2016年03月31日

佐竹美奈子「ずっと一緒がいいな」

鳴り響くスマホのコール音に、私の意識は覚醒した。

 聴き馴染んだシンセサイザーの音色は、私の持ち歌『スマイルいちばん』のイントロだ。

 私をアイドルにしてくれたこの歌は、私にとっても大事な歌だ。

 この曲が私の携帯から鳴るということは、原因はひとつしかない。





 「もしもしお待たせしました! おはようございますプロデューサーさん!」



 私をアイドルにしてくれたプロデューサーさん専用の着信音。それが、この曲が私の携帯で担っている重要な役割だ。

 自慢じゃないけど、この曲を着信音にして私がプロデューサーさんからの電話に出なかったことはない。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458655851



 「おはよう美奈子。起きてたか?」

 「もちろんですよ。任せてください」



 大嘘だ。意識こそはっきりしているものの、身体はまだまだ寝起き直後のまま。

 髪はボサボサだし化粧だってしてない。服装だって奈緒ちゃんが置いていったTシャツとスウェットだ。

 今プロデューサーさんに部屋にはいられたら、私はもう二度と顔を合わせられなくなる。



 「はは。流石美奈子だな……えーっと。まずはだな……その。ごめん」

 「え? ごめんって何がですか?」



 電話の向こうで頭を下げているプロデューサーさんが簡単に想像出来る心底申し訳なさそうな声色。普段はいつもあっけらかんとしているプロデューサーさんだから、思わず聞き返してしまう。



 「……その。この前のオーディションの結果がでてさ。その報告をしたいと思ったんだが。今日、美奈子オフだったよな。オフの日に仕事の話をすることになるからさ」

 「あー! なるほどなるほど……わかりました! えーっと時間は何時くらいがいいですか?」



 そういえばそうだった。お店がバタバタしてて完全に忘れてた。なんだっけ。確かアイドルマスターGPだっけ。これに合格したら名実ともにトップアイドルだとかなんとか。



 「そうだな。19時半にいつもの駅の西口の方でいいか?」

 「はい、わかりました! じゃあまた夜に!」



 言って電話を切る。

 西口かあ。いつもは東口で合流してるけど、あっちの方が景色がいいんだよねえ。

 そういえば、プロデューサーさんにスカウトされたのも駅前だっけ。

 ……よし! 今日はいつも以上にお店の手伝いがんばろう! テンション上がってきた!

 お店の手伝いを終え、シャワーを浴びて着替えを済ませて。

 家を出て10分ほど歩いたら、いつも事務所に向かうのに使う駅がある。

 プロデューサーさんとはそこで待ち合わせをしていた。



 「ん? あっ。プロデューサーさん! お待たせしました!」



 指定された西口に向かうと、すでにプロデューサーさんが立っていた。

 足元には10本単位で煙草が落ちている。

 だいぶ前から待っていたみたいだ。

 プロデューサーさんは私の姿に気づくと、足元の煙草をかき集めると拾い上げて灰皿に捨て、それからこっちに走ってきた。

 そのままにしないあたり豆だなって思う。



 「お疲れ様。ごめんな、こんな時間に呼び出して」

 「いえいえ。私こそ、わざわざこっちに来てもらってありがとうございます」

 「いいよいいよ。えーっと、行こうか」

言ってプロデューサーさんが歩き出す。

 そこでようやく気づいた。

 普段こっちに来ないからわからなかったけど、西口ってライトアップされてたんだ。

 クリスマスの時とは違う薄桃色の綺麗な光に思わず見とれてしまう。

 今は三月。これは……時期的に、桜のイメージなのかな?



 「うわ、綺麗……すごいですね、プロデューサーさん!」

 「ああ……この前こっちに来た時に見つけてな。美奈子と見たかったんだ」

 「えっ。えへへ、ありがとうございます♪」



 プロデューサーさんの言葉に思わず驚いてしまう。今日のプロデューサーさん。なんか普段より積極的だなあ。



 「喜んでもらえて良かったよ。おっ」

 「あっ。あの、プロデューサーさん」



 ここで、私とプロデューサーさんはまったく同じことに気づいてしまったようだ。

 「ここって、私とプロデューサーさんが初めて出会った場所ですよね」

 「ああ……ってなんだ。覚えてたのか」

 「当たり前じゃないですか」



 忘れるなんてこと、とてもじゃないけどできそうにない。



 「あはは……えっとな。昼に言ったことなんだけどさ」

 「オーディションの結果ですよね? どうでした?」



 それまで笑っていたプロデューサーさんの顔つきが真剣なものになる。

 そういえば、スカウトされた時……私が初めてプロデューサーさんに出会った時もこんな顔をしていたっけ。

 それが懐かしくて、少しだけくすぐったく感じる。

 「美奈子。あのな」

 プロデューサーさんが私の肩に手を置く。こわばった表情は一瞬で破顔し笑顔に。

 「……1位。1位で合格だ! おめでとう美奈子! お前は……ついにトップアイドルになったんだ!」

 「トップアイドル……? 私が……? やった! プロデューサーさん! 私やりました! わっほーい!!!」

 予想外のうれしさに、思わずプロデューサーさんに抱きつく。

 実感こそなかったけど。

 やっぱり、いざ本当にトップに立ったって認められたらやっぱり嬉しかった。

 普段は過剰なスキンシップを避けるプロデューサーさんも、今日だけは見逃してくれるのか。

 そのまま私が胸の中にいることを許してくれる。

 しっかりした胸板にうっすらついた脂肪の感触が気持ちいい。

 がっしりした腕を背中に回される、その圧迫感が心地よかった。

 ……この両腕に、私は今まで守られていたんだなあ。



 「あの、さ。美奈子はこれからどうしたい。トップアイドルになるっていう目標はかなっただろ? ……それ以外にも美奈子にやりたいことがあるなら、俺はそれを応援してあげたいって思ってる。何かある?」

 「んー……とりあえず、またお店の手伝いがしたいです。

 前にもお話したとおり、トップアイドルになるって目標を叶えた以上、アイドルとしての活動は引退します。

 今日お店に出たら常連さんに久しぶりだね! って言われちゃって。

 私にとって、アイドルをして一番大きかった出来事って、私の根っこには人を笑顔にしたいって思いがあるってことに気づけたことなんですね?

 佐竹飯店は私の原点です。

 これからはアイドルとしてではなく、佐竹飯店の看板娘として周りにいる人を笑顔にしたいな」



 誰かを笑顔にすること。それが佐竹美奈子の根底にある思いだ。

 アイドルをすることでそれを自覚することができたし、その思いをこれからも大切にしたいと思っている。



 「って、看板娘って年でもないですね……プロデューサーさんに出会って、もう5年も経つんですねえ……」



 18歳の私がアイドルになって5年。出会った時は高校生だった私も、もう大学を卒業している年齢だ。

 学生だった友達たちも、みんな社会人になっている。

「もう23歳だもんな……あのな? 店の手伝い以外に何も考えてないなら、一つ頼みたいことがあるんだけどさ」



 背中に回した腕を解き、カバンの中から何かを取り出すプロデューサーさん。

 なんだろう。なにか預かり物をして欲しいとかかな?



 「美奈子がアイドルを辞めるなら、俺たちはプロデューサーとアイドルの関係でもなくなるわけだろ? ……佐竹美奈子さん」

 「は、はいっ」



 不意に名前を呼ばれ、思わず顔をあげる。

 プロデューサーさんは私より背が高く私が見上げる形になる。

 上から向けられる暖かい眼差しはまるでお日様の光のようで。

 ……そうだ。私はプロデューサーさんのこの眼差しを好きになったんだ。



 「俺と、結婚を前提にお付き合いをしてください。俺はあなたをアイドルを超えた異性として愛しています。その、こういう言い方をするのは卑怯かもしれないけど……美奈子の人生を、俺に一生プロデュースさせて欲しい」



 言って差し出されたのは、お揃いのシルバーリングだった。



 「美奈子がよかったら、これを受け取ってください」



 「……はい。喜んで。あの、プロデューサーさんが指にはめてくれませんか?」



 嬉し涙って本当にあるんだな。涙声になって自分の返事を聞いてそんなことをぼんやりと思う。人間、嬉しいことがここまで重なるとぼーっとすることしかできないんだなあ。

 「あ、ああ……いくぞ?」



 私の左薬指をそっと握ったプロデューサーさんが震えそうな手つきで指輪をはめてくる。

 その壊れ物を扱うような手つきから、私をどれだけ大事にしてくれているかが伝わってきて嬉しくなる。

 ……まさか。本当にプロデューサーさんとこんな関係になるだなんて夢にも思わなかったなあ。

 ……あ。そうだ。



 「……そういえば。ここって私たちが初めて出会った場所ですよね……もしかして、狙ってました?」

 「……ちょっとだけ、な」



 顔を赤くして頭をポリポリかくプロデューサーさん。

 その姿が可愛くて思わず腕を絡ませる。

 気持ち、胸を強めに当てる感じで。

 「えっへへ、プロデューサーさん、可愛いですね。……あの、これからもよろしくお願いしますね。私、プロデューサーさんを誰よりも笑顔にしちゃいますから!」

 「……うん。俺も全力でお前を幸せにするよ」

 頭をなでながらプロデューサーさんが真剣な声で答える。



 そのセリフがあまりにも嬉しくて……私はようやく、プロデューサーさんに伝えたい本心を伝えることができた。

 

 「プロデューサーさん! 私の愛で、プロデューサーさんをもーっともーっとお腹いっぱいにしちゃいます! おかわりは……もちろん大盛りですよね?」



Fin.



22:30│佐竹美奈子 
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