2016年02月04日

周子「満月はチョコレートの味」


・塩見周子ちゃんと宮本フレデリカちゃんのSSです



・以前pixivにあげていたものを加筆・修正したものです





・百合注意







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451046557





「ジョワイユーノエルー、英語だとメリークリスマース♪」



数分前、クラッカーよりも騒がしくあたしの部屋に飛び込んできたフレちゃんは、熟したトマトみたいに真っ赤な鼻をつけたトナカイの格好に身を包んでいた。



「これ? トナカイじゃなくてシカのコスプレなんだよ。奈良のねー」



なんて言ってあたしに見せるようにくるくる回る。

そこで多分取り忘れていたんだろうゆらゆらと揺れるタグがあって、しっかりとトナカイの四文字が。

フレちゃんがどこかのお店でこれを選ぶ姿をうっかり想像しちゃって、お腹が割れちゃうんじゃないかってくらいどうにかなってしまいそうだった。





「どう? 笑っちゃうくらいかわいいでしょ〜」



笑ったのは別の要因だけど、確かにその格好はすごいかわいかった。

黙っていれば美人なフレちゃんがダボっとしたトナカイのパーカーを着てるんだから、そりゃあものすごく卑怯。



レギュレーション違反だ、ずるい。





「はい、これシューコちゃんへのプレゼントだよ」



あたしの頭になにかが被された。

なにか、というかこの流れでだいたいわかるんだけど。



「サンタシューコ〜♪」



相変わらずのテンションなフレちゃんを目の前に、やれやれ、と小説の主人公みたいな感想と一緒に肩をすくめた。



「ウソウソ、冗談だって。ちゃんと用意してるよー」



フレちゃんのことだから本当にサンタの帽子かとおもってた。

しかもこの帽子にもタグがしっかりついていて、相変わらずどこからどこまでが本気なのかよくわからない。





「プレゼントはねー……」





いつもふざけあってカラダを密着させてた。



こしょばしあったり、首もとや髪の匂いをすんすんかいだり。



頬やおでこに軽くキスをしたこともあったっけな。



今日もそんな感じでイチャつくものだとおもっていたけど、どうもなにかが決定的に違っていた。





具体的にその原因はなんだろう?



満月の日だから?



聖なる日だから?



それとも単純に欲求が爆発しちゃったから?



いくらでも理由が出てきそうなのになんだかどれも違うんじゃないかっておもえて。



それも感覚的なものでしかなくて、自分でもよくわからないでいる。





「アタシ♪」





初めて唇を重ねた。



冗談みたいに軽いキスを、彼女から。





 *







夜はまだ来ていないのに部屋の中は薄暗くて、カーテンを閉めて電気を消しちゃうと暗闇まではいかなくても視界を悪くさせるには十分。

隙間から溢れるオレンジが間接照明みたいで、どこかムーディー。



あたしもフレちゃんもこういうことはもちろん初めてで、部屋をできる限り暗くしようとお互いの意見が一致。



更衣室で見る下着姿とかバスタオル姿とはわけが違う。

だってこれからおっぱじめようってことなんだから、ここで恥ずかしさがぶわってあふれるのもしょうがないことで。





「シューコちゃん、意外と」



「んー?」



「えっちな下着つけてるんだなぁって」



「え、普通やない?」



「黒だよ、黒。わお、セクシー♪」



「だって楽やし」



「それはわかる〜」





いろいろ準備をしている間に少し落ち着いたのか、フレちゃんにちょっとだけ余裕ができてるみたいだった。



それでもいつもの天衣無縫という言葉がぴったりな彼女の勢いに比べると、どこか空元気みたいな感じで。



なんだかかわいく、愛しくおもえて。



「てかなんで隠してんの?」



先にシャワーを浴びていた彼女はベッドの上でいつも使っているであろうタオルケットで包まっていた。





「だって、真っ暗じゃないもん」



「ダメだよ。完全に暗かったらフレちゃんのこと見れないじゃん」



「もー! そんなこと言うからこうしてるの! 真っ暗がいいの〜」



「ワガママやなぁ」



「夜って言ったのにいまじゃなきゃヤってシューコちゃんが言ったんじゃーん!」



「思い立ったが吉日って言うじゃん」



「そうだけど、むむむ……」





「あたしだってめっちゃ恥ずかしいよ。ほら」



タオルケットの中にある彼女の手を引っ張り出して、あたしの胸に当てた。

今にも心臓が飛び出すんじゃないかとおもうくらいの鼓動。

ドクンドクンって。



初めてのステージとか、ソロデビューのときよりも大きく動いてる、気がする。



「ね、全然余裕ないから。さっきも言ったけど、初めてになるわけだし」



二人がどういう関係になるかは神のみぞ知る、ってところだけど、どんな初めてになろうともこれから一生あとをついてくることになるこの時間。



ドキドキしない方がおかしいじゃん。





「その割りにはアタシのこといじめてる気がするんだけど」



「それはほら、フレちゃんがかわいいから」



「もー、シューコちゃんキラーイ!」



頭まですっぽりとタオルケットを被って、声以外でフレちゃんだと認識するのができなくなった。



「ごーめん、ごめんって。もう言わないから顔見せて。ほら、ちゅーしよ、ちゅー」



そう呼びかけてももちろん出てくるわけもなく、くぐもった声で「鎖国するのー!」って声が聞こえてくるだけだった。

無理矢理引っぺがそうとしてもおもったより抵抗が強くてどうしようもなく、ただため息が漏れて静かな部屋に消えていくだけだった。



ただタオルケットで全身を隠すには微妙に足りてなくて、いまあたしの目の前にはちょこんと出たフレちゃんの素敵なおみ足が。





どうしよっかと考えて、ただこしょばすだけでは芸がない。



そこでシューコちゃんはひらめいた。





「ひゃうっ!」



驚きの声とともにタオルケットから猫みたいな素早さでフレちゃんが勢いよく顔を出す。



「な、なななな、なにしてんの!?」



「なにって、舐めてんだけど。足」



身をかがめて、目の前にある彼女の白くてきれいな足をちろちろ舐める。

そのたびに彼女の声が漏れ、鼓膜を通ってあたしの脳をじんじんと痺れさせる。



あ、これ、ヤバイ。



「ダメだって、きたないよぉ、足なんて」



「フレちゃんの体にきたないところなんてないよ。それにお風呂も入ったじゃん。ほら、こんなこともできちゃう」





足の甲にキスをする。



つま先を、裏を、指の間を、すべてを味わい尽くすように舌を這わす。



ボディソープのにおいが鼻から入ると、甘味が口の中に生まれた。



てらてらと妖しく光る唾液のあとが広がっていくにつれて、びくびくと震える彼女の足がすごくかわいらしい。





「くっ、くすぐったいって、シューコちゃ、んっ……」



一通り足を味わったあと、あたしの舌は次の場所へと移動する。



脛を通って、膝にキスを。



細く、ふわりと柔らかな太ももは遊んでいた手で軽く、そして優しく撫ぜた。



気付けば鎧のように体を覆っていたタオルケットはベッドの上に落ちていた。



暗さになれたあたしの目にはフレちゃんの裸が映っていて、心臓と手の動きを加速させていく。





「太ももはっ、ダメぇ……あっ」



ダメって言われて素直にやめる人間がこの世にどれくらいいるんだろう。



少なくともあたしは止めるどころか絶え間なく動かし続けていく。



指先が肌をこするたびにあたしの頭はジンジンとしびれて、他のことなんて考えられなくなる。





フレちゃんの体。



やわらかくて、しっとりしていて、すいついてくるみたい。



女の子の体ってこんなに柔らかくて、気持ちいいものなんだって男の子みたいな感想が浮かぶ。



お腹を撫でると大げさに体を震わせて。



くすぐったいって。



これはあたしが悪いんじゃなくて、肌触りのいいフレちゃんが原因でもあるんだよ。





「優しすぎっ……ん……ふあっ、なんでもっと……強く触ってくれない、の……?」



「フレちゃんはもっとはげしーのがお好みなんだ?」



「そ、そういうのじゃないけど……すっごいじれったいんだもん……」



「わざとなんだけどね」



「やっぱりシューコちゃんキライ」





「じゃあ、もうやめよっか?」



「……いじわる」



「何度も言うけどさ、いじめたくなるフレちゃんが悪いんだってば」



「そんなこと言われても、アタシわかんないもん」



「フレちゃんのかわいさはあたしが行動で示してるから、それでわかってほしいなーって」



「もっと他のやりかたがよかったかなぁ」





ならさ。



ゆっくり、ゆっくりと顔を近づけると、フレちゃんは身をゆだねるようにまぶたを閉じた。



そして小さくて形のいい唇をあたしのもとへ差し出す。



熱い吐息が漏れているそこにもうひとつの唇を重ねて蓋をする。

柔らかな感触がビリビリと脳に届く。



体が、心が、目の前にいる人を、快楽を求める。



一度転がるとラクなもので、二度、三度、そして四度。激しく、緩やかに、確実に口付けを交わす。



チョコレートみたいに甘くて、ほんのり苦みのあるキス。





「そうやって急に優しくなるの、ズルい」



「京都の人って基本ズルいのよ。それが好きな人ならなおさら、ね?」





ケーキの上にのったチョコレートにはメリークリスマスって書いてあって、それはひとつしか置かれていない。



あたしは欲張りだからそれを独り占めする。



誰にも渡したくない、あたしだけのもの。



だからその味は誰も知らない。



教えない。





惚けた顔も。



甘ったるい声も。



キスの感触も。



体温も。



全部あたしだけのもの。





いつの間にかカーテンの隙間から漏れるオレンジはなくなって、黒と静寂が訪れた。



気温は下がっているはずなのにあたしたちの体温は高いままで、このまま二人で融けてしまいそうで。



だからこれもきっと多分、聖夜の、満月のせいなんだろう。





大好きだよ。



恥ずかしいから言わないけど。





おわり







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