2016年04月15日

喜多見柚「それなりに頑張る」

トレーナー「それじゃあ、今日のレッスンはここまで。お疲れ様」



忍「ふぅ……お疲れ様です」



柚「お疲れ様でーすっ!」





トレーナー「この後はどうします?」



トレーナー「ちょっとならまだここ使っててもいいけど……」



柚「んー……」



柚「忍チャン、どうする?」



忍「アタシは……もうちょっとやってきたいかな」



柚「じゃあ、柚もっ!」



トレーナー「わかりました」



トレーナー「じゃあ、次の人が来るまでの間自由にしててね」



柚「はーいっ」



忍「ありがとうございます」



柚「……」



忍「……」



柚「じゃ、どうしよっか?」



忍「んー……」



忍「ちょっと、アタシ踊るからさ」



忍「見ててくれない?」



柚「ん、いいよー♪」





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忍「……っと」



忍「どうだった?」



柚「かっこよかった!」



忍「そう?」



忍「……へへ、ありがと」



柚「いえいえー」



忍「他には何かあった?」



柚「何か?」



忍「うん」



柚「んー……」



忍「……ほら」



忍「この辺がガタガタだった――とか、ピシッと止まれてなかった――とか」



柚「んんー……」



忍「……何もなかった?」



柚「……あとはねー」



柚「ちょっとだけ、カチンコチンだったカナ?」



忍「カチンコチン……動きがギクシャクしてたってこと?」



柚「あ、ううん、そんなことないの!」



柚「しっかり動いてたけど……なんか、ちょっとカチンコチンって感じがしたの!」



柚「えっと……フィーリングってヤツ?」



忍「……ん、そっか」

忍「……なんだろ」



忍「緊張しちゃってるのかな?」



柚「緊張?」



忍「うん」



忍「ほら、総選挙今年も始まったじゃない?」



柚「そだねー」



忍「で、頑張らなきゃ、って」



柚「緊張しちゃってる?」



忍「……うん」



忍「今年は開催期間も長いし」



忍「少しでもたくさんの人に、私を見てほしくって」



忍「そのチャンスをたくさん得るためにも、もっとダンスもうまくならなきゃって」



忍「そんなことずっと思ってレッスンしたり、踊ったりしてたから」



忍「カチンコチンに見えちゃったのかもね」



忍「……柚ちゃんはそういうのないの?」



柚「アタシは……うん、ないカナ」



柚「それなりに頑張って、それなりにハッピーだったらいいなって思ってるからさー」



忍「……」

忍「それなり……?」



柚「うん」



柚「一人くらいそういうアイドルがいたっていいよね?」



忍「……」



忍「柚ちゃんは、シンデレラガールになりたくないの?」



柚「そんなことないよー!」



柚「柚だって、なれたらいいなって思ってるよ?」



忍「なれたら……」



柚「イーッてなって頑張るよりも、今のアタシをいっぱい見てほしいなって思うの」



柚「そんな柚を好きな人はみんなハッピーになって、柚もそんなみんなを見たらハッピーになれるから!」



柚「だから、シンデレラガールになれたらいいけど、別になれなくたっていいんだ」



柚「だって、みんなハッピーだから!」



忍「……そっか」



忍「……」



忍「……」



柚「……忍チャン?」



忍「……ごめん」



忍「ちょっと用事思い出したから、先帰るね」



柚「えっ……」



忍「急いでいかなきゃいけない用事だから……じゃっ」ダッ



柚「……」



柚「……忍チャン?」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





柚「……ただいま」



モバP「おう、お帰り」



モバP「……浮かない顔だけど、どうした?」



モバP「レッスンがうまくいかなかったか?」



柚「ううん、そんなことないよー」



柚「いつもどおり、ばっちし、楽しくやってきた!」



モバP「それは何よりだ」



柚「……ケド」



モバP「けど?」



柚「忍チャン、怒らせちゃったカモ……」



モバP「かも?」



柚「うん、カモ」



柚「怒ったっていってもないし、プンプンってしてたわけでもないんだケド」



柚「でも、きっと、怒っちゃったんだと思う……」



モバP「……」



モバP「……何があったか聞いていいか?」



柚「……うん」

柚「総選挙、始まったでしょ?」



モバP「ああ」



柚「でね、忍チャンはそれに向けて、たくさんレッスンしなきゃ――って緊張してたみたいなの」



柚「でも、アタシはそんなことなくて」



柚「忍チャンにアタシは緊張しないのかって聞かれて」



柚「アタシはそれなりに頑張ればいいって思ってる――っていったの」



モバP「それなり、か」



柚「うん」



柚「忍チャンにも言ったんだけど、柚がそれなりに頑張ってみんなもそれなりにハッピーになる」



柚「そんなアイドルだっていたっていいと思うの」



モバP「そうか」



柚「うん」



柚「それを言ったら、忍チャン用事がある、って走っていっちゃって」



柚「きっとアタシに怒ったからだと思うの」



モバP「だから、怒らせちゃったかも、って思ったんだな」



柚「うん……」



モバP「……」



柚「……」

モバP「なぁ、柚」



モバP「なんで一番を目指さないんだ?」



柚「一番……って」



柚「シンデレラガールのこと?」



モバP「ああ」



モバP「どうして、それなりの頑張りにしようって思ってるのか、気になってな」



柚「だって、それになるために、いつもと違うアタシを見たら、いつものアタシが好きな人はガクーンってしちゃうかもでしょ?」



モバP「いつもの柚が見たかったのに、って?」



柚「うん」



柚「だから、柚はいつものままで」



柚「そしたら、いつもの柚が好きな人はいつもの柚が見れてハッピーで」



柚「柚もみんなが喜んでくれてハッピー!」



柚「……って、思ってたんだケド」



モバP「俺は?」



柚「うぇ?」



モバP「俺は、いつもの柚を見てどうハッピーになる?」



柚「えぇー?」



柚「うーん……えーっと……」



柚「……いつもと変わらない、柚が見れて……うーん……」



柚「今日も柚は頑張ってるな、ってハッピーになる?」



モバP「と、思うか?」



柚「……違うの?」



モバP「違うな」



柚「……」

モバP「俺は、こう思うだろう」



モバP「柚は、今それなりにハッピーだ」



モバP「それなりに満足している……って」



柚「うん」



モバP「で、こう思うんだ」



モバP「それなりってことは、もっと目指してる何かがあったってことだろう、って」



柚「!」



モバP「目標地点へ向かうのを途中で諦めてしまって」



モバP「で、がんばって今いる場所で満足できることを探して」



モバP「それなりに満足してるのが柚なんだって」



モバP「もっと上の満足に柚を連れて行けなかったんだって」



モバP「俺はそう思う」



モバP「そして、死ぬほど悔しがるだろうな」



モバP「きっと、柚はそれなりにハッピーだよって、笑顔で言ってくれるんだ」



モバP「……笑顔で言うんだ」



モバP「そんな柚を見て、俺は間違いなく悔しいって思うな」



モバP「決して、ハッピーなんて思わない」



柚「……」



モバP「なぁ、柚」



モバP「そのハッピーは柚にとっての一番のハッピーか?」



柚「……」

柚「アタシ……」



柚「アタシは……」



柚「……」



柚「……ねぇ、Pサン」



モバP「ん?」



柚「シンデレラガールになったらさ、アタシっていっぱいお仕事増えるんだよね?」



モバP「ああ」



モバP「たくさんのアイドルの中から選ばれる栄光の一番だ」



モバP「大きな仕事だってたくさん入るはずだ」



柚「……そうなったらさ」



柚「もうみんなとお仕事できないのカナ?」



モバP「みんな?」



柚「うん……」



柚「忍チャンとも……穂乃香チャンとも、あずきチャンとも」



柚「お仕事できないのカナ?」



モバP「……」



柚「柚ね、今の四人で仕事してるときがすっごく楽しくて、ハッピーなの」



柚「だからね、このまま、このままでいたいなーって」



柚「みんなと仕事できなくて、ハッピーじゃなくなるなら」



柚「アタシはシンデレラガールにならなくていいかなって」



柚「……今が、いっちばん幸せなんだから」



柚「今の幸せをずっと続けたいなって思ったの」



モバP「……」

モバP「そうか」



柚「うん……」



柚「……アタシ、今のままがいい」



モバP「……」



モバP「だってさ、忍」



柚「うぇ!?」



柚「アタシは柚だよ、Pサンっ!」



モバP「いや、それはわかってるよ」



モバP「そうじゃなくてだな……ほら、机の下に」



柚「机の下……?」



忍「……や、やぁ」ヒョッコリ



柚「わっ!?」



柚「忍チャンが出てきたっ!?」



柚「え……えっ、な、何でーっ!?」



柚「用事は……?」



忍「アレは……うん、ごめん、嘘なんだけど」



忍「って、それは柚ちゃんもわかってたでしょ?」



柚「あ、うん、なんとなく……」



柚「って、そうじゃなくてーっ!」



柚「なんでこんなトコにいるのっ!?」



忍「あ、うん……それなんだけどね」



忍「Pさんに頼んでいれてもらったの」



柚「Pサンに?」



忍「うん……」

忍「柚ちゃんと別れた後にね」



忍「アタシ、Pさんに相談しにいったの」



柚「柚と同じだ!」



忍「あはは、そだね」



忍「……でね、柚ちゃんの話全部聞いちゃったからアタシも全部言うけどね」



忍「アタシ、柚ちゃんにひどい態度とっちゃって」



忍「どうやって柚ちゃんに謝ればいいかPさんに聞いたんだ」



モバP「で、まずは柚の意見を知るべきだなって言ったんだ」



柚「柚の意見?」



モバP「ああ」



忍「アタシの聞いた柚ちゃんの考えはきっと全部じゃない、ってPさんは言って」



忍「それを暴かせるから、ちょっと隠れてろって」



柚「それで机の下?」



モバP「ああ」



モバP「たぶん一番近くで話聞けるだろうしな」



忍「……あとね」



忍「ここ、すっごく過ごしやすくて……」



忍「……いつも乃々ちゃんたちがここにいる理由がわかった気がする」



柚「えーっ!?」



柚「いいなーっ、柚も入ってみたいっ!」



モバP「はは、後でな」



モバP「それよりも――」



忍「――うん」

忍「あのね、柚ちゃん」



柚「あ、うん」



忍「アタシ、さっきね、柚ちゃんの意見を聞いて」



忍「それなりに、って言葉を聞いてね」



忍「……イヤな気持ちが湧き上がっちゃって」



忍「柚ちゃんに吐き出しちゃいそうだったから、逃げたの」



忍「ごめんね」



柚「……柚も」



柚「柚も、忍チャンを怒らせちゃって、ゴメンナサイ……」



忍「……うん」



忍「……」



忍「……アタシ、悔しかったんだ」



忍「アタシは、ぜんぜん結果なんて残せてないのに」



忍「柚チャンはアタシより人気なのに」



忍「こんなに適当なんだって」



忍「こんなに適当なのにアタシよりも人気なんだって」



忍「すごく……すごく悔しかった……!」



柚「……」



忍「柚ちゃんといっぱい一緒にいたから、そういうところだって知ってるはずなのに」



忍「でも、改めて感じて、やっぱり、すごく悔しかったの」



柚「……」



忍「で、今さ」



忍「……柚ちゃんの本音を聞いたじゃん?」



柚「うん……」



忍「アタシたちと一緒に仕事したいから一番にならなくていいって」



忍「今のままでいるためにそれなりに頑張りたいって、その言葉を聞いてね」



忍「アタシ……アタシさ」



忍「……」



忍「うれしかったよ」



忍「ほんの少しだけ、うれしかった」



忍「でも……それ以上に」



忍「さっきまでより、ずっと、悔しくなった……っ!」

柚「っ……」



忍「だって!」



忍「だって、柚ちゃんがそれなりにしか頑張らなければユニットで仕事できるって」



忍「アタシたちはどうやっても上にいけないみたいじゃんっ!」



柚「!」



忍「アタシは悔しいっ!」



忍「柚ちゃんが、あたしたちをその程度なんだって思ってたってことが、本当に悔しいっ!」



柚「え、あ……えっと、そうじゃなくて……」



忍「そうじゃないわけないでしょ」



忍「だって、柚ちゃんが言ったんだから」



柚「あぅ……」



忍「……」



忍「アタシは目指すよ、トップを」



忍「No.1を」



柚「……」



忍「でも、柚ちゃんとのお仕事も辞めたりしない」



忍「穂乃香ちゃんや、あずきちゃんとだって」



忍「みんなで一緒に、たくさん大きな仕事をするんだ」



柚「……」



柚「でも、できるのカナ……?」



忍「できるに決まってるよ」



柚「でもでも、一番になっちゃったら、いっぱい大きなお仕事来ちゃうんでしょ?」



柚「アタシたちと一緒にお仕事できるの、少なくなっちゃうんじゃ――」



忍「――ううん、むしろ多くなるよ」



柚「……?」



忍「だって、柚ちゃんも一緒に一番になるんだから」



柚「……」



柚「……えぇっ!?」

柚「えっ、ど、どういうコト?」



忍「そのまんまの意味だよ」



忍「アタシも、柚ちゃんも、穂乃香ちゃんも、あずきちゃんも、みんなでトップになるんだ!」



柚「うぇっ!?」



柚「無理だよ、そんなのーっ!」



モバP「……まあ、シンデレラガールは一人を決めるものだからな」



忍「あ、そっか……」



忍「じゃ、アタシが1番で、柚ちゃんと穂乃香ちゃんとあずきちゃんで4位までを独占して――」



柚「そういう問題じゃなくってーっ!」



忍「じゃあ、どういう問題なのさ?」



柚「え……えっと……」



忍「……アタシは、できると信じてるよ」



忍「そして、そうなったらきっとアタシは、一番ハッピーだと思う」



柚「!」



忍「……柚ちゃんはどう?」



忍「テレビも、ラジオも、CDも、ドラマも、いっぱいのお仕事をみんなでできるんだよ」



忍「今より、いっぱい、いーっぱいみんなでできるの!」



忍「柚ちゃんはハッピーかな



柚「……うん」



柚「そうなったら、すごく、すーっごく」



柚「すーっごくっ!!」



柚「ハッピーだと思う!」



忍「だよねっ!」



柚「きっとそうなったら、柚の一番のハッピーだっ!」



忍「うん、アタシも!」

忍「だからさ、みんなで頑張ろうよ!」



忍「それなりのハッピーに、なんて言ってないでさ!」



忍「一番のハッピーに向かって、みんなで!」



柚「……」



忍「……あれ?」



忍「まだ、不安?」



柚「……うん」



忍「アタシ、そんなにトップとるの難しそうに見える?」



柚「あ、ううん、そうじゃなくて……あのね」



柚「柚、みんなとのお仕事が無くなってほしくないの」



柚「柚がいなくなるだけじゃなくて、忍チャンも、穂乃香チャンも、あずきチャンもいなくなってほしくなくって」



忍「それなら大丈夫だよ」



柚「えっ……」



忍「そのためにPさんがいるんだから」



柚「Pサン……」



忍「もちろん、できるよね?」



モバP「ああ」



モバP「むしろ、もっと仕事を増やすつもりでさえある」



忍「そうなの?」



モバP「柚のそんな話を聞いたからな」



モバP「そんなにみんなとの仕事がしたいならもっと増やすよう努力するしかないじゃないか」



柚「あう……」



モバP「それにな」



モバP「誰が上位に入ったって」



モバP「誰かだけが圏外だったって」



モバP「2人の……いや、4人のユニットはなくさせやしないさ」



モバP「だから、柚」



モバP「それなりのハッピーで満足しないでさ」



モバP「一番のハッピーを捕まえにいこう」



柚「……」



柚「……うん」



柚「うん……っ!」















おしまい



22:30│喜多見柚 
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