2016年04月08日

モバP「佐久間まゆの楽園」

アイドルマスターシンデレラガールズ 佐久間まゆのSSです。



まゆとの10年後の一幕、と言った感じのものになっております。

めっちゃくちゃ短いです。













SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456599654



「天を追われた天女がその後どうなったのか、知っていますか?」



知らないし、考えたこともなかった。



物語として決着がついた後のお話なんて、考えるだけ無駄なんじゃないか。



「……うふふ」



何がおかしいのかは知らないが、目の前の女性が愉快そうに表情を緩める。



「ごめんなさい、でもやっぱりおかしくて」



だから、何が。



「だって、あなたは魔法使いだったのに」



……そう言われれば、確かにそうだ。



シンデレラを輝かせる魔法使いだった自分が、何の因果か王子様の役まで振られてしまって。



それももう、10年も前の話。



そんなに長い間「その後のお話」を続けてきたと言ってもいいような自分が言う台詞では、確かになかったかも知れな



い。



「筋書きの変わったシンデレラは、お姫様にはなれなかったけれど」



女性───まゆは、編み物の手を止めて、立ち上がった。



「あなたにかけられた魔法は、解けそうにありません」



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佐久間まゆという少女に抱いていた印象は、そこまで強いものではなかった様に思う。



手ずからスカウトしてきたアイドル達の一人で、思い切りの良い子だな、程度の物でしかなかった。



他のアイドル達のようにPさんPさんとやたら纏わりつくでもなく、いつでも事務所の隅のほうで微笑んでいた子。



それが崩れたのは、ほんの些細なきっかけだった。



当時はまだまだ駆け出しで要領も悪く、片付かない仕事と栄養ドリンクの空瓶ばかりが積みあがっていくばかりだっ



たデスクの上に、そっと置かれたコーヒーがあった。



最初はちひろさんの仕業かとも思ったのだが、あの人がわざわざそんな一銭にもならないような事をするはずもない







最初の内は味を楽しむ余裕もなく、ただ流し込むだけのコーヒーに味が付き始めたころ。



一枚のメモがカップに敷かれるようになった。

他愛無い内容のそれに一言だけ添えて返すようになったのは、またしばらく経ってからだった。



一日の終わりに交わされる短いやり取り。



その頃になると、コーヒーの主がまゆだと言う事には気づき始めていた。



悪戯心に筆跡を隠す努力をしたらどうだと書き添えて返したこともあったが、それには翌日の苦いコーヒーでもって



帰ってきたので、追求するのをやめた記憶がある。



いつの事だったろうか。



たまたま仕事が長引き、すっかり習慣づいたコーヒーを外で済ませてしまおうと思ったのが決定的だったように思う







いつものインスタントよりずっと上等なそれを一口飲んで、気づいたら店を出ていた。



痛む肺を押さえて開けたドアの向こうで、驚いたようにこちらを見るまゆの顔が、今でも強く印象に残っている。



その日のコーヒーは、すっかり冷め切っていた。



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ベッドのスプリングが軋む。



少し重くなったんじゃないかと意地悪く言いながら受け止められたまゆは、二人分ですからとすました顔をしていた







何と言うか可愛げのない反応だ。



これが昔の事なら、すぐに涙目になりながらダイエットの算段を立て始めていただろうに。



「あなたがあんまりからかうから、まゆももういい加減慣れちゃいました」



呆れた様な声色で、当たり前の様に指を絡めてくる。



10年もからかい続けられれば、なるほどいい加減耐性も付くだろう。



それでも、少しだけ身体を浮かせようとしている辺りがまだまだ微笑ましいのだが。



強めに抱き寄せると、諦めたように力を抜くまゆを抱え直しながら、ふとあの日のコーヒーの味を思い出した。



「……コーヒー、淹れましょうか?」



どうして分かったのかと尋ねるといつも決まって「愛情です」と返ってくるので、今ではそういう物なんだと思うこと



にしている。



少しだけ伸びた髪と、柔らかくなったシルエットを見送って目を閉じた。



あの冷め切って味も何もなくなってしまったコーヒーはもう飲むこともないんだろうかと考えると、少しだけあの時



間が懐かしく思えてくる。



最初はそっと添えられていたスティックシュガーも、だんだんと本数が減っていき、いつしかあらかじめ好みの味に



調えられたあのやり取りも、今になってみると不思議なものだった。



カップが置かれる音で、まどろみから引き戻される。



「どうぞ」



湯気の昇っていないカップを見つめて、つと顔を上げた。



にこりと微笑むまゆの顔を見ながら、冷め切ったコーヒーを口に含む。



「……苦い」



「でも、これですよね?」



「ああ……うん」



「うふふ、やっぱり」



「でも、なんで」



分かりきった事にも関わらず、聞かずにはいられなかった。



あの日、朝日の中で眺めたまゆの寝顔と、目の前のまゆの微笑みがどこか似ている様に思えて。

















「もちろん、愛情……ですよ?」











おわり







08:30│佐久間まゆ 
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