2016年01月08日

乃々「大嫌いで、大好きな自分」

・シンデレラガールズSS

・三人称地の文あり

よろしくお願いします。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451225040





人の眼球は案外グロテスクである。



それを言うならば、人体の内臓的なものは大抵がまじまじと見ればグロテスクであるが。



何はともあれ、森久保乃々は人と目を合わせるのが苦手だった。



そして今日も、机の下で膝と衣装を抱え、なぜ自分はこんな怯えなければならないのかと世の理不尽に打ちのめされていた。

以前、学校の先生から「人の目を見て話せ」と言われ、一度は挑戦してみたが、ダメだった。

人の眼球をじっと見てみるも、黒目はギョロギョロと不規則に動くし、白目に広がる細い血管の枝先が気になってしょうがないし、見続けていたと気分が悪くなった。



正直、気持ち悪い。



絵本の世界の住人達の目は、見ていて落ち着くのに。



そもそも生まれつき臆病であり、人と目を合わせないのが森久保乃のにとっては普通だった。

無意識の行動を変えるというのはかなり難しく、かつ、生活には大きく支障を及ぼさないため今までそのまま過ごしてきたというだけである。

目は口ほどに物を言う。

目は人の感情を反映する。



人の心をダイレクトに見る覚悟なんてなかった。

あるいは、自分の内面を知られるリスクを負う度胸なんてなかった。



人の気持ちを見るのも、見られるのも恐い。



だから森久保乃々は目を逸らす。



見たくないものは、見なければいい。

見られたくないものは、見せなければいい。



自身が薄っぺらな存在であることを、知られたくなかった。

バレンタインチョコのように自分を厚くコーティングしても、熱い視線に晒されたら、あっという間に崩れてしまう。



だったら、なんとかやりすごす程度でいいじゃないか。



森久保乃々は静かに暮らしたい。

「おう、やっぱりここにいたのか。乃々、ライブだ」



しかし、そんな乃々の平穏を破壊する者がいる。

プロデューサーだ。



「ううぅ……ソロライブとか、むーりぃー……」



学校の合唱ですら口パクでやり過ごしたことのある人間が、ソロのライブ?



なんの冗談だろうか。



きっと魂が抜けるだろう。



むしろ人間をやめて植物となり、森でひっそりと暮らすのがお似合いだ。

「乃々、諦めろ」



「え、えぇー……」



「みんな待ってるぞ」



「いいんです。もりくぼはこのまま隅っこで生きていくんです……」



ファンが待っている。

それでも、勝手に期待されて、勝手に失望されるのは、耐えられなかった。



だったら自分から、人の目を避け、隠れ、誰にも失望されず、誰からも傷つけられない。そういう選択をしよう。



結局のところ、臆病な自分が大嫌いで、大好きなだけだった。

一人よがりで、自分が可愛くて、自己中心的な、ちっぽけな存在。

「乃々。後悔はしたくないだろ?」



プロデューサーが優しく投げかける言葉に、乃々の肩がびくっと震える。



ここで逃げたら、どうなるんだろう。



「プロデューサーさんは、もりくぼが逃げたら、困りますか?」



「それはまあ、仕事としちゃあ困るが。それ以上に乃々が輝ける機会が減ることが、俺は、困るというか……寂しい」



プロデューサーは、森久保乃々を見捨てない。

何度も逃げようとしたのに。

いつか期待を裏切るかもしれないのに。

乃々の小さな口から、なんとか声が絞り出される。



「やっぱり、後悔したく、ないですけど……」



膝を抱き寄せる乃々を見て、プロデューサーは、ふぅ、と息を吐く。



「どうしても無理か?」



「どうしても……むーりぃー」



「それは……俺は悲しい」



「あぅ……。プロデューサーさんの、その顔は卑怯です……」



「じゃあ、会場に行くだけでいいよ」

「え?」



「ライブ会場に、行くだけでいいよ。その後のことは、そのとき考えよう」



「プロデューサーさん、本当ですか……?」



本当だ、という言葉とともに、プロデューサーは手を差し伸べる。



逃げてもいい。



現実から逃げたい。



でも、逃げるという行為に逃げたくない。

森久保乃々は森久保乃々を信じていない。

でも、プロデューサーが信じる森久保乃々なら、信じられるかもしれない。



乃々がおずおずと手を伸ばすと、プロデューサーに手を握られてしまった。

森の住人は、そのまま光の当たる場所へと引きずり出される。

相変わらず強引だ。

嫌いではない。

少女漫画に出てくる男子も大概強引であり、読む内に耐性がついたのかもしれない。



でも、スポーツ万能の秀才男子なんて現実的ではない。

ましてや絵本の世界の王子様でもない。



乃々の目の前にいるのは、なんとなく冴えないプロデューサー。

いつも無茶振りをしてくるプロデューサー。

大きくて、ごつごつして、指先の皮膚が硬くて、それは日々の頑張りを象徴しているような、そんな手をしたプロデューサー。



嫌いではない。

※  ※  ※  ※  ※  ※



とあるアイドル専門雑誌の記事より抜粋。



『ふっきれ系(!?)アイドル・森久保乃々』



『先日ソロライブを開催したのは、現役中学生アイドルの森久保乃々。

そのライブが話題となっている。

普段は緊張しいで、おどおどすることが多いという森久保乃々。

しかし、ライブではその印象は一変する。

従来のアイドル像とはかけ離れた、やけくそとも言える表情やダンス。

しかし、多くのファンを熱狂させ、今回のライブも大盛況となった。

森久保乃々についてアイドル評論家は

「本音を叫ぶこともままならない現代において、本来引っ込み思案の彼女がこのようなパフォーマンスをすることはファンに勇気を与えてくれる。まさにアイドル」

と語っている。』



おわり







17:30│森久保乃々 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: