく「みくはあんまり良くなかったにゃ……途中で転ぶし、またテンポ遅れたし」



みく「やっぱり、あれだにゃ。良いところを見せようとして変に気合いを入れるのはダメにゃ!」



雪美「マイペース……」



みく「うん。余計なこと考えないで、自分らしくやるのが1番にゃ」



みく「それはそうと、あの猫チャンのところに行くの?」



雪美「行く……」



みく「みくも一緒に行くにゃ!」

猫「ニャー」



雪美「来たよ……」



みく「猫チャーン、こんにちはー♪ また会ったね♪」



猫「ニャー」



雪美「また会えて……嬉しいって……」



みく「本当? みくも嬉しいよ〜」



猫「ニャー」

雪美「今日……声の練習した……」



猫「ニャー」



雪美「大きい声……出すの……苦手だから……」



猫「ニャー」



みく (こうして見ると、本当に会話しているように見えるなぁ)



雪美「出せるの……? うん……お願い……」



猫「ンニャー!!!」



みく「ふおわっ!?」

みく「何!?」



猫「ニャー」



雪美「大きい声……苦手って……言ったら……お手本……見せて……くれるって……」



みく「お、お手本……?」



雪美「大きな声の……お手本……」



猫「ニャー」



みく「う、うん……」

猫「ニャー」



雪美「よしよし……」



みく「次は、みくも撫でて良い?」



雪美「はい……」



みく「よーしよしよしよし♪」



猫「ニャー♪」



みく「本当にカワイイ猫チャンだにゃあ。そんなに気持ち良さそうだと、みくも嬉しくなってくるにゃ」

雪美「いい子いい子……」



猫「ニャーン」



みく「……あのね、雪美チャン。この間なんだけど、不思議なことがあったんだ」



雪美「不思議……?」



みく「うん。みくが初めてこの子に会った日、帰ろうとしたら声が聞こえたの」



みく「でもね、そのときは雪美チャンとみくと……この子しかいなかったし……」



みく「最初は雪美チャンかな? って思ったけど、何か違う気もして」



みく「あれは……この猫チャンの声だったのかなぁ、とか思って」



雪美「声……」

みく「なーんて☆ そんなことないよね、猫チャンの声はニャーだもん!」



猫「ニャー」



雪美「ふふっ……まあ……そうだね……」



みく「むっ、妙に含みのある返事にゃ。何か知ってたりするの?」



雪美「真実は……闇の中……」



みく「教えてくれないなら、こちょこちょするにゃー! それそれー!」



雪美「……ちょ……あっ……んふ……ふふふ」



猫「ニャー」

雪美「みく……」



みく「なあに?」



雪美「猫と……会話……できたら……何を……話したい……?」



みく「猫チャンと会話かぁ、そうだにゃあ……まず、好物を聞きたいにゃ!



みく「どんなお魚が好きなの? とか。ご飯はカリカリとしっとり、どっちが好き? とか」



みく「あと、野良の子にはお昼寝に使う場所や、そこの寝心地も!」



みく「猫チャンしか知らないようなこと、いっぱい聞いてみたいにゃ♪」

雪美「いっぱい……あるんだね……」



みく「朝までずーっとおしゃべりしちゃうかも」



雪美「猫が……途中で……寝ちゃいそう……」



みく「あはは、ありえるにゃ!」



みく「……だけど、猫チャンとお話できたら、きっと楽しいだろうね」



雪美「……?」



みく「飼っている猫チャンがいたとしたら、その子の気持ちや本音も聞けそうだし」



みく「お話ができたら……1番最初に、そんな身近な子のことを知りたいな」

雪美「悲しそう……」



みく「えっ」



雪美「今……途中から………みく……悲しそう……だった……」



みく「そ、そうかな?」



雪美「何か……あったの……?」



みく「大丈夫、何でもないよ! ごめんね、心配させちゃって」



猫「ニャー」



雪美「この子も……心配そうに……」



みく「雪美チャンも猫チャンもありがとうね。でも、本当に何でも無いにゃ♪」

雪美「魂……繋がっている……」



みく「魂?」



雪美「うん……魂が……」



雪美「みく……私と……同じ……猫好きで……大切な……友達……」



雪美「友達とは……魂で……繋がっているから……」



みく「あーっと、なんだっけそういうの。思い出した! ソウルメイトにゃ!」



雪美「よく……わからないけど……たぶん……そういう感じ……」

猫「ニャー」



雪美「もちろん……この子とも……友達だから……繋がっている……私も……みくも……」



猫「ニャー」



みく「そうだね。みくと猫チャンも、お友達だにゃ」



猫「ニャー」



雪美「よろしく……だって……」



みく「えへへ、よろしくにゃ♪」



猫「ニャー!」

雪美「そろそろ……」



みく「そうだね。そろそろ帰ろっか」



雪美「うん……。手……繋いで………」



みく「オッケーにゃ。はい♪」



雪美「……♪」



みく (この間も、こんな感じで。それで……)



みく「猫チャン、また来るにゃー」



雪美「バイバイ……」













(また来てね)



みく「――っ!」



みく (聞こえた、今日も!)



みく (みく達と猫チャンしかいないのに……)



みく (やっぱり……いや、いくらなんでもそんなのファンタジーにゃ。ありえないにゃ)



雪美「みく……また……難しい顔……してる……」



みく「ん!? レ、レッスンの疲れが顔に出ちゃってたかもしれないにゃ! あはは」



雪美「ゆっくり……休んで……」



みく「そうだにゃあ。お風呂入ってぐっすり眠って、疲れを取らないと! 雪美チャンもね!」



雪美「うん……休む……」



数日後 事務所 (レッスンルーム)





みく「おはようございますにゃー♪」



みく「ふっふっふ、のあにゃんの発言に便乗して1時間前に来てみたにゃ!」



みく「トップアイドルを目指すには、他の子からも色々と学ばないと」



みく「みくは、そしてにゃん・にゃん・にゃんは一流の猫チャンアイドルになるのにゃ!!」



みく「……で、どうしてレッスンルームに誰もいないんだろう?」



みく「おかしいなぁ……」

ベテトレ「前川? レッスンルームなんか覗いて何しているんだ?」



みく「あっ、お疲れ様です!」



ベテトレ「お疲れ様。今日はまたずいぶん早いな……あぁ、そうか」



みく「ぎくっ」



ベテトレ「高峯のやる気に動かされて、自分も早く来て練習を見ようと思ったんだな?」



みく「み、みくは気まぐれ猫チャンだから、たまたま早く来たいと思っただけにゃ」



ベテトレ「はっはっは。いいぞ、そういう熱意は大歓迎だ!」



ベテトレ「大歓迎なんだがタイミングが悪いな、残念ながら」

みく「もしかして、何かでここを使うとか?」



ベテトレ「そうじゃない。私が担当するレッスンは、今日はにゃん・にゃん・にゃんの分が最初というだけだ」



みく「んにゃっ!? それじゃあ……」



ベテトレ「やる気は素晴らしいが、今来ても特に見るようなレッスンは無い」



みく「そんなぁ〜……」



ベテトレ「ホワイトボードに書いてあったレッスンスケジュールは見ていなかったのか?」



みく「……自分や、のあにゃん達の分だけなら」



ベテトレ「お前は几帳面で優等生なのに、何故か妙なところが抜けているな」



ベテトレ「姉や妹達なら今もレッスンをやっている。佐城のように、そっちを見るのも良いと思うぞ?」



ベテトレ「もちろん、自分のレッスン時間は忘れるなよ」



みく「はーい」

みく「今日は誰がレッスン予定なのかなー……おぉ、ニュージェネレーションの3人も来るのかにゃ!」



みく「前に3人にはネコミミを付けてもらったけど、ものすごく似合っていたにゃあ」



みく「アイデンティティがクライシスしそうだけど、猫チャンアイドルも増えて欲しいし……ジレンマにゃ!」



みく「穂乃香チャンの黒猫衣装だって、そりゃあもう犯罪的で――」





「そうなのでごぜーますか!?」



「うん! きっと、そうだよ!」



「すげーです! すっごくすげーですよ!」





みく「この声は……」

仁奈「みくおねーさん! こんにちはでごぜーます!」



千枝「お疲れ様です、みくさん」



みく「仁奈チャンに千枝チャン、お疲れ様にゃ♪ 今からレッスン?」



仁奈「仁奈はレッスンに来たですよ!」



千枝「千枝は、ブルーナポレオンのみんなで出る番組の打ち合わせに」



仁奈「みくおねーさんもレッスンしに来やがったですか?」



みく「そうだよー。いつもよりちょっと早く来たから、今は自由時間にゃ」

みく「2人はまだ時間じゃないの?」



千枝「私達も少し早めに来たので。ねっ、仁奈ちゃん?」



仁奈「そうでごぜーます! 仁奈は遅刻知らずです、えっへん!」



みく「仁奈チャンはしっかりした良い子だにゃ。よしよし」



仁奈「えへへへー♪」



みく「もちろん、千枝チャンも真面目で良い子にゃ。よしよし」



千枝「わわっ……そんな、千枝にまで……」



みく「いいのいいの。熱心にお仕事に取り組んでいるんだから、褒められて当然なのにゃ」



千枝「そんな、熱心だなんて……んっ♪」

仁奈「みくおねーさん聞いてくだせー! びっくりでごぜーますよ!」



みく「なになに? 聞きたいにゃあ〜」



仁奈「雪美おねーさんって、猫さんとお話ができるですよ! すっげーです!」



みく「雪美チャンが……」



仁奈「千枝おねーさんにさっき聞いたですよ! そうでごぜーますよね?」



千枝「はい!」



みく「千枝チャン。みくにもそのお話、聞かせてもらって良いかにゃ?」



千枝「えっと、何日か前のことなんですけど――」



――――――――――





数日前 公園





千枝『どうしよう……ここにも無い……』



千枝『あっちかな? でも、あっちまでは行ってなかったし……』



千枝『もう風で飛ばされちゃったのかなぁ』



雪美『千枝……何……してるの……?』



ペロ『ニャー』



千枝『……雪美ちゃん。ペロも』



雪美『探し物……?』



千枝『そう。落し物をしちゃって』

千枝『ランドセルに着けていたお守りが……』



雪美『お守り……』



千枝『前に行った京都の撮影のとき、Pさんに買ってもらったお守りなの』



千枝『ランドセルの脇に着けていたんだけど……』



千枝『その……さっき友達と、ランドセル背負ったまま鬼ごっこやブランコをして遊んでいて』



千枝『帰ろうとしたら、着けていたはずのお守りが無いのに気が付いて……』



千枝『ブランコ近くとかも探したけど、どこにも』

雪美『手伝う……』



千枝『ありがとう。だけど、これだけ探して無いなら、もう……』



雪美『諦める……ダメ……』



雪美『今……諦めたら……思い出……戻って……こない……』



雪美『一緒に……探す……私も……ペロも……』



ペロ『ニャー』



雪美『千枝……』



千枝『……そうだね。せっかく買ってもらった大事なものなのに、簡単に諦めるのはダメだよね!』



千枝『もっともっとがんばって探すよ! 雪美ちゃん!』

千枝『どこから探したほうが良いかな?』



雪美『狭いところ……見えないところ……ペロが……得意……』



ペロ『ニャー』



雪美『まず……お守りの……特徴……』



千枝『お守りは長方形で、青色で、字が書いてあるんだけど……』



雪美『それだけ……特徴が……あるなら……大丈夫……』



千枝『えっ、大丈夫なの!?』



雪美『うん……』

雪美『ペロ……聞いた……よね……』



ペロ『ニャー』



雪美『青くて……文字が……入ってて……長方形の……』



ペロ『ニャー』



雪美『花壇や……茂みを……中心に………』



ペロ『ニャー』



雪美『じゃあ……お願い……行ってきて……』



ペロ『ニャー!』



千枝『わっ』

千枝『ペロ、すごい勢いで走って行っちゃったけど』



雪美『ペロ……元気いっぱい……』



千枝『あの、もしかしてペロは探しに行ってくれたの?』



雪美『うん……』



雪美『この辺は……ペロの……庭的な……ものだから……大丈夫……』



千枝 (本当に大丈夫なのかな……?)

千枝『あ、戻ってきた』



ペロ『ニャー』



雪美『そう……ありがとう……さすが……ペロ……』



ペロ『ニャー♪』



雪美『そこまで……先導して……』



ペロ『ニャー!』



雪美『千枝……見つかった……こっち……』



千枝『本当!? ちょ、ちょっと待って!』

ペロ『ニャー』



雪美『花壇……青い花の……上……』



千枝『花の上? あっ、本当だ! 青い花の上に乗ってる!』



雪美『保護色……』



千枝『お花の上は全然見てなかった。ありがとう、雪美ちゃん! ペロ!』



ペロ『ニャー』



雪美『良かった……。ペロ……こういうの……得意だから……』



雪美『散歩の……続き……行こう……』



ペロ『ニャー!』



雪美『バイバイ……』



千枝『雪美ちゃん、ペロ、ありがとう!』





――――――――――





千枝「すごいですよね! 雪美ちゃんの言葉を、ペロもちゃんと理解しているなんて!」



みく「ペロチャンと雪美ちゃんが……」



仁奈「雪美おねーさんとペロは“いしそつう”ができているです! すげーです!」



仁奈「仁奈も、猫さんの気持ちになりてーです! 猫さんとお話がしてーですよ!」



千枝「じゃあ、Pさんに頼んでみようよ。猫の着ぐるみも着たいって♪」



仁奈「千枝おねーさん、ナイスな名案でごぜーますね!」



仁奈「猫仁奈になったら、みくおねーさん達や雪美おねーさんと共演してーです! にゃーお!」

仁奈「ところで、今って何時でごぜーますか」



千枝「今は……もう20分くらい話していたかも」



仁奈「むう、だったら仁奈はそろそろ行かなきゃならねーです」



みく「レッスンや打ち合わせが終わったら、またお話すれば良いにゃ♪」



仁奈「それもそうでごぜーますね!」



千枝「仁奈ちゃん、終わったらまたこの辺に集まろうね」



仁奈「了解ですよ! 行ってくるです!」



みく「はーい、行ってらっしゃいにゃー」

みく「千枝チャンもそろそろかにゃ?」



千枝「そうですね。まだ沙理奈さん達は来ていませんが……」



みく「そっか。みくは少し時間があるから、他の子のレッスンでも見学してくるにゃ」



千枝「あの、みくさん。私も、一緒に見に行って良いですか?」



みく「行こう行こう! 一緒に行ってお勉強するにゃ!」



千枝「はいっ!」



みく (……レッスンも全部終わったら、あの猫チャンのところに行ってみよう)



みく (きっと、雪美チャンもいるにゃ)



みく (雪美チャンに会って、それで……聞いてみないと)



同日夕方 空き地





猫「ニャー」



みく「こんにちは、猫チャン」



猫「ニャー」



みく「今日は雪美チャンいないね。まだ来ていないのかにゃ? それとも、もう帰った?」



猫「ニャー」



みく「帰ったなら残念だけど、まだならもう少し待ってみようかな。ほーら、なでなでにゃー」



猫「ニャー♪」

みく「猫チャン、あのね、みくはネコミミ着けて猫キャラアイドルをやっているんだけど……」



みく「どうしても、お魚が食べられないのにゃ」



猫「ニャー」



みく「みんなから、よく言われるにゃ。猫キャラなのにお魚が嫌いなの!? って」



みく「だけど、どうしてもみくはお魚よりお肉が良いのにゃ!」



みく「知ってる? イタリアの猫チャンはパスタが好きで、インドの猫チャンはカレーが好きなのにゃ」



猫「ニャー」



みく「つまり……その、グローバルに見ればお魚が食べられなくても問題無いにゃ!」

みく「……好きになれるように、努力はしているんだよ?」



みく「今のままだと、ダメだからね。いつかお魚も好きになって、100%猫キャラなアイドルになるにゃ」



猫「ニャー」



みく「猫チャンは、お肉とお魚のどっちが好き?」



猫「ニャー、ニャー」



みく「うーん……お魚?」



猫「ニャー」



みく「どっちなのかにゃあ。気になるにゃあ」



猫「ニャー」

みく「猫チャンの言葉とか気持ちがわかったら、好きなものとかもわかるのになぁ」



猫「ニャー」



みく「にゃあにゃあにゃーん。ふふふっ」



みく「んー、雪美チャンはやっぱり帰っちゃっ……来た! 来た来た!」



みく「雪美チャーン! にゃっほー!」



雪美「にゃっほー……」



みく「今日は何か用事だったの?」



雪美「係……やってた……」



みく「委員会や係のことをやってるとすぐには帰れないんだよねー。わかるにゃ」

雪美「楽しそう……だね……」



猫「ニャー」



みく「ちょっとの間だけど、お話をしていたにゃ」



雪美「ふふっ……。どんな……お話……してたの……?」



猫「ニャー、ニャー」



雪美「へぇ……ふうん……」



みく「雪美チャン?」



雪美「……お肉が……好き……だって」



みく「!」



雪美「お肉も……お魚も……好きだけど……どっちかと……言えば……お肉……みたい……」

みく「ゆ、雪美チャン」



雪美「ん……」



みく「前から薄々思っていたんだけど、その、何て言うのかな……雪美チャンってさ」



みく「もしかして、猫チャンの言葉が……わかるの?」



雪美「うん……」



みく「本当に?」



雪美「わかる……」



みく「ほっ、本当の本当に? どんなことを話しているのか、わかるの?」



雪美「ちゃんと……伝わって……いるよ……」

みく「す……」



雪美「……?」



みく「すごい! すごいよ雪美チャン! 猫チャンの言葉がわかって、おしゃべりできるなんて!!」



みく「本当にすごいよ! すっごく、もう……」



みく「あ、あははっ。みく、興奮しちゃって、すごいしか言ってないね。えへへへ」



雪美「ふふっ……みく……面白い……」



猫「ニャー」

みく「おとぎ話みたいで、まだ実感が湧かないんだけど……そうなんだね」



雪美「みく……信じて……くれるんだ……」



みく「信じるよ! ダメ?」



雪美「ううん……ダメじゃない……」



雪美「今まで……誰に……言っても……信じて……もらえなかったから……」



みく「それは、仕方ないにゃ。普通の人は猫チャンの言葉なんてわからないし。みくもわからないもん」



雪美「私……普通……じゃない……?」



みく「違う違う。変ってことじゃないよ? 言葉が理解できて、すごいって意味」



雪美「そっか……あんまり……すごくは……感じない……」



みく「ずーっと前からそうだったの?」



雪美「そう……」



みく「今日、落とし物を探してもらった話を千枝チャンが仁奈ちゃんに話していてね。みくも教えてもらったよ」



みく「2人は雪美チャンがペロチャンとお話ができて、意思疎通もできているのがすごいって言ってたにゃ!」



みく「雪美チャンにとっては普通だけど、みんなから見ると実はすごいことなんだよ?」



みく「とっても羨ましいにゃ!」



雪美「ありがとう……みく……」



みく「お礼を言われるようなことじゃ無いにゃ♪」

みく「雪美チャンが猫チャンと会話できるのはわかったけど」



みく「前に、みくがここで聞いたあの声は……」



雪美「みく……手を……出して……」



みく「手? わかったにゃ、はい」



雪美「うん……。手を……こうして……繋いで……」



雪美「……好きなのは………お肉……だよね……?」



猫 (お魚も好きだよ)



みく「うえっ!?」

みく「こ、これ! これこれ! この声だよ聞こえたのは!」



雪美「ふふっ……」



みく「やっぱり、君なの?」



猫 (うん。そうだよ)



みく「嘘みたいにゃ……」



みく「みくの耳には、たしかに猫チャンのニャーニャーって鳴き声が聞こえるにゃ。それなのに、意味がわかる。まるで、頭の中で――」



雪美「頭の中で……人間の……言葉に……変換される……」



みく「そう! そんな感じにゃ!」

みく「ビックリどころの話じゃないよ、これ。一体何がどうなっているにゃ?」



雪美「魂が……繋がって……いる……この子と……私……」



雪美「私と……手を……繋いだから……みくにも……私を……通して……気持ちが……伝わってる……」



雪美「これで……みくも……この子と……魂が……繋がった……」



雪美「だから……言葉が……わかる……」



みく「魔法にでもかけられたような気分にゃ。雪美チャンってエスパー? サイキック?」



雪美「わかんない……」



猫 (魔法使い)



みく「魔法使い……ネコミミ魔法使いアイドル・雪美チャン! カワイイ!」



猫 (カワイイ)



雪美「照れる……」

みく「雪美チャンと手を繋いだからみくにも言葉がわかったんだね」



みく「本当に……本当に不思議にゃ」



雪美「事実は……小説よりも……奇なり……」



みく「難しい言葉知ってるね雪美チャン」



猫 (どういう意味?)



みく「世の中は不思議でいっぱいって意味だにゃ!」



雪美「私は……昔から……だから……みくの不思議は……私の……普通……」

みく「ねぇ、お話ができるならもっと猫チャンに色々聞いてみたいんだけど、良い?」



雪美「……どう?」



猫 (いいよ)



みく「うにゃー♪ ありがとうにゃー♪ じゃあじゃあ、何から聞こうかな〜。何でも良いの?」



雪美「焦らなくて……大丈夫……」



みく「そうだね。それじゃあ、まずは……あーもー! 多すぎて選びきれないにゃ!」



猫 (面白い人だね)



雪美「ふふっ……前に……言ったよ……面白い人……って……」

雪美「私達と……おしゃべり……楽しい……?」



猫 (仲間以外と話すのは新鮮)



雪美「それなら……よかった……」



猫 (ありがとう)



雪美「えっ……?」



猫 (出会えて、話せて)



猫 (とっても楽しい)



雪美「うん……私も……お話できて……楽しい……」



みく「はっ!? ごめん、何聞こうか考えていて耳に入って無かったにゃ! 今何か話してた?」



雪美「何でも……ないよ……」



みく「そう? あのね、とりあえず決めたにゃ! まずは――」



次の週 レッスンルーム





ベテトレ「ワン トゥー スリー フォー ワン トゥー スリー フォー」



ベテトレ「最後にここで止まる!」



みく「にゃっ!」



アーニャ「ダー!」



のあ「……ん」



ベテトレ「よし、休憩!」



ベテトレ「良いじゃないか3人共。歌の練習と並行している割りには上達が早いぞ」



アーニャ「スパスィーバ、ありがとうございます」



のあ「日々精進……教えの賜物ね……」

みく「んっふっふ……みく達にゃん・にゃん・にゃんにとっては、これくらい朝飯前にゃ!」



ベテトレ「ほう、それはずいぶんな自信だ」



ベテトレ「これなら、同じ練習時間でさらに1.5倍分の内容を凝縮しても問題無さそうだな」



アーニャ「オゥ……」



のあ「みく」



みく「すいません、調子に乗りました」



ベテトレ「まったくお前は……」



ベテトレ「だが、ここ最近の3人の中で1番飲み込みが早いのはたしかにお前だ。そこは認めよう」



みく「えっ、本当に? いやぁ〜そう言われると照れちゃうにゃ〜♪」

のあ「最近何か……嬉しいことでも?」



みく「そう見える?」



アーニャ「ニコニコ、ウキウキしていて、とても楽しそうです」



みく「実は、新しい友達ができたんだにゃ。雪美チャン経由で知り合って」



みく「その友達とよく話すんだけど、みくの知らないことをいっぱい知って! 本当にすごいの!」



アーニャ「お友達は、物知りなんですね」



みく「そうにゃ♪ 今まで知りたくてもわからなかったことがどんどんわかって、とっても楽しいにゃ♪」

アーニャ「ミク、ユキミと仲良しさんです」



のあ「猫好き仲間として前々から交友はあったけど……この頃は特に一緒にいるわね」



みく「言われてみればそうかも。雪美チャンと一緒に、その友達のところに行ってるからかな?」



みく「まぁ、それ以外でも2人でお話することも多いにゃ!」



のあ「この際……雪美もにゃん・にゃん・にゃんに加えてみれば?」



アーニャ「プリクラースヌィ! ユキミも加われば、ネコミミ、4人ですね♪」



みく「雪美チャンがにゃん・にゃん・にゃんに……面白そうにゃ!」



みく「白いネコミミはみくとあーにゃんの2人だけど、黒いネコミミはのあにゃん1人だからカラーバランスも取れるし!」



のあ「……」

のあ「みく……1つ、聞きたいのだけど」



みく「どうしたのにゃ?」



のあ「……貴方のネコミミ、聞くところによるとスペアが数多くあるとか」



のあ「しかも、全部が白のネコミミという」



アーニャ「そうなのですか?」



みく「そうにゃ! みくの商売道具でもあるネコミミは、この白と同じ物がいっぱいあるんだにゃ!」



のあ「……それは、白にこだわりがあるのかしら?」



みく「こだわりというか、まぁ……そう。白いのが良いにゃ」

のあ「何か理由がありそうな口ぶりね……」



みく「その辺は、話せば長くなっちゃうから」



ベテトレ「そうだぞ。一応今はレッスンの合間だからな。長話なら終了後に……ん?」



ベテトレ「電話か……このタイミングで」



ベテトレ「電話が終わって私が戻るまで、休憩は延長する。少し待っていてくれ」



アーニャ「ダー。待ってます」



ベテトレ「すまないな……もしもし? ああ、今は大丈夫だ……」

アーニャ「出て行ってしまいました」



のあ「……ガールズトーク続行ね」



みく「のあにゃんからガールズトークなんて言葉が出ると、なんか新鮮な感じがするにゃ」



のあ「……24歳がガールでは、少々欲張りすぎかしら?」



みく「歳なんて関係無いにゃ。女の子のお話はみーんなガールズトークにゃ!」



アーニャ「この時間に、ミクの話、聞きたいです」



のあ「そうね……せっかくだから、長くても聞いておきたいわ……そのこだわりの理由」



みく「わかったにゃ。けど、変に期待しないでね? 別に大それた話でもないんだから」

みく「むかしむかし、みくが小さい頃のお話」



みく「耳も体も真っ白の、小さなカワイイ猫チャンが家族にいたんだにゃ」



みく「猫チャンって1年に4歳くらい歳を取るから、体はちっちゃいけど、みくよりは年上の子だった」



みく「みくとその子はとっても仲良しで、遊ぶときとか、それ以外でもいつも一緒でね」



みく「何か嬉しいことがあったときは真っ先にその子に話して、悲しいことがあればすぐに打ち明けて……」



みく「でも、猫チャンはニャーニャーとしか鳴かないでしょ?」



みく「嬉しい話をしても、返事は“ニャー”。悲しい話をしても、返事は“ニャー”。ニャーニャーニャーって」



みく「だけど……みくには、嬉しい話のニャーは“よかったね”って、悲しい話は“がんばって”って……」



みく「そんな風に、聞こえた気がした」

みく「実際はどうだったのかわからないよ? みくも猫チャンの言葉はわからないし」



みく「ただ、あの子とお話をしたことで勇気をもらったり、楽しくなったのは本当」



みく「あの子は、今はもう……いないけど」



みく「猫チャンと心から通じ合っていたように思えた、あの頃の気持ちは……」



みく「一緒にいて楽しかった気持ちは、今もみくの中にあるから……」



みく「だから、今度はみくがそれをやるのにゃ!」



みく「同じ白い耳と白いしっぽを着けて、みんなのことを元気にしてあげるんだにゃ!」



みく「あの子が、そうしてくれたみたいに!」

みく「そーんな感じにゃ」



のあ「……なるほど」



のあ「貴方には、人一倍猫への愛があると思っていたけれど……」



のあ「『人一倍』という尺度に当てはめて見ていた私の目は、まだまだ節穴みたい」



みく「人一倍はおおげさにゃ。好きなのは事実だけど」



のあ「……心に、記憶に、いつまでも残り続けて」



のあ「やがて、それが貴方の原動力となって今に至る……」



のあ「……その子は幸せ者ね。ここまで想われて」



みく「そう言ってくれるのあにゃんと一緒に仕事ができるみくも、幸せ者だにゃ♪」



のあ「……恥ずかしいこと言うのね」



みく「のあにゃんがそれ言っちゃう?」

アーニャ「私の、このネコミミ。ミクがくれました」



アーニャ「ビェーリク モーリャ……浜辺で一緒に、お仕事したときも、これを着けて」



アーニャ「今の話を聞いたら、なんだか……ミクがこれに込めた気持ちが、私にも、伝わってきた気がします!」



アーニャ「私も……元気を、みんなに、与えていますか?」



みく「もちろんにゃ! あーにゃんがいるから、みくも、それにのあにゃんもいつも楽しくいられるもん」



のあ「そうね。その通り」



アーニャ「本当ですか?」



みく「本当にゃ♪」



アーニャ「スパスィーバ♪」

みく「ふぅー、ガールズトークで元気も出たし! 続きのレッスンもファイトにゃ!」



アーニャ「まだ、電話が続いているのでしょうか?」



みく「戻って来ないから、そうじゃないかにゃ?」



ベテトレ「……わかった。あとで折り返す」



のあ「ウワサをすれば……」



ベテトレ「遅くなってしまったな。すぐにレッスンを再開したかったんだが……前川、ちょっと」



みく「はい?」



ベテトレ「用事だ。2人はここで少しだけ待っていてくれないか?」



のあ「了解……」



アーニャ「ダー」

みく「用事っていうのは……」



ベテトレ「ああ……佐城について、少し聞きたいことが」



みく「雪美チャンのこと?」



ベテトレ「今日、あの子はレッスンだったらしいんだが、それ以外の予定とかは知らないか?」



みく「雪美チャンの予定は……うーん、ごめんなさい。わからないにゃ」



ベテトレ「そうか……」



みく「あの……」



ベテトレ「……」



みく「……なんで、みくに聞いたんですか?」

ベテトレ「……さっきのは、プロデューサーからの電話だ」



ベテトレ「佐城が家を出てこちらに向かったはずなのに、まだ来ていないらしい」



みく「それは、バスや電車……そういうのが遅延しちゃってるとか」



ベテトレ「これは、例えばの話だが」



ベテトレ「いつも数十分かそれくらいで来るはずの子が、2時間や3時間経っても一向に着く気配が無く……」



ベテトレ「おまけに、防犯で持たせているはずの携帯電話は家に置きっぱなし。本人とは連絡がつかない」



ベテトレ「バスや各鉄道路線の遅延情報も無し」



ベテトレ「……となったとしよう」



みく「えっ、ちょっと、まさか……!」

ベテトレ「佐々木達が来ていたから、さりげなく聞いてみたが……」



みく「千枝チャン達もわからない、と」



ベテトレ「そうだ」



みく「じゃあ……すぐ警察に!」



ベテトレ「わかっている。だが、その前にどうしてもお前に聞いておきたかったんだ」



みく「みくに……?」



ベテトレ「佐城は、歳の近い小学生組とはよく遊んだり話したりしている」



ベテトレ「反対に歳が離れた高校生や大学生といったメンツとは比較的関わりが薄い……前川以外はな」

ベテトレ「佐々木が言っていたよ。最近は自分達よりも、佐城はお前とプライベートで一緒にいることが多いと」



ベテトレ「行きそうな場所を知っていればと……思ったんだが」



みく「……!」



みく「雪美チャンが行くところなら、1つだけ心当たりが!」



ベテトレ「本当か!?」



みく「みくが寮に戻る道の途中に空き地があって、よく2人でそこに……」



ベテトレ「わかった」



みく「ま、待って! みくがそこに行って、いるかどうか確かめてきます!」



ベテトレ「いや、心配なのはわかるが」



みく「お願い……します……」

ベテトレ「……しょうがない」



みく「あ……ありがとうございます!」



ベテトレ「この件を知っているは私達姉妹と、あとはプロデューサーと……」



みく「ちひろさん?」



ベテトレ「それくらいだ。とにかく、その空き地に着いたらすぐ連絡をくれ。私でも誰でも良い」



みく「わかりましたにゃ!」



ベテトレ「アナスタシア達には、お前が急遽プロデューサーから打ち合わせに呼び出されたと説明をしておく」



みく「……上手い具合に言ってくださいにゃ。あーにゃん達には、心配をかけたくないから」



ベテトレ「わかっているさ」



みく「行ってきます!」



空き地





みく「はぁ……はぁ、うあ……」



みく「走ってきたから……そんなに、時間かかってない……よね」



みく「雪美チャンは……」





















雪美「……」





















みく「いっ、いた! やった! Pチャンに電話しないと!」



みく「……あ、もしもし? Pチャン? 雪美チャンのこと聞いたよ」



みく「うん……うん……大丈夫。見つかった、うん。すぐ戻るね! じゃあ!」



みく「あぁ〜、本当によかったぁ……」

みく「雪美チャン! ゆーきーみーチャン!」



雪美「……」



みく「レッスンに全然来ないって聞いたから、もう心配したにゃあ」



雪美「……」



みく「猫チャンと遊ぶのは楽しいけどね、時間は守らないと」



雪美「……」



みく「さぁ、立って立って! 猫チャンにバイバイして、事務所に行こう!」



みく「猫チャンもごめんね。雪美チャンは今日……」



みく「……あれ? 猫チャン、寝て――」





















みく「あっ……」





雪美「……」



雪美「……魂が……繋がって……いる……はずなのに」



雪美「もう……声も……聞こえない……」



雪美「ぐすっ……気持ちも……何も……わからない……」



雪美「何も、な……なんにもぉ……っ!」



雪美「ずっと……ずっとね? 声を、かっ、かけても……! 返事が、な……無いの!」



雪美「やだよ……目、開けてよ……お願い……だからぁ……」



雪美「あっ、あ、う……うあぁあぁぁあぁあぁぁん!!」

雪美「うっ……ひぐっ……」



みく「雪美チャン。手、繋ぐからね」



雪美「みく……」



みく「落ち着くまで、みくがこうしていてあげる」



雪美「ん……」



みく「やっぱり雪美チャンの手は温かいにゃ〜♪ この手でなでられたら、猫チャン達も気持ち良いだろうにゃあ♪」



雪美「みくも……あったかい……」



みく「えへへ♪ 嬉しいにゃ♪」

雪美「今日……来たとき……この子が……ここに……」



雪美「びっくりして……近づいたら……もう……」



雪美「それで……近くに……いた……別の猫に……聞いた……」



雪美「この子……ずっと前から……体調が……悪かったって……」



雪美「なのに……私達に……会いに……来てくれて……!」



雪美「私が来る……ほんのちょっと……前まで……待っていて……くれて……」



雪美「もっと……もっと早く……気づいて……あげることも……できたのに……!」



雪美「ごめん……ごめんね……」

雪美「……少し……落ち着いた」



みく「本当? 大丈夫?」



雪美「ありがとう……みく……」



みく「どういたしましてにゃ」



雪美「もう少し……手……握っていて……ほしい……」



みく「少しと言わず、雪美チャンが良いならずーっとこうしていてあげるにゃ」



雪美「うん……」

みく「雪美チャンは、本当にこの子が大好きなんだね」



みく「そんな雪美チャンのこと……この子も、きっと、だ、大好き……でっ……!」



雪美「みく……泣いて……」



みく「ごめん……みくも、がまんしていたんだけど……もう……!」



雪美「いいよ……」



みく「ご、ごめんね、でも……ちょっとだけ……だから……!」

みく「……猫チャンも……雪美チャンが大好きだったと思う」



みく「でも、具合が悪いことを話すと、雪美チャンが悲しんじゃうから」



みく「だから、きっと内緒に」



雪美「私の……ため……」



雪美「私は……何も……してあげられて……無いのに……」



みく「違うにゃ。雪美チャンは猫チャンと遊んで、お話をしてあげていたにゃ」



みく「この子も……それが楽しかったはずだよ」



雪美「……!」



――――――――――





雪美『私達と……おしゃべり……楽しい……?』



猫 (仲間以外と話すのは新鮮)



雪美『それなら……よかった……』



猫 (ありがとう)



雪美『えっ……?』



猫 (出会えて、話せて)



猫 (とっても楽しい)



雪美『うん……私も……お話できて……楽しい……』





――――――――――







雪美「出会えて……話せて……よかった……って……」



雪美「楽しい……って……言ってた……」



みく「猫チャンは自分の気持ちに正直な生き物にゃ」



みく「雪美チャンとお話できて、本当に楽しかったんだにゃ。だから、そう言ってくれたんだにゃ」



みく「ありがとう、猫チャン。ここで会えて、お話もできて、みくは本当に楽しかったよ」



雪美「ありがとう……私も……楽しかった……」



みく「バイバイにゃ」



雪美「バイバイ……」



数日後 女子寮 (前川みくの部屋)





拓海「おーっす。お邪魔します、っと」



みく「いらっしゃい、たくみチャン!」



拓海「だから、たくにゃんじゃ……今のは間違ってないか」



みく「たくにゃんのほうが良かったにゃ?」



拓海「そのままで良いから! 変えんな!」



みく「たくみチャンもいけずだにゃあ。こっちの呼び方のほうがカワイイのに〜♪」



拓海「帰るぞ」



みく「にゃー! まだ雪美チャンが来てないから帰っちゃダメなのにゃー!」

拓海「そうだ、みくのところに来てほしいって雪美に言われたから来たけどよ……」



拓海「なんでまたアタシは呼ばれたんだ? “来て”としか言われてねぇぞ」



みく「それは……」



拓海「わかった! 雪美のことだから、あの猫に関係しているんだろ!」



みく「……うん」



拓海「最近は妙に忙しくて雪美とタイミングが合わなかったんだが、もしかしてそいつのところに行くのか? 楽しみだなぁ」



みく「……」



拓海「みく、どうした?」



みく「あの子は……遠い遠いところに行っちゃったにゃ」

拓海「なっ……」



みく「この間、雪美チャンがいつものように会いに行ったら……もう」



拓海「そうか……つらかったな」



みく「雪美チャンのほうがつらいはずだよ。みくよりも、あの子とずっと一緒だったから」



拓海「ああ」



みく「事務所に戻ってちひろさんやPチャンに説明して、色々と連絡を取ってもらって……」



拓海「供養してあげたのか」



みく「うん」



拓海「そいつも喜んでくれているだろう。雪美やお前に、そんなに愛されて」



みく「できることなら、もっと愛してあげたかったにゃ」

みく「ねぇねぇ」



みく「もしも、猫チャン達の気持ちがわかったらどう思う?」



みく「表情や鳴き声でなんとなくわかる……ってことじゃなくて」



みく「喜んでいるとか、悲しんでいるとか、感情がはっきり伝わってきたらってことにゃ」



みく「きっと、今まで以上に猫チャンのことが大好きになると思うにゃ」



みく「猫チャンが嬉しい気持ちでいっぱいなら、自分も嬉しくなるだろうし」



みく「猫チャンが悲しい気持ちになったら、となりで撫でてあげられるもの」

みく「あとはね……そう、お話」



みく「猫チャンと会話ができたとしたら、どうかな?」



みく「人間同士で話すみたいに、いろんなことを話せたら絶対に楽しいにゃ!」



みく「好きな食べ物、お気に入りのお昼寝場所、よくお世話してくれる人……」



みく「猫チャンだけが知っている、猫チャンらしいお話」



みく「高い高い人間の目線とは違う、低い低い猫チャンの目線から見た世界のこと」



みく「みくはとっても気になるにゃ♪」

みく「……猫チャンって気まぐれでしょ?」



みく「自由で気ままで何も考えていないって、みんな思っているけど」



みく「それは、違うと思うの」



みく「人間と同じように相手を気遣ったり、空気を読んだりしていて……」



みく「あと、内緒事や秘密も持っているにゃ!」



みく「人間には、それが伝わっていないだけで」



みく「きっと……」



みく「きっと、猫チャンには猫チャンなり考えや、感情や、とにかくそんなのもあって!」



みく「それを知ったら、今よりも猫チャンを……もっと近くに感じられると思うな」

みく「あはは……たくみチャンに質問したつもりだったのに、途中からみくの意見の押し付けになっちゃったにゃ!」



拓海「いいや。むしろ、お前の猫愛がよくわかったぜ」



拓海「猫の言葉や気持ち……わかったら、そりゃあ楽しいだろうな」



拓海「絆っつうのかな。そんなのが、より強くなりそうだ」



みく「お互いのことがよくわかって、とっても仲良しになれると思うにゃ」



拓海「だが……別れもつらくなる。絶対に」



みく「かもしれないにゃ。だけど、そうだとしてもね……」



みく「その子と過ごした思い出は消えないよ」



拓海「ハハハッ、まるで詩人みたいだな。お前本当に前川みくかぁ?」



みく「失礼にゃ! みくだってね、こういうセンチメンタルな気持ちになることもあるのにゃあー!」



拓海「ヘヘ、わりーわりー」

雪美「お邪魔……します……」



みく「いらっしゃいにゃー、雪美チャン!」



拓海「よぉ! 先に来てたぜ!」



雪美「こんにちは……みく……拓海……」



雪美「あの……拓海……。あの子に……会う……約束だけど……」



拓海「大丈夫、みくから聞いたよ。それよりもアタシはお前のほうが心配だ。もう平気なのか?」



雪美「うん……平気……」



雪美「いつまでも……泣いている……だけだと……前には……進めないから……」



雪美「泣いたまま……だと……あの子も……みくも……心配する……」



雪美「だから……泣かない……」

みく「泣いたって良いんだにゃ。Pチャンやたくみチャン、みくが傍にいてあげるから」



拓海「そうだぜ。何かあったら、思いっ切り発散しな! アタシが受け止めてやるからよ!」



雪美「ありがとう……2人共……」



雪美「……今日は……これ……見せたかった……2人に」



みく「なになに?」



雪美「はい……」



拓海「これは……あれか」



みく「あのときの絵!」

雪美「描き終わった……だから……見せたくて……」



拓海「背景を描いて色も塗ったのか。へぇ〜、こんな色の猫だったのか」



雪美「この……背景……あの子のいた……場所……」



みく「猫チャンの両側にいる女の子は、みくと雪美チャンかにゃ?」



雪美「似てる……かな……?」



みく「似てる似てる! 猫チャンも雪美チャンもみくも、そっくりで超カワイイにゃ♪」



拓海「たしかに、絵の雪美も本人に負けず劣らずカワイイな!」



雪美「そんな……恥ずかしい……」

雪美「あの子は……今……いない……けど……」



雪美「魂は……離れても……繋がって……いるから……」



雪美「記憶……ぬくもり……思い出は……ここに……ある……」



みく「……そうにゃ! 思い出は、ずっとずっとずーっと残るにゃ!」



みく「みくなら、この白いネコミミが」



拓海「アタシは、アイツの姿を残し続けてる携帯電話と写真かな」



雪美「私は……この絵……」



みく「みくは忘れないよ。雪美チャンと一緒に、あの猫チャンとお話をしたこと」



雪美「うん……私も……」



雪美「忘れない……いつまでも……ずっと……」









――fin――







21:30│前川みく 
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