2016年01月19日

沙紀「プロローグへ手を伸ばして」


・吉岡沙紀ちゃんのSSです



・なかなかデレステに追加されないのでコミュをでっち上げることにしました









SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451908242





出会いの印象は最悪と言っても過言じゃなかった。



「アイドルに興味ないかな?」



あの人がアタシにかけた最初の言葉。



誰だって考えるはずっす。



新手のナンパか、なんて。





「そういうチャラいのはキライっす」



いまだからこそアタシもずいぶん過剰に反応しちゃったなっておもう。



けど開口一番でそんなこと言われたら警戒したってしょうがないわけで。





小綺麗なスーツ。



少し汚れてる革靴。



黒々としたカバンはまさに社会人っぽい見た目。



少しだけへにょっとした頼りなさそうな表情をのぞけば、できる営業マンって印象だった。





逆にアタシは塗料の飛び散った兄貴お下がりの黄色いパーカー。



使い古した手袋。



左手には容器へ入れたばかりの空色のペンキ。



さぁ、グラフィティやるぞっていう格好で、

ていうかやってる最中だったんだけど、お互いまったく真逆なものになっていた。





「名刺あるから、それで信じてもらえれば」



軽めの言葉で差し出してきた名刺にはプロデューサーっていう見慣れない文字が書かれていて、

スカウトってこんな感じなのかぁって心の中でつぶやく。



芸能界には多分人並みに理解はしているはずだけど、

その名刺に書かれていた事務所の名前は見覚えがあるような、ないような。



とにかく記憶があやふやなもので、なおさら目の前にいる人が怪しく見えてきた。





「最近できた事務所だけど、一応話題にはなってるはずなんだけどなぁ」



弁明する自称プロデューサーは少し困ったような顔をしてこっちを見た。

それすらアタシを騙すための演技なんだと疑っちゃって、見えない壁を三重くらいで立てておく。



名刺とかいくらでも偽装できるから。





「じゃあ、どうやったら俺のこと信用してくれる?」



それを人に聞いちゃうか。



「逆にこれで信用してもらえるっておもったことが不思議っす」



「うーん、初めてだからよくわかんないんだよね」



そう言って笑い飛ばした目の前の人は照れ隠しのように首の後ろへ手を当てた。





「初めて?」



「あぁ」



「どういうこと?」



「どうもこうも、そのままの意味だけど」



「主語がないとわからないって」



要領を得ない会話は続いていく。



「あぁ、ごめん。スカウトするっていうのがね」



ふぅん。



それ以外の感想は特になかったけど、

言葉や動きになんだかぎこちなさっていうのが感じられるのはそういうことなんだろうかな。





「それで」



すっかり興味のなくなった名刺を乱暴にポケットに入れる。

少し汚れちゃったけど別に気にしないし、渡してきた向こうも承知の上だ。



「仮にプロデューサーだとして、なんでアタシに声かけたの?」



「なんでって」



語気が強くなったかなとちょっとだけ後悔。



だけど楽しいアートの時間だっていうのにナンパでも言わないような言葉を使って、

うさんくささしかない男が声をかけてきたんだからこれくらいは許して欲しい。





「そりゃあもちろん、かわいいとおもったから」



「やっぱりナンパ」



「いや、ナンパじゃないって」



「みんなそう言うっす。かわいいって軽い言葉、すぐ吐くのも」



そうだ。



いままで声をかけてきた人たちは全員口を揃えて同じことを言う。

かわいいって軽口を。





それが事実かどうかなんてどうでもよくて、結局見た目なんだ。



そりゃあ喋ったこともない人間相手なんだから、

まず一番最初に外見を褒めるっていうのはわかる。

だけど、それ以外に投げる言葉はないのかって。



手に持ったペンキをかけてやろうかって考えがよぎったけど、

もったいないって気持ちが勝ってぐっと堪えた。



「あと」



だけど、この人はここから先が違っていた。





「あと、楽しそうだったから」



「楽しそう?」



「グラフィティ? って言うのかな。それのことはよく知らないんだけど、とにかく楽しそうにやる子だなって。鼻歌うたったりしてさ。グリーン・デイだっけ、それ?」



「……うん。曲名はわからないけど」



「マイノリティ、いい曲だよな。さっき聴いてたからすぐわかった」



「よくわからないけど、歌いたくなるから好きっす」



兄貴の部屋からよく流れてきたこの曲。



ハミングすると鳴るはずのないギターとかドラムの音がアタシの周りで響いてくる。

そうするとだんだん楽しくなってきて、壁に描く手がスイスイって動く。





「へー、女子高生なのに選曲がかっこいいね」



「なんでアタシのこと女子高生って決めつけるの?」



「ん、まぁ……勘? うまく言葉にできないけど」



「ふーん……そういうもんっすか」



「そういうもんだよ」



「ストーカーとかじゃないの?」



「ストーカーならこうやって声かけないだろ?」



そう言って、コメディドラマの俳優みたいにわざとらしく肩をすくめた。



「そうかなぁ」





目を細めて自称プロデューサーをじっと見るけど、話せば話すだけ怪しく見えてきた。



「どれだけ変質者って決めつけたいんだ。いや、言葉が足りない俺が悪いのか」



「そのチャラそうな愛想笑いもやめた方がいいっすよ」



「生まれつきのものをどうしろってんだ」



「さぁ? とにかく、今日はどれだけ話しても無駄だとおもうんで」



気分が悪いってところまではいかないけど、この人は限りある時間を奪ってる。



誰かとお話するためにここにいるんじゃない。

目の前にアタシっていうアートを描くために来てるんだ。





「そっか」



気付いたらあの人の姿はなかった。



まるで白昼夢でも見てたんじゃないかっておもったけど、

ポケットにあった汚れた名刺が現実だっていうなによりの証拠だった。





そして次の日。



同じ場所に、同じ時間に、同じ格好をした人が声をかけてきた。



昨日と違うのはアタシがまだ準備中だったってことだけ。



「二回目だから多少は疑い晴れるよね」



「しつこいやつもいたっす」



「でも同じ格好はしてなかったろ?」



相変わらず口が減らない。



「二回、名刺を渡すやつもいなかった」



「……確かにそうだけど」



「それだけ君に興味があるってことだよ」





「それがよくわからないっす。アタシはただのグラフィティ好きな普通の子っすよ」



「自分がどれだけ魅力のある女の子かって理解した方がいいよ」



「やっぱりチャラいっすね」



「これでも?」



「アタシが言っても説得力ないかもだけど、十分チャラいよ」



準備をしながら耳障りなBGMとしてこの人との会話を処理する。

でも昨日より少し、ほんの少しだけ口の滑りがいい、なんてつまらないことに気付いた。



「昨日言われて気をつけてるんだけどなぁ」



「全然なおってないよ。むしろ悪化してる」



「本質的に俺はチャラいのかな?」



「へへっ、かもね」





「おっ」っていう驚いた声が気になって、トマトソースみたいな赤がたまった容器から視線を移動させる。



「初めて笑った」



「……いまのは忘れて」



「いいや、ぐっすり寝たって忘れられない。やっぱり俺の目は間違ってなかったんだ」



「事故みたいなもんっす」



「起きて嬉しい事故もあるもんだ」



まるで裸を見られたみたいな恥ずかしさが突然襲ってきて、

その日は目を合わせることも、喋ることもできなくて一日が終わった。





三日目。

やっぱり来た。



ただ今度はアタシから待ってみた。

この人が来るのを。





三枚目の名刺。

当たり前だけど、こんな人はいままでいなかった。



「劉備や秀吉もこういう気分だったのかな」



「秀吉は作り話だって聞いたことあるけど」



「なら劉備と俺しか知らないわけだ」



そんなことないでしょって、やっぱりどうしようもなくおかしくなって笑ってしまった。



この人は喋りながら猫じゃらしでアタシの頬をくすぐってくるみたいで、

それが別にイヤじゃないっておもうようになった。



たった三度会って軽く、というかほぼむこうが喋ってるだけだったけど、すっかり気持ちは捕まっちゃったみたい。





「もう一回聞いていい?」



「うん」



「声かけた理由」



「あぁ」って短く言ったあと、わざとらしく咳払い。

そしてアタシの目をじっと見て口を動かし始めた。



「この子をプロデュースしたいって、一目惚れ」



やっぱり頼りない表情なんだけど、それとは真逆なとても力強くて、真っすぐな言葉。



「新人みたいなものだから偉そうなこと言えないんだけど、なんだろ。

 俺、この子になら人生かけていいって電気が走って、

 運命の出会いだなんて陳腐な表現になっちゃうけど本当にそんな感じで」





聞いているこっちが恥ずかしくなるような単語が次々と並ぶ。

血の通った言葉に体温がいつもより上がっているってことに気付いて、もっと熱くなった。



「うまく言葉にできないな。えっと、なんて言えばいいんだろう」



いまさら照れ臭そうに頬をひとかき。



バラバラになったジグソーパズルを探すみたいに、ゆっくりと口を、言葉を紡いでいった。





「同じこと言うけど、本当に楽しそうに笑う子だなって。

 夜空に散らばる星よりもキラキラ輝いていて、素敵で。

 創作物が形になっていく過程を見ているだけなのに、

 こんなに魅かれるものがこの世の中にはあるんだ」



「大げさ」



「これだけ魅力的な子が目の前にいるんだから、精一杯大げさに言わせてくれたってバチは当たらないだろ」



「アタシが、その……恥ずかしい」



「照れた女の子の顔が好きって言ったら?」



「趣味悪いっすよ」





名前も知らないアタシにこれだけ必死になって、熱く語って、へんな人だ。



それが単純な感想で、だけども同時にこの人のことをもっと知りたいなって気持ちが生まれてきた。



おかしな話っすけど。





「……アイドルになれるとおもう?」



「なれる。誰にも負けない、とびっきりのアイドルにする」



「信じていいの?」



「後悔はさせないよ」



「すごい自信っすね」



「それだけ本気だってとってくれれば」



「お仕事だと真面目なんだね」



「仕事以外でも真面目だよ」





汚れていない名刺に視線を落とす。



テレビの中でかわいくて、かっこいい衣装を着て、歌って、踊って。



なんだか別世界すぎて自分がそこにいる姿がまったく想像できない。



それもそうだ。



アタシはアートが好きなひとりの女の子でしかないんだから。





「歌うんすよね」



「歌うし、踊る。あと演技したり」



「歌ったことなんてほとんどないし、カラオケも行ったことないっす」



「歌は好き?」



「うん」



「なら大丈夫。白いキャンバスに描くんだ。重ね塗りするよりもきれいに色が出る」





それでも真っすぐアタシを見据えるこの人は、

どこから湧いているのかわからない大層な自信を持ってアイドルにする、なんて語る。



それも三回も会いにきて。



こう言うのはなんだけど、普通じゃない。



まともじゃない。



どうかしてる。





それ以上に、何度か話しただけなのにその気になっているアタシはもっとおかしい。



正常な判断ができてないみたいだ。



この人のせいで。





「仮に」



「うん」



「仮にアイドルになるって言ったら、なんて呼べばいいのかな」



アタシのささやかな疑問に視線を斜めにずらして、少しだけ考えるようにして答えた。



「普通にプロデューサーって呼べばいいんじゃないか」





空はいつもの水色だった。



アタシがよく使う色で、好きな色。





「……じゃあ、よろしく。プロデューサー!」





新しい色が塗られた。



吉岡沙紀っていうキャンバスに。



おわり





17:30│吉岡沙紀 
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