2016年02月19日

まゆ「完成しないジグソーパズル」

そろそろ夕飯時だが、俺とまゆは事務所にいた。俺のほうは以前まゆが行なったライブの報告書の作成、まゆのほうは以前約束した2人っきりの打ち上げを待っているところだ。

女性を待たせるのも何だとは思うが、これを仕上げないと千川さんがいつものニコニコ顔の後ろに鬼を見せるので仕上げなければならない。

そんな時だった。



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「まゆ、欲張りなんでしょうか」

そう言うとまゆはため息を1つ可愛らしくついて、俺のほうを見た。正確には俺の背中をだが。背中に感じる熱い視線に耐え切れず、「なんでそう思ったんだ?」と俺は聞いてみた。

「プロデューサーさんは、今28歳ですよねぇ」



「まゆが16歳です。 12歳差ですよね」



「……? それがどうかしたのか?」



「まゆがプロデューサーさんを知らない時期が12年もあるんです……」



まるでこの世の終わりが今すぐ来ると教えられたかのような口ぶりでまゆはそう言った。いや、ちょっと待て。



「俺とまゆは1年前に知り合ってるんだから、お前の知らない俺は15年だろ」



「あぅぅぅ……」

そこまでは気づいてなかったと言わんばかりにまゆは呻く。時々思うんだが、まゆは普段はピシッとしてるんだがこういう風に時々抜けてるところがある。テレビの収録とか雑誌のインタビューではキッチリしてるのに、こうだ。ファンのみんなは知らないと思うがこういうとこも出していったほうが良いんじゃないかとプロデューサーとしては考える。

その度に胸の奥のほうで何か凄くもやっとしたものが這いずり回るので、未だにそれは現実のものとならないが。

「と、ともかくまゆの知らないプロデューサーさんがいるってことで悩んでるんですよ」



「逆にさ」



「はい?」



「まゆの知ってる俺って何なんだ? プロデューサーとしての俺ってことか?」



「うーん、それもあるんですけれども。 あとはですね……」

そう言って一息をつき、まゆは語り出した。今日学校であったことを親に話す子供のように嬉しそうに。



「プロデューサーさんって、いっつもちひろさんの淹れるコーヒーをブラックで飲んでますよね」



「ん? あぁ。大人だからな」



「でも実は甘党ですよね。 本当はお砂糖と4つとシロップ3つ入れたコーヒーが好みですもんね」



「うぇっ!? ……カッコつけたかったんだよ。 なんか大人の男って感じがするんじゃんかよ、ブラックコーヒーって」



「そんなものなんですかねぇ」



「そんなもんなの。 他にはあるか?」

「プロデューサーさん、水曜日だと機嫌良いですよね? 何でですか?」



「……よく分かったな、そんなこと」



「いつも見てましたから」



「なんかなぁ、もう2日終わった!っていうそういう感覚が良いんだよな。 仕事やりたくない月曜日からようやく仕事が好きって状態になってな……。 そういうの無いか、まゆは?」



「まゆはプロデューサーさんと一緒なら朝でも夜でも夢の中でも、大丈夫ですよ」



「そっ、……そっか。 もう無いだろ?」

「プロデューサーさん、よくコンビニの新商品買ってますよね」



「普通にコーラ買ったりしたほうが美味しいんだろうなぁとは思うけれどもなぁ。 やっぱり知らない味ってのはドキドキするんだよなぁ」



「ちなみに今まで一番美味しかった新商品ってなんですか?」



「2年前、……3年前だったかな? そんくらいの時に売ってた早生みかんの三ツ矢サイダー。 あれさ、絶対レギュラー商品にしたほうが良いと思うんだ。 ……よく見てるなぁ、まゆは」



「あとは……」



「いやもういいです。勘弁してください」

これ以上客観的に自分のことを見させられるなんて恥ずかしくてたまらない。しかし不思議と不愉快な気持ちは無かった。むしろ喜びさえ感じていた。

「でもダメなんですよ。 まゆがそういうこと知っていても、プロデューサーさんがもう止めてしまった、まゆの知らないことがあるかもしれません」



「そういうのが本当にあるのか、それとも無いのか、分かりません。 プロデューサーさんが無いって言ったって、それはまゆのための優しい嘘かもしれないですから」



「無限に枠が広がり続けるジグソーパズルです。 埋めた、って思ったのにそんなことは無くて」



「プロデューサーさんの全てを知りたいってそう思えば思うほど、知らないことが増えていって」



「まゆの知らないプロデューサーさんを知ってる人がいるのがたまらなく悔しく……」

そう言うとまゆは顔を伏せた。泣いているのかもしれない。



「俺でも知らない自分のことをまゆは知っていると思うけどな」



「まゆを買いかぶりすぎですよ」



「そっかなぁ」



「そうですよ」



顔を上げたまゆは笑っていた。

ジグソーパズルは完成しない。そう、まゆは言った。

誰もその人の全てを分かれはしないからだ。まゆもそれに気づいている。

気づいているから、どんなに俺のことを知っても納得しないのだろう。

「まだあるはず!」というのに取り憑かれて。

まゆにとって今も昔もこれからも変わらないのだ。今も昔もこれからの俺の全てを手に入れたいのだ。

例え今とこれからの俺を与えたところでまゆは満足しないだろう。

まゆがジグソーパズルを捨てない限りは。



おわり



21:30│佐久間まゆ 
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